ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚4

気と言う魔力とは異なるモノを引き出そうと始めて約半月が経った。過ごしやすい気候になった中で更に専念しやすく、集中力が高まる。師の助力と助言も受けながら手と手の間に気を引き出す特訓をして―――更に半月の一ヵ月。二人の小さな手の中に淡い光が灯り出した。一誠も確かにそれを見届け、気を緩めるなと見守りながら指摘する。弟子達は若干焦り、逸る気持ちを抑えながら手の中で起きた現象を一心に集中・・・・・そして、ついに石ころ程度の大きさであるが、確かに光球が具現化を果たした。

 

「「・・・・・」」

 

揃って見上げるアイズとアリサ。成功した?と思いを籠めた眼差しを向け言葉を待つ二人は、一誠は顔を見つめられ続けると静かに首を縦に振った。

 

「―――おめでとう。新たな強さの可能性を手に入れたなアイズ、アリサ」

 

「「―――――ッ!!!」」」

 

一月も費やしてようやく気を引き出せた喜びを一誠に飛びついて露わにする。嬉しい気持ちを醸し出す少女達の背中をポンポンと触れて優しく自分から離れさせる。

 

「だが、まだまだ喜ぶのは早いぞ。今度は何時でも何所でも気を引き出せるように特訓だ。それから気の扱い方を教える」

 

「ん!」

 

「お願いしますっ」

 

その後、二人と別れてからアイズは始終嬉しさのあまりに巷で揶揄されている『人形姫』とは思えないぐらい隠しきれない笑みが顔に出て、ロキ達に「何があったのか?」と気にさせた。

 

 

 

 

 

「アイズ、新作の魔道具(マジックアイテム)を作ったんだけど、使ってみないか?」

 

「どんなもの?」

 

「魔法の翼だ。空を飛べるぞ?」

 

本拠地(ホーム)の中庭で一誠の修行に励んで両手の間に光を集めることに成功したアイズ。その後でも何時でも気を引き出せるように特訓に励んでいる最中にそんな話を持ちかけられた。

 

「翼?どうやって翼を付けるの?」

 

「背中に張るだけだ。やってみるか?アリサの背中にも張り付けてあるんだ」

 

「うん」

 

いそいそと服を脱いでもらい、健康的な素肌を晒す背中に粘着性がある描かれた翼を紙から剥がしてそれを貼った。服を着直すアイズの背中には、自然と視界に入る前より伸びている金の髪。艶があり太陽光で輝く綺麗な色の髪は一誠を微笑ませた。黒い炎に強くあれと急かされ自身を顧みず傷つく体を労らなければ、荒れ傷んだ金髪が今では美しく背中に流れている。

 

「髪も伸びてきたなアイズ」

 

「そう?」

 

「ああ、このまま伸ばしていけばリヴェリアのように背中まで伸びるだろうな。俺の好きな長い髪にだ」

 

何気なく述べた一誠の言葉を聞いた時。何故かムッと面白くないと感じたが、何故そう思ったのかアイズは分からなかった。

 

「そうだアイズ。飛びながら一緒に買い物に行かないか?」

 

「買い物・・・・・?何を買いに行くの?」

 

「勿論。日頃お世話になっているフィン達への贈り物だ。きっと喜んでくれるぞ?」

 

一誠からの提案に四人の顔を頭に浮かべ、そうなのかなと思いつつも首肯した。背中に張られた魔道具(マジックアイテム)はアマーマドレスに隠され、後ろにいる一誠に振り向くアイズは「次は?」と視線で催促する。

 

「飛びたいと念じれば翼が出る。アリサ、お手本として出してみてくれ」

 

言われた通り心の中で飛びたいと思いを込めて念じた時、幼女の背中が光輝き一対の金色に光る翼が生えだした。小柄の身体を覆うほど大きい翼を視認すると。目を大きく見開き、綺麗な翼を見たアイズは信じられないと一誠へ視線を向けた。次はお前の番だと無言で見つめられ、金髪金眼の幼女も背中から翼を出す念をした結果。アリサと同じ光の翼が生えたのであった。

 

「翼が生えたっ」

 

「おう、作った本人でも綺麗だぞアイズ。まるで小さな―――」

 

「アイズたん、アリサたんマジ【天使(テ・シーオ)】みたいやぁー!!!!!」

 

歓喜と関西弁の入り交じった声が中庭に轟く。聞き馴染んだその声の方へ振り向けば某盗人のごとく弧を描いて飛びかかってきた主神ロキの姿が・・・・・。

 

「ふんっ!」

 

「ごはっ!」

 

身の危険を感じて背に隠れたアリサを他所に、一誠も感心する幼女の細い足から放たれるローキックがロキの頬に炸裂した。横へ蹴り飛ばされる女神の後ろには何時もの亜人(デミ・ヒューマン)三人組が立っていた。彼等彼女等の六つの視線は金色の翼に注がれていることは容易に分かる。

 

「イッセー、アイズ達の背中から生えている翼は魔道具(マジックアイテム)のものか?」

 

「正解。これを背中に張った装着者に飛行能力を付加する。濡らせば直ぐに剥がれるから【ステイタス】更新も邪魔にならない」

 

リヴェリアからの問いに粘着性がある紙に描かれた様々な形の翼を見せつけながら説明する。そんな一誠の脚に叩いて自分に意識を向けさせるアイズが催促する。

 

「次・・・・・」

 

「ん、次は背中に意識をして―――」

 

コクコクと説明を真摯に聞きながら頷き、その通りに実践してみたアイズの足元が地から浮き始める。光翼から零れ落ちる光の粒子を残して幼女は浮きながらゆっくりと前後左右上下へと移動し、自分で飛んでいる実感を浸っている間。

 

「その翼の絵は僕達でも効果は出るかいイッセー」

 

ロキ()でも発揮するぞ」

 

「ほんまかっ!うちにも張ってーな!」

 

そんな話をしている時に中庭の隅で痛みに悶えていたロキが敏感に反応して復活した。神でも空を飛べるというのは中々貴重な体験であり娯楽に飢え下界に降臨したほどなのだ。だから空を飛べる玩具があれば喉から手が出るほど欲しい。

 

「じゃあ背中」

 

「ほいっ!」

 

ぺたりとその背中に張り付け、飛べる方法を説明すればロキも地面から浮き自分で飛んではしゃぐ。その姿に鎧で隠れた一誠の顔は神妙な面持ちで浮かんだ。綺麗な翼を付けているのに女神自身がとても綺麗な女神とは思えないと違和感を覚えさせられていた。

 

「因みにイッセー。それは売るとすればどのぐらいの値段で付けるつもりだい?」

 

「10万ヴァリス。剥がさない限り半永久的に使用可能で、100の魔法の翼が描かれた紙が1枚でこの値段だ」

 

「ふむ、中々お買い得じゃな。では、あの空飛ぶ絨毯は?」

 

「大きさによって変動するなー。まぁ、数百万~一千万ヴァリスでいいんじゃないか?荷物運びが楽になるだろ。で、いきなりなんだ?」

 

フィンに商談の話を切り出した真意を問いだたす。別に売買するつもりで作ったわけではない。何でそんな話をと心情の一誠にこう語った。

 

「いや、【ロキ・ファミリア】に魔道具(マジックアイテム)を作り売買する道具屋(アイテム)があると面白いかなーって」

 

「仮にそうしようと思っても『今』はしたくない。物騒だからな。してほしかったら治安の改善を全力で頑張ってくれ」

 

「ああ、善処しよう。もしかしたら君にも手伝ってもらうけどね」

 

「あははは、団長殿。下級冒険者の俺に治安の改善なんてできる筈ないだろ?」

 

「さて、それはどうかな?」

 

ふふふ、ははは、と意味深にフィンと笑う一誠は徐に両腕を大きく胸を張る様に左右へ広げ、勢いよく両手を叩いた直後。中庭に発現した虹色の輪っかが幾重にも通路のように連なりながら何十何百何千とオラリオ中に展開した。オラリオに住まう人類と神々は虹色の輪っかの出現に目を丸くして見上げていることにロキ達は露にも知らない。

 

「んじゃ、空を実際に輪っかの中を潜りながら飛んで来てくれ」

 

「この中を潜るんか?」

 

「そ、潜ると音が出る」

 

どこからともなく空飛ぶ大きめな絨毯を用意してフィンに手渡し、一誠も鎧からアイズとアリサと同じ天使の翼を生やした。

 

「ほら」

 

お前らも行こう。と言外して催促する一誠に翼を得てないフィン達は絨毯の上に乗り、アイズ達と共に虹色の輪っかの中へ―――音を鳴らしながら潜っていく。虹色の空間を見飽きるほど通り過ぎ音を鳴らし続けて耳を澄ませば綺麗な音色が聞こえて、潜った拍子に輪っかから虹色のオーラがオラリオを輝かせていることも輪っかの隙間から見て取れる。

 

「不思議な魔法じゃ。こんな音楽を鳴らす魔法はあるのかリヴェリアよ?」

 

「いや・・・・・知らない。だが、イッセーの魔法は私達を驚かせてくれる」

 

「少なからずその驚かせる魔法で僕達も、そしてアイズにも楽しんでいるのは確かだ」

 

3人の周囲に飛行するアイズ達。音楽を鳴らし聞きながら空を飛ぶ。これを楽しんでいない者は今この場にいないぐらい、アイズとロキは口元を緩ませていて、フィン達は綺麗な音色の音楽に耳を傾け楽しんでいる。混沌と混乱、闇派閥(イルヴィス)による暴徒で『暗黒期』を迎えている迷宮都市『オラリオ』に希望の光とも見受けれる虹色の光が粒子となって降り注ぎ、人々の心に驚嘆と感嘆の想いを抱かせた。

 

「椿、見えた?」

 

「うむ。大方あやつの仕業であろう主神様よ」

 

「ええ、それに綺麗な音ね」

 

「そうであるな」

 

 

「―――そう、あの子はロキの子供だったの。惜しい、と思うのだけれどやっぱり欲しいわあの子」

 

「如何致しますか」

 

「近々ロキにお願いしてみるわ。正面から必要も無い争いなんてしたくないもの」

 

「はっ」

 

 

「あははは!ロキは面白いことをしているなー!」

 

「空飛ぶ絨毯と翼・・・・・」

 

「なんだ、お前も気になったか?」

 

「・・・・・少し」

 

 

「俺がガネーシャだ!」

 

「知っているよ」

 

「俺が、ガネーシャだぁっ!」

 

「分かっているってば」

 

 

全ての輪っかを潜り抜け本拠(ホーム)に戻った一行は、輪っかが弾け儚く散るその光景も眺め終えてから中庭に降り立つ。

 

「アイズどうだった。楽しめたか?」

 

「うん・・・・・飛び方も覚えた」

 

「感覚をもう掴んだのか。流石じゃな」

 

「また無茶な戦い方を覚えてしまったのかと思うと複雑だがな」

 

「流石にダンジョンの中では難しいと思うよリヴェリア」

 

「アイズたんの【天使(テ・シーオ)】姿は永久保存したでー!」

 

絨毯に降りながら、翼を粒子と化して消し各々感想を述べるとまた一誠が動く。

 

「永久保存を具現化にしてやろうかロキ」

 

「何や。また別の魔道具(マジックアイテム)があるんか?」

 

「まぁ、似たもんならな。副団長とロキ、親方は横に並んで、団長とアイズ、アリサはロキ達の前に立ってくれ」

 

てきぱきと指示をしてそれに従うロキ達。立つ位置に整える5人を他所に三脚立ての上にカメラを乗せて設置する一誠に揃って不思議そうな面持で小首を傾げる。

 

「何をしてる?」

 

「写真を撮る準備」

 

「んむ?しゃしん?」

 

何じゃそれは、とガレスの口が開き掛けた時はロキの隣にいるリヴェリアの隣へ寄り佇む。

 

「真っ直ぐアレを数秒見つめて。絶対に目を閉じないで」

 

「「「「「???」」」」」

 

あれを見て何になると怪訝に思いつつもカメラへ凝視して数秒後。皆の視界を一瞬だけ塗り潰す光が発した。思わず目を閉じてしまった何人かが後に恥ずかしいと抱くのだが今はまだ気付かない。一瞬の光がカシャッと機械的な音を鳴らした後、一誠が皆への説明もせずカメラに近づき何やら操作、色鏡(レンズ)を用意した紙に照準を合わせてカシャッと再び機械的な音を鳴らした。

 

「イッセー、何してるの?」

 

「直ぐに分かる―――ん、できた」

 

指で挟んだ紙をフィンへ投げ渡す。軽く指で挟み手にした紙へ視線を落とし、周囲から覗いてくるロキ達と一緒に目を丸くした。その紙には鮮明で鮮やかな色でフィン達の姿が描かれていた。羊皮紙で描かれる似顔絵より色鮮やかだ。

 

「ほー!」

 

「ふむ、ここまで鮮明に私達の姿が写すとは・・・・・」

 

「鏡で自分を見る以外にもこのような絵でも儂等の姿をハッキリと写すか」

 

「ああ、ギルドが提示する僕達の似顔絵よりよっぽど綺麗だね」

 

「「・・・・・」」

 

好奇心と興味深々で写真に釘つけな5人は当然の感じで一誠に説明を求めた。これはどういう感じで写したのかと。それを待っていたかのように一誠も説明口調で語るのだった。

 

「それは被写体の光の反射を特殊な紙に焼き付けたもの。写真という」

 

「この紙が写真とな?」

 

「そ。それを作るのにこのカメラという道具が必要なんだ。このカメラは人類や神の怒気哀楽といった表情や言動、物、モンスター、風景や光景といった全てをそのまんま記録にして特殊な紙に写すことで半永久的に記録として残すことができる。だから頭で記録に残すよりこっちの方が現実的じゃないかロキ?」

 

首肯するロキも物でそのまんま記録に残るなら大切に残したい方だ。地上で永遠に人類と生き続ける神として想い出に残したいものは一つや二つはある。形あるものなら尚更だ。ただし、今までその目で見てきたものを形に残すことは紙や羊皮紙で描いて残すしかない。それを描くにも絵が達者なものでなければならない。故にこの写真はそれらの問題を容易に解決できる素晴らしい代物。

 

「イッセー、そのカメラっちゅうのうちに譲ってくれへん?」

 

「別にいいぞ。ただし絶対に壊すな」

 

「え、マジでくれるん?冗談で言ったつもりなんやけど」

 

「これ以外にもまだあるから問題ない」

 

ぱぁっ!と顔を輝かせ、受け取ったカメラを空に掲げはしゃいで喜ぶロキは、これで色んな物を撮って記録に残すでー!と早速何かを撮りに行って、そんな主神を見送る5人。

 

「本当に良かったのかい?」

 

「いいって。寧ろ主神なら思い出ぐらいは作って残したいだろ。最大派閥なら尚更だ」

 

「そうだね」

 

1分後。カメラの使い方が分からないロキが騒がしく戻って来て使い方を求めてきたのは必然だった。そして一誠とアイズは予定通り、町へ繰り出して買い物に向かったその日の夜。ロキは酒を造るのに長けた神から購入した酒、リヴェリアには金の髪留め、ガレスにはドワーフ専用のロキと同じ酒、フィンには腕輪がアイズから日頃のお礼と感謝として贈られ、彼等彼女等は驚喜と狂喜の二重の喜びを表した。

 

「イッセー、イッセーもうちらに何かないんー?ほれほれ、アイズたんみたいに贈り物ぉー」

 

「ロキに対してはカメラを譲っただろう。で、俺は団長達に日頃の感謝もお礼も受けた覚えは、ない!」

 

「あはは・・・・・」

 

「まぁ、確かにした覚えはあるかと言われればのぉ・・・・・」

 

「記憶にすらない・・・・・」

 

胸張って堂々と断言した一誠には苦笑いを浮かべる他なかったフィン達。逆の立場であれば少なからずフィン達は一誠に対して感謝とお礼の念があり送る側であるのだ。

 

「ん、イッセー」

 

「アイズ?」

 

アイズ・ヴァレンシュタインもその一人であり一誠に贈り物した。

 

「お母さんがたまにお父さんがしてたのをする」

 

フィン達に無い日頃の感謝とお礼はアイズにあり、ならば一誠に贈り物をしなければと義務や責務のような気持ちで自分もそれをしてみたいと不意に高まった。脳裏に過る両親の様子。母親は慈愛に満ちて温かい眼差しで微笑み、父親は照れくさそうに後頭部に手を回して頬をほんのりと朱に染めていたあの仕草を。一誠を跪かせ、鎧の兜の部分も脱いでもらった矢先にまだまだ小さな子供の両手が少年の頬を包み込み、小振りな唇が優しく頬に近づけ触れた。

 

「んなぁっー!?」

 

「「・・・・・っ」」

 

「「・・・・・」」

 

「・・・・・」

 

よもや、黒い炎を胸の中で燃やし続け強さを求める少女が乙女の様なことをするとはロキ達は思いもしなかった。このアイズの変わり様に言葉を失う5人は口付して顔を赤らめる幼女をあんぐりと口を開き見つめる。もう一人はムッ!と兄的な存在を自分から奪いかねない相手だと嫉妬心を抱いた。

 

「・・・・・イッセー、いつもありがとう」

 

「・・・・・ああ、どういたしまして」

 

感謝の言葉を送るアイズに一誠は、朱色に染めつつ照れくさそうに頬をポリポリと掻く父親と似た反応をしていることにとても嬉しく思い―――少女は久しぶりに笑った。一誠を除いてロキ達はその笑みを浮かべるアイズに目を丸くし、次は釣られるように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

曇りがちな天気で灰色の空に見下ろされる日。【ロキ・ファミリア】の門番の二人が最初は目を疑い緊張を走らせたが骨の髄、心まで『魅了』されたかのように恍惚とした表情を浮かべたその頬に黒い手袋が添えた。

 

「ロキのところへ案内してくれない?」

 

黒い外套(フーデッドローブ)で隠しても隠しきれない『美』のオーラが門番の一人に纏まり付き完全に魅了に支配され下僕と成り下がった。ロキの眷族は全身を震わせ首を何度も縦に振って門を開け放ち、本拠(ホーム)の中へと主神の了承も無く、『美』の魅了を放つ美しく微笑む女神と付き従う獣人達を他派閥の陣営のど真ん中に足を踏み入れさせた。横が駄目なら縦だとばかり建造された【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)【黄昏の館】の中を案内されるその最中、金属同士がぶつかる音が聞こえた。ロキの眷族が模擬戦、稽古でもしているのかと興味を持ち門番に音がする方へ案内させる。

 

翼を生やし空中で模擬戦を臨んでいるアイズとアリサ、一誠。地上で戦うのと勝手が近い、足に踏ん張りが利かず吹き飛ばされば壁にぶつかる。それでも何度も繰り返していくうちに身体は培った感覚と経験で空中戦を馴染み対応、一誠と剣を長く交えるようになった。この空中での戦いを覚え飛行能力を持つモンスターとの戦いに役立つと奮闘し激しく振るう剣がまた甲高く金属音を鳴らし火花を散らした。

 

「ん、慣れてきたようだな二人とも」

 

「ん!」

 

「うんっ」

 

少女達の剣を軽く受け止め、空中に浮きながら鍔迫り合いしながら戦闘技術を高めていく姿に過去の自分と被らせ鎧の中で笑む。こうして模擬戦をしている間にも【ステイタス】が今では伸びしろが進まなくなっているものの確実に経験として培っている。将来、彼女達は強くなって世界に名を轟かせる冒険者の一人になる、そう確信してアイズとアリサが疲れるまで繰り広げるつもりでいたが・・・・・。

 

「・・・・・」

 

「「?」」

 

中庭に入ってきた見知らぬ女神と眷族達の登場に構える剣を解いて意識を向けたことで、二人も釣られて髪を揺らしながら振り向いた。

 

「こんにちは」

 

三人の反応を見計らってフードを取り払い、隠せなかった『魅了』はますます解放され色香が中庭を充満させた。美しく太陽光で輝く銀色の髪と同色の瞳の視界はアイズとアリサ、一誠のみしか映していなかった。研ぎ澄まされた剣のような金色と純粋無垢に輝く銀色、多種多彩な色と女神を魅了させた風景の魂の色は変わらず窺わせてくれる。

 

彼女の事を知っていたとしても、幼いアイズとアリサは耐性が無い魅惑に『魅了』を形にして具現化した女神に金瞳を凝視する。彼女等の様子を見て小さく口元を緩ませ一誠の方も銀瞳を向けた時だった。一誠の顔が明後日の方へ向けていて女神の視線もそちらへ向けた。二人の視界に入るその先には。

 

「おいコラ・・・・・なに勝手に人ん家に上がり込んでんねん自分」

 

淡色の朱色の髪と糸目が薄らと怒気の炎を孕んでいる髪と同色の目を開き、第一級冒険者の三人を引き連れて他派閥の女神達を睥睨していた。『美』の魅了を放つ美しく微笑む女神と付き従う眷族の姿に不機嫌な顔を隠さないロキが女神と対峙する。

 

「そう怖い顔をしないで。女神の肩書きが台無しよ?」

 

「フザけんな?自分が直接他派閥の本拠(ホーム)に足を踏み入れた時は大抵ロクなことが起きんのが周知の認識や。しかもそれは気に入った子供を引き抜く為に来たのと120%や。―――まさか、うちの子に気に入った子供がいて欲しいから譲って欲しいなんて、アホ抜かすようなこと言うんではないやろうなぁ?」

 

ドスの利いた声音と睨みをするロキに態度も表情も変えない女神。雰囲気ががらりと変わり、魅了の下僕となった門番は顔を青褪めさせて中庭から逃げるようにいなくなり、主神の不穏な気配にアイズ達も我に返った。

 

「・・・・・団長、取り敢えず訊くけど誰?」

 

「最大派閥の【ロキ・ファミリア】と対なる他派閥の女神とその眷族、と言えば分かるかな」

 

「ああ、そーいうこと」

 

―――【フレイヤ・ファミリア】。オラリオに存在する最大派閥の中で更に別格の派閥が【ロキ・ファミリア】以外にも存在して、共に二大派閥と畏怖の念と羨望の念を込めて称されている。ギルドにも聞き込みして初めて相見えた最強の他派閥を驚嘆し、一人の獣人を視界に入れる。

 

「ってことは、あの獣人が・・・・・」

 

「そう、オラリオ唯一のLv.7にて数多いる冒険者の中で頂点に立つ男、オッタルだよ」

 

巌の様な巨躯の体を誇り、錆色の短髪から猪耳を生やす男を見据えるフィン。更にその彼の周囲にはフィン達より多い『第一級冒険者』達が立っていた。この一触即発と張り詰めた緊張感を感じ取るアイズとアリサは格上から放たれる存在感と威圧に精神が押し潰されそうになり、一誠の足の裏に隠れるようにして動いた。ロキとフレイヤの話しはまだ続く。

 

「ええ、実はそうなの」

 

「ほほぅ・・・・・因みにどの子か敢えて教えてもらおうか?」

 

遠まわしもはぐらかすことも無く微笑みを浮かべながら肯定する美の女神フレイヤは、熱い視線を一誠へ注ぐ。

 

「あの子」

 

ヒクッとロキの頬が痙攣した。最も危惧していたことが起きてしまい、限りなく面倒な女神にふかーい溜息を吐きたい思いを胸中から湧き上がるも「アホか」と一蹴する。

 

「イッセーに手ぇ出させんで」

 

「そう、貴方はイッセーっていうの?」

 

「人の話を聞けやっ!」と叫ぶロキを脇に一誠の名前を唇で転がしながら呟き、改めて尋ねる。

 

「ねぇ、私の眷族にならない?可愛がってあげるわ」

 

「うちの前で堂々と誘惑するなー!?」

 

頼むから色ボケ女神の色香に惑わされんように!と心から願う主神の心情を知らない一誠は周囲から注がれる視線を一身に浴びつつ、応じる。

 

「ロキの眷族だから鞍替えはできないよ」

 

「それでも、私は貴方が欲しいわ。ここまで私を駆り立たせた貴方の魂とその才能を、何が何でも。そう心から本気でね」

 

フレイヤの眼が見開かれる。銀の瞳が妖しく輝く。その身体から、異様な『神威』が立ち昇る。

 

『―――――――――ッッ!!』

 

その時。初めてフィン達が顔色を変えた。冒険者として生きて以来どんな敵にも、いかなる状況にも屈したことがなかった最強の冒険者達が、焦りをあらわにした。

 

「アイズ、アリサ、目を閉じろ!!」

 

「「えっ?」」

 

なりふり構わないフィンの焦燥が孕んだ怒号に呼ばれた二人はすぐには動けない。ハイエルフとドワーフが彼女達に飛び掛かり、目、そして耳を強引に塞ぐ。フレイヤの眷族達ですら主神の行いに愕然、そして畏怖した。その『力』を使えば相手がどうなるか、わかっているからだ。

 

「さぁ、平伏して私の手を取って?」

 

彼女の新雪の様な白皙の肌の手が伸びてそう優しく微笑んで促す。この瞬間、ロキの顔は青ざめ絶望した。あの色ボケ女神が『神威』を開放してまで欲しているとは予想外だ!と。

 

だが、更なる『予想外』がロキに襲う。

 

手を取ろうとした一誠を見て『神威』を放った結果に『虜』にしてのけたフレイヤは達観と虚しさ、これ以上のないつまらなさを感じた。欲するあまりに行使した権能で楽に手に入れては―――。

 

ドスッ!

 

「っ!?」

 

「効くかそんなモン(魅了)

 

銀髪の頭に籠手を着けた状態で手刀(チョップ)をした。驚愕、愕然、唖然、呆然、吃驚(びっくり)、等々その暴挙以前に美の女神の『神威』を前にして平然といる男の態度に一同は目を見開いた。思いっきり頭を叩かれて涙目のフレイヤ自身もそうだ。

 

「貴方、私の『魅了』が効かないの?私に『魅了』していないの?何故?どうして?」

 

「アホか、好きでもない女の『魅了』何かに俺の『魂』が奪われるわけないだろう。俺をなめるな」

 

顔の部分のマスクを開いて素顔を晒す一誠。ますますフレイヤは酷く吃驚した面持ちで銀瞳を皿のように開いた。『魅了』して『虜』になった子供達の顔ではないのだ。先ほどからの言動や自分に向ける強い光を孕んでる眼差しは、権能の『魅了』を真正面から受けても変わらない意思でひれ伏さず不動で佇んでいるのだ。

 

「(なんて子―――!)」

 

一誠の魂の景色が一変して、魂が赫赫と真紅色のように赤く火炎焱燚のごとく燃え始め出した。この現象を直で見たフレイヤの心が打ち震えた。

 

「俺を欲しいなら心から全力で求めた方がいい。たかがつまらない『魅了』の力で手に入るほど、俺はだらしなくもふぬけてもいないぞフレイヤ?」

 

強い意志の光を瞳に孕んでいる一誠の顔がフレイヤの銀瞳が鏡のように映り込んで見える。逆に言えばフレイヤの視界は一誠の顔で独占している。

 

「美の女神、愛や情欲を司るフレイヤと名乗るなら、そうしてくれると俺は楽しく感じるな」

 

華奢で色白の手を添えて持ち上げ、紳士の様な立ち振る舞いで手の甲に唇を落とす一誠。手の甲に微かに残る熱の残滓に触れる。完全にあの目は自分の『虜』になっていなかった。神でも下界でもモンスターでもフレイヤの美に逆らえず魅了される。その筈、なのに一誠は堂々と跳ね除け・・・・・否、受け入れながらもならなかった。

フレイヤの美の下僕に。故に驚きと唖然、そしてまたあの高揚がフレイヤの中で湧き上がり、一誠からの挑戦と挑発に瞳を輝かせた。また覚える一目で見たときのようなあの感覚。全身がぞくぞくと打ち震え、下腹部は熱で疼き、恍惚の吐息が喉の淵から溢れ出してくる―――否、それらを限界突破してしまったかもしれない。自分に真正面からそう言い切った神や下界の子供はいただろうか?いや、皆無だ。この美の女神に啖呵を切ったのだ。受けなければ美の女神として名折れだ!

 

「―――フレイヤ様」

 

彼女の背後に佇んでいた猫人(キャットピープル)の青年が静かな声音を口から発した。

 

「少しの間、お戯れをお許しください」

 

どうやらこの猫人(キャットピープル)に一誠はさっきの言動で触れてはいけないものを触れたらしい。静かな雰囲気を纏っているが、一度解き放たれば敵意を露わす牙が剥き襲いかかるだろう。―――実際、フレイヤの許しを得る前に獣人の従者は一誠に向かって槍を突き付けた。第一級冒険者が放つ槍を条件反射で首だけ動かしてかわした。その際、右眼を覆う眼帯の紐が切れて外れてしまったと同時に、二撃目が鎧の胸部を小突いた。美神から遠ざけられた形で地面に転がる少年。格上の最初の一撃を下級冒険者がかわすのは相手が故意的にそうさせる以外、偶然か奇跡として片づけられる。実際獣人の青年はそうした。

 

「立て」

 

それでもまだこれで済ませようとはしなかった。崇拝する女神に奢った愚か者への処罰はまだ終わらすつもりはない。仰向けの状態で雲を見上げている少年は掛けた声をどこ吹く風の如く受け流して、小人族(パルゥム)に話しかけた。

 

「団長、正当防衛ってことでいいか?」

 

「彼は遊んでいるだけだよ。だから君も遊ぶ程度にするべきだ」

 

「ンー、わかった」

 

ムクリと上半身を起こし、何事も無かったように立ち上がって剣を構えた。

 

「猫のじゃれあいに付き合うか」

 

その言葉に癪が触った獣人は長槍(ジャベリン)を構えて近づいてくる相手へ突貫する。アイズとアリサが目を見張り、一瞬で一誠の懐に飛び込んだ相手の動きを捉えることはできないでいた。世界に天変地異が起きようと下級冒険者が第一級冒険者に勝てるはずが無い。それが常識。それが全人類と神々の認識―――のはずだった。この機会で見極めようとフィン達は真摯に二人の戦いを一瞬たりとも見逃しはしないと視界に入れ続ける。槍の穂先が薙ぎ、殴り飛ばそうとする意志が籠められていた。反応することも無くまた吹き飛ばされる愚か者に冷たい目と容赦のない一撃が。

 

「―――――」

 

突如、バイザー越しに突き付けられる剣の切っ先が目に飛び込んで来た。思考が停止し掛けたが、直ぐに顔を逸らして後退する形で緊急回避をした。

 

「?」

 

剣を突き付けた相手は―――心底不思議そうに勝手に遠ざかった己を見つめていた。何で逃げるんだ?といった風に。青年は相手の反応と自分の行動を考慮し、「己は何もされていないのに無自覚で下級冒険者相手に無様な姿を美神に晒したのか」と恥を覚え、顔を隠すバイザーの奥の双眸は怒りと屈辱で眦が裂き、奥歯を噛み締めた。

 

「シッ!」

 

瞬く間に攻撃の効果範囲に飛び込んだ猫人(キャットピープル)の鋭い突きが繰り出された。最強の冒険者、第一級冒険者の名に恥じない槍の使い手として本領を発揮、一突された時には二撃、三撃の突きがされているという神速の攻撃をした。

 

「―――――ッ」

 

鎧に穴を空ける勢いの槍の一撃が・・・・・手応えどころか穂先から掠った感触すら何時までも感じない。相手が無防備に立って案山子のように突っ立っているにも―――!

 

待て・・・・・無防備に立って・・・・・いるだと?

 

違和感を覚えた。攻撃の手を停めて臨戦態勢の構えをする青年の心情を察したのか、少年の表情は邪な笑みを浮かべて手の中にあるモノを見せつけた。

 

それは・・・・・見慣れた己の得物の穂先であった。

 

猫人(キャットピープル)の青年はバッと手の中の得物の先を確認する。穂先がある筈の柄の先が何時の間にか鋭い何かに斬られていてただの棒と化していた。

 

「怒りで自分の武器の状態にも気付かなかったか?」

 

「っ!?」

 

視界がより、クリアになった。顔を隠す意味も担っているバイザーもが真っ二つに裂け、顔から外れて地面に落ちた。一誠のしてやったりとした悪戯小僧のような憎たらしい笑みが深まる表情が視界に映る。

 

「その方がもっと周りが見えやすいぞ」

 

「―――――ッ!」

 

猫人(キャットピープル)の青年の顔がついに歪み、四人の小人族(パルゥム)の一人に「よこせ!」と疾呼すると槍が投げ渡された―――と同時に音も無く懐に飛び込んできた少年は猫人(キャットピープル)の男の頬に蹴りを入れ、吹き飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

崩れた体勢は地面に槍を突き刺して吹き飛ぶ勢いを削り、蹴り飛ばした相手を睨みの視線を向けた矢先、肉薄し槍を両手で掴んでいた一誠の目と至近距離でぶつかった。

 

「槍から手を離した方が良いぞ」

 

「舐めるなっ!」

 

槍を軸にし横から鋭い蹴りを放つ猫人(キャットピープル)より大気を切り裂き、灰色の雲から稲光を発しながら落ちる稲妻が槍に直撃し、獣人の彼にも影響を与えた。偶然か必然か、避雷針のように天へ突き立つ穂先が雷を誘った。思いもしなかった天候の牙に全身を硬直し黒コゲになろうとも第一級冒険者としての強靱な精神力で意識を保ち、双眸に怒りも孕ませた猫人(キャットピープル)の相貌は次に驚愕で歪んだ。何時の間にか槍が氷漬けになっており、得物を持つ手を伝って今も尚も氷に覆われている。更に足元からも氷が這う蛇のように氷が覆っていく。それらは不敵に片目を瞑ったまま笑む一誠の手足から発生していた。

 

「チェックメイトだ―――凍れ」

 

「きさ―――!」

 

叫ぶ口は一気に覆う氷で遮られ、猫人(キャットピープル)の男の氷像が出来上がり氷の牢獄に捕らわれた。一連の戦いの様子を見守っていたこの場にいる全員は目を大きく見張った。どれもこれも全て信じられない、有り得ないと己の目を疑うばかりで心が驚きの気持ちで一杯だった。

 

「「「っ!」」」

 

驚きの心境に浸っている時間は短い、フィンと同じ槍を持っていない小人族(パルゥム)の以外の三人組が斧・鎚・剣を持って襲いかかった。肉薄しに掛る小人族(パルゥム)達に向かって爆発的な脚力で横薙ぎに振るった足から―――肉眼でも捉える斬撃が飛んだ。思いもしなかった飛ぶ斬撃を防いでも勢いは殺せず中庭の壁を突き破って外まで吹っ飛んだ。

 

「この技の名前は嵐脚。爆発的な脚力で振るって鎌風を起こす技法だ」

 

「・・・・・」

 

「武器は一つだけじゃない。体を鍛え、技を究めれば必ず自分を強くしてくれる。これが世界中で修業して成した一つだ」

 

そう言う一誠はフレイヤの背後に佇むオッタルへ視線を向けた。錆色の瞳に敵意や怒りなど微塵にも感じさせない。仲間を倒されても己の優先するべき事は他にあると俯瞰している様子だ。

 

「ん、戦う意思がないから残念だ。戦ってみたいのに」

 

「ふふ、戦わせてあげましょうか?私もイッセーの強さに興味があるわ」

 

「是非とも。とそう言いたけど・・・・・」

 

困った表情をする一誠の回りにフィン達が囲む。これ以上の戦闘は自分達が許さないとばかりに動かれたので肩を竦ませる。フレイヤも三人の意思と気持ちを察してくすっと唇をほのかな笑みで浮かべる。戦いは終わったな、と一誠は指を弾いて氷漬けにした獣人を解放し、フレイヤの前に放り投げた。

 

「で、さっきの話だけど分かってくれたか」

 

「ええ、いいわ・・・・・乗ってあげる。何年も何十年も掛けてでも貴方を私の虜にしてみせるわ。貴方が死んで天界に昇るなら追いかけて抱きしめてあげる」

 

そう、全力で・・・・・。目の前の少年から視線を反らし、心から決意するフレイヤはフードを被り直し踵を返す。その姿に頭の後ろに両手を組んだロキは声を掛けた。

 

「なんや、フラれたからってもう帰るんか自分」

 

「ええ、思いもしなかった楽しみができたから」

 

「ぷふー!負け惜しみにしか聞こえんわー。あのフレイヤが子供をオトせなかったなんぞ他の神連中が知ったらどんな反応するか目に浮かぶわ!」

 

何も言わず銀瞳を最後に一誠に向け、仲間を担ぐオッタルと壊れた壁から様子を窺っていた眷族達と来た道へ戻り中庭を後にしたフレイヤ達を見送るロキ達は警戒を解く。

 

「さてイッセー。流石にこれは君の秘密とやらを教えてくれないと困るかな」

 

「だが断る」

 

「いや断れても困るわい。第一級冒険者とはいえど、Lv.5と6のあやつらを軽く戦えるほどの強さをどこでどうやったらえられるんじゃ」

 

「え、今の連中がオッタルの次に強くて団長達と同じぐらい強かったのか?」

 

「その反応から察するにまだまだ余力を残していたのか」

 

「だってまだ本気も全力も出してないし・・・・・あっちも俺と同じで別に本気じゃなかったし」

 

底が計り知れない一誠の実力。フィン達も戦うことになればさっきの五人のように戦い渡るのだろうか。秘密を隠し持っている一誠の背後から近付いて肩に腕を回すロキは警告する。

 

「兎にも角にもイッセー、啖呵を切ったからにはあの色ボケ女神にだけは気をぃつけや。てか、見惚れなかったん?冷や冷やしたでうち」

 

「普通に綺麗な女神としか思わないが?」

 

「いやいや、ありえへんって。普通に綺麗な女神ってフレイヤは美の女神やぞ?」

 

「じゃあロキは何の女神だ?」

 

その質問はフィン達に向けられた。三人は顔を見合わせ・・・・・。

 

「酒好きの女神じゃな」「女好きの女神だ」「以下同文だよ」

 

と、率直な答えを述べてくれた三人を一誠は纏めて感想を言った。

 

「・・・・・おっさん女神か。何で男じゃなくて女なんだよロキ。胸はまな板で男っぽい身体してんのに」

 

「うおおおおおおおおおいっ!?さらっととんでもないこと言いよってコイツめ!あとゴツい身体なんぞしておらんでうちはーっ!」

 

一誠の頭を脇固めしてド貧相な胸を押し付けるロキの目に悔し涙が。そんな主神に苦笑いと呆れが向けられ、何時しか笑いが生じる中で先程見せつけられた一誠の強さにアイズは『嵐脚』を覚える決意を胸に秘めた。

 

「でも、ホンマにイッセーの強さの秘密が知りたいわー。それとうちらの関係が崩壊する秘密もや」

 

「絶対に教えん!というかまだんなこと覚えていたのかよ」

 

「そらお前、気になるやん。ほれ、教えてーな。さもなくば改宗(コンバージョン)させへんでー!教えてくれるまで契約は守る気ない!」

 

本人達しか知らない交わされた契約内容を改めて知ったフィン達が驚く脇目に、一誠は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。飄々とした態度でいやらしい笑みを浮かべるロキは更に言う。

 

「まぁまぁ、素直に話せんなら酒の力でも借りてすらすらと話そうやー」

 

「酒だけはマジで勘弁!?」

 

「お、なんや?今までにない反応やなぁー。自分、酒苦手なん?」

 

「・・・・・飲んだ矢先に何故か記憶が飛んで、気が付いたら回りが地獄絵図になっていた光景が出来上がっていた。それ以来、親から絶対に酒は飲むなって言われた」

 

それでも構わないなら飲まされてやる、と付け加えた一誠をロキ達は飲まさない方が賢明かと悟った。昔、とある金髪少女が酒を飲んで大暴れした記憶がまだ新しい故に。それを知らない一誠はロキ達の心情なぞ露にも知らない。

 

「でもイッセー。僕達が君を忌避するような秘密を抱えても僕達は同じ【ファミリア】の仲間で家族だ」

 

「・・・・・家族、だと?」

 

「何じゃ、何時も留守にしておるお前は儂等に対して同じ【ファミリア】の冒険者としか思っておらんかったのか?」

 

「我々を別に避けているわけでもあるまい。こうして共に集って言葉を交わし合っている。お前が本気で避けているならば今この場に立ってはいまい」

 

諭すフィン達と共にロキも話に加わる。

 

「うちの【ファミリア】はこーいうもんやイッセー。互いが互いを大切に想うもんがいなきゃ【ファミリア】としてならんちゃうかな」

 

「・・・・・」

 

「どんな秘密を抱えとんのかしらんけど、うちらがそう簡単にイッセーを嫌うことは絶対にない。せやから話してくれへん?」

 

主神と【ファミリア】を纏める古参の団長達の言葉は一誠の顔を顰めた。信じていないわけではないが、絶対にそれはできないと断言できる理由がある。アイズからも向けられる視線を感じながら首を横に振る。

 

「無理だ。絶対に俺を受け入れることはできない。知らない方が幸せだってある。それが俺の秘密だ」

 

「何故だ?どうしてそこまで我々がお前を拒むと言える。我らとの絆はそこまで浅いか」

 

「信頼や絆の有無の問題じゃない。お前らが冒険者で、この世界の人類だから俺を受け入れることは不可能に近いんだ」

 

「儂等が冒険者でこの世界の人類だから・・・・・?イッセー、お主は何を言いたいんじゃ?」

 

不意に灰色の雲から雫が降ってきた。やがてそれが呼び水となりオラリオ中に雨が降り注ぐ。全身が濡れているにも拘らずロキ達は一誠を見据える。秘密の全容が明らかになりそうな雰囲気に真意を確かめる為に。ここまで話しても退く気配がない彼等彼女等に嘆息を吐いた。

 

「・・・・・俺が言いたいのは、こういうことだ」

 

真紅のオーラに包まれだす一誠は、骨格が変わり体格も人から崩す際。鎧が包容しきれない体に堪え切れず破ける風に砕けていく。六人に見守る中で一誠は・・・・・異形の姿へ変貌していく。

 

「「「「「っ――――!?」」」」」

 

フィン達は前代未聞という言葉を脳裏に過らせた。目の前に立っていた人が人を止めた姿になって雨に打たれながら静かにその場で佇んでいる。その姿はまさに竜そのものだ。鋭利な一本の角を生やし、凶悪な牙を生え揃え、鋭い爪を伸ばし、背中に二対四枚の翼を広げ、太い尻尾を揺らし逆関節の足で中庭の地面に立つモンスターとして正体を現した。

 

『理解できたか。俺はモンスターだ』

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