ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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短い間だが【フレイヤ・ファミリア】に入った。5年~。
冒険譚1


『暗黒期』のオラリオも新たに生まれ変わろうとしていた。闇派閥(イルヴィス)最後の砦【ルドラ・ファミリア】を残し他の邪神の【ファミリア】は殆ど天界に送還され、壊滅的状態。もはや混沌と闇を齎す時代は時間の問題だろう。街中の市民達が活気づけ明日も生きやすくなっている姿が一目見て分かる。そこへ都市外から何も知らずに野望を抱く者、一稼ぎしようする者、冒険者に憧れる者がオラリオにやって来る。

 

 

「うわぁーっ、でっかい白い塔があるっ!壁もすっごい大きい!」

 

「そうね。流石に『世界の中心』と呼ばれているだけあって伊達じゃなさそうね」

 

白亜の巨塔のみならず、目の前で見上げた都市の巨大市壁に圧倒された二人の幼いアマゾネスがいた。まるで田舎から都市に来た人の反応を隠そうともせず驚嘆や感嘆をした。ここには様々な人種や神々が集う、世界で唯一存在する未知で溢れモンスターが巣くうダンジョンもある。

 

「ダンジョンの中はどうなってるんだろうね!どんなモンスターがいるんだろうね!」

 

「はしゃがないの、中に入れば分かることでしょ。それよりもまずすることがあるの忘れないでよね」

 

天真爛漫に笑う少女を相手にする少女の容姿はそっくりだった。仲の良さも相まって「ああ、双子か」と認識するのもそう難しくなかった。

 

「それじゃ、乗り込むわよ」

 

「うん!」

 

意気揚々とこれから自分達のようにダンジョンを挑もうとする無所属フリーの者達や荷車を操る馬で引っ張って移動する商会の人達と交ざって検問を受けに臨んだ―――が。何故か門前払いを食らってしまった。しかもオラリオに入るには数日以上もの時間を要した。何でも都市外の『恩恵持ち』は他国他都市の密偵を防ぐため厳しく取り締まられているらしく、『第二級冒険者』に相当する双子姉妹が、主神と【ファミリア】もなしに現れてはオラリオといえど面食らうだろう。都市に入るに当たって、ギルドは条件を提示した。それは必ず都市内の【ファミリア】に入団すること。Lv.3の戦力をみすみす逃すことを嫌い、首輪を嵌めようという魂胆だった。『中に入るのは容易く外に出るのは困難を極める』。そのように説明された少女達は『面倒で窮屈な場所』と印象を抱いても提示されたその条件を呑みようやく都市に入った。

 

「都市外から来た第三級冒険者のアマゾネスか」

 

「うん、知らなかったかい?」

 

「店の中でも噂話としては聞いていたぐらいだな。なんだ、会いに行くのか?ラトラ達だけじゃ足りないか?」

 

「どの【ファミリア】もどれだけ団員を抱えてもまだ足りない方だからね。まぁ、君が正式に入団してくれればその数もあっという間に解消するのだけれど?」

 

「今はお試し期間と言うことでもうしばらくどこかに腰を落ち着かせることは無いな」

 

やんわりと断られるフィンと一誠、その傍にガレスやリヴェリア、ロキ、アイズにアリサ―――アルガナ達とほぼ全員、都市外から来たアマゾネスを見に空飛ぶ魔法の絨毯で移動する。

 

「都市外から来たアマゾネスはいなくないだろうけど、そこまで高い実力だと・・・・・アルガナ、どう思う?」

 

「特徴も一致している。あの二人に間違いない」

 

爬虫類のような鋭い瞳に宿す光が強く、獲物を見つけたような獣と彷彿させる獰猛な笑みを浮かべだした。バーチェも静かに戦意を高めながら期待に満ちた目をしていた。一誠が抑えていないと今にも飛び出して先に言ってしまいかねない気配を隠さずにいるこのアマゾネス達に心の中で溜息を吐く。

 

「お前等は戦うなよ。カーリーとの約束を果たすにはまだまだ実力が足りないんだからな」

 

「鍛えてやるのもか」

 

「あいつらが是と答えるなら構わない。嫌なら駄目だ」

 

 

安宿の前に多くの冒険者が寄ってたかってまだ幼い双子のアマゾネスに戦いを挑んでいた。

 

規則(ルール)は魔法の使用禁止、武器無しオンリー、武具の装着は認められている。

 

自分達の【ファミリア】こそが~と果敢に挑む冒険者達は数分後、全身くまなく打撲痕を付けられ、体を守る鎧は小さな拳や足で粉砕される。小さな第三級冒険者並の力を有する子供に蹂躙される冒険者は後を絶たず、それでも機会(チャンス)はあると窺う冒険者も減らない。対して双子のアマゾネス。数多の冒険者を連日相手しても自分達の目に適う【ファミリア】が現れない。『世界の中心』、世界で唯一ダンジョンがあるオラリオの冒険者と両手で数えるのも億劫しそうなほど倒しては冷める一方。オラリオで腕試しをする為にやってきたのに、仲間となる者達は皆弱くて弱い相手をしてばかりでいる。

 

(どいつもこいつも弱ぇ奴ばっかり)

 

オラリオの冒険者といえど、こんなものかと退屈し掛けた時だった。

 

「―――リャガ・ル・ジータ・・・・・ディ・ヒリュテ」

 

「「!」」

 

一部のアマゾネスしか分からない言語が聞こえた。条件反射で反応する二人の前に空飛ぶ布が降りて来て、乗っているヒューマンと亜人(デミ・ヒューマン)に獣人、アマゾネス、神を視界に入れ・・・・・。

 

「久しぶりだな、ティオネ」

 

「・・・・・」

 

「なんで、テメェらがここにいやがるんだっ!?」

 

「えーっ!?」

 

同郷の者同士しか示さない反応をする双子のアマゾネスは敵意を剥き出したり心底驚いた。自分達の記憶が正しいならばここから遥か東、東南の海と断崖絶壁に囲まれた陸の孤島・・・・・アマゾネスしかいない国にいるはずだ。何故、この地に、既に自分達より先回ししたように都市(オラリオ)にいる!?と共通の思いを抱いた。

 

「答えろ、何でここにいる!カーリーから連れ戻せって言われたのか!」

 

「カーリーは関係ない。今の私達は【ファミリア】から脱退しているからな」

 

「そんな話を信じられるか!アイツがそんなこと許すはずが無いし嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!」

 

「お前が信じようが信じまいが、私達がここにいる時点で証明している」

 

交わされる言葉は闘国(テルスキュラ)出身のアマゾネスしか分からない言語。他のギャラリーが聞いていても何を言っているのか理解できないでいる。極一部、共通語(コイネー)ではない言語を翻訳する道具(アイテム)を耳に装着している一部を除いて。

 

「あれから強くなったようだな。またお前達を鍛えてやろうか」

 

「誰が!もうここはあの国じゃねぇんだ、お前達の思い通りになんてなるか!」

 

「はい、この二人に手出しするなよアルガナとバーチェ。話もここまでだ」

 

龍を彷彿させる鎧を全身で着込んだ一誠が話を打ち切った。誰だコイツ、と睨みつけたら黄金色の髪を揺らす小人族(パルゥム)や老兵ドワーフ、翡翠の髪のハイエルフが二人の前に立った。自分達が次の挑戦者とばかり見つめてくる。

 

「なぁ、思いっきり弱い者いじめじゃねアスナ?Lv.的にも年齢的にも。【勇者(ブレイバー)】の肩書に相応しくないぞこれ」

 

「そ、そうだね・・・・・そんな気がしなくもないかな」

 

「ハハハ、そう言われると少し困ってしまうけれど、彼女達がここで力を振るうなら上に立つ者として気にしていられなくなるよ」

 

そしてその後、フィンとガレスが彼女等に勝負を挑み【ロキ・ファミリア】に引き込むことが出来たと同時に、アマゾネスの少女に淡い恋心が芽吹いたのを一誠とアスナだけが感じとった。

 

「・・・・・フィン、頑張れよ」

 

「?」

 

悟った目で応援されても何の事だか分からないフィン。数年後、その意味がようやく理解した時は既に遅く。恋に爆走するアマゾネスに振り回される日々を過ごしていたのであった。

 

「私レギンよ」

 

「レイネルだよ」

 

「あたしはティオナでこっちがティオネだよー」

 

同じ派閥に同い年のアマゾネスがいたことに驚き半面嬉しく思いつつアルガナ達がいないことにティオネと紹介されたアマゾネスは安堵で溜息を吐いた。

 

「今思えば、ホームの方はどうなんだ?」

 

「おう、ようやく住める具合に間で復興しておるぞ。そろそろお主のところに居る団員達も引き上げさせようと考えておるところじゃ」

 

「そうか。よーやく宿泊施設めいた感じは無くなるか。前は避難場所扱いされたからな」

 

「お主のところは何かと便利じゃからな。待て、その鋏を持って近づくなっ。便利扱いして悪かった、悪かったから近づくでは無い!?」

 

【ロキ・ファミリア】に新たな団員を確保したその日、歓迎会が行われ例外なく『異世界食堂』の料理に胃袋を掴まれた。

 

【フレイヤ・ファミリア】のホーム『戦いの野』も住めれるようにまで修復でき、完璧に直るのも時間の問題であった。フレイヤの団員達が作業をしている時に一人の獣人がバベルの塔の最上階に訪れ、壁張りの硝子の外を眺めてる銀髪の女神の背後から問い掛けた。女神は背凭れがある椅子に腰を下ろしていた。横に移動せずその場で跪いた姿勢で口を開く。

 

「フレイヤ様」

 

「どうしたのかしらアレン?」

 

「お訊きしたいことがありまして」

 

「ふふっ、貴方から直接私に物事を尋ねてくるなんて珍しいわ」

 

獣人に振り返らずクスクスと楽しげに笑う声が聞こえてくる。そんな主神に静かな口調で問い出す。

 

「【フレイヤ・ファミリア】に入団した者について教えてください」

 

「あら、何か気になることでも?」

 

「・・・・・何故、あの男が【ファミリア】に入団していたのか教えて頂きたく」

 

「ふふっ、どの子かしら?」

 

わかっているのに敢えて問い返す意地の悪い崇拝する女神に猫人(キャットピープル)のアレンは、奥歯を噛み締める音を殺しながら告げた。

 

「『異世界食堂』の店主、あの男が【フレイヤ・ファミリア】の一員としているのかを」

 

「不満?アレン」

 

「・・・・・」

 

「貴方達が気にすることのほどでもないわ。私達のホームに居座ることもなければ、貴方達の仲間になろうとはしないわよ。勿論、貴方達の目に入らない」

 

「では、何故入団を・・・・・」

 

「私があの子を欲しかったから、よ」

 

その言葉だけ声音が異様に熱が籠っていた。アレンもそれに察して此方に振り返らない主神の背後で顔をしかめた。

 

「それにしてもアレン、貴方は悪い子ね。バベルに私がいるときは誰も来てはダメよってオッタルから聞かなかったのかしら?」

 

「処罰は受け入れます。しかし、あの男は信用できません」

 

「それはどうして?あなたに何か悪い事でもしたの?」

 

「奴は異世界から来たという異邦人。素性も得体も知らぬ輩が【ファミリア】の団員の一人だという事実は既に他の者達にも広まって疑問視をしている団員も少なくないです。―――フレイヤ様を穢した転生者の同類ではないかと」

 

ここに訪れた理由は絶対それを言いに来たのね、と困った風に小さく息を吐いた。

 

「もしも同類だったらどうするつもり?オッタルでさえ手も足も、歯牙にも掛けれなかったあの転生者達よりさらに凌駕して私を救ってくれた子に、あなた達は恩を仇で返すのかしら?」

 

「・・・・・あの男はオッタルより強いと」

 

「さぁ、全力で戦わせないと分からないわ。見てみたい気持ちはあるけれど」

 

既に一度、二人は戦ったがフレイヤは確信している。一誠はまだ強さを出しきってなければ隠している。転生者との戦いを直で見たからこそ断言できる。

 

「あなた達より強い事だけは知っているわ」

 

「・・・・・」

 

「アレン、気に入らないなら構わないわ。でも、不用意に傷つけたり怒りを買うことは絶対にしちゃダメよ。あの子は私の特別な子、だから」

 

いいわね?女神から忠告を受けた獣人は静かに彼女から背を向けて離れた。部屋を後にし、静かな雰囲気を醸し出す美の女神フレイヤは口唇を転がす風に動かした。

 

「もういいわよ?」

 

椅子に座っていた彼女の膝の上、虚空から姿を現すショタ狐と化している一誠。ピコピコと動かす狐耳を愛おしげに見つめ、優しく頭を撫でられる男は溜息を吐きたい衝動に駆られた。

 

「オッタル以外の連中と仲良くなれそうにないな」

 

「残念ね、こんなに可愛いのに」

 

「可愛いは余計だ」

 

虚空からバスケットが出て来た。その中身を、アップルパイを取り出してモクモクと食べ始める。林檎の甘みとパイの生地の柔らかさに美味しいと目を輝かし、尾を揺らす幼い子供の姿の一誠にフレイヤは微笑んだ。ようやく自分の眷族となる年となった。銀髪の美の女神はこの機に他の眷族達以上に熱を入れて己の虜にしようと色々画策を張り巡らしたその反面。食べ終えても大人しく抱かれている小さな男の耳の肌触りを堪能しながら見つめて興味が湧いた。勝敗関係なく心行くまで戦う二人はどんな風なのだろうと。

 

―――なので。

 

「ようやく準備が出来たぞ」

 

オッタルと戦う場を設けたと言ってはばからない一誠にリビングキッチンで待っていたギャラリーが反応した。

 

「何時ものトレーニングルームでするの?」

 

「主神様が全力で戦うところを見てみたいと言い出すもんだから、俺が全力で戦える専用のステージを作ってた。今回はそこでだ」

 

「専用のステージも作れるって、自分、どんだけ凄いんや」

 

「?何言ってるんだ。俺の世界じゃあ魔法や魔力があって異空間を構築できる知識があれば誰だって作れるぞ」

 

暗に俺は別に凄いってわけじゃないと言われたロキ達は何とも言えない、神妙な顔つきとなった。

 

「イッセー、それをできない私達からすれば凄い事なのだぞ」

 

「当然だろ。異世界が違うんだ。寧ろこの世界の魔法は遅れているというか、詠唱しないと発動できない使い辛い魔法ばかりだ。魔力だけか魔方陣だけで魔法を行使できるようにならなきゃ一人前にすらならないんだ俺の世界だと」

 

「・・・・・私達はイッセーの世界からすれば半人前なのか」

 

手厳しい言葉を頂戴したオラリオ最強の魔導士、心なしか嘆息して落胆した。古参の仲間から苦笑されて慰められる。アイズも剣士として自分はどの程度なのか訊くと。

 

「まだわからないな。15、16歳ぐらい成長したら比べる事が出来る。精進しろよ」

 

「うん」

 

「じゃあ、オッタルはあなたの世界でどのぐらいの強さを誇っているのかしら?」

 

「上から数えて・・・・・四桁―――千から千百かな。俺の世界の神も含めた数字でだ」

 

低い―――思った以上に低くフィン達冒険者達の間で驚嘆の息が漏れた。そこまでレベルの差が違うのかと思わずにはいられない。先行く一誠の後を追いかけ地下のトレーニングルームに足を運ぶ。辿り着くとアスナが不思議そうに訊ねた。

 

「えっ、ここ?」

 

「観戦場所としてここが一番だ。オッタル、もう準備はいいんだな?」

 

「構わん」

 

不壊属性(デュランダル)製の得物を背中に背負っているオッタルは無骨で短く言う。首肯する一誠は床に魔方陣を展開して先に消えていく。続いてその魔方陣に足を踏み入れるオッタルも消えるとトレーニングルームの観戦席の目の前で四方形の立体的な映像が大きくパッと発現した。映像に映る光景は無人のオラリオである。

 

 

 

「・・・・・オラリオか」

 

「そ、人っ子一人、虫一匹すら存在しない魔法で複製したオラリオさ。ただし、目に映る全ては本物と大して変わらない上にバベルの下に潜ろうとしてもダンジョンが無い」

 

中央広場(セントラルパーク)のど真ん中に対峙する二人。初めて訪れる異世界の技術が詰まった空間に周囲を見渡すオッタルの猪耳に更に説明の言葉が拾う。

 

「オラリオから外は存在しない。ここは鳥籠の中だと思ってくれ」

 

「フレイヤ様がいる世界には戻れるだろうな」

 

「当たり前。じゃなきゃ俺もここに閉じ込められるぞ。ついでにどれだけ建物を破壊しようと問題ない。この空間は使い捨ての戦場だ。普段周りに気を配って抑えている力を思いっきり解放できる場所として最高だろう?」

 

ニッと好戦的な笑みを浮かべ空間に開けた穴から封龍剣を掴み取って構える。同感だと無言で肯定して大剣を構えるオッタル。

 

「あと、俺達からじゃ見聞できないがフレイヤ達から俺達の姿と声は一方的に見聞できる。他に質問あるか?」

 

「ない」

 

そっか、と相槌を打ってバベルの塔に振り返る。何をするのかと見守るオッタルの前で腕に膂力を籠め横薙ぎに大剣をふるって一閃。斬撃の軌跡が刻まれたその直後、ズッと巨塔が斜め下にずれだし、はっきりと結果が見えた時・・・・・バベルの塔が真っ二つになって長大な建造物が街に倒れて地震で生じる地響きや轟音、土煙が二人の闘いの合図だとばかりに一誠がオッタルへ斬り掛った。

 

「バ、バベルを斬り倒しおった・・・・・!」

 

「オッタルもできるか怪しい芸当だよね」

 

「壊すだけならできるじゃろ・・・・・」

 

「本当にあの複製のオラリオの中で安心したぞ」

 

観戦席で始まった闘いをその目に焼き付けるロキ達。ぶつかり合う金属の音や打撃音、咆哮の叫びすら映像から聞こえて迫力も伝わって圧倒されることしばしば。戦闘開始からどちらも押されておらず、戦い渡っている。

 

「イッセーが消えおった、おっ、背後から奇襲!」

 

「ンー、音もなくそうした彼の攻撃を見ずに防ぎながら攻撃に転じたね」

 

「あ、吹っ飛ばされた」

 

「【猛者(おうじゃ)】も勝手に吹っ飛ばされおったぞ。何された?」

 

「凄い数の氷だ!」

 

「それを真正面から切り伏せるか」

 

「今度は斬撃のぶつけ合い!まるで二つの嵐がぶつかり合っているようだわ」

 

 

石畳の地面に刻まれていく斬撃の跡。どちらも大剣に関わらず折れた木の枝のように軽々と振るい打ち合う迎撃。打ち合う度に激しい衝撃と散る夥しい火花が絶えず、どちらも剣戟の協奏と舞を始めてから一歩もその場から動かず繰り広げ続けること一分間。

 

「聞かせろ」

 

「うん?」

 

「これほどの実力と剣技を兼ね備えるお前はどのようにして異世界で強くなったか」

 

純粋な興味を口にしながら斬り付ける腕を止めない猪人(ボアズ)の武人の質問に、懐かしみを含めて笑みを浮かべながら口唇を動かした。

 

「世界中を冒険して、そこにしかいない強者や神と勝負したり師として仰いだり、自然にも相手にして愚直に修行して己を鍛えた。自分より強い相手やモンスターとも戦い何度も敗北も重ね、十年近くそうして生き続けた。まだ俺が五、六の時からそうしてきたよ」

 

「お前にそうさせる理由は何だ」

 

「そこまで教える気はないな。知りたいなら、俺を倒してみろ最強」

 

「・・・・・」

 

次の瞬間。肩の筋肉を隆起させ、大剣の柄を両手で握り締めだす。そして、一誠の大剣に今まで以上の力で弾いて胴体をがら空きにする。

 

「―――――っ」

 

かっと双眼を驚愕で見開いた一誠に襲う大銀塊の斬撃。ロキ達からもあっ!と言わしめるその瞬間を、もう片方の手から闘気で具現化した光刃で防ぎながら街中へ決河の如く吸い込まれていき、何度も建物を粉砕しながら吹っ飛んだ、その直後。雷を纏う炎が蛇のように胴体の長い龍と変貌しながら街の方から現れてオッタルに牙を剥いた。その数、七つ。巨大過ぎる炎雷の化け物に咆哮を上げて大一閃。数匹纏めて切り裂いた。残りは灼熱の炎を吐くもかわされて叩き斬られ一匹残らず地面に形を残したままた斬り捨てられた頃、戻ってきた一誠が口にする。

 

「そこにいて大丈夫か?」

 

「っ!」

 

意味深な発言の矢先に瞬時で動いたオッタルが立っていた地面から八つ目の炎雷の龍が飛び出した。斬りおとされた七つの龍を吸収して膨れ上がった龍が大口開けて一人の冒険者を呑み込まんと襲いかかる。それすら立ち向かい斬ろうとするオッタルにそうはさせまいと一誠が斬りかかる。自分ごと呑み込まれようとお構いなしに。いや、自分からそうなろうとしている事に胡乱な気持ちを抱いた。

 

「俺に炎は通用しないんだ」

 

武人の心情を見透かした言葉と至近距離で全身から雷を迸る一誠の一撃で全身が一瞬だけ硬直。その一瞬で十分だとばかり炎雷龍が一誠ごとオッタルを真上から襲いかかった。炎柱が地面に突き刺さった風に見せ、二人を中心に周囲へ濁流する炎が広がって街を呑みこむ。ロキ達もその光景に言葉を失い息を呑む。それから二人の姿が見えず、どうなったと気掛かりになったところでフィンが指摘した。

 

「・・・・・凄まじいね」

 

「へ?」

 

「あの二人、あの中でまだ戦い続けてるよ」

 

未だに燃え盛る雷を纏う炎柱の中で揺らめく二つの影を注視したフィン。そんなまさか、と目を張るロキ達にその柱から飛び出す影が街の方へと消えていく光景を見せた。それを追いかける影―――嬉々として笑んでいる背中に炎翼を生やす一誠。

 

「す、凄い・・・・・」

 

「本当に本気で戦っておるのかあやつは。まだまだ余裕そうに見えおるわい」

 

「少なくとも、あの姿になった彼は本気で戦っていると思うわ」

 

ヘファイストスがそう言う。フレイヤも同意と微笑みながら頷く。上着が燃えカスになって半裸のオッタルが追ってきた一誠に対して袈裟切りで見舞う。初めて一撃が入った。肉体を切り裂く―――違和感を覚えた時オッタルの背中に斬撃が当てられた。

 

「そろそろ、異世界で得た能力を見せてやろう」

 

振り返り様に振るった横薙ぎの斬撃が受け止められ、鍔迫り合いをしながらオッタルは見た。身体に刻まれたはずの傷が炎と化して再生していく瞬間を瞠目する。

 

「不死鳥フェニックスの能力、精神力を削って不死身に近い再生の能力だ。どんな攻撃だろうと傷だろうと直ぐに俺は再生する」

 

「・・・・・」

 

斬り結ぶ斬撃の最中、一誠の大剣が上に弾き飛ばされすかさず大剣を叩きこむ―――その瞬間だった。

 

「―――『追憶の鏡(ミラー・アリス)』」

 

一誠の前に装飾された巨大な鏡が出現する。オッタルの斬撃波勢いを止めずにその鏡を粉砕する。

 

ズォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

「―――――ッ!?」

 

割れた鏡から波動が生まれ、未知の力がオッタルを襲った。瞠目した表情を浮かべたまま、オッタルは鮮血を辺り一面に噴出させていた。

 

「この鏡は破壊された時、衝撃を倍にして相手に返す能力だ。自分の一撃を自分自身で味わった感想はどうだオッタル?結構クるだろ。俺もそうだったよ」

 

「・・・・・お前のその力は、一体何だ」

 

「神の器、と書いて『神器(セイクリッド・ギア)』って一人の神が産みだした力の産物。人間や人間の血を流す異種族に一つだけ宿っていてる摩訶不思議な能力。『神の恩恵(ファルナ)』とは異なる技術の結晶だ」

 

「『神器(セイクリッド・ギア)』・・・・・お前はそれを一つしかないものを複数持っているのか」

 

「俺は他の人間達と違って異常でな。お前の言うとおり複数持っている。ただし、殆ど複製することができる能力で得た能力が多い。―――それを全部、お前は見ることができるかな?まぁ、俺達の主神様は俺達の全力の戦いを見たいとのお望みだ。それを叶えてやるのが眷族の務めだ。オッタル、俺の全力に応えてくれるか?」

 

一誠からの問い掛けにオッタルは武器を構えることで答えた。―――こい、と。その応じに濡羽色と金色のオッドアイに歓喜の光を孕ませて・・・・・謳った。

 

「―――我は無限と夢幻の神の龍也」

 

『『『―――我が宿りし覇と王道をも降す唯一無二の龍よ、汝じが赴くままに至れ』』』

 

突然紡ぎ出す謳。一誠の玲瓏に紡ぐ謳をオッタルと観戦席にいるロキ達全員が耳にする。

 

「―――濡羽色の無限の神よ」

 

全身から奔流と化して迸る真紅色の極大オーラが、一誠の全身を包み込んでいく。

 

『『『―――赫赫たる夢幻の神よ』』』

 

身体に宿るドラゴン達も詠唱を唱え、真紅のオーラに入り乱れながら迸る無限を体現する黒きオーラが、さらに一誠を覆っていく・・・・・。

 

「『―――際涯を超越する無垢な無限の希望と純粋な不滅の夢を抱く全ての運命(さだめ)を降す我らが真の禁を見届けよ』」

 

身体から迸り覆う真紅と漆黒の濃厚なオーラは身体に纏わりつき、上衣が堪え切れず弾け散って何かが体に浮かびあがる。

 

そして一誠達は、最後の一節を謳った―――。

 

「『―――原始の理で以って我らが無夢を解き放たん』」

 

呪文を謳い終わった時、真紅と濡羽色の龍を象った入れ墨が全身に浮かんでいた。真紅の髪も濡羽色と交ざっていながら入り乱れている。

 

「・・・・・魔法か」

 

「否、俺の世界の最強のドラゴンの力を振るうために必要な呪文だ。―――龍神化のな」

 

虚空に伸ばした手に目指して飛翔して来た封龍剣。それを地面に突き刺して腰を低く拳を構えて臨戦態勢を取った。

 

「全神経を全力で張り巡らせろ。一瞬で戦いが終わる」

 

「・・・・・」

 

「行くぞ」

 

後ろに更に拳を下げて、オッタルに目掛けて正拳突きをした。ここにもし、ヒーロー組の異邦人達がいたら気付いただろう。もう一人の一誠に鍛えられたという実証がされるのだから。しかし、ここにいない彼等彼女等の言葉を耳に傾けることはできず使い捨ての戦場の中で虚空に向かって突き出した一誠の拳。ただそれだけ―――と認識し掛けたオッタルの全身が、トラックと衝突したような凄まじい衝撃に襲われ、視界がブレ、脳が直接殴られたような感覚を覚えながら決河の如く粉砕する建物ごと後方へ吹っ飛ぶ。その勢いは数百、数Kまで続いて一誠が突き出した拳の軌道上から扇状に広がって建物が木端微塵と化する。

 

「んなーっ!?」

 

「つ、突き出した拳だけで街の一部が吹っ飛んだ・・・・・」

 

「ガレス、今の一撃・・・・・耐え切れる?」

 

「・・・・・自信が無いわい。というか、何をしたんじゃあの男は」

 

「衝撃波、としか思えないかな」

 

「衝撃波だと?」

 

「イッセー、凄い・・・・・!」

 

「あれが、彼の全力・・・・・」

 

「ふふ、ふふふっ・・・・・凄い、凄いわイッセー・・・・・ッ」

 

見晴らしが少しよくなった戦場に立つ男。ここがもし現実の世界で打ったらどれだけ人の犠牲者が出ていたのだろうかと考えたくもない災害と見紛う人災の痕跡。きっとロキ達も驚いているだろうなぁーと思ってから数十秒・・・・・オッタルの姿が一向に見えない。不思議に思い背中から二対四枚の龍の翼を生やして空から探してみると、一部の瓦礫がガラリと動き出しそこからオッタルが出てきた。

 

「なんだ、気絶でもしていたのか」

 

「・・・・・していない」

 

「吹っ飛ばされてから数十秒経ったぞ?直ぐ来るもんだと思っていたんだけど何してた」

 

「・・・・・」

 

問いに応じずどこかに吹っ飛ばされた得物がなくても己の肉体で戦いを臨む彼の男に応じて、再び全力の戦いを繰り始めたのだった。

 

その後、勝敗の結果はどうであれフレイヤの望みを十分に叶えた二人。戦いを見ていたフィン達冒険者は労いの言葉と拍手で出迎えながらも、一誠に対する畏怖の念をちょっぴり抱く半面。次は自分達もしようと勝負を臨んだ。

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