ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚2

オッタルと一誠の全力の戦闘から強さに飢えるアイズ達。異世界同士の強者がぶつかり合った光景が今でも瞼の裏に焼き付き、とても印象に残ったのだろう自分もあんな風に強くなりたい、もっと強くなりたいという想いの憧憬が少女達の中で焦がれるようになり、一誠に隙あらば模擬戦を乞う。低い確率でオッタルから勝負を申し込まれることしばしば。あの戦いの一件で味を占めたのか、全力で戦える場も求めてくる。

 

「ところでイッセー、オッタルさんと戦ってもまだ何か能力を隠しているの?」

 

「藪から棒になんだアスナ。隠しているというよりもあっさり倒してしまうから使わないようにしているだけだ」

 

「例えばどういう能力?」

 

「一定時間が経つ毎に能力が二倍に倍増していったり、一定時間が経つ毎に相手の力を半減したり、触れただけで相手の魔力や体力を全て奪い取ったりとか・・・・・その他色々だ」

 

「チ、チートやで。何、能力が二倍に増え続けるって、相手の力が半減するってトンデモない能力やん!」

 

「うん、だからいずれ神すら屠れる能力だから使わないんだよ。この世界でもしも使う相手がいたとしたらそれこそ神か、転生者ぐらいだな」

 

「そんな凄い能力を以ってしてもお前は元の世界で最強では無いのだな?」

 

「うん、どうしても上には上がいるんだよ。だから強くなる甲斐があるってものさ。この世界じゃ俺より強い存在はいるかどうか怪しいけれど、できるだけ目立たないように戦い方を工夫しているしな」

 

思いっきり目立っているのを気付かないのか?的な雰囲気が醸し出す中、当の本人は全然気づかないでいた。ふと、思い出した風にロキは一誠へ言葉を向けた。

 

「あーせや、転生者って聞いて思い出したんやけどな。ギルドから『強制任務(ミッション)』が来てな。異邦人または転生者がいるなら探し出してギルドに連れてこいっちゅうんや」

 

「ロキが俺達の存在を匂わせたのが原因だろうな。で?管理しようなんて思ってないだろうなギルドは」

 

「したいんと思っておるんちゃう?軽く第一級冒険者を凌ぐ異世界の神の特典をもっとる子供がおれば誰だって手元に置きたいもんやし」

 

「ロキもか?」

 

「うちはイッセーだけおれば他はいらへんわ!」

 

「私もよ?」

 

「以下同文」

 

「うわー、俺、人気者だなー」

 

と、朝食中の話だった。横長のテーブルで早朝から人数分の料理を多く作り用意した一誠の手作り料理を舌鼓ながら一日の朝のシーンを送る。

 

「それで、俺は出頭した方が?ギルドに信用と信頼を得るために」

 

「うーん、あのロイマンがイッセーに対して何をしようと考えておるのかさっぱり分からへんからなぁ」

 

「でも、イッセーに対して敵対するのは現実的じゃないでしょ」

 

「しかもその背後には私達がいるもの。本当に何かしようとするなら黙っていないわよ?」

 

フフフ、と冷笑を浮かべるフレイヤ。頼れるが少し不安を感じる。異邦人、アスナとアリサに一瞥して考える仕草をする。ギルドに行けば、オラリオの真の王に会えるのではないかと画策する男の考えは誰一人気付かない。

 

 

大神殿、いや万神殿(パンテオン)へ手土産を持ってギルド本部に足を運ぶ。擦れ違うヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)達から「あ、店主だ」「店主、今日も食べに行くからな!」等と声を掛けられたり注目されたりした。西のメインストリートでは一誠を知らない者は十人中三人か四人ぐらいかもしれない。知名度が上がっている証拠だとほくそ笑み、目的の場所の中に入り真っ直ぐ受付嬢、己の担当アドバイザーに近づきながら声を掛けた。

 

「ローズ」

 

「っ!」

 

目を丸くする赤い長髪に狼の耳をピンと立てる狼人(ウェアウルフ)の女性。にこやかに見せのデザートを持参して来たと箱を掲げる男に胡乱気な眼差しを送った。

 

「何でしょうか、毎年取っ替え引っ替えしている冒険者様」

 

「棘をある言い方をするなよ。別に入った【ファミリア】で一生を過ごせってわけじゃないだろ?」

 

「節度を持ちなさいってことよ節度を!このオラリオで毎年のように他派閥に改宗(コンバージョン)をしている冒険者はあなたぐらいなのよ!」

 

「それの何が悪いんだ?オラリオに貢献しているのに」

 

「常識的に余程の理由や事情じゃない限りそうポンポンと【ファミリア】を替えないの!」

 

そう言いながらローズはロビーに出て来て一誠に怒る風に声音を強く張り上げ、ギルド本部に設けられた小さな一室に向かう。そして、扉を閉め鍵も施錠して完璧に外と隔離するとテーブルに置かれているデザートとティーセットの前に腰を下ろし・・・・・。

 

「全く、何であなたはどこかの派閥に腰を落ち着かせないのよ」

 

ぶつくさと言いながらカップに手を付けて紅茶を飲み始めた。

 

「全く、何で持ってくるデザートはこんなに美味しいのよ」

 

「それ、文句じゃないからな」

 

指摘を受けて「うっさい」と言い返し、極東でしか採れない栗をふんだんに使ったケーキを食べ、獣耳と尻尾が美味しいと彼女の心情を表す様に揺れ動く。うん、見ててほっこりする。

 

「食べたことのない甘みだわね。これ、何を使ってるの?」

 

「極東で採れる栗って言う木の実みたいなものだ」

 

「へぇ、極東の・・・・・それって保存できる?」

 

「できなくはないけど、やっぱり早く加工して料理することがお勧めだな」

 

「じゃあ、この黄金色の甘くて柔らかいデザートは?」

 

「それはサツマイモで作れるぞ」

 

仕事の合間でデザートを食べるギルド職員。後に鼻が利く同僚や上司に「何を食べていた」と追及されるのだが今の彼女と一誠は知る由もなく全てを食べ終えた時のローズ。ご満悦な表情を浮かべ淹れてくれる紅茶に手を伸ばす。

 

「ふぅー、あなたの店のデザートは美味しいわね」

 

「そりゃあ異世界風のデザートだから」

 

「・・・・・異世界、ね」

 

カップに口唇を含みながら担当の冒険者兼店主を視界に入れる。

 

「主神から聞いたんだけどギルドは異邦人や転生者を探しているらしいな。どうしてだ?」

 

神会(デナトゥス)で挙がった情報が正しいなら世界中に存在しているのでしょ?特に転生者は異世界の神に望めば第一級冒険者をも凌ぐ能力を与えられる。その恩恵を受けた人間が悠々自適に世界各地で生きているとなると、帝国や魔法大国(アルテナ)を始めとした大国に敵対している国や同盟国、他の国の手中に収まっている可能性もある」

 

「ギルドはそれを危惧してオラリオも見つけ次第確保するって?戦力増強と攻め入られないように」

 

「ええ、ギルド長はその考えをしているわ。既に一人、牢にいる転生者の人間は今後の為に活用するつもりのようだわ」

 

ギルドの手に余る存在なのに大丈夫なのか?と怪訝な気持ちを抱いたのを察したか、ローズは溜息を吐いた。

 

「『恩恵』も無しで第一級冒険者にまで他の冒険者達から【ステイタス】を奪い続けた犯罪者でも、利用しない手は無いってのよギルド長は」

 

「どこかの【ファミリア】に入団させるつもりか?」

 

「検討中。仮にそうなったら最大派閥に宛がわれるでしょうね。手綱を握れるのは同じ第一級冒険者なのだから」

 

あいつらにとってはた迷惑な事この上ないだろう。そう思った一誠はローズに真顔で問われた。

 

「・・・・・あなたも、転生者なのかしら?酔狂な事に『異世界食堂』って店を構えているのだし、あからさまに自分のことを教えているようなものよ?」

 

「ははは、俺は転生者じゃないよローズ。けど、何となくだけど察しているんじゃないか?」

 

アスフィと作製した相手を鑑定する眼鏡を取り出し、ローズに渡せばそれを掛けて一誠を見つめると物凄く溜息を吐いた。

 

「・・・・・はぁ、何で私の担当冒険者がとんでもない人間だったのよ・・・・・」

 

「料理のできる男は優良物件だぞ。一生遊んで暮らせたり幸せにすることもできるからな」

 

「未婚の女にとって魅力的過ぎる条件ね」

 

「じゃあ俺と付き合ってみる?」

 

「真剣に言っているなら数秒だけ考えておくわ」

 

あっさりとかわされ、一誠もそれ以上言わずティーセットを片づけた後、用は済んだと立ち上がった。狼人(ウェアウルフ)の女性に背を向け個室の扉を開けようとした手が「待ちなさい」と掛けられた声に反応して止まった。

 

「あなたのこと、ギルド長に教えても大丈夫なの?」

 

「どうして異邦人や転生者を探すのかその理由を知りたかっただけだからな。ローズの判断に任せるが、ギルドから信用と信頼を得たいのが本音だ」

 

「そう、なら、悪いようにしないわ」

 

「したら、お前のその耳と尻尾を触らせてくれ。何時も触りたいなーと思っていたんだよ」

 

子供っぽく笑みを浮かべた一誠を直視したローズの顔がかっと何故か赤くなって「へ、変態!」と叫んだ。

そしてその後『異世界食堂』の店主、【フレイヤ・ファミリア】の団員の一人が異邦人だという事がローズからの報告で知ったギルド長ロイマンはその日の内に・・・・・ギルドに召喚した。

 

「・・・・・」

 

ギルド本部最上階、重厚な樫の両開きの扉を潜って間もなく豪奢な絨毯を始め、壺や絵画、天鵞絨(ビロード)張りの長椅子(ソファー)雪花石膏(アラバスター)を用いた魔石灯など、贅を極めた品々や調度品がそこかしこに配置されている空間に侵入した。一礼をして室内の真ん中を進んでいく一誠は、威風堂々とではなくのんびりとした態度で部屋の主の元へ足を運ぶ。

 

「俺を呼んだ理由はなんだギルド長?」

 

「ふん、私の前で平然と傲岸不遜な態度を取れるのは背後に強力なバックがいるからか」

 

「元々こういう感じだから気にしないでくれ。作法もちゃんとしただろ?」

 

「異邦人は何を考えておるかわからん。作法も相手の警戒を抱かさん為なのだろう」

 

「目上の相手に対して敬う姿勢をするのが当然じゃないのか?」

 

「私に対する言葉の口調にどこが敬っているのか問い詰めようか異邦人」

 

未知の相手に対して傲岸不遜の態度を取る度胸と肝が据わっているギルド長に、薄く笑う。これがもし、自分の真の正体を明かしたらまだ態度を変えられるのか興味が湧くが・・・・・悪手だと気持ちを切り替えた。

 

「フィンやオッタルもあんたに敬った事があるのか?」

 

「うるさいっ、本題に入るぞ」

 

完璧にあからさまに話をはぐらかしたギルド長。

 

「貴様は自分が異邦人だということを認めておるのだな」

 

「無駄な諍いや騒動、争いを避けるために隠していたけどな」

 

「この世界に来た目的はなんだ」

 

「ない。異邦人達は例外もなく突然この世界に来てしまった。元の世界に帰る方法を、いま俺が模索している最中だよ」

 

「異世界で死んだ人間が異世界の神に恩恵を与えられる情報は聞いている。実際はどうなのだ」

 

「異邦人の俺が知るわけないだろ?それを直で体験した奴しか分からない事だ。だけど、与えられた恩恵は本物だ。第一級冒険者を凌ぐ能力を完璧に自分のものにしたらオッタル達もタダではすまないだろう」

 

一方的な質問攻めに答え続ける。ロイマンにとってやはり危険視する答えだったのか肉がついた顔に皺が生まれた。

 

「貴様の作った魔道具(マジックアイテム)でオラリオに入ろうとする異邦人や転生者を探し出せるが、未だ連中が入ったという報告は無い」

 

「それでも俺達異邦人や転生者は他にもこの世界のどこかにいるはずだ。ま、オラリオに来てもらわれると面倒極まりない。一々相手にしなくちゃいけないんだからな」

 

「ならば、オラリオにいる異邦人と転生者の人数と居場所を教えろ」

 

「教えるだけならともかく、接触するのは止めておいた方が身のためだ。人差し指だけでギルド長を洗脳することも不可能じゃないんだ俺達は。気付けば己の地位と権力が奪われた状態で路頭に彷徨わされているってこともあるんだからな」

 

ぐっと顔を顰める。脅し、それとも警告のつもりか。一誠の言葉に緊張の色を浮かべ、薄らと出てきた汗を流す。

 

「ま、洗脳をする能力は今のところ俺と一人の転生者しかできないから対処はできるだろ」

 

「貴様はオラリオやギルドの味方か」

 

「一応そのつもりだが?オラリオやギルドに貢献している。都市外から新たな資源を見つけているしな」

 

「新たな資源だと?」

 

おっ、食いついたなと予想通りの反応にほくそ笑む一誠は『空の世界』の存在を明かした。話に耳を傾けていたロイマンの顔は真剣そのもの。あの巨大な騎空艇でしか行けない世界で何があったのか教えられる。

 

「とまぁ、神でも未確認だった世界が空の彼方に存在していたわけだ。凄かったよ、興奮で胸が弾んだ」

 

「・・・・・本当なのだろうな」

 

「ロキやヘファイストス、フレイヤも同伴しているから嘘ついてない」

 

ギルド長にとってとんでもない爆弾発言をポロリと零した。かっ開く緑色の瞳は愕然の感情を露わにするほど顔にも浮かんでいた。

 

「き、貴様!無断で他派閥の主神をオラリオから連れ出すでは無い!?あの船がオラリオから出ていく度にそうしていたのか!」

 

「その時は俺が所属していた時だったんだし、他派閥ではなかったけど?それと正式に外出の申請の書類の手続きもしているんだから問題ないでしょ」

 

「屁理屈を言うではない!最大派閥の主神に何があったらどうする気だ!」

 

「あれー?第一級冒険者の護衛を信用してないのかー?ギルドの長ともあろうものがさー?」

 

顔を真っ赤にした豚のようにプギーッと子豚のように喚くロイマンに対し、一誠はニヤニヤと邪な笑みを浮かべからかう。

 

「話が脱線しているから戻さない?」

 

「誰がそうさせていると思うんだ!」

 

ややあって落ち着きを取り戻したロイマン。荒い息を整えながら遺憾ながら話を戻した。

 

「今後も異邦人や転生者が現れるのだな」

 

「断言はできないが、可能性は大ありだ」

 

「ならば、その者達がオラリオに害を成すことが起きたら貴様で対処しろ。転生者を相手にできるのは異邦人、その逆も然りなのだろうからな」

 

冒険者が解決できないなら異邦人、もしくは転生者達のお前達の方で何とかしろと言外するロイマンに短く溜息を吐いた。

 

「目に映らない限り手出しはできないぞ。【ステイタス】の初期化という異常現象が発覚するまで俺も気付かないでいたんだからな。それと生殺与奪の権をくれると嬉しいな」

 

「殺すでは無い!何としてでも生け取りにするのだ!」

 

「全員は無理だ。ギルドが懐柔できると思っているのか?特に己の欲望や野望に爆走する輩は、現実的な話で命を握らないと大人しくしない。モンスターより性質悪いぞ」

 

あともう一つと人差し指を立てる。

 

「今後、俺個人の行動を全て目を瞑るなら今後もオラリオに貢献をしてやる。異世界の知識でオラリオを発展する約束もする」

 

「異世界の知識だと?そんなもの何の役に立つのだ」

 

「快楽主義者の神々を大いに喜ばせることはできるぞ?まぁ、その為には広い場所や敷地が必要になるけどな」

 

例えばこれ、とネットスーパーを展開してロイマンに異世界の乗り物を見せつける。ロイマンは胡乱な眼差しで海を航海する鉄の船と空飛ぶ鉄の塊に馬より速い鉄の乗り物の説明を聞くたびに唸る声を漏らす。

 

「この世界には無い乗り物が異世界に存在する。更にはこれ、巨大な娯楽施設もあるんだ。これらをオラリオに実現させれば知名度が今の何倍にも高まり発展も向上すると思うんだ」

 

「むむむっ・・・・・」

 

「ただし、莫大な資金が必要だ。ま、こっちで貯めるからギルドから税金を出す必要はない。悪くない話だと思うけど?」

 

「管理費と維持費はどうするのだ」

 

「それはオラリオから出してくれ。これらはあくまでオラリオの物だからな」

 

建設費は一誠個人、それ以外は全てオラリオが担う。長い目を見て考えるロイマン。オラリオの発展の事を考えればかなり旨い話でもあるが、話しが旨過ぎて裏があるのではと勘繰ってしまう。懸念して悩んでいる子豚もといギルド長に足元に魔方陣を展開して去り際に述べた。

 

「駄目なら別にいいぞ。それじゃ、またな」

 

ロイマンの了承も無しに消えていく一誠。その後、極東の三柱の神にある話をつけた。

 

「オラリオと極東と行き来できる高速の乗り物?」

 

「まだ予定の段階だけど、どう?」

 

「もしも現実的な話になるなら、船より何度も早く海を跨いで行けるな」

 

「実際、どんな感じなの?」

 

「じゃあ、極東で試しにしていいか?」

 

「ええ、できるなら」

 

あっさりと前向きに受け入れてくれた結果、極東で機関車の活用の効果を試してみた。アマテラス達の首都と首都を線路で繋げてネットスーパーで寝泊まりが出来る列車をアマテラス達が割り勘して購入した。

 

「線路は全部最硬金属製(オリハルコン)って、とんでもないよイッセー」

 

「今後何十年何百年も使い続けるからには一番丈夫にしないといけない一つだからな」

 

「それをあっさり作ってしまうイッセーは凄過ぎるよ?」

 

「俺の能力はこういう時の為にあるもんだ。しっかし、まさか機関車を購入することになるとはなぁ」

 

一週間―――極東で機関車が運行できるよう地盤を固め、三国を繋げるために必要な道標(ルート)を確保して今日、機関車を線路の上に設置して全てを整えたところをアスナと話していた。

 

「本当に必要になる物だから載っていたんじゃないのかな」

 

「戦闘機も必要か?」

 

「えっと、多分、念には念をだと思うよ・・・・・」

 

「イッセー、何しとるんや。早く乗るんやー!」

 

車両の窓から顔を出すロキからの催促で二人も乗り出し、先頭車両の運転室に足を運んだ。

 

「ところでイッセー。ずっとこの機関車を弄っていたようだけど何していたの?」

 

「ネットスーパーで購入した、蒸気機関車の欠点は分かるか?」

 

いきなり尋ねられるアスナは直ぐに答えれなかった。答えることはできなかった。専門知識もなければどんな構造で機関車はできて成り立っているのかすらも十全も把握していない故にわからないのだ。それを小馬鹿にせず同感だと話を進める一誠。

 

「まあ、俺も全部は知っていないけど一般的に大変だなーと思うのが機関車を動かすのに欠かせない燃料、石炭を投入する作業だ。だから、それを失くすためにあることをした」

 

レバーを前に押し上げ、天井からぶら下がっている紐を引っ張ると蒸気が凄い音とともに噴出する。

 

「魔法と科学を融合させた機関車にしてみた」

 

ロキ達がいる車両では、感嘆の息を漏らし早く進む光景を目の当たりにしながら眺めて楽しんでいた。ゴォオオオオオッと猛スピードで進む音が耳に入り【イザナギ・ファミリア】の首都へ突き進む機関車の試運転に神々は終始外を見つめていた。

 

「馬より速いって、本当なのね」

 

「うむ、半日もせずに我々の国に辿り着くだろうな」

 

「これ・・・極東全土にも配置したらもっと極東を発展できると思う」

 

「確かにね。でも、それを可能にするためにはイッセーの力が必要不可欠だわ」

 

「惜しいが流石に全土は無理だろう。もっと別の手段を考えるべきだ」

 

「・・・・・来年、イッセーが私かアマテラス、イザナギの眷族になったらそうしよう」

 

イザナミの提案に異論はない、と寧ろ同意と揃って頷く極東の男神と女神。それから二十分弱でイザナギの都市に辿り着いた。直接中に入らず、城下町を取り囲む市壁から少し離れた場所で設けた屋根と待合室がある駅の横を通り過ぎてそのままイザナミの都市へ直行する。

 

「これがイッセーの世界で毎日動いてる乗り物・・・・・」

 

「技術に関しては完璧にこの世界が遅れとるなぁー」

 

「凄いわね、異世界の乗り物とそれを作る子供達は。一体これを作るのにどれだけの時間と労力を尽き込んだのかしら」

 

三十分後、イザナミの国境を越えてそのまま都市外に設けた駅すら通り越して一気にアマテラスの国にある駅へ二十分も掛けて戻る機関車。初めての試運転にしては上出来だと一誠は評価し、腐食や老朽化を防ぐ異世界の魔法を念入りに籠めたので五百年ぐらいは可動できる、とアマテラス達から絶賛されてオラリオで感謝の品を大量に送られた。物色すると壺からある海の生き物が出てきた。

 

「おお、蛸!たこ焼きが作れるな!」

 

「なんや?美味いん?」

 

「多分、ロキの大好物になるかもしれない食べ物だ」

 

「その、いかにもモンスターの子供のような気持ち悪い生き物が・・・・・?」

 

「美味しいですよ?足を生で食べたり、下処理すれば刺身や唐揚げ、サラダにだってできます」

 

「な、生で食べるだと・・・・・お前達異邦人はとんでもない食事の習慣を持っているのか・・・・・」

 

「「日本(極東)じゃあ昔からの食べ方だから」」

 

論より証拠もとい実食調理された蛸を恐る恐る食べたロキ達。口に入れた途端、想像以上の美味しさに物凄く驚き、たこ焼きに至ってはロキが大絶賛した。運命と出会えた瞬間を感じたと言うぐらいに。

 

「・・・・・蛸って意外と食べれたのね」

 

「見た目がアレで食べずに海に捨てるものであるからな。間違って一緒に送ってしまったかと思ったのだが」

 

「うん、美味しい・・・・・」

 

アマテラス、イザナギ、イザナミすら驚嘆していた。というか、蛸、食べれないものだと認識されていた事に一誠とアスナは心底不思議がった。後に『異世界食堂』にだけ蛸料理のメニューが加わり、試しに食べた壮年のエルフが蛸料理に夢中になるほど虜になったのは別の話。

 

 

その日の夜。ふと、アスナが素朴な疑問を吐露した。

 

「他の冒険者や一般の人達のお風呂ってどんな感じ?」

 

それは入浴中の時だった。三十人は軽く入れる広大な空間に一つ一つ効能が違う湯の浴槽は片手では数え切れないほどある女性専用の大浴場。並々と張られた湯船が湯気と共に揺れ動く光景はこの上なく魅惑的だ。湯口から新たなお湯が音を立てて流れ込んでくる。奥の出入り口に向かえばオラリオを一望できる露天風呂もあり、何人かの女性はそこで見渡しながら入ることを日課にしていた。

 

「えっと、突然どうしたの?」

 

「うんと、【アルテミス・ファミリア】にいた時は公共のシャワーだけで体を洗っていたから他の皆はどんなお風呂なのかなって気になっちゃって」

 

アスナの傍にはエルフのアリシアとレイラ、猫人(キャットピープル)のアナキティ、ヒューマンのフィリラが全身に温かい湯で抱きしめられている感覚を堪能しながら素朴な疑問をぶつけた。最初に応えたのは元娼婦のレイラ。

 

「私は娼館に備えられていたお風呂で体を清めていましたわ」

 

「どんなお風呂だった?」

 

「そうですね。それほど広くなく、三人ほどしか入れない木製の湯船でした。【ロキ・ファミリア】のお風呂はどうですか?」

 

アナキティに話しの矛先が向けられ、何気なく女風呂の中を見渡す。

 

「私達のお風呂は、まぁ、このお城のお風呂よりかなり小さい感じだったわ。それでも十五人程度は湯船に入れる大きさだったね」

 

「ホームが壊された今、ロキがこのお風呂を真似て増設するみたいですが。実際まだ入れる状態では無いので現状どんな風になっているのかまだ知りません」

 

「私の場合、水やお湯で濡らしたタオルで身体を拭いていました。ですからこの城に住まわせてもらって以来、あの方に深い感謝の念でいっぱいです」

 

成程、派閥ごとお風呂事情はこうも違いが出るのか。疑問は興味へと変わって更に質問をした。

 

「じゃあ、他の人達はお風呂ってどうしているのかわかる?」

 

「流石にそこまでは。基本派閥同士は干渉しないで生活をしているからね」

 

「ですけど、冒険者と違って無所属(フリー)の人達が住む家に浴場はあまりありません。宿屋でも高いお金を払う宿屋じゃないとないと聞きます」

 

「・・・・・そうですね。身体を重ねる時の殿方の体は不衛生で多かったわ。だから先に身体を洗ってもらうか一緒に洗いながら―――」

 

元娼婦の卑猥で淫靡な発言によってお湯の温もりとは違う熱がアスナ達の顔を赤く染め、アリシアからバシャっとお湯を掛けられ会話を遮られた。

 

「入浴中に何て卑猥な事を言うのですかあなたは!?」

 

「経験した事実を言ったまでよ?」

 

「それを言う必要などありません!」

 

口を開けば言い合いをする二人のエルフをアスナとフィリアがまぁまぁと抑え窘める。

 

「えっと、話を戻すね?オラリオでお風呂があるのってそんなにないんだね?」

 

「知っているわけでは無いので何とも言えません」

 

「そっか、じゃあ、ここのお風呂は規格外なんだよね?」

 

「「「「はい、そのとおり」」」」

 

声を揃えて断言する。この広大な浴場を造った当の本人は、自室の風呂でのんびりと入っているだろう。

 

「そう言えば、リヴェリアさんは何時も一緒に入らないよね?」

 

「あのお方は王族(ハイエルフ)です。エルフ族の私達にとって王族は尊敬と敬いをする対象で、共に入ることになれば付きっきりにお世話をします」

 

あ、それをあまり好まないから時間を置いて一人で入るのかな?と思い立ったアスナの傍で。

 

「きっと今頃イッセー様と入っていらっしゃるかもしれませんね」

 

「へっ!?」

 

レイラの爆弾発言でアナキティが素っ頓狂な声を上げた。その後すぐ、アリシアが彼女に食ってかかりまた言い争いをするのが御愛嬌。

 

「―――って、話を少ししてたんだよ」

 

「・・・・・異世界のお風呂事情は意外と寂しいんだな。湯を沸かすこともできない住民は水に濡らした布で身体を拭くってことなんだろ」

 

何かの設計図を描いている一誠の傍らで興味津々に眺めるアスナとの会話が静かな部屋の中で交わされる。

 

「神々しか入ることが許されない『神聖浴場』ってのがあるしなぁ」

 

「え、そう言う銭湯みたいな施設があるの?」

 

「あるぞ。試しに覗いてみたら一般的な銭湯なんかよりも造りが豪華だった」

 

軽く、犯罪をしてない?脳裏に過った思考がアスナにそう思わせたのは無理もない。神々しか入れない場所をどうやってか無断で覗き込んだのだ。不法侵入というキーワードがありありと浮かぶ。

 

「・・・・・女神様が入っているお風呂も覗いた?」

 

「使用されていない時間帯に忍び込んで覗いた」

 

女神が入っている時に覗きなんてする筈が無いだろ?的な視線を送られ、そうなんだけど、そうなんだけれどと元の世界の法律や犯罪は異世界には通じないからって・・・・・頭の中でグルグルと悩み葛藤するアスナを一瞥して設計図に視線を戻した。

 

「銭湯、必要かもしれないな」

 

ポツリと呟いたその小さな声は確かに聞こえた。まさか、と思って亜麻色の髪の女性は訊く。

 

「作るの?それともネットスーパーで?」

 

「無論、一から作る。でも、今じゃない。海を駆け渡る列車を造りたいからな」

 

「海列車・・・・・何だかファンタジー的な乗り物だね」

 

「アスナ、ここはファンタジー的な世界だぞ?」

 

あ、そうだったね。今更ながら自分達はどんな異世界にいるのか改めて認識し、指摘されて微笑を浮かべる。

 

「ところでイッセー。お風呂は何時も一人で入るの?男湯もあるのに」

 

「男湯があるのはオッタルに入ってもらうために作っただけだし。俺は基本この部屋の風呂で入る。突然風呂に侵入して来て入られることもあるがな」

 

「・・・・・一番多い人は?」

 

「アイズとアリサ、その次はアルガナ達、その次がフレイヤ。たまにヘファイストスやリヴェリアも来るな。レイラも」

 

殆ど、一誠と肌を重ねたメンバーであったことに言葉を失った。しかも向こうが無断で部屋に押し入り、風呂に自らの意志で入ってくるのだから一誠も断わり辛いのかもしれない。ただ、本当に入るだけだろうか?

 

「い、一緒にお風呂に入るだけだよね?」

 

「・・・・・気になるなら、アスナも毎日俺の風呂に入ってみるか?」

 

冗談で言われようと純粋な彼女の顔は耳まで真っ赤に染まった。恋人同士でもないのに異性と混浴なんてと、大人になっても成長して豊かに育った双丘を無自覚なのか挟む仕草をして身動ぎする可愛らしい恥じらいをする。その間、二人の間で何とも言えない静寂が訪れたがそれを破る様にラトラが部屋に入ってきたのだった。虎のキャラクターがプリントされたパジャマを着こみ腕に抱える枕を持参して。

 

その数ヶ月後―――オラリオと極東を繋ぐ海の線路の上を走る鉄の乗り物によって極東産の輸入品がより多く運ばれるようになり、オラリオで極東出身の人々の姿が見かけるようになる。港街(メレン)に停泊する海列車を海を駆ける乗り物としてもその物珍しさに一目見たいが為、外国から訪れる人々は増加し港街は異様な賑やかさを醸し出した。

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