ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚6

『迷宮都市』オラリオは今日も晴天を迎える。蒼穹の彼方まで広がる青い空は

神や人類、モンスターを見下ろす。そして都市が賑わいを見せている。

待ちに臨んだ戦争遊戯(ウォーゲーム)当日。オラリオには尋常ではない熱気と興奮が溜め込まれていた。

 

朝早くから全ての酒場が店を開き、街の至る所で出店が路上に展開している。今日まで通りの壁を彩って来た無数の絵羊皮紙(ポスター)は悪乗りをした神々が散々周囲に喧伝(けんでん)した結果だ。絵の内容は【アポロン・ファミリア】の太陽のエンブレムと、【フレイヤ・ファミリア】の戦乙女の側面像(プロフィール)が描かれている。

 

今日ばかりは殆どの冒険者達が休業し、酒場に詰め寄せ観戦準備を整えている。何とか休暇を申し込んだ労働者達、一般市民も大通りや中央広場(セントラルパーク)に出て、今か今かとその時を来るのを待ちわびていた。

 

『第一回!チキチキ、戦争遊戯(ウォーゲーム)IN運動会を始めるぞぉ~っ!!!』

 

対してオラリオの外では数多くの者達が集っている。皆、観戦・待機場として設けられた巨大な赤と白の階段状の席にフレイヤとアポロンの味方となる派閥が座っていた。一番高い席には背凭れのある席がひとつだけあり、そこには当の女神と男神が皆のチームの代表、王として座っている。そして宣言する一誠は、二つの待機場の間に設けた木造の台座と大きな塊に覆う布と、亜麻色の髪と瞳の女性の隣で仁王立ちして運動会の進行役の務めを果たしている。

 

『運動会の実況と解説はこの俺、異世界から来た異邦人のイッセーだ、皆よろしく!そしてゲストはこの人』

 

『異世界から来た異邦人のアスナです。皆さん、よろしくお願いします!』

 

オラリオでも都市の外でも人々は色めき立つ。

 

『既にオラリオの観戦者達には俺の魔法で色んな場所にどんな角度からでも映像を配置、展開している。思う存分楽しんでほしい!』

 

『それよりもイッセー、私達が異邦人だってこと本当に教えちゃってもいいの?』

 

『ぶっちゃけ、この運動会で俺が色んな異常現象をしまくるからバレる。それにどっかの女神が異邦人や転生者のこと教えたからもう隠すのも面倒くさくなった。てなわけで此度の戦争遊戯(ウォーゲーム)を軽く説明をする!』

 

区切りを付けて、説明口調で一誠は語り続ける。

 

『運動会とは異邦人たる俺達や転生者達がいた世界―――神々からすれば違う世界、つまり異世界では当然のように行われている集団で競い合う催し(イベント)だ!競い合う方法は至って単純。日々ダンジョンや仕事で鍛えた体、身体能力のみ相手と勝負し勝敗を決める訳だが、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は今までの戦争遊戯(ウォーゲーム)とは一味も二味も違い過ぎる異例中の異例。それは―――神も戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加できることだ!』

 

なんせ身体能力で競うのだから、武器やら鎧やらそんな物騒な物を身に付けず面白可笑しく誰でも楽しめる。一誠の言葉に神々は大いに沸く。

 

『それでは、勝敗を決める方法を説明しよう。午前と午後とそれぞれ十一の試練―――競技を分けて行う。最終戦の午後までより今まで競技で勝利し得た点数が高い方が勝利となる』

 

勝利の内容を告げる一誠の口は止まらない。

 

『さて、今回の運動会は【フレイヤ・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の派閥同士の決闘が行われるのは説明しなくてもいいよな?そんな女神と男神の味方となる他派閥達の活躍によって勝敗が決まる。因みに両派閥の味方に成った派閥は神会(デナトゥス)に参加できる派閥のみ。さらに今回はあくまで身体能力で相手チームと競い合う。一部の競技を除いて武器や魔法、異能や特典などの行使は一切厳禁。もしもそれらと妨害や悪意ある行いもすればその派閥は強制失格、退場とさせ―――【イシュタル・ファミリア】の団長と参加できなかったアマゾネス達と二人っきりにするからそのつもりで』

 

どこからか「ゲゲゲゲッ」と不気味な声が聞こえてくるのは気のせいだとこの場にいる全員が心中一致した。

 

『と、前置きの話と警告を言ったところで皆に知らせることがもう一つある。【フレイヤ・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の決闘の他にも他の派閥同士がこの戦争遊戯(ウォーゲーム)に乗じて競い合おうとしている。フレイヤが勝つか、アポロンが勝つかで勝敗はその他派閥にも運命共同体として必然的に決まる』

 

そして一誠は最後にこう述べた。大きな布に掴みながら。

 

『最後に、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)IN運動会は初めて行うということで、最も優秀な功績を残した冒険者の【ファミリア】には―――一億の賞金を授与する。更に各競技で優秀な結果を残した一人の冒険者には頑張った賞で賞金十万ヴァリス!皆、頑張った賞と一億ヴァリスが欲しければやる気を見せてみろ!勝利と賞金の為に!』

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

取り払われ大きな塊の正体が積み上げられた、太陽の光で金色に輝くヴァリス。それを見て雄叫びの声を上げる両チームの冒険者と神々。

 

『汚れても良い服を着替えてきたかぁっ!?』

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

『全力で楽しむ心構えをしているかぁー!』

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

昂りに高まった高揚感を削ぐ真似はしない一誠はアスナと高らかに宣言した。

 

『『―――戦争遊戯(ウォーゲーム)、開始っ!』』

 

 

―――†―――†―――†―――

 

 

『まずは!Lv.1、2、3、神と言う順に徒競走をしてもらう!純粋な脚力で勝敗が全て決まる。足に自信がある神と冒険者達は気軽に参加していいぞ。参加人数は三十人だ。ただし各Lv.ごとの冒険者を十人ずつな?神も三十人。最初はLv.1の冒険者から。走る者は細く白いラインが描かれたランニングコースのところにいる、今回参加できず冒険者依頼(クエスト)で協力してもらっている冒険者達のところまで足を運んでくれ』

 

『定番な競技だね。走る距離は五十メートル走?』

 

『や、百メートル走だ』

 

因みに協力しているその冒険者は誰かと言えば・・・・・。

 

「Lv.1の冒険者は僕の元へ来てくれ」

 

「Lv.2の冒険者は儂のところに来るんじゃ」

 

「Lv.3の冒険者はこちらに来い」

 

「神はこちらであるぞ」

 

―――【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者であった。しかも最上級鍛冶師(マスター・スミス)までいる。参加する冒険者達はたじたじになった。

 

「って、うおぉーい!?何時の間にか見掛けへんと思ったら自分等イッセーに手伝わされとったんかい!」

 

立ち上がってツッコミを入れるロキ・・・・・赤の陣地、【アポロン・ファミリア】のチームにいる女神の叫びが眷族の三人の耳まで届く、が。

 

「すまない。魅力的な報酬を用意されたらね」

 

「今後の【ファミリア】の為を思えばの」

 

「故に今の私達は第一級冒険者や【ロキ・ファミリア】の幹部の者ではない」

 

「「「ただのアルバイトの者だ」」」

 

臨時アルバイトと共通語(コイネー)が書かれた腕章を見せつける古参の幹部の姿や紅髪紅眼の女神へ大きく手を振る隻眼の女性。

 

「主神様よ、手前の報酬は深層のドロップアイテムであるぞ!しっかりと働いて見せるから主神も頑張ってくれ!」

 

愕然と叫び何とも言えない心境となる主神達。他派閥の者からは有名な冒険者を捕まえて働かせる一誠に驚きを禁じ得なかった。

 

『あ、言い忘れてた。徒競走は男女別で走ってもらう。女性同士も走ってもらうからきがねなく参加してくれ』

 

八割男、二割女と圧倒的に運動会に可憐な花が少ない。参加している【イシュタル・ファミリア】ぐらいしか女冒険者を連れてきていない。他にいるとすれば女神達だろう。続々とフィン達の元へ集う徒競走をする者達。整列の準備ができれば、ギルド員の女性が空に向かって掲げた銃で始まりの合図として空砲を鳴らす。同時に駆け出す駆け出しの冒険者達。一番になった冒険者はチームに貢献し、優秀な功績を残した喜びを噛み締めた。Lv.1の競争が終わると実況の一誠がとあることを言いだす。

 

『ただいまのLv.1の冒険者が走った中で一位でありながら更に速くゴールをした者を発表する!―――アポロンチームの【ゴンザレス・ファミリア】のイディア!頑張った賞を授与する!』

 

えっ!?と目を見開き呆然とした表情を浮かべる冒険者へフィンが称賛の言葉と共に装飾と意匠が凝った金のメダルを渡しにやってきた。一番になっても一番の中で一番速く走った者こそが唯一の勝者であると悟って落ち込み、妬む駆け出しの冒険者達。因みにイディアの主神は「よくやったー!」と狂喜していた。

 

『続いてはLv.2の冒険者の徒競走!』

 

その中にアポロンチームとして参加している【ロキ・ファミリア】に所属しているフィリアが交ざっていた。

 

「派閥の為に勝利せねばなりませんが・・・・・」

 

しかし、何やら葛藤している様子だった。自分の番になると真剣な表情で駆け出し、二位を勝ち取った。続いてLv.3の徒競走では。

 

「ベートォッ!絶対に一位の一番になるんやでぇー!精一杯応援しとるからなぁー!」

 

「・・・・・うるせぇ」

 

頭上に獣耳、腰から尻尾を生やす獣人の少年が辟易した気持ちを声に出して呟き、順番が来ると駆け出した。そして堂々の一番の一位を勝ち取った。ロキの眷族にあんな獣人はいなかったはず、と新たな眷族で未来の幹部になり得るだろうと思いながらアイズの走りを見守った。・・・・・四位と言う結果を。これには不思議に思い、通信を入れた。

 

「どうした?何で四位なんだ?」

 

『あまり、やる気が出ない』

 

「やる気が出ない?」

 

『ロキがイッセーの味方じゃない方を選んだから』

 

あー、そういうことかぁ・・・・・。敵手となった自分(イッセー)を慕う少女達はアポロンに優勝させることに抵抗を感じているのだろう。何時も世話になっている相手に恩を仇で返すような真似をしているのではないかと不安も覚えているようだ。

 

「アイズ、今日ばかりは俺のこと気にせず頑張ってくれ。俺からのお願いだ」

 

『・・・・・気にせず?』

 

「運動会も真剣勝負をするものだ。俺のことを気にして負け続けるなら、そんなんじゃあお前の望みも叶えないぞ」

 

『・・・・・』

 

「わかったな?」

 

『・・・・・わかった』

 

渋々といった感じで受け入れたアイズ。どんな形でも勝負は勝敗で決する。今回の相手は人と神、武器は剣や防具、魔法では無く身体能力。何事も勝負とあれば勝つ気でなければいけない。アイズがそれを失くしていた。師としてそれはダメだと諭し、勝負に励んでもらうのであった。例えフレイヤが負けてアポロンにどんな命令を言ってくるのかわからなくてもだ。次は神の番。その時、二柱の神のやり取りがあった。

 

「・・・・・イザナギ」

 

「な、なんだ?」

 

「一位じゃなかったら、承知しない」

 

一柱の男神が着物の袖の中から女神に鈍色の何かを見せ付けられ顔が青ざめる。首が取れんばかりに頷いたあと、全力疾走で一位の一番をもぎ取った。何億年も逃走劇を繰り返した神達の嬉しくもない身に付いた身体能力の賜物であろう。

 

「ふぅ、走るのって慣れないわね(ヘファイストス、三位)」

 

「それでも速かったじゃない(アマテラス一位)」

 

「イザナミほどじゃないわよ。その着物姿に極東の履き物でよく速く走れるわね」

 

「頑張ったらご褒美をもらうことにしてあるから」

 

「・・・・・それ、本人から了承貰ってるの?」

 

「事前に」

 

何時の間にそんな約束を交わしていたのか、自分達より接触する機会が少ない分、知恵が回ったのだろうかとちょっぴり羨ましかったヘファイストスであった。程なくして第一回目の競技は終わりを迎え、結果が発表される。

 

『より多く一位を獲得したチームが徒競走の勝利だ』

 

『それじゃ今から発表します。・・・・・勝利したチームは、アポロンチームです!おめでとうごさいます!』

 

おおっー!と換気の雄叫びをあげるアポロンチーム。まだ始めたばかりだからとフレイヤチームは鳴りを潜めていた。

 

『初戦はアポロンチームか。これからも勝ち続けるかどうかは神でもわからないな』

 

『そうだね。勝負は予想外なことも起きるから次はどんな競技をするのか楽しみだよ』

 

『と、ゲストからの期待の言葉をもらったところで次行ってみようか、二回目の競技へ!』

 

虚空から発現した三対六枚の翼に輪後光の金色の錫杖を手にして床に突く。すると二人の目の前に集束した光から、十数本の大剣と巨大な樽が二つが出てきた。

 

『・・・・・?』

 

『・・・・・?』

 

『・・・・・?』

 

場はシン・・・・・と静まり返る。樽と大剣で何をするのか神と冒険者、観戦客の一同の頭上に疑問符が浮かんで理解できていない。その中で極一部、「あれってもしかして?」ととある異邦人と転生者が何となくであるが察した様子を窺わせる。

 

『・・・・・イッセー、あれって樽だよね?あれでどんな競技をするの?』

 

異邦人のアスナもどんな事するのかチンプンカンプンで問いの言葉を投げたら、四方形の立体映像が空中に投影されて皆の意識はそちらの方へ向きながら耳にする。

 

『説明しよう。まず神が樽の中に入って待機、その後は十数本の大剣を手にした敵の冒険者が樽に突き刺して神を飛ばす。それが第二の競技の内容でその名も「神さま危機一髪」!』

 

それ、○○危機一髪だろ。と言う心の突っ込みは一誠には聞こえない。

 

『因みに、大剣の刃は潰してあるから殺傷能力は無く、実際に神を貫くことは無いので安心してくれ。ただし飛ばされることが決定した神は罰ゲームを与える。これを三回行うから各チームから三人の神と十五人の冒険者を選んで樽のところに集まってくれ』

 

数分後―――。

 

「ガネーシャ登場!」

 

ガネーシャを始めモブ神が二名に対し、アポロンやモブ神が二名それぞれ十五人の冒険者を率いて集まった。

 

『集まったな。それじゃ、樽の中に入ってくれ』

 

勝手に扉の如く開く樽へ、ガネーシャとモブ神が中に入ると顔だけしか出ていない状態で扉が閉まり出す。そしてガシャッと樽の表面が横にスライドして大剣を突き刺すための溝が出てきた。

 

『フレイヤとアポロンチームの冒険者は敵の神のところへ移動し、大剣を持て』

 

ゾロゾロと入れ替わり樽の中にいる神を囲みながら大剣を手にした。

 

『では、こちらで合図をしますので合図が出る度に一人ずつ好きな穴に突き刺してください。ですが、選ぶ時間はたったの十秒です。その間に選んでくださいね』

 

アスナの後ろで組み立てた木の台の上に大きな太鼓を用意していた一誠がドドン!と勢いよくバチを振って叩いた。

 

『それでは一人目の冒険者の方、指す場所を選んでください!』

 

アスナの開始宣言と共に鳴りだす太鼓。叩かれて出る音のリズムに合わせて剣を持った冒険者は樽の周りを歩き、どこに刺そうか狙う。十秒後、一際大きく叩かれて鳴る音。

 

『十秒経ちました。刺してください!』

 

宣言を受けて大剣を樽に刺す冒険者達。刺されるガネーシャ達はビクッと緊張して身構えるが飛ばされる気配は何時まで経ってもこなかったので次の刺客の番に回る。二回目―――太鼓のリズムに合わせて刺す場所を定め、アスナが刺す促しの言葉を掛けた。その言葉に応じて刺す冒険者達だが、神達は飛ばなかった。続いて三回目、セーフ。四回目、五回目、六回目―――――。そして、七本目の大剣が樽に突き刺さった時であった。

 

「どわぁあああああああああああああああああっ!?」

 

樽から勢いよく放り出される形で空へと飛ばされた、アポロンチームの神に追撃とばかり樽から光の玉が飛び出して直撃するや否や爆発した。と言っても風船が破裂したような音を鳴らす程度だ。ぶつかった神の体に怪我は無い。が、煤に塗れたような黒い顔と髪が毬藻のように大きなアフロと化した。落ちてくる神に対してどこからともなく現れるフィンが乗ってきた魔法の絨毯で受け止めて地上に下ろす。

 

『最初に飛ばされたのはアポロンチームの神!勝者はフレイヤチームの神ガネーシャ!』

 

と、宣言する一誠に誰も応えなかった。皆、髪がアフロと化した髪に凝視している。神を飛ばした冒険者が笑いを堪え切れず噴いた。怪訝になる神は何故笑われるのだと疑問を抱くが、その理由を知った時の反応は・・・・・。

 

「な、なんじゃこりゃああああああああああっ!?」

 

『アッハッハッハッハッハッ!!!!!』

 

その反応を見て神だけじゃなく冒険者も大笑いを始めた。耳を澄ませばオラリオからも笑い声が聞こえてくる。

 

『罰ゲームって、アフロだったんだ・・・・・』

 

『単なる罰ゲームのつもりだったんだけど、意外とウケがいいな』

 

何も知らなかったアスナや実行した一誠はこの世界にアフロというヘアースタイルが無い事を知らない。

 

『ああ、それとそのアフロという髪型は運動会が終わるまでは取れないからそのつもりで』

 

「な、なんだってー!?」

 

そんなこんなで「神さま危機一髪」の競技は進行して魔法で樽を激しくシャッフルの後、二人目の神が樽の中に入り飛ばされれば、神がアフロと化する罰ゲームを受けながら滞りなくフレイヤチームの勝利で競技を終えた。

 

『フレイヤチームが一勝一敗、アポロンチームも一勝一敗と一進一退だね』

 

『まだまだ始まったばかりだ。どんどん色んな競技をしていくぞ。第三回目の競技を始める』

 

指を弾いたその音が会場に響く。一拍後、地面が揺れ出して冒険者達が眉を訝しげに曲げ、警戒心が強い犬のように周囲を見回し始める。この現象を地震というにはあまりにもお粗末な揺れは、彼等に不穏なものを覚えさせる。そして。二チームの観戦席の背後、地面が膨張したように盛り上がって何かが出てきた。神や冒険者達は目を見開く、自分達を覆う巨影に。

 

『次の競技は―――全員参加の騎馬戦IN旗取り合戦!』

 

『き、騎馬戦に旗取り合戦って・・・・・それ以前にあの建造物は?』

 

『土で作った城だ。てなわけでルールを説明しよう』

 

空中に投影される立体映像と共に説明口調で語り始める。

 

『まず騎馬戦とは、馬となる土台の三人が前に一人、後ろに二人が立つ。後ろの二人が左右の腕を交差し合って前騎馬の肩に手を乗せ、前騎馬から伸ばされる手を後騎馬の二人が残りの手と繋ぎ、騎手となる一人が交差した腕を跨り、前と後ろの騎馬が繋いだ手に足を乗せて立つ。以下の説明通りにすれば四人一組の人馬一体が完成する』

 

『最後に旗取り合戦。あの土で作られた城のどこかに旗がある。どちらか先にその旗を奪取できればチームの勝利だ。ただし騎手が相手にこれから配る鉢巻きを奪われた場合は即失格となり退場してもらう。なお、四人一組の騎馬が出来ない場合は数を合わせて三人一組、二人一組の騎馬を作ってもらう。その仕方も教えるので各自チームの冒険者と神は相談し合ってパーティを組んでくれ』

 

さらに付け加えられる。

 

『最後にもう一つ。騎馬からの攻撃や妨害は厳禁であるが、騎手が騎手に騎馬から落としたり取っ組み合いするのはアリだ。例えそれで陣形が崩れても組み直しても構わないがその邪魔をしてはならない、その瞬間を狙って鉢巻きを取るのも無しだ。もしもこれらを破れば、【イシュタル・ファミリア】のアマゾネス、フリュネ・ジャミールによって強制的に退場させられる』

 

忠告する一誠の言葉を受けて会場の場に現れるおかっぱ頭に褐色肌の肉塊の巨女。彼女を知る者、知らない者は揃って戦慄して恐れ戦く。

 

『説明は以上だ。アスナ、何か感想はあるか?』

 

『騎馬戦で旗取り合戦だなんて、凄い事を考えるねイッセー』

 

『運動会らしいだろ?それじゃ各チーム。三十分の間に誰と組むか、味方と戦法を相談したり城の中に入って調べたりしてくれ』

 

―――†―――†―――†―――

 

「ほー、広々としとるなぁ~」

 

三十分間の間に城の中を調べるロキ達は一階に足を踏み入れた。上階へ向かうための坂があるだけで他を見回しても不要な置物は一切無い。さらに上へ進むと一階と同じ広さの空間、三階も変わらないが中央に棒とそれに巻かれてる旗があった。

 

「ふむ、これは坂の前で待ち構えておるのが無難かもしれへんわ。アリシアはどう思うん?」

 

「見た感じですと、下から攻め込む騎手の鉢巻きを取ろうとするとどうしても前のめりになってしまい、引きずり込まれて騎馬から落とされかねないです。ならば無理に戦わず足止めをすれば下から攻め込む敵騎馬の攻勢を削ぐことが出来るはずです」

 

時間稼ぎが効率的な方法ではないか?とアリシア・フォレストライトの提案に考える仕草をするロキ達。

 

「でも、それは相手の城も同じじゃない?」

 

「相手の城も同じであればの話ですがね」

 

一方、フレイヤ達の方でも城の中を下調べしていた。そしてどういう作戦でいこうかと話をする前に。

 

「フレイヤが相手の子供達を魅了すれば早い話し」

 

「誰彼構わずなんて、はしたない真似はしたくないわ」

 

「でも、イッセーを取られちゃうよ?」

 

「取られるなら、私から奪う者を蹂躙してから奪い返せばいいわ」

 

「はしたないよりも物騒じゃないかしら・・・・・」

 

結局はフレイヤを城の中にある旗の傍に放置させることになった。銀髪の美の女神の前して魅了されない男神や男性冒険者はほぼいないのだから。

 

それから三十分後・・・・・。

 

『そろそろ時間です。フレイヤチームとアポロンチーム、準備はいいかな?』

 

両陣営の冒険者や神が騎馬の上に立ち頭に鉢巻きを縛っている状態で対峙している。軽く三十は越えている集団での勝負にオラリオで観戦している者達は始まりの時まで今か今かと静観を保ち続けた。両チームの騎手の頭に赤と白の鉢巻きを巻いていて一触即発の気配を場に醸し出し、お互い睨み合っている。緊張感も漂っている中でそれを引き裂くのが―――。

 

『それでは、第三回目の競技、騎馬戦IN旗取り合戦―――開始です!』

 

ゴォオオオオオオオオオオオオンッ!

 

三十分の間に用意していた巨大な銅鑼を叩いて鳴り響かせる一誠。鈍重に轟く音が一気に両チームの戦意と高揚を昂らせ、騎馬は地面を強く蹴って馬の如く駆け出しお互い敵へ突っ込んでいく。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!』

 

冒険者が、神が、武器や魔法では無く体一つで勝負を臨み、相手と衝突するまでの時間はそう掛らなかった。

 

「その鉢巻きよこせぇー!」

 

「いけいけいけぇー!」

 

「城の旗を狙えッ!」

 

雄叫びを上げ、騎手同士が取っ組み合いを始めた。直接城へ目指そうとする騎馬もいれば、それを阻む騎馬もいる。場は瞬く間に阿鼻叫喚とまではいかなくても歴とした戦場と化した。飛び交う怒号の中、鉢巻きを取られた一組は落胆しながら戦場から離脱する光景が繰り返す時に城の前で静観していた三柱の神とその眷族が静かに動き出した。

 

「うん?おわっ!」

 

高速で駆け抜ける無数の騎馬に騎馬が足を停める。あまりにも速く動く騎馬に目を丸くしていると、凄い勢いで突っ込んでくるもう騎馬達が続くように駆けて来ては、続々と戦場を馬のように高速で動く騎馬達に敵も味方も驚愕する。

 

「走り続けるのだっ!」

 

「私達はただそれだけでいい」

 

「皆、頑張って」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

戦場を高速で駆け抜ける者達は、アマテラスとイザナギにイザナミが率いる眷族達であった。全員、第3級冒険者のみで構成された上に―――二年前まで戦争をしていた兵士達だ。下手な第3級の、Lv.3の冒険者にも劣らず入り乱れた密集状態の中で戦い抜けてきた猛者達でもある。世界で唯一存在するダンジョンで強くなる冒険者に対して、モンスターよりも対人戦に長けて抜きんでいる彼等にとっては停まって見えるも当然だ。

 

「くそっ、何て足の速いやつらなんだ!?」

 

「まるで追いつけれねぇっ!」

 

当たり前だ、当然だろうとアマテラス達や極東の神々の眷族達は胸を張って言える。飽きるほど足並みを揃えて戦争をしに歩いたり走ったりしてきたのだ。仲間との速度や動きを合わせることなど造作もない。故に集団行動に関しては極東から来た【ファミリア】等が秀でている。だからこそ敵の動きを制し、撹乱や意識を集めていると。

 

「今だ、足が浮いた敵に掛れぇっー!」

 

「超・有能がガネーシャの子供も突撃だぁっ!」

 

他の騎馬達が猛烈な勢いの攻めに転じた。士気の高さも若干フレイヤチームの方が高い。アポロンチームの騎馬へ雪崩れ込む勢いを見せる攻勢に観戦者達は驚嘆の息を漏らす。取っ組み合いをしている騎馬がいたら味方の騎馬が横から襲いかかろうと接近するところを敵の味方がそれを阻止、あるいは奇襲して鉢巻きを奪う。一気に戦場は激しい抗争と五月蠅いほどの喧騒を醸し出す。燃え盛る烈火の炎呑み込まれ、このまま押し切られて城にまで攻め入れられるかと予想はされたが、戦場では予想外な出来事は良く起きる。

 

「いけぇい、ベートッ!」

 

一人の狼人(ウェアウルフ)の背に負ぶさっている女神が戦況を打破せんと疾呼した。たった一人だけ騎馬よりも速く動き城の中へと駆けていくアポロンチームの姿にフレイヤチームの騎馬は止めようとするが殆ど一人で走っているような相手に追いつけるはずもなく城の侵入を許してしまった。しかし、それを相手が想定していないはずがない。城の中はアポロンチームの城と同じ構造で出来上がっているが、上階へ続く坂に五組の騎馬が配置されていた。

 

「チッ、おいどーするんだ」

 

「無視していけれへん?」

 

「あの狭い中をどうやっていけっつーんだよ」

 

人が三列に並んで通れるほどの通路の坂をギッチリと詰めて守りを固めている。高さも騎手の頭とギリギリ届きそうで届かない程だ。そんな密集形態で道を塞ぐ相手にどう行くか考えている内に外から敵が入って来て取り囲まれる。四面楚歌の状態となった様子をロキは見渡し、逃げ場を探す。

 

「・・・・・ふむ、ベート。ちょーっとして欲しい事があるんやけど」

 

「あ?」

 

獣耳に口を寄せて話すその内容に、少年の目は怪訝になった。

 

「おい、そんなことしていいのかよ」

 

「多分、問題ないはずや。それよか、それをできるかどうかベート次第やで。自分、負けるんのは嫌いやろ?」

 

少年のピクッと目元が震えた。相手を刺激する言葉を送る主神の神意を読めない、読む気もしない狼人(ウェアウルフ)は無言で『天井』を見上げた。その仕草に周囲の騎馬と騎手達は訝しむが、逃げ場もないこの状況下で何もできることなどあるはずがない。そう断言して全員で襲いかかった次の瞬間。腰を落として脚に力を貯め込み―――跳躍した彼の獣人に「は?」目を点にした騎手達。上は天井しかない。ぶつかって落ちるだけだと思った考えが粉砕された。

 

「オラアアアアアアアアアアッ!」

 

雄叫びと共に片足を振り上げて放った蹴りが天井をブチ破り、二階へ移動する破天荒な行動をして見せた狼人(ウェアウルフ)に城の中も見ていた一誠とアスナは素で素っ頓狂に声を上げた。

 

『イ、イッセー、あれって、アリなの?』

 

『・・・・・普通あんな行動は騎馬がするようなもんじゃないぞ』

 

『それじゃ・・・・・失格?』

 

『いや、攻撃した対象は天井。穴を開けて移動したに過ぎないから失格じゃない』

 

と、言う話を聞きしてやったりと笑みを浮かべるロキの狡猾と狡賢さに『やってくれた』と一誠を呆れさせた。下から天井=床を破って上がってきた二人を迎える者は二階の空間に誰もいなかった。厳密には一階から二階へ続いている連絡路の坂に五組の騎馬がいる。が、破天荒な行動をした二人に未だ唖然としているのか、直ぐに追い掛けずにいて悠々と三階に繋ぐ坂に上り切ったロキ達を出迎えたのは・・・・・。

 

「あら、騒がしいと思ったらロキ達だったのね?」

 

城の外の戦場にいなかった城の王ことフレイヤと女神の眷族達、数組の騎馬が待ち構えていた。ただし、旗の傍にいるフレイヤ自身は四つん這いになってる一人の眷族の背中に臀部を乗せて優雅に座っていた。どこぞのSMプレイの女王様かとロキが異世界の知識を持っていたら突っ込んでいただろう。

 

「おい、自分。イッセーの話を聞いとらんかったんか。なんで騎馬を組んで待っとらんのかい」

 

「だって、ずっとしていたら疲れちゃうんだもの」

 

「うぉい!イッセー、聞こえておるか見ておるんやったら注意せい!」

 

競技が始まってからずっと騎馬を組んでいなかった事実を悟った。ルールに反するのではないかと虚空に向かって叫ぶロキの前に小さな魔方陣が出現した。

 

『言われずとも何度も注意していたよ。ちゃんと騎馬を組んでいなきゃ失格にするって』

 

「で?」

 

『旗を取るなら取れ。それが答えだ』

 

ガクリと頭を垂らす。始めっからこの競技に参加していなかった【フレイヤ・ファミリア】にロキは心底呆れ果てた。皆、彼女の手の平に勝手に踊っているだけに過ぎなかったことを突き付けられてすっかり無気力になった、そんな彼女に一誠は一言補足する。

 

『だけどロキ』

 

「あん?」

 

『―――フレイヤを騎手とした騎馬は失格だが、他の連中は失格にしてないからな?』

 

ザッ、とフレイヤ達の騎馬を除いた他の騎馬達が揃って旗を守らんとする動きを見せてキョトンとした顔をする。

 

「ど、どういうことなんや?色ボケ女神が失格なら眷族も軒並みに失格にならへんのか?」

 

『それは思い違いというやつだロキ。騎馬戦は集団戦でありながら個の戦いだ。フレイヤの騎馬は失格だけど同眷族の騎馬まで失格扱いにはならない。もしもロキの考え通りになるなら、わざわざ城の旗を取れなんて勝利条件にしていない』

 

それだとロキの鉢巻きが奪われたらお前の眷族も軒並みに失格になるぞ?と説明をされて顔の表情が凍りついたように固まるロキ。下から上がってきた騎馬にも囲まれながらも半ば唖然としていた。

 

『俺は言ったぞ?旗を取るなら取れって。未だ競技は終わっていないんだから最後まで頑張れ』

 

「ふふふ・・・・・ロキ、貴方はイッセーの考えを読んでも気付いてもいなかったようね?」

 

それはお前もそうだろうと、魔方陣から突っ込みを入れられてもどこ吹く風の如く。単独で孤立無援な状況の中で自滅したロキの後、三柱の極東の神が戦場を掻き乱し、犠牲を出しながらも多くの相手を地に落として城に攻め込み、旗を強奪したことでフレイヤチームの勝利となった。

 

フレイヤチーム二勝一敗アポロンチーム一勝二敗

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