ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚7

『さぁさぁ、各チームから熱気が高まってきたところで次の競技もしてみようか。第四回目の競技は―――棒倒し!』

 

『棒倒しってなに?』

 

『あれ、アスナはしたことがない?』

 

『うん、運動会でも競技になかったよ?』

 

『ならば説明しよう。棒倒しとは、名前の通り棒を倒すだけの競技だ。ただし棒を支えるのは人であり棒を倒すのも人でなければならない。故に相手の棒を倒すには妨害されることは必須で戦略も必要になる。それと棒を倒しに行く際、相手の妨害をしたりされたりする際、素手喧嘩(ステゴロ)は厳禁だ。相手の体を掴んで地面に抑えたり棒から引き離すだけの行為に徹底すること。不可抗力でも駄目だ。それらが発覚したら【イシュタル・ファミリア】の第一級冒険者が取り押さえに行かせるから気を付けるんだぞ』

 

ということで棒倒しは冒険者のみで行い、各Lv.ごと分けて進行するぞ。ガレスさん、棒を持ってきてくれー!と司会も担う一誠の声を聞き付けたドワーフの戦士は、それなりに太い丸太を二本も肩に担いで現れる。フレイヤチームとアポロンチームの客席の前に置くと来た道に戻っていなくなった。

 

『それでは、最初はLv.1の冒険者達は丸太のところへ集まって五分間作戦を考えてくれ』

 

その促しに駆け出しの冒険者達が降りてくる。そして丸太を立ててどうやって防ぐかどうやって攻めに行くか、同派閥の冒険者や他派閥の冒険者同士で話を交わすうちに時間となり、試合の開始の銅鑼が鳴らされた。

 

『少人数だけ棒の守備として残して、他の人達は棒を倒しに行く。棒倒しってこんな感じなの?』

 

『基本的にはな。後、見ての通りどうしても人数の差が出て相手より少ない中でどう攻めていくかも決め手にもなる』

 

絶えない喧騒の最中で少なくない数の冒険者達が取っ組み合いを始め、相手の棒を倒さんという鬼気迫る勢いで走り続けるがどちらも激しい攻防を繰り広げる光景を窺わせる。

 

『棒倒しって試合というより何だか戦場だね』

 

『そうだな』

 

武器を持たせたら何の躊躇もなく相手を傷付けるために振るっていただろう。だが、運動会は宙に舞う血を見ることのない健全な試合と勝負をするものだ。それがオラリオ、ひいては世界にも知るだろう。冒険者同士がする闘争では無いのにと闘争らしい勝負があると。

 

『あ、アポロンチームの棒に取り付いた!』

 

『おー、存外早かったな。だが、一人でどうこうできるはずもない』

 

棒を支えていた守備の冒険者が棒に取り付く相手の体を引きずり落として引き離した。そしてすぐさま数人に取り押さえられて身動きが取れなくなる。何時しかフレイヤチームの冒険者の大半が地面に押さえつけられてしまい、棒を守備している冒険者を残しアポロンチームの攻勢の勢いは止まらず―――フレイヤチームの守備の者をたった一人にして、何かに弾かれた風に他の守備の者は攻勢と出て迫りだした。アポロンチームの冒険者の手をかわしつつ仲間を抑えつけてる敵を弾き飛ばしながら棒へと迫り今度は片手では数え切れない人数で取り付いた。それからすぐに勝敗は決した。

 

『第一回戦はフレイヤチームの勝利!』

 

『一発逆転、形勢逆転をしたか。だが、まだもう二戦ある。このままフレイヤチームが勝てばアポロンチームは敗北する。逆に粘り強くフレイヤチームから勝利をもぎ取れば三回戦で決着がつく。さてはて、どちらに勝利の女神―――勝利の運命に導かれるだろうか?』

 

続けて第二戦が始まり最初の試合で見た流れを学んだ上級冒険者達は無鉄砲に動くのではなく、連携も組み入れた動きをして棒を押し倒した。フレイヤチームの棒を。一勝一敗の戦果となり、三回目の勝負をすることになった。Lv.3である冒険者達の戦いは圧巻であった。今までの棒倒しをしていた冒険者など児戯に等しいぐらい猛火を纏って激しい競い合いを繰り広げた。

 

『す、凄い・・・・・』

 

『まぁ、Lv.3の冒険者はあれくらいは当然だろうな。もしもLv.4や5の冒険者もこの競技をしたら・・・・・殺し合いの一歩手前まで発展していそうだわ』

 

『は、ははは・・・・・』

 

楽しい運動会が殺し合いをしているんじゃないかって程の圧倒と凄烈を見ることになるなど誰が思うか。もしかして一誠はそれを見越してできるだけLv.が低い方に選んだのかもしれない。二チームの壮絶な戦いは予想以上に時間は掛らずアポロンチームの勝利となった。フレイヤチーム二勝二敗 アポロンチーム二勝二敗

 

『あの狼人(ウェアウルフ)、何かと目立っているな。えーと、【ロキ・ファミリア】のベート・ローガ。最近【ヴィーザル・ファミリア】から改宗(コンバージョン)をした獣人か。個人的にはあの尻尾を触ってモフモフしたいやつだな』

 

目を妖しく輝かせる一誠にロックオンされた獣人は身の毛がよだつような感覚を覚えた。

 

『え、えっとするなら程々にね?』

 

『大丈夫、うちにもそれができるからそっちでするよ。てなわけで次の競技を行ってみようか!』

 

一誠が指を弾いたその音に呼応して、巨大で長大な注連縄が遥か上空から降って地面に落ちてきた。

 

『次は純粋な(パワー)勝負!総力戦で縄を引っ張ってもらう!その競技の名は綱引き!』

 

『うわー、定番の競技が出たね。何だか懐かしいと思う自分がいるよ』

 

『それだけ俺達はこの世界に居たって事さ。さて、それじゃ全員縄に集合だ。そして俺が出す合図まで跪いて縄を掴んでいてくれ』

 

客席から全員が降り縄の方へと近づき、中心の部分だけ間を空けて対峙する両チームの冒険者。その瞬間、空気が異様な緊張感で張り詰めた。合図が出るまで睨み合いのような感じが続き静寂の戦場の中で静かに構えていた銅鑼を鳴らすためのバチを大きく振り被って―――勢いよく盛大に叩きだした。

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』』

 

雄叫びをあげながら縄を持つ手を強く握り締めながら立ち上がり、相手を引きずらんと引っ張り始める。奥歯を噛み締め腰を低く落とし足を地面に縫うように踏みしめ、全身に力と血管が浮かび上がるほど腕を酷使する。どちらかが勝利を引っ張られるか?それとも縄が先に引き千切れるか?観戦者の市民や参加できなかった神や冒険者は手汗を握る思いで綱引きの結果を注視し見守り続けること一分、三分、五分も時間が過ぎて行った。何時まで引っ張り合うんだ?期待感を胸に膨らませていた気持ちにじれったさを覚えた頃―――縄と共にフレイヤチームが引っ張られ始めた。焦燥を覚えたフレイヤチームは縄を引っ張り返し引き戻すに対し、アポロンチームが更に引き戻した勢いのまま後ろへ下がっていく光景が視界に映り込み、誰が見ようとこの結果は明らかになった。

 

『第五回目の競技の勝者はアポロンチームです!これでフレイヤチームは二勝三敗、アポロンチームは三勝二敗です!』

 

『お疲れ様!さぁ続いて午前の部、最後の競技を行う―――その前にちょっとトイレ』

 

『え?あ、うん、いってらっしゃい』

 

席を外す男が一分弱で錫杖を持ちながら戻ってきた。皆が客席に戻ったのを見計らい、金色の錫杖を床に小突くその直後。運動会にオラリオの市壁と同じ高さの壁が地面から現れた。壁の中の出入り口として口を大きく開けているガネーシャ象がある他、壁の中にはバベルの塔を彷彿させる塔の建造物が聳え立っていた。

 

『第六回目の競技は―――時間制限ありの迷宮脱走だ!』

 

『え、それって運動会と関係があるの?』

 

『いや?全く関係ない。ただし、あの壁の中には様々な仕掛けを施してある中で勝利条件として迷宮から脱走してもらう』

 

『今度の競技は何だか普通だけど、普通の迷宮じゃないんだよね?』

 

『それはこれからあの迷宮の中に入る―――神々に実証してもらうことで分かるさアスナ。それじゃ、全ての神々はあのガネーシャの口の中に入ってくれ』

 

フレイヤチームとアポロンチームの神々はどこか神妙な顔つきでガネーシャの口の中へ入っていく。暗い中を進む距離は直ぐ石造りの空間の中に足を踏み入れた男神と女神達。下へ続く階段のみしかなく、必然的に階下へ降りる足を運ぶのだった。石造りで石柱と一体化している螺旋階段を降り続けていく最中に一誠の声がどこからともなく聞こえてくる。

 

『神々の行動は全て映像に映し出されている。迷宮から一人でも脱出しない限りは終わらないので頑張って脱出口を探してくれ。その間、脱出の糸口となる宝や自他の行動を妨害する(トラップ)や道具がある。それを駆使して先に脱出した神が勝者だ。なお、塔から出るための入り口は複数あり各自好きな入り口から出て迷宮に挑んでくれ』

 

「なぁ、味方同士で組んでもええんか?」

 

『構わない。そして時間以内に迷宮から脱出してもらうその時間は三十分だ』

 

長い階段を折り続けて行くうちに外から漏れる光の出入り口が十以上あるホールに辿り着いた。その頃には一誠の声が途絶える。神々達はそれぞれ好きな出入り口へ足を向けて歩き外へと出て迷宮に挑むのだった。

 

『さぁさぁ今神々が塔から出てきた。それぞれ違う方角へ進むこの迷宮には、さっきも言ったけど様々な仕掛けがある。果たしてどの神が先に脱出できるか―――ここで選抜して賭けてみようか!もしも最初に出てきた神を賭けていた冒険者には賞金十万ヴァリスを与えるぞ!敵も味方も関係なく神を選んで賞金を狙え冒険者達!』

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

盛り上がる冒険者達に一柱ずつ神の名を挙げて選んでもらい、アスナが記入する。そうしている間に迷宮内では早速動きがあった。

 

「お、あんなところに宝箱があるじゃないか」

 

とある一柱の神が赤と黄色の箱を見つけた。脱出の糸口になる箱かもしれないと近づき、鍵が掛ってないことを知るや否や開け放つ。箱の中身を覗く目は瞬きをした。

 

「巻物?」

 

綺麗な紙で巻かれたそれを手にし、それを掴み取って―――巻き者と繋がっていた紐を引っ張った途端。真上から銀のタライが落ちて来て神の頭と直撃した。「あだっ!?」と地味に感じる痛覚に悶える神の姿は、オラリオに残っている神々を爆笑させた。

 

『タ、タライって・・・・・』

 

『あれはまだ児戯に等しい。まだまだこれからだよ(トラップ)の真価は』

 

何とも言えない女性の隣で悪戯小僧の笑みを浮かべる男のみが知っている(トラップ)の数々は・・・・・神々の腹をねじれ切れそうなほど笑わせるのであった。

 

とある神は罠に引っ掛かり突然問題を出されて答えられず、壁からパイが飛び出て来て顔面にぶつけられた。

 

とある神は先に大きな宝箱を見つけた神を押し退けて先に開け放つと、飛び出て来た数人の漢女の男娼に捕らえられ引きずり込まれてアーーーッ!?

 

とある神はお仕置きのカードを見つけて発動してしまい、顔すら覆う全身黒いタイツの者達に抑えつけられ電気あんまの刑を処された。

 

とある神は黒い箱を見つけて開けようとしたが、嫌な予感でもしたのか開けずに踵を返そうとしたものの「何で開けないんだよ!」と怒りながら箱が一人で神に噛みついた。

 

とある神は箱からアヒルの着ぐるみを見つけて反応に困っていたら、全身黒いタイツ姿の者達に強制的で着せられてそのまま脱出を臨まされる(股間にもアヒルの首がある着ぐるみで)。

 

『か、神様がどんどん災難に・・・・・』

 

『その分、オラリオの中にいる神々も大爆笑』

 

同情の眼差しを送る彼女の隣で嬉々として笑む男がいた。さらに神々に災難な罠に襲われて被害が続出する中で一柱の神も箱を見つけた。恐る恐ると開けてみれば・・・・・大量の食べ物があった。

 

「パイ?なんでこの中にあるんだ?」

 

林檎をふんだんに使ったパイの山に怪訝で小首を傾げる。同時の一柱の女神も中型の箱を見つけて開けてみた。

 

「・・・・・」

 

―――九つの尾と獣耳を生やす小さな子供と目が合った

 

「・・・・・イッセー?」

 

見つけた女神、アマテラスが心底不思議そうな目付きで子供を見つめる。どうしてこの中にいるのか分からないが箱から出して抱えてみようとしたが、ぴょんと箱から飛び出して彼女から離れていく子供にどうしようかと悩んで出した結論は、追いかけることにした。

 

『え?イッセー?え、じゃあ、こっちにいるイッセーは?』

 

迷宮内にいる子供を知っている者からすれば疑問が浮かぶことであるが、当の本人は何も語らず静観の姿勢を崩さない。

尻尾を揺らしながら走る子供は追いかける女神の速力に合わせて走り続け、とある行き止まりで一部だけ白い壁を何の躊躇もなくすり抜けて行った。ぎょっと目を丸くする彼女は足を止め恐る恐る白い壁に手を添えると、表面が水の波紋のように生じ、手が壁の中に沈んでいく。まさかと思ってそのまま進むと別の通路へ出られた。振り返って白い壁をもう一度触れればまださっきの通路へ戻れることがわかり、察した。

 

「(この白い壁が他にあるとすれば脱出の糸口になるかも)」

 

子狐の姿はもう見当たらない。この壁の存在を教える役割をしていたのかもしれない。まさに幸運だ。女神は白い壁を探し始める。

その一方、橙黄色の神と瞳の男神も宝箱を見つけ何が入っているかなーと開けると濡羽色の獣耳と長髪、赤眼に黒い獣の尻尾を生やしている狐人(ルナール)の少女と目線が合った。

 

「おや?君は一体?」

 

「ほいこれ」

 

「え?」

 

「ウチを見つけた神様にコレを渡すよう旦那様に言われとるんよ」

 

何かの断片的な地図を手渡されキョトンとする男神の横を通り過ぎ、「ほな、頑張ってやー」と言葉を残してどこかへ行ってしまった。最初から最後までわけがわかないままになってしまったが、この迷宮の地図らしきものを受け取ったからには有効的に活用しない手は無い。半分しか描かれていないということはもう半分の地図、それを持っている者が箱の中にいるのだろう。ヘルメスはそう確信し箱を探す精を出し始めた。

 

「・・・・・」

 

褐色肌の全身に金銀の装飾品を身に付ける美の女神は箱の中にいた金色の長髪に翠の瞳の狐人(ルナール)と見つめていた。まだ幼いもその美貌と、ありふれた種族の中で希少な魔法種族(マジックユーザー)に一片の興味を持った。

 

「お前、どこの【ファミリア】のものだ?」

 

「わ、私はイッセー様にと、嫁いでいる身です。神様の眷族になっておりません」

 

思いっきり舌打ちした。あの男の関係者とあらばこの少女に手を出した事がバレた時、自分の身がどうなるか分かったものではない。既に自滅の経験をしたからには余計なことはせず大人しくするのが最善だ。

 

「あ、あの、これを・・・・・」

 

おずおずと半分しか描かれてない地図を手渡され、渡した獣人の少女は箱から出て女神にぺこりと頭を下げどこかへと行っていなくなった。

 

「・・・・・地図か」

 

ならば、もう一枚の地図を探す必要がある。仮に既に持っていた相手が男神であれば奪い取るまでだ。褐色肌の美の女神は踵を返して男神や地図を探し始める―――。

 

「おや、イシュタルじゃないか」

 

―――旅人用の軽装服を身に包む男神とばったり出会い、その男神が女神の手にある地図を一瞥した瞬間を見逃さない。内心ほくそ笑み、女神は問答無用で・・・・・。

 

「イシュタル、君が持っているそれって」

 

「来い」

 

「え?イシュタル?ちょ、オレをどこに連れて―――」

 

その後、アーーーーーーーッ!?と男神の悲鳴が聞こえた。そんな悲鳴から直ぐ、女神が二枚の地図を手にしていてそれを合わせると―――迷宮の脱出口がある道標(ルート)を把握したのだった。それから彼女の行動は真っ直ぐ脱出口へ向かう。その場所はあろうことか塔であった。

 

そして―――出口を見つけた女神イシュタルは堂々と迷宮から抜け出したのであった。

 

『アポロンチームの美の女神、イシュタル様が脱出ー!』

 

『これでフレイヤチームは二勝四敗、アポロンチームは四勝二敗と勝敗の差がちょっとだけ離されていますがまだまだ午後の部がありますので頑張って優勝を目指してください!』

 

『それじゃ、午前の部の競技はこれにて終了!午後の部は一時間後に行う。それまで休息したり昼食を摂ったりして自由にしていてくれ。話しは以上、一時解散!』

 

フレイヤチームとアポロンチームの各【ファミリア】はオラリオの中に戻る。一誠達も昼食を摂る為に『幽玄の白天城』へ戻りに向かった。

 

―――†―――†―――†―――

 

あっという間に一時間後。

 

『英気を養った【ファミリア】等が戻ってきたところで運動会も午後の部、終盤戦に入ります!』

 

『今のところアポロンチームが優勢だが、フレイヤチームがこのまま負け越しになるとは思えないな』

 

『そうだね。どっちもやる気がみなぎっている感じがするよ』

 

『なら、その活力を競技で発揮してもらおうか。これを使ってな』

 

席の後ろから長い棒を取り出した。その棒でどんな競技をするのだろうかと不思議、気になる一同に説明する。

 

『この棒で相手を叩き落とし、最後まで生き残ったチームが勝利だ』

 

神々しい光を放つ錫杖を地面に突き立てた。運動会の会場が一気に水で溢れだし、同時に隆起する地面が八角形に形作りつつ四百Mのステージと化す。さらにステージの中に枝分かれした足場が水中から浮上して完成した。

 

『今度は冒険者全員で争っててもらう!尚、水中に叩き落とすのはあくまでもこの棒だけだ。そして制限時間は三十分までと他にも様々な仕掛けもあり用意もするが、手足や素手喧嘩(ステゴロ)、魔法をした者には失格とペナルティを与えるからそのつもりで。さらに叩き落とされた者は三回まで復活を許し、落とされた者がステージに上がる瞬間を狙ってもいけない!水上戦のルールは以上だがゲストのアスナさん、何か質問はあるか?』

 

『三回まで落ちてもいいってさ、私達から落ちた人の回数がわからないんじゃ?』

 

『あの水に一回落ちたら全身が青色に染まり、二回目に落ちたら黄色、三回も落ちたら赤色に染まるようにしてある』

 

『・・・・・まるで信号機だよ。だけど、そんなに汚れたら洗い落とすのが大変じゃない?』

 

『水をぶっかければ落ちるぞ?』

 

『・・・・・時々、イッセーって凄過ぎて何とも言えない時があるわ』

 

神妙な顔つきで言うアスナの言葉に一誠を知る神や冒険者達は、同感だと首を揃えて縦に振って頷いたのであった。

 

『因みに、乾かす時ってどうやるの?』

 

『俺の魔法でだ。と、そういうことだから冒険者達全員、武器となる棒はアルバイトのフィン達から受け取ってステージに上がってくれ』

 

大量の棒を積んだ台車を引っ張って持ってくるフィン達。意気揚々と冒険者達は客席から降りてステージに向かい、棒を受け取りながら土の階段を上りそれぞれの陣地に移動して待機する。

 

『それじゃ準備が整い次第始めるぞ』

 

『皆さーん頑張ってください!』

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!アスナさーんッ!』

 

『・・・・・アスナの声援でやる気がヒートアップしたな。今の大半は「異世界食堂」の常連客で独身だと断言できるぞ』

 

『ア、アハハハ・・・・・・』

 

言われてみれば顔馴染みの客がステージに何人もいて、変な気を起こさないよう気を付けようと思ったアスナであった。いざ競技が始まるとフレイヤチームの大半の男性冒険者が火の玉如く雄叫びをあげながら駆けて、豪快に振るって相手を足場から落としてみせたのだった。最初に落ちた冒険者達の全身は青く染まってた。一回目だという証が本人で示すその姿に神々は爆笑する。

 

『さてさて始まった水上戦!八角形の水上に木の枝のように分かれている足場の上で、冒険者同士が棒のみで水へ落とす競技!うーん、俺もしたくなるほど大盛り上がりしているなー』

 

『そういえば、イッセーって参加しないの?』

 

『無論したいさ。だけど、誰が競技の準備をするんだって話になってしまうんだよ』

 

『あ、そうだったね』

 

一回落ちた人はまた落ちて二回目の証として黄色く染まる。両チームの冒険者が何時しか青かったり黄色かったりする姿が増えていく。そろそろ頃合いかと一誠が錫杖を振るった。

 

『仕掛けを用意する!まずはこいつだ!』

 

八角形ステージの内の四角形の部分の足場に開く穴が四つ。その穴の中から巨大な鉄製の大筒、大砲と砲台の傍に四つの手回し車が現れる。

 

『手で回す装置を使えば大筒に水が送られ、最大にまで溜めたら一気に相手チームに放射する仕掛けだ。大筒本体も向きの調整を変えることができ、当てることが出来たら落とした証の色に染まるぞ!』

 

ザワッ!と冒険者達からどよめきが生じたのは一瞬だった。眼の色を変えて砲台に群がって手回し車を回し始めると、砲身から砲口に水の塊が集まり出してはどんどん大きくなっていく。その光景を見た冒険者達の気持ちが昂り、巻き添えは食らいたくないと逃げ惑うか、相手の砲撃を邪魔しようと砲台に向かって敵を水へ叩き落としていく。そして最初に水の砲弾を溜めたのがアポロンチームだった。

 

「撃てぇっ!」

 

ボンッ!と大きな水の塊が放たれ、弧を描いてフレイヤチームの冒険者が一ヶ所になって集まっている砲弾へ向かった。直撃は避けたいと遠ざかるフレイヤチームの冒険者だが。

 

「相殺しろっ!」

 

「おうよ!」

 

一歩遅れながらもフレイヤチームの砲台からも水の塊を撃ち出して、飛んでくる水の塊にぶつけて相殺する。こんな使い方もあるのかと驚嘆する者は少なくなかった。再装填とばかり手回し車を動かす冒険者達。その間にも砲台や相手チームの冒険者に殺到する冒険者同士。飛び交う水の塊に直撃するかギリギリかわしたり、味方や敵を盾代わりにするなど苛烈を極まる勝負となってきた。因みに、三回も落ちて全身が赤く染まった冒険者は一誠の指示で水の中で移動し、外へと出れる階段を上って離れる際、アルバイトのフィン達から水をぶっかけられて真っ赤だった全身の汚れを落としてもらい、一誠の魔法で服をあっという間に乾かす。それを繰り返す回数がどんどん増え続けてから十数分後、ステージの中にいる二チームの冒険者達の数が疎らになってきた。

 

『それじゃ、第二の仕掛けも発動するかな』

 

パチンと指を弾く音が小気味に鳴った時、水がうねり始めたかと思えば渦を巻き始め出した。これはどういう意味なのだろうかと疑問符を浮かべていた残存している冒険者達へ声が飛んできた。

 

『時間制限、もしくは相手の全滅まで水中に落とされ渦巻きに巻き込まれた冒険者は即失格とする。落とされないよう相手を落とし続けろ』

 

その言葉を聞き、ワッと奮闘する冒険者。殆どステージに残っているのはLv.3の冒険者達。第二級冒険者としての戦いぶりを見せつけその後アポロンチームの勝利として決着がついた。

 

『フレイヤチーム二勝五敗、アポロンチーム五勝二敗。あと競技が四つも残っているからフレイヤチームは次の競技から一度も負けてはならない厳しい戦いに強いられたか』

 

『逆にアポロンチームがあと一勝でもすれば優勝ってことだよね?』

 

『そうだ。いやー、ここまでフレイヤチームが劣勢になるとは予想外だ。このまま敗北するかフレイヤチーム!このまま勝利の凱旋をするかアポロンチーム!泣いても笑ってももしかしたら最後の第七回目の競技を始める!今度は神のみの競技だ!』

 

まだ取り壊されていない水上のステージの上空に発現する魔法円(マジックサークル)から大量の巻物(スクロール)が出て来た。

 

『次の競技の名前は借りもの競走!一つだけ手に取った巻物に記された借りものをオラリオから探し出し、借りたらここへ戻ってくること。そして今回の競技の勝敗は、アルバイトのフィンに認められた先着五名、先に借りものを借りて戻ってきた同じチームの神が三人以上認められればその時点で終了する』

 

『イッセー、巻物にどんな借りものを書いたの?』

 

『一言だけ言えばオラリオにあるもの全般だ。あーそれと、巻物は全員がオラリオに入ってから開けるように。そして他の神の巻物と交換は禁止。他の【ファミリア】や同派閥の団員の協力の要請も禁止。これらを破ったチームの神は問答無用で敗けにするからな。あくまで一人で借りてくること。それじゃ、借りもの競争、始め!』

 

えっ?と唐突に始めまった。程なくして我先へと客席から降りては水のステージへ駆け出し、落ちてる巻物を手に掴みオラリオへ走り出していく。そして市壁の門を潜ったあと全員が揃ってから巻物を開いた途端。何故か阿鼻叫喚が神々から生じるも、四方八方に散らばって借りるものを借りに駆け出していく。そんな様子に応援する市民や冒険者達の声に包まれながら奔走する神々。遠くにあるが直ぐに手に入れる者、近くにあるが中々手に入らない者と入手に困難している神々の誰も直ぐにオラリオから戻ってくることはなかった。因みに一誠と交流ある神々が手にした巻物に綴られていた借りるものの一覧はこうである。

 

ロキ・ソーマの酒(完成品)。

 

フレイヤ・カジノのチップ(一万ヴァリス相当)。

 

ヘファイストス・水着。

 

ガネーシャ・動物

 

ヘルメス・星の欠片(スターチップ)(十枚)。

 

ディオニュソス・可愛い子。

 

アマテラス・書物(十冊分)。

 

イザナギ・恐ろしいもの(人・神でも可)。

 

イザナミ・枕。

 

「ソーマの酒!?しかも完成品ってなんちゅうもんを借りさせるんやイッセー!」

 

「ここからじゃあちょっと遠いわね」

 

「これ、持っている人の方が少ないでしょ」

 

「よぅし、今直ぐ捕まえてくるゾウ!」

 

「ハハハ、これを持っている派閥を探さなきゃいけないなぁ」

 

「ふむ、可愛い子か・・・・・」

 

「ホームに戻らなくちゃ」

 

「恐ろしいもの・・・・・(チラ)」

 

「なに、イザナギ?」

 

始まった借りもの競走。誰が早く戻ってくるのだろうかと誰も知ることではないが、早くも動きがあった。

 

『おっと?早速オラリオから戻ってきた神が現れたな。審査員のフィンさん。お願いします』

 

「神ディオニュソス。貴方が借りてきたものとは何だい?」

 

「うむ、可愛い子だ」

 

巻物も確認してフィンの視点で審査する。一般市民で可憐な少女が可愛いかそうでないか軽く確認した後に頷いた。

 

「合格だ」

 

『審査の結果、フレイヤチームのディオニュソス合格!』

 

「君のお陰で一番乗りが出来た。ありがとう。このお礼は必ずしよう」

 

「い、いえっ!神様のお役に立てたなら安心しました」

 

『と、先に借り物を終わらせた男神の後を続けとばかり戻ってきた神が登場―――』

 

「私が恐ろしいって、どういうことなのイ~ザ~ナ~ギ~」

 

「し、仕方がないであろおおおおお!?お前のそういうところが恐ろしいのだからぁあああああっ!?」

 

鈍色を煌めかせる両手に刃物を袖から取り出して幾度も無く投擲する極東の女神、彼女に追いかけられる極東の男神の図に客席に待機していた冒険者達がほぼ口を閉ざしたりドン引きした。

 

「し、審査を頼むぅっ!?内容は恐ろしいものだぁっ!」

 

捕まったら八つ裂きにされかねない勢いで逃げ惑うイザナギと落ち着いて話しが出来ず、フィンは一誠に求めた。

 

「イッセー、これはどう判断していいのか僕も少し戸惑うけど」

 

『あー、巻物を手にした神が恐ろしいものだと思うものだから・・・・・うん、客席にいる冒険者達の反応を見て決めよう』

 

結果、イザナギの借りものは認められた。

 

『さぁ、あっという間にフレイヤチームの神が借りものを終えました。あと一人フレイヤチームが終えたら即時勝利となります。アポロンチームはこのまま一人も来ず戦わずして負けるでしょうか!』

 

実況するアスナを他所にオラリオに戻っている神々は、必死で借りものを求めて奔走中。次は誰でどんな借りものを持ってくるのかわからない一同は今か今かと待つ。そして借りもの競争が始まって数分後、アポロンチームの神が二人も戻ってきて、無事に合格をもらってフレイヤチームは後がなくなった。内心ハラハラドキドキの一誠であったが、一柱のフレイヤチームが戻ってきて合格を受け、安堵のため息を小さく吐いた。

 

『借りもの競争終了ー!オラリオに出向いた神々は今すぐ戻ってきてください!』

 

その時間は十数分も掛かり、全員が戻って席に着けば直ぐに第九回目の競技が始まった。

 

『次の競技はダルマ落とし!』

 

発現する二つの魔方陣がから巨大な木の円盤状の塊が十二も積み重なられた物が二つでてきた。

 

『ダルマ落としとは、単純に言えば下から木の塊をこれから誰かが乗った状態でこの巨大な槌で打ち抜き続けてもらう。まあ、実際に俺がやってみせよう。アスナ、上に乗ってくれ』

 

十二段目の木の塊の上にアスナを乗って貰うと、下から木の塊を横薙ぎに木の槌を振るっては、最後に二つ同時に打ち抜くこと十一回。木の円盤を打ち抜く度にダルマに乗っているアスナは危うげに乗っていたが、何とか落ちずに最後まで乗っていられた。

 

『見ての通り、こんな風に槌で打ち抜いて一番上にいる者や他の木の塊を途中で崩さずここまで打ち抜いたチームの勝利となる。ダルマ落としに必要なのは力と器用、そして上に乗る者と息の合った動き―――。この三つが勝つ要素だ』

 

冒険者や神々が一誠の解説に耳を傾け好奇の色を瞳に宿す。

 

『そうだな。この上に乗って貰うのは神にして、木の塊を打ち抜くのを冒険者にしようか。キッチリ三回勝負で神を最後まで落とさなかったチームが勝利だ。それじゃ、力と器用が秀でている冒険者は参加が決まった神と来てくれ。参加者は神三人、眷族三人』

 

『神様が落ちちゃったらどうするの?』

 

『ちゃんと考えてあるさ。―――フリュネ・ジャミールさんが優しく受け止めるからさ』

 

二Mを超える、巨漢ならぬ褐色肌の巨女の登場に場は同情と憐れみの眼差しと雰囲気にで静まり返った。

 

フレイヤチームからモブ神三柱とヘファイストスの眷族、Lv.3の団員。

アポロンからモブ神三柱とLv.3の団員。

 

両チームから選抜された選手は積み重なっている達磨に近づき、一誠の魔法で神が一番上の達磨に乗せられると始まった。叩かれる銅鑼の音の合図で思いっきりフルスイングして下の木の円盤を打ち抜く。打ち抜かれたそれは十数Mまで吹っ飛び一段無くなった間を埋めるかのようにまだ残っている十個の達磨が落ちると、重心が少しずれてしまったが神も姿勢を低くして落ちないように踏ん張った。続けて繰り返すと二人の冒険者は最後の一つまで打ち抜いて引き分けの形で終えてしまった。

 

『引き分けになっちゃったけど、どうするの?』

 

『それじゃあ達磨を数段増やしてもう一度やってもらおうか。それでも引き分けだったら次に繰り越しだ』

 

達磨の数十五個増加。二度目の勝負が始まって一回目と同じように一段目の木の塊を打ち抜くと、上の達磨が一回目より重心がずれて冒険者は難易度が増したことに慎重を期するようになった。

 

『ああ、言い忘れたがずれた達磨を整えたり触れたりするのは禁止だからな。上にいる神もそうしようとして動いたら落ちただなんてヘマな真似はしたくないだろう?』

 

禁止事項を伝えられようが冒険者達は二回、三回も打ち抜いた。それに伴い上の達磨が少しずつずれて斜めに傾いて益々打ち辛くなった結果を残したまま一振るいしたことで、神を乗せた達磨の段層が大きく傾いて下の段を残して倒れた。

 

『あーっと、アポロンチームの達磨が倒れた!この瞬間フレイヤチームが一勝!』

 

落ちた神はフリュネの腕に受け止めてくれたので怪我はないのだが、モンスターのようなカエル顔の彼女を見て、フリュネの二つ名を知っている神は襲われかねない緊張感で心から安心できないでいたのだった。

 

『続けて二回目を行う。最初は十段から始めるが、また引き分けになったら十五段に増やす。それじゃ、始めてくれ』

 

促される冒険者は積み重なってる数Mの高さの達磨を見上げる視線を一瞥し、振り抜く姿勢を構え確りと地面を踏みしめて捻る上半身に籠めていた力を解き放った。

 

二回目の達磨落としの結果は、十段では流行り引き分けとなってしまい達磨を十五段に増やしてやり直した。そしてアポロンチーム側が耐え抜いたことで勝利をもぎ取った。続いて三回目の達磨落とし―――最初から十五段にして行った。泣いても笑ってもフレイヤチームはこれが最後。勝敗は彼の冒険者の手に委ねられて・・・・・若干緊張気味で銅鑼の音と共に鎚を振るった。

 

『『あ』』

 

その都度五回。ぐらりと達磨が横に傾き、神はフリュネの腕の中に収まった。思わずと静まり返った場を引き裂くような熱い実況が結果を教える。

 

『―――フレイヤチームが勝利ぃっ!多大なプレッシャーを負いながらも見事チームに貢献したぁっ!』

 

『凄い、おめでとうございますっ!』

 

『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおっ!』』』』』

 

極一部の神と冒険者を除いて拍手喝さいをする神々と冒険者。照れくさそうに後頭部に手をやってペコペコと頭を下げる冒険者に金のメダルが授与された。

 

『これでフレイヤチームは四勝五敗、アポロンチームは五勝四敗という結果だね』

 

『十回目の競技でフレイヤチームが勝ったら最後の競技は本当にラスト勝負だ』

 

『最後の競技はイッセーも出るんでしょ?どんな競技をするのかな?』

 

『フフフ、それはフレイヤチームが勝ったらの話だアスナ。では、第十回目の競技を始める!競技の内容は―――ダンスゲーム!』

 

虚空に立方的な四方形の魔方陣が浮かび、地面にも幾何学的な四方形の陣が赤と白に分かれて浮かぶ。

 

『全員参加のダンスゲーム!目の前の映像に映る俺達の動きに合わせながら得点を競い合う!一人でもダンスができなかったり、ダンスをせず棒立ちしていたら得点が減り続けてチームの足を引っ張るぞ!』

 

『ダンスって・・・・・えええええっ!?イ、イッセー、ま、まさかこのために・・・・・!?』

 

何故かアスナが顔を赤面して絶句していた。物凄く恥ずかしそうにうろたえてもいたが、二人を除いて皆はちんぷんかんぷんだった。

 

『それじゃ全員、それぞれ赤と白のダンスホールと化しているステージに入ってくれ。前列は神、中間はLv.3、その後列にはLv.2と1の順で位置についてほしい。踊る一人一人のスペースは入れば直ぐにわかるから』

 

そう言われて客席から降り、赤白の魔方陣に入ると四方形に走る光の筋と上下左右の矢印、神や冒険者の目線に合うように立方的な四角形の魔方陣が浮かび上がる。一同がそれぞれ好きな場所で立ち、全員が位置につくと目の前の魔方陣に『異世界食堂』の店員達が制服姿で映り出した。

 

『十分間、これから踊る俺達の動きを真似して覚えたら始める。確りと目に焼き付け体に覚え込ませることでチームの貢献することができるぞ』

 

『ううう・・・・・は、恥ずかしいっ、恥ずかしいよぉ・・・・・』

 

自分の踊りを見られる羞恥心で耳まで顔を紅潮してしまっていたアスナの隣に座る一誠は涼しげな顔で前を見据えていた。

そしてそれから十分後―――。

 

『十分経過した。それでは第十回目の競技を始める!』

 

両チームを囲むように結界を展開、闇夜のように暗くなったそのあと。一同の目の前にライトアップされた一誠がスタンバイしていた。

 

『ミュージックスタート!』

 

虚空に浮かぶ立体的映像に『異世界食堂』の従業員達を映す他、流れてくる音楽や0と得点数が表示された。映像の中にいる従業員達が踊り出すと神々と冒険者達も踊り出して点数を稼ぎ始める。

 

『さあ恥ずかしがらずどんどん点数を稼いでチームの勝利に貢献をしよう!特に腰に手を当てて格好付けてるベート・ローガ!協調性のない人には―――秘密をバラしちゃうぞ!』

 

「はっ・・・・・そんな脅しに俺が通用するかよ」

 

『ほほう?じゃあ、これを見ても、まだ言えるのか?』

 

彼の獣人の者にだけ見せられるあるものを視界に飛び込むや否や、目を見開き「なっ!」と絶句で開いた口が塞がらなくなった。

 

『いいのかなー?一匹狼、孤狼のどこかの誰かさんの秘密が公になって。特にロキに知られたらあっという間にオラリオ中に広まるぞ?それが嫌なら―――踊れ』

 

「ぶっ殺す、てめぇ、何時か必ず絶対にぶっ殺す・・・・・!」

 

弱味と秘密を掌握された狼は恨めしい目付きで一誠を睨みつつ大雑把でありながら踊り出す。そんなやり取りに「あのベートを・・・・」「ンー、意外だね」「あやつに弱味を握らせるもんがあるとはのぉ」ととある古参の亜人(デミューマン)の三人が本当に意外そうに見つめていてベートの秘密に興味を持った。

聞き慣れない音楽と派手な演出、多彩な色のライトが暗闇に支配された空間を照らす。踊りなどした事が無い、相手から視線や目線を向けられながら―――羞恥を抱いて出来ないのだが、目の前で一番目立っている一誠が一堂の意識と目を奪っているため、例え下手でも変な踊りでも周りから見られずいられる環境でなら踊れる。そうして得点が増えていく様子を見ながら選手達は最後まで踊り続けた。

 

『さぁ、もう間もなくダンスはフィナーレを迎える!現状の得点で優勢なフレイヤチーム、劣勢なアポロンチーム!最後の踊りを完璧に揃えて踊ったチームには+1000点!揃えて踊らないと通常の得点だ。皆、息と心と体を合わせて踊れ!』

 

一発逆転のチャンスが巡ってきた。両チームの心と気持ちは一つになるが身体はそうではなかった。逆転のチャンスを活かさずどのチームも1000点を得ることは叶わなかった。

 

『残念!フレイヤチームとアポロンチーム失敗!そしてこの瞬間、両チームが得点を稼いだのは―――フレイヤチーム700,541点!アポロンチームは659,159点!』

 

『勝利したチームは、フレイヤチームです!』

 

暗闇の空間がガラス細工のように割れ、太陽光が勝利の祝福をするかのようにフレイヤ達を照らす。歓喜と落胆の二つの感情がハッキリと分かるほど反応を示す両チームに畳み掛ける声。

 

『さらに両チームの中で一番得点を稼いだのは・・・・・【セバスチャン・ファミリア】の女性冒険者フィール・レウル!オール満点だ!頑張った賞で百万ヴァリスを授与する!』

 

リヴェリアから金賞のメダルを首に掛けられて感動極まる女冒険者。

 

『他並びに同じ得点を叩きだした十の【ファミリア】にも後日、頑張った賞百万ヴァリスを授与するので首を長くして待っていてくれ』

 

『結構多いんだね。いくら予行練習してるからっていきなり満点なんて』

 

『一言で言えば冒険者だからな。事前に分かれば難なくこなせるもんさ。それでも苦手なものもあるだろうがな』

 

どちらも十戦五勝五敗という引き分けの数字に。怒涛の勢いで勝利を手に掴んだフレイヤチーム。アポロンチームと並んで振り出しに戻った様なもの。残りの競技は一つのみで最後の競技はどんなものなのか―――一誠は最後の競技を告げた。

 

『フレイヤチームが劣勢だった戦況を連戦連勝したことで最後の競技も無駄に済んだ。いや、本当に感謝するよ。まさかフレイヤチームがこのまま負けるのかと内心ひやひやしてたからさ』

 

苦笑を浮かべる男は―――瞳に戦意の光を孕ませ、高らかに言いながら杖を地面に突いた。

 

『最後の競技の内容は―――運だめし、ルーレットで決めるぞ!』

 

発現した魔方陣から巨大なルーレットが出てきたが、一誠達が見慣れているものとは少し違っていた。ルーレットの円盤の端に豆電球がありその意味を察した者は異邦人と転生者のみ。

 

『それじゃ、スイッチをアスナさんに押してもらおうか』

 

『わかりました。それじゃ押すね?―――スタート!』

 

どこからともなく取り出した赤いスイッチを手にある一誠に促されるアスナの手は、ポチッと押した瞬間、ルーレットにある豆電球が回る様に点々と光りながら動き出した。最後の競技がこのルーレットで決まるという結末に会場は静まり返り、どんな競技のところに光が止まるのか見守る神々と冒険者達。そうして程なくすると動きまわる光の速度が減速してやがて鈍くなり最後は・・・・・とある競技の場所に停止した。その結果を一誠は告げる。

 

『―――最後の競技は、一対一の真剣勝負!両チームから代表の冒険者を一人だけ選抜して戦わせる!』

 

『そしてこれで全ての決着が付き運動会は終わります!皆さん、結果がどうであれこれが最後の勝負です!頑張って応援しましょう!』

 

アスナも締め括りとゲストとして場を盛り上げる。

 

『さぁ、フレイヤチームとアポロンチームの王ことフレイヤとアポロン、自分のチームから冒険者を一人選んでくれ』

 

二柱の神を促す言葉はそれぞれ一人の冒険者の名を告げさせた。一柱は当然のように、そしてもう一柱は信じられない人物の名を。

 

「私のチームからは転生者の光輝勇だ」

 

「私のチームからは・・・・・イッセー、あなたにするわ」

 

『『えっ?』』

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