ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚9

【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯(ウォーゲーム)』という名の『運動』の激戦を乗り越え、他派閥同士でありながら深まった絆、少数であるが予想もしていなかった新たなスキルと魔法(ちから)の発現、そして勝利した派閥に新たに入団を申し込む無所属(フリー)の一般人。『運動会』を経て様々な結果が浮き出て来て、主神と冒険者達は次回もやるならばもう一度是非とも参加しようと心待ちした。

 

「お前が求めていた冒険者、この者達なのか?」

 

気の強そうな短髪吊り目の少女や長髪で垂れ目のあどけない雰囲気で十五も満たないだろう少女は、現在立たされている周りからの視線を向けられる状況下に、委縮して一誠の後ろに隠れる風に立っていた。この城に連れてきた張本人の男は、二人の頭に優しく触れながら手を置きながら首肯すると椿が顎に手をやり、腰を折って前屈みになりながら少女達を見つめる。

 

「外見だけで判断させてもらえば、特にまだ何かできそうだとは思えんのだがな」

 

「この前言っただろう?俺だけが知っているからこそわかるんだって」

 

「異世界の知識とやらか。して、この者達が一体何が出来ると言うのだ?」

 

「この黒髪の子カサンドラ・イリオンは予知夢ができる」

 

当然のように述べる。が、周りの反応は物凄く薄く、「なんだそれは?」的な目を向けられ微妙な雰囲気をリヴェリア達は醸し出す。ただ一人、カサンドラは目を丸くして一誠を見上げる反応を示した。

 

「予知夢ってなに?」

 

「未来で何が起きるのか夢の中で分かる能力だ」

 

アイズの問いに答える一誠の言葉を聞き、そうなの?とアリサは不思議そうにカサンドラへ視線を向ける。

 

「・・・・・イッセー、夢で見たものが現実になるとは限らんぞ」

 

「ああ、ある意味その通りだなリリア。でも、自分達にとってよくない事が事前に分かれば対処はできるだろ?」

 

「確かにそうだが、本当に予知をできるのかこの少女が」

 

「俺だから分かること何だってば。別にカサンドラの能力を全面的に信用も信頼もしなくていいけど、俺は今後のことを思えば彼女の能力が必要になるんだ」

 

何かを見据えている一誠の発言に皆は何とも言えなくなり、それ以上は口にせずカサンドラ・イリオンという少女を迎え入れたのであった。

 

「さてカサンドラ、そしてダフネ・ラウロス。【ファミリア】から抜けたお前はこれからどうしたい?まだ冒険者を続けたいならある物を渡すけど、特にないんなら俺の店の手伝いをしてくれないか?」

 

「お店、ですか・・・・・?」

 

「『異世界食堂』って店で働いているんだ。この辺りじゃ名前ぐらいは聞いたことあると思うけど」

 

「食べたことはないけど、知ってるよ」

 

と、提案をされた少女カサンドラとダフネはしばらく考えさせてほしいという答えた。後に与えられた部屋の改装の手伝いをし、その日の夜の歓迎会のパーティで出された料理を食べては。

 

「「~~~!」」

 

【アポロン・ファミリア】で食べていた食事を一線越えた美味に驚嘆と感嘆をしたのは必然的だった。そんなこんなで二人も共に生活をすることになって数日後・・・・・【ロキ・ファミリア】のホームがほぼ復興し終えたことで女性団員達が『幽玄の白天城』から離れる日が迫った。

 

 

【ロキ・ファミリア】の女性団員達が貸し与えられた横長の部屋の空間に人数分の寝具や机、必要な家具が揃えられている部屋にリヴェリアは入る。本拠地(ホーム)からある知らせが入ったので誰かいまいかと確認をしに来たところ。椅子に座って机と対峙して読書をしているエルフの少女を見つけ、「アリシア」と呼んだ。

 

「リヴェリア様?」

 

「他の者達は外出しているのにお前だけはあまり出掛けないでいるな」

 

「特に出掛ける理由も無いので・・・・・あの、それで何か?」

 

「ああ、フィンから連絡が入った。お前達も何となく気付いているか察していると思うが、近日中に私達の(ホーム)が復興する。荷物を纏めて何時でも帰れるようにしておけ」

 

当然のように告げられた帰郷の話し。死ぬまで『幽玄の白天城』で生活を送る筈も無い事を理解しているが、やはり突然言われて少なからず驚きの反応をしてしまう。

 

「あれからもう二年・・・・ようやくですね。分かりました。他の皆にもお伝えします」

 

「頼む。ではな」

 

それだけを伝えに来た王族のハイエルフは直ぐに部屋からいなくなりアリシアを一人にさせた。パタンと閉まった扉を見つめて、静かに息を吐いた。

 

「もう、この生活も終わりなのですね」

 

切っ掛けは口に出せない程酷いものであるが、破壊されたホームの修復に目処が立つまで元同僚の家に居候を兼ねた療養生活は一年以上にも及んだ。『黄昏の館(ホーム)』とはやはり異なり、最初は戸惑ったものの今では我が家当然の様に住みついて短くない。作られる料理は美味しいし、風呂も時間に気にせず自由に入れる。最大派閥となれば色々と気を使わなければならない為、この家は何も縛られない生活を送れるからか少々羨ましいと思う時もあった。思わなかったと言えば嘘になる。であるからこの『幽玄の白天城』を第二の【ロキ・ファミリア】の本拠地に―――。

 

「・・・・・」

 

有り得ない考えだ、と頭を振ってその思考を消した後、立ち上がる。彼に会いに行こう。尊敬するかのハイエルフから伝えられているだろうと知らせて感謝の言葉を送ろう。とその意識を浮かべて彼女も部屋を後にする。

 

 

広く複雑で、隠し階段があれば隠し扉も存在する城の中で特定の人物を探し出す行為は骨が折れるもの。であるが、いそうな場所を先に探そうとするのは当たり前なことだと人は疑わない。アリシアもその類に零れないエルフだったが、案外早く探し人を発見したのであった。

 

天から温かな日差し、美しい金色の十二枚の翼を生やして太陽光に照らしている男が、自室のテラスに寝転がって瞑目していた。上着を脱いで半裸の状態。無駄な肉のない鍛え抜かれた体を晒し、太陽から降り注ぐ日差しを吸収しているのか、翼が金色に煌めく発光現象を起こしており、真紅色だった髪も金色に変色、発光現象を起こしている翼のように光っていた。そんな状態と状況に居合わせたアリシアは見惚れてしまい、しばらく立ち往生していたが足音を立てさせない気配りをしつつ近寄った。更に寄ると宝石のようにキラキラと輝く金色の光の光量が強くなった気がする。そして、器用なことに寝ていることにも気付いた。

 

多忙で目まぐるしい日常を日々送る中での唯一のゆとりの時間を日光浴と睡眠で費やしている男。寝ているなら起こすのは悪いと思いながらも、好奇心に擽られた心に反応した思いは手を動かせた。その手が触れたのは翼の羽毛だ。手の平で梳かす感じに撫でてみれば確かな感触と心地のいい温もり、そして直で触れてみて分かる不思議な力の気配。クローゼットの中に仕舞われているこの羽で作られた外套(フーデッドローブ)はまだ消える気配も無い。それを着こんで寝ている女性団員達はちらほらといる。どうして着ているのかと問われた返答に対して、「夢見が悪い時はこれを着てると何故か心が穏やかになって安心して寝れる」と小耳に挟んだことがある。

 

分からなくもない。自分もそうなのだから。

 

そっと翼から手を離して眠る男の顔を覗きこむ。右眼の奥を隠す漆黒の眼帯が印象的に抱かせるそれの秘密を知っている。彼はこの世界にとって特別である半面、人類の敵として見做される存在にもなりうる危うい立ち位置にいる。故に自他共に複雑な気持ちを抱いているのだ。

 

 

それから視界は異性の唇に入る。途端に初めて情事を交えた記憶が脳裏に浮かび、顔が熱くなったのを覚える。あれ以来、情事をしていない。理由は様々だが、やはり付き合っても無ければ伴侶でもない異性と易々と情事を交えることは理由も無い限りしないのが当然。アリシアもその考えを尊く重んじて思っている。

 

しかし、いざしてみれば想像を遥かに超えていた。優しく、幸せな気分が浸れる神聖なものだと信じて疑わなかった行為が・・・・・あんなに情熱的なほどまで激しく、幸せを通り越して甘美な快感の波が押し寄せ思考を蕩けさせるまでされるとは露にも思わなかった。あれが本来の何時か子を成すための行いなのだと言われても直ぐに認めることはできない。高潔で清潔、同じエルフや認めた者にしか肌を触れさせない、成熟していないエルフであれば仕方が無いことかもしれない。

 

「・・・・・」

 

不意にエルフの少女の顔が周囲を警戒するように忙しなく回る。自分達以外に誰もいないか、肉眼で確認したらジッと眠る男を見つめたと思えば・・・・・。

 

 

「懐かしいな、この感じ」

 

目覚めた男の目は、翼の上で己の直ぐ横に寝転がって寝息を立てているアリシアに向けて微笑ましげに見つめる。元の世界にいる家族達も好きあらばそうしていたり、求められたりした記憶がある。懐かしの記憶を想い耽る時間はそう長くなかった。綺麗なエルフの少女の寝顔をしばし眺めたら彼女をどうせならばと、腹の上に夢の中へ旅立っている少女を載せて翼を広げたまま再び寝に入り出す。

 

その後、異性の体の上で寝かされている状態で目が覚めた少女の顔は耳先まで熱を帯びた紅潮で染めて、離れようとしても何時の間にか翼に包まれて離れることはできず―――。

 

「「「・・・・・ズルい」」」

 

「「「・・・・・」」」

 

「い、いえ、これは自分からではないのですっ!?」

 

悪戦苦闘していると六人の少女達に見つかって苦しい言い訳をする羽目に。が、それが煩わしいと眉根を寄せる寝ぼけ眼の男の手が静かに動き、アリシアの後頭部をガシッと掴みだしたかと思えば。目を見開くエルフに何時だった時のヘファイストスと同じ―――。

 

「五月蠅い」

 

「っ――――!?」

 

「「「「「「っ」」」」」」

 

口で相手の口を塞いで黙らした。相手が静かになるまで蹂躙し、顔から火が噴き出そうなほど真っ赤になるアリシアなど気にも留めず、瞳を限界まで見開く少女達の存在に気づかず淡々と永遠に続くかと思う深い口付を一方的にする男。

 

(あ、またっ・・・・・あの時の抗えない快感が・・・・・・!)

 

蹂躙する舌で執拗にアリシアの口内が犯され、全身に駆け巡る快楽の稲妻が脳髄まで激しく刺激するに伴い身体を震わせてしまう。深く重なり合う口からは淫らな 水音が、時折見える交じり合う赤い舌と口の端から零れる唾液が、エルフの少女の蕩けて潤っている瞳と顔を見てアイズ達の心は熱く何度も高鳴る。

 

「~~~~~~~っ!!!」

 

そうしてされるがままだった途端に、激しく体が弾けるように一際震え、唇が重なったまま少女は絶頂した。

荒く鼻で息をしながらまだ口内を犯す舌の動きに敏感に感じてしまい、数回ほど彼女は絶頂を繰り返した。その後一誠は己の睡眠を妨害する者を完全に口で沈黙させれば、何事も無かったように寝息を立て始める。対して息が絶え絶え、耳先まで紅潮した顔に浮かぶ汗、熱に浮かれたように瞳は潤い口の端は唾液を垂らすアリシア。キッと眠る男に睨みつけ呪詛の如く呟いた。

 

「い、一方的にシて、寝るなんて・・・・・せ・・・・・責任を取ってもらいますよっ」

 

体が沸騰したように熱く、下半身が熱で疼く感じを覚えながら蕩けた顔で心から決意した。貞女の唇を許しも無く奪った男に自分が許すまで尽くしてもらおうと。羨望の眼差しを向ける瞳をジト目でアリシアにポツリと抱いた気持ちを本音として吐露する。

 

「「「やっぱり、ズルい」」」

 

「ズ、ズルくなんかありませんっ!」

 

「だ、旦那様の接吻、見ててすごかった・・・・・ま、まだドキドキする・・・・・」

 

「はぅぅ・・・・・」

 

「なんや気持ちよさそうなんやけれど、そんなに旦那様の接吻はよかったん?うちもしてみたいわー」

 

「だ、駄目です!」

 

「・・・・・煩い」

 

―――ループ

 

『異世界食堂』も平常運転で日中ずっと足を運んでくれる客が絶えない。開店して以来訪れてくれる常連客達、それ以降でも食べに来てくれる客も常連客として昼夜問わず友人・知人・恋人・派閥ぐるみで店主達に出迎えられる、そんなある日のことだった。

 

「イッセー、お願いがあるんだけれど」

 

改まって何かを乞うアスナに相槌して返す男は、次に怪訝で眉根を寄せた。

 

「拳藤ちゃん達が、城に遊びに行きたいって言われたんだけれど」

 

「は?」

 

何言っているんだ?と言いたげな目を向けられ、困惑の色を顔に浮かべる亜麻色の髪の女性は「駄目かな」と遠慮気味に言い・・・・・。

 

「・・・・・何人来るんだ?」

 

「えっと、ヒーロー組の女の子とシノのん」

 

「・・・・・その程度ならいい。が、アスナとシノンが見張ってくれよ。作業の邪魔されたくないから」

 

「うん、わかってる。ありがとうね」

 

心なしか安心した表情で感謝するアスナは早速了承を貰った報告をする。一誠はさっさと作業に入るべく専用の部屋へと赴いていた。と言っても鍛冶をする為の工房では無い。自室に戻り机の上に装飾品のように飾ってある水晶に近づいて触れると、水晶から発する光に包まれて一誠がいなくなった。

 

十数分後。城の主が了承したことで友人と仲間を城に招くアスナは、重厚そうな扉を開け放ちシノン達を迎え入れた。

 

「いらっしゃい、皆」

 

「久しぶりアスナ、お邪魔するわ」

 

「うん。さ、中に入って入って」

 

「「「「「お邪魔します」」」」」

 

玄関ホールという名の神殿のような厳かな雰囲気を保つ空間の中、アスナの促しに靴を脱いで城の中に上がる女性達。片手で数える程度でしか入ったことが無い白亜の城の中を視界に入れながら亜麻色の髪を背中に流す女性の後に続き、リビングキッチンに寄らずまっすぐ彼女の自室へを案内された。必要な家具や寝具などが揃えられていて、得物である細剣をベッドの脇に鞘ごと掛ける。

 

「へぇ、結構広いのね。他の部屋と同じなの?」

 

「神ロキの女性眷族達が共同で使っている部屋以外は大体一緒だよ。後は一つの部屋を一緒に使ってたりしている人もいるけれどね」

 

「そんな部屋とこの城を作ったイッセーさんはやっぱり凄いんですけど、他の人は?」

 

「ダンジョンに潜ったり、ホームに戻ったりと自分の用事で皆行動していないの。イッセーもそうだよ」

 

「じゃあこの城にはアスナしかいないの?」

 

「そうだよ。だから私はお留守番みたいなものだから」

 

事前に用意していた飲料水や菓子などを、皆が座る席が無いので腰を落として床に座るシノン達の前に置く。

それらを見て、ヒーロー組の異邦人達は懐かしげに眼を輝かせ色めき立つ。早速とばかり小さな女子会が行われ、互いの近況の報告も交える。

 

「それでね、私達、もう深層のおっきな骸骨のモンスターも倒して40階層にまで進んだんだよ」

 

「それって階層主の『ウダイオス』だよね?凄いじゃない」

 

「かなり骨が折れたけどね。増え続けるアンデッドモンスターを相手にしながら、階層主を相手にしなくちゃならないなんて物凄く大変だったわ。アスナは相手したことがある?」

 

「したことがないなぁ・・・・・ここ最近、お店のお手伝いをしたりオラリオの外に冒険したりしてダンジョンに潜って無いの」

 

それでも腕が鈍らないよう『幽玄の白天城』の日課のような模擬戦を毎日のようにしている。一誠と相手をしていると必然的に全力で相手をさせられ、こっちがボロボロになってしまうけどねと心中で苦笑いするアスナだった。

 

「じゃあ、アスナさん。今度一緒に行きましょうよ」

 

「うん、機会があったらね」

 

軽く了承するアスナに嬉しそうに元同じ派閥の副団長とまた冒険が出来る日を心待ちにして笑顔を浮かべる少女達。

 

「あの、ところで、イッセーさんはどうですか?元の世界に戻れるようには・・・・・」

 

「やっぱり困難極まりないみたいだよ」

 

アスナの元の世界にも繋げ懐かしい自身の部屋を見ながら、見られながら異世界と繋げる鏡で穴を開けようと四苦八苦する一誠の横顔を見て、そう感想を吐露する。

 

「そうですか・・・・・流石にイッセーさんでも直ぐには無理ですよね」

 

「そっちはどうなの?」

 

「手も足も出せない心情です」

 

魔法の知識もなければ魔力など皆無に等しい彼女達にとって酷な事だろう。だからどうしても、一誠を頼ってしまいがちになってしまうのである。苦笑いする拳藤を始め、ションボリと落ち込む少女達に同情するアスナ。その気持ちはよくわかると同感もする。

 

「それでアスナ。貴方イッセーと付き合ってどうなの?」

 

「え?」

 

唐突に聞かれる一誠との関係に、キョトンとした面持ちでシノンに振り向くその後、自分が一誠と付き合っていると言ったことを思い出し、言いづらそうに「あ、うん」と返す。

 

「私のことを大切にしてくれてるよ」

 

「そう、順調そうで何よりね。それと、魔法の矢が尽きちゃったの。彼に頼めれる?」

 

「うん、頼んでおくね」

 

微笑んで了承する。魔法の矢が尽きるほど彼女が活躍したことなのだろう。それはとれも感嘆してキリト達の力になっているシノンに称賛しつつ心の中で感謝の念を抱く。自分の代わりに皆を守ってくれている彼女に対して。そう思いながら弓使いの女性を見つめていると扉にノックの音が鳴った。アスナは直ぐに扉を開けに腰を上げて近寄った。ドアノブを手にして開け放つと、部屋の前に一誠が立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「ああ、仕事の件で軽く教えておこうと思ってな。近日、バレンタインだろ?だからそれに向けて初めてバレンタインデーをするつもりだ」

 

「あ、そうなの?じゃあ、チョコレートを用意しなくちゃ―――」

 

「もうしてある。だからアスナにも近い内にして欲しい事がある。頼めれるか」

 

断る理由もなく首を縦に振って頷くアスナに「ありがとう、邪魔した」と述べて離れようとする一誠に、シノンから頼まれていたことを反射的に伝えると。

 

「工房に予備がある。好きなだけ取ってけ」

 

と、それだけシノンを一瞥してどこかへ去っていった。アスナと一誠の会話のやり取りを聞いていた拳藤達は立ち上がり、その工房へいく姿勢でアスナの背中に近づいた。

 

―――†―――†―――†―――

 

「うわぁ、ここがイッセーさんの工房・・・・・」

 

「剣、槍、斧、弓!」

 

「リズさんの工房と一味違いますね」

 

「好きなだけ取ってけって、こんなに作っていたの」

 

案内してもらった一誠と椿の工房。灼熱の炎が籠っていない炉は静寂に包まれて暗く、使われている鍛冶の道具等も今は使われておらず炉の傍に鎮座している。そして二人の鍛冶師によって生まれた武器や防具等は壁に掛けられていたり、籠の中に入れっぱなしだったり、誰かに使われることも無くそこに在るだけの形になっている。お目当ての矢を見つけるや否や、限度を超えないよう大量に駕籠から抜き取って集めるシノンに手伝う拳藤達。

 

「彼って何でも出来ちゃうわね。逆にヒかない?」

 

「思ったことが無いかも。出来ないことだってあるって聞いたこともあるし、『人間、やろうと思えば案外何でもできるもんだ』って言われたよ」

 

「それだけ聞いて不思議と力のある言葉と思ってしまうわね」

 

「うん、だから私も鍛冶は何たるか教えてやると体験されちゃって・・・・・物凄く大変だったよ」

 

おかげで鍛冶師達が作品と心から真剣に向き合う大変さと苦労を知ったアスナだった。ゲームとは違う製作する作業の過程を、厳しく接する一誠を思い出しつつ遠い目をする。「あの真剣な顔はまさしく職人そのものだったよ」と感想を述べる友人にシノンは短く相槌を打って工房の中を一瞥する。何かを探しているような目付きで見回す彼女を見つめていれば、ポツリと吐露した。少し残念そうにだ。

 

「流石にここに銃火器ってないのね」

 

「イッセーの部屋の隠し部屋になら置いてあるわ。・・・・・流石に独断で無断に見せられないけれど」

 

「ごめんなさいね。それはそうと、バレンタインデーをするなんて何を考えているのかしら?」

 

「うーん、この世界には無い風習だからじゃないかな」

 

アスナ達がこの世界に来てから日本に風習がないことを知ってからも、できる範囲の風習を独自にしてきた。バレンタインもそのひとつである。それを一誠は大々的なのか分からないが『異世界食堂』で甘くも切ないあのイベントをするつもりなのだからアスナも従業員としてしなければならない。

 

「カカオ・・・・・イッセーに頼めば安く手に入るかしら?」

 

「お願いしてみる?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

渡す相手は既に決まっている。拳藤達も脳裏にとある男を思い浮かべるが複雑な気持ちを抱く。渡したい相手だが、彼は自分達を知る同一人物ではない。渡されて困る顔をされたらこちらも当惑してしまう。

 

「部屋に戻りましょ?」

 

「そうね。でもこれ、後で請求されない?」

 

「えっと、聞いてみるね」

 

少女達の心情を他所にアスナとシノンは部屋に戻ろうとしていた。その背中を追いかけて後に続きながら彼に渡してもよいのか苦悩するのだった。そしてその日の内にオラリオ中にとあるチラシが張られてあり、民衆達はそれを見て関心や興味を抱くのだった。

 

「イッセー、バレンタインって、なに?」

 

当然の如くアイズ達も興味津々だった。東西南北に張り出されてるバレンタインデーのチラシを見て、自分の知らない知識を持っている者に尋ねて全容を明らかにしようと話しかけた。

 

「チョコレートで女が普段お世話になっている人や、好きな人、恋人に感謝したり相手に好きだと言う憧憬や想いを籠めて渡すんだ。でも、女同士でも構わない。感謝を籠めてな。だからアイズの場合はロキやリリア、他の皆にチョコレートをあげてもいいんだぞ?。な、アスナ」

 

「うん、バレンタインってそう言うものなんだよ。その後、ホワイトデーといって女の人から送られた男の人が今度は女性に贈り物をする日もあるんだよ?」

 

「参考に訊くが、アスナの場合は何を貰った?」

 

「装飾品だったよ。イッセーは何をあげたの?」

 

「似たようなもんだな。装飾品や本とか色んなの」

 

と、話を聞いたアイズ達はチョコレートを作りたいと乞い、『ネットスーパー』で食材を大量購入をし、皆に渡すためのチョコレート作りを一誠やアスナに教わりながら励んだのであった。

 

「・・・・・・」

 

フィルヴィス・シャリアが立つキッチンには自作したチョコが置かれていた。『異世界食堂』がバレンタインデーなる催しを始めようとしている事を切っ掛けに、濡羽色の長髪に赤緋の瞳のエルフの少女は感謝を籠めて作り上げたのだった。料理はそこそこできる程度なので、料理上手な年上の先輩に教わりながら後は渡すだけなのだが、異性に何かを送り物をしたことは一度もなく、妙な気恥しさと緊張がじんわりと湧き上がる水のようにそんな気持ちが増してきた。

 

「(渡すだけだ。そう、仲間を助けてくれたお礼をするだけだ。簡単な事であるし別に他意はない。私は純粋にこれを・・・・・)」

 

と、一人百面相をしそうな勢いで思考の海に飛び込んで・・・・・生温かい眼差しをキッチンの出入り口から盗み見している主神と仲間が向けていることを、気付かないまま立ち尽くしていた。傍から見れば恋する乙女のような仕草だったと

 

「・・・・・喜んで、くれるかな」

 

ナァーザ・エリスイスもバレンタインデーに向けてチョコ作りを励んでいた。主神のミアハを始め、男性の先輩団員の分も女性団員達と一緒に渡そうと用意している時に、一つだけナァーザにとって特別なチョコを別に作っていた。いつも優しく抱きしめて心地の良い温もりを感じさせてくれるあの人に、と想いを馳せながら尻尾を緩慢的に揺らし完成を臨む。

 

そして―――。

 

「いらっしゃいいらっしゃーい!今日一日だけ『異世界食堂』限定で行うバレンタインの日でーす!」

 

バレンタイン当日。『異世界食堂』から物凄く甘い匂いを漂わせ、主に甘党の客達を花の蜜の香りで引き寄せる。店の前には『普段お世話になっている、片思い、両想いの男性限定にチョコをあげよう!好きな男性に告白しながらあげるのもよし!異世界食堂が始めるバレンタインデー!』と書かれたチラシが張られてある。今回のバレンタインデーが開催されることを事前に知っている男女は興味本位で足を運び、バレンタインデーは何たるか説明を求めて分かると、恋人同士や一人身の女性が主にバレンタインの為に用意したチョコを購入する。そして女性が羞恥心だったり決意を秘めた想いで、意中の男性や仲間、同僚、お世話になっている男性へチョコを渡す姿を西区で見られるようになった。

 

当然ながら、そんな店の動きを察知した神々は何もしないはずが無かった。主に女性団員がいる派閥の主神は面白半分で、チョコを強請る。逆に女性団員がいなく貰えない男神や男性達は、

 

「いらっしゃいませ!手作りチョコを男性の方限定、無料で配布いたしまーす!」

 

「欲しい男性の方は列に並んでください」

 

「ニャー達からの贈り物だニャッ。ありがたく受け取るがいいニャー!」

 

手の平サイズの菱形チョコを店の前で見目麗しい女性や少女達から貰い受けるのだった。本命から貰えず、女性から貰えずにいた男性達にとってささやかなオアシスだ。初めて女性から貰えた者は例えそれでも、何とも堪え難い感動に身体を打ち震わせ、歓喜極まったり狂喜の乱舞をしたりする。

 

「・・・・・好きな人に」

 

「チョコを・・・・・」

 

「あげる・・・・・バレンタイン」

 

男には無料に配るに対して女は販売用に作られた様々な形の、意匠や装飾が凝った割と値段が安めなチョコを買うように決められている。共通語コイネーで『貴方のことを愛しています』『私と付き合って下さい』『貴方の傍にいたいです』『チョコの甘さのように淡い恋をしています』等など男性に送る女性の気持ちを代わりにチョコが伝えると言う珍しい品に中々勇気が出せない女性にとってはありがたいことでもあったか、ほんのりと顔を赤くしながら「こ、これをください」と可愛い反応を見せながら購入する消費者を見ては、同じ女性として「頑張ってください」と応援する従業員。知人や友人、仲間などの面々も顔を出して来て男性の為に購入する。そんなこんなでオラリオ中が仄かな甘い匂いで漂う日となったのだった。

 

「ん、皆の頑張りのお陰でチョコレートは完売!・・・・・正直、結構残ると思ってたんだけどな」

 

「俺も同感だ。ま、残ったら残ったで神楽に食べさせれば問題ないけどさ。よくやろうとしたよなバレンタインデー」

 

「異世界には無い概念と風習だからな。ちょっぴり狙ってやってみたがウケは良かった。また来年もしよう」

 

オラリオの空が西に沈みつつある夕焼けで朱に染まり尽くす時間帯、『異世界食堂』の前では『チョコレートは完売致しました!』と看板が掛けられている。それでも店は営業を続け、客達からの注文に応じたり料理を運びまわったり大量の食器の洗浄という格闘を変わらず繰り返すのである。

 

「そうして繰り返してこの世界にもバレンタインデーの風習を植え付けるんだね」

 

「ここはどんな店なのか分からないわけ無いだろう?」

 

そう、ここは『異世界食堂』。異世界の料理をもてなす店であるとアスナ達は分かり切っている。無言で二人は頷き注文の呼び付けされると散って対応しに行く仕事の最中に客が入ってきた。

 

「いらっしゃいませ!お、【ミアハ・ファミリア】。総勢で来るとは珍しい」

 

「うむ、今夜はここで食べることにしたのだ。世話になるが空いている席はあるかな?」

 

「生憎、御覧の通り満席に近い状態だ。屋上だったら直ぐに用意できるけどいいか?」

 

「屋上?そのような場所があったとは知らなかった」

 

「予約制でしか入れない二階と違ってな。懇意で交流している【ファミリア】じゃなきゃ解放しづらいんだよ。ほら、屋内と違って屋外だから食い逃げされるしさ」

 

納得の理由であると相槌を打つように頷くミアハ。常連客でも簡単には通せない場所だ。冒険者ならば屋上から別の建物の屋根へ跳び移って食い逃げすることも容易い。故に何時も解放していない場所を解放して利用を承諾すると言うことは、店主の中ではその客を信頼しているというのと道理なのだ。

 

「レイラ、少しいなくなるぞ」

 

「話しは窺っています。いってらっしゃいませ」

 

忙しい中でも店主の会話に耳を傾けていたエルフの女性は、恭しくミアハ達を屋上へ案内するために店を後にする男の背中を見送った。明るい店内と対極するような真っ暗な外に出て店の右の路地に入ろうとすると、とある派閥の主神とエルフの少女や団員等と鉢合わせした。

 

「あ、デュオニュソスと何時ぞやのエルフ」

 

「こうして会うのは久しぶりだね。それにミアハも。今夜は子供達と食事かな?」

 

「久しいな。デュオニュソスも食べに来たのだな?」

 

「この店のビーフシチューの味が恋しくなったのでな。それと、もう一つ別件があって来たのだ」

 

「そうか、ならばともに食べやしないか?丁度席に案内してくれているところなのだ」

 

主神同士の会話を聞きながら路地へ足を運ぶと屋上へ繋がる階段が柵で出入りできないように閉ざされてる。が、簡単に開けられるようになっているので、直ぐに金属音を鳴らしながら屋上へ上っていく店主達が辿り着いた場所は、一階と二階と同じ数のテーブルと椅子に夜天を眺められる空間。屋上と地上を行き来する階段の他には四角い箱状の建造物があり、店の中に出入りするための扉もある。更には中心に位置する場所には鉄棒が突き刺さっている。現時刻は夜なので屋上の扉の壁に備わっているスイッチを押すと、鉄棒の先端が傘のように広がって、暗闇を掻き消す様に各テーブルに向けて明るく照らす魔石灯が淡く発光する。

 

「おお、こんな仕掛けがあったとは」

 

「普段使わないから皆知らないのさ。この場所を利用させたのは皆が初めてだし」

 

「ロキやフレイヤですらもか?」

 

「あの二人は誰よりも早く正式で事前に予約するからここには来ないのさ」

 

自分達が初めて利用を許された場所だと感嘆しつつも席に座る主神達。

 

「店の中と違ってな。手間が掛るけどメニューが決まったらこの扉の横にある黒いスイッチを押してくれ」

 

「それが君を呼び出すものなのだな?わかった」

 

「それじゃ、ごゆっくりと寛いでくれ」

 

指を弾く店主に呼応して各テーブルに座ったミアハやデュオニュソス達の目の前に、発現した魔方陣から発する光と共に分厚いメニュー本が出てきた。それを見ず扉を開けて中に入っていなくなる店主に―――。

 

「ああ、ちょっと待ってくれ。彼女が君に渡す物がある」

 

制するデュオニュソスに振り返り小首を傾げる店主。何故か緊張の面持ちで異国の王子風な主神に背中を押される形によって、濡羽色の長髪に赤緋の瞳のエルフの少女が店主に近づいた。

 

「・・・・・っ」

 

いざ実行を臨もうとするとあと一歩のところで勇気が出ず、羞恥と緊張でほんのりと頬を染めては顔を俯いて立ち尽くしてしまう。優しく生温かな眼差しと共に『頑張れ』とエールを送る主神と団員達から見れば、後ろに回してる両手にはピンクの箱を持っているエルフの少女の姿が視界に入る。

 

「っ・・・・・」

 

程なくして意を決した風に顔を俯いたまま、無言で両手だけを店主に向けて突き出したことで箱の存在が明るみになった。同時に犬人(シアンスロープ)の少女は察した。あのエルフは、自分と同じ目的でここに来たのだと。とある銀髪で、精緻な人形、という言葉が真っ先に浮かぶ少女と同じぐらい店主に関しては負けたくないと言う負けん気が発揮して彼女も動いた。

 

「ん、ナァーザ?」

 

いつもモフモフさせてくれている獣人の少女が近づく姿に条件反射で反応する。己の目の前まで寄って来たと思えば、可愛らしいリボンに綺麗な包みで包装された四角い箱を両手で突き出してきた。

 

「これを・・・・・貴方の為に作りました。今日は、バレンタインだったから」

 

「おっ、そうなのか。嬉しいな。この世界で初めて誰かに貰ったよ」

 

「そうなの・・・・・?」

 

「朝から今まで忙しいから誰かから貰ったことは無くてな。うん、そっか、二人から同時とは嬉しいな」

 

微笑みながらナァーザとフィルヴィスから箱を受け取り、頭を撫でられる獣人は目を細めて嬉しそうに尾も揺らし、エルフの少女は耳先まで紅潮した。二人から貰ったチョコを大事そうに持って屋上からいなくなった店主の後、隣にいるエルフ(こいがたき)(そういう認識している)へ目を向けた。

 

「お前にも負けないから」

 

「え・・・・・?」

 

ジーと意味深に見つめてくる他派閥の眷族の少女に当惑してしまう。が、こうして二人の少女の目的は達成されたのだった。

 

余談であるが、店が終わり城に戻るや否やアイズ達から一斉にチョコを貰いその日の夕食は貰った男だけがチョコということになったのであった。

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