ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
アイズは衝撃を受けた。一誠が頑なに秘密を語ろうとしなかった理由は本当の姿を晒すことだったのだと知ると今まで見てきた一誠の言動と仕草、感情が全て嘘だったかのように思えてならなかった。モンスターは人類の敵。人々の悲しみと涙を生む絶対の悪。
―――アイズの大好きな人達を奪った絶対に許さない討つべきの存在。
(なんで、なんで、なんで、なんで・・・・・なんで!?)
かき乱される心と感情に歯止めがかからない。アイズの理解者が、アイズを強くしてくれる者が、アイズが心を開いた者が、アイズが―――アイズが―――アイズが―――・・・・・。
(イッセーは、最初から・・・・・モンスターだったの・・・・・!?)
幼い幼女の心は激しく揺さぶられ、黒い炎が目の前の敵を許すなと促す。自分だけでなくフィン達にも騙したモンスターはモンスターでしかないのだと。凶悪で、醜悪で、残酷な怪物に許してはならないと囁く。
「・・・・・それが、君の抱えている秘密だと言うんだね」
碧眼の瞳から穏やかさが無くなり警戒する目で一誠を見上げるフィンにリヴェリアとガレスは臨戦態勢の構えになって、何時でも対応できる姿勢に得物を握り締め身構えた。ロキはジッと淡色の朱の瞳を開けて耳を傾ける。対する一誠はまた嘆息する。
『だから言っただろう。俺を受け入れることは不可能に近いと。お前ら、俺が能天気な秘密を抱えていると思っていたのかよ?』
「正直言って僕は君の秘密を慢心に捉えていた。いや、ガレスとリヴェリアもそうだったかもしれない。ロキもだ」
『人の悲しい秘密は大抵そいつが経験した人間同士で起きた悲惨な過去の部類でしかないのが大半だ。だが、完璧に人の皮を被ったモンスターが町中で我が物顔で闊歩していたなんぞ誰が思うか?しかもここはダンジョンがある都市だ。人類の天敵のモンスターの俺もお前らの敵として認識される。だから黙っていて当然だろう』
「ああ、そうだろう。だけど、腑に落ちない点がいくつかある。聞いてもいいかな」
構わないと鎌首を首肯する一誠に遠慮なく質問をぶつけ始めるフィンは人差し指を立てた。
「君はダンジョンから生まれたモンスター、なのかな?理知を備え人語を完全に理解して喋っている。君の様なモンスターはダンジョンの中に他にもいるのかい」
『否、と言えば信用してくれるか?』
「・・・・・難しいね。こうして対話そしている間にも僕は驚いているんだ。モンスターと話ができる日が来るとは思わなかったのも事実。だから慎重に会話を臨んでいる」
『【
元の姿、人間の姿に戻ってフィンを見下ろす一誠は頭を掻く。
「さて、俺がダンジョンのモンスターでは無い事実を証明しなくちゃならないよなぁ。言葉で語らせてくれるなら何でも言えるが、嘘か誠か判断できるロキがそれをできないでいるから正直信憑性が欲しかった」
神の前で人類は嘘を吐くことはできない。それが絶対なのだ。それができないのだとすれば思いっきり嘘を織り交ぜて会話ができるので信用をすることは難しいのである。それを把握している一誠は困った顔で頭を掻くのだった。
「取り敢えず、話だけは聞いてほしい。その間俺からは絶対に何もしない」
「・・・・・ンー、分かった」
少し考えた後であっさり了承したフィンに驚きで「いいのか」とリヴェリアが訊ねる。
「ああ、彼が秘密を言いたくなかった時の言動と反応に理知を備えているモンスターを考慮すれば、少なくとも僕達から手を出さなければ何もしてこない。実際、彼は僕達に対して変わらない態度で接している」
「逆にお前達はもう完全に俺を俺としてでは無い接し方をしているがな。だから嫌だったんだよ。教えたくなかったし結局教えればこうなるんだ。今絶賛、お前らは完璧に俺を警戒して笑って受け入れ難いでいる。どこのどいつだっけ?」
『僕達が君を忌避するような秘密を抱えても僕達は同じ【ファミリア】の仲間で家族だ』
『どんな秘密を抱えとんのかしらんけど、うちらがそう簡単にイッセーを嫌うことは絶対にない。せやから話してくれへん?』
「―――とか言って俺に秘密を明かすよう急かした奴。今その通りになっているのかああん?」
「「・・・・・」」
ギロリと主にロキとかフィンとかロキとかフィンとか睨みつける一誠に当の二人は口を真一文字に閉ざした。その反応に不快と眉間に皺を寄せる。よもや自分はモンスターと言われるとは思わなかった結果だ。反応に困ってしまう主神と団長に同情を覚えるリヴェリアとガレス。
「・・・・・イッセー」
「アイズ・・・・・」
「教えて・・・・・」
と、顔を俯いていたアイズが衝撃が抜けないまま真意を問うた。
「イッセーは、モンスターだったの・・・・・?ずっと、私の願いを知って、私とおんなじだって言ったあの言葉は・・・・・嘘だったの・・・・・?」
「・・・・・」
答える前に、人差し指を立てて円を描くように振ると【ロキ・ファミリア】の上空の雨雲だけが蠢き、避ける様にして青空を覗かせぽっかりと空いた雲の穴に太陽の光が差した。その雲の動きを見ていたロキ達は。
「まさか、天候を操ったのか」
「モンスターが・・・・信じられん」
『
「嘘じゃない。俺も昔はアイズのように弱くて強くなりたいと思った。だからアイズの気持ちは分かるんだ」
「嘘!モンスターが私の気持ちなんて分かる筈がない!」
「だったらアイズは俺のこと知ってるのかよ?俺の昔の事なんて聞こうとしなかっただろう」
「知らない!モンスターの事なんて、知らない!」
「だったら今教えてやる。さっきのずっとモンスターだったのかと答えは否だ。俺は元人間だ」
元人間、金眼が言葉を失って大きく見張り一誠を見つめる。
「元、人間・・・・・?」
「モンスターになったのは5歳ぐらいだったかな。そうなった理由もあるんだが聞いてくれるか?」
「・・・・・」
「嘘か本当か決めるのは話を聞いてからでも遅くない。当然ロキ達もな」
「分かった。こっちが教えてと言ったんや。大人しくしとるから聞かせてほしい」
ああ、と頷く少年はずっと閉じていた右眼を濡羽色の目を開眼する。覗き込み続けると自分が吸い込まれそうな錯覚を覚える真っ黒な瞳だった。
「右眼、あったんだね」
「この目は俺の目じゃないんでね。開けていると色々と不都合があったんだが・・・・・」
右眼に意識をしている様子の一誠はどこか残念そうに肩を落とし、両眼を開いたまま話を続ける。
「立ち話も何だ。俺の中にいる奴らも含めて話を聞いてもらおうか」
「なに?どういうことだ」
「こういうことだよ」とリヴェリアに答える一誠の右眼がロキ達に濡羽色の光を照らした。視界を塗り潰し意識が吸い込まれそうな感覚を覚えた時は目の前が真っ暗だった。しかし次に目を開けた時は、フレイヤが魅了した一誠の心の風景の中に立っていた。草原の上に足を踏んで佇み、森林や大海原、蒼い空が広がる別の場所に瞬間移動したかの様に驚いた。
「な、なんやここ・・・・・うちら、何時の間にここにおんねん?」
「
「じゃがあやつはモンスターであることは間違いないのじゃろう?」
「ここで話をするということか」
「・・・・・」
しばらく周囲を眺め、真紅の光と共に遅れてやって来た一誠の姿を確認し対峙する。
「ここは俺の心の中だと先に言っておく」
「心の中?凄く穏やかな場所なんだね。居心地が良いと言うかなんというか」
「当然だろう。俺自身が穏やかだから」
「胸張って言うほどかいな」
「無い胸より逞しい胸板があるがな」
嘲笑い、ムッカー!と怒り心頭のロキやフィン達の頭上を一瞬遮る影。翡翠の瞳が何だと空を見た瞬間、太陽を背に巨大な影が一誠達を囲むようにして舞い降りてきた。巨大な翼を力強く羽ばたかせ、次々と地面に地鳴りを鳴らしながら降り立つ怪物達―――。
「こいつ等も俺の証明となるからここで話すことにしたんだ」
姿や形が違えど、共通しているところもある。怪物達が何なのかフィン達は直ぐに悟った。
「改めて名乗ろう。俺の本当の名前は兵藤一誠という。この世界とは違う別の世界、異世界からやってきたドラゴンだ」
『階層主』より巨大で理知と理性を備えている怪物達、ドラゴンが囲みながらジッとロキ達を見下ろす。その内の一匹、三頭竜が一誠の後ろから顔を近づた。
『我が主よ。説明しても意味は無いとは思うのだが』
「そーいうなって。少なくともこの世界で世渡りをする為には信用を得なきゃならない。信用なくても構わないが、こうなったら話さなきゃならんよ」
『この世界では、我等は人類と神の天敵として成り立っているにもか?』
「この世界のモンスターが、だ。異世界から来た俺達ドラゴンは違うだろう。まぁ、グレンデルやニーズヘッグはそうなっても仕方がないかもしれんけど」
一誠の視線の先には背中に翼を生やす巨人型のドラゴンと蛇の様な胴体に翼を生やす巨大なドラゴンが戦意と殺意、腐臭を漂わせる涎を垂らしギラギラとロキ達を見つめていた。
『おい兵藤一誠。こいつらと戦わせろ。第一級冒険者とかなんとかしらねぇーけどつえーんだろ?戦って殺し合いがしたいぜ!』
《ぐへっ、ぐへへへへっ!力を封印した神ならオイラでも食べれる!た、食べてみたい!喰いたいっ!この世界の人間を食べたい!》
早速この言葉だった。額に手を当てて困ったような面持ちで呆れ果てる一誠と『堕龍が』と罵るアジ・ダハーカは揃ってため息を吐いた。悲鳴を上げるロキ。
「イッセー!なんや、ダンジョンのモンスターと変わらんドラゴンがおるんやけど大丈夫やろうな!?」
「あー大丈夫大丈夫。今のロキ達は意識だけを引っ張ってきただけだから本当に食べられても肉体には何ら影響は無い」
「それが本当だとしても、僕達はこのモンスター達の前じゃ手も足も出ないよね」
「うん」
「キッパリと首肯しよってこやつは・・・・・」
フィン達より強いモンスターに囲まれる状況の中で一誠は自分のこととロキと同じ名前の神々が存在する異世界のことを説明した。モンスターに転生した理由も含めてだ。全て秘密を教えられたロキ達は案の定、信じ難いという感想を抱きながらもアジ・ダハーカ達の存在を突き付けられては事実として受け入れる他なかった。
「・・・・・よーわかったわ。ますますあの色ボケ女神んとこに行かせたくないわーって気持ちが高まったわー。それとな?因みに聞くんやけど。イッセーの世界のうちってどんな感じなん?やっぱり女?」
「や、美青年。悪神ロキって呼ばれてる。実際、俺が倒しちゃった」
「そっちのうちは男なんて世界は残酷やぁーっ!?」と本気の悲鳴を上げては四つん這いになって泣いてフィンを苦笑いさせた。
「ロキが邪神みたいな呼ばれ方をしているのは意外だったけど、君の世界の
「大して変わらんよ。中には強い勇者を目指している
「そうなんだ。会ってみたいねその同胞と」
「のう、ドワーフはどうなんじゃ?」
「ドワーフは鍛冶が得意とする種族でエルフと同じ秘境の地に住んでいるんだ」
「秘境の地、森の中か?」
「ん、人間が住んでいる場所から離れ静かな森の中で住んでいる。それとドワーフと同じで寿命が長い。中には1000年も生きているエルフもいるし、昔から戦争をして人間と敵対しているエルフ達もいる」
異世界の同胞のことを気になり訊くフィン、ガレス、リヴェリアは感心する。別の世界の同族といえども変わりないところがあると知ってどこか嬉しそうであった。
「で、俺に対する危険度はどうなんだ」
これだけ秘密を暴露したからには変化があってもいいだろ、と思いを込めて問い掛けたところ。フィンは朗らかに笑みを浮かべて頷いた。
「うん、この世界のモンスターではないなら、君に手を出さない限り無害だと認識したよ。モンスターに転生した理由も教えてくれた。自分の意思で人間からドラゴンになったわけではないこともね」
「ドラゴンに転生して後悔したことは無いがな」
とそういう一誠の後ろからアジ・ダハーカが誇らしげに喋り出した。
『我が主は俺の最高の唯一無二の存在。ましてや主がドラゴンに転生していたなど後に改めて思った時は笑いが止まらんかったぞ』
『我々は驚きましたがね。主はただの人間ではなかったことに対して』
『お前と我が主の因果と出会いには感嘆の一言だ』
金色の優しい声音の天使の様な翼を生やすドラゴンと凶暴で凶悪そうな顔の全身が紫のドラゴンの言葉に他のドラゴン達は様々な反応を示す。それにはロキ達は不思議に思い問う。
「何か他にもあるんか?イッセーに隠された秘密ーとか」
「んーまぁ、あるにはある。俺も実感しない秘密だ。太古の昔に存在していた魔王の転生者なんだとよ俺は」
「ほー魔王か・・・・・魔王っ!?」
「うん、で、昔の俺、魔王はアジ・ダハーカを作った魔神でもあってな。だからアジ・ダハーカはかつての主の転生者の俺に忠誠心を向けているんだよ」
『そういうことだ。笑えるだろう?』。ロキに向けるアジ・ダハーカの言葉に「いや、全然笑えへん」と冷や汗を流すロキだった。
「あかん、めっちゃあかん・・・・・うち、とんでもない子供を眷族にしていたなんてもう生涯絶対に忘れられん驚愕ものや」
「生涯って、何億も生きてるババアが何言ってるんだよ?」
「ババア言うなっ!?他の神連中に喋るで!?絶対にお笑いのネタになって興味や好奇心で自分にしつこく追いかけ回すで!?」
『してみろ。我が主に襲いかかる人間どもは我らが根絶してやる』
威圧を膨れ上がらせるアジ・ダハーカ。その力と存在感は間違いなく『階層主』を軽く凌駕している。顔色が青褪めるロキに、緊張で顔を強張らせるフィン達。武器も無しに格上のモンスターと戦うのは無謀に等しい。金色のドラゴンがやんわりと諭す。
『主は無用な争いは好みません。もしも、安易な気持ちで主の秘密を語ってしまえば主の居場所はもはやこの世界からなくなります。くれぐれも秘密を漏らすことのないようお願いいたしますこの世界の神ロキよ』
『付け加えて言わせて貰う。主を裏切ったり心を傷つけることもあれば、この粗暴なグレンデルとニーズヘッグを世界に放り出してオラリオを蹂躙してくれる。無論、我等もな』
「メリアはともかくゾラード。マジで洒落にならん事言うな。おいグレンデルとニーズヘッグ。本当にそうなってほしいと期待する目でロキ達を見るんじゃない」
紫色のドラゴン達の警告と危険極まりないドラゴン達に呆れる。
「・・・・何て言うか、君も大変?なのかな?」
「俺という手綱が失えばもう好き放題するからなこいつら」
「分かったよ。君を裏切ったら恐ろしいね」
「はぁ・・・・・恐怖と絶望に恐れてできた関係になりたくねぇ・・・・・」
フィンの心情を察して零した溜息にガレスとリヴェリアも同感だと頷いた。ふと、ガレスはあることを訊ねた。
「訊くがイッセーよ。お主の家族は健在か?」
「多分、そうじゃないか?まあ、俺の家族は色々と凄いから心配しても問題ないけど」
「そうか。お前を好いている者達も心配しているだろうに」
「こんなモンスターの俺でも、な。対してこの世界じゃ俺の正体を知っても尚、異性として好きになってくれる女はいないだろうよ」
そう言うがアジ・ダハーカ達の間では『主の魅力は天井知らず』『物好きな者もいるはず』と確信をしていた。フィン達は知らない。元の世界で一誠を慕っている者達の凄さをと一誠の魅力はフレイヤ並みかそれ以上だと言うことを。
「さて、話は終わった。現世に戻るぞ」
「せ、せや。はよう戻りたいわ!モンスターに囲まれるこの状況はもう勘弁したいわ!」
『同じロキの名を持つ神でも度胸がないな。ああ、女神だと言うのに胸も無いからか。はっ、笑える』
「うっさいわボケェッ!力を封じとらんかったら自分ら全員纏めて倒してるわ!?」
モンスターにまで馬鹿にされて怒っては食ってかかるロキに不敵の笑みを零すドラゴン一同。
『ほほう、それは楽しみだ。天界に殴り込みすればそれが可能か?』
『楽しみですねー』
『グハハハッ!異世界の神と戦える日が待ち遠しいぜ!』
《興味ある。兵藤一誠、天界に行ける術を模索しないか?》
「うん、お前ら一度黙ろうか。ロキが今にでも泡吹いて卒倒しそうだから」
怯えるどころか逆に好戦的なドラゴン達であった。実際に殴り込みされれば、ロキは確実に神々から非難の嵐の渦中に閉じ込められるだろう。その会話を最後にロキ達は一誠の手によって
「アイズ」
金髪金眼の少女に話しかける。今までずっと耳を傾けていた少女は金眼を見上げる。
「俺のこと知ってどんな気持ちを抱いた?」
「・・・・・」
「お前の言うとおり、俺はモンスターに変わりないがこの世界のモンスターと一緒にしてほしくないのが心情だ。でもアイズはそれでも強くなるためにはモンスターを倒さなきゃいけない。人類の敵のモンスターを許してはならない」
目線を合わせ、真っ直ぐ金眼に視線を送り言葉を掛ける。
「俺も許せないかアイズ・ヴァレンシュタイン?」
目を地面に落とし顔を俯く少女は肯定も否定もしない。一誠という存在の話を聞かされてから顔に迷いが浮かんで今もそれが消えていない。
「・・・・・分からない」
「・・・そっか。じゃあ、分からせる為にはやることはただ一つだな」
空間を歪ませ、ポッカリと空いた空間の穴から掴みだした今まで見たことのない大剣。宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、刃の部分は白銀を輝かせ剣身の至るところに不思議な刻印が刻まれている装飾と意匠が凝った金色の大剣をアイズに向けて突き出した。
「俺と勝負しよう。ダンジョンの12階層で」
「っ!?」
「極東の言葉には、剣と剣を交えて口の代わりに言葉を交わすってのがある。それに倣って戦うぞアイズ」
困惑するアイズを置いて先に転移魔方陣で忽然と姿を消す一誠。更に当惑する彼女はリヴェリア達から促された。
「行ってきぃやアイズたん」
「ロキ・・・・・」
「言葉だけでは確かに伝わり辛い時もある。イッセーはそれを分かってて誰にも邪魔されない場所でお前を分かってほしいのだろう」
「・・・・・リヴェリア」
「お主がいつまでもイッセーを受け入れるか否定するか決まらん限りスッキリせんわい」
「ガレス・・・・・でも・・・・・」
「これはアイズとイッセー、君達の問題だ。僕達が介入しても彼はともかく君は心から納得できるかい?」
「フィン・・・・・」
決着は自分の手でつけるべきだ。そう言ってはばからないロキ達はアイズの背を押す。皆からそう言われ、一誠の秘密を知った時から混濁する気持ちを晴らす必要がある。少女は人型のモンスターと向き合いこれからどうするかぶつかって確かめるべきだとロキ達の言葉に意を決して皆に見送られながらダンジョンへ駆け出す。一誠とアイズがこれから戦う、それがどんな結末になるのか不安に駆られたのかアリサまでアイズの後を追いかけようとしたが、フィンに肩を掴まれ静かに首を横に振られた。二人が帰ってくるまで待っていようと。
雨の中を、剣を背負った少女が走っていく。そんな彼女を濃紫の瞳は見つめていた。闇に沈むとある建物の中で、その神物は見つめていた。
「ねぇ、『人形姫』って知ってる?」
「んだよ、他神様?知ってんに決まってんだろう。フィン達のところが育ててる小娘だ。とんでもねぇ速度で強くなってやがる生意気な
「その『人形姫』がどうかしたのか?」
「オレさぁ、偶然あの娘を見掛けた時から、気になってたんだよね。遠目からでも分かるくらい、瞳の中でくすぶってる・・・・・あのドス黒い炎が」
ボロボロの黒衣のフードの下で、神の瞳が少女を追う。眼下の街路を走っているその姿に、目を細めた。
「死の香りがさぁ、するんだよ。香りが濃くて濃くて・・・・・
退廃的な雰囲気を醸し出しながら、男神は笑った。
「ねぇ、今日の予定、変更しない?」
「あぁ?」
「ちょっとさぁ、派手に騒ぎを起こして来てよ。【ロキ・ファミリア】・・・・・いや、邪魔者がしばらくダンジョンに近づけないように」
通りを駆け抜けていく金髪金眼の少女が向かう場所、都市中央の『バベル』を眺め、死神はそんなことを提案する。
「他派閥の主神が指図するんじゃねぇよ。計画を変更するんだったら、まずは他の神共の許可を―――」
「【ロキ・ファミリア】の、【
「―――――――・・・・・・・
その【
「この変態野郎め。あんなガキを狙いやがって」
「違う、違う。そんな下心ないって」
部下に変更の指示を飛ばし始める幹部女に背を向けながら、少女の後ろ姿を追う死神は、口唇で三日月を描いた。
「迷える子供を助けてあげるのも、神様の仕事でしょ?」
指定された階層にアイズは足を踏み入れた。『上層』12階層だ。周囲には白い霧が漂っていた。階層そのものも朝霧を彷彿させる薄暗さに包まれており、
アイズとが12階層に辿り着く直前の時間に遡る―――。
「んー?誰かと思えばヘファイストスを誘拐した
白い霧の中でダンジョンにいる筈がない神物を偶然にもバッタリと会い、どうしてここにいるんだ?と小首を傾げる思いの一誠が声を掛けた。眷族を率いる死神は己を追い詰め、第一級冒険者を返り討ちにした相手がここにいることなど予想外極まりないだろう、乾いた笑いを零した。
「これはこれは、久しぶりだねぇ・・・・・できれば会いたくなかったけれど、まさか狙ってたとか?」
「偶然だろ。狙っていたわけじゃないし俺はここでやることがあるから来ていただけだ。だが、ここでお前を捕まえてギルドに渡せば少しはオラリオも平和になるか」
背負っていた大剣を手にして死神達に戦意を示す構えをし、今にでも飛びかからんとする一誠。そんな彼に反応する
「ねぇ、大人しくオレ達は下がるから見逃してくれない?」
「目の前にぶら下がる大好物の餌を獣が待つとでも?」
「忠誠心が高い獣ぐらいは待ってくれると思うんだけど・・・・・しょうがない。君に
鎧の中で怪訝な表情を浮かべる一誠と、うろたえながら一瞥してくる
「受け取ってよ」
次の瞬間。神のもとから、抑え込まれていた『神威』が解放されたその直後。呻くように、唸るように、怒るように迷宮の大地が鳴動する。激しく揺れる地震の次に発生したのは迷宮壁の咆哮だった。白い霧の奥、計三箇所、
「何をした?」
「さぁ?オレも始めてしたからわからないけど」
笑みを途切れない死神の視線は、身を絶えず襲ってくる自信を心地よさそうに受け止めながら徐に、頭上を仰いだ。
「あぁ―――こうなるんだ」
一誠がその視線を追った、霧の奥に立つアイズが何かを感じて天井を見た、直後。
ビキリッ、と。
「「―――――」」
迷宮の天井に亀裂が生まれる。雨のように破片が飛び、ダンジョンに召喚される『それ』を目にした途端。一誠は死神から離脱するように離れ、瞳を凍結しているアイズへ向かって跳躍した。
地上で微細な揺れが生じた事を、その原因を悟った神々は北東の魔石製品工場に
「ロキ、アイズは・・・・・」
「イッセーがおる。心配するなとは言わへんけど、信じるしかないで」
「あの三人が帰ってきたら宴やかな!」とフィン達に困ったものだと苦笑いを浮かべさせた。
「アイズ、無事か?」
「イッセー・・・・・これって、イッセーが?」
「うん、その認識は間違いだからな?俺がダンジョンをどうこうすることはできないからな?」
天井の真下で二人は合流したその間にも、それは無数の破片を飛ばして、迷宮より生まれ出でた。鋭い爪、長い牙、夥しい鱗、歪な皮膜を有する翼。そして、全身は漆黒の色。上下阪様の体勢で、その長い首をもたげる存在に、アイズの心臓が絶叫を上げる。その存在に一誠の左眼は細まる。砕かれた岩盤より完全に姿を現した漆黒の存在は、天井から落ち、翼を広げるとともに宙空で咆哮を上げた。
「アイズ、アレを倒すか?」
突然提案される。あのモンスターを私が・・・・・?
「イッセーが倒さないの?」
「俺が倒したところで無意味だ。もう知ってるだろう?」
皮肉気に、自嘲的な笑みを浮かべた後。アイズに警告の言葉を置くた。
「相手は―――ドラゴンだ。油断するなよ」
一誠の言うとおりだった。天井の岩盤から出でたモンスターは『竜』だった。
『ワイヴァーン』。
中層域に棲息するモンスター。長い尾を合わせれば全長は優に五Mに届く。斬りで覆われてなおはっきりと存在を認識できる姿は、紛れもない竜種であった。元来退紅色の体躯は、漆黒かつ強靭な鱗に覆われている。一目でもわかる『
黒き竜。
翼を広げ、遥か頭上に留まる漆黒の
「アイズ、お前は一人じゃない。それだけは絶対に何が遭っても忘れるな。忘れていなければ想いの力でどんな強敵にも打ち勝てる」
「想いの力・・・・・?」
「そうだ。それが俺の力の根源だ。その剣に想いを込めて振るえ」
次の瞬間。真上から炎の息吹が放出される。真下に直撃した火炎流が土砂を突き上げ、地面から轟音という名の絶叫を上げさせた。凶悪な緋色の光が生まれる中、竜の首が薙がれる。とめどなく噴き出す火炎の濁流は、その噴出口の動きに従って
『オォォ・・・・・』
凄まじい火炎放射によって、
「ん、アイズ。あいつを倒すぞ」
「ん」
何時しか、よく聞く一誠の言葉が自分にも移っていることにすら気付かない少女は首肯し少年が光に包まれ姿形を変え―――アイズを背に乗せる真紅のドラゴンになった。
『オオオオオオオオッ!』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!』
凶悪な存在感を撒き散らす
「ああああああああっ!」
どこにそんなものを隠し持っていたのか、少女とは思えない咆哮を放ちながら、飛ぶ竜の真下に潜り込んだ一誠の考えを悟って、
『!』
「ぐっっ!?」
すれ違い様、凄まじい勢いからなる突撃の余波によってアイズの体が一誠の背中から落ちた。急旋回して燃え盛る地獄を連想させる焼けた大地から幼い少女掬い上げ空中に舞い戻る一誠。
「斬ったっ?」
『いや、浅い。―――おっと!』
後方から火炎放射。偉大な翼に傷をつけた者達を許してなるものかと通常の
『アイズ!言えっ、必殺の魔法を!』
『「
そして火炎が炸裂する直前。アイズの口は、その音をなぞっていた。
「【
次の瞬間。アイズの中に在った『魔法』が解き放たれた。
「っ!!」
『!?』
巻き起こる大爆発。一誠と
「これは・・・・・」
落下の最中のアイズを、『風』が守っていた。その小さな体に付与されているのは気流だ。何ものよりも強く、何ものよりも流麗で、何ものよりも気高い『風の鎧』。その身に刻まれていたアイズの『魔法』。強さを求め、心の中の黒い炎に焦がされる少女を守る、風の加護だ。
『・・・・・』
背中の少女が風の気流に守られる中、身体を打ち震えさせ、涙流す。少女の魔法は少女にとって深く特別なのだろう。彼女にしか分からないことに一誠が察することはできないが何時か分かる時が来ると信じて意識を本題に集中させる。
「・・・・・イッセー、お願いとやってほしいことがある」
『無理難題なことでもやってやろう』
「うん、ありがとう」
とアイズは要求した。少女の要求という願いを聞き届けた一誠が――――空中で数多に分裂した。これには
『グッ!?』
避け続け直撃を免れようと絶えず襲いかかってくる真紅の竜の猛撃は止まらない。時折どつくかれ、殴られ、尾で叩かれ、弄ばれていることに
『行くぞアイズ!』
「うん!」
右の掌の中に跪いているアイズは風の鎧を纏った状態で―――豪快に翼竜のもとへ投げ放たれた。『風』の力も借りて、アイズは颶風の矢となった。
「うわああああああああああああああ!」
準備態勢に入った特大の息吹が仇になった。高出力の攻撃を畜力するが故に
『―――オオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
零と化した間合い。畜力を終えて放たれようとする息吹。視界で光り輝く爆炎を前に。アイズは、風の剣を振り下ろした。
「【
風砕。
『―――――――――――――アァッッ!?』
竜の顔面に振り下ろされた剣が風の力を解き放つ。叩きこまれた巨大な竜巻が上顎ごと口腔を粉砕し、行き場を失った火炎の濁流が大爆発を引き起こした。それを見て『うわー・・・・・』と思わず口を手で添えて、戦闘の際の火炎攻撃は危険だと教えられた気分な一誠は、火の粉と黒煙を突き破って少女の体が階層の奥へと落下していくのを見て、近づきに行く。気流の破片を散らしながら、なんとか『魔法』を制御して、アイズは着地した。地面を踏みならしながら近づくもう一匹の竜に振り向く。
「・・・・・イッセー」
『ん・・・・・』
「私、独りじゃなかった・・・・・」
嗚咽を漏らしながら訴えた。龍化を解き、人の姿に戻った少年は少女の前に跪いて真っ直ぐ目を向け耳を傾ける。
「ずっと、ずっとお母さんが傍にいてくれていた。ずっと独りだと・・・・・」
「何言ってんだ。お前はずっと前から独りじゃないぞ」
温かく語り掛ける少年に金眼を見開き、一誠の顔を見上げた。視界には優しい微笑みが浮かべている少年に「見てみろ」と肩を掴まれ、後ろへ振り向かされた先には可視化する気流が人の形を成してその場に佇んでいる。
「ぁ―――――」
「お前の傍にいなくても、常に誰かと絆があるのさ。この世界に来てしまい、会いたい家族と二度と会えなくなるかもしれない俺でも、過去に過ごした家族との記憶と温もりは絶対に忘れることは無い。大好きな人達と笑い合った一時は心に残るものなのさ」
美しい女性のような出で立ちでアイズに微笑みかけた。次は片手を持ち上げ、人差し指を立て、何かを紡ぐように口を動かした。
『――――――』
それが唱えられた瞬間、アイズの体を優しい風が包み込んだ。
―――あなたは独りじゃない。
体を包む風がアイズにそう囁いたような気がし、風に乗じて感じる温もりに抱きしめられたような気がした。金眼から涙が零れ落ち、頬を濡らす雫となって地面を濡らす。あっという間に人の形を成していた風が静かにアイズの前から消えてしまった。それでも少女は風に守られ続けるだろう。母の温もりを感じさせる風に・・・・・。彼女の強い憧憬が果たされるまで。
「おっ、帰ってきおった!」
「お帰り、決着はどうだったと聞いてもいいかな」
「邪魔が入った。ダンジョンにいた
「あー、やっぱそうなんやなぁ・・・・・ったく、面倒なことをしてくれるわ。で、そのモンスターは当然倒して来たんやろうな?」
無言で首肯する一誠は戦利品と黒い竜のドロップアイテムを見せつけ、それを満足げに頷くロキに一言。
「教えていたかどうかわからんけど、アイズに『魔法』を教えたからな」
「待て、何故お前がそれを知っていた」
思わず反応したリヴェリアは自ら『魔法』を発現していたことを肯定した。が、大して気にしないで不敵の笑みを浮かべる一誠。
「異世界の力を舐めるなよ副団長?俺が視界に入る全てのものの情報が手に入ることも可能なんだ。【ステイタス】もな」
「それ、チート過ぎるでイッセー!」
「異世界、恐るべしっ!?」と戦慄する主神に笑みを浮かべ続ける一誠だった。フィンはアイズに話しかける。
「アイズ、現れたモンスターと一緒に戦ったかもしれない。だからそれを前提に訊くけど、彼のことどう思った?君にとってただのモンスターだったかな」
「・・・・・」
漆黒の
「・・・・・イッセーは、モンスター。でも・・・・・」
「ん?」
脚衣を引っ張って、跪いてほしいと視線で訴えられその通りにすると少女と目線が合う。「あ、これって」とデジャブを覚え、予感するロキ達の前で―――少女の踵が上がった。
「・・・・・」
予期しなかった行動に一人除いて固まった。少女は人の姿をしたモンスターに一生に一度しか捧げれない初めてを捧げたのだった。わなわなと体を打ち震わせるロキに石のように硬直するリヴェリア、苦笑いが癖になったかもしれないフィン、「若いのぅ」と感想を漏らすガレス。ホームから出てきたアリサがその瞬間を見て凄まじい衝撃を受けた。
物語の絵本を読み聞かせてもらった際に知った知識を活用し、幼く小振りな唇を少年の唇に押し付けたアイズは左眼を固める一誠から離れ、ほんのりと顔を赤らめながら言った。
「貴方のことが・・・・・好き・・・・・」
自分の気持ちを整理した末に淡い恋心を抱いたのであった。
『やはり別の世界に行っても主は主であったな』
『初めてですね。幼い子供に好意を抱かせるなんて』
『当の主はそうさせた覚えは無いと言うだろうなこの後』
ドラゴン達も様々な感想を抱いて観ていた。