ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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話を変えました。展開が早過ぎた・・・・・(汗)


近づくこと無かれ其は破滅の化身。触れること無かれ其は万死の宣託者。

母の嘆きが災禍を呼び、神の子等を紅き肉と骸へ還す。

闇に魅入られし猫は災禍の虜となり生を長らえる。

幾重もの慟哭を生贄に築かれ、友を失いし妖精は血の涙を遺し憎悪の炎に身が焦がれる。

されど紅い紅い異邦が妖精の憎悪の炎を払い、破滅と絶望の災禍から護らん。

理を反し、失われし命を救済す。

だが努々忘れるなかれ。真の破滅と絶望、万死の宣託者は別にいる。

触れること無かれ其は異邦の夢幻を司る異形、無限を司りし異形の子なり。

触れること無かれ其は全を無に帰し虚へ還す異邦の異形。

そして神の子に扮して紛れし其は異形にして異常。

忘れるな。求めし光は真紅のもと他にない。

心を集め、身体を捧げ、覇道と王道を覆す愛を請え。

心せよ。其は運命を左右する選択―――。


冒険譚12

「!?」

 

不思議な夢を見た黒髪の少女カサンドラ。一誠が信用に預ける『予知夢』が発動したことで、彼の身に何か大局を迎えるような起きると分かり教えに向かった。

 

「・・・・・」

 

元の世界に戻されたが兵藤一誠を異世界に連れてくることが成功してから翌日。早速異世界へ繋げる魔法の詠唱を唱える。一誠が繋げようとしている異世界は緑谷達の世界だ。魔法【ネオ・ワールド・ドア】は継続時間と大きさは魔力数値に依存、憧憬によって過去・現在・未来の異なる望む世界へ行き来できる。つまり過去に緑谷達がこの世界に来た時期、二年前に帳尻合わせて元の世界に帰そうと考えた。何度も緑谷達が異世界へ来た時期を探し当てる繰り返しをしてその瞬間を見つけることが出来た。これならばどれだけこの世界にいようと過去の世界に戻せば、後はもう一人の兵藤一誠に任せるだけだ、と魔法を消したところで扉を叩く音が鳴った。

 

「イッセー、入るよ?」

 

亜麻色の髪の女性ことアスナがそう言って入ってきた。何か用かと顔を向ける男に彼女は口唇を動かす。

 

「何かしてた?」

 

「緑谷達が来た時期の世界を見つけたところだ。過去に連中を戻せば学生生活も問題なく送れるだろうよ」

 

後はあいつらがアルテミスのために恩を返すまで待つだけだ、と言ってはばからない一誠の言葉に「あの子達は苦労の連続だね」と微苦笑を浮かべるアスナは一つ提案を述べた。

 

「もう一人のイッセーをこの世界に連れてこれたなら、君も元の世界に帰れるんじゃないかな?」

 

「可能性はある。が、その為には春姫の魔法が必要だ」

 

春姫ちゃんの魔法?獣人の少女の魔法を知らない彼女に「一時的に【ランクアップ】する魔法だ」と噛み砕いて教える一誠の話を聞き目を丸くして驚嘆する。

 

「それって、凄くない?」

 

「ダンジョンの中では起死回生の魔法だ。野心を抱いている冒険者だったら誰もが誘拐してでも欲しがる。だから春姫の魔法はアマテラスとイザナギ、イザナミと俺にユエルとソシエだけしか知られていない。フィン達に教えても問題ないけど一応な」

 

そんな話を切りだしてきたアスナの意図を読もうと彼女の目を真っ直ぐ見て問うた。

 

「俺の世界に行ってみたいのか?」

 

「できたら、と思ってるよ。できるなら家族に会って安心させた方が良いと思うし」

 

「ユウキにも会えるもんな」

 

アスナが憧憬を抱いている目的の人物の名を出せば、彼女の顔に苦い笑みが浮かぶ。一誠が元の世界に行けれるならば自分も会いたい人も会えるから、早くそうして欲しいと思っているのを勘繰られてしまった。催促、促しに来たように感じられたのをアスナはちょっと申し訳なさそうに居心地が悪くなった。

 

「えっと、ユウキの事もそうだけど私は・・・・・」

 

「分かってるよ。お互い同じ世界で会いたい人がいる。だから会いたい気持ちは分かっているつもりだ」

 

「うん・・・ごめんね?変な風に思わせちゃって」

 

「ていうか、アスナに限った話じゃないぞ。俺達が異世界に行こうとしたら他の連中も自分達も連れていけ!って言いそうだからなぁ」

 

それ以前にリヴェリアやアイズ、アリサには自分の世界に連れていく口約束もしている手前。十中八九他の神々や冒険者もついてくること間違いないだろう。「あー」とアスナもこの世界の神々の個性を知っているつもりでそんな想像は浮かべるのに難しくなかった。

 

「興味持っていたもんね。特にガネーシャ様が」

 

「目を離しちゃいけないのは間違いなくあの五月蠅い神だ。ぜってぇー自己主張のし過ぎで不神者扱いされるからな」

 

「うん・・・・・」

 

連れていくとしたら厳重な注意をしておかなければ。と二人は思わずそう考えた気持ちが一つになったのを露にも知らない。

 

「今日はイッセー休みだからどこにも行かないの?」

 

「うんや、『水の都』に行く予定だ」

 

「アイテムを取りに?」

 

「あのモンスターに会いに行く。ま、会ったところで逃げられてしまうだろうから餌を釣って接触するつもりだ」

 

一緒に来るか?と誘う男に女は首をひとつ頷いた。アスナが仕度をしに部屋へ戻りにこの場を後にしたところで、入れ違うようにカサンドラが入ってきた。

 

「お、カサンドラ。初めて入ってきたな。どうした?」

 

「あ、あの・・・・・夢を見ました。それを教えに・・・・・」

 

おずおずと己の見た夢を信じると言ってくれた者に打ち明けに来た少女を真摯に聞く姿勢として目線を合うように跪いた。そして彼女から告げられる夢の内容はとある階層でエルフの身に惨劇が起きるものだった。

 

「何時来ても凄い滝だね。ナイアガラの滝みたいだよ」

 

仕度を整えた一誠とアスナは25階層に赴いていた。『水の都』に足を踏み入れ感想を述べる女性を横抱きに抱えて何の躊躇もなく轟然と音を奏でる、莫大な量の緑玉蒼色(エメラルドグリーン)の水の滝、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』と共に崖から落ちて、滝壺から更に瀑布が下へと続いているところへ落下しつつ襲ってくる半人半鳥(ハーピィ)歌人鳥(セイレーン)といった有翼モンスター等を一蹴。あっという間に水晶の岸辺、水晶の谷、水晶の崖と全て蒼水晶(ブルークリスタル)で形作られている場所へと降り立った。唯一の植物は青白い花弁を落とす蒼桜(アジューラ)だ。

 

その場所で背負っていたバックパックから大量の木材と調理器具、調味料に魚を取り出して二人は調理を始め出した。簡易式の折り畳みの台を設置し捌いた魚を調味料で味付け、アルミホイルの中に包んだら口から吐いた火炎で燃え盛る焚火の中に放り込む。捌いた魚の一つ、切り身に塩・胡椒を振って少し置き水気を拭き取る。そのあと小麦粉を薄く付けたら熱したフライパンの上に置いて焼く。それらが終わるとまだ残っている魚を『オリハルコン』、不壊武器(デュランダル)の材料にもなる、超硬金属(アダマンタイト)を超えた最硬精製金属(マスター・インゴット)の串で刺して焚火の周囲の水晶に突き刺した。この光景を見た冒険者がいたら愕然とし、『世界最硬の超希少金属』を串に製作した一誠に鍛冶師(スミス)達は悲鳴と罵声を上げるだろう。しかも調理器具も全てダンジョン用に超希少金属で製作したのだから尚更だ。事実、【ロキ・ファミリア】の遠征で付き添った際にも使ったので知ったフィン達は微妙な面持ちになったほどだ。そんな代物で調理した魚達は「上手に焼けましたー」と幻聴と共に出来上がった。香ばしい食欲をそそる匂いを漂わせるそれらを皿に盛って水辺の近くに置きだした。そして使った道具を片付けて静かに去る。自分が何時までもいたら『彼女』が出て来れないからだ。大瀑布の轟音だけが支配する水晶の場にその後、完全に人気が無くなったところで揺れる水面から一つの影が現れた。一見人影のように見えるが、下半身へ視線をずらせばすらりとした魚の尾鰭がついていた。モンスターだ。モンスターは置かれた魚の料理に目を落とし、周囲に誰もいないか確認した後に串焼きされた魚を手にしてかぶりついた。

 

「―――――!」

 

暖かな料理を口にして喜色満面の笑みを浮かべる異形は、美味しいと下半身の尾鰭をバタバタと動かした。モンスターに人類の料理の味なんて解る筈がないと思われてる筈だが、その常識を覆された瞬間をこっそりと水晶の崖から見守っていた一誠が口元を緩めてた。全てを食べ終えるまで観察という名目で見守っていたかったが、そう問屋は卸してはくれなかった。突然、『水の都』全体が激震するほどの大爆発の音が生じた。一誠は瞳を見開かせ、眼下にいたモンスターは肩を跳ね上がらせて水中へと逃げ込んでしまった(完食の後)。立った一度きりの爆発かと思えば、断続的な連鎖で爆発の音が聞こえてくる。このダンジョンの中で何が?と思った矢先に―――ダンジョンが、哭いた。

 

「―――――」

 

「な、なに・・・・・?」

 

怪物(モンスター)を産む亀裂音ではない。異常事態(イレギュラー)を巻き起こす地震(まえぶれ)でもない。比喩ではなく、哭いている。とてつもない無機的な高音域。まるで引き絞った銀の弦に刃を走らせたかのような、鼓膜を貫く甲高い音響。もしも女性が、世界そのものに匹敵するほど大きくなったら上げるような、そんな声域(ソプラノ)の音。本能が真っ赤に明滅するほど、それは確かに、途轍もない迷宮(なにか)が『哭く声』だった。だったが、不自然なまでにその哭く声音が止んだ。嵐の前触れの様に。一誠の中でその感じが不穏と嫌な予感が湧きあがって探知したところ。見知った気を持つ者達と見知らぬ者達が『水の都』の奥深くにいる事が解り、この爆発は人為的な原因であると推測して直ぐにアスナと行動を移した。しかし、先の爆発の影響とその余波でか水晶の壁面が吹き飛んでいて、床も爆ぜて、天井が落盤していて、秩序を失った水流が氾濫してした。ここまで爆発の影響が及んでいたのかと消去法として魔力の砲撃を行い、壁や床に貫通してできた穴から移動する。見知った気を感じさせる者達のところに辿り着いたのは手間取った故に数分も掛ってしまった。その数分間の間で目の前の地獄絵図が出来上がってしまっていた。

 

見た事が無いモンスターがその爪で赤髪の女冒険者の肢体を貫ぬき、血濡れの妖精(エルフ)が空色の瞳を涙で濡らして叫んでいた。水晶の広間(ルーム)を一瞬で一瞥する。既に肉塊となり果てた女冒険者と一人の獣人を残して死んでいる男の冒険者達が血の池に沈んでいてその元凶を起こしたモンスターが目の前にいる。

 

「―――――っ」

 

何時死んでもおかしくない死と隣り合わせの冒険者。冒険者はそれを同意の上でモンスターの巣窟に冒険をしているのだから同情はするつもりはない。ただ、目の前で知り合いが殺され殺されかけているのに黙って見過ごすほど薄情者ではなかった。寧ろもっと速く駈けつけられていたらだったと悔やみ、

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

「!?」

 

『!!』

 

全身を纏う雷の速度で未知のモンスターの眼前に飛び込み殴り飛ばした。水晶の壁面を破砕しながら激突した怪物とそうさせた存在を瞠目するエルフの女性は口にした。

 

「イッセー・・・・・さん・・・・・?」

 

「まだ絶望するな、リュー」

 

「!?」

 

「まだ悲観に打ち震えるな。まだこの惨劇に嘆くな」

 

希望を見出させるような言葉を紡ぎ続ける分身体。エルフの女性、リュー・リオンは胸の奥が熱い何かに満たされる。それは何なのかまだ理解できないが。

 

「まだ希望は残っている。お前の仲間を甦らせることができるんだからな」

 

「っ・・・・・」

 

「だから少しだけ待っていろ。―――直ぐに終わらせる」

 

絶望の暗雲を切り裂く暖かな希望の光が彼女に降り注いだことは確かだった。アスナにリューを任せて前方を睥睨すると、がらりと水晶の破片を落とす未知のモンスター。顔の頬だったと思しき部分は大きく砕けていて、二つ空いた眼窩の一つと広がっていた。全貌は水晶の灯りによって照らされて確認できる。59階層以上の更に下の深層まで進出している一誠でも知らないモンスターの体躯は、細く、巨大だった。二腕二足。腕はその巨躯に似合わないほど、不気味なほど細長い。同じく細長い脚の構造は逆関節となっていた。驚くべき事に肉は無いに等しく、骨ばった体を覆うのは一見装甲(よろい)にも見える『殻』で、不思議な紫紺の輝きを薄らと纏っている。腰から伸びるのは四Mはある硬質な尾だ。複雑な突起が備わる頭部も獣の骸骨そのもので、殴られて砕け散って繋がった眼窩も含めその奥に宿るのは血の如き真紅の光だった。分身体の髪と似て異なる色濃く、毒々しい。『鎧を纏った恐竜の化石』。形容するとしたら、そのような全貌。それは無数のモンスターが棲息するダンジョンの中でも、明らかな『異種』であった。全てを貫かんとする最も異彩を放つのは牙と見紛うような足の『爪』。六本ある細い指先で、大きさの釣り合いが取れないそれは、深紫の輝きを湛えている。その足爪で体高三Mの大型級の体を起こして『敵』を睥睨する。

 

「・・・・・やっぱりギルドに載っているモンスターの図鑑にはないモンスターだな。新種か?」

 

「気を付けてくださいっ。あのモンスターは魔法を跳ね返します!貴方の、異世界の魔法ですら通用するかわかりません!」

 

「へぇ、興味深いな。だったら試してやる」

 

前方に手を掲げ集束、軽く圧縮した魔力を放った。真紅の魔力が炸裂する寸前、無言で相対する未知のモンスターは、紫紺の『殻』に包まれた体を発光させた。直後。分身体の体に、魔力の塊が跳ね返された。

 

「面白い」

 

己の魔力を横薙ぎに振るった腕で明後日の方角へ弾き、爆発して舞う水晶の破片を尻目に笑みを浮かべる。今も薄らと発光する敵の装甲殻。鋭く禍々しい怪物の『殻』は、魔力弾が接触したと思われる腹部に波紋を広げながら、傷一つついていなかった。それ故に物珍しさと興味津々で口端を吊り上げた。

 

「そーいう自慢や自負する能力を打ち破りたくなるんだよな」

 

幾重の魔方陣が水晶の広間(ルーム)中に発現していく。そして一つの魔方陣から撃ち出される火炎球に再び『殻』を発光させた。当然の結果として跳ね返すが別の方角から魔法が放たれる。足元にも浮かび上がる魔方陣。

 

「さーて、その自慢の『魔法反射(マジック・リフレクション)』。どこまで跳ね返せれるか実験といこうか」

 

永続的に放たれる魔力の砲撃。魔法を反射するにしても限度がある筈だと踏んでいる。絶え間もなく魔法を放ち続ければ反射はし切れないことを認知している。どの世界にでも完璧や絶対など存在しないのだから。

 

『―――――!?』

 

反射しても反射しきれない。全身を抑えつける足元の魔法陣の重圧に縛られ、身動きが取れない。反射しても己を取り囲む別の魔方陣が防いで敵に直撃する事はない。永遠に続くかと思われる魔力の砲撃を浴びるモンスターは産まれてから初めて戸惑った。更に威力が増した砲撃を全身で実感し、とうとう地面に押し潰される形で平伏したモンスターの前に分身体が立った。

 

「また出会う時は、今度はゆっくりと戦ってみたいもんだな」

 

そうも言ってられない状況であるので化石のような頭部に手を触れて氷の中に閉じ込めた。殆ど戦いにもならない結果で勝ってリューを救った後に、様々な準備を整えてから【アストレア・ファミリア】の団員アリーゼ達の蘇生を始めた―――。

 

―――†―――†―――†―――

 

「で―――これが魔法を反射するモンスターなんだね」

 

城の中で未知のモンスターをフィン達に見せつける。何か知ってないかと思って問うたがフィンとオッタルは揃って見聞したことが無いと言う。

 

「【アストレア・ファミリア】をほぼ全滅にしたモンスター、魔法を反射するこの『殻』もイッセーの魔法ですら跳ね返す。潜在能力(ポテンシャル)はLv.4か5に匹敵するかもしれないね」

 

「リューの話によれば、このモンスター意外と速いそうだぞ。しかも魔石が無いときた」

 

「魔石が無いだと?そんなモンスターは聞いたことが無い」

 

リヴェリアが怪訝な目で氷の中のモンスターを見つめる。骨と『殻』のみのモンスターにでも魔石があってもおかしくない。モンスターの核は魔石なのだからその核がなければモンスターは活動できないのが常識だ。伸ばしている顎髭を擦るガレスもにわかに信じ難いとした思いを顔に出す。

 

「実際に調べてみるか?」

 

「どうやって?」

 

「臨戦態勢をしておけよ。一応、死んでいると思うけどな」

 

モンスターを氷漬けにしたその氷を魔法の炎で溶かし始める一誠にフィン達は構える。氷が完全に溶けだしても未知のモンスターは動く気配はない。念のために虚空から鎖を出して四肢を縛ろうとした瞬間。眼窩の奥の真紅の瞳が瞼を開いた様に見えだし、足爪を一誠に突き出した。不意を突いた奇襲の一撃のつもりだったが、足爪の先を掴んで防がれて失敗に終えてしまう。

 

「とんでもない生命力だな。やっぱり生きてたか」

 

『―――――ハァ』

 

バッとあっという間に距離を置いて対峙する敵にフィン達は目を張る。その動き、その俊敏さは今まで狩ってきたモンスター達と一線を超え、凌駕している。

 

「フィン達でも手に余るか?」

 

「ンー、戦ってみない事には何ともね」

 

「じゃ、倒していいからやってみてくれ」

 

「いいじゃろう。リヴェリアを頼んだぞぃ」

 

素手喧嘩(ステゴロ)であるが、負ける気はしない第一級冒険者の二人と参戦する気のオッタルが敵へと飛び掛かった。

 

―――結論を言おう。圧勝過ぎた。

 

「このモンスター、かなり速かったけれど防御力が極端すぎるほど低いわぃ」

 

「牙と足、尻尾さえ気を付ければ攻略可能だ」

 

「二人に同感だよイッセー」

 

原形をあまり留めておらず、三人によって粉々に砕かれて倒された未知のモンスター。ドロップアイテムと思しき『殻』がそのまんま残っていたが、フィン達からすれば一人でも倒し退けれる程度だった。

 

「第二級冒険者以下の者達にとって厄災か・・・・・魔法が通用しないのでは私一人であったら厳しい戦いになっていただろう」

 

「そうなると、その冒険者にとって絶望、破壊者・・・・・」

 

「勝手に名付けさせてもらうなら、さしずめ【ジャガーノート】ってところかな?」

 

リヴェリアの推測に一誠の指摘からフィンは未知のモンスターの事をそう呼称した。

 

「まぁ、こいつが何であれ好いドロップアイテムを手に入れた。魔法を反射する『殻』を用いて防具でも作ろうかな」

 

嬉々として紫紺の『殻』を回収し始める一誠の背中からガレスはリクエストを求めた。

 

「であればもしもの為に盾を作ってくれぬか?」

 

「盾の素材は不壊属性(オリハルコン)にするつもりだけど?」

 

「お前、またとんでもないもんを作る気でいたのか・・・・・」

 

全魔導師に対する最強の盾を作る気満々の男に止めることはできない。『殻』を回収して工房に保管した後、在る部屋へと向かう。その部屋の中には女神アストレアとリューに甦ったアリーゼ達【アストレア・ファミリア】の団員、そしてベッドの中で横たわってるもう一人の自分(オリジナル)と傍にいるアスナ。

 

「オリジナル、ドロップアイテムは工房に置いといたからな」

 

「おう、ありがとうな」

 

フィン達と一緒にいた一誠が音もなく消失して残された一誠が息を吐く。

 

「イッセー、また一週間も寝込む生活をするんだね」

 

「しゃーないだろ。そういう対価なんだから。それを気にするなって言ってるのにこの【ファミリア】は・・・・・」

 

「神アストレア達が?」

 

自分達がいない間に何を話し合っていたのだろうかと、辟易している男に小首を傾げ不思議そうに目を向ける。アスナが代弁する形で口を開いた。

 

「イッセーが命を削って甦らせたから、神アストレアとリューが、団員と友人を甦らせてくれた恩を返すために【アストレア・ファミリア】総意で全てを捧げ一生尽くすって」

 

なるほど・・・・・一派閥の総意の覚悟を大袈裟だと思って拒んでいる一誠に、既に固めた意思を変えない意固地アストレア達にほとほと困っていると。

 

「必要がないって言っているんだ。そんなことするぐらいならオラリオの平和と治安を守ってほしいって言っているぐらいだぞ」

 

「それだけで私の子供の命を甦らせ【ファミリア】を救ってくれた恩は返しきれるとは思えません」

 

「お前等が律儀で義理堅いってのはもう分かったから。『ありがとう』の一言を貰えば十分なんだよこっちは」

 

「貴方が満足しても私達が満足しません。できないのです。貴方は二度も【アストレア・ファミリア】を助けてくれた恩人なのだからそれ相応のお礼がしたいのです」

 

平行線ばかりが続き「これが現状なんです」と言いたげなアスナにフィンとガレス、リヴェリアはどうしたものかと話にすら加われず、完全に蚊帳の外、外野側として立たされている自分達は何のフォローもできずにいたところで、扉が開く音が鳴った。

 

「「「・・・・・」」」

 

アマテラスと仮面を付けたイザナミにフレイヤが顔だけを出してイザナミが手を招く仕草をする。自分の事か?とアストレアが自身に指させば、首肯する極東の女神へ近寄ると部屋から連れ出されて一分後。

 

「後日、また改めて伺います」

 

それだけを言い残してアストレアはアリーゼ達と帰ってしまった。急な態度に胡乱気となるが一先ず話しが保留となったので落ち着く事が出来た。

 

「どうしたんだろうね?」

 

「神の考える事は分からないのが常識だからな」

 

「ハ、ハハハ・・・・・」

 

少し辛辣な神へ送る言葉にアスナは苦笑いするしかなかった。同感と心中で思ったフィン達だったが一誠とアスナは知る由もなく、死者を蘇生して寝込んでからあっという間に六日目が過ぎた深夜。今まで身体を重ねてきた女神や女性達が一糸纏わぬ姿で男に迫り、アスナやアリシア、アナキティはともかく―――ラトラ、フィリラ、六人の女戦士(アマゾネス)、春姫、ユエルにソシエ、カサンドラ、ダフネ、【アストレア・ファミリア】までも巻きこもうとしていることに目を大きく見開かせる。何故彼女達までここにいると主神に問い詰めて、そうこうしている内にイザナミが何やら怪しげなお香を立て始めた。同時にアマテラスが液体が入った瓶を取り出しそれを含むと、アルガナ達に身体を拘束された一誠に口移しをした。

 

「イザナギが持ってきた媚薬&精力剤よ。前回の五倍の効能があるそうだから・・・・・全力で私達を久しぶりに抱いてね」

 

「因みに、私達全員それ飲んだ」

 

「あ、阿呆かぁあああああああああああああっ!?」

 

自分の意思と反して全身が昂るだけでなく、お香もただのお香ではないようで彼女達の目が熱で浮いた様に潤い頬を紅潮していた。二の舞にならないよう警戒していたつもりが、理性が千切れてあっさりとまだ幼いラトラ達まで手を出す始末。そして【アストレア・ファミリア】の主神と一部の女性団員達の純潔を奪いながら、優しくその身に甘美で地獄のような天国の快感を骨の髄まで覚え染み込ませたのだった。数時間後、死屍累々とは異なる凄まじい情事後が周囲に散らばって晒している最中でも、未だに体力がある者は一誠と身体を重ねて艶やかな表情で激しく快楽を貪っていた。

 

「・・・・・アスナ、アリシア、アナキティ。またごめん」

 

「・・・・・私達って流れやすいんだね・・・・・」

 

「・・・・・もう吹っ切れるしかないでしょう」

 

「・・・・・うん、そうだよね・・・・・」

 

今の今まで立って見ていただけの女性や少女達も交じり、結局一誠だけ残して全員が体力を使い切って深い眠りに落ちたのだが、こんなことになってしまった原因―――最後の闇派閥(イルヴィス)の砦・・・【ルドラ・ファミリア】に八つ当たりにしに行こうと決意した。有言実行―――その日、一人の男が数多の魔道具(マジックアイテム)を駆使して一つの【ファミリア】を壊滅にした。それだけ飽き足らず彼の組織に関与し者や関係を持った者等を探し出して捕らえ続けた。全て捕らえ終えるとギルド本部の前に『闇派閥(イルヴィス)と関わりある愉快な仲間達』と書かれた立て札を設置して城に戻った。その中に癒着していたギルドの職員もいたことでギルドは驚きを隠せなかった。だが生きたまま捕縛したとはいえ敵に与する商人、冒険者、更にギルドの職員まで手を出した一誠に罰せられずにはいられない身となってしまった。恨みを覚えた様々な者達から懸賞金を掛けられてしまっているのだ。都市の秩序安寧に自分達(ギルド)と協力して来た異邦人に組織として最低限で最大限の体裁を繕う為に、冒険者の地位を剥奪し要注意人物一覧(ブラックリスト)にも登録する等処理を行った。その際、赤髪の狼人(ウェアウルフ)の職員と豪遊して肥え太ったエルフのギルド長が頭を抱えている事を当の本人は知らない。

 

「ん?俺が指名手配されてた?」

 

何十人も女を抱いた二日後。『異世界食堂』で働いていた時に、一人の客から恐る恐ると情報を教えてくれた。

 

「あ、ああ・・・びっくりしたぜ。最初見間違いかと思ったけどよ紛れもなく店主の似顔絵だったし懸賞金も掛けられていたんだ。何かの間違いだとギルドの職員に尋ねたら事実だって言われてよ。店主、何したんだよ?」

 

「さぁ、悪事を働いた覚えはないんだがな・・・・・」

 

「だ、だよな?店主が大量殺人でもしないかぎりあんな高い懸賞金なんて掛けられねぇよ」

 

心底身に覚えが無いと答えると、ホッと安堵で笑みを浮かべる客の一言が気になって店主は注文を受けて作った料理を置きながら訊く。

 

「俺、いくらだったんだ?」

 

「八千万ヴァリス」

 

「あらま、意外と高額だな。今なら俺を捕まえたらその金額を手に入れられるぜお客さん」

 

挑発する笑みを浮かべながら指摘の言葉を送られる客は、千切れんばかりに首を横に振って否定する意思を示す。

 

「まぁ、そんな事になっているとしたらこの店を閉店するしかないか。要注意人物一覧(ブラックリスト)に載って指名手配されている輩の料理なんて恐ろしくて食えたもんじゃないだろうし」

 

その一言は店主の言葉が聞こえた客達だけ反応して、嘘だろう、本当にする気かと目を見開いて彼の真紅の長髪の男へ一斉に目を向けた。中には信じられないと席を立ち上がって驚いている客もいた。

 

「冗談じゃろ店主!この店の料理を食えなくなるんならば、ワシは一体何を生き甲斐に生きればええんじゃ!?」

 

「そうだぞ。仮に店主が悪人であろうと料理にも罪が無い」

 

「きっと何かの手違いだから気にせずお店を開き続けてちょうだい!」

 

「食えたもんじゃないなんて思ってないぞ!滅茶苦茶美味い飯じゃないか!」

 

「考え直せ店主!俺達の胃袋の為にぃ!」

 

「『異世界食堂』がなくなっちゃったら他の店で食う料理が不味く感じてしょうがなくなるじゃないかよ!」

 

悪人でもいいから店を閉じるな!という常連客の意見も聞こえ始め、「え、悪人でもいいのかよ」と店主を当惑させた。そのせいか奥の席に座っていた客達へも伝播してしまい、声援を送られてしまいますます騒ぎの収拾がつかなくなってしまい―――。

 

「失礼しますよ店主」

 

何時ぞやの商人と小姓が現れた。だが、客達は店主に夢中で二人の存在に気づかず店主もそれどころではないと気付かず、数分間蚊帳の外に立たされたことで。

 

「私を無視するとは言い度胸ですねこの犯罪者の男が!」

 

『あああっ!?今なん()ったピ―――がぁっ!』

 

『そのタマ潰したろうかアアンッ!?』

 

店主を犯罪者呼ばわりをしたことで鬼の形相を浮かべる客達の威圧と睨みに圧倒された。あ、ようやく収拾できそうだとこの好機を逃さず店主は話に応じた。

 

「飯でも食べに来たのか?」

 

「ふ、ふんっ、違いますよ。要注意人物一覧(ブラックリスト)に載った貴方向けの面白い催しの参加の誘いに来ただけです」

 

「催しの誘い?」

 

なんだそれ、とゴミアンが持っていた羊皮紙をバッと見せつけてきた。それに記された内容が・・・・・一言で言えば料理大会であった。

 

「何も顧みず闇派閥(イルヴィス)の残り滓を潰して犯罪者となった貴方にも『バッカスホーフ商会』主催の料理大会の誘いをしに来たのですよ。都市にようやく平和が訪れた記念に一つ、オラリオを巻き込んだ楽しい催しでもしようかと私自ら事案をしたのです。オラリオの中でどの料理が美味であるか決める大会をね」

 

『「異世界食堂」に決まってるだろ。何考えてんだよ?』

 

「外野は黙っていなさい!どうしますか店主。勿論、料理店を構える店の主として参加しますよねぇ?何よりこの私の誘いを断ればこの店と店主の風評はガタ落ちの一途を送ることになりますよ?何せあなたは犯罪者ですからねぇ」

 

くくく、といやらしい笑みを浮かべ軽く脅しめいた言葉を述べる。相手に弱味が出来てそれを握っている自分の優位の優越感を浸れているからだ。これを機にオラリオ三大商会の一つ【ヴァベルー・ファミリア】の後ろ盾があるこの店をちょっかいを掛けられるのだから楽しいに決まっている。もしも料理大会に参加したら―――。

 

「一つ聞くが、仮に『異世界食堂』が優勝したり敗北したらお前の商会の傘下に入るなんてことはないよな?」

 

「っ・・・・・」

 

「沈黙は是と受け取らせてもらう」

 

却下だ、と参加を断る店主がバッカスホーフの大会の裏を見抜いた。まさか、こうも早く己の画策を気付かれるとは思いもしなかった彼は拳を握り張り叫ぶ。

 

要注意人物一覧(ブラックリスト)に載っている貴方にこのオラリオに居場所なんてどこにもありませんよ!八千万の高額の懸賞金を狙い欲する輩はいくらでもいるのですからね!」

 

「お前もその一人なのかな?」

 

「ふんっ、危険を冒してまで大金を得たいとは思いませんよ!私は安全で効率よく利益を得る方が性に合うのですから!」

 

精々その背中が刺されないことを気を付けるのですね!とマントを翻して小姓と店を後にしたバッケスホーフ。

 

「よし、本当にそんな大会をするなら『異世界食堂』も参加してみようかな」

 

『えっ?』

 

誘いを拒んだ手前なのに手の平を返すような発言をした店主に誰もが目を丸くする、

 

「店主、本当に参加する気なのか?さっき言ってた事が本当だったら」

 

「ないない、ここにいる全員に露見されてしまったからにはそうすることはできないさ。仮にもしも本当にそうするきでいたら、三大商会や【フレイヤ・ファミリア】や他の【ファミリア】が黙っちゃいない」

 

それに、と店主は微笑んで述べた。

 

「この店を支持してくれるお前等客達がいてこそ『異世界食堂』があるようなもんさ。食べに来てくれて本当に感謝してるよ」

 

『て、店主・・・・・っ』

 

ジーン・・・・・と感動を覚える客達は絶対この店と店主を見捨てないぞ、と決意を胸に秘めた。

 

「さぁさぁ、席に座って食事の続きをしてくれ。せっかく作った料理が不味くなるじゃないか」

 

店主の催促を受け客達は笑って席に着き、ざわめきと喧騒が満ちた店の風景に戻ったことで店員達も仕事を再開する。


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