ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚16

ギルド本部の真下に築き上げられた地下神殿には何物にも音は届かない。四炬の松明に照らされてる『祈祷の間』で、二人の男神が相対していた。床に敷き詰められた石板。天井は高く、暗闇に塞がれており、壁の石材からは積み重ねられた年月を感じさせる。まるで忘れ去られた『古代』の神殿のようだ。

 

「久しいな、ガネーシャ」

 

「そう、何を隠そう俺が【群衆の主】ガネーシャである!」

 

一人は象頭の仮面を顔に装着している肌が健康的に焼けたような褐色の男神【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャ。もう一人は巨大な石造の玉座―――神座に凝然(ぎょうぜん)と腰かけている老人。二Mを超す身体は逞しく、迫力も、存在感も、そして発散される神威も通常の神々とは大きく異なる。纏っているローブ、フードから覗くのは長く伸びた白髪と白髭だ。肘掛けに太い両腕を置いたままビクリとも身じろぎをしない。彫像のように、支配者の様に、彼はそこにただ在り続けている。巍然たる不動の王―――ギルドの『真の王』は、ガネーシャと正対する。

 

「俺をこの場に招いたのはどういう事なのだウラノス」

 

「私の神威に協力をしてもらいたい故に呼んだのだ。オラリオに永住している神々の中で私の神威の協力に不可欠な男神を」

 

協力とは何のことだと疑問を抱くガネーシャにウラノスは個神的に抱えてるものを打ち明けた。

 

「人類と怪物(モンスター)との融和を、共存を図るためだ」

 

「な・・・・・」

 

ウラノスの発言に、ガネーシャは仮面の中で目を見開き空いた口が塞がらないほど驚愕を見せた。老人は表情を小揺るぎもさせず、、男神の視線を受け止める。

 

「ウラノス・・・・・自分が何を言っているのか、わかっているのか。ダンジョンのモンスターと人類の子供が融和も共存もできる筈が無い」

 

「理解している。だが、お前が思っているモンスターとは異なる」

 

「異なるモンスター・・・・・?」

 

不意に脳裏に異世界のモンスターの姿が過った。まさか、あの子供の事か?とギルドにバレていたのかと警戒する。

 

「ダンジョンに理知を備えるモンスターが存在している。それも本能のままに襲いかかるのではなく、人との対話を望んでいるモンスターだ。私は意思を備え、それを伝える術を持ち、理性と宿している彼等の事を『異端児(ゼノス)』と呼称している」

 

「『異端児(ゼノス)』・・・・・」

 

そんな信じられないようなモンスターがダンジョンに存在していたとは、眷族達もきっと知らぬことであろう。今の今まで目撃も発見も挙がらなかったモンスターの存在がこのような形で明かされるとはガネーシャも露にも思わなかった。

 

「・・・・・信じられん、というのが今の気持ちだ。その様なモンスターは本当にいるのかすら信用できん。それも口だけ語られては協力も難しい」

 

首を横に振りながら率直な思いを口にした。千年前から人類の天敵として存在していたモンスターが何故今頃人類と融和を、共存を求めるのか理解し難い。それを手助けしようとしているのがオラリオを創設した張本神なのだからますます理解に苦しむ―――。

 

「わかった、ならば別の機会の時に会わせよう」

 

突如、ウラノスがとんでもないことを言いだした。会わせる?モンスターをここに連れてくると言うのか?

 

「できるのか、地上にモンスターを連れてくることなどすればオラリオは騒ぎになるぞ」

 

「問題ない」

 

断言され、話しは以上だと醸し出す雰囲気を感じ取る男神は地上に繋がる階段ではなく、暗闇の方へと足を運び出す途中で止まった。

 

「ウラノス、その時に一人だけ子供を連れて来ていいか」

 

「お前の子供か」

 

「元がつく。今はフレイヤの子供であるからな」

 

「信用を寄せられる子供であるのか」

 

蒼い双眸が真っ直ぐ見つめる。ガネーシャはその視線を真っ直ぐ受け止めながら断言した。

 

「できる。なぜならばその子供は―――異邦の者であるからな」

 

 

 

 

 

 

『異世界食堂』にルノアとクロエという新人が働くようになってから六日目の朝を迎えた。二人も『幽玄の白天城』に住み着いてからいうものの生活も一変し、驚嘆を漏らし歓喜を抱く。

 

「え、何ここ?あ、あれって打撃練習用具(サンドバック)?私以外にも持っているなんて意外だ」

 

「ここは肉体を鍛えるためのトレーニングルーム。平たく言えば肉体強化向上専用の部屋だ。最後の一言を返させてもらうと俺のセリフだからな?この世界にもサンドバックがあるなんて驚いたし」

 

城の地下施設のプールと隣接するように存在しているトレーニングルームに案内されたルノア。見たことのない用具が所々に鎮座していて、中には大きな鉄の円盤までもがあった。あれはなんだろうと指を突き付けて訊ねた。

 

「あのおっきな円盤は何?」

 

「ダンベルと言って腕力を鍛えるための道具だ。同じ重さのを鉄の棒に差し込んで、立ったり寝転んでしながら何度も腕を酷使するぐらい持ち上げるんだよ」

 

実際にどんなやり方なのか見せつけ、ルノアにも体験させれば「こんな感じか」と感想を漏らした。

 

「それにしてもこの城を作ったって店主・・・・・じゃないイッセーって本当に異邦人、異世界から来た人なんだね。こんなの神様でもなきゃできないよきっと」

 

「俺が知ってる神々は娯楽に飢えた、神あるまじき振る舞いをするような神じゃないがな」

 

「それってデメテル様も神として否定しているの?」

 

「豊穣を司るデメテルだから否定しない。俺が主に否定している神は人間臭すぎる神だ」

 

なにそれ?と疑問を浮かべるルノアに踵を返してトレーニングルームを後にし、一拍遅れて共に上階へ繋がる階段を共に彼女の新しい生活はこの城から始まるのだった。

 

「この城での生活はどうだ?」

 

「前に住んでいたと頃よりは天と地の差だよ。変な声がしないしお風呂も自由に入れて、さっきの部屋も楽しみだし水泳施設(プール)もあって・・・・・イッセーの手料理も食べれる。もう前の生活には戻りたくないね」

 

「感謝感激してくれたようでなによりだ」

 

「それもあるけど、一番驚いたのが他所の【ファミリア】が一緒に住んでいるとか有り得なかったんだけど」

 

他派閥同士は個人ならともかく基本的に接触は不干渉が常識である。だが、この城には【フレイヤ・ファミリア】、【ヘファイストス・ファミリア】の主神が当然の様に住み着くだけじゃなく、【ロキ・ファミリア】の団員を始め複数の【ファミリア】の元や現冒険者達が住んでいるのでルノアとクロエは度肝を抜かされた記憶はまだ新しい。

 

「元々は『異世界食堂』が出来る前から、複数の【ファミリア】の主神と団員が俺の料理を食べるために集まってきたのが始まりなんだよ」

 

「あー、イッセーの料理って珍しくて美味しいから?」

 

「そう、一週間同じ神か別の神が集りに来なかった日はない程にな。仕舞には店を構えてくれ、そしたら食べに行くって催促もされたから店を立ちあげたんだよ」

 

だと言うのに、直接集りに来るんだから店を構える意味ねーしと毒つき愚痴る一誠。意外な『異世界食堂』誕生の理由がそんなことだったとは、と神に振る舞われし者の姿は万国共通なんだなーと少し憐れに思えたルノアであった。

 

「デメテルも集りに来た神だからな」

 

「え、それこそ意外だよ。デメテル様もここに来たことがあるんだ」

 

「今でもあるぞ。ビールを作るためには麦が必要だし、作物も店や生活にも不可欠だから」

 

直接この店の店主と契約をしている話を思い出し納得。ルノアはそのビールを作っている場所を見たいと乞い、連れてってもらえば天井や床、壁際までびっしりと覆うように設けられている管や巨大な金属の箱に筒だらけの部屋を見て圧倒した。

 

「す、すごっ!ビールってこんな大掛かりで作っていたの!?」

 

「これを作るのに苦労した・・・・・うん?」

 

中を歩いていた時に一誠が不意に足を止めた。それに伴いルノアもそうして眼前に―――酔いどれ状態の椿・コルブランドと【ロキ・ファミリア】の主神ロキがビールを出す蛇口のところを占拠して飲んでいた。無断でだ。

 

「くぅ~!出荷する前のビールは飲み放題で美味いぃ~!」

 

「出来立ては早く食べる方が美味いというが、これは早く飲む方が良いだな神ロキ」

 

「せやせや、そんで冷蔵庫からちょろまかしたおつまみと一緒に飲食するビールは格別やで!」

 

「イッセーにバレたら謝れば問題なかろう。美味そうであったからついつまんでしまったと」

 

ほう・・・・・ビールの事は黙るつもりなのか?無表情の一誠の存在を知らず、バレていないことをいいことに酒盛りを続ける飲兵衛共。ルノアはこの状況に困惑してどうすればよいのかと立ち尽くすが一歩前に足を出そうとする隣の男を見た。前に出した足はわざと大きな音を立たせて存在を主張する。

 

「「―――――」」

 

肩を跳ね上がらせる飲兵衛達は恐る恐ると背後にいる存在へ振り向き、視界に入れた途端に血の気が引いた様に赤らめていた顔が真っ青に染まった。

 

「『他』派閥のモンが何勝手に無断で俺に黙って店の酒を飲んでいるんだ?ん?なぁ、おい」

 

黒く染まった両手の指の関節をボキボキ鳴らしては炎雷を纏う。

 

「お前達の酒だってちゃんと用意してるのに。なぁ、一度ならず二度までも勝手に俺の酒を飲まれちゃあさ。俺、この怒りをどう表していいんだろう?土下座して謝れても許す気は全然ないんだよ」

 

思わず一歩二歩後退りして助けを乞う視線なんて気にしていられず、初めて見る一誠の怒りに声を失うルノア。椿とロキに近づいた龍影に覆われて・・・・・。

 

「―――最期の晩餐は済んだな?」

 

それから二人の身に何が起きたのか、現場にいた元『黒拳』の少女は後に声明してくれた。

 

「あの人と殺し合いをしたというのに、助けられた自分が運に恵まれていたことを始めて痛感しました。え、あの二人は今どうしているって?・・・・・思い出すだけでも恐ろしいですよ。泣いても許しを乞うてもあの人は・・・・・笑いながら罰を与えたのですから」

 

二人への粛清もといお仕置きを終えたその日の内にもう一人も尋ねる。扉に叩いて音を鳴らし、訪問者の存在を主張する。「ちょっと待って欲しいいニャー」と声が聞こえれば待ち、入ってもいいと了承を得たら、無遠慮に扉を開けて中に入る部屋は豪奢な絨毯や天蓋付きのベッド、シャンデリア型の魔石灯、更には暖炉型の魔石製品、調度品などの贅を尽くすが如く、この城に移り住む際に全ての所持品を持ってきた元『黒猫』だけの城になっていた。当の猫は下着姿でベッドに寝転がって優雅に葡萄を食べていた。

 

「って、店主もといイッセーかニャ。うら若き乙女の下着姿のミャーを堂々と見てきたって皆に言い触らしてやるニャ」

 

「返事を聞いてから入ったからにはそっちの対応が悪いってことだな」

 

クロエのもとへ寄りベッドの上に乗り出す。胡坐を描いて果物が盛られた皿に手を伸ばして葡萄を一つ摘む。

 

「この城に移り住んで慣れてきたか?」

 

「もう前の生活より断然こっちの方がいいニャ。ミャーが望んでいた家と環境が揃っているここなら飼い猫になってもいいのニャ。ただ一つ不満があるニャ」

 

「不満・・・・・?」

 

黒猫はビシッと一誠に指した。

 

「おミャー、好物のアップルパイを食べる時に小さい子供になるニャらずっとそうして欲しいニャ。そしたらミャーが可愛がってやるのに」

 

「・・・・・ショタコンかお前」

 

「可愛い男児(ショタ)を舐めるニャ!あの柔らかいお尻はミャーの癒しであり宝ニャ!」

 

性癖がねじ曲がってるクロエに物凄く呆れて深い溜息を吐く。こいつから世界中の子供に毒牙、魔の手から護らなければいけないかもしれないと、思う反面。

 

「子供が好きなら暗殺者じゃなくて保育士になりゃいいものを・・・・・」

 

「ニャ?保育士?」

 

何それ?と訊いてくるクロエに噛み砕いて教える一誠だった。

 

「この世界じゃ学区って学問を教えるモンがあるらしいな?保育士ってのはその一種だよ。親から幼児を朝から夕方まで預かって物事を教えたり半日親の代わりに世話をする施設で働く人のこと」

 

「へぇ・・・・・それって異邦から来た、イッセーの生まれた世界にはそういう職業があるんだ」

 

「歴史や文化、科学や研究に技術、外国の事とか経済・・・・・挙げればキリがない専門職はたくさんあるんだよ」

 

それだけ働かないといけない職業があるなんて面倒臭そうニャー。と内心で語る感想中に保育士という職業の内容にちょっぴり興味が湧いた。

 

「ミャーでもその保育士になれるかニャ?」

 

「元の世界じゃ保育士になるために必要な知識と資格を求められるんだが、この世界・・・このオラリオじゃあその知識と資格はないから難しいかな。俺、そういう育成に関する偉い人じゃないし。ただやろうと思えばできるぞ。ただ一緒に過ごして物事を教えるだけなんだからな」

 

「その物事って何を教えればいいニャ?」

 

「金銭的の計算や国語・・・・・きっと学区みたいに変わらないことをすればいいさ」

 

預かる子供の人数が多いなら人を雇えば問題ない、とも教える一誠の話を聞き黒い尾を揺らす仕草は興味があると表している。

 

「保育士、保育士か・・・・・ミャーのためにあるような職業だニャー」

 

「天職だと思えば金を貯めておいて準備するんだな。応援だけはしておく」

 

「えー、一人じゃ大変ニャ。イッセー、お金を集めるぐらいは手伝って欲しいニャ。店主なんだから従業員のお願いを聞くのも店主として努めなきゃいけないニャ」

 

「ほぉ、金銭面の援助ねぇ・・・・・」

 

不意に一誠は黒い尾へ手を伸ばしだす。

 

「クロエ、ここ数日不思議なことが起きてるんだ」

 

「不思議な事?」

 

「俺が売買のために育てているダンジョンの道具(アイテム)の素材・原料や希少な植物、宝石樹の実とかあるのを知ってるだろ?」

 

ピクッと尾が不自然に揺らめく。

 

「毎日それらの育ち具合や数のチェックをしている作業をしているからわかるんだが。何故か数が少ないんだよ。特に希少な宝石の実や水晶飴(クリスタル・ドロップ)がな」

 

「・・・・・」

 

「昨日の今日まで確認した数が急に無くなるなんておかし過ぎるからさ、原因の究明のために人形兵(ゴーレム)に内蔵してた記録映像を調べたんだ」

 

尾を優しく包むようにして触れる手は徐々に力を籠める。寝転がって背中の肌を見せているクロエの顔は窺えないが、妙に張り詰めている雰囲気を醸し出していた。

 

「その結果、夜に紛れて『デュフフフ、お宝の山だニャーン』とほくそ笑む猫一匹が採取していることもわかった」

 

「へ、へぇ・・・・・この城に迷い込んだ猫にでも採取されてたニャ?」

 

それはあり得ないと断言する。

 

「俺達がいるこの城を含めてこの場所はな?魔法で空間を弄って作り上げた場所なんだ。具体的に説明すれば自分の姿を映す鏡の中に存在する筈が無いものがあるって感じだ」

 

身体を動かし、クロエの背後から覆いかぶさる一誠。男の体重ごと圧し掛かられた途端に肩を震える黒猫。獣耳の側で囁く風に言葉を紡ぐ。

 

「だから外から侵入なんてことはこの世界の魔導師や魔術師でも絶対に不可能なんだよ。お前達に渡した腕輪でしか鏡の世界に入れないんだからさ」

 

今は外されている腕輪は棚の上に置かれている。

 

人形兵(ゴーレム)以外にも【アストレア・ファミリア】にも協力してここ数日毎朝毎夜、庭園の監視を務めてくれた。彼女達もその瞬間と犯人を確認した後、お互い犯人を照らし合わせたことで真犯人が浮上したんだ」

 

「・・・・・っ」

 

「まだ売られてなければどこかに隠されていると思うんだけど、クロエは知らないか?その犯人の事も含めて」

 

「し、知っていたらどうするニャ・・・・・?」

 

「一緒に犯人を捕らえて誠心誠意に謝ってほしいと思っている。ま、ちょっとした罰も与えるつもりだけどな」

 

背中越しで伝わる心臓の激しい鼓動、動悸。

 

「男だったら髪を禿げに剃ってパンツ一丁でオラリオを一周させる。女だったら二度と悪戯が出来ないように説教と一週間、恥ずかしい恰好で俺の店の掃除を一人でさせる罰をさせる」

 

男の方は尊厳がなくされ女の方は重労働。罰の内容にクロエの顔は緊張の面持ちとなった。

 

「でさ、クロエは何も知らないんだよな?丹精込めて育てた宝石の実と水晶飴(クリスタル・ドロップ)。あ、でも水晶飴(クリスタル・ドロップ)はもう食べられているかもしれないな。一瓶で軽く数万ヴァリスもするアレ。盗まれた宝石の実なんて合計で数百万はするし」

 

「―――――」

 

押し黙る黒猫からの返答は無し。上半身を動かし彼女の横顔を覗き横目で男の顔を見た瞬間。鳶色の瞳が恐怖で滲んだ。ハイライトが消えたオッドアイの瞳と暗い顔の一誠と目が合って。

 

「クロエ・ロロ。盗んだのがお前だってことはもうわかっているんだ。これだけ言ってもまだシラを切るつもりか」

 

「っ!」

 

「誠心誠意で謝って返してくれれば初犯として許そうと思ったけど、頑なに隠し通そうとするその姿勢はいただけないから・・・・・罰を与えるぞ。店の掃除じゃない―――快楽の地獄のな」

 

確定宣告を口にする一誠が無断で酒を飲んだ飲兵衛と同様にクロエにも罰を与えたのであった。好都合にも嬌声を発するクロエの部屋の前には誰も通らず、貞操以外は奪われた少女は怒りも恨みを抱くどころか、地獄の甘い快楽を植え付けられて二度と一誠の物を盗まないことを快楽の波に呑み込まれながら誓ったのだった。

 

―――†―――†―――†―――

 

その部屋には大勢の一誠の分身体達が騎空艇を作っていたように金属と木材を加工して組み上げていた。海の濃度の高い塩分や海水で錆びることのない金属で何千、何万、何千万の線路を作り繋げていく側に蒸気機関の外車船(パドルシップ)も構築していた。異世界の蒸気機関車を解体して、一つ一つの部品を折れない・砕けない・変形しない・錆ない最硬金属(オリハルコン)製に模して造り加工する。鎚を振るい叩く度に金属同士がぶつかる甲高く不協和音が響き渡り、『ネットスーパー』で買い揃えた工具や器具を駆使してどんどん海列車の完成に近づけていく光景を。

 

「いやはや・・・・・また相も変わらず驚く光景であるな」

 

海列車作りの現在進行形の様子を見に来た椿達の目に入る。騎空艇の誕生の瞬間も立ち会った事がある神と冒険者以外初めて眼前の光景を見る面々は目を丸くして驚きを顔に浮かべた。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「「イッセー様がいっぱいですっ」」

 

「どれが本物の旦那様なのか分からんわぁ。ソシエ、わかる?」

 

「わ、わからんよユエルちゃん・・・・・」

 

「私達と殺し合った時は全然本気も全力でも無かったわけね」

 

「ミャー達、トンデもない相手を殺そうとしていたのかニャ・・・・・」

 

「イザナギ、イザナミ。本当に海列車を作ろうとしているわあの子」

 

「完成が楽しみだな。極東が今より他の島や国と交流が増え発展・豊かになるに違いない」

 

「・・・・・極東全土にも作ってほしいな。そうしてくれたら本当の意味で極東は繋がりを得れるから」

 

邪魔をしないなら見学をしてもいいと了承を得ている一同は各々と動いて傍に立つ。やんややんやと同じ顔と声で作業に没頭している分身体の中からオリジナルの本人を見つけることは困難を極める。列車よりもどれが本物なのか探し当てようとする気が強い彼女達の中で、ラトラが嗅ぎ慣れた匂いをする一人を特定して傍に佇む。

 

「イッセー様、見つけました」

 

「なんだ、俺を探す遊戯でもしてたのか?」

 

「たくさんのイッセー様がいますから」

 

柔和に微笑む少女に穏やかな気持ちとなって白い髪の上に手を置いて撫でる。撫でる手の温もりが心地良く目を細めてずっと撫でてもらいたいと思う気持ちを抱くも、アイズとアリサが直ぐに駆けつけて来て残念がった。

 

「イッセー、コレ何時できるの?」

 

「この中であれば後数年ぐらいだろうな。列車を走らせる線路って道を海に繋げなきゃいけないし、ちゃんとその線路で列車が走れるか試さなきゃいけない。やることは多い」

 

この中で?どういう事なのだと首を傾げた。しかし、わからずとも慕っている者の役に立ちたいと願い出た。

 

「手伝うよ?」

 

「ん、気持ちだけは受け取るよ。これは『鍛冶』のスキルが無いと作れない乗り物だからな」

 

アイズとアリサが揃って残念そうに肩を落とす。好きな人の手伝いをして喜んでもらいたいが必要な技術(スキル)がないと手伝えない故に。少女達が一ヶ所に集まっていることからアスナと大和も話をする為に近づく。

 

「お前、列車なんて作れるのか?」

 

「専門の技師じゃないんだぞ俺は?零から見様見真似で作るしかないんだよ。好都合にも列車の設計図も『ネットスーパー』で買えたからそれを見ながら組み立ててるし」

 

「もう、『ネットスーパー』って何でもアリな感じになって来てるね。でも、港街(メレン)から極東にまで列車を走らせるのってギルドは知ってるの?」

 

「いや、知らん」

 

おい、と大和からのツッコミを気にせずに作業をする手を動かす。

 

「オラリオが発展することならば文句は言わないだろ。船じゃなくて海の上を走る列車なら時間もかなり短縮できるし、列車なんて珍しい乗り物を見に、乗車する体験を求めて港街ももっと賑やかになる。そのことを漁を司り漁を生業としている【ニョルズ・ファミリア】にも教えたら全面的に協力をするって姿勢になってくれた」

 

何時の間にそんな話を・・・・・。自分達の知らないところで独自に動いている男に言葉も出ないアスナと大和。魚介類の出荷をしてくれてる関係だけかと思えば他にもあったことに軽く驚いた。

 

「列車ってあとどれぐらいで完成するの?」

 

「この中だったら数年後だと思っている。陸じゃなく海だからな。初めての挑戦だから色々とすることがたくさんある」

 

「完成したら新しいスキルが発現するかもしれないな」

 

「だといいな」

 

それから数時間後、作業を止めて夕食を食べ終えた後に街へ繰り出す。同行者はアスナ。護衛としてアルガナ、バーチェ、ベルナス、エルネアの第一級冒険者の女戦士(アマゾネス)がついてきた。

 

「・・・・・何故に?」

 

「君を一人にしたら危なっかしいから。私達の知らないところで何かしてるし、賞金が懸けられているんだから狙われている立場をもっと気にするべきだよ」

 

「お前は俺の母親か」

 

呆れで肩を落とす。それにしてもよくアルガナ達まで引っ張って来れたなと訊けばアスナは答えた。

 

「お店の料理を奢る約束をしたの」

 

そうなんだと四人に目を向け真意を訊ねれば舌で唇を舐める仕草をする。ああ、カルビ丼だろうなと彼女の給料は半分以下になるかもしれない予想をして南方のメインストリートへ向かう。

 

「どこに行くの?」

 

「・・・・・歓楽街だ。新たな従業員の発掘と唾を付けにな」

 

「レイラさんみたいなエルフがいたら?」

 

「すぐ身請けするぞ勿論。ただ、歓楽街を牛耳る【イシュタル・ファミリア】には転生者が三人いる。そいつらには絶対気を付けろよ。傍若無人で女を犯すことを躊躇しない強姦者共だからな」

 

特徴と転生者特有の特典の情報を五人に教え、絶対に関わるなと釘を刺す。見たことのない転生者達の話を聞かされたアスナの顔は強張り、出会わないよう気を付けようと決意する。夜という蓋がオラリオを真っ暗にしているメインストリートはまだ人通りがあり、ダンジョンから戻ってきた冒険者、労働から解放された者、娯楽を求め夜歩きする神が闊歩していた。それらに混じって歩く六人は真っ直ぐ目的のメインストリートへ足を運ぶ。

立ち並ぶ石造の娼館、抑えられた魔石灯の光、そして四方から聞こえてくる女の黄色い声に―――甘ったるい嬌声。恩恵(ステイタス)によって強化された聴覚が、耳を澄まなくても建物や路上の隅から漏れるなまめかし声を拾ってしまう。一誠やアルガナ達は気にしてない風にしているが、嫌でも艶やかな声と肌と肌がぶつかって鳴る水音でアスナは羞恥で顔を朱に染める初さを見せる。

 

「あら、『異世界食堂』の店主じゃない!どう?今夜私と―――ひッ!?」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

第一級のアマゾネス四人からの睨みに肉欲の宴を誘わんとした娼婦の女性が怯え、脱兎の如くいなくなった。

 

「・・・・・ある意味、アルガナ達が俺の防衛線になってるなこりゃ」

 

「あ、あははは・・・・・何時も誘われてるの?」

 

「まぁ、立ってるだけで軽く十人は声を掛けられる。さっきみたいに俺は知名度が高いから」

 

「「あら~ん、イイ男がいる―――ぐべらぁっ!?」」

 

「こういうのも含めてな」

 

ベルナスに殴られて吹っ飛んだ『男娼』の存在に言葉を失う。老若男女問わず仲良くなるというスキルはこういうことにも発揮するようだった。

 

「来ないだろうけどアスナも一人でここに来るなよ?女が好きな女だっているんだから」

 

歓楽街は危険地域と認識するアスナ。そして複雑な場所でもある。ここでかつての恋人の浮気現場を目の当たりにしたのだから尚更いい場所と思えない。

 

「えっと、どうやって探すの?従業員にしたいって人を」

 

「そこら中に立っているし話しかけてくるから手間が省くし、指名待ちの娼婦を覗いたり、後は知り合いのアマゾネスに聞くかだな」

 

知り合いのアマゾネス?自分の知らない人物の顔はアスナの中で謎に包まれて誰なのか見当もつかないまま、娼婦を物色する一誠の横を歩き続ける。その頃、神々は神の集まりの催し、三ヶ月に一度の『神会(デナトゥス)』に参加していた。男神は紳士の服や普段着のまま、女神もドレスで身に包み女の神として見目麗しい姿で雑談を交わす。

 

「何時も顔を合わすメンバーだから久しぶりという新鮮さの感覚はないわね」

 

「せやなぁ、その原因がイッセーやから自然とうちらは顔を出し合うしな」

 

「それだけじゃなくて私達はイッセーちゃんの魅力に引き寄せられているからだと思うわ」

 

「それもスキルの影響でしょうね」

 

各々と円卓の席に座って神会(デナトゥス)を臨む。その姿勢から感じる何かが醸し出して・・・・・。

 

「(今日こそは・・・・・)」

 

『(あの子の二つ名を・・・・・)』

 

未だに無名の冒険者の渾名を付けるためにいつもよりやる気を漲らせていた。それからお互いが得ている情報の提示、異世界から来た異邦人と転生者の目撃情報を始めたがどの神も見当たらなかったと皆無であった。

 

「(ん?そーいえば、ガネーシャのやつはおらんな)」

 

ロキが何時も騒がしい男神の不在に気付き、とても珍しいことだと思いながら不思議と首を傾げた。その当のガネーシャは―――とある路地裏の場所で待ち人と合流を果たしていた。

 

「遅れて悪い、待たせた」

 

「どうしたのだ?」

 

「アスナ達までもついてきてさ。分身体と入れ替わるのに少し苦労したんだ。俺だけ話があるって言うんだから他の連中まで連れてきちゃまずい話しなんだろ」

 

一誠が困った風に顔をしながら暗闇からガネーシャと合流してその直後。地面が口を開きだした。

 

「・・・・・隠し階段?」

 

「話しはこの階段を下りた先でしたい」

 

どこに繋がっているのか分かっている風に一誠を導くガネーシャ。階段を下りた先は狭い一本道の通路のみで二人とも黙って歩き続け、頭の上に都市の簡単な地図を広げ、主要な建物と街路の位置を計算し、一誠は大人しくついていく。そして―――ややあって薄闇が支配する、開けた空間に繋がっている僅かな階段を上った先に辿り着いた。そこは石造りの広間だった。壁際の暗がりの奥から現れる形となった一誠は、周囲を見回す。自分達が通ってきた通路を除けば、唯一の出入り口らしきものは上へと続く階段のみしかなく、この場所が地下である事を一誠は察する。そして、広間の中心。唯一の光源である四炬の松明が据えられた祭壇に、『彼』はいた。ガネーシャに導かれるまま祭壇の正面に移動した一誠はその者と正対する。

 

「・・・・・神」

 

自然と目が真摯になり、今までであった神々の雰囲気と存在感が異なる祭壇に腰掛ける男神を見上げる。男神は蒼い双眸をガネーシャに向け問う。

 

「信用できる異邦の子供はその者か」

 

「うむ!『異世界食堂』の店主であり元俺の子供のイッセーだ!」

 

「・・・・・危険人物一覧(ブラックリスト)に載せられた異邦の者か」

 

「・・・・・ギルドの真の王・・・・・ウラノスか」

 

お互い目を向け合い、視線を絡み合わせる。一誠はここへ招いたガネーシャに視線を変えた。

 

「ガネーシャ、本題はなんだ?」

 

「俺もウラノスからある話を打診されていてな。お前ならば共に話を聞いても問題ないと思い誘ったのだ」

 

「ぜってー面倒極まりないことだろそれ。俺まで巻き込まないでくれよやることあるのにさぁ・・・・・」

 

一体何の話を聞かされるのか辟易の思いで深い溜息を吐いた時に、ウラノスが座っている祭壇の裏から黒衣のローブで身体を包み隠す人物と―――赤い帽子を被ったゴブリンが現れた。珍妙過ぎる組み合わせの登場に二人は目を点にする。

 

「誰だ?そして何でゴブリンがいる?ガネーシャ、知っていたのか?」

 

「ガネーシャも知らない!」

 

ダンジョンのゴブリンであるならば破壊衝動で冒険者を襲いかかる筈。なのに理性ある眼差しを二人に向けるどころか近づいて来て、お辞儀をしてきた。

 

「お会いできて光栄です、私はレットと申します」

 

「「っ!?」」

 

流暢に語るダンジョンのモンスター。対面して人語を操られては目を背けることはできなくなった。ガネーシャはウラノスへ見上げる。

 

「このモンスターが『異端児(ゼノス)』なのか、ウラノス」

 

「流暢に喋れる者、喋れない者、たどたどしい者はいるが『異端児(ゼノス)』は以前も話した通りに理知を備えているモンスターだ。こうして挨拶も交わすことができ、人類と対話を望めることができる」

 

「・・・・・」

 

ガネーシャは物凄く唸った。その隣で一誠はレットと名乗ったゴブリンの身体を触っては持ち上げ、心底不思議そうに首を傾げる。

 

「不思議過ぎるなぁ・・・・・どうしてこの世界のモンスターが喋れるんだ?」

 

「分かりません。マザーから産まれた時から喋れました」

 

「マザー?」

 

「ダンジョンの事です」

 

ダンジョンに小さな変化が起きている?あの魔石のなかった【ジャガーノート】のような感じで全冒険者や神々が認知されていない変化が。

 

「ミスター。マリィと会ったことがあるのですね」

 

唐突に誰かとレットが名も知らぬ誰かの事を挙げた。

 

「マリィ?」

 

「マリィ。マーメイドのモンスターです。ミスターから彼女の匂いがします」

 

「え、あのモンスターも『異端児(ゼノス)』だったわけ?」

 

意外な事実の話に目を丸くし、はぁーと驚嘆の息を漏らす。するとウラノスから問われる。

 

「知らずに『異端児(ゼノス)』と接触していたか」

 

「接触というか・・・・・魚料理を食べさせてたんだ。離れた場所からこっそり見ながら」

 

「ミスターでしたか!マリィは笑いながら教えてくれましたよ。たまに美味しい物を作って来てくれる人間がいると」

 

交流あったのねお前等。ダンジョンの中はやっぱり狭いようだ。レットと一誠のやり取りを見守るウラノスはガネーシャが連れてきた信用ある異邦人としてまた尋ねた。

 

「異邦の子供よ。お前の視点から感じた上で問いたい。この世界の人類とモンスターは共に共存はできるか」

 

「共存?え、なに?そうしたいのかギルドの真の王は」

 

「神意は既に定まっている」

 

本気だと言外する彼の老神にレットをひょいっと抱えながら唸る。

 

「世界が違うからなぁ・・・・・俺の世界じゃあモンスターを使役する魔物使いって人間が存在するんだけど、人類の天敵と共存はまた千年ぐらい懸けないと難しいと思うぞ」

 

「魔物使い・・・・・モンスターを使役する方法はあるのか」

 

「モンスターと契約を結ぶ儀式を行えば出来るぞ。ただ、この世界のモンスターに通用するかわからない」

 

一誠の異世界の話に興味を持ち出すウラノスに続き黒衣の人物も話に加わる。

 

「君の世界にもモンスターが存在しているのか。ではダンジョンもあるのかな」

 

「モンスターもいるしダンジョンもある。それと同名の神々もいるぞ。ウラノス、ガイアとクロノスって神様はいるよな?」

 

蒼い瞳を丸くする。その反応だけで彼は驚いていると察する黒衣の人物と不敵に笑む一誠。

 

「・・・・・興味がある。もう少し君の世界の話を聞かせてもらえるかな」

 

「別にいいけどそれはまた別の機会で。本題は『異端児(ゼノス)』の人類と共存の話だろ」

 

ここに連れて来られた理由は何となく理解できた。ガネーシャがどういう思惑で誘ったのかはわからないが、異世界から来た者としての意見を言って欲しいのかもしてない。

 

「地上ではまずかなり難しい。当然今の今まで天敵のモンスターが手の平を返して仲良くなりたいなんて、人語で語って言ったら恐怖の象徴は払拭できない。存在意義を示して努力する他ないな」

 

ただ、と付け足す。

 

「空の世界だったら数は少ないけど共存はできるかもしれないぞ」

 

「空の、世界?」

 

「俺の船、空飛ぶ船の事は知っている前提で言わせてもらう。遥か空の彼方に、分厚い雲の先に空に浮いている大陸と見紛う島が多く浮かんでいるんだ。そこにも見たことが無いモンスターも棲息しているけど、とある島では一匹だけ人間達と共存しているモンスターがいるんだ。その島なら多分問題ないと思うぞ」

 

明かされるもう一つの世界。ウラノス、黒衣の人物は勿論、その世界に行ったことが無いガネーシャは言葉を失う。

 

「その様な世界は本当に存在しているのか?そもそも神々は知っている世界であるのか?」

 

「ロキ達にも確認したけど知らないようだぞ」

 

「何、本当に神ロキ達も連れて行ったのか」

 

ロイマンから全て包み無く伝えられている様子。ゴブリンのレットを下ろしてガネーシャに話しかける。

 

「今度久しぶりに行くつもりだからガネーシャも連れてってやるよ」

 

「楽しみにしてるぞ!」

 

ギルドの真の王の前でオラリオから一柱の神を連れ出そうとする発言を堂々と言った。それを楽しみにする神も神だが止まる気配はない。

 

「異邦の子よ」

 

祭壇から厳かな声が発せられる。

 

「空の世界ではモンスターと共存をしている島があるといったな。それは確かか」

 

「ロキ達も認知している」

 

「ロキ以外にどの神が知っている」

 

「ヘファイストス、フレイヤ。そんで三人の一部の幹部の団員だな。他には他派閥の冒険者も大勢」

 

「そ、そんなにオラリオの外へ連れ出していたのか」

 

黒衣の人物の反応に、言っとくけど正式な外出の手続きをしてからだかんな。と誤解を招かないように付け足す。

 

「『異世界食堂』の店主イッセー。その島へレット達を連れていけるか?」

 

「んー、ロキ達に無断で船に乗せることは難しいな。乗せないで一人だけどこかへ行こうとすれば質問攻めされる。ただ、ウラノスの神意ってやつを教えられたら乗せやすくなると思う。それがだめなら別の方法だ」

 

「別の方法?」

 

「ん、この場所から違う場所へ移動できる転移装置(テレポート)を作って直接行ってもらう」

 

愕然の気配を醸し出す黒衣の人物。そんな代物、本当に作れて現実の物になれば人々の交流は今よりも盛んになるに違いない。

 

「作れるのか。その夢のような魔道具(マジックアイテム)を」

 

「今は極東と港街(メレン)を行き来する、海の上を走る海列車って乗り物を作ってる最中だから直ぐには作れない」

 

「待て、色々と待ってくれ・・・・・船とは異なる乗り物を作ってるだと?君の世界ではそんな乗り物はあるのか?」

 

「無いけど俺の世界じゃあ、下界から冥界に行くための乗り物は存在してるんだ」

 

め、冥界・・・・・?黒衣の人物が狼狽える。常識を超える話をさらっと言われて半ばついていけなくなってきた。

 

「冥界、冥府が存在しているというのか・・・・・」

 

「うん、存在してる。そこに冥府の神ハーデスがいるぞ」

 

ウラノス、我々は何だかとんでもない者と接触しているようだぞ。黒衣の人物の心中は疲弊に似たような脱力感を覚え、もはや言葉を失った。

 

「って、俺が話しに加わると脱線するな。ガネーシャ、ウラノスの協力をするのか?」

 

「・・・・・ウラノスの神威には少なからず理解したつもりだ。理知を備えるモンスターを見た時は驚いたが、それと比べるならお前の方がよっぽど驚かされたと思うぞ」

 

ニッと白い歯を見せる笑みを浮かべるガネーシャ。

 

「どういうことだ?」

 

理性を宿しているモンスターより、目の前の異邦人の方が凄いとは?同名の神々が存在する異世界だからか?思わず放心から抜けた黒衣の人物が訊くと、ガネーシャが「真の姿を見せてやれ」と一誠に促しの言葉を送った。呆れ顔になる男は溜息を吐いた後に、全身が真紅の魔力のオーラに包まれ身体の骨格が変わり、やがて人の姿から真紅の鱗に覆われた巨大な身体と鼻先に鋭利な一本の角を生やすドラゴンと化した。

 

「なっ・・・・・!?」

 

「!!」

 

黒衣の人物が絶句し、ウラノスは蒼い瞳を限界まで見開き、レットは尻餅をついた。ガネーシャ以外、人がモンスターの姿になるなど誰が思う事だろうか?完璧に人の皮を被ったモンスターが正体を明かした。彼の象神の言った通り、理知を備えるモンスターよりも突如モンスターになった人間の方が驚かされるのであった。

 

「モ、モンスターだと・・・・・!?君は一体、何者なのだ!?」

 

『俺の世界じゃあ、力のあるドラゴンは人の姿に化けることができる。俺自身もドラゴンなのさ。「元」人間だけどな』

 

「元、人間!?―――神ガネーシャ、知っていたのか。この事を!」

 

問われた男神は力強く頷く。

 

『ガネーシャだけじゃなく、ロキとフレイヤにヘファイストス、この三柱の一部の団員の他にアマテラス、イザナギとイザナミ。他派閥の一部の冒険者も俺の正体を知っている』

 

「な、なんだとっ・・・・・・」

 

今日で何度目の驚きなのだろうと思う。今の今までオラリオに怪物が人の姿で我が物顔で生活していたとは・・・・・!

 

『まったく、俺の正体を知る者を増やしたくないんだがな。後々面倒なんだしさ』

 

「ウラノスは信用に足りる男神だイッセー。俺が保証する」

 

『保証以前よりも、怪物と人類を共存させる酔狂な神なんだ。信用や信頼よりも話しの判りそうな神だとは分かったつもりだ』

 

元の人の姿に戻ると黒衣の人物はその場で座りこんでしまった。

 

「は、ははは・・・・・参ったな・・・・・異世界とは我々の常識なんて関係ないのか。話に聞く転生者達の世界もきっと凄まじいのだろうな」

 

「いーや、あいつらは魔法も剣も存在しない世界らしいぞ。連中は単に異世界の神から最強や無敵の能力を与えられただけの存在だ。別に凄くないぞ」

 

肩を竦め呆れが籠った息をこぼす。万能、全能感に浸ってハイになった馬鹿な連中だと侮蔑の意味も込めて思う反面、能力次第では厄介な相手でもあると警戒しているのだ。

 

「・・・・・イッセーと言ったな」

 

ウラノスに目を向ける。

 

「世界が違えどお前もまたモンスター。お前がモンスターでありながらどう過ごしてきた」

 

「モンスターに転生する前は物凄く弱くてな。あ、俺の世界じゃ神が人類に『恩恵』なんてもんを与えないんだ。だから人類は素で身体能力や魔法、剣術など自力で鍛えて強くなるしかなくてさ。俺もその類に零れず世界中で両親と旅をしながら強くなった」

 

「お前がモンスターであるという事は気付かないのか?」

 

「一般の人間はまず気付かない。でも、力ある人間や超越した存在などには気付かれる。それでも敵対しなければ比較的に安全な暮らしが出来る」

 

「世界はお前を受け入れているのか」

 

「善し悪し関係なく世界の一部として受け入れられている。ただし、普通の一般人には刺激に強過ぎるがな」

 

質問を繰り返す老神に淡々と答える。そしてウラノスはまた問うた。

 

「モンスターに転生したと言ったな。どうやって転生したのか教えてもらえるか」

 

「魂だけを取り出して人間の体をベースにしたモンスターの身体の一部に魂を定着させた」

 

「そんなこともできるのか、君の世界では・・・・・」

 

「ま、他には半永久的に生きることができる天使と悪魔に転生する道具もあるしな」

 

「まさか・・・・・不老不死の概念もあるのか。では、賢者の石も存在しているのか?」

 

「魔術師、魔法使いの間じゃあ有名なアイテムだな。その石を使用した者は永遠の命か不老不死を得られるって話だ」

 

世界が違えど同じ物が存在していることに驚嘆する黒衣の人物。

 

「お前の本名はイッセーであるか」

 

「その名前は俺の渾名みたいなもんでな。この世界に合わせてその名で通している。元の世界じゃ―――兵藤一誠っと両親のから名を付けてくれた」

 

そう名乗った時、ウラノスの口唇から「ヒョウドウ・・・・・」と言葉が出てきた。

 

「ヒョウドウ、か・・・・・」

 

「なに?」

 

「懐かしい名前を聞いた。もはや千年の時を経てまたその名を聞くことになるとはな」

 

・・・・・あれ?どっかで似たような話を聞いた気がする・・・・・・。デジャブを覚えた一誠はウラノスに尋ねた。

 

「千年前に兵藤って名乗った人間がいたのか?」

 

「ああ、私の数少ない眷族の一人だった。あの子供の傍には確か・・・・・シキモリと名乗った魔導士(メイジ)もいた」

 

頬が痙攣する。まさか、まさかなぁ・・・・・?

 

「地上に蔓延るモンスター達を一蹴し、詠唱の有無で全てを消し去った強力な魔法を放ちオラリオの創設を共にしてきた。だが、オラリオの完成と同時に世界へと旅立ってから一度も会っていない」

 

「・・・・・それって、兵藤誠と式森一香って名前じゃなかったか?」

 

ウラノスの顔が驚愕の色に染まる。何故、その名を知っているのだとも雰囲気を醸し出していた。

 

「はぁ・・・・・年齢は教えてくれなかったけれど、あー・・・・・あの転生の神の意味深な言葉の意味がようやく合点した」

 

「イッセー、何を納得しておるのだ?」

 

「ああ、だってその二人。俺の両親だもんよ。ウラノス、兵藤誠と式森一香は元の世界に戻っていて結婚して俺を産んでくれたんだよ」

 

「・・・・・その話は、真か?」

 

嘘じゃない、と一誠は分身体と二人の姿に変身した。

 

「どうだ?」

 

「・・・・・私の記憶が正しければ、かつての眷族だった面影が残っている。そうか、お前があの二人の子・・・・・」

 

悠久の時を越えてウラノスは眷族の子と巡り合い、久しく感じなかった気持ちが湧いた。

 

「・・・・・あれ、【ファミリア】の団員が子供を産んだらその子供はその【ファミリア】の団員なんだよな?」

 

「そうだが?」

 

「じゃあ、俺の家族は【ファミリア】を脱退してないなら俺は【ウラノス・ファミリア】の団員となんだよな?」

 

あ、とガネーシャは気付き一誠の指摘は正論だと唸る。

 

「ウラノス、彼の言い分についてどうなのだ?」

 

「既に天界へ召されたのだと彼等に与えた『恩恵』は感じない。だが、別の世界で生きて『恩恵』が残っているならば私の眷族の子である認識は間違っていない」

 

だが、と言葉を続ける。

 

「今の私は武力を持つことを許されない立場にある。フェルズのような協力者の関係であれば問題ない」

 

黒衣の人物、フェルズを一瞥し一誠の顔を見つめる。

 

「あの二人の子、イッセーよ。私の神威に協力してくれるか」

 

一誠に対する認識を改め協力を求める。乞われた当人はうーん、と考えて条件を要求した。

 

「俺のやること全てギルドの公認、黙認してくれるなら」

 

「よかろう」

 

 

 

 

ガネーシャと一誠が『祈祷の間』を後にし、レットをダンジョンに送り返す黒衣の人物もいなくなって一人になったウラノス。暗闇に塞がれた天井を見上げる視線はもっと遠い何かを見据えていた。

 

「数奇な出会いをまたするとは。お前達の子を相見えたこれは定められた運命か」

 

―――後日、危険人物一覧(ブラックリスト)から一誠の名が消えたことを知った面々は揃って首をかしげた。

 

「イッセー、何かしたの?」

 

「え、フレイヤ達が何かしたんじゃないのか。圧力掛けたとか」

 

「覚えはないわ」

 

ますますギルドの対応に疑惑して真意を図りかねたのであった。

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