ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚17

初夏を迎え段々と日差しが強くなってオラリオに夏季が訪れたある日の事。帝国の―――ラーズグリーズは困った事に直面している。いつものように朝起きて朝食を済ませ、軽く鍛錬をして掻いた汗を浴場で流しそのあとは読書を。太陽が真上に上り切った昼食頃になると―――。

 

「あなた、いつもいつも主神とお爺様に四銃士の方々とどこで何なさっておられるのですか」

 

「ラーズ?私達に何を隠しているのか教えてもらうまでこの部屋から出さないわよ」

 

姉に問い詰められて秘事を暴かれようとされていた。ラーズはこの二人の姉とそれほど接した記憶はなく、ただ自分より先に生まれた存在としか認識しておらず淡々と返した。

 

「私がどこで何をしていようと自由だと思いますが?」

 

「今までずっと引き籠って部屋から滅多に出ないお爺様が、『まだまだ死ぬわけにはいかん!』と庭園で自分の体を鍛え初め、主神様は毎日姿を消して城の者達は慌てて探し回る。その度にお爺様や貴方、四銃士の姿も見かけなるのだからて私達も少なからず怪しいと思っているの」

 

「確かに貴方が誰とどこで何をしていようと自由。私達も自由にしているわ。だから何時も行っている場所へそこへ連れて行きなさい。―――さもなくば他の姉や妹達に変な噂を言い触らすわよ」

 

逆に言えば自分達以外興味を持っていないという事を言外する。時間は有限、あの主神達は今頃己が来るのを秘密の場所で待っているはずだと、扉の外から成り行きを見守ってる老従者へ視線を投げた。

 

「・・・・・わかりました。案内しますがその格好では他の者に注目の的になります。せめて控えめで 涼しい服を着てください」

 

「結構よ」

 

「いやよ、何故わざわざその様な物を着なければならないの?」

 

帝国の姫として高価な宝石の装飾を身につけ、綺麗なドレスで身に包む。帝国の王族としての振る舞いを体も表してる。そんな出で立ちであの都市へ向かえばどうぞ私達を攫って下さいと言っているようなものなのだ。これからどこへ向かおうとしているのか分かれば引き下がってくれるだろうかと苦悩する。仕方なしと二人の姉も連れていくことにし、ある場所へと赴く。その場所へ辿り着いた時には既に前王と主神、二人の護衛の四銃士が待っていた。

 

「なんだ、そいつらも連れてくのかラーズ」

 

「主神様?え、ここで何をしていらっしゃるのです?」

 

「知らずについてきたのか?飯だよ、飯を食べに行くのさ」

 

一同がいる場所は―――数え切れない酒樽が保管されている薄暗い酒蔵。主神しか飲めないある意味宝物庫の様な何百年も熟成された酒が鎮座してる場所に来ることになろうとは露にも思わなかった。この酒蔵は主神の了承無しで入ることは許されていない唯一の空間。酒蔵の扉をその主神に入る許しを得てもないのに開けたラーズに瞠目した二人は、中に誰かがいたことも含めて驚愕と疑問が混ざった顔を浮かべた。

 

「食事をしに行くって、ここ、酒蔵ですが・・・・・」

 

「当たり前だ。お前等、ここが酒蔵以外何に見えるってんだ」

 

「では、何故ここに・・・・・」

 

「ここじゃなきゃ行けないからだよ」

 

石材で組み上げられた壁に手を触れて神威を解き放つ帝国の主神。男神の神威に呼応して大きな魔方陣が浮かび上がって、円陣の部分の石材がフッと消えだす。ポッカリと空いた穴の中に主神達は当然のように潜っていく。穴の向こうに何が待ち受けているのか分からず、姫達は先行くラーズの背中を不安になりながら後を追いかける。

足があっという間の穴から出て踏み込んだ場所はどこかの古びた教会の中だった。帝国にない筈なの協会が、どうして酒蔵から出たらこの場所に?不思議と疑問で怪訝と訝しむ二人の姫は自分達の心情を梅雨も気にせず木製の扉を開けて出ていく主神達についていく。一度外へ出たら、ますますここは帝国の町並みではないことが否が応でも突き付けられる。永年人々から忘れ去られた協会や神殿の跡地から抜ければ天を衝くまでの巨大な白亜の塔が見えるどころか、どこかの大通りに路地裏から出た。

 

「こ、ここ・・・・・どこ?」

 

「帝国じゃない、のは確か・・・・・」

 

唖然とヒューマン、亜人(デミ・ヒューマン)、獣人といった人種達が暑い日射しを受けながら大通りを歩いていく姿と見慣れた城下町と違う光景を目に焼き付ける。逆にこの暑い中、ドレスで身に包む自分達へ奇異的な視線を向けられるようになるのは時間の問題だった。

 

「あ、暑い・・・・・っ」

 

「こ、こんな暑い中を歩かされるなんて、聞いていないわラーズっ」

 

「涼しい服を着てくださいと言ったじゃないですか。それに直ぐに辿り着きますから我慢してください」

 

帝国の姫君故にあまり歩かない為、自国より強い暑さで荒立ちが募り一体どこまで姉たる自分達を歩かせるのかこの異母姉弟は!と化粧を施した顔に汗を受かべながら睨み付ける。その時、後ろから大通りの雑音が走ってくる音と混じる。それを耳にしても警戒する事もない姫達は華奢な胴体に野太い腕が回され、荷物のように抱えられたと自覚したときにはラーズ達と数M離れていた。姫の自分を誰がと顔を見上げたら、ゴロツキの獣人がゲスの笑みを浮かべていた―――顔に誰かの手によって鷲掴みされた。そして獣人が地面に押し倒されかけた際に亜麻色の髪の女性が自分を男の腕から奪うように放してもらって胸の中に抱きとめられた。

 

「アスナ」

 

「うん、大丈夫。傷はないみたい」

 

誘拐犯を捕らえた男と救ってくれた女。一体誰なのだろうとラーズ達が駆けてくる姿を視界に入れながら見つめる。

 

「イッセー!」

 

「お、ラーズか。街中で会うのは珍しいな。で、もしかしなくても知り合い?」

 

「ああ、異母姉弟だ。助けてくれてありがとう」

 

「おいおい、上級冒険者が4人もいてゴロツキ相手に出し抜かれるとは何て様だ?ここがどこだか忘れたわけじゃないだろう」

 

イッセー?この男と親しく語るラーズは知り合い?

 

「ラーズ、この殿方とどういう関係なの?」

 

「数少ない友人です。帝国の次期王を決める際に私の力を貸してくれた料理人でもあります」

 

「そうそう、それからラーズ達は俺の店に食べに来てくれるようになったもんな。ご贔屓にどうもありがとうございます。持ちべきものはやっぱり友だな」

 

大人と子供、歳の差があるにもかかわらずそんなのお構いなしと肩を組むイッセーと言う男にラーズは口元を緩めた。

 

「料理人・・・・・では、何時もラーズ達が城から姿を消していたのは」

 

「ん、うちの店の料理を食べに来ているからだな。今現在のようにここ、冒険者が集まる迷宮都市オラリオに」

 

オ、オラリオッ!?二人の姫は初めて、帝国が危険視している敵国にいることに気付き愕然とする。

 

「ラ、ラーズッ。一体どういう事なのですか!敵国と繋がっているなんてお父様が知っていたら・・・・・!」

 

「知っているぞ?何せあいつの分も買っておいて俺達の行動を黙認させているからな。立場が立場だから帝国から抜け出せねぇもんで土産を買っているのさ俺達は」

 

「・・・・・主神様の自由奔放には毎度振り回されますわ」

 

「あー、うん、気持ちは分からなくないぞ」

 

「アハハ、快楽主義の神様が多いもんね。えっと、こんな炎天下の外より店の中に入りましょ?イッセー、席って空いてるかな?」

 

アスナの促しにラーズ達は本来の目的に意識を戻し、一誠は首を横に振る。

 

「大体この時間帯はほぼ埋まってる。予約だって何週間も待たなきゃいけないんだからな。となればこいつらを屋上で食べてもらう他ないぞ。ちゃんと居座れる環境は整っているがな。ラーズ、屋上でいいか?」

 

「この日差しの中で食べろと言うのか?」

 

「百聞は一見に如かず。屋上に来てくれればわかるさ」

 

捕らえた男を明後日の方へ思いきり蹴り飛ばす暴挙をしてから歩き出す一誠とアスナ。途中で「そうだ」と声をこぼす一誠が不意に止まって亜空間から二本の白い日傘を取り出して開くと二人の姫にそれを手渡した。

 

「日除けになる道具だ」

 

いきなりの事で戸惑うが、いざ手にして持ってみると気温は変わらないものの、肌をじりじりと焼く灼熱の太陽光が遮断されて幾分か涼しくなった。

 

「あ、これいい。鬱陶しい太陽の日差しが無くなったわ」

 

「うん、これがあれば平気」

 

そして王族としてその傘を使う姿は様になっていて、二人が帝国内で傘を広げて歩く姿を見た他の姉妹や貴族達の娘達の間で流行(ブーム)となり、帝国から途方もなく離れてるオラリオに傘の注文がするようになったのをこの時誰も知らない。

 

「よいしょっと」

 

一誠がラーズ達を『異世界食堂』の屋上に招いて、設置されているテーブルに突き刺さった棒を傘の要領で広げれば、日差しを遮るだけでなく傘の中にあった加工された魔石から冷気が発生してラーズ達に清涼感を感じさせた。

 

「おー、こいつは涼しいな。これなら屋上でも食べていいな」

 

「この歯車を回して冷気の強弱の調整もできる。寒かったら止めてもいいからな」

 

「わかった」

 

「それじゃ、メニューが決まったら呼んでくださいね」

 

屋上から昇降設備(エレベーター)で店内へ降りる二人を見送ってから分厚い本を手にしてメニューを決め合い始める。姫達はラーズ等の様子を見つめる。

 

「今日は暑いから冷たい料理がいいなぁ~」

 

「冷たい料理と言えばそばとうどんに限るぞ!かき氷もまた美味い!だが儂は冷やし中華を頼む!」

 

「かき氷・・・・・種類もあるし悩むな」

 

弟や主神達は何時もお忍びでこんな風に食事をしに来ていたのだろうかと、こんなはしゃぐ前王は見たこともない姫達。彼等の胃袋を掴み虜にして止まない何かがこの店にあり、笑顔にさせるのだろう。弟の微笑む顔を初めて見たかもしれないとも感じる姫達は甘くて冷たいものをラーズに任せて頼んでもらう。

 

「お待たせしました」

 

パフェとプリンアラモードというデザートが目の前に置かれた。帝国では見たことが無いデザートの類だった。見た目の美しさと新鮮さに好奇心が芽生えて銀色のスプーンを手に実食し―――その瞬間。二人の姫の目が限界まで見開いた。

 

「なにこれ、何時も食べてる高級のお菓子やデザートの比じゃないぐらい美味しくて甘い!」

 

「冷たくて美味しいです・・・・・!」

 

「喜んでくれて何よりです。ついでにこの店はデザートを持ち帰ることも可能ですがどうしますか?」

 

「「勿論、持ち帰るに決まってる!」」

 

―――というか、あの料理人を帝国に持ち帰れないの?そしたら毎日こんな美味しいデザートを食べれるのに。

―――いえ、無理です諦めてください。連れ戻されるついでに帝国が滅ぼされかねませんので。

―――せめて一ヵ月ぐらいは専属の料理人になってほしいです。

―――諦めてください。

 

等と彼女達を魅了した後でも、他のデザートも食べられるだけ食べて満足感を抱かせるだけでなく、この日を境にラーズ達と変わらぬ『異世界食堂』の常連客となることを決意した。

 

その決意の強さを表すとしてデザートの味を占めた・・・・・後日。帝国も夏季の真っ只中にラーズの部屋の扉が勢いよく入室の許可も無しに開け放たれた。

 

「ラーズ、今日もあの店に行きましょう。まだまだ食べたい物があるのですからね」

 

「さぁ早くさっさと仕度して!主神様にはあの場所に行ってもらっているのだから私達も向かうわよ!」

 

そう言う彼女達は姫らしい宝石を散りばめたドレスの恰好ではなく、軽装で動きやすいワンピースと傘という出で立ち。弟は姉達の変化に心中で苦笑する。料理は人の心を変える魔法が掛かっているのかもしれないと、身支度をし始める。姉達を変えた『異世界食堂』へ向かうために。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

【ヘルメス・ファミリア】の執務室で事務作業の準備をしていた。主神によって増やされる仕事を主に片付けなければならないことが今日も山積みで辟易する思いをしながらそれらを一纏めに鞄の中へ入れる。仕度を整えた少女は手をスノードームに触れて、何時ものように利用しに入っていった。

 

穏やかな気候、時折吹く心地のいい風。少し離れた先に白亜の城がアスフィを出迎えるかのように鎮座していて、その城へ向かいながら降りたままの跳ね橋の上を歩き通り過ぎる。扉のない吹き通りばかりの城内の中を進み途中、真紅の長髪を背中に流す男が作業部屋にいることに気付き声を掛けた。

 

「こんにちはイッセーさん」

 

「アスフィか。久しぶり。また仕事を押し付けられた?」

 

「ええ、当の本人はどこかへと行方を悟らせず姿を暗ましました」

 

溜息をこぼす。

 

「久しぶりに何かを作っているんですね」

 

「触発した感じにな。【ガネーシャ・ファミリア】が今年から始める催しのこと知ってるだろ」

 

「『怪物祭(モンスターフィリア)』、でしたか」

 

「ギルドも面白い事を考えるよな。でもモンスターを調教するなんて、そんなことできるのか?捕まえることができる前提で」

 

「不可能ではありませんよ。ただ、捕まえるだけならともかく調教する際に辺り冒険者の力量を求められるのが必須でしょう。ギルドの考えには色々と疑問を感じますが」

 

会話を交わしながらも手を止めない一誠の隣に寄り横から覗きこむ。手の平サイズの球状の内部に何かを細工しているのが目に入る。一体これはなんだろう?

 

「何を作っているのですか?」

 

「言っただろ?触発されたって。モンスターを捕まえて調教することができるなら、道具(アイテム)を使って捕まえられないかなって考えたんだ」

 

既に一誠の席の脇には完成しているの球状の道具(アイテム)が顔を出すほど亜麻袋の中に入れられている。机の上にも同じ物が作られている物も含めて六個あった。

 

「これはモンスターを捕獲し自分の代わりに相手と戦わせるボール。その名も『怪物捕獲球(モンスターボール)』だ」

 

「・・・・・それこそ、可能なのですか?道具で捕獲するなんて」

 

「初めての試みだ。失敗はするかもしれない。だけど、失敗の原因が分かればもっと完成に近づけれる。失敗を前提に作るのが俺なのさ」

 

六個目のボールも完成したのか蓋を閉じて真ん中のボタンを押すと、手の平サイズだった大きさがその半分以下になった。他のボールも大きさを小さくして纏めて掴んでボールを装着させる専用のベルトに嵌めれば腰を上げて立つ。

 

「よし、これから試しに行ってくる。アスフィはどうする?」

 

「本当に道具(アイテム)でも捕まえられる可能性があるなら見てみたいです」

 

仕事を放り出して結果を求める。興味と好奇心に駆られる少女の同行を了承する男は共にダンジョンへ向かう。バックパックを背負う一誠は手始めとしてダンジョンの一階のゴブリンから試みるため、正規ルートから外れた別ルートへ。散策してすぐ後ろ姿の二匹のゴブリンを見つけた。すかさずベルトからボールを外して手の平サイズの大きさに変えて投げた。弧を描いて真っ直ぐ飛ぶ様子を二人が見守る最中、実験が成功するか否かゴブリンの後頭部にぶつかったボールが一人で上下に口を開くそこから赤い光線が放たれる。その光線を浴びたモンスターは吸い込まれるようにボールの中に消えて行ってまた一人でボールが閉じる。片方のゴブリンが消えたことに目を見開いて驚いている間にも、抵抗しているのかボールが中心のスイッチに赤い光が帯びながら揺れる。

 

「「・・・・・」」

 

数秒後、中心のスイッチに帯びていた赤い光が無くなると同時にボールの揺れが止まった。それから時間を置いて更に様子を見てから確信した。

 

「成功したようですね。おめでとうございます」

 

「一先ずありがとう。だけど、俺が求めている『怪物捕獲球(モンスターボール)』の性能はあれだけじゃない」

 

手を突き出して魔力でボールを引き寄せて回収する一誠は、捕まえたゴブリンを解放するように目の前で出した。

 

「どうするのですか?」

 

「実験だ」

 

跪いてバックパックから捕まえたモンスターに餌付けする目的で用意したコロッケを取り出し、ゴブリンに突き付けた。対してゴブリンは命知らずで魔の巣窟に挑む酔狂な人間―――天敵に警戒するも見せびらかされる人間の食べ物の匂いに湧きあがる食欲に負けて、おずおずとコロッケを手にして口にした途端。眼を大きく見開いて一心不乱に食べ始め出す。

 

「おお、美味いようだな?もう一個食べるか?」

 

『ギャギャッ!』

 

意思疎通ができる?とまた出したコロッケに反応して嬉しそうに受け取って食べるゴブリンに、アスフィは唖然とする。さらに五個も食べて満腹したゴブリンは美味いものを食べさせてくれた一誠に懐き始め、頭を撫でられても嫌がる素振りはしない様子に開発者は握り拳を作った。

 

「まだ改良する必要はあるみたいだが、これも成功だな」

 

「一体、その道具(アイテム)に何を仕掛けたのですか・・・・・?」

 

「モンスターの破壊や殺戮の衝動を封印した」

 

「・・・・・ただそれだけで、こうも懐くのですか。ダンジョンのモンスターが」

 

「警戒したところ見ただろ?俺は力による調教で従わせるんじゃなくてもっと別の方法の手段で―――」

 

『シャァッ!』

 

もう一匹のゴブリンがアスフィに答えていた一誠に飛び掛かってきた。短剣を構えだす少女を手で制止する男の目の前で餌付けされたゴブリンが同族に飛び掛かって守った。

 

『ギャッ!!!』

 

『ギィッ!?』

 

モンスター同士が戦っている光景に満足げで笑む一誠と呆然と言葉を失ったアスフィ。道具(アイテム)でモンスターを支配とは別の形で人間を融和を遂げた。

 

「さて、最低でもミノタウロスぐらいまでは成功したいな」

 

「まさかと思いますが、階層主も捕まえる気は・・・・・ないですよね?」

 

「捕まえられるかどうかはこれから実験しないとわからないだろ?」

 

ま、今のこのボールじゃ無理かもしれないがな。と襲いかかってきたゴブリンを倒して傷ついた一誠のゴブリンは回復役(ポーション)で癒されてからボールの中に戻された。

 

「まだ付き合うかアスフィ?」

 

「ええ、貴方の作品の限界を見させてもらいます」

 

もしも『怪物捕獲球(モンスターボール)』がオラリオに普及され冒険者以外の『調教師(テイマー)』が多くなり、オラリオ内で人類と怪物が共に歩く未来があるかもしれない。そんな有り得ない考えを振り払うように頭を被りを振って目的の中層へと向かう男の後を追った。

 

後日、【ガネーシャ・ファミリア】に訪れ『怪物捕獲球(モンスターボール)』の性能を教え、捕まえたゴブリンと仲のいいところをも見せ怪物祭(モンスターフィリア)に使えないかと検討をしたところ。

 

「イッセー、この球を一万個作ってくれ!」

 

「一万個は勘弁してくれ」

 

これは使える!と大絶賛した元主神の無茶ぶりの要求を丁寧に断った。同席している藍色の髪の女団長はボールを値札見するような目で手に持つ。

 

「この小さな物でモンスターを捕まえることも含めてこれでモンスターと融和を図れるのか」

 

「破壊と殺戮の衝動を封印しただけで直ぐに友達感覚にはならない。モンスターの警戒心を解くことで初めて絆を築くことができるのさ。調教よりは平和的だろ?」

 

「確かに平和的だろうが・・・・・団員達がモンスターと友好的な態度を取れるとは限らんぞ」

 

「モンスターも生きているんだからペット的な感覚で育てるようにしたらいいんじゃね?」

 

人類の天敵を犬猫のように扱えとは・・・・・。

 

「このボールはどの階層のモンスターまで捕まえることが出来るのだイッセーよ」

 

「今日は中層のモンスターを全破してみた。ミノタウロスもある程度の体力を削ってから捕まえることが出来たよ」

 

「体力を消耗させてから捕まえることが肝か」

 

首肯するボールの開発者は言い続ける。

 

「そ、そうすれば捕まえやすい。だから怪物祭(モンスターフィリア)の際に行う調教の催しの後はモンスターを捕まえる催しと飼い主と仲睦ましくなる瞬間を観客に見せてほしい。そうすればこの道具とそれを成せる業ができる【ガネーシャ・ファミリア】の印象も深まると思うんだ」

 

「・・・・・ガネーシャから聞かされた理知を備えるモンスター『異端児(ゼノス)』とやらの布石の為にもなるからか」

 

―――お、知ってたのか?―――知ってるのは私だけだがな。とシャクティも彼のモンスターの存在を明かされていたことに初めて知った一誠は問われた。

 

「お前は自分の主神に教えたのか?」

 

「ぶっちゃけ、俺の正体を知っている神と冒険者だけに『異端児(ゼノス)』がいることは教えた。ウラノスの神威までは教えてないけど」

 

「ああ、多分それが賢明な判断だとガネーシャは思う。で、ロキ達の反応はどうだったのだ?」

 

「『え、そんなモンスターがダンジョンにいるの?』って対して驚きもしなかったぞ」

 

「お前と言う存在がいるからだろう。ガネーシャに教えられたモンスターと比べれば、お前のことより驚くものは他にないからな」

 

そう言うシャクティの言葉に苦笑して「フレイヤ達も似た事を言われた」と述べ、「だろうな」と彼女に相槌を打たせた。

 

「でも、俺の事と同じぐらい二人が驚く事はまだ他にも二つぐらいあるけどな」

 

「・・・・・因みに、それはなんだ?」

 

「うーん、知りたいなら何時か実際に連れてってやろうか?どっちもオラリオの外に存在する場所だから」

 

と、提案をしてみれば「行ってみたい!」と間も置かず乞いだすガネーシャにシャクティは溜息を吐いた。こうなったガネーシャはもう誰にも止められず、団員達を振り回すことは必ずと言っていいほどだ。止められるならば止めてほしいと心情の思いが一つな団員達は―――空の世界へ旅立つ主神と団長を見送ることしかできない。

 

夏の時季、太陽の陽射しが地上を照らして人類と怪物を焦がす彷彿させる熱が籠った日のこと。アスナが不意に思ったことを口にした。

 

「そう言えば、イッセーの誕生日って何時なの?」

 

朝食時、その一言で一同は不自然なまでに静まり返った。問われた本人も「は?」と彼女を見返す。

 

「藪から棒にどした?」

 

「何となくなんだけど、ほら、この世界は異世界だから産まれた日や誕生を祝う風習は無いみたいだし、それにつられて私達も誕生日を祝うことしてないじゃない?」

 

確かに、とアスナとアリサに己はこの世界に来てからというもの誕生日なんて気にしてなかった。そもそも自分等の誕生日を知っている者はこの世界に存在しない。アスナの場合はキリト達が知っているだろう。異世界に来るまでは自分も含めて元の世界で祝福されていたのだから。

 

「まぁ、してないな。てか、してほしいなんて言えるか?」

 

「あ、うーん、言いづらいかも。自分で言って恥ずかしいし・・・・・」

 

「だろ。知っていたらしていたが、この世界にカレンダーなんてものは無いし。な、アリサ」

 

「うん」

 

異邦人のみの会話にアイズ達異邦人は耳を傾ける。

 

「それで、貴方の誕生日はいつなの?」

 

「ヘファイストス?お前も気になるのか」

 

「気にならない方がおかしいでしょ。貴方と私は・・・・・」

 

そこまで言いかけて紡ぐはずの言葉が恥ずかしいのか顔を赤らめて一誠から目を逸らした。

 

「貴方と私は・・・・・?」

 

「ヘファイストス、貴方と私は・・・・・何かしら?」

 

アストレア、フレイヤの女神が鍛冶神に問う。二柱共に、彼女の心情を解っててからかっているわけで、ヘファイストスは髪と同じくらい真っ赤になった顔を全力で明後日の方へ向いた。

 

「ふふ、ヘファイストス。あの時と同じ反応をしてるわよ?」

 

「あの時と?」

 

「ええ、そうよ。貴方がガネーシャの眷族になってからしばらく経った頃に神会(デナトゥス)で―――」

 

「フレイヤッ!」

 

「うむ、手前も言わせてもらえばその頃と同じ時であるか。仕事に手が付けられないほど、年甲斐もなく乙女のようにイッセーに告白された事を手前に何度も聞かされたものよ。『イッセーがね、イッセーがねっ?』と」

 

「そうなのね。ねぇ、他にもどんなことを言ってたのかしら?」

 

「あ、あの・・・・・もうその辺にしておいた方が。ヘファイストス様が羞恥心のあまりに泣きそうに」

 

当の女神を見てフォローするアスナの指摘に「泣いてないわっ」と否定するヘファイストスであるが、もう火が顔から吹き出そうな程に赤くなって尻目に涙を溜めてた。

 

「・・・・・ヘファイストス」

 

そんな元主神に慈愛と暖かな目で見詰める一誠の一言。

 

「可愛いな」

 

「~~~~~ッ!!!!!」

 

羞恥心が爆発した。悲鳴にならない奇声を上げるより脱兎のごとくこの場からいなくなった。

 

「もう、フレイヤ様とアストレア様もイッセーもからかっちゃダメじゃない!」

 

「俺は本音で言ったぞ?」

 

「本音だから達が悪いよ・・・・・」

 

深い溜め息を吐いて、どうして話が脱線してしまうのだろうかと疲れに似た脱力を覚える。

 

「まぁ、俺の誕生日の話だっけ?確かあと一ヵ月後だったような気がするな。そんでアスナは誕生日は九月三十日だったな?」

 

「えっ、教えたっけ?」

 

記憶にない事に己が忘れただけかと思ったが「能力で調べた」と述べる一誠に納得の一言。

 

「アリサは冬の時期だった。アリサ、まだ早いけど欲しいプレゼントはあるか?」

 

「・・・・・」

 

話を振られて悩む。突然欲しい物はあるかと言われて悩む。

 

「欲しい物じゃないものでもいい?」

 

「して欲しい、したいことでもあるのか?」

 

「うん・・・・・えと、大きくなったらイッセーのお嫁さんになりたい」

 

『!!!!!』

 

アリサの憧憬に一同は反応した。しかもそれにつられてユエルが爆弾の如くの発言をこぼす。

 

「うちらは旦那様と結婚しているようなもんやし、主神様と故郷の為に別のお願いをするっちゅうなら・・・・・子宝なんやかなぁ?」

 

「だ、旦那様とのこ、こ、こ、子供・・・・・っ」

 

「ユ、ユエルちゃんっ。それはまだ、早ない・・・・・っ!?」

 

狐人(ルナール)の少女等がボッと真っ赤にした顔で狼狽、初な反応をするに対して、獲物を狙う猛禽類の目を一誠へ向ける女戦士(アルガナ)達の視線が強い。

 

「「こ、子供・・・・・」」

 

未来の予想図を描くアリシアとアナキティ。自分達も子を得た時にはその傍には誰がいるのかを、自然と一誠に目線が向いた自分に気恥ずかしくなった。

 

「アリサ、その願いはお前が大人になってからもう一度するべきだ」

 

「うん、16歳になったらお嫁さんになれるんだよね。知ってるよ」

 

「イッセー、君なの?」

 

「言った覚えないからな。アリサ、それ誰から教えてもらったんだ?」

 

「ロキ」

 

疑われるも否定し、素直に問うたことを言う少女の口から出た神物にリヴェリアと共にまだ教えなくていい事を、と困らされた。さらにアリサは純粋無垢な瞳で言った。

 

「おっぱいが大きくなったらイッセーは喜ぶってことも教えてくれたよ」

 

「あ、あんのぉクソ駄女神がぁあああああああああああああああッ!?」

 

「・・・・・すまないイッセー。今直ぐにでもロキを折檻する」

 

絶対に面白味とからかいを含めて教えたのだと悟り、各々をおっかなびっくりさせるほど怒り狂い魔力を迸らせる一誠に、心底申し訳なさそうに謝罪と主神に対する問答無用のお仕置きを心掛けるリヴェリア。

 

「ふふ、イッセーって大きな胸が好きなのね。残念だけど私よりデメテルの方が大きいわよ?」

 

「違う!俺は俺の全部を心から受け入れてくれる女が好きだ!胸の大きさなんざどうでもいいんだよ!ついでに言うけど堕落した顔や体型の女が嫌いだからな!」

 

「あ、初めてイッセーの好きじゃない女の人の特徴を聞いた」

 

フレイヤの指摘に好みのタイプと嫌いなタイプを宣言したことで初な少女や女性達を照れさせ、堕落な身体にならないよう肝に銘じたのだった。迸る魔力を収め冷静な態度でアリサを諭す。

 

「だからアリサ。大きくなくても俺は喜ぶ以前にお前の事を好きだって思っているから、ロキに教えられたことは全部忘れろ。からかわれているだけなんだからな。いいな」

 

「・・・・・う、うん。私も好きだからね」

 

嬉しそうに朱で染まった顔で笑うアリサから、求めていたものとは違う返事が返ってきたことに少し不安を覚えるものの、ロキに対する体裁をしなくてはという気持ちが強かった。

 

「むぅ、イッセー。私もイッセーのことが好きだよ」

 

「分かってるよアイズ。お前の想いは凄く伝わってる。俺も好きだぞ」

 

「んっ!」

 

椅子から降りて真っ直ぐ向かう少女は男と対面するように膝の上に載って浮かべる満面の笑みを見せる。その綺麗な金髪を梳かす感じで撫でると目を細めて心地良さそうになる、そんな少女の幸せを。

 

「私も好きですイッセー様」

 

アイズと一誠の間を無理矢理割り込んで乗り出してきたラトラによって邪魔される。当然ながらアイズはプリプリと怒りだすが、慣れた手つきで二人をそれぞれ膝の上に跨らせて喧嘩も言い合いも自分の目の前でさせない宥める。

 

「流石に慣れてますね」

 

「どっちでも俺の膝に座ろうとすればこんな感じだからな」

 

口唇を緩めるフィリアからすれば、慕う兄を奪い合う小さな妹達のような感じに見えていた。とても微笑ましいと慈愛すら思える、そんな食事の朝から皆の一日が始まった。

 

 

 

同時刻。保有する団員数と派閥の階位ランクは中堅のトップクラスに食い込んでいる【アルテミス・ファミリア】。朝食は白米、味噌汁、焼き魚にベーコンエッグと【デメテル・ファミリア】生産のサラダにデザート。シンプルなメニューに食卓を囲む面々は各々と雑談を交わしながら食事をしていた。その輪の中に遅れて姿を見せた男性と三人の女性。女性のために椅子をずらして座りやすくする気遣いをした。

 

「おはようこざいます。キリトさん、スグハさん、シリカさん、リズさん」

 

四人が座った席に配膳をする拳藤一佳と麗日お茶子。二人にお礼を述べながら受け取った男性キリトは申し訳なさそうにする。

 

「ごめんな」

 

「気にしないでください。キリトさん達は上階ですから気を付けて階段を降りなきゃならんし」

 

「こう言う時、あいつの転移の魔法がありゃ便利なのにな」

 

「あー確かにな」

 

あいつの魔法と単語に少年少女達の脳裏にはとある男の後ろ姿が浮かぶ。が、それは叶わぬ事だと考えを頭の隅に追いやった。ただ一人、弓使い(アーチャー)の女性は神妙な表情を浮かべる。

 

「やっぱり、一階の部屋を使ってる私達と交換しませんか?」

 

「うむ。三人の身体を考慮すればそうしたほうがいいだろう。皆、今日は団長達の部屋の交換を頑張ろう!」

 

「ちょ、その気持ちは嬉しいが―――」

 

「キリト団長。三人の身体を気配るならそうしたほうがいいって」

 

「ええ、そうですわ。先輩や団長達が何を言おうと決めた事です。なにより―――」

 

一部を除いて面々の視線はスグハ達の身体、大きく膨らんでいる腹部へと向く。その膨らみは過剰な脂肪や贅肉とは違う新たな生命を抱えてる状態のそれだった。

 

「もう少しで誕生する赤ちゃんの為に、負担を減らすことは当たり前ですわ」

 

「・・・・・」

 

「よし、食べ終わったら直ぐに取りかかろうぜ。オイラはスグハ先輩の部屋を―――」

 

「ウチ等がするから峰田は上鳴と借金の返済でもしてろ」

 

邪な下心が顔に浮かぶほど変態染みた形相の小人に制裁を加える黒髪のおかっぱ頭の少女。

 

「じゃあ、新たな仲間の勧誘とダンジョンでお金の稼ぎに団長達の部屋の引っ越しの手伝いをする者達の班を決めようではないか」

 

「はい、オールマイト!」

 

食事を終えた一同はそれぞれの班を作って目的のために行動を開始する。その最中、キリトに話しかけ彼の部屋まで足を運んで二人きりになるシノンが口を開いた。

 

「ねぇ、三人の事をアスナに教えなくてもいいわけ?」

 

「・・・・・教えるよ。だけど今は―――」

 

「今は・・・・・まだ早い?それともその時じゃない?それじゃ何時伝えるのよ貴方。またアスナに隠し事をするわけないでしょうね」

 

腕を組んで呆れの色を目に滲ませて目の前の男を見つめる。

 

「【ファミリア】を脱退してもアスナは私達の仲間でしょ。ちゃんと教えるべき事を教えないでどうするのよあんた」

 

「仲間・・・・・でも、俺はアスナに・・・・・」

 

「自業自得でしょうが」

 

フラれたことをバッサリと言い捨てられて気落ちするキリト。

 

「それに元の世界に戻ったらどうするのよ?重婚なんてできないわよキリト」

 

「分かってる。三人を養う努力はするつもりだ」

 

「できるの?私としてはイッセーの世界に移住する事をお薦めするわよ。一夫多妻制で私達の世界に存在する似て異なる国も文化もあるから住みやすいと思うわ」

 

アスナが憧憬を抱いている、かつての似て異なる友がいる一誠の世界。どうして彼女が薦めるのか不思議で堪らないキリト。彼女なりに考えでもあるのだろうかと耳を傾けながら会話を続ける。

 

「仮にそうしたとして、シノンやクライン達はどうするんだ?」

 

「さぁ、クライン達は元の世界に戻るかもしれないわね。私は正直悩んでいるところ。元の世界に戻るか、この世界に留まり続けるか、イッセーの世界に行ってみるのも悪くないかもしれないって。元の世界じゃ得られない剣と魔法を扱える世界だからね。世界や日本の法律なんて存在しないある種、生きやすい環境だわ」

 

「・・・・・」

 

「あの人達、オールマイト達はヒーローになる夢があるから帰るでしょ?じゃあ、私達も今後の事も考えなきゃいけない。キリト、そこのところ考えてた?」

 

一応、考えてたつもりだ。と答えたキリト。淡白な相槌を打つシノンからこう言われた。

 

「イッセー、アスナを介して元の世界へ帰れるように出来てるわよ」

 

「っ・・・・・」

 

「私からお願いして私達がいなくなった後の状況を探ってもらったの。案の定、行方不明扱いされてるわ」

 

自分の知らぬところでやりとりしていたシノンからの事実を聞かされ、少なからず自分達がいない世界のことには察していたつもりであったのか、驚きはしなかった。

 

「俺達の世界に繋げれたなら、ユイは・・・・・」

 

「コンタクトはできなかったみたいよ。というか、この世界に連れて来られないでしょ。その上、あんたとアスナのこと話せれるの?」

 

ぐうの音も出ず口を閉ざす。言えない、言えるわけがない。ショックを受けるのは確実にあの子なのだから。しかも悲しむに決まっているのだ。自分達の事を本当の家族のように慕ってくれているのに、自分の不祥事でアスナと別れているなんて、言い辛いどころではない。

 

「それでもいいなら頼んでみたら?ちょっとの間なら帰れると思うわよ。元の世界において来てしまった家族なんだから迎えに行くのもいいと思うし」

 

肯定も否定の言葉も出ず、苦悩するキリト。シノンは彼に背を向けて部屋の扉を開ける。

 

「私はアスナの様子を見に行ってくるわ」

 

「・・・・・シノン、スグハたちの事は・・・・・」

 

「遅かれ早かれ隠し事はバレるわよ浮気者」

 

出ていく間際にそう言い残されてしまう。わかっている、わかっているが・・・・・キリトの中で不安と緊張が募り始め、頭を抱える思いでベッドの縁に座りこんで肩を落とす。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

「へぇ、キリトパパになるんだな。そいつはオメデタだな。な、アスナ」

 

トンテンカン、トンテンカン。ワイワイ、ガヤガヤ。トンテンカン、トンテンカン。

 

「うん・・・・・そうだね」

 

海列車を作っている作業場に【ファミリア】の内情を伝えるシノンの話を聞き、感嘆の一誠と感情が籠ってない声を漏らすアスナ。不穏な気配を発する女剣士から数多の分身体と完成に励む列車へ視線を向けるシノンは圧倒された風に述べた。

 

「ねぇ、今度は列車を作ってるわけ?」

 

「ああ、今度は海の上を走る列車を作ろうとしているんだよ」

 

「・・・・・あなたは本当に何でもアリなのね」

 

「ファンタジーの世界だから何でもアリだろ?」

 

そう言われてしまえばお終いである。

 

「その勢いで実弾と魔法の弾が撃てる銃も作ってほしいところね」

 

「まだ言うか。実在しているけどさ造らんぞ」

 

「じゃあ買わせてよ。空の世界とやらに売ってるんでしょう?」

 

「空の世界の通貨はヴァリスじゃなくてルピだぞ。シノンさん、ルピの通貨はお持ちですかね?」

 

「・・・・・貴方のお店にアルバイトしたら譲ってくれない?」

 

む?と動かしていた作業の手が止まりシノンへ振り返った。

 

「【ファミリア】の方はどうするんだ?」

 

「借金返済のためにだと言えば文句は言わないでしょ」

 

「キリト達とダンジョンに行く時のタイミングは?」

 

「リズ達が妊娠しててキリトは三人の傍にいる事が多いから、ヒーローの子供達が主体として稼いでるの。私も手伝うけれど殆ど出番なし。エギルは自分の店の準備をしていて、クラインはゲーム仲間と組んでダンジョンの探索」

 

つまり、手が空いている方が多いのだと言外する。シノンに向けていた視線をアスナに変えて質問。

 

「シノンの料理の腕前は?」

 

「一般的な家庭料理だったら大丈夫だよ」

 

「そっか。容姿も整っているしうちの店にいないクールビューティー。客受けもいい感じになりそうだな」

 

「それ、褒めてる?」

 

物凄く褒めてる。と真顔で言われてちょっぴり照れる。

 

「んじゃ、これを作る片手間にシノンの制服を作るか」

 

「作るって、あんた私の身長とかサイズとか分かるの?」

 

「目測でとっくに把握している」

 

とっさに自分の身体を抱きしめて身構えるシノンを気にせず作業を再開する一誠。

 

「・・・・・目測でわかるなんて、変態でしょ」

 

「お前の服を剥いで調べるよりは断然マシだと思うんだがな。ていうか、どっちみち誰かに計ってもらって知るんだから知られる方はあんまり変わらんぞ」

 

それはそうだか、目測で自分のスリーサイズを知られるということはあまりいい感じではない。全裸を見られているようなもので恥ずかしい以上に嫌悪を抱いてしまいかねない。好きでもない男に裸を見られるのと道理だ。

 

「制服が出来たら呼ぶ。そしたら働き方を教えるからな」

 

「欲しい銃が手に入るまでどのぐらいかかる?」

 

「数ヵ月は掛ると思った方が良いな。ぶっちゃけ一年ぐらいは働いて欲しい」

 

「わかったわ。それと後で貴方の銃を見せてちょうだい」

 

「今は手が離せない。アスナ、代わりにあそこへ連れてってくれないか?」

 

わかった、と了承して亜麻色の髪を揺らしながらシノンを連れて作業場を後に、一誠の部屋へと向かう。その間、二人の間に静寂で包まれどちらからも話をせず黙々とした雰囲気のまま辿り着く。部屋の中に入り本棚の中の一冊を動かして宝物庫の入り口を開ける。そして目の前の光景に驚く。

 

「す、凄い・・・・・」

 

「でしょ?私も驚いたわ」

 

山積みのヴァリスに数多の宝石に氷漬けされたモンスターや階層主の数々。そして普通(ノーマル)から希少(レア)怪物の宝(ドロップアイテム)が保管されてる陳列窓(ショーウィンドウ)。今日まで打った武器が置かれた台を通り過ぎながら見回す彼女等は、目的の空の世界で得た下界にない銃の武器のところへ。シノンはその銃を見て見る目を変えて触れるのであった。

 

「・・・・・ねぇ、シノン。三人は幸せそうだった?」

 

妊娠してる女性達の事を問う。彼に浮気されて怒りと悲しみで衝動的に駆られ別れても彼女達と関係を続け妊娠させた。中途半端な気持ちでいたのではないことが何となくわかり、最後まで責任を持つつもりだろう元彼に愛されている彼女達は幸せなのかと思った。シノンは真っ直ぐアスナに向いて小さく頷く。

 

「妊娠したって知ってキリトに受け入れられた時の彼女達は泣いて喜んでたわ。今でも幸せにして子供を産むつもりでいるよ」

 

「・・・・・そっか」

 

空虚のように相槌した言葉に力が宿ってなかった。それがシノンに追究させた。アスナの代わりにキリトの隣には三人の女性達がいる。何とも思っていないわけがないと触れていた銃を置いて訊く。

 

「アスナは本当にこのままでいいの?今ならよりを戻せるんじゃない?」

 

「ううん、もうそんな気はしないの。シリカちゃんたちが妊娠したって聞いて安心した自分も知っちゃったし、彼も守るべき人が出来たから私の事なんて考える暇はないでしょ」

 

「・・・・・もし、戻って来て欲しいと願っていたらアスナはどうする?」

 

「戻らないよ。今の生活が前より刺激的で充実してる。それになにより・・・・・」

 

はにかむ笑顔を浮かべるアスナ。この世界で初めて見る心からのその笑顔の意味は・・・・・。

 

「一緒にいる人が違うだけで世界の色と景色が違う。こんな素敵なことを知っちゃったら戻れなくなるよ」

 

とても幸せなのだと語る彼女の笑顔を見て、ならばもう何も言うまいと話を打ち切る。

 

「シノン―――あなたは彼のこと、桐ヶ谷君のこと好きなんでしょ?」

 

「さぁ、どうなんでしょうね」

 

逆に自分の事を聞かされるようになった。はぐらかす風に述べつつ銃の選定をする目と手を動かす。

 

「もし、イッセーの事が好きになったら言ってね。協力するから」

 

「いやいや・・・協力って、アスナが彼のこと好きなら頑張らなきゃダメでしょ」

 

「ふふ、そうかもしれないね。そうなったら前より手強過ぎるライバルが多いや」

 

「・・・・・頑張りなさいね」

 

「頑張るよ。でも、さっき言った事は本当だからね。きっとシノンもイッセーの事が好きになると確信してるから」

 

何故こうも自分とイッセーをくっつけたがるのかわからない。ただ、密かに抱いていたキリトに対する感情が薄れていることは確かだ。女を捨てるつもりはないが、一体どういうつもりなのだろうか?

 

「何でそんなこと言うの?」

 

「だって、これから一緒に働く仲間だけど店の若い子達はイッセーのこと好きなんだよ?」

 

だからシノンも好きになる可能性があると断定されて「そんなまさか」と有り得ないの一言で片づける。

 

「(私がイッセーの事をね・・・・・悪い奴に捕まって助けられるヒロインじゃあるまいし)」

 

自嘲する風に心中で語る彼女の目に対物ライフルが留まる。やはり手に入れるならこれだろうと前から狙っていた銃のために頑張ろうと決意する。

 

「アスナ、これが欲しいわ」

 

「じゃあイッセーに伝えておくね」

 

後に『異世界食堂』に新たな従業員が加わり、クールビューティな見た目に笑顔を浮かべる女性が客層の間で密かに人気となり、彼女を目当てに訪れる足が増えることをまだこの時になるまで誰も知らない。

 

―――†―――†―――†―――

 

港街(メレン)に異様な活気が醸し出している。海外からオラリオに輸入される物資を運ぶ商船や商売や冒険者になるべく船に乗ってきた者達や観光目的で訪れた者達等が―――メレンから揺れる海面にどこかへと繋がっている線路に固定されている列車を好奇な視線を向ける。漁を司る神ニョルズと【ニョルズ・ファミリア】の協力もあって極東まで線路を繋げることが出来て、場所の提供も感謝して列車の運転の試みをする。甲高くなる音と同時に煙突から噴き出す煙。見たことのない光景に驚く面々を他所にシュッシュッシュッシュと鉄の歯車が線路をつかんで動きだし、最初はゆっくりとメレンから離れ海の上を移動する奇怪な乗り物はやがて・・・・・地上で走る馬車よりもゆっくりと海を航海する船よりも速い速度で海を駆ける姿にニョルズ達は興奮した。この日の試運転で一時間も掛けて無事にアマテラス達が待っていた極東の港まで辿り着いたことで異世界で初の海上を駆ける列車の誕生する。三柱の神々に称えられ、幼い妻達からも笑顔で称賛を受け極東の英雄は偉業を成したと知れ渡るのは思いの外早かった。そしてまた港町(メレン)へ出発する列車にアマテラス達が乗車し、列車を乗る希望者達と共に海を渡った。―――海を渡す乗り物『海列車』の存在は同盟国や敵国にまで知れ渡り、後に海外の国から海列車の開通の依頼や提案が持ちかけてくるようになるがそれは別の話。

 

「さーて、海列車は完成した。次は銭湯だな」

 

留まる事を知らない一誠は次に前から決めていた銭湯の建造も手を出し始める。オラリオを上空から下見し使われていない建物、廃墟、人気のない場所をマークしてそれらに出入り口に定めてから本題の銭湯を設ける場所を探す。が・・・・・これといった場所が見当たらずどこかないかと散々探し回って見て回ったりして・・・・・。

 

「いい場所が無いか私に調べてほしいってわけね」

 

土地の管理も担っているギルドに何時ものように相談をしにやってきた。一度は危険人物一覧(ブラックリスト)に乗せられて担当からはずされた赤髪の狼人(ウェアウルフ)であったが、何故か剥奪された冒険者の地位の復権とブラックリストからの除外をされたことで元の鞘に収まる。ローズは何故わざわざリストから取り下げたギルド長の考えが理解できなかった。が、またこうして美味しいデザートを持ってきてくれる日が戻ってくるならば問うまいと考えた。

 

「んー、美味いっ」

 

「喜んでくれて何よりだ」

 

デザートを食べ終えるまで待つ相手から用意された紅茶も飲み舌全体に広がる味は心地が良い。仕事をしているのに、この休日のように飲食できる一時は至福の時だった。ローズが紙皿を残してデザートを食べきれば本題に入り土地関連の資料の本を開く。

 

「どんな土地を望んでいるの?」

 

「できればバベルの塔並の使われてない敷地があるといいな」

 

「と、とんでもないものを要求するわね。そんな土地、あるのかギルドも把握していないかもしれないわよ。一体、その土地で何を建てるつもりなわけ?」

 

「うん、誰でも平等に風呂が入れる建物だ」

 

お風呂?首を捻って神々しか入れない神聖な入浴場みたいなものかと思い至る。更に一誠から聞きこみをして感嘆の息を吐露する。

 

「異世界にはそんなお風呂の施設があるのね。それをオラリオにも建てたいと」

 

「ダンジョンから帰ってくる冒険者が清潔な状態で明日を過ごすとは限らないだろ」

 

「まぁ、確かに・・・・・」

 

心当たりがあるのか小さく頷くローズ。同意を得てだからこそ、とそのぐらいの土地が必要だと言う。

 

「風呂が無い【ファミリア】や風呂に入れない一般市民の為に思えば銭湯ぐらいはあってもいいんじゃないかって思ってよ。ようやく一段落したから銭湯も造ろうって考えてたんだ」

 

銭湯の設計図を担当アドバイザーに見てもらい驚愕させる。

 

「大規模すぎる・・・・・流石にこれだけの銭湯を造るための土地は今のオラリオにないと思うわ」

 

「使われていない建物を取り壊してでもか?」

 

「ないと思うわ。東西南北のそれぞれの区画はホールケーキのように八つに分かれてるでしょ?貴方が求めている土地の規模は八つの内の一部だから、既に入居している人を退かない限りは不可能ね」

 

断言されて残念そうに息を吐く。地上にないなら地下で造るしかないかと懸念する。

 

「はぁ~無理かぁ~」

 

「無理ねこればかりわ」

 

身体を折って机に上半身を預ける感じで倒して溜息を吐く。今回ばかりは諦めなさい、と男の頭にポンポンと慰めるローズ。

 

「・・・・・あっ」

 

「え?」

 

不意に上半身を起こして彼女に申す。

 

「神しか入れない神聖浴場。男神の使用率は低いんだよな?」

 

「ええ、話を聞けばそうね。女神の方が多いわ」

 

「だったら、その神聖浴場を改装と増築していいか?」

 

は?と目を丸くする。しかし、改装と増築という言葉に目の前の男はとんでもないことを考えているのではないかと察する。

 

「あんた、まさか神聖浴場を銭湯にするわけじゃないわよね?」

 

「そのまさかだ。ないなら最初からある物で使えばいい。うん、これだったら神聖浴場を残したまま銭湯が造れるよローズ」

 

早速準備に取り掛かる、相談ありがとう。と食器やゴミを片付けて転移式魔方陣で介しローズの目の前からいなくなった一誠に愕然を通り越して放心してしまった。

 

「―――てなわけでさ、神聖浴場の使用をしばらく止めてくれないかロイマン?」

 

「いきなり現れてなにを言いだすか!?そんなことできる筈がないだろう!何を考えておるのだお前は!」

 

「ただ俺の手で改装と増築をしたいだけなんだ。目的は冒険者や一般市民でも公共として入れるようにするため。それに利用者を含めて神々もこれまで通りに使用料金を払って入ってもらうけど、少なくとも神聖浴場と銭湯を合わせた新しい浴場で得た税は倍になるだろうしギルドに支払うから良いだろ?」

 

一応ギルドの管理下の浴場のため、改装と増築の許可を得るためにギルド長のところへ赴いた一誠に、その提案を受けたロイマンは突然の入浴の禁止の乞いに否定する。が、倍の税を得られると言う話に胡乱気な目で見返す。

 

「銭湯というのは浴場の一種か」

 

「そ、異世界で存在する公共の浴場だ。他にも金銭を払って風呂に入るだけでなく宿泊や食事も提供する浴場の施設も存在するんだ」

 

「それなら高級宿泊にでも存在している。不要な物ではないのか」

 

「高級だからこそ金が無い消費者達は利用できないだろう?ま、俺が造ろうとしているのは神だけじゃなくて他の住民達でも入浴ができる浴場だ。宿泊以前に食事の提供は人員が不足してるからできないから無理だけど」

 

それが解消できたらできると言外する異邦人の言葉にギルド長は思考の海に飛び込んだ。オラリオの発展に繋がるか否かを重視し、問いただす口を開く。

 

「その銭湯とやらはどのぐらいの期間で完成する」

 

「一ヵ月以内は必ず完成してみせる」

 

「・・・・・よし、お前の言葉を信じてこちらから事前に規制の通知をしておく。一ヵ月以内に必ず完成してみせるのだぞ。よいな」

 

「了解。それじゃ、規制したら店に知らせておいてくれ。直ぐに取りかかるから」

 

そう言い残して消えていなくなる一誠を見送るロイマンも、神聖浴場の使用の規制の準備に取り掛かりオラリオの発展のために動き出す。そしてそれは数日後に発効されて神々の間で使用を一時禁じられた浴場に首を捻り、女神達は自分達のホームで入浴をすることになって、時々ギルドに神聖浴場の事を問い合わせをしにやってくることがしばしば。そんなことした原因である男は金色の杖を光らせ眼前の浴場に向けて閃光を放つ。見る見るうちに光に包まれてる建造物は形を大きく変えていき、本来の姿が影の形もなくなった。

 

「イッセーがまたとんでもないことをしようとしてる」

 

「それがイッセーじゃないのかしら?」

 

「てか、杖からピカって光ったもんが神聖浴場の形を変えたで?どんな魔法なんや」

 

銭湯を造りに行ってくる。その一言でフレイヤ達は興味津々となりどんな風に造るのか見学をしに来ていた。途中、酒を買いに街に歩いていたロキと出くわして合流する形で共に見学をすることとなったが、創造の力で神聖浴場を銭湯に創り変えていく光景に何度も驚きと感嘆の息を漏らす一同であった。そしてそれを半月も繰り返してようやく神聖浴場改め『異世界銭湯』という名の浴場が完成した。新しく変わった、冒険者や労働者でも気軽に入れる浴場だと話しや噂を聞き足を運ぶ住民達は神々も交えて向かう。その際、東西南北に設置された老人でも通える『異世界銭湯』に直接繋がっている魔法の出入り口(ゲート)がある。し切りで入り口と出口が別れてる赤い鳥居(ゲート)から恐る恐る入ってみれば、バベルの塔の広間とほぼ同じの空間の壁際にはそ東西南北に位置してる赤い鳥居(ゲート)があり、そこから現れる利用者が見受けれる。一度中を見渡すと共通語(コイネー)で青い幟に『男湯』、赤い幟に『女湯』と書かれそれぞれの出入り口に飾れてあった。その横には受付をしている男女がいて、冒険者達だけ装備の預かりをしている。

 

「―――ふむ、ここがイッセーが新しく造り変えた神の浴場じゃな?儂等でも入れる様にするとは面白い事を考える」

 

「そうだね。他の冒険者や労働者達も利用しようとしているし成功してるようだ。それじゃリヴェリア、ここでしばらくお別れだ」

 

「ああ、お互いの事は気にせず堪能してみよう」

 

一誠の手で完成した銭湯という浴場を利用してみる【ロキ・ファミリア】。だが、最大派閥の主神は―――

 

「セクハラ行為をする客は入浴禁止だ。それでも行きたいなら男湯に行け」

 

「なんでや!?うちは女神やぞ、リヴェリア達と一緒に女湯に入りたいんや!」

 

「入浴を楽しむリヴェリア達や他の客に迷惑をかけないと俺に誓えるのかじゃあ?もしも破ったらお前のホームを修復が不可能なほどに壊すぞ。誓えるならば入っていいがどうする」

 

少し離れた場所で『異世界銭湯』の店主に出禁されかねている。事前にリヴェリア達から入浴中でもいやらしい手つきでセクハラをしてくると訊いている故に、せっかく造った銭湯の評判の秩序が乱れる原因になると思っての規制。しかし、せっかく造り直したホームがまた壊されかねないことになって女性団員達は心からそうならないよう心掛けてロキを制するために動く。

 

「・・・・・イッセー、こちらで責任以ってロキを監視する。私達も他の客にも迷惑を掛けさせないからホームを壊さないで欲しい」

 

「しっかりと監視をしますので安心して下さい」

 

「私達の主神が変態で申し訳ございません」

 

「そうか・・・・・じゃあ、入っていいぞロキ。くれぐれも俺との誓いを破らないことを心掛けろよ」

 

「何か納得いかへんで!?」

 

はいはい、さっさと行きましょうと彼女等に連れられるロキ。フィン達男性団員も男湯へと向かう。神は五百ヴァリス。大人は三百五十ヴァリス。十一歳から十六歳の中人は百二十ヴァリス。0歳から十歳の小人は無料という料金の規制で利用者から代金を貰って入浴してもらっている。その結果、神聖浴場であった時に得た料金より数倍の金の三分の一がギルドの税として支払われた。これにはロイマンも唸り異世界の知識は馬鹿に出来ないと思いながら税を収めた。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

「ねぇ、イッセーって一日どれぐらいお金を稼いでいるの?」

 

「ん?なんでだ?」

 

「料理店の他に銭湯と海列車も作って収入を得ているんでしょ?それだけでどれぐらい稼いでいるのかなって」

 

とある日の昼食作りの最中にアスナから素朴な疑問を投げられた。別段気にしていなかったことを答えねばならず、頭の中で大雑把に計算をする。

 

「数十万ぐらいか」

 

「えっ、それだけ?」

 

「出費が多いからな。異世界の調味料と食材に銭湯は洗剤の類のストックを三桁も半月に一度は必要だ。海列車だって極東しか開通してないし【ニョルズ・ファミリア】に管理を任せてるからそれほど稼いでいるわけじゃない。だから主な収入源はダンジョンとカジノなんだ」

 

予想していた金額よりも少なく、そして事情を理解し自営業って大変なんだなと感想を抱く。

 

「一日の収入源は、な?年間は数百万だから」

 

「あ、そうだよね。流石に一年間で数十万っておかしいと思ったよ」

 

「元の世界より滅茶苦茶稼ぎやすい環境だ。稼げれる時は稼がないと」

 

素早く魚の身と骨を切り分ける手早さはアスナの目では捉えきれない。料理のスキルの効果で更に技術が後押しをしている。あっという間にフレイヤ達の分、お代りも含めて捌き終えた魚を甘辛風のタレに漬け込んでは焼き上げる。

 

「料理スキルを得てから凄く速くなったね」

 

「熟練度は上がらないがな。アスナの【ステータス】の方はどうなんだ?」

 

「うんとね、器用の熟練度(アビリティ)がCになってるよ。ほぼ毎日料理を作っているからかな」

 

己にほぼ無縁な成長を遂げてるアスナと違い、今でも『ステータスプレート』や背中に刻まれてる【ステータス】の各能力値の熟練度(アビリティ)はオールI。聞いておいて虚しくなって調理の速度が遅くなる。

 

「だ、大丈夫だよ。イッセーだって絶対に強くなるって」

 

「相手から【ステータス】を奪うことでしか成長しないのにか?」

 

「あう・・・・・」

 

そんな成長は本人も望んでいないことで、自力での成長は絶望に等しい彼に慰めようとした彼女は気落ちする。

 

「オッタルさんと戦ってもダメだったの・・・・・?」

 

「ダメだった」

 

オラリオで唯一のLv.7の冒険者相手にも成長の兆しはなかった。

 

「やっぱり、元の世界にいるあいつらとの戦いでしか成長しないんだろうな」

 

そう確信の声を発しながら、調理を終えた料理を皿に盛り付けて席に座ってテーブルを囲む主神や同居人へと持ち運ぶ。不意に、通信型の腕輪の宝玉が点滅を繰り返した。ロキ達の誰かはわからないが受信モードにすると宝玉から立体的な映像に初老の男性こと男神ヴァベルーの顔が映り出す。

 

『こんにちはイッセー殿。お時間はよろしいですかな?』

 

「こんにちは。相談事かヴァベルー?」

 

『はい、是非とも貴方の騎空艇で連れて行って欲しい場所がございます。何分、そこはオラリオから最も離れた場所でありまして。魔法の絨毯では少々そこまでつく間の生活が困難でして』

 

聞き耳を立てるフレイヤ達は「どこなのかしら?」と首を捻る。

 

「行きたい場所ってどんなところ?」

 

『ええ、風の噂で世にも珍しい商品がオークションに出荷される事を耳にしましてね。一体どんなものなのか大変興味あります。それがあるのは―――世界中から他種族が様々な理由で集められ奴隷として日夜売買を繰り広げてる「奴隷国家」。そこに行きたいのです』

 

その場所を聞いた瞬間、一誠の顔から感情が消え失せた。その表情を始めてみる面々は緊張の面持ちで息を飲んだ。

 

 

 

 

 

薄暗い石材で造られた牢屋の数々。その中には捕獲されたモンスターの他にも様々な人種がある見せ物の為に隔離されていた。柵の外から漏れる月光に照らされた人影の両腕には頑丈な手錠が嵌められていて、両脚にも鎖と繋がっている鉄球で行動を封じられている。その者の出で立ちは華奢な体つきであるが、絶えない生傷が多く豊満な胸を隠す紐で結ぶボロの布と薄汚れた下着のみだった。月の光で見える血のように真っ赤な髪を分けて生えている人種では有り得ない二本の角。猫のように縦に割れた瞳はこの世の全てに怒っているようにどす黒い炎を孕ませている。

 

「・・・・・あともう少し」

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