ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚18

【ヴァべルー・ファミリア】を奴隷国家へ連れて行くことを約束した一誠は何かに取り憑かれたようで金を集めるようになった。出発日まで集めて稼いだ額は貯蓄していたのも含めて十億を超えた。慕う男の異変にその莫大な金を一体何に使うのか、これから向かう国と深く関係していることを彼女達は何となくでも察した。そして出発日―――オラリオの外で停泊させた船に乗り込むヴァベルー達を迎える一誠。渡り橋を仕舞って騎空艇を浮かせ、目的地に向けて飛ばす。

 

『奴隷国家』

 

世界中から人種や物資を集め神すら奴隷にする世界で危険な国の一つ。この世の全てを我がものにせんと各国のパイプを持ち、コネや人脈を築きあげながら強奪や略奪が盛で治安は最悪な国でもあった。その国に訪れた者等には一定の賄賂を寄付しなければ相手が誰であれ誘拐・拉致して身代金を要求するどころか気分で莫大な金額を求め、支払う事が出来なければ一家諸共その家や土地すら奪われる。その所業は闇派閥(イルヴィス)の方が可愛く思えるほどだ。人は彼の国の事を犯罪都市、悪の巣窟と呼ぶ。自ら好んでその国に入ろうとする者は精神がおかしい以外何者ではない。そう―――奴隷国家の上空を通過する巨大な蒼い騎空艇に乗っている者達も只者ではない。空飛ぶ船を見上げる全ての者達は外壁の外へと降下していく様を立ち尽くしながら視線を向け続ける。

地面に船底を着陸させて停止させる。甲板から渡り橋を降ろして船から降り立つ【ヴァベルー・ファミリア】と一誠。物資を乗せた荷台を降ろす。

 

「ここが奴隷国家か?外壁がオラリオ並みに高いな」

 

「私も初めて来ましたが、中は大変危険な場所とか。イッセー殿お気を付けてください」

 

「それはこっちのセリフだ。中に入ったら敵だらけだぞ?【ファミリア】総出でも数の暴力で負けるのがオチだ」

 

「いざという時はこの腕輪の転移して逃げますよ」

 

先に検問へ向かう商業系の派閥の主神達を見送り、騎空艇を奪いに来る輩や火矢に対する防壁の結界を張り巡らせ、遅れてヴァベルー等の後を追う。

 

「あんたら、初めて入ろうとしている奴らだな?そういう奴らには一人頭につき十万を支払ってもらうことになってるんだ」

 

「十万ですか。随分と高い入国料ですね」

 

「ここがどこなのかわからないできたわけじゃないだろう?ほら、さっさと払うもんを払ってくれねぇと不法侵入者としてとっ捕まえて身ぐるみを剥がさせてもらうぜ?」

 

有り得ない程のぼったくりの入国料を吹っ掛けてくる検問の兵と、この国の洗礼を早速受けるヴァベルーの後ろから魔法で兵に催眠を掛けた。料金を一割程度に払ってもらうようこの国から出るまで暗示を施し、何とか中に入ることが出来た。

 

「イッセー殿、助かりました」

 

「なんのことだ?」

 

「ふふ、何となくですよ。では、お互い目的が達成するまで別れましょう」

 

「オークションをする場所は分かるのか?」

 

人海戦術で探し回ってみます。とその辺りの人間に聞き込みをしながら向かうのだろう。辿り着いたら教えてもらおうと思い、ヴァベルー達と違う方へと歩き始める。そして、人避けの結界を張って数十人の分身体を作っては更に別人に変身してもらい一人ずつ百万ヴァリスを手渡す。それを十億も超えた金が無くなるまで何度も繰り返し、手元に一億だけ残しておいて分身体達にはあることをしてもらうために行動させた。眼鏡をかけた一誠もそうして行動する。

奴隷国家の中心は巨大なサーカス団が設けるような天幕がある。そこから中心として円形の外壁に囲まれてる国は治安が悪いのに環境整備だけが何故か整っている。国の住民達は全て奴隷の血を受け継いでいる。奴隷として連れて来られた者達が一生をここで過ごされ、絶望の中で子供を産まされる。そして産まれた子にこの国の常識を植え付けられてまともな倫理観が育たず成長してしまい、常識人から見てすれば吐き気を催すほどの嫌悪感を抱かせる。

 

「いらっしゃいいらっしゃーい、今日の肉奴隷は仕入れたばかりの新鮮で活きが良いのばっかだよー!」

 

「こっちにはエルフの上玉だらけだ。まだ身体は新品だらけで使い古すなら今のうちだぜー!」

 

「希少な種族を取り揃えたうちも目玉商品が多いよー!」

 

人権?なにそれ美味いのか?と奴隷国家の住民達が声を揃えて言いそうな奴隷達の扱い方に心中反吐が出そうなほどに嫌悪を抱く。檻の中に何人も閉じ込めている店もあれば、店の中で囚人のように吊り下げられている他種族に、見せびらかす様に全裸で股を広がせられているエルフを売買している店もある。スッとそんな軒並みに並んでいる店が視れる位置に止まって口を開きだす。

 

「・・・・・こんな光景を拝むことになった感想はどうよ」

 

虚空に話しかけるその言葉は一誠の耳に返答の言葉が聞こえてきた。眼鏡の硝子にはオラリオに置いてきたフレイヤ達にも一誠が見ている物全てを映す仕組みとなっていて、その映像を見ている彼女達の顔は一人残らず顔を顰めていた。

 

『・・・・・世界にこんな国があるなんて』

 

「奴隷国家ってそういうもんだろ。だから来るなと言ったんだよ。お前等が生で見たら発狂せずとも住民達に怒りをぶつけていただろうよ。連れて来なくて正解だったよ」

 

『何故そのようなことを言うのですかっ!同胞があのような辱めを公然の場で晒されているなんて、とても許しがたいです!!彼女達を助けに・・・いえ、この腕輪で今すぐそちらに向かいます!』

 

「来るな。」

 

『なっ、何故です!?』

 

「感情的になったら助けられることが助けられなくなる。『大木の心』はどうした。冷静になれ」

 

怒れるアリシアを諭す言葉に納得ができず、一誠に食って掛かる。

 

『これが、冷静にいられるわけがないでしょうっ。貴方は人の心がないのですか、目の前で私達の同族や他の種族が人として扱われていない光景を見て何とも思わないのですかっ!』

 

「・・・・・」

 

『いえ、貴方は人間ではなかったですね・・・・・だから目の前の酷い光景を見ても何とも思ってないんですよね。人の心を持っていたら冷静にいられるはずが―――』

 

「アリシア・・・・・お前は俺のことを能天気な奴だと思っているとは知らなかったな」

 

アリシアの怒りの叫びよりも怒気が孕んだ言葉を発する男に息を飲む気配を醸し出すアスナ達。

 

「お前達をこの場に連れてきたら奴隷の対象として捕まえに来る輩が出てくる。そんなこと予想できるなら最初から連れて来れる筈がないだろ」

 

『イッセー・・・・・』

 

「ああ、そうさ。人間じゃない俺だからこそこーいうのが一番適しているのさ。お前等はそこで俺の帰りを待っているだけでいい。緊急事態が起きたらすぐに連絡をしてくれ」

 

眼鏡の映像を、アスナ達との繋がりを消したところで視界に一誠の分身体が奴隷達を大人買いする様子が確認できた。その店の主は万々歳と奴隷達の首に購入者の証として鎖付きの首輪を嵌め、分身体に手渡し代金を受け取る。全裸で晒されているエルフの奴隷達も分身体が買い取られていく様を見て止めていた足を動かす。

 

「・・・・・ほう、あの男の目」

 

他の建物と一際違う立派な建物の窓から鳶色の目が鋭く、どこかへと歩いていく真紅の長髪の男を値札見する。

 

「この国の者ではないな。中々どうして・・・・・ふふ、久々に商人の血が騒いできた」

 

その人物は騒ぎ出す血に従って従者と共に街へ繰り出す仕度をし始める。

 

「いたいた、ヴァベルー」

 

「おや、これはイッセー殿」

 

「オークション会場の場所は?」

 

「ええ、この国の闘技場の地下にあると分かったところですよ。あの巨大な天幕のところです」

 

荷台を引く初老の男神と眷族達を見つけて、丁度オークション会場へ向かおうと、今いる場所からでも見える真紅の天幕へ指す。

 

「俺もオークションに興味がある。同席していいか?」

 

「勿論ですとも。ここまで連れて来て下さった貴方に拒む理由はございません」

 

寧ろ勧めようかと思ったところですと朗らかに言うヴァベルーは、更に情報を打ち明けた。

 

「そうそう、聞き込みした時に興味深い話も耳にしましたよ。何でも闘技場には無敗の人間とモンスターのハーフがいるそうです」

 

「人間とモンスターのハーフ・・・・・?」

 

「下界の可能性なんでしょうかね。悪魔の所業が現実的にするとは、やはりこの国は危ないところですな」

 

そんな場所に連れていけと乞うたのはお前だろとツッコミ、ヴァベルーを苦笑させた。

 

「そう言う奴がいるんだな興味深い。会えないかな?」

 

「行ってみますかな?オークションは夜に行う予定みたいです。参加希望を記入しに行ってからでも遅くはないですよ」

 

「じゃあ、そうしよう」

 

そうと決まれば一行は天幕の方へ向かい、オークションの受付をする場所を探し求めてみたものの。

 

「申し訳ございませんがオークションは会員制でして、会員の者ではないお客様にはお通し出来ません」

 

「会員制?どうすれば私共も会員になれますか?」

 

「この国の法律で一定の数の奴隷を購入していただきます。同時にその際に得られる奴隷国の商人の名刺を提示していただければこちらで会員制の証したるカードを発行出来ます。また、一度会員になれば検問の者に見せれば料金は無料で素通りでき、何時でもこの国に滞在が出来るようになります」

 

理知的で眼鏡をかけたヒューマンの受け付けに門前払いを受けてしまった。人身売買を好まないヴァベルー達は奴隷を一人も買っていない。当然ながらオークションに参加資格の証のカードを得ることは出来ない。困ったと眉値を寄せて、奴隷国まで連れてきてくれた隣に立つ男に申し訳ないと謝罪しようと話し掛ける口を開いた時。

 

「これか?商人の名刺って」

 

無造作にポケットから二つの束の名刺を受け付けのヒューマンへ提出した。受け付けは軽く驚きながらその名刺と数を確認して肯定と頷いた。見守るヴァベルー達の視線を気にせず一定の数の奴隷を購入した時に得る名刺を偽造であるか否か調べること数分。

 

「は、はい。間違いございません」

 

「じゃあ、俺達は参加資格があるってことで発行してくれるか?」

 

「かしこまりました。では、此方に名前を記入してください。【ファミリア】の眷族の者であればお忘れなく記入欄にも書いてください」

 

一誠の手腕によってヴァベルー達は滞りなく参加資格のカードを手に入れることができた。

 

「イッセー殿。いつの間に奴隷を購入していたのですか?離れた時間はそう長くはなかった筈ですが」

 

「丁度人員が必要になったから手当たり次第買い占めたのさ。働き手を増やしたかったしな」

 

オークションの会員制カードを大事そうに懐へしまう。受け付けから開催時間も聞きこの場から離れる直前に誘いの言葉を受けた。

 

「イッセー様。あなた様だけに特別な奴隷の紹介を差し上げましょう」

 

「特別な奴隷?」

 

「はい、奴隷国では会員制に必要な一定の数よりも数多くの奴隷を購入された方のみだけ案内をする決まりがございます。市街で販売されている奴隷達より一線を越えるレベルの高い奴隷を仕入れている場所がございます。もし興味があるならばご案内致します」

 

答えを待つ姿勢の相手からヴァベルーに目で問い、無言で頷く男神から視線を戻し受け付けの誘いを受けた。

 

「ではこちらに」

 

天幕の中へと二人が消えていなくなる。その直ぐに鼓膜が破かんばかりの熱狂的な歓声が聞こえてきた。目の前に聳え立つ五十Mの石材の壁と階段が二人を出迎え、壁の向こうから大勢の声が聞こえてくる。

 

「あれは闘技場か?」

 

「その通りです。今まさに奇跡的な瞬間を目の当たりにしようとしているところでしょうね。なんせ千勝もすれば晴れて自由のみになれる剣闘隷が闘っておりますので」

 

「千勝?それは凄いな。一体どんな奴なのか興味深い」

 

「直ぐにお分かりになりますよ。観戦するならば尚更のこと」

 

石材の壁際に沿って歩き続けて行くヒューマンの背中をついていきながら奴隷国の歴史を教えてもらった。それをメモに記していると天幕から外へ出た。方角は北でここでも奴隷達を売買している店が軒並みに連なっており、分身体達が買い占めているところを目撃する。

 

「この国は奴隷が多いよな。どうやって集めてるんだ?」

 

「近隣の村や町に襲撃して若者を攫い、時には犯罪組織(ファミリア)を雇って我々の代わりに手が出せない者達を攫ってもらっておりますよ」

 

「それでここまで国を発展してきたのか。根性あるな」

 

「お褒めの言葉ありがとうございます。主神様もお喜びなるでしょう」

 

「その主神ってどんな神様なんだ?」

 

「そうですねぇ、一言で申せば・・・・・変神ですね」

 

「・・・・・どこの国でもそーいう神はいるんだな」

 

そういう神は万国共通ですよ。とどこか疲れた顔色を浮かべだす。このヒューマンは苦労人かと奴隷国では多分珍しいと思う豪華な豪邸の建物へと向かっていく。門兵に門を開けて貰って入っていく二人に樫の木の扉の前に他ず向二人の番兵に開けて潜ると、奴隷国の中にあるとは思えない立派な作りが視界いっぱいに広がる。

 

「他の奴隷と一線越えるレベルだからか、この建物だけが別の世界に来たような感覚を覚えるぞ」

 

「ふふ、ここへ招かれた者達の中でその様な感想を述べる者は貴方が初めてですよ」

 

「へぇ、そうなんだ。でも当然だろうけど、ここに来たその人達って買っているんだよな?」

 

「いえ、残念ながら皆様は一目見ただけで委縮してしまい、取引をすることもなくお帰りになるばかりでして」

 

とても困っております、と苦笑いするヒューマンに首を捻る。富豪の者達が萎縮するとは一体どんな奴隷がいるのか、不思議に思い興味を抱く。上階へ進み、二階の通路のところでヒューマンが立ち止まる。

 

「ここで過ごしておられる奴隷達は皆一級品であると自負しています。この階と三階には奴隷達の部屋であり檻がございますのでどうぞ気が済むまでご覧ください」

 

そう促されては見るしかないと右から見ることにする。まず最初に檻の中を窺う―――。

 

「・・・・・っ」

 

威圧、否これは・・・・・神威。目の前にいる女性は女神であることが一目瞭然である。こちらを見る目が厳しく、全力で警戒する獣のように神威で威嚇している。そんな女神の存在に目を丸くして凄く驚く一誠は、指を鳴らして檻の中のテーブルにプリンを魔法のように出した。目の前に突然現れたデザートに今度は女神が目を丸くしたところで隣の檻に移動する。中にいるのはこれもまた女神だったが、椅子に座ったまま何かに悲しみ憂いている表情を浮かべてこちらに目を向けようとしない。更に隣の檻に移動した矢先、ナイフとフォークが飛んできた。あぶなっ!?と片手の指で受け止めて長い銀髪に赤い瞳のエルフが意外な物を見る目で一誠を見ていた。

 

「投擲の扱いが上手いな。料理は得意か?」

 

「・・・・・」

 

警戒して答えてくれず、四人目の奴隷を見てみる。その檻には頭に二本の角、背中に翼と臀部辺りに尻尾を生やしているが両手足が壁と繋がっている頑丈な鎖に縛られていて他の奴隷達より自由が効かないでいる。なんだこの奴隷はとヒューマンの方へ戻って詳細を求めた。

 

「四つ目の檻の奴隷はなんだ?」

 

「ああ、あの奴隷の事ですか。世にも珍しくその数は狐人(ルナール)よりも少ない希少な種族であり世界から忌避されている種族、竜人(ドラゴニュート)です。亜人(デミ・ヒューマン)の類に入りますが、見た目がモンスターのような姿をしており性格は好戦的かつ凶暴。同族以外とは相成れないこともあって他の種族からモンスターの成り損ない等と忌み嫌われてます」

 

「何でそんな種族を奴隷に?」

 

「たまに好色家の者もいるのですよ。俗に『怪物趣味』ってやつです」

 

そう言う事かと納得し、まだ買われていないのは性格と見た目で買う側が委縮して手に入れようとしないのだろう。ならば、今の内に買う手以外ないだろう。あの種族は物凄く傍に置きたい。この世界で初めて親近感が沸いた種族なのだから。右の通路は竜人(ドラゴニュート)がいる檻で最後だったため次は左の檻の中にいる奴隷達を見始める―――前にまた質問をする。

 

「何時までも売れ残った奴隷はどうするんだ?」

 

「ここの奴隷達は一級品ですので売れるまで面倒を見ますが、市街の奴隷達は廃棄処分をされます。またこの国に連れて来られた奴隷達に病や怪我をしていたら、治療費の方が高くついてしまいますし、治療するぐらいなら安くしても売って利益にした方がよいですから。それでも売れないようであれば処分するしかありませんから」

 

「・・・・・つまり廃棄処分の烙印された奴隷達を買うとしたら無料ってことなのか?」

 

「ええ、その通りです。まぁ、その様な奴隷を引き取る物好きな人はおりませんがね」

 

言質は取ったと分身体達全員に今の話を共有して、廃棄処分される奴隷の引き取りを行ってもらう。それからここの奴隷達を確認し、三階にも向かって直接見てみてヒューマンに話しかけた。

 

「本当に一級品の奴隷達ばかりだな。ただ、女神すら奴隷にするなんて罰あたりだぜ」

 

「女神様ほど絶世の美貌を持っていませんからね。主神様は女神様達に目を付けたのはいいのですが、私達人間は神を奴隷のように扱う事は恐ろしくてできませんから」

 

「だったら奴隷にしなきゃいいのに」

 

「そうしたいのは山々なのですが、主神様の方針に逆らえませんよこればかりは」

 

大変だなーどこの神の眷族も、と他人事としてそんな感想を胸中に抱く一誠は素朴な疑問もぶつけた。

 

「ここの奴隷を仮に全員買うと言ったらどれぐらいの金額になるんだ?」

 

「はい、合計五億六千八百万になります」

 

「高っ!?」

 

・・・・・手持ちのじゃあ全然足りない。

 

「え、市街の奴隷達の価格の平均はどのぐらい?」

 

「エルフは五十万、ハイエルフは百万、獣人は種族によって十万から三十万と価格が変動いたします。ありふれているヒューマンは家柄や気品、顔の容姿と身体付き次第で数万から百万です」

 

「なるほど、大体奴隷を買った時と同じ値段だな。おしいな、買いたいんだけど今手持ちがない。日を改めさせてくれるか?」

 

「かしこまりました。では、またこちらにいらっしゃる時はこれを持参して門の者達に見せてください」

 

ヒューマンの名前が施されたプラチナカードを手に入れた一誠は首肯して豪邸を後にする。真っ直ぐ寄り道せずにヴァベルーのところへと合流する。男神にどんな奴隷達がいたのか教えると糸目が見開いた。

 

「よもや、神々を奴隷に捕まえていたとは・・・・・それに希少な種族もいたとは驚きです」

 

「全員を買い取りたいが、今直ぐとは行かないな。一度オラリオに戻って資金の調達をしなくちゃならん」

 

念には念をと、今でも分身体達が深層でドロップアイテムを掻き集めさせたことが正解だった事を思い安堵で息を吐いた。

 

「船でオラリオに戻りますか?」

 

「いんや、魔法で戻る」

 

詠唱を唱えようと口を開いたその時だった。

 

「ほう、お前達は彼のオラリオから来た者だったとはな。これは良い意味で予想外と言えよう」

 

二人の話が聞こえたのか、オラリオの単語を言いながら不敵な感じで近づいてくるメイド服で身に包む従者を引き連れるその人物は、獰猛な獅子を思わせる女だった。その美貌は凄みを感じさせ、一誠やアスナ達の世界で言うマフィアの女ボスを彷彿とさせる。右手の人差指には、黄金製の指輪をはめている。いわゆる印台リングだ。印台の部分には家系の象徴なのか、その紋章が刻まれている。ゆるかなウェーブを描く髪は、淡い金色。別命輝白金(オーロ=ビアンコ)。左右の耳たぶには、黒十字を象った装飾品(ピアス)を吊り下げている。グレーのスーツを端正に着こなしているが、その肉体の曲線美は隠しようがなく、モデルも顔負けのプロモーションである。見るからに悩ましいが、その眼光が鋭過ぎるため、あまり色香は感じられない。一睨みされただけで、人は全身が縮み上がってしまいそうな気がした。

 

「何か用か?」

 

「無論だ。この国の者ではない珍しい外国人が来たとあらば興味が沸く。特にお前の眼を一目見た時からな」

 

謎の美女は己の名を明かす。

 

「遠路はるばる、このクズの国へようこそ。吾輩はフランチェスカ・マキャベリだ」

 

にこりともせずに、そう言う彼女の口から『クズの国』と聞くことになって面を食らった一誠に淡々と指摘する。

 

「なんだ、私がこの国の事を蔑むとは思わなかったか?」

 

「いや、完全に素で言われたから本当にそう思っているんだなって感じた」

 

「拉致・誘拐・人身売買・人権剥奪などこの国に入れば息を吸うように当たり前なことなのだ。後ろ盾も身寄りもなく、観光気分で来た者達はそれこそ彼等にとって格好の獲物だ」

 

鳶色の瞳が流し目で横を見る。彼女の意味深な言葉に釣られて周囲を見れば、ゴロツキや荒くれ者達がナイフや鈍器、棍棒以外にも拘束具も用いて自分達の事を囲んできた。

 

「さて、どうする?」

 

彼女が仕掛けたことなのか、それとも彼女の言うとおりのことなのか判断できかねるが、少なくとも彼女はこの状況を楽しみながら自分達を試す腹でいるかもしれない。そう思うと辟易してしまう一誠は溜息を吐いた。

 

「はぁ・・・・・どこにいても平穏で過ごせれないのか俺の人生は」

 

「ここは、私の眷族達にお任せ下さいイッセー殿。ここまで連れてきたお礼に露払いしましょう」

 

「じゃあ、よろしく頼むわ」

 

「ええ。ではスケさん、カクさん、お前達も懲らしめてやりなさい」

 

あっ、どっかの時代劇で聞いたことがあるセリフだと思わせた一誠にヴァベルーは眷族を命令する。男神が連れてきた眷族は十人程度だが、第三級冒険者並みの実力を有しておりゴロツキ相手に苦もせず撃退してみせた。

 

「ふむ、流石にオラリオの冒険者は強いのだな」

 

「じゃなきゃ日頃からモンスターと死闘を繰り広げてないって」

 

「なるほどな。この国にない物が海外に存在するのも確か。空を飛ぶ船もまた然り。あれは是非とも欲しいものだな」

 

ゼッテーやらねぇよ。と心中で零す一誠を露知らずのマキャベリは、程なくして片付けられたゴロツキ達にこう言う。

 

「ご苦労だった。約束通り報酬は予定の場所に置いてやる。去るがいい」

 

「へ、へい姐さん・・・・・」

 

蜘蛛の子のように散らばっていなくなるゴロツキ達を使って試したフランチェスカ・マキャベリという今まで見たことがない人物に、新鮮さを覚えながらどこか気が抜けれない相手だと印象を覚えた。

 

「随分と慕われているんだな」

 

「なに、ただのパシリだ。金さえ払えば誰にでも尻尾を振るう野良犬共はこれぐらいが丁度良い」

 

「ほんと、素で言うんだから驚きを通り越して感嘆してしまうよその性格に」

 

「ええ、同じ商人として彼女ほどの商人は見たことがないぐらいにです」

 

・・・・・うん?商人?ヴァベルーの口から彼女を知った風な言葉が出て来て知ってるのかと顔を向けた。

 

「彼女、商人なのか?」

 

「商売を生業にしていると商人達の間で色々と噂を耳にするのですよ。若くして一代で富を築き上げた凄腕のヒューマンがいると。その名前が彼女の名前と一致したのです」

 

「吾輩の名がオラリオにも届いていたとはとても光栄なことだ」

 

真実であると認める当人に目を丸くする一誠は言葉を失った。

 

「だが、この国で商売をするのに飽き飽きしていているところだ」

 

「おや、何故ですかな?貴方ほどの手腕の持ち主ならこの国の商人達を掌握できそうだと思いますが。」

 

「もうとっくにしたぞ。故に刺激がなさすぎるのだよ。やることは人間を買うか売るかの二択だけだ。ここを拠点にしたまではいいが、一日二日で新鮮さがなくなったよ。あるのはつまらん退屈な日々を過ごす時間のみ。だが、そこへ空飛ぶ船がやってきた。あれを見て久々に商人としての血が騒ぎ、お前を見てまた血が騒いだ。ここで動かなければ一生後悔することになるやもしれんと本能に突き動かされた」

 

鋭い眼光を向けるマキャベリの瑞々しい口唇が小さく吊り上がった。

 

「あの船はお前達の物なのだろう?是非とも吾輩達も船に乗せてオラリオに連れて行って欲しい」

 

「はっ?」

 

「吾輩は商人であるからな。新天地で商売をしたいのだよ。それとも駄目か?」

 

いや、駄目というか。いきなりそう言われて当惑していただけ。ヴァベルーと目を合わせあってどうする?とアイコンタクトをする。

 

「(俺は別にいいんだけど、商人のヴァベルー達はどうよ?)」

 

「(彼女の手腕は本物ですからな。イッセー殿の力になるかもしれませんよ)」

 

「うむ、吾輩の力が必要なら惜しみなく貸してやってもいい」

 

読まれていた!?

 

「だが、貸す代わりに条件がある」

 

「条件?」

 

「先程も言ったが、吾輩は刺激や新鮮さが欲している。吾輩にそれを満たすことが出来るならばお前の後ろ盾になってもやろう」

 

刺激と新鮮、ねぇ・・・・・オラリオにしか手に入らない物を提供すれば満足してくれるのか?思考の海に飛び込んで悩む一誠を引き上げるヴァベルーの声。

 

「イッセー殿、あのプリンならば可能ではないでしょうか」

 

「プリン?あれで商売ができるのかよ?」

 

「彼女は個人的に刺激と新鮮を求めているのです。つまり、この世にたった一つしかない物を提示すれば満足してもらえると思いますよ。商人の勘ですがね」

 

三大商会の商業系【ファミリア】の主神のアドバイスに天啓を得た気分になった一誠は、早速プリンを亜空間から取り出してきょとんとしたマキャベリに渡す。

 

「む?なんだこれは?」

 

「俺の故郷のデザートだ」

 

「デザート・・・・・吾輩を満足させるものとは思えんが」

 

銀色の匙を手にしてプリンに沈ませながら掬い取って、ほろ苦さと甘さを一緒に口の中に入れた瞬間。彼女は硬直した。

 

「・・・・・お嬢様?」

 

恐る恐ると案山子のように何時までも立ち尽くす主にメイドは訊ねた。目の前で毒物を渡すような者ではないだろうが、一体己の主に何を食べさせたのか?警戒するメイドに、ようやく動き出し食べかけのプリンをズイっと突き出すマキャベリ。

 

「・・・・・ヴィットーリア、お前も食べてみるがいい」

 

「はっ?」

 

主の突然の命にメイドのヴィットーリア面を食らうが、マキャベリの姿勢は変わらず食べろと言う気配を醸し出されて主の命に従う形で受け取り、キャラメルの部分ごと卵色のプリンを掬い取って口に含んで味わった刹那。マキャベリと同じ反応をする。そして思わず出た一言。

 

「味わったことがない美味しさです」

 

「であろう」

 

主も認める美味のデザートにヴィットーリアは瞳に爛々と輝く光を孕ませる。メイドとして一誠に対する譲れない何かが芽生えだし、勝手に好敵手として認識し出す。

 

「くくくっ、こいつは傑作だ。今まで食してきた料理は何だったんだと思うほど、この小さなデザートで吾輩の欲求が満たされてしまった。否、これを商品化にできるならば吾輩の手腕で―――ブツブツ」

 

「マジか、ヴァベルーの言った通りになったよ」

 

「ふふ、商人の勘は馬鹿に出来ないでしょう?」

 

独り言を言いだし始めるマキャベリの反応を察するに満足させれたのはわかるが、言う事はヴァベルーと同じであった。

 

「―――ヴィットーリア。直ぐに荷物の仕度をする。あの家を引き払うぞ」

 

「は、承知いたしました」

 

と言って二人が一誠達から踵を返して立ち去った。何だかとんでもない人を味方に付けたなぁと感想を抱く一誠もようやく資金の調達に動き出す。

 

―――†―――†―――†―――

 

超特急で資金を調達した一誠は日を改めない内に豪邸に足を運んだ。応対するヒューマンは面を食らいながらも高級な奴隷を買う大切な客として迎え入れ、どの奴隷を買うか訊ねた矢先。大量に入れてパンパンな亜麻袋をドサリトヒューマンの目の前に置かれた。

 

「全部で六億。この金でここにいる奴隷達を全部買いたい」

 

「ろ、六億・・・・・っ!?」

 

「一ヴァリスも数え間違ってないと思うが、確かめるか?」

 

「た、確かめさせてもらいます!お、おいお前達も手伝え!」

 

あっという間にやんややんやと騒がしくなった。豪邸の中でしばらく待ちぼうけされる一誠は竜人(ドラゴニュート)の奴隷へ会いに向かった。

 

「よ、お前。帰る場所はあるのか?」

 

「・・・・・」

 

「あるなら帰れるぞ、お前達を全員俺が買い取ったから晴れて自由の身だ」

 

「・・・・・?」

 

純粋無垢で笑う男に初めて竜人(ドラゴニュート)は顔を向けた。

 

「・・・・・故郷に、戻れる?」

 

「おう、自力で戻れるならそれに越したことじゃないが」

 

どうだ?と問われるも何かに憂う竜人(ドラゴニュート)は頭を垂らした。

 

「・・・・・無理だ。故郷を飛びだしてきて今更戻れない。それにこの姿の私を迎えてくれる場所もない」

 

「ほー、なら好都合だ。俺んとこに来い。そんで家族にならないか?」

 

大きく目を見開く竜人(ドラゴニュート)。自分を家族にならないかと信じられない誘いに思考が停止し掛けた。

 

「家族、だと・・・・・」

 

「おうよ。お前の全てを受け入れる。というか、お前が欲しいんだ」

 

「なっ・・・・・!?」

 

「俺の名前はイッセーだ、よろしくな」

 

絶句する竜人(ドラゴニュート)を気さくさに自己紹介。そして自由の身になると他の奴隷達にもヒューマンに呼ばれるまで話しかけながら教えていった。

 

「お待たせしました。確かに六億がございました。ご確認をさせてもらいますが、イッセー様は全ての高級奴隷をお買い上げになられるのですね?」

 

「ああ、足りるなら全員だ」

 

「ありがとうございます。では、直ぐに奴隷達を集めさせます。ああ、それとこちらがお釣りでございます」

 

だいぶ少なくなったヴァリスが入った亜麻袋を返すヒューマンから受け取り、その際一言。

 

「そうそう、ここに来る際に占い師に占ってもらったんだけど。どうやらこの国とてつもない闇が近い内に覆うそうだ」

 

「闇、ですか?」

 

「厄災の前兆だって言われたが、胡散臭くてな。一応主神に伝えておいてくれるか?あんたも俺に騙されたと思ってしばらくこの国から離れた方がいいと思う。できる限り早くな」

 

と話しかけられたヒューマンの目に光が無くなって一誠の言う事に「分かりました。国から離れます」と素直に従う。暗示をかけられたことすら本人すら気付かず、一誠達が国を去った後に私財を纏めて奴隷国から離れた近隣の国へと出発したのだった。そして買い取った奴隷達を騎空艇へ連れていく。

 

「しばらくここで待っていてくれ」

 

「こ、これは・・・・・」

 

船の甲板や船内には自分達と同じ奴隷に堕とされた者達が大勢いた。複数の分身体の一誠が温かいパンやスープに果物を提供して奴隷達に配っているその中には、かつての女神の眷族もいて涙の再会を果たす。信じられない目の前の光景を唖然と竜人(ドラゴニュート)は口を開いて聞いた。

 

「お前・・・・・こんなに奴隷を集めて何をする気だ」

 

「ただの自己満足」

 

また増える奴隷達を迎えながら奴隷国へと足を運び出す。そして―――暗闇が支配する時間帯になった時、ヴァベルー達とオークションを参加しに会場へ。真紅の赤い天幕には王侯貴族や商人に大富豪の参加者が参列していて続々と中へ入っていく。全員が奴隷を買った経歴を持つ者達であることが明白でそこに一誠等も交じって中に入る。天幕の中のどこでやるのかと気にして前に進んでいくと闘技場の壁に地下へ通ずる入り口が。前列に倣って地下へ入って直ぐに階段状の席と舞台がある空間に辿り着いた。その時、参加資格のカードを提示する催促をされて見せると番号が書かれた札を渡される。これを見せながら入札額を言うのだろう。一番後列の席に腰を落として座りながらその時を待つ。

 

「時にイッセー殿。お手持ちはいかほどに?」

 

「奴隷を買いこんでもまだまだ二億ぐらいは残ってるな」

 

「ほっほっほっ。流石ですな。私は一億ほど奮発して用意しましたよ」

 

参加客達が全員席に座った頃を見計らって舞台に一人の老紳士が現れて一礼する。

 

「―――本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。今宵集まった皆様に良い品々と巡り合いがあらんことを邪神様にお祈りいたします」

 

演技めいた言動をして老紳士は進行を続ける。

 

「まずは、最初の出品物をご紹介しましょう」

 

老紳士の声に応じ、ゴゴゴ・・・・・と、機会仕掛けを思わせる異音が響く。ヴァベルーと不思議に思ったのもつかの間、舞台の床面に空いた穴から、巨大な物体がせり上がってきた。真っ先に目に付いたのは、壮麗な台座だった。おそらく大理石だろう。その上に設置された「なにか」は、まだベールで覆われている。と、老紳士が芝居がかかった仕草で、ベールを颯爽と剥ぎ取った。

 

『―――――おおっ・・・・・!』

 

途端、参加者達がどよめいた。

 

「こちらはかつて芸術を追究する【ファミリア】によって描かれた一品の一つ。伝説の芸術家レイオナ・ホールド団長が降臨せし神々と我々人類、そして天界と下界をテーマにした『天地ジン』です」

 

その名の通り、人類にとって未開の世界、天界から降臨してくる神々を地上に住まう人類が見上げて上げた両手で迎え入れる姿勢の絵画だった。

 

「ほう、あの【ファミリア】の団長が遺した作品の一つとこんな場所で目にすることになるとは・・・・・」

 

「知っているのか?」

 

「ええ。彼の【ファミリア】が描く作品はとても有名でして。中でも先程名を挙げられた団長が描く絵画は人類と神の二つのシリーズがござい、とても希少価値は高いのです」

 

ヴァベルーの説明を聞いている間にも、周囲からは「百万!」「二百万!」「五百万!」・・・・・と、入札の声が上がり始めた。

 

「―――一千万!」

 

異世界の有名の芸術家の作品も収集品(コレクション)に加えようと一誠も入札の声を挙げた。魔法や能力で確認しても偽物ではないことを確認した上でだ。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

熱に浮かされているように入札額を叫ぶ客達とは対照的に、老紳士は冷徹にオークションを進めていく。時折、薄く微笑む表情を浮かべつつ。新たな出品物が披露されるたび、ヴァベルーは目を見張った。

 

「むむ、あれは盗難にあったと訊く国宝級の貴重品ですね」、「あの作品一つで広大な土地を買えますな」と言って悩ましげに溜息を洩らすのだ。三大商会の一角の主神だけあって、ヴァベルーは確かな審美感を持っているようだ。ヴァベルーが強く反応した出品物ほど高値で取引されているので、一誠は感心した。

 

「そう言えば、望みの品ってなんだ?」

 

「私も名前までは聞いておりませんが、何でもこの世のものではない一品だとしか」

 

「この世のものではない一品、か・・・・・」

 

何だろうなーとヴァベルーの望む一品は何なのか首を捻る。

 

「吾輩も興味深いな」

 

「お前もか?・・・・・何でここにいる」

 

席の後ろから女性の声が聞こえるが、独特な自称の呼び方をする者は一人しか知ったばかりで振り返るとマキャベリとヴィットーリアがヴァベルーの眷族達と並んで立っていた。

 

「商人の吾輩がオークションに顔を出さない方がおかしいであろう」

 

「本音は?」

 

「お前達を探していた。オラリオに向かう準備をと問えたのだが肝心のお前達が見つからず、どこで油を売っていたのかと思えばオークションに参加していたとはな」

 

マキャベリの言葉に耳を傾けながら目の前のオークションに意識する。

 

「それでは、次にまいりましょうか。これなるは、この世界を探し回っても誰が製作したか、何時どこで出回っていたのかも判らぬ共通語(コイネー)神聖文字(ヒエログリフ)ですら解読できない一冊の書物―――好色家の方は是非とも入札してください」

 

老紳士が紹介したのは、一冊の書物。であるが・・・・・。

 

「は・・・・・?」

 

一誠はその書物を身に覚えがある。というかお世話になったことはないが一般的によく知っている物だった。

 

「―――完成度の高いあられもない姿の絶世の美女達が絵画に閉じ込められたものでございます」

 

所謂、エロ本であった。老紳士の手によって広げられたその本の中身は瑞々しい裸体を惜しみなく笑顔と共に晒す美女達が様々な姿勢(ポーズ)で撮られていた。それを見た(男性)客達は。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』

 

「五百万!」「七百万!」「八百万!」「おのれ、九百九十万でどうじゃ!」「なんの、こっちは一千万を支払うぞ!」

 

と、今までにない熱狂的な興奮で入札額を叫び出した。

 

「・・・・・この世のものではない、ってアレの事かよ・・・・・」

 

「イッセー殿はあの書物の事をご存じで?」

 

「一応、俺異邦人だから」

 

「なるほど、まさしくあれは異世界の代物と言うわけですな?それが本当ならば確かにこの世のものではない代物」

 

目をきらりと輝かせるヴァベルーに「待て、早まるなアレを買おうとするな!?」と説得が虚しくも「三千万!」とどの客達の入札額よりも高額で購入してしまった。肩を残念そうに落とす一誠にマキャベリは不思議そうにしていた。

 

「女の裸が描かれた絵画など珍しくないのだが、客達は何を興奮しているのだ?」

 

「・・・・・男の性、ってしか言えない」

 

後に、オークション会場で起きたことを仲の良い異邦人だけの集まりで話題にしたら、「はっ!?エロ本で三千万!?」「どんだけこの世界の連中はエロ本に夢中なんだよ!」「あ、ありえない・・・・・」と愕然したのは別の話。

 

「ふふ、どういう物か想像し難かったですが、これは良い買い物をしましたねぇ」

 

「そうか・・・・・それはよかったな」

 

何とも言えず、異世界ではありふれたものだがこの世界ではかなり希少な物に違いない。本神が後悔もなく満足しているならばこれ以上何も言うまいと、嬉しそうにエロ本に頬擦りする男神からそっと視線を逸らす一行は―――天幕から出ず、闘技場の席に座っていた。

 

「まだ船に行かぬのか?」

 

「闘いを見たいんだ。そっちは見飽きた物だろうけど俺達は初めて見るから見てみたいわけ」

 

「オラリオには剣闘奴隷はいないのか?」

 

「いないし」

 

六万人も収容できる闘技場にはほぼ満員で席がなくなり、それでも見たいと言う客達は席じゃないところで立ったり座ったりして観戦の姿勢に入る。皆、これから始まる死闘を今か今かと待ち望んで顔に血みどろの闘いを娯楽として楽しむ狂気が滲んで浮かべていた。

 

「千勝すれば晴れて自由の身になれる剣闘奴隷はどういう奴か楽しみだ。そいつは神の眷族なのか?」

 

「そうだ。しかもその眷族の神は娯楽で人間にモンスターの子を孕ませたのはこの国で有名な話だ。今まで何十人もいたが現在まで生き残っているのはたったの一人。身内同士を殺し合わせたりモンスターと戦わせたりしてきた結果だ」

 

・・・・・闘国(テルスキュラ)と殆ど変らんじゃん。

 

『ワァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

突如大歓声を挙げる客達。闘いが始まろうとしている。話を中断して戦場へ向ける視線の視界には上に開きだす闘技場の鉄格子の奥から人影が現れる。真っ赤な長い髪を揺らし、手には鉄の塊を彷彿させる金棒を地面に引きずりながら歩くその人物は頭から二本の角を生やしていた。

 

「あれが今いる最後の剣闘奴隷。ヒューマンとオーガのハーフの混血種」

 

「あいつが・・・・・」

 

好奇心で注視する。服装は豊かな胸を覆うボロ切れの布のシャツに下着だけ。既にこの姿に慣れているよりも瞳に強い憎悪の炎を宿している。他の観客達は彼女のことを自分達の飢えた娯楽を満たすための見せ物としか見ていたいからか、何かを憎んでいることを気付いていない。

 

「―――さぁ、今日も血が流れ敗者には死を、勝者には栄誉が称えられる闘いの始まりをしようではないか!」

 

完成の中で『神威』を放ちながら叫ぶ声。観客達が静まり返り、その声に耳を傾ける。

 

「今宵も集まった者達はとても幸運に恵まれている。なぜならばこの一戦で勝利をすれば俺の眷族は今までの奴隷達では叶えなかった一千回目の勝利を達成すると言う偉業を成し遂げるのだ」

 

芝居がかかった風に述べるその者は奴隷国を統治する男神だった。顔中に醜悪な入れ墨が施されており、上半身は裸で腰から下は金色の布で履いている。数人の踊り子の服を着させて侍らせている姿は国を統治している者と何ら変わりなかった。

 

「神か」

 

「そうですね。天界では見掛けなかった神です。はて、一体なんて名前なんでしょうねぇ」

 

ヴァベルーでも知らない神。鑑定しても知らぬ名の神だったので一誠も小首を傾げる。

 

「そして今回は趣向を変えてみようと思っている。今日、この国にオラリオから来た【ファミリア】がいると報告があってな。日々モンスターと死闘を繰り広げているその【ファミリア】に我が眷族の最後の闘いの幕を降ろしてもらおうではないか」

 

奴隷神が明らかに一誠達を見つめながら闘いのルールを述べた。同時に彼の神の武装した眷族達が闘技場を覆う天幕の渡り橋から弓矢を構えたり、直接他の客達に得物を突き付けて何が何でも従わせると言う意思を表す。

 

「・・・・・本当に平穏に過ごせれないな」

 

「まったくですな。実に傍迷惑な事です。もうしわけございませんがお願いできますか?」

 

「しょーもないからお願いされるよ」

 

立ち上がる一誠に続きヴァベルーの眷族達も立ち上がって剣闘奴隷がいる場の前に直接飛び降りた。

 

「イッセー様はお下がりください。オラリオへ戻る為にも、貴方があの船の操縦をしてもらわないといけませんから我々が相手をします」

 

「わかった・・・・・気を付けろよ。あいつ、強いからな」

 

「わかりました」

 

警告しつつ密かに防壁の魔法を眷族達に張った。距離を置く一誠達の姿勢に準備が整ったと判断した奴隷神が死闘の合図を出した。

 

「ぶっ殺せ ヤァアアアアアアアアアアアアッハアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「何その合図!?」

 

銅鑼の鐘とかもっと色々言葉があるだろう!と突っ込む一誠と同時にヴァベルーの眷族達が奴隷に飛び掛かった。奴隷は下ろしていた金棒を無造作に持ち、上級冒険者達の体で一誠から彼女の姿が見えなくなった一瞬の時。彼等が弾き返って来て一誠の後ろまで飛んで行き、石壁にぶつかってようやく止まった。

 

「・・・・・」

 

防壁を張ったとはいえ衝撃までは防げない。一撃で戦闘不能になった彼等に振り返らずヴァベルーから見えない位置で口唇を動かす。

 

「―――Lv.5。だから強いからなって言ったのに」

 

そこまで気付く訳ないだろう、と一誠の言葉が聞こえたならば全員そうツッコミをしていただろう。

 

「おいおい!オラリオの冒険者はその程度か?面白味がねぇ闘いにしてくれるなよ。もっと俺達を楽しませる無様な戦い方をしてくれ!」

 

「横暴な事を言ってくれるな。こっちは戦う理由もなく戦わされている身なんだぞ?冒険者らしく報酬がないとやる気が出ないって。このまま彼女に勝たせてもいいんだぜ」

 

嘲笑する奴隷神に言い返す一誠。

 

「報酬が欲しいってか?なら、そいつに勝ったら俺の権限で何でも叶えてやろうじゃねーか」

 

「神に二言はないな?」

 

「絶対に有り得ねぇことだからな。有り得ないことをしてくれるなら子供の願いを叶えてやるよ」

 

絶対的な自信で以って断言する神にしてやったりと笑みを浮かべ、言質も取ったことで始めて臨戦態勢に入った。

 

「んなら、やる気が出た。―――行くぞ」

 

「・・・・・」

 

「『魔剣創造(ソードバース)』!」

 

一誠の目の前の地面から武器が顔を出しながら奴隷へ迫る。彼女や奴隷神、観客達が目を見開き驚きの色をありありと浮かばせる。迫る武器に振るう金棒で木端微塵に砕き続け、投擲してくる槍にも打ち落とす。

 

「初見だってのにやるじゃん。なら、これはどうよ」

 

地面に両手を付いて地面を盛り上がらせ、大きく隆起して竜の顔に形作りながら襲わせる。奴隷は大顎を開ける土竜から跳躍して回避、そのまま土の身体の上を駆けて直接一誠に仕掛ける。

 

「甘いぞ!」

 

一誠を中心に盛り上がる土から八つの土竜が飛び出して来て食らわんとする勢いで向かう。奴隷は目に強い光を宿して豪快に金棒を振り下ろす。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

大粉砕。土竜達の顔を粉々に土塊に還して勢いを殺さず金棒を投げ放った。黒く染める両腕をクロスして飛来する金棒から後ろへ跳躍しながら腕にぶつかる衝撃を削ぎつつ吹っ飛ぶ。

 

「はっ!」

 

途中体勢を整えて衝撃波を放ち奴隷を吹き飛ばす。その隙をついて地面に刺さった金棒まで移動しては掴み取り、お返しとばかり跳躍した状態から投げ放つ。その威力は彼女の比ではなく闘技場を揺らすほどのクレーターができた。その衝撃で更に壁まで吹っ飛ぶ奴隷。

 

「鬼に金棒・・・・・んー言葉通りの強さだな」

 

「っ・・・・・」

 

「ほれ、どんどんいくぞ」

 

両手を突き出して気の弾丸を放出する。真っ直ぐ向かってくる攻撃に対して真正面から交わし、弾き、相手の懐に飛び込もうと近づく。

 

「その度胸。最高じゃん」

 

放出を止めて肉弾戦に持ち込む。互いの拳が互いの顔にめり込み、そのまま殴り合いが勃発する。次に足も加わり全身も駆使して舞いのように闘武が始まる。殴打の激しい連撃(ラッシュ)で音が闘技場に響き渡り、観客達の歓声を浴びながら凄まじい肉弾戦を繰り広げる。

 

「(なんだ、こいつは)」

 

始めて抱く疑問。

 

「(なんでこいつは死ぬかもしれない時に笑っていられる)」

 

死闘は子供の児戯ではない。生きるか死ぬかの選択肢しかない過酷なものなのだ。相手はそれを知っているにも拘らずどうして笑うのか理解できない奴隷の中で疑問が湧き続ける。

 

「不思議そうだな?」

 

「!」

 

「ま、命懸けの闘いに楽しむ方がおかしいだろうがな。でも、俺は楽しいぞ。お前みたいな強い存在と戦えることに喜びを覚えているからな」

 

この化け物の自分と戦えて喜ぶ?理解に苦しみ眉根を寄せる奴隷の両足が地面から浮いた。体勢を崩されたと思った矢先に一誠の手の平が目の前で突き付けられる。一瞬の閃光。全身を襲う衝撃が壁にぶつかるまで止まらなかった。全身からの苦痛の悲鳴を無視して男を睨みつける顔に衝撃波が襲う。それからも続く攻撃に、歯を噛み締め目に見えない衝撃波を受けながら一歩ずつ前進する。彼女が進んだところは顔に滴る血で落としていた。負けれない、負けてたまるものか。ここで負けてしまえばこれまでの事が全て無意味になる。そんなことは何があっても絶対に許されない―――気持ちが胸中で強まったところで、視界の端に己の得物が入る。武器さえ手に入れれば何とか戦い直せれると、一瞬だけ止んだ攻撃の瞬間を狙ってクレーターの中心に突き刺さってる金棒へ駆けて手にする。

 

「・・・・・・っ」

 

そして―――相手を見上げた時、光に包まれながら頭上に金色のわっか、真紅の髪から金髪へ、濡羽色と金色のオッドアイが翠と蒼に変色し背中に金色の六対十二枚の翼を生やす一誠が手を挙げて雷を放つ準備をしていた。

 

「お前は・・・・・一体何者なんだっ・・・・・」

 

「ただの異邦人さ」

 

刹那。奴隷に目掛けて雷が稲光を発しながら落雷する。その瞬間、勝敗は決し。

 

「ヴィットーリア」

 

「はい」

 

「あの者を吾輩の傍に置く」

 

「それは商人としてですか」

 

「いや、本能的にそうしろと吾輩を催促させる。アレは見逃してはならないとな」

 

厄介な相手に目を付けられてしまった事まで一誠は気付かないでいた。

 

「さて・・・・・」

 

白目を剥いて気絶している奴隷の傍に寄り、抱きかかえ奴隷神へ見上げる。

 

「俺の勝ちだが、俺の望みを叶えてくれるよな神様?」

 

「ぐっ・・・・・」

 

「今更嘘だと言ったらよ。自分がどーなるか、わかってるな?」

 

奴隷神の周囲に光の槍が発現して突き付ける。約束を反故した瞬間に己は退屈な天界へ送還されてしまう事実を嫌でも分からされ、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ折れる。

 

「・・・・・何が、望みだ」

 

「二つある。一つは奴隷国の人身売買と奴隷制度の完全撤廃だ」

 

「んなっ!?」

 

国の存在価値とも言える奴隷制度を根本的から壊される。長い年月を費やしてここまで築き上げた奴隷国から奴隷制度を奪われては人身売買もできず、利益も格段に落ちる。自分の楽しみを奪う相手に怒りの形相で食って掛かる奴隷神。

 

「そんなこと―――!」

 

「できないならこの国を住民ごと消滅させる。―――こいつらでな」

 

巨大な黒い魔方陣が出現し、そこから三つ首の黒い龍が咆哮を上げながら登場する。また虚空から黒い魔方陣から胴体が蛇の黒い龍が天幕を突き破って奴隷国中にその姿を見せる他、発現する深緑の魔方陣からは巨人型で浅黒い肌のドラゴンが狂気と戦意をギラギラと銀瞳に孕ませて現れる。当然、観客達は恐怖に陥って悲鳴を上げる。

 

『我が主の言う事を全て従う事だなこの世界の神よ。主は怒らせると恐ろしいぞ?』

 

《オ、オレは人間どもを喰うっ、喰いたいっ!なぁ、喰っていいよなぁ?》

 

『グハハハハッ!今直ぐにでもぶっ殺し回ってもいいんだぜぇっ!久々のシャバだからなぁっ!』

 

「というわけで、俺のお願いを聞いてくれるよな?天界に還りたいって言うなら喜んで手伝うぜ」

 

スッと挙手する主に三頭龍は奴隷神に向かって魔力を集束する。青褪める神はその場で情けなく大声を張り叫ぶ。

 

「わ、わかった!お前の言うとおりに奴隷制度を撤廃する!捕らえていた奴隷達も解放すると約束する!」

 

「二言は?」

 

「ない!信じてくれっ!」

 

ならいい、と三頭龍に魔力を消させる。

 

「そんじゃもう一つの願いは―――この奴隷は俺が貰う」

 

「な、何だと・・・・・」

 

「文句ある?」

 

「い、いや問題ない!」

 

機嫌を損なわせれば巨大な化け物たちを暴れさせかねない相手に下手に出て、屈服する形で従う奴隷神。

 

「それとこれはお願いじゃないけど・・・・・たまにこの国に来るつもりだ。その時、また奴隷が一人でもいたらこの国、滅ぼしちゃうからよろしくな。ああ、だから逃亡するなよ?したらしたでどこまでも追いかけ続けるからな」

 

ニコリと笑みとは裏腹に恐ろしいことを言われて意識が遠のき気を失いかける奴隷神。そして一生後悔する。自分は何て相手をけしかけてしまったのだと。

 

―――†―――†―――†―――

 

気を失ってから数十分後。剣闘奴隷が意識を取り戻す。身体を起こして直ぐに違和感を覚えた。冷たい石材の檻の中ではなく、清潔で柔らかい布の上に横たわっていた。さらに自分と同じ奴隷の身である者達が大勢いて、寝台と寝台の間に置かれた卓の上の鍋からスープを掬い取って食べていた。

 

「目が覚めたか」

 

「・・・・・」

 

竜人(ドラゴニュート)の奴隷が話しかけてきた。

 

「気分はどうだ」

 

「・・・・・ここは、どこだ」

 

「お前が敗北した男が住んでいる場所。迷宮都市オラリオにあるあの男の家の中だ」

 

奴隷国ではない?何故自分はあの主神の元から離れている?耳を疑い、竜人(ドラゴニュート)から気を失っている間の事を全て教えてもらう乞いをした。

 

「あの男は奴隷国にいた殆どの奴隷を引き取って一度オラリオに戻ったのだ。しかも信じられないことに奴隷達の故郷に帰すつもりでいる」

 

「・・・・・」

 

「身寄りのない奴隷は衣食住の提供され仕事も与えられる。これほど好都合過ぎることに警戒してしまうが、あの男は私達を全力で尽くす姿勢でいるからどうすることもできん。それとお前の事は知らん。あの男に直接聞くと言い」

 

ズイっと突き出される肉と野菜がたくさんあるスープが入った器。スプーンと受け取って口に含むと心身共に温かさが染み込む。剣闘奴隷として生きていた頃の食事はパンと干し肉に冷たいスープのみだった。始めて温かい料理を食べた剣闘奴隷は無言で食べ続けた。

 

「・・・・・美味しい」

 

「ああ、そうだな」

 

スープを器に入れて食べる竜人(ドラゴニュート)。肉と野菜の旨みが凝縮されたスープの味を堪能しながら腹が満腹になるまで分けあいながら食べ続けた。

 

 

 

奴隷達を複数の部屋に居させて保護した一誠はロキ達と話をしていた。今後の事も含めてだ。

 

「自分、とんでもないことをしでかしたなぁー。異世界のドラゴンで脅すなんてそら、従わずにおれへんって」

 

「従わせた方が平和的だろ?最悪、奴隷国を滅ぼすつもりだったんだからな」

 

「・・・・・やっぱイッセーって恐ろしゅうわ」

 

「容赦する気ないから。無断で酒を飲むどこかの女神のようにな」

 

あの時の事を掘り起こされて気まずい顔をするロキは目が据わってる一誠から視線を逸らす。

 

「にしても、子供にモンスターの子供を孕ませたその神は異常過ぎるわ」

 

「ヘファイストスさん・・・・・?」

 

「あ、イッセーは違うからね?その、何時か誰かと子供を作ったって問題は・・・・・」

 

「「「・・・・・」」」

 

この世界にとって問題は有りまくりだと神は知っている。故に言い辛そうに同意の言葉を発しないのだ。嘆かわしげに溜息を吐きだす一誠は頬杖をしながらこぼす。

 

「はぁ~・・・・・やっぱり、恋愛しない方が良いのかな・・・・・子供も作らない方が相手の為になるなら尚更か」

 

「そ、それは・・・・・っ」

 

「ほいほい、暗い話しはやめい。今は目の前の事を話そうや」

 

「ん、そうね」

 

手を叩きながら不穏になり掛けた空気を消すロキの計らいに乗じるフレイヤ。一誠の正体を知らないアストレイアだが、コクリと頷いて話を進めることを望む。

 

「自分、あの竜人(ドラゴニュート)とヒューマンとモンスターのハーフをどうする気なんや」

 

「当然、この城に住まわせる。身寄りのない奴隷達にも衣食住を提供しながら俺の店に働いてもらうさ」

 

「引き取るのは構わないけれど、大丈夫なの?あの子達、見た目はモンスターだからオラリオの子供達に受け入れ難いと思うわよ」

 

「ハーフの方はともかく、竜人(ドラゴニュート)亜人(デミ・ヒューマン)として存在を受け入れられてるんだろ?ただ種が少ないだけで、見掛けないだけなのに」

 

「初めて見るからこそ最初は受け入れ辛いと思います」

 

「だったら慣れてもらうまでだ」

 

気持ちを変えない強い意志を窺わせられ、一誠達がどう転ぶか見守るしかできない女神達。ならば一任する他なく自由にさせて、間違った道に進まないよう神々も手助けするべきであろう。話しは終わりだと立ち上がって部屋を後にした。出て直ぐの廊下にバツ悪そうにして顔を暗くしているアリシアが佇んでいたが、一瞥もせず、目もくれず真っ直ぐ歩き続ける。

 

「―――別に謝る必要なんてないからな」

 

「・・・・・」

 

「俺は化け物だ。お前の言うとおり人の心なんて気付かない内にもうないかもしれない。だから相手に同情なんて感じないが―――それでも理不尽な目に遭っている奴は助ける。絶対にだ」

 

何も返さないアリシアから遠ざかり、通路に誰もいなくなった中で彼女はこぼした。

 

「ごめんなさい・・・・・」

 

―――†―――†―――†―――

 

奴隷国から戻りオラリオで奴隷の送還の時間が始まるまで数日後。身だしなみを整えある物を渡され、奴隷として捕まえられてから久しく帰れる瞬間を、待っていた彼女達にその時が訪れた。

 

「それじゃ、目を瞑って自分の家を強く頭の中で思い浮かべて」

 

「は、はい」

 

相手の思念を具現化する魔法円(マジックサークル)の中に一誠と奴隷の少女が佇み、言われた通りにそうすると男の額と重ねられ肩が震える。

 

「集中」

 

「は、はいっ」

 

一誠の頭に彼女の故郷の光景が浮かんで移動系の魔法の詠唱を紡ぐ。二人の横に光の扉が発現し、魔法が成功すると扉の向こう側は彼女の故郷が見える。目を開けて久しぶりの我が家に至極感動して涙を浮かべる。

 

「アスナ」

 

「うん」

 

分身体と一緒にアスナは彼女を連れて扉の向こう側へと潜って送り出す。

 

「あの家がそうなのね?」

 

「はいっ・・・・・」

 

少女を挟んで集落に向かう途中で一人の子供と目が合い、二人の真ん中の少女を見た途端に声を張り上げた。

 

「お姉ちゃんだ!皆、お姉ちゃんが帰ってきたよ!」

 

幼くもハッキリとした大声を発して集落の大人達を集める。少しして、両親とおぼしき中年の男女が歓喜の声を上げて、少女のもとへ駆け寄る。泣く声が聞こえてきた。

 

「お父ちゃん、お母ちゃんっ・・・・・!」

 

抱擁しあって涙を流す。大人や子供達もよかったよかったと歓迎して笑顔を浮かべてた。その中、老人が近づいてきた。

 

「どこの者かは存じませぬが、集落の娘を送りいただきありがとうございます」

 

「いや、無事に送り帰せただけでよかったよ」

 

「もしよければお名前をお聞かせて下さいませ。直ぐに感謝の印として宴の準備を致しますゆえに」

 

「それは嬉しいが、まだ彼女の他にも奴隷として捕まった者達を送り返さなければならない。宴は彼女のためにしてくれ」

 

「おお・・・・・っ。では、この集落から連れ去られた娘達もそちらにいるのですか!?」

 

目を見開き縋る勢いで聞いてくる老人に「まだいるのか」、と答えに困った分身体は可能性だがと返した。

 

「集落の名前を教えてくれるか。他の奴隷に訪ねてみる」

 

老人から集落の名前を聞き出し、一度戻って奴隷達全員から集落の出身者を探しだす。その結果、数名の若い少女や女性が名乗り出てまた故郷へ連れていくと男性や子供達が彼女達の姿を見て浮かべる涙を拭かずに抱き締めた。

 

「これで全員か?」

 

「はい、全員ですっ。ありがとうございます。真にありがとうございますっ」

 

是非とも宴に参加してくださいまし!と乞われるも、やんわりと遠慮して両手を挙げて集落全員に見送られながら城の中に戻った。

 

「帰れるんだ・・・・・」

 

「う、うう・・・・・!」

 

今まで見守っていた奴隷達が希望を見いだしてるところで、アスナと分身体が戻ってきて少女達へお辞儀をした。無事に帰せたのだと悟り光の扉を閉ざす。

 

「これで解ってくれたか?何とか全員の故郷へ送り帰せす。今日中に出来るか分からないが必ずお前達の帰りを待つ場所へ送る」

 

「皆、彼のこと信じてあげて?皆の味方だから安心して笑顔を浮かべて帰ってちょうだいね」

 

『は、はいっ・・・・・』

 

そしてそれから何時間も何百回も奴隷達を故郷へ送り返し続ける度に肉親、知人等に感謝の言葉を受けるが王族や貴族からは「娘を拐った痴れ者めがっ!」「天誅でござる!」「その首を置いて死ねぇッ!」と娘の言葉や制止を無視して処刑されかけた。中には娘と婚約をさせようとする子煩悩の親もいた。

 

「しょうがないとはいえ、殺されかけられるとは」

 

「お、驚いたわ・・・・・」

 

そしてよろしくない事態にも起きた。それはエルフの故郷の森へ送った時だった。同族以外が侵入してきた者達に弓矢を放たれ、話し合いどころではなかった。

 

「待ってください!私達は捕まってしまっていた彼女を送りに来ただけです!」

 

「ならば失せろ!その者はもはやこの森に立ち入ることは許されない。薄汚い人間達に穢されたエルフを受け入れてや我々や森までもが穢れる!」

 

「そんな、彼女は穢れてなんてありません!それに貴方達は彼女を助けようとしたのですか!?」

 

「この森から連れ去られた時点で我々は諦めた。同じく他にも連れ去られた同族も生死問わずにだ。穢れた世界に行けばエルフは皆穢れるのだからな」

 

互いの価値観との違いで故郷に戻ることを断念して、エルフの少女は泣く泣く城の中へ戻った。二人も至極残念がって戻ろうとした時。

 

「・・・・・同族を助けた恩は忘れない。どうか彼女を、我が姉をよろしく頼む」

 

弓矢を持つエルフ達が黙祷を捧げる風に二人へ頭を垂らした。彼等の心情を汲み取って任せてほしいと念を籠めて頷き城に戻った。他、奴隷目的で連れ去られた女性以外が皆殺しにされた村、食料困難で口減らしや貧困で売り飛ばされた経緯を持つ奴隷もいて受け入れてくれず、三分の二程度でしか自分の故郷に帰れなかった結果で終わってしまった。しかし、その中で稀に―――故郷へ戻らず恩返しの目的で残る奴隷もいた。

 

「貴方様の行いを拝見させていただきました。奴隷達を救い故郷へ見返りも求めず送り返すその姿勢・・・・・感服いたしました」

 

「感服って、出会い頭にナイフとフォークを投げてきた奴が言う言葉か?」

 

「そ、それについてはこちらに非があると・・・・・奴隷として捕らえてからこの身とこの心を下賤な輩に捧げたくない防衛処置と申しますか・・・・・もうしわけございません」

 

バツ悪そうな顔をして謝罪する銀色の髪とルビーのように赤い瞳の女性。彼女の番となっても頑なに話があると言って他の奴隷に順番を譲り今に至る。

 

「もしかしなくても俺以外の人間にもそうしてた?」

 

「はい、私の投擲を受け止めたのは貴方様が初めてです」

 

「もしかして神の眷族だったりして?」

 

「元眷族でしたね。色々と離せない事情で脱退していたために数の暴力で捕まりました」

 

淡々と答えていく女性の奴隷国にいた経緯を知り「はー」と感嘆に似た息を漏らしたアスナ。

 

「えっと、貴方はどこかの王国か貴族の人ですか?凄く綺麗で気品も感じますし」

 

「いえ、家事妖精(シルキー)でございます」

 

「シルキー?」

 

「シルキー!?」

 

聞いたことがない単語に首を捻るアスナと驚きで目を張る一誠の反応の違いに、アスナは質問した。

 

「知ってるの?シルキーってなに?」

 

「家事全般が得意、甘い物が大好き、悪戯好きの三拍子が揃った妖精だ。神話にも載っていて気に入った家や家具に憑く妖精なんだけど・・・・・こっちの世界にもシルキーがいるのか」

 

「何の事だか分かり兼ねますが、概ね当たっております。魔法種族(マジックユーザー)でもありますので魔法も少々心得がございます」

 

変わらんのね。甘党なところは。

 

「あの、憑くって幽霊みたいな言い方なんだけど?まさか、ゆ、幽霊・・・じゃないよね?」

 

「俺の世界を基準に言っているだけだ。俺も実際シルキーを見たのは初めてだし、目の前の彼女は幽霊じゃないのは確かだ」

 

「その通りです。なんなら深夜に貴方様の寝室に忍び込んで幽霊のように驚かしましょうか・・・・・?」

 

シルキーのからかいにアスナは一誠の腕に抱きついて怯える。本当に幽霊が苦手なんだなーと色々柔らかい感触を堪能しつつ思いを抱く。

 

「で、帰る故郷があっても戻る気がないのは?」

 

「貴方の人柄を垣間見て思いました。奴隷国にいた殆どの奴隷達を救い、不可能を可能にした貴方は尊敬に値する人であると。故に・・・・・」

 

その場で跪き頭を垂らす。その姿勢は相手に敬意を払い、そして誓いを立てるようなものであった。

 

「奴隷だった私を買った貴方様は私のご主人様です。どうかこの城にいさせてくださいませ」

 

「ご主人様って・・・・・自分の立場はどんな感じに思っているんだ?」

 

「メイド、もしくはこの身体が蹂躙される肉奴隷・性奴隷と言ったところでしょうか」

 

真顔で淡々と述べるスルキーに度肝を抜かされるアスナの横で一誠が不穏な動きをし始め出す。

 

「ストップストップイッセー!そのハリセンで叩こうとしない!冗談で言っているつもりだと思うから!」

 

「?私は冗談を言いません。百人以上の奴隷を買い占めた鬼畜野郎、と最初は思っていましたので」

 

「・・・・・アスナ、俺は鬼畜野郎だってよ」

 

羽交い締めされてアスナに制されて、シルキーの発言でどこからともなく取り出したハリセンを構えるが自分の印象が最低だったために物凄く落ち込んで、アスナに慰められた。

 

「・・・・・とにかく、お前を奴隷としてでもお前の主にしたくて買ったわけじゃないんだからな。肉奴隷も性奴隷も、だっ」

 

「では、行く場所も返る場所もない私を放り出しますか?」

 

「そんなことするか。寧ろ逆の提案だ。俺達と一緒に住むかオラリオで住むかの選択を与える。衣食住の保証を約束するし、困りごとがあったら助けるし相談も応じる。お前はどうしたい」

 

「先ほど申し上げたばかりです。この城に住まわせてください。私の人生を買った貴方様は私の主です。貴方様の為に一生を尽くしたい所存でございます。これは心から思っている嘘偽りではない私の本心なのです」

 

強く伝わるシルキーからの想いは本物であった。揺るぎない決意と強い想いに一誠は呆れる息を吐いてから言葉を送る。

 

「俺の事一生尽くす。その言葉は真か?」

 

「真でございます」

 

「・・・・・俺に対して絶望と恐怖を抱いたとしても離れない保証は?」

 

「ありません。私を信じてもらうほかございません」

 

「・・・・・」

 

信じてほしい、か。ならば信じるに値する者か試すのもアリだろう。幾重の防音式の魔方陣を展開した一誠は真の姿を晒し出す。人の皮と肉を脱ぎ捨て天井近くまで大きく真紅の身体のドラゴンと成ってシルキーに咆哮する。

 

『オオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

「「っ!?」」

 

アスナはまさか己の正体を明かすとは思いもせず、シルキーは主として迎え入れる人間がモンスターだった事に絶句する。似て異なる気持ちの二人だが確かな違いはあった。一誠はシルキーに対して殺気と殺意を叩きつける。絶望と恐怖を抱かせるつもりで本心を聞きだすために。

 

『本当の俺は人類の敵だ。この爪がお前の柔らかい体を引き裂き、この牙がお前の血肉を咀嚼する。そんなモンスターをお前は主にしたいか?』

 

「・・・・・」

 

『止めておけ、そうすることを勧めるぞ。それにメイドは間に合っている。これ以上入らん』

 

特に銀髪のメイドはな、とシルキーを拒絶する。

 

『衣食住の保証はさっきも言ったように安心しろ。それからオラリオでどう生きおうとお前の自由だ』

 

魔方陣を消して人型に戻り返事を聞かずさっさと部屋を後にし出す男に、シルキーへ不安げに一瞥をくれて追うようにしてアスナもいなくなれば、一人だけ残されたシルキーはただただその場で佇むことしかできなかった。

 

「・・・・・イッセー、あんなこと言っていいの?」

 

「一緒に住むだけならまだマシも、俺に仕えるメイドとして住むなら話は別だ。いずれ俺の秘密を知って後悔するぐらいなら早い段階で遠ざけた方がいい」

 

それに嘘を言ったつもりはないとも付け加える。

 

「はっ、そう思うと俺と言う存在は案外不吉極まりない存在だな」

 

「・・・・・皆、そう思わないよ」

 

「皆が皆そうじゃないのは承知の上だ。だが、俺の存在を忌避する連中の方が多いのは確かだ。オラリオならば尚更な」

 

否定しきれず口を閉ざす。人類の天敵と誰が仲良く暮らしてみたいだろうか?人間がゴキブリを嫌うように人類はモンスターを忌み嫌う。そうしないのは心を通わせ互いを認め合ったことができた者だけだ。そうする前にシルキーを遠ざけようとしてる一誠の心情を、アスナは何とも言えない面持ちで複雑そうに思いながら見つめる。

 

―――†―――†―――†―――

 

竜人(デミ・ヒューマン)とヒューマンとオーガの混血種(ハイブリット)鬼人(ヒュームオーガ)がいる部屋へと訪れた。持ちかける話は共生である。

 

「・・・・・ここはあの国ではない以上、私は生きる理由がない。私の様な化け物が生きていていい筈がないのだからな」

 

「ふーん、そう言う?お前はまだマシだと断言するんだがな。人間の血が半分流れているだけでもまだ人の心ってもんがあるんだし。てか、俺の目の前でそんなこと言うな。怒るぞ」

 

「このモンスターの角を見て、私を恐れる者がいないとでも?」

 

「ん(龍化する一誠)」

 

「なっ!?」

 

「―――っ!?」

 

「イッセーは人型のモンスターなの。だから二人の気持ちも凄く解ってくれるはずだよ?」

 

硬直する二人に向かって一誠のフォローをするアスナ。人型のモンスター?そんな名のモンスターは聞いたことがないと同じ感想を抱く二人に凶悪な牙を覗かせる笑みを口の端を吊り上げてした。

 

『俺はこの世界とは違う別の世界から来た存在だ。だから人の姿にもなれる』

 

「別の世界って、なんだそれは?わけがわからん」

 

『おいおい説明しよう』

 

元の姿に戻っても竜人(ドラゴニュート)のように頭に角、背中に二対四枚の翼に臀部辺りに尻尾を生やす。またもや絶句する二人。

 

「俺はドラゴンだからな。ドラゴニュートの様な姿にもなれる」

 

「私の同族、ではないのだな」

 

「違うな。親近感が沸くけど俺はドラゴンだ。ドラゴニュートじゃない。・・・・・アスナ、今日から人間じゃなくてドラゴニュートって設定でいけね?」

 

「多分、無理があるよ。そうなれるってならなんとかいけそうかも」

 

だよなぁ・・・・・ちょっぴり残念がって角や翼等を隠す様に仕舞う。

 

「ま、こんな俺だから俺の正体を知っている奴限定なら二人の事を受け入れてくれる。このアスナもその一人だ」

 

「よろしくね」

 

「・・・・・・化け物を見て何とも思わないのか」

 

「うーん、襲ってくる化け物だったらどうしようもないけれど、ちゃんと言葉を話せて心も通じれるのだったら恐くとも何ともないわ」

 

お化けが怖いらしいけどな?とからかう一誠にアスナは「もうっ!」とぷりぷりと怒る。

 

「兎にも角にも二人は行く宛ても帰る場所もないなら俺と一緒に住もう」

 

「対価はあるのか・・・・・?」

 

「料理を作って客に食べさせる店に働いてもらうか、冒険者として生きるかの選択だけだな。うちは働かざる者食うべからず。食べたいなら働いてもらう方針だから二人にもそうしてもらう。他の元奴隷達もそうだ」

 

「わかった・・・・・私はお前に敗北した身だ。命令に従う」

 

「あーもう、そーいうのも無し!俺達は対等で、相手の願いを応じるって関係で友情や恋愛、絆を築きあげることを重視してもらう。いいな!」

 

決定事項と言わんばかりに二人へ言葉を投げる。色々と疑問があり理解しかねることばかりだが肯定と首を縦に振る二人に―――。

 

「さて、早速だが二人には可愛らしくなってもらわんといかんなぁ・・・・・?」

 

「「・・・・・え?」」

 

「そうだね。うんと可愛くなってもらおっか」

 

一誠は鬼人(ヒュームオーガ)、アスナは竜人(ドラゴニュート)にじりじりと近づき迫る。何か異様は気迫を感じて止まない彼女達は後ずさる。

 

「背中の翼は店の中じゃ邪魔になるから魔法の道具で消して、全身の生傷も消さんきゃな」

 

「そしたら角にリボンを付けて見るのもいいかもね」

 

「「は・・・・・?」」

 

逃げ場がない状況で壁まで追い詰められた二人は、良い笑みを浮かべる目の前の二人から伸ばされる手に掴まれあの手この手で施されるのだった。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

『異世界食堂』にまた新たな従業員が増えた。それを知らず入ってきた常連客達は、むはっー!と鼻息を荒くして嬉しそうに認知する。

 

「「い、いらっしゃい、ませ・・・・・」」

 

「いらっしゃいました!ねぇ、君は新人だね?何て名前何だい?名前を教えてくれよ~」

 

「だ、誰がお前なんかに―――」

 

「おいおいお客さん。うちの新人にそんな興奮したまま話しかけたら殴り飛ばされるぞ。何を隠そう彼女はLv.5の冒険者なんだからさ。お客さんの顔がトマトの様に潰れちゃうが、いいのか?」

 

魔道具(マジックアイテム)で翼を消して、角と尻尾を残す竜人(ドラゴニュート)と共に角に可愛らしいリボンを付けられ、制服を着せかえられた鬼人(ヒュームオーガ)は羞恥でプルプルと顔を赤くして肩を震わす。名を知ろうとした客は店主に危なっかしい事を言われてはすごすごと大人しく席に座った。

 

「こら、笑顔で出迎えをしなきゃ」

 

「そんなこと、今まで殺す殺される生活をしてきた私に無理なことだっ」

 

「無理でもなんでも、笑える仕草が出来るぐらいはしろ。お前は人間なんだから」

 

「っ・・・・・こんな私を捕まえて人間呼ばわりするか」

 

「するね。―――だからお前等も滅茶苦茶に愛するつもりだから覚悟しろよ?」

 

揃って火が顔から噴き出そうな勢いで真っ赤になった。恥ずかしいあまりにキッと店主へ睨みつける。が、他の客の対応をしに行っていたために空振りに終わる。出入り口の前で佇み客を出迎える役割を与えられてからもう三日が経つ。人間と怪物のハーフであろうと関係ないぐらい店にミアやシル達従業員に笑って迎えられ、店に働かされ、竜人(ドラゴニュート)共々食べにやってくる客達には「俺達の知らない種族か」と思われてさほど毛がない尻尾や頭の角を見ても気にされず従業員の一人として認知される。

 

「(・・・・・奴隷国とは大違い過ぎて戸惑ってしまう)」

 

「(オラリオの人間って・・・・・)」

 

そんな表から裏に視点を変えれば、そこにいる筈がない者が交ざって調理をしていた。その者は「店主、このハンバーグの作り方を教えてください」乞う。

 

「マキャベリの傍にいなくていいのか」

 

「しばらくお暇をいただいております。貴方の店の料理を全て完璧に作り上げる腕を磨くまでは働かせてもらいます」

 

奴隷国から共にやってきた商人の従者が異世界の料理をマスターしようと奮闘中だった。主の為に未知の料理と未開拓の味を全て吸収して食べてもらうが為に。

 

「言っておくけどよ。この料理は全部俺の故郷のものだが、まだまだお前が知らない故郷の料理はこの数倍はあるからな?」

 

「・・・・・なんですって」

 

「それも知りたいなら一生懸命店の為に貢献するんだな。そしたらレシピを教える」

 

「わかりました。是非ともそのレシピを頂戴いたしましょう」

 

ま、この世界にも同じ食材や調味料があればの話になってしまうがな。心中ペロリと舌を出して嘘は言っていないが全部作れるかは定かじゃないとヴィットーリアにほくそ笑む店主。元奴隷のエルフ達も制服で身に包みレイラの指導の下で仕事を励んでいる様も見ながら店主も仕事をする。

 

「店主さん」

 

そんな時にシルが裏から厨房に入って来て手にしていた手紙を手渡してきた。手紙に綴られた文字を目で追いながら呼んで行く連れに店主の顔は難しい感じになった。

 

「面倒事が起きた・・・・・」

 

「何て書かれてあるんですか?」

 

「大雑把に言えばギルドからの依頼だ。海を渡す列車を地上にも作れってさ」

 

趣味で作っただけの列車を量産など面倒極まりないだけ。手紙を手の中で塵一つも残さず燃やし見なかったことにする店主に見守るシル。

 

「しばらくはのんびりと過ごしたい気分だから他の事はする気ない。お断りだ」

 

「大丈夫ですか?ギルドの依頼を断っちゃって」

 

「ギルドの事よりもシル達の方が重要さ」

 

シルへウィンクする店主に嬉しく感じて柔和な笑みを浮かべ、両手を後ろに組んで髪と同色の瞳を上目づかいする。

 

「じゃあ、私達のこと大切にしてくださいね?そしたらもっと店主さんの事が皆好きになりますから」

 

「勿論だとも。俺もお前等の事が好きだぜ?」

 

二人の話を耳にするシェフたちは調理しながら口唇を緩めて微笑む。自他共に慕って良好な関係と楽しい対話ができるのはきっと、自分達が知る限りこの店以外ないかもしれない。だから心地がいいこの店や店主が好きなのだ。

 

―――そんな忙しくて疲労困憊にまで働く店も終わりがあり最後の客が帰っていくと、従業員達は店仕舞いをする準備に取り掛かりそれぞれ帰路につく。ただしどちらも最終的に帰る場所は同じであるが。

 

「ただいまー」

 

一部の者にしか入ることが出来ない、許されない『幽玄の白天城』に戻った店主こと一誠達。自分達の帰宅した挨拶の言葉で伝えると、昇り竜の彫刻が施された長大円柱が、等間隔に並んでいる玄関の奥からメイド服で身に包む銀色の髪に赤い瞳の女性が出迎えにやってきた。

 

「お帰りなさいませ」

 

一誠達にお辞儀をするは元奴隷のシルキー。モンスターに仕えるか否かの云々はともかく、この城に住みたいと言う彼女の願いを聞き受けた。今後毎日出迎えてくれるメイドが出来たことに、元の世界にいる最愛のメイドに教えたらどんな反応をするのだろうかと少し緊張する。

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