ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

79 / 129
冒険譚19

バベルの塔の最上階から街を一望する美神のフレイヤ。可愛らしい九つの狐の尾と耳を生やし林檎のパイをハムハムする幼子を抱き締めながら銀瞳の視線を街へ落としている。下界の人類の魂を色として見分け、己の目に適う子供や目的のために動く子供の姿を見ることが日課ではないが、娯楽に飢えた神々の一柱として下界の住人たる人類の生き様を見ているだけに過ぎない。不意に、下から声が投げられた。

 

「毎日毎日、見下ろしていて飽きないのか?」

 

「神が人類を見て見飽きたことがないわ」

 

「ふーん、こっちの世界じゃあ人間を創造したのは神だけど。この世界の人間を創造したのはやっぱり神だったりする?」

 

「不思議な事を訊くのね。とても新鮮な質問だわ」

 

クスと笑みをこぼす女神は肯定する。異世界から来た異邦人との会話も眷族になってから最近の楽しみの一つに増えた。逆にこちらから質問をするほど未知で詰まった異世界は興味が尽きない。

 

「今更だけど、貴方の世界にもダンジョンがあるならバベルの塔もあるのかしら?」

 

「あるぞ。ただ、その塔を創って神に近づかんとしたその国の人間達の行いで神の怒りに触れて壊されたけどな」

 

「あら、そうなの」

 

因みにそれがこれだ、と元の世界のバベルの塔を立体的な映像を映す魔方陣で見せ、フレイヤから感嘆の息を漏らさせた。

 

「小さいのね」

 

「壊されたからな」

 

銀瞳の視線は次々と異世界の観光名所や建造物を映して見せてくれる魔方陣に変え、銀の女神の好奇心を惹かせる。

 

「ねぇ、この大きな女の銅像は何かしら。何の意味があるの?」

 

「自由の女神か?それはその国の象徴として建造されたんだ」

 

「国の象徴・・・このオラリオの象徴がバベルの塔のように?」

 

「ん、そんな感じだ。それに【ファミリア】だって神の象徴の徽章もあるんだからさして珍しいほどじゃない。他にも象徴を人形にしたり絵にしたりしてるしな」

 

亜空間から林檎のパイを取り出してパクっとかぶりつく子供の話を聞き、神妙な面持ちと成ったフレイヤ。人や神を銅像にして形に残すことは言われた通りに珍しくない。空を飛ぶ魔法の絨毯にも【ファミリア】の徽章が施されてるし、本当に珍しくない。ないが・・・・・。

 

「変わってるわね」

 

神々の【ファミリア】の徽章(シンボル)で証を作ろうと考えたのは太古の人類。人類の考えることに神は新鮮さを感じて他にも色々と魅力的で魅かれているのだろう。でなければ下界に永住しようとは考えないし思いを抱かないはずだ。時に神々の想像を超えることもするから尚更なのだ。

 

そう―――異世界という未知の宝箱から飛び出してきたこの子のように。

 

「(ふふ、何時かこの世界にいる(フレイヤ)と出会ったらどうなるのかしらね)」

 

 

 

バタコンバタコン、ガッシュガッシュと音が鳴る一室に覗き込むとその手の専門職業の者しか分からないことをしている一誠がいた。城の中の作業部屋のもう一つの部屋の中で大量の布に囲まれた大きな織機を操りつつ鼻歌をしている。形成されていく大きな布には横顔の戦乙女が三分の一まで出来上がっており、まだまだ完成は程遠いが滞りなく作業は進んでいる時、音を聞きつけて入ってきたアイズとアリサ。見たことがない大きな道具を使って何かを作っている様子に興味津々で傍によって宙に浮いてまで作業の様子を見る。

 

「イッセー、何を作ってるの?」

 

「魔法の絨毯さ。こうやって一本の糸で何枚回も積み重ねていくように織って作っていく滅茶苦茶地味で根気が物凄くいる作業なんだ」

 

糸と糸の間に数種類の色が染まってる糸を通して織っていく作業は自分達でもできそうだ、と認識してしまう。

 

「やってみたい」

 

「やりたいのか?でも、これを使うなら身体が小さいからできないぞ」

 

であるが、作業をいったん中止しては二人に小さな織り機を用意した。準備をしてやって織り方をアイズ達の手を掴んで実際に学ばせた。そうしてそれぞれ織る作業が始まり、誰かが呼びに来るまで戦闘以外でも没頭して創りつづけたのだった。その成果として数日後、リヴェリアの手に上質な絹で織られた服が手渡された。

 

「これは・・・・・?」

 

「俺の隣でアイズとアリサが織ったものだ。途中で飽きて放りだすかと思ったんだがな。中々どうして以外にも最後までやり遂げたよあの二人」

 

「お前の真似をしたかったからだろうな。だが、何故私に?」

 

「自分達の為に使ってみろって言ったら『リヴェリアにあげる』と言ってな。布だけ手渡されてもアレだから仕立て屋に頼んで作ってもらった」

 

服を広げれば純白でシルク製の物であった。それを確認した途端にリヴェリアの柳眉が困ったように寄った。

 

「作ってもらったのは嬉しい。だが、これは、少々・・・・・」

 

「ああ、デザインは仕立て屋の人『とある王国の姫の為にこの世で一つしかないドレスの物で頼む』とお願いしたんだ」

 

胸元と背中が露出しているその服は仕立て屋の手も加えられており、衣装と装飾が凝っていた。しかも、少々豪華さと派手やかさが強く印象付けさせているため、リヴェリアでなくても他のエルフ達でも気難しそうな顔をして着たがらないかもしれない。現にリヴェリアもこの服を見て躊躇している。

 

「やっぱ、リリアに着てもらうのは難しいよな。一目で『あ、これあいつの性格と合わん服だ』って思ったほどだし」

 

申し訳なく「困るもんを見せて悪かった」と謝って、何か言おうと口を開きかけた王族(ハイエルフ)から服を手に魔方陣を介して自室に持ち去る。そして、あの二人の労力を無駄にさせないため作り直すかと設計に手を掛ける。その時、入室の許可を得たシルキーが入ってきた。

 

「お仕事ですか?」

 

「うんや、アイズとアリサが織った布のドレスの再設計。二人のプレゼントが合わなかったから作り直すためにな」

 

十人以上は軽く雑魚寝しても寝られる寝台にシルクのドレスへシルキーの目が留まり、それに手にした途端に不自然な静寂を纏った。異様な静けさを醸し出すメイドに振り返り「どした?」と訊ねてみたら。

 

「・・・・・私はこの城に居させている身であります」

 

「うん?うん」

 

「メイドとして働く私にも報酬を約束していただいてもらっております」

 

「働かず者食うべからずだからな」

 

だからどうした、とドレスを熱心に注視する彼女の様子を見てふと思い至った。

 

「それ、欲しいわけ?」

 

こくん、とシルキーは頷く。そう言えば己が知っているシルキーの伝承には灰色か白のシルクのドレスを着ていたっけと思い浮かべる。現在の彼女は奴隷国で買った時から変わらない黒いメイド服だ。この世界のシルキーも同じとは思えなかったが、シルクのドレスを欲する欲求を見るからに同じなのかもしれない。

 

「モンスターからの贈り物でもいいなら、数日以内に報酬とは別に送ってやるよ。それはやれないが」

 

「・・・・・貴方様は自分の事を蔑むのは何故ですか」

 

「いや、人の皮を完璧に被っているモンスターってのは事実で蔑んでいるわけじゃない。お前の気持ち次第さ。言っておくがこれも試しているわけじゃない」

 

モンスターが作る物を欲しいかと問われたシルキーは何か言いたげな目をするが、試しているわけではないが本質を問われていることを認識してこくん、と頷いた。

 

「わかった。お前に見合うドレスを用意する。初めての贈り物だから気合を入れさせてもらうとするよ」

 

こくんこくん、とシルキーは頷き微かに口唇を緩めて期待に胸を膨らませる。

 

「そう言えば、甘い物・・・デザートは好きか?」

 

「大好物です」

 

聞かれて以降、金銭と一緒に異世界の甘い物を報酬に加えられたシルキーは、至極幸せそうな表情を自室で浮かべて頬張るところを一誠に覗き見されるが気付くこともなくデザートを堪能する。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

「あーさぶさぶ、大量大量。皆お疲れさん」

 

ある日のこと。玄関ホールの空間がぽっかりと開く穴の向こうから極寒の冷気と共に一人のヒューマンと四人の女戦士(アマゾネス)が潜ってきた。採取と狩りを終えて地上に戻ってきた五人はそれぞれ別行動をして離れる。男のヒューマン、一誠は採取したドロップアイテムの選別をするために自室に戻る。アマゾネス達は冷えた身体を温めに浴場へと直交する。

 

「今日も大量に手に入ったからな。最近は金の出費が激し過ぎたからまーた貯めんといかんし」

 

いや、後悔はしてないけどな。と独り言を呟きながらバックパックから入れに入れ込んだ収穫の品々を一つ一つ、中には雑に扱えない物も丁寧に取り出して選別する。そうして床中が『深層』のドロップアイテムだらけになった時間に、腕輪の宝玉が点滅を繰り返す。誰だ?と思いながら作業を中断して通話状態にすると、精緻な人形を彷彿させる銀色の髪の少女(ヒューマン)の姿が立体的に映り出す。

 

「アミッドか。どうした」

 

『ご相談事がございまして。今お時間は大丈夫でしょうか?』

 

「59階層の『深層』から戻って来たばかりだから大丈夫だ」

 

ギルドの調査で回復役(ポーション)の調合にも使えることが判明した物を見せつける。見たことのない希少(レア)な植物を目にしてアミッドの大きくつぶらな瞳がその植物へ凝視するほど興味津々だった。

 

「相談って何だ?」

 

『ディアンケヒト様が新たな回復道具(アイテム)をお求めになられまして』

 

巻物(スクロール)の量産?」

 

『いえ、それとは別の代物です』

 

新しい回復道具(アイテム)を求められてしまったアミッドは、一誠に応じることはできないかと尋ねてきたことを察して、彼女に申し訳ないが首を横に振った。

 

「契約は巻物(スクロール)を【ディアンケヒト・ファミリア】に提供すること。それ以外のもんを要求するのは契約に反するぞ。本神は分かって言っているんだろ?」

 

『承知の上です。ディアンケヒト様曰く「儂の要求を応じてくれるならばそれ相応の対価を払ってやる」とのことです』

 

「じゃあ、アミッドを正式に【ファミリア】から脱退させたら何でも応じてやると吹っ掛けてみろ。それで諦めるはずだ」

 

『・・・・・本当によろしいので?』

 

「お前をダシにして使うようで悪いが、ディアンケヒトがそれ相応の対価を払うって言ったんだ。俺はお前を望むよアミッド」

 

と―――アミッドとの話し合いで決まった要求を主神に伝わると。ホームから「ぬわぁにいいいいいいいっ!?」と驚きと怒気が孕んだ叫びが聞こえて、利用しようとした冒険者達を驚かせた。

 

「何を馬鹿なことを要求するのだあの小僧めがっ!そんなのこの儂が許すわけがないだろう!」

 

「ディアンケヒト様を諦めさせる要求です。あの方は本気ではありません」

 

「ぐっ・・・・・契約の方は」

 

「無理かと。新たに商品をお望みならば契約の改新せねばなりません。その際イッセーさんの要求も変わります」

 

それが今回の要求は私です。とディアンケヒトの肩を落とさせる魔法の言葉に等しかった。ぐうの音もでなくなってきた主神に真っ直ぐつぶらな瞳を向けるアミッド。

 

「私を手放すか利益を選ぶかの選択ですディアンケヒト様。どちらもイッセーさんから得られる利益は【ファミリア】の為になりますが」

 

「ぬぬぬっ・・・・・おのれ、神の足元を見おって・・・・・!」

 

「(契約という鎖に縛られるとこういうしがらみに囚われるのですね。イッセーさんはこれをわかってて契約にしたのでしょう。勉強になります)」

 

思惑通りになったことを一誠はアミッドから聞くまで知る由もなく、ドロップアイテムを換金しにではなくとある商人に半分ほど提供していた。

 

「ほれ、お望み通り『深層』のドロップアイテムだ」

 

「うむ、協力に感謝する」

 

バックパックを手渡すヴィットリーアの隣に立つマキャベリが感謝の言葉を短く述べる。場所は南区画の市井の端っこ。

 

「まったく、こればかりは骨が折れそうだったぞ。『深層』のアイテムを全て百個も集めてくれって言われたときはよ」

 

「それでも我輩の望みを叶えてくれたのだろう?」

 

「まだ幾つかの希少(レア)のアイテムは揃えられない。出現するのが稀なもんだから一朝一夕は無理がある。それでも十個ぐらいは手に入れてるから勘弁な」

 

「問題ない。これだけあれば売買はできる」

 

一体どこで売買するのか?訪ねてもまだ決めていないと言われて場所取りも満足にできていないようだった。

 

「お前の協力を必要と感じたら直ぐに求めるつもりだ。それまでは我輩の好きにさせてもらう」

 

「平和的にやれよー」

 

踵を返すマキャベリとヴィットリーア。一誠は離れ去って行った二人の背中を見送り今度こそギルトヘ赴くのだったが。背後からドドドドドッ!と音がして来て振り返った直後に。

 

「イッセー見つけたぁああああああゾウッ!」

 

ドアップで象頭の仮面を被った男が一誠の腹部にタックルをかましてきた。ごふっ!?と肺から酸素を吐き出して男と共にメインストリートに倒れ込む。周囲の驚愕と絶句の気配や奇異の視線を気にする暇もなく、

 

「いきなりなにするんだぁっ!?」

 

龍の雷が落ちて炸裂する。

 

「・・・・・で、何か用かガネーシャ」

 

元主神の男神を正座させて、申し訳なさそうにしている眷族とも相対して問いただす。大通りの往来のところで神が土下座をしている様は様々な視線と注目を集めているが、一誠の一睨みで野次馬達は恐れをなして歩き始めた。

 

「イッセー、今は暇か」

 

「これからギルドに換金しに行くところだ。それが終われば時間は空く」

 

「では、俺の相談を聞いて欲しい!」

 

また相談か、今度は何だ?と心中で吐露しガネーシャの乞いに了承する一誠は本当に今度こそギルドへ赴いた。

目的の場所の大理石の床を踏みヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)に獣人の冒険者達が冒険者依頼(クエスト)の受注や完了して報酬を受け取るソロやパーティ、受付嬢を難破する冒険者を見渡しながら、相も変わらずだなここと心の中で思いつつ換金をしてもらう。

 

「ローズー」

 

「はいはい、換金ね?」

 

「今日は半分だから直ぐに終わるぞ」

 

「あら、珍しいわね。調子が出なかったわけ?」

 

「知り合いの商人にもう半分を渡した。希少な59階層と更に下の階層のドロップアイテムが売られていれば商人達は黙ってはいられまい」

 

今はまだ市井は慌ただしくないだろうが、とバックパックを渡しながら担当アドバイザーに話しかける。

 

「その商人のバックは【フレイヤ・ファミリア】が?」

 

「俺個人さ」

 

時間を掛けて換金してもらった総額数千万ヴァリスはバックパックの中に入れてくれたローズから受け取り、次は【ガネーシャ・ファミリア】のホームへと転移式魔方陣でジャンプして向かう。

 

「ガネーシャ、いる?」

 

直ぐ目の前に魔法円(マジックサークル)から現れた男に門番達は面を食らった。見覚えのある顔に一人の門番がホームの中へと消えてゆき、そして一誠はホームを見て目を丸くする。

 

「なぁ、ホームを改装してるのか?」

 

「ああ・・・・・またガネーシャ様のわけわからんノリで・・・・・【ファミリア】の全財産をはたいて突然改装し出したんだ」

 

「・・・・・今度、うちの店に来な。酒をサービスしてやっから」

 

哀愁を漂わせる門番に同情してしまう。そして親身に愚痴も聞いてやっていたら、ほどなくして―――。

 

「待っていたぞ、イッセー!」

 

「二度は食らわん!」

 

飛び掛かってくる元主神に対して拳骨を食らわす。主神に対するその暴挙に何故か門番達はちょっぴり晴れやかな顔をしていた。仕舞には一誠がホームの事で小言を言えば門番達はうんうんと頷く始末。そして男神の首根っこを掴んで改装中のホームへと向かう一誠だった。

 

「それで相談事って何だ」

 

ガネーシャの自室で話を窺う。不気味を醸し出す象頭の仮面がずらりと壁に掛けられた部屋は居心地が悪くも話を聞く姿勢の一誠に乞うた元主神は一度頷く。

 

「最近のお前は海列車と言う物を作ったり、子供達でも入れる銭湯と言う物も作ったな」

 

「そうだな」

 

「では、次は子供達の為になる物―――何時だったか教えてもらった遊園地も創ってほしい!」

 

「いや、無理」

 

理由は分かった。そして直ぐに拒絶。ガネーシャはショックを受けた。

 

「何故に!?」

 

「単純な理由。遊園地に必要な敷地がオラリオにない。市壁外だったら問題ないけどオラリオからかなり遠くなる。そこまで足を運ぶことなんてできるわけないだろ?中に入るのは簡単で外に出るのが困難なオラリオなんだしさ」

 

「むぅ・・・・・」

 

「そんで、遊園地を維持する費用は掛るし点検作業も毎日しなくちゃならない。流石に無理があるぞ」

 

諦めろ、と言わんばかりに首を横に振る。が、それで諦めるガネーシャではなかったことを一誠は知らなくて、ズイっと象頭を近づけられる。

 

「地上にもあの列車でオラリオから遊園地に子供達を送れば問題は解決すると思う」

 

「む」

 

「点検作業はギルドと連携して俺の子供達がする。無論、お前から点検の仕方を教えてもらってな」

 

ズイズイと顔を近づけてくるガネーシャ。そして象の鼻の部分が一誠の頬に突きささる。

 

「無理だとはガネーシャは思わんゾウ?」

 

「・・・・・」

 

沈黙を貫く異邦人に象鼻を突き刺したままジーと視線を送り続ける。だが、不意にそれを止めた。

 

「それとは別にイッセー、頼みがある」

 

「今度はなんだよ・・・・・」

 

「お前は子供達を甦らせる力があるのだな」

 

そう発するガネーシャから真剣さが醸し出していた。こんなガネーシャはふざけたノリもしないことは察している一誠も気を取り直して首肯する。

 

「全員は無理だ。ドラゴンの寿命でも直ぐに尽きてしまう。一人当たり大体百年の寿命は消費すると個人的な結論を出している」

 

「分かっている。俺の頼みを聞いてくれるならただ一人だけだ。その子供は俺の元眷族であり、シャクティの妹なのだ」

 

シャクティの妹。そんな存在がいたのかと知らなかった一誠は興味を抱いた。そして死因はダンジョンか、闇派閥(イルヴィス)との抗争の際かだろうと推測する。

 

「遺骨はあるか?」

 

「あるが・・・・・掘り起こすのか」

 

「しなきゃまともに呼吸できない地中で窒息死だぞ」

 

それでもいいならしてやる、とガネーシャに難しい顔をさせてしばらくした頃。意を決したのか立ち上がって一誠だけを都市の南東の区画にある、数え切れない墓石が並ぶ共同墓地へと連れて行った。―――そして『幽玄の白天城』がまた忽然と姿を露わになった直前に、天に衝く光の柱が南東から見えたと言う目撃情報が多発し、後に【ガネーシャ・ファミリア】のホームに一人の少女と男神が戻ってきた。その少女に見覚えある団員達は目を限界まで見開く中、藍色の髪の麗人の顔から冷静の仮面が剥がされ愕然の表情をありありと浮かべていた。

 

「ア、アーディ・・・・・?」

 

「お姉ちゃん・・・・・」

 

亡き唯一無二の家族の復活に、復活した姉妹はそっと近づき抱擁を交わす。互いが伝わる温もりは本物であり現実なのだと実感した時。シャクティの目から涙があふれ出た。

 

「見えますか、主?」

 

「おー、見えてるよ」

 

どこかの建物の屋根からその様子を見ていた一誠と召喚された人型ドラゴンは、ガネーシャ達に気付かれずに人知れず静かに『幽玄の白天城』へと帰っていった。

 

―――†―――†―――†―――

 

「また、誰かを甦らしたのですね」

 

一週間の寝たっきり状態に【アストレア・ファミリア】以来久しくなった者へ話しかけるリュー・リオン。その傍には女神アストレアや団長アリーゼや極東の出身の女性団員が佇む。甲斐甲斐しく兎の林檎をシルキーが一誠の口元に運んで食べせさせるという世話をしている。

 

「ガネーシャに頼まれたからな」

 

「神ガネーシャに・・・・・?」

 

「シャクティの妹を甦らしてくれって頼まれちゃしないわけにはいかんよ」

 

「「「っ!?」」」

 

アリーゼ達も知っている者であったのか、酷く驚いて目を瞠目させた。

 

「彼女を本当に!?」

 

「俺が嘘をつくとでも?」

 

「い、いえ・・・・・ただ、驚いただけで決して・・・・・」

 

「ま、もう終わったことだから今は回復に専念する他ない。近い内にガネーシャ達が来るだろうしそん時でも―――」

 

そう言いかけた一誠の言葉を遮る『ガネーシャがきたぞぉおおおおおおおおおおおっ!』と雄叫びに似た五月蠅い叫び声が聞こえてきた。眉根を寄せて五月蠅そうに顔も顰める男に「本当に来たわね」とアリーゼは思わず言った。

 

「頼んだ」

 

「かしこまりました」

 

具体的な事を言われずとも既に察してるシルキーは部屋を後にする。

 

「ねぇ、そう言えば彼女の名前ってなに?自己紹介されたけれど名前は聞いてないのよね」

 

「ああ、シルヴィー・ホワイトって名前さ」

 

ドドドドドドッ!と凄まじい音が近づいてくるのが誰の耳でも拾う。そして勢いよく開け放たれる扉からガネーシャが高らかに叫ぼうとしたところ。

 

「ガネーシャ、叫ぶな」

 

「ぐおぅっ!?」

 

背後からシャクティの蹴りでできずに終わった。主神に対してそんなことしているところは初めて見た一誠やアリーゼ達は目を丸くし、入ってくる彼女と藍色の髪を揺らす少女を見る。「ア、アーディ・・・・・」と信じられないものを見る目で呟くリューに少女アーディはぺこりと頭を下げた。

 

「イッセー・・・・・ガネーシャの我儘で寿命を削らせてしまった。すまない・・・・・」

 

「気にすんな。もう何時もの事だ」

 

「いや、駄目だ。人の寿命はもう戻らないのだ。私はお前に感謝をしてもし切れない恩を受けた。だから私もそれ相応の、それ以上の恩で返したい」

 

あっ、この流れ・・・・・。一誠やアストレア達もデジャブを覚え、女神達は思いだして頬に朱を染めた。これ以上はダメだと焦り、断る言葉を発する。

 

「いや、だから、気―――」

 

「気にするな。問題ない。大丈夫など言ったら・・・・・毎日ガネーシャに起こしに行かせる」

 

「それだけは勘弁!?」

 

色々と朝は準備が忙しい。そして毎朝女神や女性達と日夜共にしているので起床の際はアレなので・・・・・同居人以外来られたら果てしなくマズイ。正義の剣と翼を司る女神やその眷族達も同じ気持ちか心中穏やかではなかった。

 

「・・・・・具体的にどんな風に恩を返すつもりだ。ガネーシャから聞いただろうけど人一人甦らす際に百年ぐらいの寿命を削ってるかもしれないんだ。半端な恩を返すつもりなら、返さないでそのまま何時も通りの生活をしてくれればこっちとしては問題ない。妹を甦らせたのはガネーシャの願いの他に俺のエゴだ。家族を甦らせてくれと頼んだ覚えのないお前からすれば、俺が勝手にしたことなんだから言葉通り気にするなだ」

 

何とか説得、諭す試みをする。これ以上は問題ある。しかもシャクティ相手は問題があり過ぎる。立場的にも、彼女を慕う団員達が反論する。

 

「・・・・・勝手か」

 

「ああ、そうだ。俺の勝手にしたことだから―――」

 

「・・・・・私も勝手にすればお前も気にしないと言う事と道理だな」

 

嫌な、予感しか感じさせないシャクティの発言。瞳を見れば確固たる決意の眼差しをしていた。冷や汗が止まらないのは何故だろうと指先すら動かせれない一誠の胸中は不安でいっぱいになった。

 

「ならば・・・・・その寿命の分、いや、一生を懸けて―――勝手に私はお前の妻と成る」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

今、彼女は何と言った?場の空気が静まり返り沈黙がしばらく続く。我に返るのはやはり一誠だった。

 

「・・・・・妻?夫?誰と誰が?」

 

「私が妻でお前が夫だ」

 

「「「「なっ・・・・・」」」」」

 

アストレア達が絶句する。

 

「待て、待て待て・・・恋愛はともかく他派閥で結婚はできないはずだろう。それにガネーシャは放っておいて団員達がそれを許すはずが・・・・・」

 

団員(イルタ)達の事は既にお前がアーディを異世界の力で甦らせたと伝えてある。死者を、アーディを甦らしたその偉業を認めずにいれば、恩を抱いている私に対する信用をしていないことにもなるからな」

 

それに、と付け加える。

 

「また【ガネーシャ・ファミリア】に入団してくれれば晴れて結婚はできる。違うか」

 

「違、わないっ・・・・・」

 

尤もなことを言われて否定する材料を持ってなく、肯定してしまう。だが、まだ材料がある。

 

「お前、俺に対して好意を抱いてないのに恩を返すだけで妻になるなんてそんなの嫌だぞ」

 

「・・・・・確かにそうかもしれない。私も立場が逆になったら拒絶をしていただろう」

 

「だったら―――」

 

「それでも、一度決めた女の覚悟をお前は勝手に踏み躙る最低の男に成り下がるか?」

 

「なっ、くっ・・・・・それは卑怯過ぎるだろうが・・・・・」

 

苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、助けを求めるようにアーディにも話しかける。

 

「見知らぬ男と姉が結ばれるより見知った男と結ばれてほしいとは思わないかシャクティの妹」

 

「お姉ちゃんの覚悟は本物です。私を甦らせた貴方には他の人より感謝をしていて、お姉ちゃんを応援したいです」

 

「・・・・・」

 

「それに・・・・・お姉ちゃんの気持ちは私も同じです。感謝の言葉だけでは軽過ぎます。貴方の命の分、精一杯頑張らせてもらいますっ」

 

「ジーザス、お前もか!」

 

胸の前で両の拳を握り張りきる妹にもはやこの場に味方がいないと絶望する他ない。

 

「ガネーシャ、お前からも―――」

 

「俺は一切に構わんぞ。寧ろそうなってくれればお前は我が【ガネーシャ・ファミリア】の超・優秀な一員になり、何時でも好きなだけ異世界の料理を食べられる。万々歳だ!」

 

当てにすらならない元主神にもう目が死んでしまった。

 

シャクティ・ヴァルマとアーディ・ヴァルマ。

 

原作では二度と再会することがなかった姉妹の仲睦ましい姿はホーム内や市井でも見掛けるようになる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。