ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚21

巨大な三体のモンスターが18階層に出現。どこかの冒険者と戦っていた模様だがモンスターの勝利で幕を下ろしたのか、光と共に消え去ったと(リヴィラ)の住民達からの報告によりギルドは慌ただしく各冒険者に調査の派遣をした。目的の安全階層(セーフティポイント)に辿り着いた調査隊の視界に飛び込むその光景は凄惨に等しい。『リヴィラの街』をも覆う呪われた暗黒の世界が漂っていた。17階層と18階層が繋がる連絡路を出た瞬間。調査隊が『毒気』によって倒れて調査は困難に強いるほど、アジ・ダハーカの禁術の魔法が今も尚濃く充満していたのだ。軒並みに自然は腐敗して死に、モンスター達も例外なく息絶えて生物が住めない死の毒の領域と化した。まだ安静中の男にその情報が行き届いた時には盛大に溜息を吐いたのは言うまでもない。そんな『死の毒』は一週間経っても消えることなく数多の冒険者の探索活動に二の足を踏ませる。このまま永遠に17階層までしか探索できないのかと冒険者達の憂いは一人の男の活躍によって杞憂に終わる。青白い十二枚の翼を持つ【天使(テ・シーオ)】が死の毒の領域に現れ、神の力の波動を放ち毒を打ち消して行く―――。

 

「―――毒は消しておいた。これで冒険者達も活動を再開できるはずだ」

 

「ご苦労だった」

 

「んや、身内に任せた俺の責任だわ。後始末をするのは当然だ」

 

四炬の松明のみしか光源がないギルドの地下神殿、『祈祷の間』にて報告をする一誠にギルドの真の王が凝然とした態度で蒼い瞳を眷族の子に見下ろし見つめる。

 

「今後異世界のドラゴンの召喚を控えてもらう」

 

「不測の事態じゃない限りはそうするつもりだ。普段は俺の中にいてもらっているけど、俺が動けない代わりにこいつ等に守ってもらわないと危ないからよ」

 

「ドラゴンがドラゴンを宿す。それも異世界では可能なのか」

 

「そんなことしてるのは俺ぐらいだけどな。他は魂の状態で封印されているのさ」

 

そうか、と異世界の可能性を知るウラノスは言伝を口にする。

 

「『異端児(ゼノス)』がお前と接触を望んでいる」

 

「へぇ、そうなんだ。どの階層に行けば会える?」

 

「案内役としてフェルズに任せる」

 

わかった、と首肯する。次は何時会いに行くべきかと思ったが直ぐに移ろうと決めた。思い立ったが吉日だからなと理由を頭の中で思い、今日の夜にした。『祈祷の間』を後にし「『異端児(ゼノス)』と会いに行くけど興味あって見てみたい奴はいるか?」とその日の夜に誘いの言葉を懸けてみれば、一誠と共に行きたいという感じの理由で十人以上が挙手する。そこでリューが質問した。

 

「ゼノスとは誰ですか?」

 

「最近発覚したことだけど、理性と理知を備えるモンスターだ。ぶっちゃけ人語を話せる異端児のモンスターってこと」

 

「・・・・・そんなモンスターがいるなんて信じられません」

 

「信じるか信じらないかは自由だ。俺は誘いに乗った奴しか連れて行かないからな」

 

アイズとアリサにラトラ、リヴェリアも加わる。アスナもついてくる。春姫とユエルにソシエ、レギンにレイネルやカサンドラ。この目で確かめるとアリーゼとリュー、輝夜までも誘いに乗った。シャクティにも誘いの言葉を掛けてみればアリーゼ達と同じ理由で参加する。

 

「それで、何時行くの?」

 

「思い立ったら吉日。つまり今直ぐだ」

 

『今直ぐ!?』

 

「転移の魔法で目的地の目の前に行けるから問題はない」

 

あ、なるほど。と納得する者や唖然とした表情を浮かべる者の反応が分かれた。それから夕餉の時間が過ぎて念のために得物を所持して会いに行く者だけ玄関先に集う。そこで腕輪の機能で転移してきたシャクティと妹のアーディと合流を果たして扉を開け蒼夜に染まった外へ出たところで、全身を隠す謎の漆黒のローブの者がそこに佇んでいた。

 

「・・・・・何者だ」

 

「俺達の案内役だ。見た目は物凄く怪しいが敵じゃないのも含め―――俺の正体も知ってる」

 

「お前・・・・・私達以外にも教えていたのか。あの者の素性がわからないというのに」

 

「素性は分からなくても・・・あいつ一言で言えばギルド側のもんなんだ」

 

ギルド側の者?ますます訝しむリヴェリアの胡乱な視線を受け止める黒衣の者は両手に嵌めた漆黒の手袋(グローブ)からキリキリと音を立てながら、約五M、距離を置いて一誠達と相対した。その異様な姿と見た目でアスナの瞳が揺れて一誠の背後に隠れてきゅっと服を掴み、少しでも恐怖を紛らわせたい思いでその姿勢を保つ。

 

「イッセー様・・・・・あのお方は」

 

珍しくラトラが動揺の色を瞠目した瞳に浮かべていた。相手の気の気配を感じ取る術を持っている彼女だからこそ、一誠を除いて彼女しか分からないことがある。

 

「取り敢えず、今抱いている疑問は後で解消するとしてよろしくな」

 

「ああ、こちらこそ」

 

黒衣の人物が喋りアスナが小さく悲鳴を漏らす。音もなく近づいてくる謎の者に臨戦態勢や警戒するリヴェリア達だが、一誠が手で制するので警戒だけはする。

 

「で、どの階層に行けばいいんだ?」

 

「この階層の、この位置に」

 

とある階層の地図を懐から取り出す黒衣の人物が指定する場所に一目見て頷き、足元に転移式魔方陣を発生させて一誠は一同と共に目的の階層へ一気にジャンプする。

 

・・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

目的地に辿り着いた一行。場所を見渡せば空間は長方形の広間である。幅は十M以上あり、頭上の高さも同様だ。天井と壁は樹皮で形作られており、ここは18階層から下の中層であることを認知する冒険者達。本来暗い筈のダンジョンの中を壁や天井に生えて発光する青光苔(アカリゴケ)に覆われている。広間の中には草の緑と小輪の白からなる美しい花畑が、一面というわけではないものの随所に広がっていた。しかし、それよりも目を引くのが、

 

石英(クオーツ)

 

食糧庫(パントリー)が近いせいか、緑玉石(エメラルド)を連想させる濃緑の石英(クオーツ)が広間の至るところから生えていた。一誠も来たことのある場所でもある。樹皮の天井や壁面、床を破って生える大小様々な石英(クオーツ)を見て、この階層に来たことがない春姫を始めとした者達からも感嘆の息が漏れた。視界正面、広間の奥の壁際には多くの石英(クオーツ)―――群晶(クラスター)がまるで小さな氷山の様に形成されている。この広間以外にも食糧庫(パントリー)周辺域は石英(クオーツ)に浸食された地形が多い。

 

「こっちだ」

 

黒衣の人物が動きだしその行動を目で追うと階層の奥、あの壁を覆う群晶(クラスター)の一角に近づくのを察した。広間(ルーム)最奥にある壮麗な石英(クオーツ)の塊。生え渡る濃緑水晶の柱の前で黒衣の人物の足は止まる。一見して何の変哲もない石英(クオーツ)畑にも見えるが・・・・・一箇所、発光の弱い水晶がある。

 

「これを壊してくれ」

 

その水晶に指す黒衣の人物からそう言われ、一誠は打ち壊す。ガシャンッ、という硝子の塊が砕けるような甲高い音を撒き散らし、石英(クオーツ)はばらばらに砕け、そして塞がれていた穴が露出した。

 

「これは・・・・・」

 

隠れていた樹穴にリヴェリアの翡翠の瞳が驚きで見開く。自己修復するダンジョンの中でも、砕かれた石英(クオーツ)は通常より速い速度で復元が始まっていた見る見るうちに元の形に直っていく濃緑水晶を跨ぎ、一誠達は素早く身を滑り込ませる。飛び散った石英(クオーツ)の破片が地面に転がる薄暗い樹洞は、間も無く一口が閉ざされた。斜路(スロープ)状となっている樹洞の奥を進む一行。樹洞の中は狭いモンスターが産まれる気配もない。苔が繁茂していない天井や壁には小さな石英(クオーツ)がところどころ伸び、洞窟内をぼんやりと照らしている。先頭を進むフェルズに、真後ろにいる一誠が魔力による発光する玉を複数も浮かばせながら、一行は樹洞を下っていた。

 

「・・・・・泉」

 

坂を下りきった先には、清冽な青い泉があった。大きさは奥行きの横幅、深さともに五Mといったところで、池ととも呼べる程度のものだ。石英(クオーツ)の光源が乏しい暗い空間に、一誠は魔光を周囲に巡らせ、辺りを照らし出すと。

 

「先に君一人だけ先に進んでくれ」

 

「進む?」

 

「この泉の向こうに」

 

手袋(グローブ)が指す泉。一誠はまさか、と思い黒衣の人物に顔を向ければ意味深に頷かれた。

 

「・・・・・本当、ダンジョンって未知が溢れて面白いな」

 

笑みを浮かべた一誠が息を大きく吸ってから泉の中へ飛び込んでいった。冷たい泉水の感触、視界が利く澄んだ水底。そして奥へと続く横穴。水底に点々と生えた石英(クオーツ)が穴の先へ導くように光を発している。一誠自身や上乗せする形の恩恵(ステイタス)によって常人より遥かに息が続く中、横穴の突き辺りまで来た一誠は、柔らかい緑光が差し込む真上を仰いだ。水底を蹴り、一気に浮上する。

 

「―――ふはっ」

 

水面に顔を出す一誠の視界に飛び込んでくるのは、樹洞から様変わりした鍾乳洞に似た洞窟だった。黒い岩盤で構成されており、天井や壁から生えている石英(クオーツ)の光だけは変わらない。そして一誠は、薄闇が蔓延る新たな道―――奥へと伸びる岩盤の通路を見つめた。

 

「・・・・・『未開拓領域』ってやつか」

 

今もギルドに蓄えられているダンジョンの地図情報(マップ・データ)。冒険者達に公開され階層攻略の手助けとなっているそれは、『古代』の探索者達も含めた過去の先人の足跡であり功績である。彼等は何の情報もないまま命を賭して正規ルート含めた各階層を開拓し、地図作成(マッピング)を行ってきたのだ。まさしく『偉業』である。だが、そんな中でも先人たちの手が及んでいない地底(エリア)が存在する。計り知ることのできない深く広すぎるダンジョンの全貌。人類の到達階層が増えていく一方で置き去りにされた横の広がり。あるいは、今日に到るまで誰も発見することのできなかった、正真正銘の未開の地。

 

『未開拓領域』。

 

文字通り、前人未到の領域だ。地図に記されていない行路―――【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】でさえ足を踏み入れていない地底(エリア)に、一誠は感嘆する。

 

「見落としがあったってことか流石に。今度、もう一回隅々まで調べ回ってみよう」

 

暗闇でも目が利く一誠はそれでも後からやってくるだろうアイシャ達の為、複数の魔光をこの場に展開して深淵に繋がっているかのような暗闇の穴へと静かに歩み始めた。何が自分を待ち受けるのか、どんなモンスターが襲ってくるのか、初見の迷宮の陥穽(ダンジョン・ギミック)異常事態(イレギュラー)が存在すれば、一瞬で全滅すらありうる。純然たる『未知』。踏み出される一歩が新たな『未知』を切り開いていく。先人達と同じように。やがて、『未開拓領域』の奥へ奥へ進む一誠の目の前に細い通路が終わりを迎えた。

 

「暗っ」

 

そして開けている。閉塞感からの解放、圧倒的な空間の広がり。恐らく特大の広間だ。同時に完璧な闇が支配している。きっと魔石灯の光でも深奥や細部まで届かないだろう。―――さらには。

 

「ふーん・・・・・?」

 

いる。何かがいる。気と気配を探知したら数十ものの数とその分の視線の主が。今この暗闇のどこかから息を潜め、完璧に気配を絶ち、自分を見つめている。それでも警戒や緊張感など全く顔に出さず、逆に寧ろ喜ぶ一誠は魔光を発現して視線の元へと灯した。

 

「・・・・・!」

 

その瞬間、双眸を丸くした。

 

『グルルルルッ・・・・・!』

 

『オォオォオ・・・・・!』

 

『ヒェアアアアッ・・・・・!』

 

蜥蜴人(リザードマン)、翼をはためかせ宙に滞空する半人半鳥(ハーピィ)。種族が異なるモンスター達の間で共通しているのは、一誠が目を丸くするのは、曲刀(シミター)手斧(ハンドアックス)、鎧と盾を装備していることだ。

 

「武装した・・・・・モンスター・・・・・」

 

半人半鳥(ハーピィ)の他にも頭上を舞う石竜(ガーゴイル)鷲獅子(グリフォン)、地を這うのは半人半蛇(ラミア)一角兎(アルミラージ)獣蛮族(フォモール)戦影(ウォーシャドウ)人蜘蛛(アラクネ)一角獣(ユニコーン)・・・・・『上層』『中層』『下層』『深層』、あらゆる階層域から集まった多種族のモンスターの群れ。地上の闘技場(コロシアム)が収まろうかという特大の広間の中に浮かぶ眼光の数々に一誠はこんな光景は初めて見たと驚きで開いた口が塞がらない。

 

「・・・・・俺をどうしてここに一人で行かせたのか何となくわかったな」

 

武装したモンスターと戦う気分は何とも言えない新鮮さを覚える。

 

「この中にゴブリンのレットはいるか?」

 

そんな問いかけをする一誠の言葉に呼応する一体の赤い帽子を被ったゴブリンが武装したモンスターの中から前に出てきた。

 

「お久しぶりです。ミスター・イッセー」

 

「お、いたな。ってことはこいつ等がお仲間の『異端児(ゼノス)』か?」

 

「はい、そうです」

 

嬉しそうに笑う小怪物(ゴブリン)のレットと再会の握手を交わし会話を成立する相手こそ、自分達が接触を望んでいたものだと分かり・・・・・『異端児(ゼノス)』達は警戒心を解いた。蜥蜴人(リザードマン)が近づき、そして口を開く。

 

「お前がレットが言ってた、異世界の人型ドラゴンってモンスターなんだな?」

 

「・・・・・普通に話しかけられると驚きとを通り越して新鮮さを感じるぜ」

 

「ハハハ、オイラだけじゃなくて他の連中もフェルズから聞いた話しの人物と会ってみたくて楽しみに待っていたんだぜぃ?」

 

フェルズ、という名前の知らない人物はおそらくあの黒衣の人物の事なのだろう。人語を流暢に操る蜥蜴人(リザードマン)にそうか、と頷くと。

 

「なぁなぁ、お前がモンスターになるところをオイラ達に見せてくれねぇか?」

 

「それで信用してくれるなら」

 

次の瞬間。真紅が一誠を包みだし、次に姿を現したのは―――逆関節の二本脚、二対四枚の翼、真紅のドラゴンとして一誠は眼前のモンスター達の前に真の姿を晒す。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

『『『『『っ!?』』』』』

 

眼前の存在が自分達と同じ存在―――いや、明らかに異なっている姿に成った時、変貌して凄まじい咆哮に伴い衝撃波でモンスター達は広間の奥まで吹っ飛ばされたのを見て「あ、ごめん」と軽く謝って元の姿に戻る。

 

『大丈夫か?』

 

「び、びっくりしたぜぃ・・・・・っ。レットやフェルズから聞いた話じゃあ信じられなかったけど、本当にお前はモンスター何だな・・・!」

 

『一応な』

 

モンスターに変貌した一誠に近づく異端児(ゼノス)等は、臭いを嗅いだりペタペタと触れたり、一角兎(アルミラージ)が背中から登って頭部に乗り出す。

 

「冒険者の魔法とかじゃねーんだな?」

 

『正真正銘の自身の身体だ』

 

更に身体を巨大化にして異端児(ゼノス)達を圧倒させた。皆、口をあんぐりと開けて愕然した。

 

「で、でかっ!?」

 

『もっと大きくなるんだが、ここは狭いからこれ以上は無理だな』

 

「どんだけ大きくなるんだお前ぇっ!?」

 

頭部の兎がオロオロと当惑。光に包まれた真紅のドラゴンが元の人形に戻った際には頭の上で器用に乗る形になったところで背後から遅れてやってくるアスナ達へ視線を向ける。黒衣の人物と共に未開拓領域に足を踏み入れた彼女達は絶句する。『上層』から『深層』、種族がバラバラなモンスター達が冒険者の自分達を相対しても襲ってこないどころか、警戒はしてても興味深く見つめてくる。

 

「イッセー、そのモンスター達がお前が言う異端児(ゼノス)なのか・・・・・?」

 

「ん、そうだ。アスナ、これ可愛いぞ」

 

一角兎(アルミラージ)を頭から下ろし彼女に近づいて手渡す。兎を手渡された感覚で自然と受け取ってしまい目と目が合う。

 

「えっと・・・・・」

 

『キュー・・・・・』

 

赤いつぶらな瞳がアスナを見上げて見つめる。頭の角を除けば兎そのものだ。しかし、人類の天敵のモンスターだ。いくら見た目が可愛くて小さかろうとモンスターはモンスター。人類と相成れない存在だ。が、異世界から来た異邦人としてこの世界の人類との認識の違いをアスナがここで発揮する。

 

「可愛い」

 

身体を撫でてモフモフ感を堪能するアスナは微笑みを一角兎(アルミラージ)に向けた。すると、長い耳を揺らしていた一角兎(アルミラージ)は『キュー!』と可愛く鳴き彼女の頬を舐める。己を受け入れた人間に嬉しいのだと甘えだした。

 

「アリサ、そこのワンワンも可愛がってやれ!」

 

「うんっ」

 

『ガウッ!?』

 

いつの間にか一誠に捕まっていた黒犬(ヘルハウンド)がアリサに撫でられる。ここをこーして、こうやってだなーとレクチャーを受けその通りに撫でていると、気持ちよさげに目を細める黒犬(ヘルハウンド)が横たわり腹を見せては、「もっと、もっと撫でてください」とアピールする。その姿はまさしく犬そのものだったのでアスナはモンスターとは思えない仕草に笑って、一角兎(アルミラージ)を抱えながらアリサと一緒に撫で始める。

 

「・・・・・あの三人、自然体過ぎるではないか。こちらが逡巡しているというのに」

 

「元々この世界とは違う別世界から来た者達だ。認識の違いで態度も言動も違ってくるのだろう」

 

ハッキリとこの世界と別世界の住人達の差異を明らかにする態度をしている一誠達だった。シャクティとリヴェリアは何とも言えない神妙な面持ちで『異端児(ゼノス)』とわいわいと握手を交わし言葉を交わす彼らの様子をただただ見ていることしかできなかった。

 

「おーい、お前等。せっかく貴重な体験を目前にしてるんだからお前等も体験しとけ。てか、俺を受け入れてこいつ等は受け入れ辛いか?」

 

「お前は別の世界のモンスターである以前に私達と付き合いが・・・・・」

 

「リリア、まだ教えてない連中もいるんですけれど・・・・・」

 

しまった、と珍しくリヴェリアが動揺する。一誠の事をモンスターだと知らない者はラトラとレギンにレイネルやカサンドラ。他アーディであるが、リヴェリアからすれば春姫にユエルとソシエ、【アストレア・ファミリア】も含める。

 

「イッセー様が・・・・・」

 

「え、イッセーってモンスター?」

 

「うそ・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

軽く衝撃を受ける少女達。ラトラ達の反応に己の失態で自分の秘密を、何時か明かすだろう順序を狂わせてしまい一誠に対する疑心暗鬼を生ませてしまったものだ。すまない、イッセー。と心中で謝罪する王族(ハイエルフ)に一誠は真っ直ぐアイズに向けて発する。

 

「アイズ」

 

手招きする。なんだろう?と歩み寄る少女の前で人から龍に姿を変える。一誠の行動に瞳を丸くして三Mの距離で足を止めてしまった。

 

「俺はモンスターだが、こんな姿の俺でもお前は好きでいてくれるのか?」

 

「・・・・・あの時も言った。イッセーはモンスターだけど、私はイッセーが好き、だよ」

 

「・・・・・ありがとうな」

 

龍の、異形の手で金髪の頭を撫でられても少女は嫌がることもなく受け入れる。

 

「ズルい、私もイッセーの事が好きなのに!」

 

遅れて駆けては軽い身のこなしで跳躍するアリサは、一誠の背中に乗って占領する。アイズと共に視線をラトラ達へ向け。

 

「「イッセーはあげない」」

 

とドヤ顔で断言する二人にムカッ!ときた虎人(ワータイガー)が眦を裂いて叫んだ。

 

「勝った気にならないでください。イッセー様がモンスターであろうと私の気持ちは変わりません!」

 

駆け出してアリサの頭上を越えては鎌首に腕を巻き付けて胸に飛び込むラトラ。

 

「なんや、ウチらが負けてる気がしてあらへんで・・・・・妻のウチらを差し置いてどう思うユエルと春姫」

 

「え、えっと・・・・・」

 

「・・・・・」

 

妻(仮)の肩書を持つ獣人の少女達が初めてモンスターとして姿を見せる一誠に動揺してもユエルは、主神から前以って「秘密がある」と教えられているためか、それがモンスターであることを知っても不思議と変わらない態度で二人に尋ねたのだった。

 

「ユエル、俺がモンスターで何とも思わないのか?」

 

「そりゃ、旦那様がモンスターなんて仰天するほどびっくりしたわ。今も驚いてるし」

 

でもな、と言葉を紡ぐ。

 

「旦那様は旦那様なんやろ?」

 

率直的な感想を述べられた。そんなことを言うユエルにオッドアイの双眸を丸くした後に苦笑を浮かべた。

 

「(はははっ、そんなこと言う奴がまだいるんだな)」

 

自分を受け入れる少女やまだ当惑している少女等を見つめ、今度腹を割って話し合いをしようと決めた。今は『異端児(ゼノス)』の件を優先する。

 

次の瞬間―――わっっ!!と。

 

春姫達の体が飛び上がるほどの大音声が広間(ルーム)を満たした。何時の間にか一誠達を見守っていたモンスター達が、歓声を上げている。拍手する赤帽子(レッドキャップ)小怪物(ゴブリン)、地面に降り立ちはしゃぐ少女の半人半鳥(ハーピィ)、緩慢な動きで諸手を上げる獣蛮族(フォモール)、アスナの腕から離れてぴょんぴょんと跳ね回る一角兎(アルミラージ)―――喝采が止まらない。まるで人との親交を―――記念すべき一歩を喜ぶように湧きたった。

 

「お前等、灯りをつけろ!」

 

モンスター達が歓喜する中、蜥蜴人(リザードマン)が大きな声で号令を放つ。黒犬(ヘルハウンド)などそそくさと動く一部のモンスターが、岩の影に隠してあった魔石灯を引っ張りだし、口や爪を器用に使って点灯させる。

 

「モンスターが、魔石灯を・・・・・」

 

ヒューマンが作り出した魔石製品を使いこなす怪物達に、リヴェリアは己の目を疑った。更に半人半鳥(ハーピィ)達が被せていた厚布を取り払い、随所で隠していた石英(クオーツ)の塊をあらわにする。鍾乳洞に似た特大の広間(ルーム)は、たちまち農緑の光に照らし出された。

 

「―――木竜(グリーンドラゴン)だと」

 

「こんなやつもいたのか・・・・・」

 

現在地である広間(ルーム)の出入り口付近より遠方、石英(クオーツ)の柱のもとに寝そべっていたのは全長十M以上の竜だった。全身に走る古い傷痕、老君のような静かな瞳が紡いで来た年月を感じさせる。緑眼を細めながらこちらを見守っている存在に、リヴェリアとシャクティは目を疑った。

 

「地上のお片、挨拶させてください!」『ウゥ・・・・・』「ワタシモ!」

 

喋れる者、喋れない者、発音がたどたどしい者、多くのモンスターが一誠達の後ろに距離を置いて立っていたリヴェリア達の前へ集まっていった。第一級冒険者でも理知を備え敵意もなく近づかれるモンスター達にかなり動揺するのであった。

 

「ミス。握手をお願いします」

 

「み、ミス・・・・・?」

 

「アナタと、握手できて、トテモ嬉しいです」

 

「う、うん・・・・・」

 

「ワタシ、ラウラ、ヨロシクネ」

 

「よ、よろしくお願いします・・・・・」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・」

 

ミスと呼ぶ赤帽子(レッドキャップ)小怪物(ゴブリン)を始め、無言で巨手を差しだしてくる大型級の獣蛮族(フォモール)まで代わる代わる握手を求めてきた。歌人鳥(セイレーン)半人半鳥(ハーピィ)、冒険者達に近寄ろうとしないでいる一角獣(ユニコーン)石竜(ガーゴイル)人蜘蛛(アラクネ)以外・・・・・握手を交わしていく姿を見て黒衣の人物が静かに動く。

 

「君という緩衝材の存在のおかげでリド達と触れ合うことができるか」

 

『それでも抵抗感はありありだ。それとフェルズって名前なんだな?』

 

黒衣の人物は「紹介が遅れてすまなかった」と謝罪して、被っていたフードを手袋(グローブ)で掴み取り、剥ぎ取った。

 

「―――――」

 

一誠、アスナ、アイズ、アリサ、ラトラ、が同時に時を止める。そこあるべき瞳がなかった。真っ黒な空洞、がらんどうな眼窩が空いている。そこにあるべき皮がなかった。生え揃えた歯が、骨格が剥き出しになっている。そこにあるべき顔が、存在しなかった。

 

「「『スパルトイ』・・・・・?」」

 

「ひぅっ!?」

 

『・・・・・マジでか』

 

まさしく目の前に存在するのは白骨化した頭蓋骨だった。目も鼻も耳も髪も存在しない。そのおぞましい死の象徴は紛れもなく人ならざる者の証だ。アイズとアリサが『深層』に棲息する骸骨のモンスター『スパルトイ』の名を、一誠は眼を限界まで見開き、戦慄するアスナの悲鳴を拾った。眼前の髑髏、フェルズは緩慢な動きで顔を横に振った。

 

「生憎モンスターではない。元人間だ」

 

「も、元人間って・・・・・一体、どういう・・・・・!?」

 

一誠と同じ元人間というフェルズに一アスナは唖然として頭の中が疑問で支配されている。顔に浮かぶ動揺は隠せない。頭部は勿論、首の皮や肉、喉そのものが存在しないにもかかわらず、顎骨の奥から生まれる声音は今日すら喚起してきた。動転する一誠達の疑問に、蜥蜴人(リザードマン)が答えた。

 

「フェルズは『賢者』さ。すげー魔術師(メイガス)なんだ」

 

「『賢者』・・・・・?」

 

フェルズの事を知らないアスナが発した言葉に人型に戻った一誠も疑問を漏らした。

 

「フェルズって凄い魔術師だったのか?」

 

「異世界から来たイッセー、君には知らないことだろう。私は過去、永遠の命を発現させる魔道具(マジックアイテム)『賢者の石』を生成したことがある」

 

「うわ―――それは凄いな」

 

「イッセー、賢者の石って、あの賢者の石?」

 

アスナに問われて、肯定と頷く。

 

「俺の世界でも魔術師が存在している。だから魔法に関する道具もあるから『賢者の石』なんて伝説の代物も知らない方がおかしいんだよ。常識的な知識の一つだからな。でも、アスナの世界でも認知されていたんだな」

 

「うん・・・・・だけど、どうして賢者の石を完成できた人が骸骨に?永遠の命が得られる筈じゃあ?教えたら絶対に後世まで有名な人として偉人の一人と数えられ語られると思うけれど」

 

「―――石を、『賢者の石』を神に報告したら、目の前で叩きつけられ破壊されたどうしようもない魔術師(メイガス)だったからな」

 

一誠とアスナの気持ちが一気に冷めた。やっぱり、神というのはどうしようもない奴等だなと再認識した。

 

「・・・・・なんて声を掛けたらいいか」

 

「気にしないでくれ。もう過去の話だ。話を戻すが、リド達のことを説明しよう。イッセー以外の者達は知っているかどうかわからないが改めて教えさせてほしい」

 

本題に入ろうとするフェルズは『異端児(ゼノス)』達を集め、一誠はリヴェリア達を集めて話しを聞く姿勢に入る。

 

「理知を備えるモンスター・・・・・リド達と私が接触したのは、十五年、いや十六年ほど前のことか」

 

当時、ウラノスと深い繋がりがあった【ファミリア】の冒険者達が彼等を捕獲した。派閥内には徹底した緘口令が敷かれ、リド達の情報がオラリオに出回ることは防げた。彼の【ファミリア】は消滅し、現在はもう存在しない。そしてウラノスの神意に従い、以降フェルズが使者として彼等と関係を持つようになる。地上側との接触の開始だ。

 

「リド達の話を聞いた我々は彼等を『異端児(ゼノス)』と呼称し、同盟の共同体が作られた」

 

「共同体、ですか?」

 

「ああ。ダンジョン内で生まれた『異端児(ゼノス)』を保護する、彼等の言う同胞達による組織だ」

 

アスナにフェルズが返答し、蜥蜴人(リザードマン)が言葉を引き継ぐ。

 

「こういう未開拓領域(ばしょ)に居座っては移動してるんだ。新しい同胞がいないか探しながらよ」

 

活動の中心は大体『下層』域が中心だとそこまで述べると、何かを考えていた一誠が疑問を挟む。

 

「この広まってモンスターは産まれないのか?」

 

「お、気付いていたのか、イッセー」

 

蜥蜴人(リザードマン)は濃緑の石英(クオーツ)が生える広間を見渡した。

 

「こんな場所・・・・・イッセー達が安全階層(セーフティポイント)って呼んでるところが、他にもいくつかあるんだ」

 

「マジで?」

 

「冒険者達にも勿論見つかってねえ。オレっち達は『隠れ里』って呼んでる」

 

喫驚する一誠達を他所に、『異端児(ゼノス)』は説明続けた。自分達しか知り得ない『未開拓領域』―――『異端児(ゼノス)の隠れ里』を駆使し、拠点とすることで、中層域から深層域まで移動して、同胞探しを行っていると。まさに、モンスター達による共同体、『旅団』だ。

 

「今いる『異端児(ゼノス)』が五十体ほど・・・・・増減を繰り返しているが、その中でもリドやレイ、グロスは『異端児(ゼノス)』の最初期からの構成員だ」

 

「リドとレイとグロス?」

 

後に蜥蜴人(リザードマン)歌人鳥(セイレーン)石竜(ガーゴイル)のことだと説明された。

 

「『異端児(ゼノス)』の集団・・・・・フェルズとウラノスはリド達を知っているけどギルド全体は知らないんだな?」

 

「そうだ。知られたら間違いなく非難の嵐が殺到するだろう。オラリオを創設したウラノスといえどもな」

 

「それでも、今の立場を覆す危険を承知の上で今まで接触、協力してきたんだよな?そこまでしてお前等は何を考えて、リド達は何を望み、求めている?」

 

何も知らないアスナ達の為に改めて聞かせたい為に質問をした。モンスターとの共存はできなくないと自分が言った言葉とフェルズとウラノスりの会話のやり取りを、思いだしながら。あの一件で一誠達はここまで案内され、リド達と会合の機会を与えられたのだから。

 

「リド達は人と『異端児(ゼノス)』との共存を望んでいる。私達はそれを手伝う一縷の架け橋だ」

 

『なっ・・・・・』

 

怪物が人類と地上で共存を謳う。一誠以外の面々の表情は驚きの一色で滲み浮かんでいた。そんな、馬鹿な話はあるかと喉の奥からその言葉が出そうになるもの、既に異なるが共存をして愛し合っている自分達は否定や拒絶の言葉を放つことができなかった。頭で否定しても心では肯定も否定もできず何とも歯痒く苦悩に似た葛藤を覚える。

 

「もしかして、俺達は期待されているのか?」

 

と思い上がりもいいところな発言をフェルズに向けたら、

 

「―――ああ」

 

ハッキリと頷いたフェルズ。

 

「イッセー、君の話を聞いて確信した。オラリオに存在する住人達とは根本的に違うと。異世界から、異種族と共存していた君だからこそ、難しいが出来ると言う言葉が出てきたんだろう。だからこそ、初めて会わせたレットを抵抗も無しに触れることができたんだろう」

 

白骨化した手を被せているであろう手袋(グローブ)を外し、本当に白い骨の手を窺わせたフェルスが一誠に握手を求めた。

 

「私達と協力して欲しい。君の力が必要だ。彼等の夢―――地上進出を叶えるために」

 

「・・・・・」

 

その手を無言で見つめ、頭の中で今後の事を考えた上で・・・・・あっさりとフェルズの手を掴み、握手に応じた。

 

「了解了解。未到達階層を突破するより、やり甲斐と楽しそうだ。【ファミリア】としては無理だけど、個人的には喜んで協力しよう」

 

満面の笑みを浮かべる一誠。

 

「―――ああ、よろしく頼む」

 

顔の表情が分からないが、きっと嬉しく笑んでいるだろうフェルズ。

 

「イッセー、少し質問をいいか」

 

改まった風にフェルズは手袋(グローブ)を嵌めながら一誠に尋ねた。

 

「君達が騎空艇で向かう『空の世界』にも『異端児(ゼノス)』のようなモンスターは存在しているか?」

 

「観光旅行気分で島をいくつか訪れているが、一匹だけ確認している。しかも小さな島であるけどその島に住む住人達との関係は良好で一緒に住んでるし」

 

そんなこと教えてもよいのかという視線が一誠に集中するが当の本人は問題ないと受け流し、ざわめく『異端児(ゼノス)』達を見守る。

 

「いるのか・・・・・空の世界にも。それに共存もしているとは驚きだ。地上と空の世界の違いだからか」

 

「あ、あの地上のお方!そこに私達を連れていけれませんでしょうか!?」

 

半人半鳥(ハーピィ)が目をキラキラ輝かせて乞うてきた。予想通りの反応だと一誠は力強く頷いた。

 

「船には載せられないが、別の方法なら連れていけれる」

 

その返答にすかさずフェルズが疑問をぶつけた。

 

「どうやってだ?船でなければ辿りつけれない世界だと思っている。それに今の君は忙しい筈では?」

 

「まぁ、今は大丈夫だ。後日直接連れてってやるよ。オラリオから遠く離れた場所の地上に出て来て貰ってな。それとも明朝にでもなったら行きたいか?」

 

と訊けば『異端児(ゼノス)』達はそんなことができるのか!?と驚くも憧れの地上に行けれるならば是非ともと言う思いで頷いたり鳴いたりした。上々な反応を一瞥してシャクティにも誘いの言葉を放った。前々から連れて行こうかと誘いの約束をしていたのでこの機に連れていくべきだろうと思って。

 

「シャクティ、お前も来るか?」

 

「ああ・・・・・そうさせてもらう。だが、大丈夫なのかそんなことをして」

 

「大丈夫さ。俺はできないことを口にしない主義だ。期待を裏切る真似は絶対にしない」

 

不敵の笑みを浮かべ、一誠はフェルズ達と約束を交わしてアスナ達と共に未開拓領域を後にした。

 

「なぁ、フェルズ・・・・・本当にオレっち達は地上に出られて空の世界にいる『異端児(ゼノス)』がいる島で人間達と仲良くできっかな」

 

「イッセーを介してであれば可能だと私は信じているよ」

 

「ああ、そうだな。オレっちも信じてみよう」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

オラリオから遥か遠く、人里がない場所。空が薄らと白みを帯びて明るく成り掛けている明朝の時間。空の世界に行く影の者達が集っていた。まだ眠っている時間帯の為に多くの者達は眠たげに眼をしょぼしょぼしている。

 

「ん・・・・・頃合いか」

 

そう呟く真紅の長髪の男の目の前に空間がポッカリと穴が開いて、どこかの濃緑色に照らされてる洞窟と繋がり穴の向こうからゾロゾロと大小・様々な種族のモンスターが地上の地面を踏みしめながら出てきた。そのモンスター達を知る者や知らない者の反応と体とが二つに分かれ、怪物達は白みを帯びている空や地面、自身の目に移る全ての景色を忙しなく見渡し始めた。

 

「イッセー・・・このモンスター達が『異端児(ゼノス)』っちゅうーモンスター等なんやな?」

 

「ああ、そうだ。襲ってこないから安心してくれ」

 

最後に木竜(グリーンドラゴン)が貫禄ある姿で登場したので神々は愕然とした。黒衣のローブで身に包むフェルズも一緒に現れ、モンスター達の代表として一誠に話しかけた。

 

「これで全部だ。本当に連れていけれるのだな?」

 

「安心しろ。約束は守る」

 

静かに高く宙に浮き、全身から真紅の光を迸らせ全長百Mは優にある真紅のドラゴンと化した一誠に空いた口が塞がらないのはお約束だ。

 

「で、でっけええええええええええええええええええっ!?」

 

「喋ったぁっ!?」

 

「・・・・・本当に喋るモンスターなんて、いたのね。こっちはこっちで知っているけれど」

 

リドの絶叫にロキは驚愕、ヘファイストスが一誠を見上げながら神妙そうに呟く。

 

「異世界のモンスターは君ほどに大きいのか」

 

『俺よりデカい怪物は他にもいるぞ』

 

「そ、そうなのか・・・・・凄まじいな異世界とは」

 

それは絶対に一誠の世界だけだと神と人類側の気持ちが一つになった。その後、一同を魔法で浮かせて巨大な手の平に乗せられ真紅のドラゴンが地面から浮き真っ直ぐ空の彼方へと飛んで行った。

 

「お、おおお・・・・・おおおおおおおっ!?」

 

モンスター達にとって初めて見る光景や景色。広大な大地、どこまでも広がる蒼い海と蒼穹の空を泳ぐように漂う白い雲。見る物全てが新鮮であり、絶対に忘れられない世界であった。

 

「・・・・・ここまで大きいとは、想像もしませんでしたねアリーゼ」

 

「Lv.に関係なく強い理由が分からされたわ。だけどそれ以上に・・・・・私達は空だけの世界に行けれる。私の大好きな空にイッセーが連れて行ってくれる。それが溜まらず嬉しいわ」

 

何時か空を飛んでみたいと言っていた知己(アリーゼ)の言葉を思い出し、空へ目指す巨大な真紅龍に目を向けて、そうですねと相槌を打った。しばらく空の旅が続いた後、ドラゴンが分厚い雲を見つけてそこへ速度を上げて自身を覆う結界を張った直後に飛び込んだ。とても暗く何も見えない中、まるで奈落の底にいるのではないかと光源すらない雲の中をどんどん進む龍と一緒に眼前を見続ける。暗闇だらけの雲の中は分厚く崖のように聳え立って一行を取り囲む。何時しか自分達を押し潰すんじゃないかと思うほど錯覚してしまいそうになるが、不意に景色が一変する。一誠が雲を突き抜け、再び蒼穹の空へと飛び出したのだ。そして薄らと最初は石ころのように見えたそれは段々近づくにつれ大きく、空に浮かぶ島として見受けれるようになった。初めて空の世界に来た神と冒険者、モンスター達は愕然で眼を見開く。空に島が浮かんでいるなど見たことも聞いたこともない。既に経験した者は未経験者の反応を見て懐かしむような目で見てた。崖の横を飛び、越えれば自然の森に草原の中に小さな村が皆の視界に入る。当然、空を見上げれば巨大な怪物がいることを村の人々は気付き手の空いている者だけ出迎えにやってくる。

 

「空の世界に子供がいるなんて・・・・・」

 

「うちらも驚いたでー?今はすっかり馴染んでしもうたわ」

 

ゆっくりと草原に降り立ち、手の平から全員を下ろす。そして人型に戻る一誠のもとに村の住民や翼を生やす小さなモンスターが。

 

「おぉーい!久しぶりだなぁー!」

 

「お久しぶりです、皆さん!」

 

「おう、久しぶりだなビィとジータ。しばらく見ない間、ジータだけは大きくなったな。ビィはまだトカゲみたいだな」

 

「オイラはトカゲじゃねー!」

 

何時もの調子で交流するその光景を【アストレア・ファミリア】は言葉を失い、空の世界にいる理知を備えるモンスターを見た『異端児(ゼノス)』は物凄く凝視する。

 

「なぁおい。今日は騎空艇で来なくてモンスターを連れてきたのかよ」

 

「今回は理由があってな。お前と同じ人の言葉が分かるモンスターを連れて来たんだ。仲良くしてくれれば友達になってくれるぞ」

 

「地上の世界のモンスターですか?凄い、こんなにたくさんいるんですね!」

 

感激するジータの様子を見て小怪物(ゴブリン)のレットを呼び、対峙させる。

 

「こいつはゴブリンのレットって言うんだ」

 

「え、地上の世界のゴブリンはこんなに可愛いんですか?」

 

「見た目、全然違うだろ?」

 

はい、と素直に頷き手を差し出す。

 

「私、ジータって言うの。よろしくね。こっちはビィ、私の友達」

 

「よろしくな!」

 

「レットと申します。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

双方握手を交わして親交を築いた。

 

「手の空いている人は地上のモンスターと接して下さい。手伝ってほしい人は遠慮なく声を掛けてください」

 

一誠を介して空の世界の、島の住民達はジータと地上のモンスターの様子を見てビィのように受け入れて『異端児(ゼノス)』に話しかけて言葉を交わそうとし出す。結果を言えば、ビィの仲間が遊びに来たという感覚であっさりと歓迎された。小さなモンスター達は子供と遊び始め、中型のモンスターは作業の手伝いへ、大型は子供達に遊ばれる。

 

「・・・・・地上では困難を極まるはずのものが、ここでは普通にできてしまってる」

 

「ま、この村にはモンスターなんて殆どいない田舎みたいなもんだ。モンスターは危険だとわかっているが、友好的なモンスターだったらビィを介して接すればあんな感じだわ」

 

何とも言えないフェルズから背を向け、さてと、と一誠はジータに話しかける。

 

「今日は他の島に行かないが、代わりに稽古でもしてやろうか?」

 

「はい、お願いします!」

 

木製の剣を手渡されてやる気が満ちた声と顔のジータは、金髪をなびかせながら体力が続く限り稽古をしてもらった。その途中、自分もしたいと参加するアイズ達ともして何時しか乱戦に勃発。魔法まで交えて防壁を張った結界の中でやらねばならない事態になってしまった。

 

その日の夜は―――宴会になった。人と怪物が輪を組んで飲食を楽しみ、歌人鳥(セイレーン)が奏でる歌に村の人々は耳を傾けて魅了する。歌うモンスターに『異端児(ゼノス)』側が村の人達を踊りに誘って楽しげに舞うとどこからともなく笑い声が聞こえるようになり、人と怪物の友愛が空の世界で果たされた瞬間をフェルズはジッと見守り続けた。

 

「・・・・・彼等にとってここが楽園なのだな」

 

「地上でもかなり長い目を見ればいつしかこんな光景を見れるようになるさ」

 

「ああ・・・・・そうかもしれない。だが、今はこの光景をウラノスにも見せたかったな」

 

できるぞ?と指を弾き真上の空間に穴を作り、ギルドの地下神殿に直接繋げた。ロキ達に気付かれずにウラノスも観覧させる。『異端児(ゼノス)』達がどこの場所の村にいるのかわからないが、人間と友愛を築いているところを目の当たりにして蒼い瞳がジッと果たしたかった神意の先の光景をフェルズのように見守った。

 

「イッセー、何時かここに件の転移の装置を作ってもらえないだろうか。リド達が喜ぶ」

 

「今直ぐじゃなければ必ず作ってやるよ。そんな物を作れば冒険者も生存率が高まるだろうしな」

 

それが後に、冒険者達にとってとてもありがたい必要不可欠な道具(アイテム)として重宝されるようになるのだった。

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