ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

82 / 129
冒険譚22

自由で有意義な時間の空間(フリーダム・バカンスルーム)』を利用するアスフィは、一心不乱に作業をしている一誠を見つけた。一体何時間作っていたのか男の肩まで積み木のように積み上げられた何かが出来上がっていて手元の物が完成したのか雑に放り投げて積み上がっている物の一部としてカランと音が鳴った。

 

「・・・・・イッセーさん?」

 

「なんだ」

 

「その山の様な物は何ですか?」

 

「危機一髪緊急脱出棒」

 

名前のセンスはともかく、名前からしてまた冒険者向きの道具を作っているようだった。

 

「どうやって使う物なんですか?」

 

「折るだけでダンジョンから地上まで脱出できる」

 

それは便利ですね、と口にせずにはいられなかった。男の傍により、完成したと思われる棒を手にする。緑色の棒の表面に刻印が施されており、これを折るだけで地上に一気に戻れるならば手頃だと感嘆の念を抱く。

 

「『怪物捕獲球(モンスターボール)』の方はもうよろしいので?」

 

「うんや、よろしくない。【ガネーシャ・ファミリア】から大量発注された。千個もな」

 

「お、多いですね・・・・・」

 

「だから人海戦術、魔法で作った分身体に作ってもらっている最中だ」

 

それは別の作業部屋(ルーム)で今現在もしている、と教えられた。百人も作り出したので一人十個も作り上げれば直ぐにノルマは達成できる。その前に必要な材料と道具を揃えるのがひと苦労だったと心中溜息をこぼす。

 

「アスフィは?事務的な作業をする感じじゃなさそうだな」

 

「ええ、新たな魔道具(マジックアイテム)の発想が思い立ったので作業をしに、あと自分の時間が少々欲しくて」

 

主神の無茶ぶりに振り回されて心労が絶えないご様子の美姫にちょっぴり同情する一誠だった。

 

「自分の時間ってことは、ここで寝るつもりでもいるってことでいいか?」

 

「え?はい、そうですね。それも視野に入れてはいますが」

 

どうして?と不思議そうに思うアスフィに一誠は立ち上がって数時間座りっぱなしで間接という関節を鳴らして身体もほぐした後は少女をある場所へと案内した。

 

「ここ数日ここに籠りっぱなしだから俺も眠たくてな。どうせなら一緒に寝ようぜ」

 

「へっ!?」

 

ただ一緒に寝るだけなら主神や団員達と経験はしてるために抵抗は感じないが、他派閥の団員で二人きりという環境は体験したことがなく、素っ頓狂に驚いてしまった。断ろうと口を開いたところで寝室に入っていたのでできず、一誠に引っ張られる形で天蓋付きのベッドに横たわらされた。

 

「あ、あの・・・・・まだ眠るのは大丈夫なので」

 

「一人だけ寝るのは少々人肌が恋しくなってしまうんだ。悪いけど少しだけ付き合ってくれ」

 

他の景色と遮断する幕でベッドの中心にいる二人の視界が真っ暗になった直後。横や天井が満天の星屑のように輝きを見せてアスフィの視線を奪った。まるで外で野宿しているような感覚を覚え、「綺麗」とこぼした。

 

「だろ?力を入れて作った魔道具(マジックアイテム)だ」

 

「このベッドもそうだだったのですか?」

 

それは驚きだ。一体どこまで自分の発想を上回り常識はずれな物を作り続けるんだろうかと、自分の体を抱きしめ眼鏡を外されてから顔を胸に押し付けられてしまい彼女の思考が完全に停止した。

 

「んじゃ、しばらくおやすみ」

 

「~~~~~っ」

 

羞恥心で顔が熱く真っ赤になったのを自覚する。周りが暗くて相手に己の顔を見られずに良かったと思うも、誰かに抱きしめられながら寝られるのは両親以外初めての体験で、これでは寝るに寝られず、抜けるに抜けられないとしばらく緊張と羞恥で苛まれ―――ることはなく、一分後経った頃にはアスフィも眼を瞑って一誠の足に両足を絡めて夢の中へ旅立ったのだった。

 

『危機一髪緊急脱出棒』という道具が『異世界食堂』のみに販売されるようになった。飲食店に奇妙な物が売られ始めた頃には常連客達は揃って首を捻った。

 

「店主、この棒は何だ?」

 

「名前の通りの棒だ。ダンジョンのどの階層からでも棒を折るだけで地上に戻れる、俺の新しい魔道具(マジックアイテム)だよ」

 

「おいおい、そんな便利な道具が本当に作れたのか?ただ便利そうな名前だけの棒を売ってるだけじゃないのかよ?」

 

「何度も実験した上で完成品を販売してるんだ。気になるなら試しに使ってみるか?」

 

結果は見えてる、と不敵に試させる店主から怪訝な顔で受け取り・・・・・後日冒険者は『キラーアント』の群れに囲まれた自分を仲間に見捨てられ、とうとう窮地に立たされた時に渡された棒を思い出した。頼れるのはこれだけだと手にして、人生の全てを棒に懸けて折った。次の瞬間、シュンッ!とキラーアントの群れとダンジョンの景色が中央広場(セントラルパーク)に一変して、自分のみに起きた変化に信じられないと折った棒を見つめた。まさに九死に一生を得たのだと実感したのはその後すぐ。

 

「こいつはすげぇ・・・・・この棒に俺は救われたんだっ」

 

店主ありがとうーっ!と心から感謝の叫びをした。そんな体験談を聞いた他の冒険者達は「そんな都合がいいことがあるかよ」と鼻で笑い、「なら、試してみろ」と店主から例の棒を渡され、実際に冷やかすつもりで試してみたらあら不思議。ダンジョンから一気に地上へ戻れました!信じられなかった気持ちが信じるようになって、この棒があればどんな窮地に立たされたとしても生きて脱出できると、『危機一髪緊急脱出棒』を買い求める声が増えていくようになった。あの最大派閥や巨大派閥も大量にその棒が購入され、他の冒険者相手にも販売されるようになってからか、冒険者の死亡率がぐんと低くなったことを誰も知らないが、結果が良ければ全て良しであった。

 

 

新たな収入源を得るようになってから生憎天候に恵まれなかったとある天気の日。雷雲や豪雨で店に訪れる客足がぱったりと途切れてしまい、例外なく『異世界食堂』も暇を持て余していた。

 

「うーん、こりゃ臨時休業するしかないな」

 

「ここまで客が来ないなんて珍しいもんさね」

 

表に出て外の様子を見る店主とミアを他所に裏の方では従業員達がキッチンから離れ、休憩場でボードゲームやトランプ、雑談などをしてのんびりと寛いでいた。もうしばらく様子を見てみようと裏に赴く。どこの店もそんな状態であれば冒険者も今回ばかりは探索活動を休まざる終えなく、理由もなければ外へ出向かない中。

 

「・・・・・なんでこうなるんだ」

 

暇を持て余す神々が『幽玄の白天城』に集合してワイワイと朝から酒盛りをしていた。団員達を背後に立たせて自分達は賑やかに騒いで楽しんでいるのに、酒気の匂いが漂うリビングキッチンに顔を顰めて渋々料理を作っている最中に卓を囲む神々から声がかかった。

 

「ほれイッセー。じゃんじゃん酒とつまみを用意するんやー!今日は思う存分―――!」

 

「人ん家を一体何だと思ってるんだ・・・・・?朝っぱから酒盛りしてよぉ、一体誰が片付けると思っている・・・・・あ”あ”?」

 

「ヒッ!?」

 

ドラゴンの睨みに怯え気持ちまで委縮してしまう。

 

「こっちはやりたいことがあるのに酒盛りに付き合わされて・・・・・店ですればいいだろうが店で。今でも開いて客を待っているんだぞ」

 

「えっと、ほら?外は凄い雨だし・・・・・」

 

「んじゃ、酒盛りに飲食した料金をこの場で払ってもらおうか?現金一括払いだ。今使ってる食材や酒はタダじゃないんだからな」

 

「マジでっ!?」

 

嫌なら帰れ、と睥睨する一誠にフレイヤを除くロキ達は泣く泣く支払う。

 

「って、何でフレイヤから金取らないんや」

 

「主神だから」

 

「当然でしょう?私の子なんだから」

 

二人の言い分に何か納得できへん!と不満なロキに気にせず空になった食器類を片す。腕輪の能力で自分のホームに転移できるから雨に濡れることはないが、神の天敵は「退屈な時間」故に遊べて楽しめれる場所があると知れば子供のように全力で来たがる。一誠の城がまさにソレなのでロキ達は今帰ってもホームの中は退屈なだけでまだ帰りたくないのだった。

 

「ところでなにをやりたかったのかしら?」

 

「退屈そうにしている春姫達と遊んでやろうと思っていたんだよ」

 

「具体的には?」

 

そう指摘を受けるとしばらく悩み・・・・・元の世界で何時も暇だった時に何をしていたのかを思い出して決めた。

 

「旦那様、これなんなん?」

 

春姫、ユエル、ソシエ、アイズとアリサにラトラ、そしてカサンドラを自室に呼んだ。彼女等は壁際に黒く薄っぺらく見える板のような物を大きな台の上に乗せ、その前に跪いて何かをしている一誠に不思議そうに見ていた。

 

「これはテレビって言うんだ」

 

「てれび?」

 

「そうだなー。何て言えばいいだろうか。この中にありとあらゆる映像を映す魔道具(マジックアイテム)みたいなもんだ。ま、口で言ってもピンとこないしわからないだろう?見て感覚的にわかってくれ」

 

よもや『ネットスーパー』でテレビやビデオ、DVDを買う事になろうとは思いもしなかった自分にこの特典を頼っているなと転生の神に感謝する。次の食事は少し豪華にしてやろうと思いながら準備をする。

 

「翻訳の道具を持って来てるな?」

 

「は、はい。でもどうして必要なんですか?」

 

「これから聞く言葉は異世界の言葉だ。だからお前等が異世界の言葉をわかるかどうか怪しいんだ」

 

「そうなんだ」

 

最初は付けずに見てもらう事にしている。それから皆に理解できたか聞いてわかるならばそのまま、わからないなら付けてもらって見聞してもらうしかない。まさかこんなところでも活用するとは思いもせずアルガナ達の存在に感謝した。

 

「それじゃ、始めるぞ」

 

準備を整えた一誠はテレビから離れて床に座っている少女達の後ろに座り、リモコンで電源を入れてアイズ達にテレビとはなんたるかを示した。暗かった画面が光を灯し、色鮮やかな絵画と共に音楽が聞こえだす。そして物語の主人公達が意思を持って自由に動き出し、アイズ達に生活の一部始終を見せた。

 

「な、なんやこれー!?」

 

「す、すごい・・・・・これが、テレビ・・・・・」

 

獣人の少女達は耳と尻尾をピーンと立て、興奮気味でテレビに釘付け。ヒューマンの少女達もテレビから眼が離れないといった感じで凝視していた。

 

「で、何て言っているかわかるか?」

 

「「「「「「「わからない」」」」」」」

 

だよなー、と思って翻訳の道具をつけてもらって改めて最初から見てもらえば、「あ、わかる!」との声が漏れた。翻訳道具、役に立っている。それからこの物語を見て春姫がポツリと呟いた。

 

「まるで雪白姫様の話と似てる・・・・・」

 

「ふーん?俺の世界じゃあ、これは白雪姫って童話の話しだ。他の童話やお釈迦をテレビの中の映像として見れるように俺の世界では作っているんだ」

 

期待に満ちた翡翠の瞳を向けてくる幼き少女に頷いた。

 

「旦那様の世界の童話・・・・・で、では・・・・・他にも見られますか?お釈迦や童話のお話を」

 

「ああ、あるぞ」

 

「わあ!」

 

尻尾を振って感動の声を上げる春姫に「春姫、ちょっと黙っててや」と真剣にテレビを見ているユエルから注意された。ごめんなさいと謝ってテレビに向き直り静かに観覧する姿勢に戻る。一誠も懐かしむ目で静かにテレビを見続ける。

 

―――数十分後。

 

童話の話はハッピーエンドで終わりを迎え、全部見終えた少女達の反応は凄く高評価だった。見て読む話ではなく、音楽や肉声も聞いて見る話しの方がとても新鮮だったと。特に狐人(ルナール)の少女達は楽しんでいた

 

「旦那様、他にもこういうもんはあるん?」

 

「他のも見たいか?」

 

「はい、見たいですっ」

 

「んじゃあ、次はお椀ぐらいの大きさの人間が鬼を倒す物語りでも見るか」

 

「わぁ、その物語知っております!旦那様の世界の他の童話やお釈迦のビデオ、もっと見てみたいです!」

 

それからというもの、休憩を挟みながらも一同はテレビの前に独占をして、ずっとビデオやDVDを見て知っている物語りと異なるが、それを比較しながらも楽しんだのだった。

 

―――†―――†―――†―――

 

ずっと雨で結局いつもの常連客すら殆どこなく、閑古鳥が鳴く一歩手前で店は閉店の時間を迎えた。雨の中でも来てくれた客達には異世界の道具、傘の使い方や注意を教えつつ提供した。感嘆の息をもらし、雨粒が傘に当たって鳴る音を聞きながら帰る客を見送る。厨房の方へ振り向き、作りおきしていた食材やスープに懸念する。

 

「作った料理が思いの外、残っちまったな。特にスープが勿体ない」

 

「そこは神楽の出番だ。あいつの腹はブラックホールだからあっという間に完食してくれる」

 

「残飯にするつもりはないけど、まぁ、今日も頼りにさせてもらおうかな」

 

残った料理が神楽の腹の中に収まる光景はもう見慣れた。都合のいい残飯処理係の存在にはありがたく、これからも頼りにさせてもらうつもりで片付けに入る。

 

カランカランっ!

 

「失礼しますよ店主」

 

営業時間が終わった直後に招かざる客がやってきた。雨具を身に包み滴り落ちる雫が床を濡らして堂々と佇む『バッカスホーフ商会』。

 

「客じゃないなら今すぐにでも帰ってもらえるか。もう閉店なんだからよ」

 

「三大商会の後ろ盾がある者の態度は大きいですね。相手を見下せてさぞ楽しいでしょう?私などの一商会の相手をする暇もないと言っているのですからね」

 

「そんな性格だから何時までも自分の商会が停滞気味なんだよ。しかもここ最近、どこぞの馬の骨も知らないたった一人の商人に随分と苦戦中だって聞いたぞ。俺なんか構っている暇があれば自分の商会を守った方がいいんじゃないか?」

 

店主しか手に入らない超希少な品々を抱え、商人としての手腕に今まで蓄えていた財力は、巨大商会を食らいつく勢いで勢力や他の商会や商人達を手中に納めているのがマキャベリなのだ。まぁ、マキャベリも店主の協力なしでは短期間で自分の商会を大きく立ち上げることは出来なかったかも知れない。

 

「ふんっ!あんな女にひざまずく甘い蜜を啜るだけしか能がない弱小商会などいなくても、私には何の影響もないですよ」

 

それよりも、とバッカスホーフは話題を変える。

 

「件の話は考えたくらましたかねぇ?」

 

「件の?・・・・・ああ、料理対決のことか」

 

今思い出したとばかりな反応をする。あれ、本気でするつもりだったのかと首を捻った。

 

「ええ、そうです。こちらは大会に出場する選手の選別を整えました。後はここ西区の料理人だけが参加の出場待ちなのですよ」

 

「その出場する参加資格は何なんだ?」

 

「この私自ら見初めた料理人だけが参加を認めています。つまり店主も参加の資格はあるということなのですよ」

 

こんな男に見初められるのは嫌だなー。と嫌な顔を心の中で浮かべる。

 

「大会のルール、というか審査は?」

 

「気になるなら参加をすることですねぇ」

 

意地悪く、焦らして大会の参加を催促する商人の『駆け引き』に呆れで肩をすくめる店主。

 

「あっそ、じゃあ興味ないから参加しない。じゃあな」

 

踵返す店主に面を食らって、バッカスホーフは焦燥感に駆られて言ってしまった。

 

「審査には人、神、そしてギルド長によって四つの区画から選り抜きされた料理人の料理をどれが一番の美味であるか決めます!」

 

「その審査する人と神は誰なんだ?まさか、多額の金を積ませた自分の思い通りにしてもらう連中じゃないだろうな」

 

不正な審査は認められない。その一点を協調かつ、したらお前の商会を潰すぞと無言の睨みと威圧、更には二人の会話を聞いていたミア達も目を細め、「こいつならやりかねない」と警戒している。バッカスホーフは頬を痙攣させて、戦くも言う。

 

「店主は知っているかわかりませんが、オラリオ外で美食を主に活動する【ファミリア】が存在します。その【ファミリア】に審査をしてもらう予定なんです。既にコンタクトを取ってこちらに来てもらっている最中ですよ」

 

「そいつらは何時ここに?」

 

「随分と前から頼みましたからね。三日後にはたどり着くでしょう。それからその日の内に料理対決を始めますよ」

 

接点はあるが、金に釣られるような【ファミリア】ではないかもしれない。ただ、本当に実在している派閥なのか、成りすましている派閥なのかもしれない考慮をしながら「勝者には何を約束される?」と店主が尋ねると。

 

「オラリオ一の名声、これだけですよ?」

 

くくく、と笑うバッカスホーフは凄く怪しいと警戒する。

 

「そうか、なら、参加してやってもいい」

 

「そうですか。それはよか―――」

 

不敵に笑み、言質を取って満足そうに言いかけた時。店主の影から八ツ俣の大蛇がヌッと出てきてバッカスホーフの体に絡み付き牙を見せ付ける。何故店主の影から蛇が出てくるのか疑問と焦りで混乱する暇もなく怯えきる。他の従業員達は見えないのか、店主が顔を近づけているだけしか目に入っていない様子だった。

 

「だが、一瞬でも不正が発覚したら・・・・・どうなるかわかってるだろうなぁ?」

 

「ヒッ・・・・・!?」

 

至近距離で縦に割れた瞳孔に睨まれ、低い声で念を押される。

 

「いいな?」

 

「わ、わかりましたっ・・・・・!」

 

蛇から解放され、この場から早く逃げたい一心でバッカスホーフは店主に背中を向けて走り去った。残された従業員達は向き合う。

 

「店主、いいのかい?企んでる顔だったよあの商人」

 

「別にいいさ。何を企んでるかは知らないが、俺には頼れる家族がいるから問題はない」

 

自分達のことだと口に言わずとも分かり、従業員達は笑みを浮かべる。

 

「もしも優勝したらお客さんがいっぱいきますね」

 

「しょーじき、名声なんて興味ない。でも、この店とお前らと頂点に立ってみるのも悪くないと思ってる」

 

「ニァー!ミャー達の料理の実力をみせてやるニャアー!」

 

「おミャーじゃなくて店主とメイ達の実力を求められているニャ。アーニャが作った料理だしたら直ぐに負けてお仕舞いになるニャア」

 

アーニャの勇ましい発言に、呆れ混じりのため息と一緒にクロエがぼやくので、ニァにおぅー!と食って掛かり二匹の猫がニャァーニャァー!と五月蝿く喧騒を醸し出す。

 

「それでどんな料理を作るんだい」

 

「さぁ、ルールが分からんから作りかねるな。一応、どんな料理でも作れるよう整えておこう」

 

猫人(キャットピープル)のメイを抱き締めながら猫耳を弄くりつつそう言う店主。

 

「頑張りましょう店主」

 

「ああ、そうだな」

 

料理対決に臨む『異世界食堂』はその日まで変わらない日々を暮らす。そして、数日後その日がやってきた。東西南北、それぞれの区画に在る料理店や酒場の中で選り抜きされた四人の料理人達が待つ店へと審査員や今回の催しの開催者と足を運んでいた。

 

「美食神様、わざわざ自ら出向かずとも料理人に料理を運んで貰えればよいのではないのですか?」

 

「私の拘りというやつさ。料理人が構える店を見て料理を客の顔を見ながら食べたいのだ」

 

遠方からやってきた【ファミリア】。『バッカスホーフ商会』から以来の形で誘われ、オラリオの料理はどんなものか見定める意味も含めて応じた、軽装の旅人服に鍔広帽子の格好で長い黒髪を一つに結った男神の隣に侍従しているヒューマンの男性。ロイマンの指摘に美食神は自分の気持ちをぶつける。

 

「時にギルド長、お前の中でどの料理人が期待できる?」

 

「そうですな。今話題なのは、オラリオで有名なのは『異世界食堂』と言う店の店主かと。私も食べたことはないですが、異世界の料理を振る舞う店なのです」

 

「・・・・・異世界の料理」

 

どんな料理を作る料理人なのか想像がつかない。異世界の料理の未知の味もどんなものなのか好奇心がわく。

 

「なら、最後の楽しみとしてその店は最後にしておこう。まずは東で一番の美味という料理店からだ」

 

「わかりました。ではご案内いたしましょう。こちらですよ」

 

バッカスホーフの案内で東から北、南と順に店へ足を運びそこで食事をする。承認が選抜した料理人の店はどれも高級食材を扱う高級店だった。ギルドの長となってから豪遊ばかりで妖精種(エルフ)とは思えない醜く肥え太った体型になったロイマンの肥えた舌も認める。美食神とヒューマンの男性も美味だと感じる。

 

「中々いい味を出している」

 

「美味であることは確かですね」

 

「荒くれ者やならず者、冒険者が集まる都市とて美味な食事を用意できる。今回の件でこれを知れてよかったな」

 

残すは西区で一の料理店『異世界食堂』。暑い日差しを受けてロイマンの顔に脂汗が浮き出し、何度もハンカチで拭く他所に美食神達は目的の店へと向かったところで、ギョッと驚きで目を張った。

 

「人が楽しんで飯食っているときに店の中で暴れるんじゃねぇよっ!」

 

「食べ物の恨みは恐ろしいものと知るがいいっ!」

 

「このアホンダラアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

 

強面で荒くれ者やならず者、冒険者まで交っては『異世界食堂』で食事をしていたと思しき客達とメインストリートで交戦していた。中には恰幅のいいドワーフの女性や制服を身に包んだ女性従業員達も不届き者に成敗を下していた。何だあれは?そんな気持ちが心中で1つとなり、目の前で起きている戦いに呆然と立ち尽くす審査員達。

 

「ギルド長、あれは一体どういうことなのだ?」

 

「わ、わかりませんっ。お、おいお前たち!何をしている、止めぬか!」

 

制止の言葉を掛けるロイマンの声に誰も耳を傾けずに大通りを戦場と化した状況はしばらく続いた。【ガネーシャ・ファミリア】が駆け付けたころにはようやく騒ぎは鎮圧されて、捕らえられた不届き者達は連行される。

 

「危ないですねぇ、まさかトラブルを抱えていた店とは。これはギルド長や美食神様方に危険な料理店に食事をしてもらうのは好ましくないかと。別の店にいたしましょう」

 

バッカスホーフが当然のように心中で嘲笑して『異世界食堂』の代わりとなる場末の酒場でも行ってもらい、審査をしてもらおうと企んだ。

 

「いや、異世界の料理を食べてみたい」

 

「な・・・・・」

 

「先ほど戦っていた者達の中には店の中に戻っていった。きっと客達なのだろう。店のために戦うということはそれほどあの店を愛しているという証拠だ。これは中々どうして・・・・・」

 

微笑みを浮かべる美食神は眷属を引き連れて『異世界食堂』へ足を運んだ。一拍遅れてギルド長も続き、残されたバッカスホーフは苦い顔を浮かべた後で歩き出す。

 

「いらっしゃいませ!」

 

先の争いがなかったように、冷房が効いた環境の中で酒と料理を飲食して笑みを浮かべる客達の喧騒とどこからか聞こえてくる音楽に従業員の笑顔に出迎えられた。今まで訪れた高級店にはなかった光景だ。

 

「ここが『異世界食堂』かな?」

 

「はい、そうです。とっても美味しいお料理とお酒をお出しできますよ」

 

「では私達が座れる席へ案内してほしい」

 

かしこまりました、と四人が座れる席へ案内する従業員は奥の席へ座らせると分厚い本のメニューを教えて離れた。

 

「随分と分厚い本だ・・・・・これがメニューだと?」

 

「どれだけの料理が詰まって・・・・・」

 

開いてメニューを見てみると、料理の名前と使っている食材と調味料等が記されていた。調理法は書かれていなかったがこれはこれで目を惹かせるものがある。美食を生業とする【ファミリア】にとってこれはとても金には代えられない貴重な情報でもあったのだ。なんだこれは、著作物侵害をされてもいいのかこの店は?

 

「主神様。私達はどうやらとんでもないものと巡り合ったようです」

 

「そのようだな・・・・・この店で一番人気の料理はどれなのか気になるところだ」

 

そんな呟きをこぼした男神の声に隣の席に座っていた客達が話しかけてきた。

 

「この店で一番美味い飯は暑い夏でも食欲をそそらせるカレーだぜ!」

 

「カレーはカレーでもハヤシライスも美味いわよ」

 

「野菜カレーも美味しいぞ。肉を好まない者にとって素晴らしい料理だ」

 

「魚介をふんだんに使ったカレーもね!」

 

これがお薦め!と言ってくる客達に耳を傾けたところで別の席に座っていた客達が異を唱える声も聞こえた。

 

「何を言っている。こんな暑い日だからこそ冷たい料理が一番美味しいじゃないか。特にこの冷やし中華は今の季節にピッタリな料理だぞ」

 

「蕎麦も絶品だ!」

 

「素麺もまた美味しいわぁ」

 

そこで便乗するようにして挙手する別の客達。

 

「冷たい料理ならばデザートも忘れないでくださいな。ただ冷たいだけじゃなくて甘かったり甘酸っぱさも暑い夏を乗り越えるために糖分も必要だとこのメニューの本に書かれてありますからね」

 

「同意!このプリンという甘露こそが甘さの真骨頂と言えよう!」

 

「あら、それがデザートの王様みたいな風に言わないでくれるかしら?見てこの宝石が詰まったようなパフェを。見た目も味もプリンアラモードには後れを取ってないわよ」

 

「食べ歩きができるクレープも美味しいです」

 

なんの!と立ち上がって高々と料理を掲げる客も声を上げた。

 

「食べ歩きができるこのハンバーガこそ何度食べようと飽きさせない絶妙な味わいで素晴らしい!」

 

「ソースを濃い目の焼きそばを挟んだパンも美味しいがな」

 

「それならカツサンドのほうがいいぜ。なんたってボリューム感がハンパなくてすぐに腹が膨れるんだからたまらんぜ」

 

「エビカツサンドもいいですけどね」

 

と、自分の好みの料理がこの店の一番という話が、自分の好みの料理を自賛する話に変わった上に他の客達にまで伝播してしまい、いつしか激しい主張やこれだけは譲れないと客同士が睨み合いして一触即発の状況となってしまった。半ば蚊帳の外に置いてけぼりにされた男神達はこの状況に唖然としてしまい、成り行きを見守る姿勢になるほかなかった時だった。

 

「店ン中で迷惑行為をする客は一生出禁にするぞ!!!」

 

「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」

 

店主の鶴の一声で客達が一斉に座ったり黙り込んだりした。お気に入りの店が入れなくなるなど生殺しのどころではない。入れなくなってしまった店の前を通るたびに後悔の念が抱いて泣きたくなりそうになる。その未来を想像するまでもないと出禁の回避に全力で専念する客達だったのだ。

 

「気持ちはわかるが、それは自分の中に仕舞って食事を楽しんでくれると俺は嬉しい。それでも美味しいんだとわかってほしいならば、お互い食べさせ合うことが大切だ。その方がもっと美味しく感じて新たな出会いが巡り合うかもしれないぞ」

 

大人しくなった客達に向かって提案をする店主の言葉に、その手があったかと自分の好みの料理の味を知ってもらいたい客達が自発的に行動を移した結果。試食会が始まってそれに美食神達も交ぜさせてもらって試食をするのであった。

 

「「・・・・・」」

 

異世界の料理の数々を試食し、他の高級店にはなかった『分け合い』というものを美食神と眷属は目線で会話をして、ギルド長とバッカスホーフへ近づく。

 

「バッカスホーフよ。審査は終えた。私達はこの『異世界食堂』こそがオラリオで一番の店だと認定させてもらう」

 

「な、何故ですか。確かにこの店も美味であることは認めておりますが決して高級な食材を扱っているような店ではありませんよ」

 

「高級な店、高級な食材、高級な料理・・・・・お前が案内してくれた三つの店とこの店の違いや決定的にないものがある。―――分け合いだ」

 

分け合い・・・・・?理解に苦しむ商人の顔は困惑の色で滲み浮かんでいた。

 

「私達は美食を、未知なる味を求め探求する活動をしている他、料理を振舞って分け合うこともしている」

 

周囲の客達を見回しながら言葉を紡ぐ。

 

「ここは美味な料理以外にも大切なものを持っている。だから私達はこの店に決めさせてもらう。ギルド長はどうだ」

 

訳が分からない、意味が分からないと信じられない面持ちの商人から視線をギルド長に向ける美食神。

 

「・・・・・今まで食べたことがない料理と未知の味は確かに美味であります。今まで食べてきた料理と比較しても新鮮と斬新的な意味でも『異世界食堂』が群を抜いていることは確かですな」

 

自分で頼んだ高い料理の味を堪能しているロイマンも認める。

 

「ですが、個人的に申させてもらいますと・・・もう少し静かに食べたいと思いますな」

 

「ははは、それは仕方がない。私達は大騒ぎしながら食べることが好きであるからな。故に今の『異世界食堂』は楽しいと思わせてくれてとても心地がいいのだ」

 

「そうですか。楽しんでいただけで何よりです」

 

満一致でオラリオで一番美味しい料理を作る店は密かに『異世界食堂』という事が決定した。

 

「店主、おめでとう。この『異世界食堂』がオラリオ中の料理店の中で一位に認められた。美食を生業とする【ファミリア】の主神の名に懸けてこの決定は絶対だ」

 

「ありがとう。胸を張ってこれからも料理を振舞い続けるよ」

 

男神と握手を交わしロイマンから認定の賞状を受け取り―――バッカスホーフには不敵に物申す。

 

「なんだか悔しそうな顔をしているなぁ?」

 

「・・・・・なんのことですかね」

 

「どうせ何か企んでいたんだろう?それが思い通りにならず心底苦虫を噛み潰したように苦い思いをしてるんじゃね?」

 

違うと言えば嘘になる。目論見を明かせば三つの高級店は『バッカスホーフ商会』が買い取った店であった。美食神に認められれば知名度が一気に高まり商会としても利益に繋がる。『異世界食堂』の不祥事、もしくは問題を起こしたところを見せてやれば審査をするのは危険だと別の店へ連れてゆき、自分の店がオラリオ一であることが認定される―――はずだった。なのに、店のために戦う客達を見て心を動かされた美食神が自分の計画と反する行動に出たのが裏目に出てしまったのだ。しかもたかが酒場、異邦人の料理に高級料理店が味でなく食べに来た客に負けてしまうなど屈辱極まりない・・・・・!

 

「皆のおかげで『異世界食堂』はオラリオで一番の店になった!本当にありがとうなー!記念に今日一日だけ全品は半額にしてやろう、俺からのささやかな感謝の気持ちだ!」

 

「「「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」」」

 

店主の大サービスに歓喜の声を上げる客達。ならば今食べている料理の二倍は食べないと損だと注文がヒートアップ、殺到しだして従業員達は天手古舞になった。時折店主に対する愚痴が聞こえてくるがそれどころではなかった。

 

「ははは、自由だなあの店主は。この店が人気になるのはわからなくもないな」

 

「これからどうしますか主神様」

 

「もちろん食べるぞ。そしてこの異世界の料理のレシピをできる限り書き留める」

 

同意もなく著作権侵害を堂々とする主神に当然のように頷く眷属。ロイマンもまだ食べる姿勢で注文する他所にバッカスホーフは奥歯を噛みしめて一人だけ先に店を後にした。

 

「このままただでは済ませませんよ、『異世界食堂』・・・・・っ!覚えていなさい。この私に楯突いたことを後悔させてやりますっ」

 

「それはお前に向けられる言葉であることを自覚しての発言だな」

 

南区画へ向かう最中に藍色の髪の麗人が数多の団員達を引き連れてバッカスホーフの行く道を妨げた。

 

「先の騒動を起こしたならず者共に取り調べをした結果、『バッカスホーフ商会から異世界食堂を襲う依頼を持ち掛けられた』と調べがついた。バッカスホーフ、お前も取り調べするために一時拘束させてもらう」

 

「なっ・・・・・」

 

「ああ、小性の者達も全員引っ捕らえてある。残りはお前だけだ」

 

速やかに【ガネーシャ・ファミリア】に捕らえられたバッカスホーフ。後に数々の強引な取り引きや恐喝、脅しをして利益を得ていたことが明らかとなり、悪事を働いた商人として改め拘束されたことで、『バッカスホーフ商会』は建物や私財等が押収される寸前、虎視眈々と目を光らせていたマキャベリに全てを奪われ『バッカスホーフ商会』の代わりとなる『マキャベリ商会』として頭角を表した。

 

「マキャベリ・・・・・お前えげつないな」

 

「商人の戦いは相手に隙を見せたら敗けなのだ」

 

「だけど、よく全部手中に納めたな?押収されるはずだったろ」

 

「建物を直接我輩の名義で購入をすれば後は相続など気にせずとも手に入るものである」

 

「俺の世界じゃ面倒な相続権の手続きをしなくちゃいけないんだがな。本当、この世界は色々と楽だわ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。