ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚24

四季がはっきりとわかる極東では森や草が秋模様に移り変わっていた。秋季しか実らない食材や魚介類が盛んに増え、冬を迎える前に保存食を備蓄する作業が行われる。対してオラリオでは残暑が残っている時でも変わらない活気で市井が盛り上がり、歩く市民に声を掛け商売をする商人やダンジョンに赴く冒険者の姿が見受けられる。魔石製品や武具を作る労働者と鍛冶師(スミス)も何時にも増して作業が増えて忙しなく手を動かすことが多い中、ローズは溜息を吐く程度に少々困りごとを抱えていた。目の前の―――狼人(ウェアウルフ)の青年が原因で。

 

 

 

 

 

今日もギルド本部は喧騒が絶えない。白大理石の広いロビーには冒険者が行き交うことで息苦しさすらあり、彼らの背なり腰なりに携行された剣や盾ががちゃがちゃと留め具と擦れ合う金属音を奏でている。エルフならば杖や弓矢、ドワーフなら斧や槌など、多くの亜人(デミ・ヒューマン)からなる集団はそれぞれの種族に合った武器や防具を装備していた。冒険者達が向かう先の多くは案内板や巨大掲示板、そして受付嬢が待機している窓口前だ。

 

「おはようございます、冒険者様」

 

「はい、その件につきましては―――――」

 

「ダンジョン内での取得物は見つけられた方に権利が発生する前提(きまり)がありますので、紛失物の行方はあまり期待をなさらないほうが・・・・・」

 

長台(カウンター)に並ぶ受付嬢達は、自分の正面にずらりと伸びる冒険者の列を各々対応していた。凛とした態度の彼女達にもやはり種族の統一はない。ヒューマンもいれば犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)、エルフもいる。共通していることがあるとすれば、それはどの受付嬢も容姿が整っているという事だ。

 

ギルドの受付嬢は例外なく、奇麗所が選ばれる。

ギルド本部の中でも窓口は冒険者が最初に訪れる場所であり、応対する受付嬢が彼らにとってギルドへの第一印象を占めるといっていい。冒険者が抱くギルドの好感度は多かれ少なかれ迷宮探索―――ひいては『魔石』の回収―――の貢献度に反映されるため、受付嬢の抜擢には物腰や器量は言うまでもないが、特に容姿を優先される傾向いあった。

 

よって自然に、多くが野獣のような強面の冒険者達に笑みを送るのは、美女あるいは美少女と言って差し支えない見目麗しい者となる。

 

冒険者依頼(クエスト)の遂行を確認しました。お疲れ様です。依頼人(クライアント)にはギルドから依頼達成の連絡をしておきます」

 

獣人、狼人(ウェアウルフ)であるローズも、そんなギルドの受付嬢の一人だ。背中にまで伸ばしている赤髪に、黄色の瞳。制服を盛り上げる豊かな胸に反して華奢な体つきに括れた腰とスラリとした脚。臀部あたりから生えている赤色の尻尾の毛並みは毎日欠かさず手入れをしている証拠。ギルド仲介の冒険者依頼(クエスト)をこなしたまだ若い冒険者達に、彼女は保管されてあった依頼人(クライアント)からの報酬を受け渡す。

 

「それでは、こちらが報酬となります。お受け取りください」

 

差し出された道具箱(アイテムボックス)を受け取ってお辞儀をするローズを目もくれず喜びを分かち合う冒険者達を見送るのも束の間、すぐに次の順番の者に対応する。

 

「よっ」

 

朗らかに手を挙げて接触してきた冒険者を見てローズの仕事口調が幾分が砕けた。

 

「ようこそギルドへ。今日は何用かしら?」

 

「・・・・・ロイマンに呼び出し食らった」

 

それが証拠だとばかり、ギルドから送られた蝋印付きの手紙を差し出される際、面倒極まりない表情を浮かんだのをローズは同情もしなかった。封を開けて中身を確認した後に意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ご苦労様。ギルド長に呼ばれるほど悪いことでもしたのかしら?貴方は前科があるしねぇ?」

 

「案外、どこかの獣人と仲睦まじくティータイムをしていたのがバレたかもしれないな」

 

からかいがからかいで返されて言葉を返す暇もなくそっと小声で言われた。

 

「また昼頃に来るが、いらないなら持ってこないけど?今日はまだ店にも出していない新作のデザートなんだが」

 

「・・・・・今は無理だから、時間を改めていつも通り『相談』してあげるわ」

 

暗にデザートを持って来いと言う担当アドバイザーに苦笑を浮かべて、彼女から離れてギルド長のところへと足を運ぶのを見送る時。無意識に尻尾を緩慢的に揺らしていたのだが、本人は気づかず第三者から「あ、ローズ嬉しそう」と見受けていたのであった。故にそのネタにされることがしばしばある。特に昼時にだ。

 

「ねぇねぇ、ローズさんってやっぱり狙っているんですかー?」

 

「は?何よいきなり」

 

すっかり波のように押し寄せてきた冒険者達の数は引き、陽光が差し込むロビーはわずかな平穏を得ていた。滞りなく冒険者の要件を消化した受け付け嬢達が両手を上げて体を伸ばしている中、ローズは後輩の女性同僚に声をかけられる。

 

「だって、いつもあの冒険者もとい『異世界食堂』の店主が来るとローズさんって嬉しそうですし」

 

「嬉しそうってそんなわけないじゃない。毎度毎度飽きもせずに相談してくるし、それに付き合う私も大変でしかないんだけれど」

 

「「「(ぶっきらぼうに言っているけど、まんざらでもなさそうに尻尾は揺れてるのになぁ・・・・・)」」」

 

普段は揺れないものが、話題にしただけで揺れている。それが無意識なのだから本人も気づくことはない。数人ほど集まりだした中で一人の受付嬢が唐突に発言した。

 

「じゃー、私、あの冒険者を本格的に狙っちゃおうかなー」

 

「は?」

 

可愛らしいヒューマンの受付嬢がそんなこと言うもんだから、信じられないものを見る目でローズは素で反応した。

 

「何?あいつのこと好きだったりしてるわけ?」

 

「好きって程ではないんですけれど、私達の間で割と人気者なんですよ?彼氏にしたい男!と言えば小っちゃくて可愛くて強いナンバーワンのフィン・ディムナには劣りますけれど」

 

何故か、ムッと面白くなくなった。

 

「高身長で料理上手に長い目で考えれば将来は有望の可能性アリ、収入も安定してるだろうし」

 

それはまぁ、同意見ではある。

 

「何よりあの冒険者は、誰でも隔てなく接せられる雰囲気を纏って、畏敬や畏怖の念を感じさせない安心感があるからまたいいんですよねぇー」

 

それもわかる。【フレイヤ・ファミリア】の団員一人でも最初は近寄り難く、関わればロクでもないことが起きたり遭ったりするのだと、冒険者達の間で共通の意識をされている。【ロキ・ファミリア】や他の最大派閥も似たような認識をしていることを受付嬢達も察している。だが、店を構えて料理を振舞っている姿を見てしまうと彼の美女神の【ファミリア】の団員だとわかっていても、その認識が薄れてしまい料理上手の店主という意識が強まる。

 

「・・・・・ん?ねぇ、あの店に行ったことがあるの?」

 

「え?ローズさんは行ったことがないんですか?」

 

彼女の話ぶりに、まるで間近で見たことがある風に聞こえるので尋ねると、逆に流行(ブーム)に遅れてる人を見る目で言われてしまった。

 

「私達はもうとっくに行きましたよ?ねっ?」

 

「うん、とっても料理が美味しかったよね。働いている店主って格好いいし、他の冒険者達にも人気があるし」

 

「付き合うなら料理の技術(スキル)を持っている人に限るよねー」

 

笑みを浮かべ合い「今日も行こっか」とローズから離れる行った組と置いてけぼりにされるまだ行ってない独り(ボッチ)の違いの差があからさまに出来上がって、ローズの心境は複雑極まりなかった。

 

「(・・・・・何よ、自分達の方が知っているみたいな感じは。私の方があいつと付き合いが長いってのに)」

 

面白くない、実に面白くない。今日はやけ食いでもしてやろう、と長台(カウンター)の窓口で彼の男が来るまで待機する姿勢で佇む。程なくして・・・・・。

 

「よう、ローズ」

 

「いらっしゃいませ冒険者様。ご用件は何でしょうか」

 

「今日こそは俺と一緒に食事しようぜ。いい店を知っているんだ」

 

「ご用がないのでしたらお引き取りください」

 

即答で誘いを断る。相手はローズと同じ種族の獣人。黒髪に灰色のギラついた瞳を持つ男の第三級冒険者。担当の冒険者ではないが彼女のこと目を付けてからギルドに訪れる度に誘いの言葉をかけるようになった。毎度断るローズも相手が下心全開で誘っているのだと分かっているのだから断っているもの、諦めが悪く誘う頻度が増えたりしている。

 

「なぁー、一度ぐらいいだろ?同じ狼人(ウェアウルフ)なんだから話が合うって」

 

「種族が同じだから話が合うなんて限らないでしょ。第一、私は貴方に興味がないわ」

 

「俺のこと知ってもらえてないから興味がないだけだ。知ってほしいからこうして何度も誘っているんじゃないか」

 

もう何度この会話のやり取りをしてきたことやら。いい加減に諦めるか帰ってほしいものだ。あからさまに溜息を吐いても男の狼人(ウェアウルフ)は気にせずに自分本位の話をしながら誘う言葉を絶えず辟易しているローズに言い続けた。自分に話しかける暇があれば冒険しに行けばいいのにと気怠そうな佇まいを直すことなく―――より顔を逸らして面倒臭そうにしながら獣耳を伏せて聞き流す。

 

「ローズ、俺は―――」

 

ふと狼人(ウェアウルフ)の嗅覚が敏感に嗅ぎ取った。伏せていた耳が立ち直り何時もこの匂いを発する冒険者が近くにいるのだと本能で気づき、顔を前に戻す。彼女の反応にようやく自分を意識してくれるようになったかと口端を吊り上げたが。

 

「やっと来たわね」

 

「・・・は?」

 

己以外に向ける言葉を言う狙っている雌狼に怪訝な表情となる。だが、自分の背後に立つ気配を察して振り返ると、自分の頭一つ分高い真紅の長髪に濡羽色と金色のオッドアイのヒューマンの男が律義に後ろで待っていたのだった。

 

「(【フレイヤ・ファミリア】・・・・・『異世界食堂』の・・・・・!?)」

 

美神の眷族で神々や他派閥の冒険者に愛されてる店の店主。何でここにいるんだ、と疑問は直ぐに解消される。

 

「相談したいことがあるんだが・・・・・改めてきたほうがいいか?」

 

「改めないでいいわよ。ただ口説くだけで時間を費やす暇な冒険者を相手にするよりも、あんたの担当アドバイザーとして相手にしたほうが合理的だわ」

 

ここで初めてローズは小さく笑う。どれだけ話しかけても笑いかけてもらえず何時も仏頂面で適当に扱わられる自分との対応の違いとその差が浮き彫りになった。何が彼女をそうさせている、自尊心(プライド)が傷つけられたのと彼女に笑みを浮かばせた男に対する嫉妬心が怒りをこみ上げさせる。窓口から出ようとするローズから「先に個室で待ってなさい」と言われた男はその通りに広間(フロア)の隅にある個室へと足を運ぶ。

 

「おい、待て」

 

狼人(ウェアウルフ)が歩き出す男の肩を掴み引き留めた。

 

「お前、ローズの何だよ。あいつは俺が先に狙っていた女だぞっ、後からしゃしゃり出てきたヒューマン風情が横から割り込んでくんじゃねぇよっ」

 

「・・・・・?ちゃんと後ろに立って並んで待っていたぞ?」

 

「そういう意味じゃねぇよっ!」

 

吼える。言葉の真意を理解できていないのか!と苛立ちから歯を剥き出しにして睥睨する彼に男は素で言う。

 

「俺とローズは恋仲の関係じゃないし、別にお前が狙っていようがいまいが、これからも相談してもらうつもりだ。お前の邪魔はする気はない」

 

ただ―――と色違いの瞳が灰色の瞳を覗き込むほど至近距離に近づき、威圧も放って気圧した。

 

「自分本位の気持ちを相手に押し付けるだけの恋愛をして、ローズを困らせているなら邪魔させてもらう」

 

「っ・・・・・」

 

真っ直ぐ覗き込んでくる強い意思が宿っている瞳から本気が伝わってくる。一瞬押し黙った狼人(ウェアウルフ)は負けじと睨み返して言い返す。

 

「俺の邪魔したらどうなるか、わかって言ってんだろうなぁ。最大派閥の野郎でも容赦しねぇぞ」

 

「構わないぞ。【ファミリア】云々関係なく俺はローズの幸せを守りたいだけだからな」

 

真紅の長髪を揺らしながら踵を返して個室へ赴く男の背中をジッと睨む狼人(ウェアウルフ)の男。筆記用具と書類を携帯するローズと途中で合流するところも見て、奥歯を噛みしめる。

 

「なんか話をしていたわけ?」

 

「勘違いされてただけだ。ローズの何なんだーってな」

 

防臭の結界を張ってローズのために用意した『異世界食堂』の料理をカードから召喚して共に食事をする。

 

「ローズは口説かれることがあるんだな。初めて知ったよ」

 

「数年前からずっとよ。何度も断ってもしつこく誘ってくるもんだからいい迷惑だわ」

 

フォークでステーキを抑えながら肉を切るナイフを動かすローズ。切り分ければ口に運び、肉の旨味とソースの上品な味わいにピリッとくる黒胡椒の辛味を舌全体で堪能し、幸せそうに顔の表情を緩める。さっきまで仏頂面していた顔が嘘だったように喜色満面に変わって彼女の心も穏やかになった。

 

「これ、凄く美味しいっ。初めてこんな肉を食べたわ」

 

「店で一番高い一品でもあるからな。喜んでくれて何よりだ」

 

「そうなのね。今でも繁盛しているわけ?」

 

「もう何人か人員を増やしたいと思うほど繁盛しすぎて忙しい。だからローズ、受付嬢辞めてうちの店で働いてくれないか?店の賄は出るし給料弾むからさ」

 

さらりと引き抜きの誘いを受けてちょっぴり心が揺らいだ。試しに何気なく現在の給金を教えて、『異世界食堂』で得られる一人頭の給金を教えてもらうと。

 

「ローズの3倍だ」

 

「さ、3倍・・・・・っ!?」

 

「でも、賄は給金から引かせてもらっているから食べる料理によって大体2倍か1.5倍ぐらい多いか。店主の俺は給料なんて少ないしな」

 

店主なのに給料がない?素朴な疑問がぽろっと口からこぼれる。

 

「なんであんたの給料は少ないわけ?」

 

「消費した調味料や食材の購入で殆ど費やすからだ。店の金は調理器具と店の修繕費用にと使わず貯蓄しているんだよ」

 

そういう事情もあるのか自営業のする人の苦労や大変さ、悩みを垣間見たような気がしたローズ。そして誘いの話は断った。

 

「ものすごーく魅力的な提案だけど、滅茶苦茶大変そうだから遠慮するわ。体力が保たないかもしれないのが主な理由」

 

「・・・・・残念。そういう理由だったら他の受付嬢も断られるか。ギルドの受付嬢は全員見目麗しいからほしい人材なんだけどなぁ」

 

肩を落とし頭を垂らすぐらい心底残念がる。―――とんでもないことを言う。全員を引き抜かれたらロイマンが泡を食う程に慌てふためく想像が容易に脳裏に思い浮かぶ。あ、なんか笑える・・・・・。とローズは笑いを堪えながら提案する。

 

「歓楽街の娼婦を身請けしたらどう?」

 

「店に欲しい娼婦はいない」

 

「アマゾネスは?」

 

「無理。【イシュタル・ファミリア】の眷族ばかりだから」

 

それもそっか、とポテトを食べながら他の案を考える。

 

「一般の人達を募集したら?」

 

「んー、やっぱりそうなるか」

 

ただし、荒事を対処できる従業員も欲しいので易々と募集ができない心情を抱えているのだった。

 

「あ、そう言えばギルド長とどんな話をしていたの?」

 

「単なる催促の話だった。オラリオを終点として他の国々と海列車のように行き来できるようにしろって。前にもそんな手紙を送られたけど放棄してたんだ。それを直で断ったんだがオラリオの発展のために作れって言い返されたわ」

 

面倒臭そうにふかーい溜息を吐いた。海列車、港街(メレン)と極東を行き来する鉄の乗り物の話はギルドにも届いていて【ニョルズ・ファミリア】が管理している。港街にもギルド支部がありそこから通じてギルド本部は海列車をギルドの管理下に置きたく漁を司る男神と交渉しているが、極東の神々からも拒否されて管理できずのままでいる。

 

「結局は引き受けたの?」

 

「列車一つ製造につき二億ヴァリス払えって要求したら、苦虫を噛み潰したかのような表情で呑んでくれやがったよ。拒否してくれる前提で言ったつもりがやらなきゃいけない羽目になった」

 

五億にしておけばよかった、と感想の言葉を耳にしてにそうすればギルド長も諦め作らずに済んだのだろうと察しながらデザートを用意してもらった。

 

「またかなり苦労して作るんでしょ?大変ね」

 

「いや、今度は創造の魔法で製造するから苦労はしない。一度創ったものだったらゼロからじゃなくて完成の状態で製造できるんだ」

 

「・・・・・異世界の魔法?」

 

「そんなところだ」

 

カードから皿に盛られたアップルパイを召喚、手に取って頬張る直後に体を小さくして狐耳と九つの尾を生やす子供になった一誠の瞬間を見て目を見開いた。

 

「な、なによそれっ?」

 

「ん?あーローズは知らなかったっけ。好物のものを食べるときは大抵この姿で食べるんだ。その方がより食べる量が増えるからな」

 

これも魔法みたいなもんだ、と朗らかに言われてもローズは愕然から抜けれずしばし呆ける。好物のアップルパイを食べる幸せが体で表す。尾が緩慢的に揺らし、獣耳はピクピクと動く。飾り物ではなく本物であることを認識してローズはテーブルから身を乗り出す姿勢から腕を伸ばし、サワっと耳を触れた。温もりが感じる。そして肌触りの良い感触が指から伝わり、触れられている本人は気にせず食べ続けてる。―――そして気づけば、いつの間にかローズは幼子の獣人を膝の上に乗せては尻尾をモフモフしていたことに自覚した。数本の尾を纏めて顔を挟むように抱えて毛並みの感触を堪能していた自分を尻目で見る子供の視線とぶつかり合う。

 

―――†―――†―――†―――

 

「(あー、私ったら何あんなことをしてしまったんだろ)」

 

共に食事をして数時間後、ローズは一人帰路についていた。ギルド本部が面している北西のメインストリートを横断し、オラリオの北地区に向かう。北地区にはギルドの関係者も多く住まう高級住宅街が存在し、受付嬢達専用の集合住宅も建っている。ギルドは職員のために多くの建物を管理し、住居として提供していた。深夜を迎えていても、ローズが進む街路は穏やかであった。大通りと比べて人通りは少ないものの、道の端で連なる酒場からは温かな光と笑い声が漏れ出ている。魔石街灯が支配された通りは明るく、奥の方まではっきりと視界が利いた。その道中に自分らしくないことを無意識にしていたことに対して呆れる反面、不思議に感じていた。今までこの職に就いてから、あんなことをしたことはない。もしかして仕事の影響で飢えている?

 

「いやいや、だからと言ってモフモフをしていた理由にならないでしょ」

 

等と頭では自問自答して「ありえない」で自己完結し、かつ心のどこかで何らかの欲求不満かもしれないと軽く落ち込む。私はショタコンではないと密かに否定ながら。

 

「・・・・・?」

 

ふと、ローズは視線を感じ、後ろを見る。石畳が敷き詰められた街路には、特にローズを見る者はいなかった。知り合いがいるわけでもなく、彼女は気のせいかと前を向く。そして、歩みを再開させ、ほどなくすると。

 

「・・・・・!」

 

謎の視線が再び首筋を襲った。間違いない。確実に視られている。呼吸を一瞬奪われたローズは己の心臓を律し、しばらく歩いた後、勢いよく振り返った。黄色の瞳に映る、真っ直ぐ伸びた街路。歩き慣れた帰路の光景の中で、素早く脇道に飛び込む黒い影があった。次に蒼夜を照らす満月を背に建物の屋根の上に現れたその人物は外套(フーデッドローブ)を纏っており、こちらを見つめてくる。ぞっっ、とローズの背に冷たいものが走った。

 

「っ・・・・・!」

 

早足になって帰り道を急ぐ。混乱に陥りかける中、自信の住居を目指した。街路を行く人々は数えるほどしかいない。周囲の酒場は賑やかな喧騒を振りまいてくれるものの、魔石等の光だけが照らす帰り道は酷く心細かった。

 

「(付いてくる―――!?)」

 

何者かの視線は一向に剥がれない。執拗にローズの後を迫ってくる。やがて高級住宅街に繋がる瀟洒な通りに出た。等間隔で街灯が立つこの道は人気が全くなく、そしてそれを見越していたのかのように、一気に怪し気配が膨れ上がる。気付けば、ローズは走り出していた。鞄を片手に抱え込みながら無我夢中で石畳を蹴り、無限にも感じられた距離を超え、集合住宅の門前へ辿り着く。敷地内に急いで入り、柱に手をつきながら、息を切らしたまま振り返ると、そこにはこっちを見下ろす不審人物が屋根の上にいた。激しい動悸と恐怖心を抱えたまま、ローズは住宅の中に入って自室に飛び込み、自身が狙われてる事実にベッドの布団の中に隠れ、はみ出てる尾を震わせる。何故、自分が追いかけられることに?訳がわからない疑問のせいでその日は一睡もできず翌日を迎えてしまった。

 

「先輩、目の下が凄いですけど大丈夫ですか?」

 

「・・・ただの二日酔いよ」

 

気丈に振る舞うも、顔に出てる時点で周囲から何か遭ったのだと悟ってしまっていた。気にかける言葉にも何でもないと返され、逆に何かを忘れる、気を紛らすよう仕事に専念するその姿に同僚達は何とも言えない表情を浮かべて仕事に手を伸ばすしかできなかった。

 

「よう、ローズ」

 

また、性懲りもなく口説きに来た狼人(ウェアウルフ)の男が来た。と認識するローズは目を合わすどころか

長大(カウンター)から離れて裏へと引っ込もうとする。

 

「おいおい、待てよ。人の顔を見るなり逃げるなんて受付嬢のする態度じゃないだろ」

 

ローズの腕を掴み行かせまいと引き留める行為をされて奥へ行けれず、嫌そうな顔を隠さないで振り返り仕事口調で応対する。

 

「そのようにお見えになられたのでしたら申し訳ございません。書類の仕事に手を取ろうとしていたので、冒険者様のお気持ちを害するつもりはございませんでした」

 

「何時もの態度じゃない時点で明らかに俺を避けようとしてることはわかってんだよ。とにかく、ダンジョンの探索のことで相談があるんだ」

 

「でしたら担当の者にご相談ください。当冒険者様の担当のアドバイザーは私ではありませんので」

 

営業スマイルで拒否する。しかし、握られてる腕に握力が増した。

 

「放してくれない?私、仕事があるんだから」

 

「冒険者の求めを全うするのがギルドの義務なんだろ。だったら俺の相談にも受けてもらわないと困るんだがなぁ?」

 

「こんな朝っぱらから自分の意見を押し付けてるあんたのおかげで、後ろで順番待ちしてる冒険者達の方が迷惑がってるわよ」

 

事実、修羅場を潜ってきた冒険者の表情が険しく狼人(ウェアウルフ)の男を睨む風に見ていた。

 

「知るかよ。他んとこに行けばいいだけだろ。どうせ、よわっちぃ冒険者共が楽に冒険できる冒険者依頼(クエスト)を受けに来ただけだろうからな」

 

「・・・・・何だと」

 

怒気を孕んだ声を発するヒューマンの冒険者。知らぬ冒険者から中傷されるいわれはなく、黙認し続けてきた彼は反応を示した。

 

「もういっぺん言ってみろ。誰が弱いだと?お前は俺より強いのか?」

 

「はっ、当然だ。俺はLv.3の上級冒険者だぜ?どうせお前は俺より下か駆け出しの雑魚冒険者だろ」

 

「―――俺は【ガネーシャ・ファミリア】の団員でLv.4だが、どっちが雑魚だか表に出て教えてやろうか」

 

格上の相手を喧嘩売った狼人(ウェアウルフ)。しかも相手は最大派閥にして秩序と平和を守ってきた【ファミリア】。一瞬押し黙るものの、尻尾巻いて逃げるような性格ではない狼人(ウェアウルフ)は牙を剥いて眦を裂き殴りかかろうとしたその拳の腕を軽く掴み取られた。

 

「はいはい、ギルドの中で喧嘩はご法度だぞ」

 

いつの間にか二人の間に立って朗らかに制する真紅の長髪の男に。

 

「で―――――?お前はローズに迷惑をかけに来たのか?好いている女をそんなことするもんじゃないだろ」

 

ギリギリと握力を強めながら狼人(ウェアウルフ)に話しかける。その目はとても厳しく、ガネーシャの眷族が本能的にこの男は何かやばいと察知して静観の姿勢に入った。

 

「恋愛の『れ』の文字も知らない男が女を蔑ろにするんじゃねぇよ。女は男の道具じゃない。そこ、わかってるのかお前は?」

 

「俺に説教―――ぐっ!?」

 

掴まれてる腕から嫌な音が鳴った。骨にまで圧力がかかって悲鳴を上げたのだ。更にこれ以上の圧力がかかったら握り潰されるほど砕けてしまう恐れがある。否、確実にだ。

 

「素直に去るかこの腕が二度と使え物にならなくするか、選べ」

 

押し付けられる選択に屈辱極まりない表情を、凄まじく顰める顔に浮かび上がらせた狼人(ウェアウルフ)は【ガネーシャ・ファミリア】の団員からも睨みを利かされ、分が悪いと判断したのか「離しやがれっ!」と掴まれている腕を振り払って一誠の手を解くと大股でズンズンと広いロビーを後にする。その際、灰色の双眸をギロリと一誠にへ睨んだ。

 

「ちっ!」

 

舌打ちして今度こそいなくなった。ちょっとした騒動が解決したことで場の雰囲気はいつもの賑やかさと調子に戻り、受付嬢達もほっと安堵した。

 

「で、何か遭ったんだな」

 

個室に入るなりその質問に、ローズは目を張ってしまった。彼の要件に了承した彼女は代役の職員に窓口を離れることを告げ、準備を済ませてから面談用ボックスの中に入った瞬間だった。

 

「昨日の今日で体調を崩すほどのことなんだから、誰から見てもわかるぞ」

 

どちらも席に座らないまま話し合い、目の下の隈のことを指摘されて何も言えず口を閉ざすローズ。「あの狼人(ウェアウルフ)か?」と問われると違うと首を横に振った。

 

「なら、余計なお節介かもしれないけど話してくれるか?いつも相談や話を聞いてもらっているから今度は俺に頼ってほしいし甘えてほしい」

 

と口にした彼の言葉は、不安に襲われ心が弱っているせいなのかわからないが、その優しい心遣いに、胸がほんの少し、甘く疼く。気づかぬ内に唇を綻ばせたローズは、己の立場を一瞬忘れ、つい一誠に甘えてしまった。

 

「昨日のことなんだけど・・・・・」

 

ことの内容を打ち明けると、一誠は真剣に耳を傾けてローズを見つめた。全て話し終えたらローズはぼんやりと一誠の顔を眺める。もし、だ。もし一誠が帰り道についてきてくれたならどれだけ心が救われることだろうか。そんな風に僅かばかり考えて、何を馬鹿な、とすぐに頭を振る。自分本意で浅ましいその思考を呆れの溜息がこぼれる。

 

「ごめん、今言ったこと―――」

 

「俺の個人的な家にしばらく住んでみるか?」

 

「忘れ・・・・・え?」

 

今、なんていったこの男は・・・・・?

 

「ギルド本部が面している北西のメインストリートには俺の店がある。更には少し離れたところに俺の個人的な家が構えてあるから帰りは俺の店に寄ってくれれば一緒に帰れる」

 

彼の家に住む?つまりそれは同居?

 

「待って、神フレイヤはそんなこと許してくれるわけが・・・・・」

 

「ああ、別に問題ないよ。だってうちの主神と団長以外にも【アストレア・ファミリア】が同居している他にも【ロキ・ファミリア】の団員と神ヘファイストスと団長の椿・コルブランドをはじめ、他派閥の団員や改宗(コンバージョン)状態のもと神の眷族と一緒に住んでいるから今更一人や二人増えても変わらないんだ」

 

―――今、とんでもない事実を知ってしまった!

 

「・・・・・他派閥同士の関わり合いは不干渉のはずでしょ。なのに、どうして他の【ファミリア】と一緒に暮らしているわけ。どうしたらそんなことになっちゃうのよっ」

 

「まぁ・・・・・色々あって、本当、色々とな・・・・・」

 

前代未聞なことを人知れずしていた一誠に驚きを通り越して突っ込みどころが多すぎる。本人は言葉を濁すほど言い辛そうに後頭部を掻いた。溜息を吐く思いに駈られるローズは改めて考えた。同じ地区の場に信頼できる人がいてさらに頼りにできる冒険者が大勢集まる場所でもあった。北西だったら帰路に慣れた道と違ってメインストリートに歩いている人々は大勢いる。もしもまた追いかけられるようなことが起きてもすぐに助けを乞うことができる。―――悪くない。

 

「ねぇ、本当に大丈夫?ギルドの職員が個人的な家だろうと【フレイヤ・ファミリア】のホームの中に入って」

 

「あの城はその【フレイヤ・ファミリア】とは全く異なる家なんだ。俺、異邦人だろ?眷族だけど団員じゃないのもあるし、自分の家の中で住むほうが何かと都合がいいんだよ」

 

だからお前が来ても何ら問題ない。断言されて狼人(ウェアウルフ)の尾は緩慢的に揺れた。自分が済んでも問題ないなら・・・・・・じゃあ、と。口にした。

 

「私の問題が解決するまでの間、お世話になるわね?」

 

「どうぞどうぞ。寧ろそのまま居ついてもいいぞ。そしたらうちの店に働いて・・・・・」

 

「それは無理よ」

 

まだ諦めていなかったのかと残念がる男の反応を見て苦笑を浮かべる。

 

「無理、わかったわね?」

 

「二度も言わずとも・・・・・」

 

―――†―――†―――†―――

 

太陽が市壁の奥に消え、夕闇が徐々に顔を出していく。普段通り受付嬢として窓口に座っていたローズは、迎えに来た一誠を確認して、席を立った。こっそりと、二人の間だけで視線を交わし合う。

 

「それじゃ、先に上がるわね」

 

「はーい、お疲れ様です」

 

職員たちと一言二言やり取りしながら荷物を纏める。

 

「お待たせ」

 

「ん、それじゃ一度ローズの住んでいるところに行くか」

 

「着替えがないといろいろと不便だからね。・・・・・頼んだわよ」

 

「了解」

 

本部の裏口から出てすぐのところに佇んでいた男と合流し、ローズは出発する。あの話し合いの後、ローズは一誠の城に匿うことにしてもらった。別の場所で住むために着替えや必要な物を持ち運ばなければいけないので帰路に着く。いつもとは異なり、側にいる他人の足音に自分の足音を重ねる。茜色に染まる街はダンジョンから帰ってきた冒険者達で騒がしかった。街路は数ある酒場を吟味している、亜人(デミ・ヒューマン)達で溢れ、往来が激しい。ローズと一誠は他者と肩がぶつからないように人込みを縫っていく。

 

「(まさか、こうなるとは思わなかったなぁ)」

 

大げさなものではないが、すぐ隣にいる一誠を意識してしまう。期限を定めていないとはいえ、これから毎日一誠と寝食共にすると思うと、体がくすぐったくなる。謎の追跡者の存在も忘れてはいけないのだが、二人並んで歩くお互いの距離を無視できない。他人からはどう見えているのかと、周囲の視線も少々気になりつつ。ちらっと、初めて通る道を物珍しげに眺めている一誠の横顔を、ローズはこっそり窺った。

 

「おっ、店主じゃねーか。こんなところで会うなんて珍しいな」

 

見知らぬ強面のヒューマンの男に突然話しかけられた。誰、と聞くまでもなく『異世界食堂』の常連客であることを認識する。すぐにローズの存在に気付くと、ニヤリと露骨にいやらしい笑みを浮かべ小指を立てた。

 

「奇麗な女じゃんか。もしかして店主のコレか?同じ髪の色だし似合っていると思うぜ?」

 

「はっはっはっ、嬉しいことを言ってくれるな。生憎残念だけどそうじゃないんだよ。俺の担当アドバイザーで彼女の家まで送っているところなんだよ」

 

と、朗らかに現状を教えると男は羨望の眼差しを一誠に向け始めた。

 

「ギルドの受付嬢かっ。くぅ~!そこまでしてやれるほど仲がいいなんて羨ましすぎるだろ!店主、俺も受付嬢のエリカちゃんと仲良くなりたい!どうやったら良好な関係を築けられるか教えてくれ!」

 

「んー、食事を誘うんじゃなくて数日おきにデザートを送ってみたらどうだ?甘い物が好きな女性が多いからデザートのことを詳しく知ってると、男なのに意外に知っていると思われる。まず相手に興味を持たせるのがコツだ。そんで同じ趣味だったらさらに話が盛り上がること間違いなしだ」

 

「なるほど・・・俺もエリカちゃんも甘いデザートは大好物だからいい手かもしれねぇ、参考になったぜ店主。じゃな!」

 

女性との駆け引きを伝授する。強面の顔の冒険者なのに甘い物が好物とは逆に意外過ぎる。そして熟練の経験者のようにアドバイスした一誠の話にはものすごく心当たりがある。

 

「それ、私にも同じ手でしているわけ?」

 

「相手がデザートが好きだったら、の前提の話だ。俺だって最初はローズがデザートが好きなのか知るはずがないだろ?」

 

確かにそうであるが。妙に女に慣れているので疑心暗鬼になりがちなローズは疑わしいと一誠を見つめる。

 

「心外だ。大体、ローズを狙っているならとっくの昔に口説いて玉砕されているって」

 

「・・・・・まぁ、あんたは女遊びをするような感じじゃないもんね」

 

「俺の名前に誠実の文字が入っているからな。そんなことは断じてしないさ」

 

ただ、女ばかり集まって勘違いされるだろうけど。と心中付け加える。

 

「誠実?どこに?」

 

漢字という異世界の文字を知らないローズの反応には仕方がないと説明口調で教えた。

 

「イッセーって名前は元の世界で愛称として呼ばれていた名前だ。俺の本当の真名は兵藤一誠ってんだ。一誠って名前の文字に誠実の誠がある」

 

どこからともなく取り出した、一誠の本名の漢字に共通語(コイネー)を書いたプラカードを見せる。

 

「・・・・・変な、字ね。これが異世界の文字?」

 

「漢字という文字の一種だ。文字を簡略的にかつ意味も込めて古代の人達が考えたものなんだよ。逆にこの世界の共通語(コイネー)神聖文字(ヒエログリフ)だって異邦人からすれば変な字だぞ」

 

「お互い認識の違いの差があるってことね」

 

当然のように首肯する。もしも異世界でも共通している文字があったならば異邦人の一誠達は驚きを禁じ得なかっただろう。逆もしかりである。

 

「どうして本名で登録しなかったの?」

 

「特に理由はない。それにギルドは冒険者になってくれるなら誰だって、何だっていいんだろう?」

 

そう言われてしまえばギルドの職員とっては終わりである。ここは迷宮都市オラリオ。ダンジョンに一獲千金を求める無法者や脛に傷持つ者が来ることなどしょっちゅうだ。そして『ギルド』も迷宮を攻略しうる彼らを歓迎する。それが迷宮都市の規則(ルール)。ローズは一誠が暗にそういうことを言っているのをわかった。だから肯定として異論を言わない。

 

「じゃあ・・・・・まだ何か隠している秘密とか、ある?」

 

彼女のその一言に、進めていた足を停めて一歩遅れて立ち止まるローズを見据えて口を開いた。

 

「ああ、ある。異世界から来た者として抱えている秘密がバレたら、全人類に忌避されること間違いなしだ。逆に神々は大喜びで煽るだろうな」

 

真っ直ぐ、真剣な眼差しで茜色の光に照らされながら断定・断言した。本人も認める隠している秘密の真相をローズは知らない。だが、それを知る権利は今の彼女にない。

 

「・・・・・そう」

 

全人類。その中に自分も含まれている風に言われた気がして、何とも言えない気持ちになった。

 

「秘密がバレちゃったら、私にも嫌われたくない?」

 

「さぁ、どうだろうな。嫌われてもしょうがないと理由だし受け入れる他ないよ。例え、お互い両想いだったとしてもだ」

 

苦笑に混じった自嘲するような薄笑いをする。彼は自分の立場を理解して秘密を抱えたままこの世界で生きている。何だかそれは、酷く切なく思いで元の世界に帰れずにいる一誠を胸が締め付けられる感じをローズは覚えた。

 

「神フレイヤ達にも教えていない?」

 

「いや、知っているよ。てか、吐かされたり自分から教えていたりしている。拒絶される覚悟で明かしたが受け入れられているよ。それがどれだけ気持ちが楽になっているかあいつらは気づいていないだろうけどな」

 

受け入れられている・・・・・そうか、そうなのか。

 

「あんたの秘密、私にもいつか教えてちょうだいね」

 

「えー、拒絶されそうだから言いたくないなー。今の関係がとても楽しいんだから」

 

停めていた歩みを再開させてローズの肩を触れて体を前に回しては背中を押し出す。今の関係が楽しい、全人類に忌避される秘密をローズに明かしたくない故に歩きを催促する一誠。刹那、後方へ視線を向け・・・・・直ぐに前に振り向き直す。

 

「?どうしたの?」

 

「うんや、何でもない」

 

―――ずっと視られていたことを悟らせない一誠をローズは気づかないまま、最初気になっていた互いの肩の距離を自然に受け入れて一緒に肩を並べて帰路に着く。

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