ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
「ねぇ、先輩。最近何かあったんですか?」
「・・・・・なに?」
二日後の朝。仕事の途中、隣から投げかけられた後輩の言葉に、ローズは不思議そうに反応した。
「何だかいつもより雰囲気が違うんで」
「雰囲気って、何よ。私はいつも通りよ」
「そうですかー?何だか『異世界食堂』の店主の人と相談に乗った後の先輩みたいな感じなんですけど。今日はまだ来てないのに不思議だなーって」
それは、デザートを食べている時の自分のことだと言われてぶっきらぼうに「気のせいよ」と言い返す。
「そんなんですか。じゃあ、いいことでもありました?」
ピタッと体が停止した。身に覚えがある。ローズは現在、『幽玄の白天城』に匿われてる。新たな入居者かとフレイヤ達に勘違いされぬよう、説明されて住まわせてもらっている。最初、初めて訪れた一誠の城の中には驚きっぱなことが多く、女性だらけの居候や同居人に無所属の第一級冒険者の存在を内密にと釘を刺されたこと以外、振舞われる『異世界食堂』の酒と料理に王宮のような大浴場、ふかふかの寝台・・・・・今までの生活を一変させる出来事に彼女は大満足してた。そしてギルドまで送り迎えてくれる頼りな存在もあってローズの心に余裕以上の気持ちが体から醸し出していたのかもしれない。現状の変化と後輩の返答に窮していると、後輩は何かに気付いたように「あ」と前を向いた。
「先輩、また来てますよ。
「・・・・・」
後輩の視線を辿ると、確かにロビーの奥に
「帰りましたね。珍しく何も話しかけないで」
「いい加減諦めたんでしょ。清々したわ」
仕事が捗り、滞りなくできると自己完結して先程の話題を蒸し返され後輩に纏わりつかれる中、ローズは彼が去った方向を眺めた。
「それで、モンスターをモフモフしてたらさらにモンスターの群れに囲まれちゃって、モフモフをもっと楽しめたよ」
「貴方ねぇ、そんなことしていたら死ぬわよ」
その日の夜。これまでのようにローズは一誠を伴って帰宅の道についていた。時間は既に遅い。長引いた仕事でいつもより遅れても待っていてくれた一誠は、今日ダンジョンであったことを話し、ローズは呆れながら相槌を打つ。一誠と行動を共にするようになって、怪しい人影は一度も目にしていない。一誠が少しの異変すら何も言わないが、気づいているのか気づいていないのか分かり兼ねる。
「ねぇ、私を追いかけている不審者はいる?」
「いや、わからん。あからさまに探す仕草をしていたらあっちも気づいて逃げてしまうからな。気付かないふりをして機を窺っているぐらいだ」
そうだったのか。だから何も告げずに一緒に帰ってくれていることを知るローズは、感謝の念を抱いた。
「(ずっとこのままってわけにもいかないし・・・・・何とかしなくちゃね)」
自分のせいで一誠を面倒事に巻き込むのは忍びない。今の関係と状況は一時的なものにとどめなくてはならないと、ローズは会話と並行しながら考える。
「(私はこいつのこと、どう思ってるんだろう)」
ふと、今の時間を手放すことに寂しさを感じている自分も見つけ、ローズは戸惑いながら自問する。朝に遭った後輩の一幕も思い出し、胸の内へと目を向けた。ローズにとって一誠は・・・・・他の受付嬢達や冒険者達とさほど変わらない仕事柄の関係。それ以上でも以下でもない。そこに異性の感情が介する隙間はない筈だ。自分の好みは・・・・・なんだろう?と首をひねる。逆にこの冒険者兼店主はどんな娘が好みだろうか?
「ね、あんたはどんな女の子が好きなわけ?」
「藪から棒に何だ?ギルドは冒険者相手に好みも調べるのか?」
「いや、ただの個人的な興味本位としか・・・・・」
「だったらローズはどんな男が好きなのかって聞いたら教えてくれるか?」
今まで意識したことがないことに答えろと言われると返す言葉に苦悩する。自分でもわからない、と言ったらそこでこの会話は終了するだろう。ジーと返事を待つ一誠の視線が少々居心地が悪く、これだったらなー的な直感で述べた。
「気遣ってくれる優しくて収入が安定的な料理が上手の男、かな」
「ふーん、それだけなら高級料理店の料理人に限られるな」
率直に感想を言われて自分もその通りだと自覚する。
「はは、残念。うちは別に高級料理店じゃないからローズの好みに当てはまらんな」
「なに?あんたも私のことを狙っていたわけ?」
「気が強いのと心が強くて、俺のことを心底慕ってくれる女が好きなんでな。あと無条件で俺の全てを受け入れてくれる女が好みだからな」
さらっと好みを教えてくれた。そうか、そういう女が好きなのかこの男は・・・・・。自分のことを狙っていたのかは明確に言わなかったが、まぁいい。
「(私の好みは別に嘘じゃない。料理上手なのはあくまで理想的に言った程度。私の知り合いにそんな男がこの男以外にいないんだからね)」
しかし、何故そこに格好良くて強い男を含めなかったのか後々疑問を抱いたのはこの時までローズは何とも思わないでいた。荒事が絶えないこのオラリオ。強さが備わっていなければ何事にも対処ができないのにどうしてだろうと、ギルドの受付嬢として働く職員として不思議に思えたのだった。
そして翌日。『幽玄の白天城』に匿ってもらって四日目になる頃。状況に、一誠の一言で変化が訪れた。
「お、強い視線を感じる。それも殺気立ってるなぁー」
「え?」
夕刻、これまで通りギルド本部の裏口で待ち合わせ、街路を進んでいた時だ。真っ直ぐ前に顔を向けたままローズに告げた。
「間違い、ないの?」
「ああ。・・・・・ローズ、ちょっとだけ試させてくれるか?恋人のように腰に手を回す感じな」
協力を乞われ、それで相手を燻りだす彼の真意を理解して少し緊張するが小さく頷く。自然に腰へ手が回されて一誠との距離が一気に縮まり、ローズが必然的に密着しながら歩かされる姿勢になった。次の瞬間、自分にまで背筋が嫌な冷や汗を流すほどの悪寒を覚え、反射的に一誠の服をきゅっと掴んだ。
「感じたな?」
「え、ええ・・・・・これから、どうするの?」
「何時もの調子で帰るだけさ」
そう、何時もの感じで北西と西の区画に挟まれた、世間から忘れ去られ人気がなく無人の廃墟しかない『幽玄の白天城』が構えている場所へ足を進める。そして廃墟の教会の前に進んだところで黒い影が建物の屋根の上に現れた。姿を現した不審者へ視線を見上げる一誠に釣られてローズも追うように屋根の上にいる不審者を見たとき、目を丸くした。
「あ、あんた―――」
「テメェ、いい加減にしろよ・・・・・。人の女をちょっかいだしやがって・・・!」
「先にちょっかい出したのはお前だろう。それにローズはお前の女じゃない。大体その恰好は何だ?明らかに自分の正体を周囲に気付かれにようにしているのが教えているようなもんだし」
「うるせぇっ!ここでお前を殺してやる、その後ローズは『俺達』がいただく!」
俺達?その言葉を明確するかのように二人を取り囲むように
「お前の存在のおかげでこっちは思うように事が進まなくなってたんだ。いい加減目障りなんだよお前は」
「・・・・・つまりローズのことは最初から自分の女にするつもりはなかったってことか?」
「いーや?するつもりだったぜ?ただし、その後は味見したら娼婦として売るつもりだったがな。中古品は俺の好みじゃなからよ」
ゾッとする話だ。自分はそんな危ない目になっていたとは思いもしなかった。もしも追い回された次の日、一誠の城に匿われ、一緒に帰ってくれないでいたら彼らの手によって拉致されて
「・・・・・はぁ、温情をかけた俺が馬鹿だったわけだ。他人の恋路を邪魔しないよう気を付けたんだがな」
自信に呆れる一誠は、周囲の集団を見回し耳元に小型の魔方陣を展開した。
「よう、当然話しかけて悪いけどイッセーだ。精力溢れてどうしようもない男共に囲まれてさ、いるか?・・・・・お前の好み?お前の好みは知らんけど、上級冒険者が二、三人いて容姿は俺でもまぁまぁイケてる感じだな。場所?西区と北西区に挟まれた廃墟の通りだ。・・・・・んじゃ、出来る限り無傷で無力化しておくから」
誰かに助けを乞うたとしか聞こえない一誠にローズはただ見つめることしかできない。
「誰に助けを呼んだところで、助けに来た奴がここに来た頃にはお前の死体しか見当たらねぇよ」
「そうか。そうだったらいいな」
不敵に笑む一誠の体は光に包まれ、頭上に金色の輪っかと背中に六対十二枚の翼を生やす出で立ちとなった。長髪は金に染まり、瞳は蒼と翠のオッドアイと変わり【
「忘れたのか?俺は異世界から来た人間だ。異世界の力を出血大サービスで振るってやるよ」
指先を弾き、ローズとこの区画全体に金色の結界を張った。これが何の意味を示すのかローズ達は知る由もない。
「こい、ローズが欲しければ俺を倒してからにしてもらおうか」
「見掛け倒ししていい気になるなよ。何が異世界から来た人間だ。そんなもの俺達に通用すると思うなよ。やれ、テメェ等!」
獣人達が、ならず者達が一挙にして襲い掛かってきた。中にはローズを奪わんとする者も交っていて、一誠は口端を吊り上げた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」
モンスターと紛う咆哮を茜色の空に向かって敵を吹き飛ばすほどの衝撃波、体から迸る雷諸共に放った。それでならず者と荒くれ者の大半の戦意を殺ぎ、冒険者も数人荒ぶる雷の攻撃によって戦闘不能の麻痺状態に陥らせた。近くに佇むローズは咆哮が聞こえていないのか、逆に一誠の攻撃を目の当たりにして驚いているだけの反応しか示さなかった。
「なんだ、今の攻撃・・・魔法かっ?」
「ばーか、魔法はこっちだよ」
一人の獣人の信じられないと呟きに天に向かって掲げた手から幾重の魔方陣が展開し、結界の天辺にまで広がった巨大な魔方陣。
「これが異世界の魔法だ」
手から放たれた雷は、幾重の魔方陣を潜りつつ天辺の巨大な魔方陣にまで届くや否や、稲光と轟音を伴う雷が周囲の建物を貫く、無差別広範囲魔法攻撃として行われた。その中、
「・・・・・」
初めて目の当たりにする冒険者同士の戦い。一攫千金、名声と地位、欲望を野望を抱いて世界で唯一ダンジョンがあるオラリオにやってきて冒険者になる人々を出迎えるギルドと受付嬢。その後はアドバイザーとして冒険者と接するがここまで間近で人と人の戦いをローズは一度たりとも見たことがない。手に取る武器を何の思いで相手に振るうのか、何のために武器を振るうのか本人達次第。
「この、死ねっ!」
双剣を激しく振るって攻め立てる。
「まだまだだな」
余裕を以て光刃は受け止めたり逸らしたりして防御を専念する。二人の攻防は三分も経たずに続かれる。延々と繰り広げる戦いは体力の限界まで終わらないと感じたローズだったが、状況が一変した。
「ん、来たな」
雷の魔法攻撃を不自然なまでに止んだ。ローズに張った結界も解かれ、周囲の景色はもはや廃墟から破壊しつくされて何も残っていない状態。一誠が
「がああああっ!?」
想像を絶する激痛に体を丸めて悶絶する。だが、痛みに堪える暇すら与えられず足を包まれて空中に吊るされた。あれでは手も足も出ずどうしようもないとローズは思ったところで、巨大な影が三人の前に姿を現した。
「―――ゲゲゲッ!来てやったよぉ~!異世界人~!」
「なっ・・・・・」
「は・・・・・?」
二Mを超える、巨漢ならぬ巨女。狩猟着に似た赤黒の衣装から覗く褐色肌の短い腕と短い脚は比喩抜きで筋肉の塊だった。身の丈もさることながら横幅も太いずんぐりとした体型で、手足と胴体との釣り合いがおかしい。極めつけは、その大きな顔。黒髪のおかっぱ頭で、ギョロギョロ蠢く目玉と横に裂けた口唇は、
「ゲゲゲッ、お前が言っていた男はこの男かぁ~?」
「おう、そうだ。中々整った顔だろ?」
「確かに悪くない顔立ちだねぇ~。わざわざこんなところにまで来た甲斐があったってもんさぁ~。で、他にもいるんだろうイイ男は、どこにいるんだぁい?」
問う彼女、【イシュタル・ファミリア】の団長、第一級冒険者のフリュネ・ジャミールに応じて指先をくいっと動かす仕草をすれば、至る所から瓦礫の中に気絶していた獣人達やならず者達が浮かび上がって彼女の前に献上品扱いで置かれる。
「こいつらだ。どうだ?」
「ゲゲゲェ・・・・・この雄を含めて四人は貰っておく。た~っぷりと可愛がるからねぇ~」
「お、おい!?テメェ、俺に何をするつもりだ!」
「お前、こいつのこと知らないのか?アマゾネスだぞ。アマゾネスが気に入った男に何をするのか、一つしかないじゃん」
身の危険を覚えだした
「なぁ、男娼んとこへついでにこいつらも連れてってくれるか?後はそっちの好きにしてくれていいからさ。てか、そうするつもりだったろうしいいだろ?」
「ちっ、面倒な事を押し付けてくれるじゃないよぉ~」
「は、放せっ。俺を放せぇっ!お前、俺にこんなことして(ガシッ)タダで済むと(ムチュ~ッ)―――――!?・・・・・(ガクリ)」
そう言いつつも気に入った三人の男達といらないと言った男達の体を別々に纏めて縛っている縄を掴み取って背負う彼女は、暴れる
「・・・・・あの冒険者に任せて大丈夫なの」
「ま、牙を抜かれてしばらくは大人しくなるのは間違いない」
フリュネに捕らえられた男達の運命は既に決まった。それからの彼等はどうなったのかは二人の知る由もない。犯罪者の末路など決まっているのも当然なのだ。
例え―――遊郭で男娼が増えようと。
例え―――幽鬼のように大通りを歩く廃人と化した冒険者がいようと周囲は気にすることなどない。
「これでローズは安全を確保された。元の生活に戻れんぞ」
「そう、そう思えるとホッとしたわ。今までありがとうね。何かお礼をしたいところだけど」
安堵で胸を撫で下ろす気分のローズは迷惑をかけたことに関する感謝と謝罪も含めて言った発言は、一誠の瞳を妖しく輝かせた。
「じゃあ、これから毎日その尻尾と耳を触らせて?」
「え?」
「ずっと前から触りたかったんだ。でも、無理強いに触れたら嫌われるから触んないでいたけど。そういう事なら触れさせてくれ、毎日だ」
期待に満ちた目を向けられながら要求する。ローズはこれに動揺する、困惑する。
「そ、そんなんでいいわけ?てか、毎日は流石に嫌よっ」
「じゃあ、お互いの同意の時でいいだろ?」
「そ、それでも・・・・・私の耳と尻尾は体の一部だし、ほ、他に何かないの?」
「ない」
真顔で即答された!どうしよう、どうしようと目を泳がせ思考がぐるぐると渦巻くように悩み、考えている間に一誠がローズの背中に腕を回して胸の中に引き寄せた。
「ただ、あるとすれば・・・・・お前の心だな」
耳元で囁かれたその言葉と距離感に彼女の心臓の動悸が激しくなった。別の望みのお礼を言われて顔が酷く熱くなっていることを自覚するローズは、緊張と羞恥で言葉を発せれずにいる中、一誠は笑み彼女の頬を片手で包み込むように添えた。
「貰わさせてもらうぞ、お前の心を」
「―――――っ」
TAKE2
真顔で即答された!どうしよう、どうしようと目を泳がせ思考がぐるぐると渦巻くように悩み、考えている間に一誠がショタ狐と化していて、ローズの足に縋り付いてうるうると潤った瞳で見上げて言った。
「ローズおねーちゃん、触らせてー・・・・・?」
純粋で無垢に、切なそうに寂しそうに「お願ーい」と求められた。彼の美女神ですら魅了された「お願ーい」をローズが抗える道理はない。髪の色よりも深く赤く染まった顔になり、見えない何かに彼女の胸をズキューンッ!と撃ち抜かれ、体が仰け反り茜色の空を見上げた瞬間自分自身を悟った。
「(ああ・・・・・私の好みって・・・・・)」
安定した収入に料理上手の男。そして強くて格好いい上に―――ショタにもなれる特別な男だったのだと。