ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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ありふれた職業のキャラも増やしました。


冒険譚26

「あの、店主さん」

 

「何だ」

 

「常日頃から思っていたのですけど。どうしてメイ達の耳や尻尾を触れたがるんですか?」

 

休憩中のとある日の事。店の奥にある従業員専用の休憩室で、獣人の従業員の耳と尻尾を愛でている店主へ素朴な疑問が送られた。薄鈍色の瞳には狼人の従業員の耳を触れて堪能している様子が映り込み、触れられている獣人の少女等は身体を微弱に震わせて恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「純粋に触りたいと思うから、じゃ理由にならないか?」

 

「うーん、それだけなら可愛い野良猫を触ってもいいんじゃないかって思いますけど」

 

「・・・・・それは無理だ」

 

おや?とシルは動物に好かれない方なのかと思い、言い続ける店主の言葉に耳を傾ける。心なしか影のある顔の彼。

 

「近づこうとするだけで逃げられる始末。抱えて持ってきてくれるならば、俺に近づきたくないと暴れ出し、俺が触れた瞬間に白目を剥いて気絶された時は凄くショックだったなぁ・・・・・」

 

「(好かれないどころか、嫌われるレベルを超えた何かだ・・・・・)」

 

話を聞いてまるで猫達の反応は恐怖の大魔王か何かと出会ったような感じだと、だから小動物に触れられないなら獣人の耳と尻尾を触れて楽しむしかないとシルは何となくそう思った。

 

「それって犬と猫だけの話ですか?」

 

「いろんな動物を触れてみて分かった。どーやら俺より身の丈よりデカい動物なら怖がらないでくれる。馬並みかそれ以上のな」

 

「それって殆どの動物に触れないんじゃあ・・・・・」

 

「問題ない。モンスターなら触り放題だ」

 

あ、そっちはアリなんだ。

 

「じゃあ、メイ達の中で触り心地がいいのは誰ですか?」

 

「うーん、悩む質問だなー。触り心地というより、抱きしめる心地がいいのはメイだな。また抱きしめたら上手に甘えてくるルーナ(おっとりとしたおさげの猫人の名前)。頭撫でると気持ちよさげに照れる表情が可愛いアルサ(狼人)とか皆、それぞれ違う反応をしてくれるから決めかねるよ」

 

「なるほどー。じゃあ、店主さんは皆にメロメロなんですね」

 

「フハハ、俺から離れてしまったらその日は落ち込みそうなほどにな」

 

ほうほう、そうなんだーとシルの中の悪魔が意地の悪い笑みを浮かべた。ちょっとした意地悪をしてみたくなり店主に言ってみる。

 

「じゃあ、店主さんはメイ達とは違って私の事はメロメロにならないですね?獣人じゃない私は耳も尻尾もないんですから・・・・・」

 

よよよ・・・・・と悲しみながら泣くふりをしてみた。さぁ、この後の店主はどんな言動をするのか、どんな反応を見せてくれるのだろうかと好奇心の目でチラッと窺ってみた。

 

「・・・・・」

 

店主は徐にシルの耳元に口を寄せて極力本人にしか聞こえない小さな声で囁いた。その言葉をしっかりと聞いたシルはと言うと・・・・・。

 

「・・・・・っ」

 

胸の鼓動が五月蠅いほど高鳴り、何故だか顔が火照っているかのように熱くなった・・・・・。その原因は、この理由は何なのか・・・・・シルは見つめてくる店主から目を逸らすことで精一杯にて考える余裕はなかった。逆に店主は彼女の反応に心中してやったりとほくそ笑む。己が困るところを見て楽しむ腹だったのだろうと思い、こう言い返したのだ。

 

『シルの事がメロメロになってた時は、逆にお前が俺の事メロメロになっている頃だ。というか、シルに耳と尻尾をつけていたら自分がどうなるか想像してみろ』

 

と、シルは・・・・・温かい眼差しと優しい顔で身体を撫でられ、気持ちよく触れられてもっとしてほしいと店主に甘える自分を想像してしまい、今に至る。

 

と―――休憩中の店主達のもとに海童剛が入ってきた。その目は真っ直ぐ店主のみに向けていることにシル達女性従業員達は気づいていなかった。

 

「店主、その様子じゃあまだ伝わっていないようだな」

 

「何かあったか?」

 

「ああ、また異邦人がオラリオにやってきたぞ」

 

 

その一言で穏やかな休憩に緊張感が走ったのは言うまでもない。

 

 

 

一世に一度はあるかないかの超希少な魔法『異世界転移召喚』が発覚した。魔導士の団員の主神は早速その魔導士に行使を催促することで、この世界ではない者達が召喚されてしまった。稀少魔法(レアマジック)の方は、一度きりの魔法だったのか【ステイタス】の欄から消失していてこれ以降『異世界転移召喚』の魔法は発現することはなかった。

 

『ようこそ、異世界から招かれし勇者達よ!どうかこの世界から人類の天敵であるモンスターを使役する魔王を倒してくれ!(嘘)』

 

芝居がかかった風に言い、主神は動揺、困惑、当惑する面々に長々と説明をした。その最中、自分達は元の世界に帰れるのかと訊ねられると。

 

『あー、うん、多分魔王を倒したら帰れるんじゃね?俺、神だけど下界にいる間は神の力(アルカナム)を使えないんだわ』

 

と、召喚された者達の目から反らしながら言い、異邦人達の数人は神の態度に今後を悟り・・・・・絶望した。

 

『取り合えず、君達には俺と一緒にモンスターの巣窟、ダンジョンがある迷宮都市オラリオに向かってもらう。そこで来るべき魔王討伐までレベルを上げてくれっ!』

 

と、神の決定に現状からどうすることもできず異邦人達は背中に【神聖文字(ヒエログリフ)】を刻まれ神の眷族となった。そしてそれからオラリオに向けて旅立った現在。ようやく辿り着いた目的地の門を潜ろうとしたところで、門兵が【ガネーシャ・ファミリア】に『異邦人の集団がやって来ました!』と報告。その直ぐ後に『異世界食堂』にも伝えられたのであった。

 

「既に眷族となってる異邦人達か。特徴なのは男と女の服が同じ・・・・・」

 

「もしかして、学生の子達なのかな?海童君、その人達は若かった?」

 

「俺も話を聞いたばかりだから分からない。だけど、かなりの人数でやってきたそうだ」

 

異邦人の店主、アスナ、海童が集い話を纏めて予想を立てる。

 

「しかし、集団で異世界に来たってのはまるで勇者召喚みたいな展開だな」

 

「何だそれ?」

 

「勇者召喚って?」

 

何か知った風な口振りで言い出した海童に疑問をぶつけた。

 

「そのままの意味だ。召喚された連中は魔王から世界を救ってくれ~だの、人類を守ってほしい!だの、異世界の魔法で異世界の人間達をランダムで召喚するんだよ、そう言う小説じゃさ。当然、世界を救った後なんて元の世界に帰れる保証はないのが常に当たり前だ。中には自分の世界に帰れたり帰る小説もあるけどな」

 

意味深な海童の話から聞いた二人は顔を見合せた。二人はそう言う小説は読んだことはない故、海童の知識と情報はとてもタメになった。

 

「となると、その話の前者にあたるか。新たな異邦人達は」

 

「だと思うぜ。俺達もそうだけど」

 

「うーん、魔王を倒してくれって頼まれてもこの世界に魔王なんていないし・・・・・ちょっと可哀想。どうする?」

 

憐れみで同情するアスナ。店主に今後の対応を進言して問う。店主はその問いに対してもキッパリと言った。

 

「しばらくは放置だ。遠くない日の内にこの店にくるだろうから話は直接聞こう」

 

「俺もそれに賛成だ。新しい異邦人達もこのオラリオの厳しさを知るべきだからな。甘やかすのは好くない」

 

何故かどや顔を浮かべる海童。店主は何言ってるんだコイツと呆れた目でツッコミをした。

 

「お前の場合は一番最初にこの店の厳しさとミアに拳骨を叩き込まれただろ」

 

「ぐっ・・・・・」

 

「ぷっ、ふふふっ!」

 

もっともその通りで言い返せない海童をおかしく笑うアスナ。新たな異邦人達に対する対応は放置ということで決まり、交流ある【ファミリア】にもそう伝えられた。

 

「今頃はギルドで冒険者登録をしている頃かな?」

 

「きっとそうだろうが、それが別に重要じゃないだろう。異邦人の俺達に限らず神々すら必要不可欠な衣食住がないんだからな」

 

「外から来て直ぐに集団で住める場所なんてあるのか?マンション、アパート的な家は見掛けなかったけどよ」

 

「あるわけない。異世界組の俺達が現代で生まれた頃にはとっくの昔に建てられていたものが多かったんだ。それに比べ中堅以上の【ファミリア】が拠点としているホームがあった場所には何らかの建造物があったはずだ。それをどうやって取り潰したのか知る筈もないし、外から来た異邦人達はいきなりそういうことができるわけもない」

 

―――だから俺達はそういう苦労をせずに恵まれた立場だ。店主が最後に述べた言葉を海童とアスナは他人事のように聞かず頷き、「あっ」と不意に漏らした店主をきょとんとした顔で見つめた。どうしたんだ?的な目で見ていた二人の前で口の端を吊り上げていやらしい笑みを浮かべる店主が何か閃いた。

 

「くくく・・・・・予想外だったが大勢の人材を確保できるな。そいつらのこれからの私生活は火を見るより明らかだからな」

 

「「(あっ、これは何か企んでるな)」」

 

短く無い付き合いであるので店主が『人材』という単語を発した時点で何かする気だと察して悟る。だが、それは相手にとって悪くない話なのも解っていた。

 

 

 

 

異世界に召喚されてから不便の連続だ。まずは衣が不足である。現代人として生まれ育った異邦人達は満足に清潔な服に洗うどころか洗濯機や洗剤がないのでそれができず、身に着たままの生活を強いられている。次は食。貯えがあったとはいえ、異世界召喚した者達の数は二十数人。オラリオから離れた場所で拠点を構えてた神と【ファミリア】には貯えがあったとはいえ、突然降って湧いて大所帯となってしまい貯えはあっという間に底を突いた。冒険者となった今では五人一組でダンジョンの探索を臨み一日かけて二五〇〇〇ヴァリスを稼いでいるが、ぜいたくな食事を控え、露店で販売されている「じゃが丸くん」というジャガイモを主とする揚げ物を始め質素な食事生活を送っている。しかし、現代人にとってそれだけで必要な栄養分を補うことなどできるはずもなく、いつ体調不良の者が出てもおかしくない状況である。最後は住である。これには異邦人(女性等)の大半が不満を挙げた。オラリオに来て街中を探索する際に見つけた『異世界銭湯』という元の世界にもある公共浴場。異世界にもあることが驚きであったが、異邦人達にとっては身体を清められることだけでも大変ありがたかった。しかし、二十人以上の人数が収まる住宅街はなく最初は野宿、二日目から誰も立ち入っていない建造物の中で野宿にて仮のホームとして過ごすようになった。雨を凌げれる場所だけ見つかっただけでもよかったのだが、布団はなく床に直で寝るか毛布にくるまって寝るかの寝心地が悪い睡眠法では不満も募る。

 

『ちょっと神様!いつまでこんな生活をしなくちゃならないの!?』

 

『もうこんな生活は嫌!寝起きで汗が気持ち悪いし髪も肌も荒れちゃって、食事だって毎日毎日同じものばっかり!』

 

『レベルだって中々上がらないし、何時になったら魔王を倒せれるレベルになるんですか?魔王のレベルってどのぐらいなのかも神様は知っているのですか?』

 

積もった不満は時々爆発して神を非難する。その度に神は曖昧な返答をして適当に言い訳をして団長達と何処かへと行ってしまう。―――その光景をこのオラリオに来て何度も見てきた南雲ハジメは他人事のように視界に入れていた。朝食として昨日買ってきたじゃが丸くんと味気のないパンを食べる。

 

「南雲君、おはよう!今日も頑張ろうね」

 

モソモソと物静かに食事をしている少年に近づき、わざわざその隣に座りながら挨拶をしてくる美少女に居心地が悪くなる。ニコニコと微笑んで自分と同じ物を美味しそうに食べるその姿に目を逸らせば、今度は怒気と殺意が孕んだ同じくこの世界に召喚された少年少女達からの視線が向けられる。慌てて目線を下に落として顔を俯いたら隣の美少女がハジメの仕草に不思議そうに口を開いた。

 

「どうしたの?どこか具合が悪いの?」

 

「い、いや大丈夫だよ白崎さん」

 

美少女=白崎香織さん、この負の視線の嵐に気付いてほしい!と願っても当の彼女は純粋無垢な眼差しを向けてくるだけで周囲の雰囲気に気付くことはなかった。元の世界では学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。そんな彼女は共に異世界に召喚されても一切変わらず、仮称『魔王討伐』の為にダンジョンの探索に日々励んでいる。逆にハジメはこの世界に魔王なんて存在せず、何の目的であの神は冒険者が集まる迷宮都市オラリオに自分達を連れて来たのか疑問を抱いていた。明日を生きるためにはこの世界の通貨が必要なわけでゲームでも雑魚扱いされるゴブリンを何とか二匹か三匹、身体から魔石を気持ち悪い思いをしながら手にして金に換金し終えた後、情報収取に励む―――つもりが、見知らぬ人にあれこれ尋ねる度胸はハジメにはなかった。

 

「ね、南雲君。今日はどうするの?」

 

「う、うん・・・今日もオラリオを探索してみるよ。『異世界銭湯』なんて公共浴場が発見したから他にも何かあるかもしれないし」

 

「そっか!あの銭湯を見つけたのが南雲君だったから私、凄い!って思ったよ。皆も喜んでいたからさ」

 

会話が成り立ち嬉しそうな表情と尊敬の眼差しを向ける香織が眩しくて目が向けれない。なぜ彼女が元の世界でもこの世界でも自分に積極的に関わって接してくるのだろうか、ハジメは今でも内心理解に苦しんでいた。

 

「香織、南雲君。おはよう。」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

朝食を済ませたのか三人の男女が二人に近寄ってきた。その中で唯一朝の挨拶をした女子の名前は『八重樫雫』。香織の親友だ。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。事実、元の世界の彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で〝お姉さま〟と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。次に、些か臭いセリフで香織に声を掛けたのが『天之河光輝』。いかにも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。小学生の頃から八重樫道場に通う門下生で、雫と同じく全国クラスの猛者だ。雫とは幼馴染である。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる雫や香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。最後に投げやり気味な言動の男子生徒は『坂上龍太郎』といい、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。龍太郎は努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間。それに反しているのかハジメのことは嫌いらしい。現に今も、ハジメを一瞥した後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河君、坂上君・・・・・」

 

雫達に挨拶を返し、苦笑いするハジメ。「てめぇ、なに勝手に八重樫さんと話してんだ? アァ!?」という言葉より明瞭な視線がグサグサ刺さる。雫も香織に負けないくらい人気が高い。

 

「南雲、いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

光輝がハジメに忠告する。光輝の目にもやはり、ハジメは香織の厚意を無下にする不真面目な者として映っているようだ。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの?私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

ざわっと廃墟の中が騒がしくなる。男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりにハジメを睨み、中には人気のない場所にハジメを連れて行く場所の検討を始めている。

 

「え?・・・・・ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

どうやら光輝の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があり、そこが厄介なんだよなぁ~とハジメは現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。

 

「・・・・・ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど・・・・・」

 

この場で最も人間関係や各人の心情を把握している雫が、こっそりハジメに謝罪する。ハジメはやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑いするのだった。

 

「ねね、南雲君。今日も探索するなら私もついていってもいい?」

 

「え?」

 

「ほら、この街の土地勘がないと迷子になってここに帰ってこれなくなるでしょ?それに新しい発見もあるかもしれないし『異世界銭湯』を作った人と会えるかも」

 

正論だ。何一つ間違っていない。ただ、針のむしろ状態のハジメの心境を気づかない香織は悪くないがせめて気付いてほしいと懇願せずにはいられなかった。

 

「香織、魔王討伐にやる気がない南雲と町を探索する時間を費やす余裕はないよ。今日も僕らとダンジョンに探索して地上に出ないようモンスターを倒さなきゃ」

 

「?でも、他の冒険者の人達もいるんだからモンスターは地上に出てこれないよ?」

 

「彼らも血と汗を流して頑張っているのはわかってる。だけど彼等だけではモンスターの地上進出を抑え切れられるか怪しいんだ。僕達勇者が彼ら以上に頑張らないと魔王によって世界は征服されるに違いないんだ」

 

もし、この場に他の冒険者が聞いていたら「駆け出しのてめぇに情けを掛けられるほど俺達はひ弱じゃねぇよ!」と罵声を発していたに違いない。それ以前に勇者は中古である。この世界で召喚された理由が『世界を救う勇者』など陳腐な話を信じる方がおかしいのだからハジメの疑問は正しい。

 

「ま、土地勘がない私達にとって確かにそれも大切ね。そろそろ新しい服も買いたいし服屋があるなら直ぐにでも見つけてほしい心情だわ。この世界に銭湯があるだけでも救いなんだし」

 

「本当にあの銭湯を作ったのは誰だろうな。あの文字、完璧に漢字だったよな。他の文字はこの世界の文字で全然わからねぇしよ」

 

「・・・・・まぁ、そういうわけだから僕は町中を探索するよ」

 

腰を上げて一刻も早くこの場から離れたい一心のハジメは四人から距離を置いて廃墟を後にする。が、しかし香織がそう問屋を下ろさなかった。「あ、待って南雲君。私も行くよ!」とハジメを追いかけたのである。

 

「か、香織!」

 

「好きにさせなさいよ。モンスターばかりかまかけて他を蔑ろにするのだってよくないわ」

 

「けっ、だからってあのやる気のなさはどうかと思うぜ俺は」

 

呼び止めようとする天之河光輝を制する雫の言葉に腕を組んで廃墟を後にしたハジメを不快に抱く龍太郎。三者三様の反応を示す三人はダンジョン探索の準備に取り掛かった。

 

「~♪」

 

「・・・・・」

 

両手を後ろに回して手を組み、今にでも鼻歌をしそうなぐらい上機嫌な香織が微笑んでハジメの隣を歩く。何がそんなに嬉しいのかハジメはわからず、結局一人で探索することを諦めて香織の好きにさせることにするしかなかった。というか、香織だけの話に限らず誰かに対して強気でいたことは殆どない。いつも腰が低く面倒事は避け、周りから馬鹿にされても愛想笑いして余計な諍いを起こさないよう努めてきた。なので何時ものように下手に出ず受け流す姿勢で探索に臨むハジメであったが―――。

 

「あ、南雲君。あのお店、お花を売ってるんだね」

 

「南雲君、あの人達凄く綺麗だね。てっ、あ、あんなに肌を露出してる女性がいるよ・・・!」

 

「南雲君南雲君、見てアレ!」

 

キャッキャッと香織は初めて見るものに対して一々はしゃぎ、物静かに探索したいハジメは物凄く周囲から視線を集めている香織に対し恥ずかしい思いをしていた。もう少し静かにしてほしいと彼女に言えるはずもなく、ただ短く相槌を打つ言葉を言うだけしか返せないでいて。

 

「(まさか、こんな感じが一日も・・・・・?)」

 

ゾッとするどころか、羞恥心で精神がどうにかなってしまいそうだと耳まで顔を赤くする。こんなことなら雫達に香織を任せてもらえばよかったと後の祭りに浸り、横から顔を覗き込んでくる香織と目が合ってびっくりする。

 

「わっ!?」

 

「あっ、ごめん。驚かせちゃった?」

 

「え、あ、大丈夫、僕も大きい声を出しちゃってごめんね」

 

「ううん、気にしてないよ。それよりほら、色んなところに行こ?服屋さんも見つけなきゃ雫ちゃん達も困っちゃうからさ」

 

始終笑みを絶やさずハジメと接する香織。それが堪らず気恥ずかしくなるハジメは無言で頷き、若干観光気分で探索するのだった。

 

片や子供のようにはしゃぎ、片や恥ずかしそうにしている若い男女が当てもなく天を衝くほど高く建造された白亜の摩天楼施設を目印に様々な建物やヒューマンと亜人(デミ・ヒューマン)に獣人の人達を見ながら歩き続けた。仮の廃墟ホームがある東区から南へ進み、その途中市場を見つけ交易が盛んな場所を特定すると二人は感嘆の息を吐いた。市場には日用品から食材、道具やら怪しい物までも商人達の手によって販売されていて、それを買いにやってくる消費者等が集まってメインストリートは賑やかさを醸し出していた。

 

「凄いねっ。こんなにたくさんの物が売られてるよっ」

 

「うん、そうだね。僕もここまで来たことがなかったから大発見したよ」

 

「やっぱり町中の探索も大切だね。じゃないとこういうところを見つけることはできなかったもん」

 

くすくすと笑う香織に釣られてハジメも小さく笑う。これではまるで探検ごっこをしている子供みたいだなーと思っても実際は似たようなものであるのでご愛敬。市場に服があるか探してみたら、結果はあった。ただし下着や靴下の類は無くそれも含めてどこにあるのかとハジメが尋ねたところ、北区に行けばあると情報を得た。

 

「北区だって!」

 

「北の方角ってことだね。行ってみよ」

 

「うん!」

 

新たな目的地へ向かいながら南から西へと進み、冒険者通りに足を踏み入れる。大勢の冒険者がダンジョンの探索の為に道具や武器の調達をし、また西のメインストリートにある酒場で食べに集まる。その場所を初めて訪れた二人は冒険者達が身に包んでいる装備を見たり、行列を作っている人達を視界に入れたり陳列窓(ショーウィンドウ)の中に並べられてる道具を眺めたりして見て回った。そしてついに大きな看板を見て目を丸くした。

 

「な、南雲君っ・・・!あの文字って・・・・・」

 

「間違いない・・・・・漢字だ。しかも・・・・・」

 

その看板に『異世界食堂』と書かれた文字を見つけ、感動を覚えた。二人の四つの眼は、出入り口がある扉の横で列を作っている消費者達を映した。

 

「焼きそばパンを十個くださーい」

 

「カツサンドをくれぃ!十五個じゃ!」

 

「ホットドックを七個!」

 

「フルーツミックスを九個」

 

―――現代人として馴染みある名前が入る耳を最初は疑ってしまった。だが、実際に歩きながら食べる客が持つその手の物を見てしまったら疑う余地はなくなった。さらには・・・・・ぐぅ~と腹の虫が鳴いた。

 

「南雲君・・・・・お金ってどのぐらいある?」

 

「八〇〇程度・・・・・白崎さんは」

 

「えっとお恥ずかしながら私も一緒だよ」

 

合わせて一六〇〇ヴァリスの所持金を持つ二人は再度鳴る腹に手を添え、顔を見合わせると開け放たれた店の扉から出てくる客達が纏う食欲をそそる匂いを嗅いだ途端に。動いた。まだ昼時でもないが朝食があれだけでは食べたりない二人が空腹に、食欲に負けてしまうのは仕方がないだろう。気付けば店の中に入っていた。

 

「いらっしゃいませ、異世界食堂にようこそ!」

 

栗毛の長髪の美女が出迎えた。この店の制服で身に包んでいるが隠しきれないスタイルで彼女の魅力を引き立たせている。ハジメは女性店員に凝視する直前、背筋が凍るような悪寒を感じて咄嗟に香織の方へ向いた。何故か満面の笑みを浮かべていた香織がハジメを見ていたが、その理由を知るのは目の前の女性だけだった。

 

「二名様だけですか?」

 

「え、は、はひっ」

 

―――思いっきり舌を噛んだ。すっごく恥ずかしいっ!

 

「では、席にご案内いたしますね」

 

店員に案内される形でついて行き、空いているテーブル席に座る二人は店員から辞典のような分厚いメニューから選んで、ボタンを押して店員を呼ぶ説明を受けた。その通りにメニュー本を開いてみると、ハジメと香織がよく知る料理がずらりと載っていた。この世界の文字で書かれていて読めないが、どんな料理なのか一目瞭然で決めるのに迷いはなかった。

 

「な、南雲君っ!」

 

「う、うん・・・・・!」

 

異世界に召喚されて久しく食べる懐かしい料理を早く食べよう!それが二人の心境で選んだら瞬時に店員を呼んだ。直ぐに来たのは真紅の長髪の男性だった。

 

「ご注文はお決まりで?」

 

「僕はこれとこれで!」

 

「私はこれとこれを!」

 

「ハハッ、かしこまりました。それが好きなんだなお客様?これからも御贔屓にして通ってくれると店長として嬉しい限りだ」

 

て、店長!?身長は高いけどまだ十代に見える相手に驚く二人を他所に店長は離れて行った。少しして視線を絡み合わせるハジメと香織は吐露する。

 

「あんな人がこの店の店長だなんて・・・・・」

 

「『異世界銭湯』と『異世界食堂』の名前が似てるし、偶然じゃないと思う」

 

「あの人が関わっているのかな?もしそうだったら色々と聞きたいね」

 

首肯する。仮に香織の言う通りだったら是が非でも協力を得たい。この世界の事、魔王の事、色々だ。

 

「おまたせしました。ハンバーグステーキとライス大盛り、エビピラフにホットケーキだ」

 

「「えっ?」」

 

頼んで一分ほどだろうか。台車を押して運んできた店長と料理の出来上がった速さに目を丸くする。こんなに早く料理ができるものだったかと目の前に出来立ての料理を見ながら不思議に思っていると、レシートを置かれて店長は別の客の方へ対応しに行った。

 

「とりあえず、食べよ?」

 

「う、うん」

 

この世界に来て初めてまともな食事を口にできる。いざ実食とフォークとスプーンを手にして食べた瞬間。

 

「「・・・・・(泣)」」

 

感謝の言葉しか浮かべなかった。じゃが丸くんと質素な食事生活だけをしばらく送ってきた二人からすればこの店は仏のような場所だ。無言で食べ続け、一心不乱に味を噛みしめて段々減っていく料理に寂しさを覚えていきながら完食する。

 

「ううう・・・・・美味しかったよ~」

 

「そうだね。本当に美味しかったね・・・・・」

 

「もう、魔王討伐なんかよりもこの美味しい料理の為に頑張りたいって思っちゃった・・・・・」

 

「僕もそうだよ。・・・・・これならダンジョンの探索も頑張れる気がするよ」

 

戦いや争いごとは好まないハジメでも己をやる気にさせるためのものがあるなら吝かではない。ハジメの話を聞いて香織の表情は明るくなった。

 

「じゃ、じゃあっ。明日私と一緒にダンジョンに行こうよ!この美味しい料理を食べるためにお金を稼いでさ!」

 

ずいっとテーブルから身を乗り出して自分の提案の同意を求める香織に少し仰け反って「それは・・・・・」と逡巡してしまう。一先ず返答を後にしてもらい(ヘタレ?何とでも言っていいよ)会計をすることに。二人合わせてお代は足りたのでなけなしの金で払えたことに内心安堵した。

 

「またのご利用をお待ちにしてるよ」

 

朗らかに送り迎えしてくれる店主にこそばゆい気持ちとなってそのまま去ろうとした考えを留めた。

 

「あ、あの。尋ねてもいいですか?」

 

「おう、なんだ」

 

「この店の名前は『異世界食堂』って言うんですよね?どうして、そんな名前にしたんですか?」

 

ハジメの質問に対して、珍しいのかジッとハジメを見つめ香織にも視線を向け「なるほどな」と吐露した。

 

「この世界にはない料理を提供しているからだ。お前らにとって馴染みのある料理だったろ?」

 

自分達にとって馴染みのある料理?意味深な発言だ。まるで自分達のこと知っているような言い方を言う店主から語られた。

 

「初めまして。新たにこの異世界、ひいては迷宮都市オラリオに来た異邦人の少年少女。俺もまた別の世界から来た異邦人なのさ」

 

「「!!」」

 

自分達以外にも異世界から来た異邦人がいる。ハジメと香織は凄く驚き同じ境遇者の存在に信用の眼差しを向けるようになった。

 

「あなたも異世界から来た人!?」

 

「そうだ。この風体だけど日本人だ。実家は京都」

 

「そ、それじゃあ私達と同じ世界から来た人何ですか?」

 

「いや、違うだろうな。俺はお前らの世界とは違う世界から来たんだ。所謂並行世界、パラレルワールドってやつだ。俺の世界には同名の神々やファンタジーの生物や種族がいるからな」

 

別の世界!?そんな世界が自分達とこの世界の他にも存在していたのかと新事実に愕然。ますます色々と聞き込みをしないといけなくなった二人は追求する口を開きかけた。

 

「おっと、色々と知りたいだろうが俺は仕事中だ。話はまた今度にしてくれるか」

 

「あ、そうでしたね・・・・・じゃあ、一つだけいいですか?服屋さんって北区のどの辺りにありますか?私達、この世界に来てからこの制服だけで生活をしてるので洗濯もままならないんです」

 

それぐらいなら、と二人の目の前で腕に嵌めていた宝玉がある腕輪を触れて、宝玉から立体的な映像を展開。名前の欄から一つだけ選び通信状態にすると直ぐに相手と繋がった。

 

『おー?なんやイッセーから連絡してくるんなんて珍しいやん』

 

「可愛い異邦人の女の子が服屋を探している。暇なら案内してやってくれないか?」

 

『なんやてっ!?どこにおんねん、その可愛い子供は!』

 

「俺の店の前だ。直ぐに来てくれないと肉食の狼達に連れ去られるぞ」

 

『今行くでっ!!!』

 

了承を得たので通信を切った。当の二人はきょとんとしていたので説明する。

 

「俺の代わりに案内人を呼んでおいた。そいつから色々と聞くといい」

 

「どんな人何ですか?関西弁を言う女性の声が聞こえましたけど」

 

「ああ、今来る奴は・・・・・このオラリオに存在する数ある【ファミリア】の中で最強の一角の【ファミリア】の主神ロキって女神だ」

 

全力疾走してきた朱色の髪に糸目の女神が語り終えたところでタイミングよく現れた。

 

「うはー!んは~!この子やな、可愛い異邦人の子供っちゅーのは!?」

 

香織に向けて鼻息を荒く顔が変態親父的で卑猥なアレを浮かべるのでハジメは引いた。これが女神が浮かべる顔なのかと信じられないぐらいに。

 

「嘘は言ってないだろ?それじゃ、後は頼んだ」

 

「任せておきぃっ!責任もって可愛いがるでぇっ!」

 

可愛がるって何をするの!?人選ミスをしたんじゃないかこの人は!と言いたげな目で店主を見ていると店の中に引っ込んでしまっていた。ロキはハジメの心情を露知らず嬉々として先導するために動き出す。

 

「ほんじゃ早速服屋に案内したるで!」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

最強の【ファミリア】の主神直々に案内をしてもらう幸運に、感謝と当惑。であるが、この瞬間を無駄にできないと香織と一緒に山ほど聞きたいことを訊ねて、逆に尋ねられると素直に答える。

 

「はー、そら、災難やっちゃなぁー。色々と苦労してるんやろ?うちらも最初はそうやったで」

 

「そうなんですか。ところで魔王ってどこにいるんですか?」

 

「魔王?なんやそれ、この下界にそんなもんおらんで」

 

「え、でも、神様が魔王討伐の為にここでレベルをあげるようなことを・・・・・」

 

「おらんおらん、魔王なんておらんわ。自分ら、主神に騙されているもとい遊ばれておるで?」

 

い、いない!?魔王の存在を信じていた香織の目は限界まで見開き、ハジメに至ってはやっぱりなーと達観した遠い目でロキの言葉を受け入れていた。

 

「じゃ、じゃあ・・・・・私達は何のために元の世界から召喚されて・・・・・」

 

遊戯(ゲーム)のつもりやろ。うちら神々はな。神々が住んでる天界に生きることが飽きて人類が生きているこの下界で刺激を求めて移り住んでいるんや。ちゃんとした理由やどーしようもない理由等を抱えてなー」

 

「ロキ様は、どういった理由でこの世界に・・・・・?」

 

「勿論、娯楽と刺激を求めて天界から降りて来たんや!今じゃオラリオの二大派閥の一角として居座っておるんやけどな」

 

二大派閥の一角?あの店主はそんなこと言っていなかった気がすると口を開いた。

 

「ロキ様の【ファミリア】の他に強い【ファミリア】があるんですか?」

 

「あるで、色ボケ・・・【フレイヤ・ファミリア】っちゅー派閥や。自分らさっきうちを呼んだ店主がおったろ?あの店主はその【フレイヤ・ファミリア】の眷族やで」

 

「そ、そうなんですか?え、でも何でお店を・・・・・?」

 

「ぐふふ、そら、うち以外の神々がイッセーの作る料理の虜になったんや。せやから毎日何時でも食べられるよう店を構えんのかー?って催促したら、あの通りやで」

 

「【ファミリア】って冒険者になってダンジョンの探索活動だけするんじゃないんですね」

 

「他にも色々とその【ファミリア】の活動があるで?武器や防具を作る生産系の【ファミリア】、製薬と治療を主に活動する【ファミリア】に野菜や魚介を育てたり獲ったりする【ファミリア】もあるんや」

 

はーと感嘆の息を漏らし、ここにメモ用紙があったら記録に残していただろう。ロキの話を真剣に聞き、耳を傾けていながら北区へ目指す。

 

―――そして夕刻。

 

ロキの案内によって服屋の場所を把握でき、最大派閥の主神との関係も築き上げたことは喜ばしいことだった。最後にロキから最後に派閥同士の付き合いの注意を教えられ、困ったときはあの店主に頼れと言われてロキと別れた二人は真っ直ぐ足を運んだ。

 

「いらっしゃ―――なんだ、また食いたくなったのか」

 

数時間ぶりで二度目の来訪者にそういう出迎えた店主。しかし、今の手持ちではじゃが丸くんを買う程でしかないため今日はこの店で食べることはできない、非常に残念に思いながらも懇願した。

 

「お仕事中お忙しい中申し訳ございません。お願いしたいことがありまして」

 

「お願いね、言ってみろ」

 

「私達のホームに来てもらえませんか?私と南雲君の他にもこの世界に来た友達がたくさんいて、まだこの世界のことを知らないんです」

 

「つまり、俺が知っていることすべてお前らに教えろって事か?」

 

「困ったときは店主に頼れってロキ様に言われました。とても頼りになる人だって」

 

・・・・・あの駄神、面倒事を押し付けたな。あとでチョークスリーパーをかけてやるとお仕置きを考えながら、別の事も考えて心の中でほくそ笑む。

 

「いいだろう。噂の異邦人はどういう奴だったのか興味はあった。だが、今は無理だ。仕事中だからな。なんなら臨時のアルバイトでもするか?報酬は金じゃなくて賄になるが」

 

「賄って、このお店の料理を食べられるってことですかっ?」

 

「その通りだ。二人には即席のウェイター、ウェイトレスをしてもらう。料理を運ぶ先には番号が記されてるから迷わず提供できるはずだ」

 

どうする?と問われて二人が口から答えるよりも先に腹の虫がぐう~と答えた。

 

「はっ、まずは飯からにしろって事か?」

 

「「ち、ちが―――!」」

 

「はいはい、言い訳は店の中でな。腹を空かせては戦もできぬというし、食った分の代金はしっかり働いて返してもらうぜ」

 

いつの間にか二人の背後に立ち、店の中へと押し入れた後。「ついに男の後輩ができたか・・・・・」、「可愛い!」と『異世界食堂』の制服で身に包んだハジメと香織を見てはしゃぐ従業員達。

 

「臨時に働いてもらうことにした。海童とアスナ、悪いがこいつらの指導を任すぞ」

 

「うん、わかったよ」

 

「何だか新鮮な気分だなー」

 

任された二人は嫌な顔をすらせず、握手を交わして直ぐに仕事をしながら指導を行う。ハジメはしどろもどろとしていて対応は遅く当惑していたが、香織は適応力が非常に高いのか直ぐに慣れてアスナから太鼓判を打たれた。このまま働いてもらえば遠くないうちに戦力となりうるだろうなと、ミアと眺めた。

 

「また人材を見つけたのかと思えば臨時とはね」

 

「何時か正式に雇いたいもんだよ。今はお試し期間ってやつさ」

 

ハジメ達は臨時のアルバイトをするようになってその日、三時間も働かされた。店主から休憩の言葉をもらい、休憩場で疲れた体をソファーに寝かせて深い溜息を吐いた。

 

「つ、疲れたね・・・・・」

 

「仕事って、こんなに疲れるものなのか・・・・・」

 

まだ学生の身分の二人にとって初めての経験故に空腹も相まってこれ以上動くことはできなかった。

 

「お疲れさん。賄を食べる時間だぞー。悪いけどお前らの好物は知らんから、朝食べたもんと一緒にさせてもらったからな」

 

「「!」」

 

空腹が二人を後押しするほど突き動かす。故郷の料理を食べるだけの意欲はまだ残っていたのか、身体を起こして料理を持ってきた店主から受け取り、合掌して直ぐに食べだす。

 

「美味しい、美味しいね!」

 

「うん、うん・・・・・!」

 

腹を満たし、体力もそれなりに回復したらまたキツい仕事をする。それでも、任されたことを投げ出すことはせずに最後まで頑張った二人を称賛する店主であった。そんな二人は『異世界食堂』が閉店する21:00まで働かされたのである。

 

「よし、皆お疲れさん!さっさと片付けて帰るぞー」

 

『はーい!』

 

『ニャー!』

 

約二名、疲労困憊で声を上げずにいたが店主達は気にせずに最後の仕事を臨む。

 

「南雲、白崎。どうだ、初めて仕事をした感想は」

 

「「つ、疲れました・・・・・」」

 

「だろうな。特に南雲は悲鳴を言いそうな顔で必死に働いていたもんな。ま、そんな二人には臨時の報酬をくれてやろう」

 

と言って、床に座り込んでいる二人に三つの亜麻袋を手渡す。ジャラっと音と硬い感触が伝わり、何だろうと袋の口を開いてみると、大口から見える光景は・・・・・金貨金貨金貨金貨金貨。数え切れない代償の金貨が、狭苦しいと言わんばかりに袋の中でひしめき合っていた。凄く眩しい金色の煌めきの光が二人の顔を照らす。その意味は何なのか店主から告げられた。

 

「臨時に数時間も働いた報酬額だ」

 

「でも、正式に雇われた訳でもないのに。こんなに貰うなんて申し訳ないですよ」

 

「そんなの元の世界でも同じだろ?それとこの世界に元の世界の常識は通用しない。俺らを縛る法律もなければこの世界に生きる限りはそれなりに自由なのさ。ただ、元の世界と違って不便と不条理、理不尽が多いがな」

 

それに―――と女性従業員の一人、アスナが店主の言葉を繋げるように話しかけた。

 

「この世界に来て、オラリオに来たばかりでお金は全然ないんでしょう?あの制服も随分汚れていたし清潔な服を着なくちゃ何時か病気になっちゃって大変だしね」

 

「ていうか、数時間も働いた割には随分と多くね?」

 

海童の指摘に「へ?」とハジメは間の抜けた声を漏らした。海童が見る先は三つ目の金貨が詰まった亜麻袋だ。あれも二人の報酬に含まれているのだと思われているようで店主は否定した。

 

「あれはこいつらの【ファミリア】用の資金だ」

 

「おいおい、無償で他派閥に金を渡すってのかよ。お人好しどころか変人だぞ」

 

やれやれと肩をすくめるそんな転生者に店主は邪のないにっこりと笑みを浮かべた。

 

「その変人に庇護を受けているのはどこのどいつなのか自覚しているんだろうな?店から放り出してブラックホール並みの食欲と胃を持つ仲間を何時まで維持していられるのか試してもいいんだぜ?」

 

「店主は俺の神様だぜ!これからも店主とこの店の為に精一杯働いで貢献するから―――見捨てないでくれぇっ!?」

 

本気で縋り付き店主に許しを請う海童に行き場所も頼る場所も『異世界食堂』以外に他は無い。ここから離れてしまえば確実に金銭が一ヵ月以内に底をつき、仲間の一人によって餓死させられる運命は目に見えている。それだけは嫌で避けたい転生者はこれからもこの店から離れないで暮らしていくことになるであろう。仲間にする選択を誤ったと後悔しながら・・・・・。

 

「資金を渡す理由は、こいつらを死なせないため以外他にない。あいつらと同じでな」

 

「あいつら・・・・・?」

 

「ん、言ってなかったな。彼女、結城明日奈は見た目はエルフだけど元は彼女の友達十数人も日本が存在する別の世界から来た人間なんだ。この世界に来たばかりのお前らにとっては先輩にあたる存在だ」

 

「私達以外にも、日本がある別の世界から来ている人がいるなんて・・・・・じゃあ、その人も?」

 

黒髪が特徴として香織は尋ねた。

 

「こいつは特殊なケースでな。海童も別の世界から来た人間だけど、自分の世界で死んだら神様の力によって復活して異世界で第二の人生を送る―――転生者っていう類の存在だ。それと異邦人と転生者のことはもうオラリオに知れ渡っているから娯楽に飢えてる神々にとっては未知の存在。新しい玩具をもらえた子供のように全力ではしゃいでくるから自分達で何とかしろよ」

 

「は、はぁ・・・・・神様って変な神様しかいないんですか?」

 

「一部を除いていないな。真面な神格者と出会えただけでも自分は幸運だと思っても過言じゃないほどにな」

 

真顔で断言する店主がそこまで言わすほどなのか神は、と海童とアスナが苦笑いするのも事実なのだろう。

反応に困ったハジメに香織を含め転生者として海童は訊いた。

 

「ところでよ。お前らはどうやってこの世界に来たんだ?」

 

「はい。私達は魔王討伐の為に召喚されました」

 

香織が答えた瞬間。店主達が思考を停止した。三人の反応に不安を覚えて恐る恐ると逆に尋ねた。

 

「あの、この世界に魔王っているんじゃないんですか?」

 

「「「・・・・・(フルフル)」」」

 

口で答えず首を横に振って否定する形で応えた。

 

「魔王討伐って・・・・・まーた、新しいケースが増えたな」

 

「召喚ってことは魔法で?」

 

「俺、この手の小説を読んだことがあるぞ」

 

三者三様の反応を伺わせ、最後に海童の発言で「「じゃあ、教えて」」と店主とアスナは話の続きを促した。

 

「お前らの状況と召喚された理由を考慮するとあかんタイプの異世界召喚だろうな。召喚者のいいようにコキ使われて飼い殺しされるパターンかもしれないぞ」

 

海童から衝撃的な話を聞き「「か、飼い殺し・・・・・!?」」とショックを受ける。もしもそうなら、自分達は本当に召喚した張本神にいいように使われるだけの生き方をしなくてはならないのだ。愕然を禁じ得ないのは当然であろう。

 

「因みに存在するはずがない魔王を討伐するためにどうしてオラリオに来たんだ?」

 

「魔王討伐の為にレベルを上げるって、ロキ様にも言いましたけどロキ様もゲームのつもりでと・・・・・」

 

「うん、お前らは良い神格者に恵まれなかったっていう事実はよーくわかった。お前ら、レベルを上げるってのは滅茶苦茶厳しい条件でなきゃだめだぞ。それをしないでいると軽く五年もかかるなんて話は珍しくない」

 

「「ご、五年!?」」

 

魔王討伐は嘘で、レベルも軽く五年は掛かるという真実に開いた口が塞がらないハジメに香織。数年かけてまでレベルを上げていたら、自分達が歳を取る時には一体レベルはどこまで上がっているのか想像ができない。

 

「その上、階層を踏破するたびにモンスターも強くなる。中には階層主、正式名称は迷宮の孤王、モンスターレックスっていうボスモンスターとも戦わなくちゃいけない時もある。ダンジョンの中で冒険者が全滅なんてこれも珍しくない話だ。夢も野望も抱いていない人間が入るべき場所じゃない」

 

「ベテランの冒険者でも死ぬときは死んじゃうからね」

 

「俺は行ったことはないけど、俺みたいに地上で働いて生きるのも選択の一つだぜ」

 

色々と聞かされ、言われて頭が混乱しっぱなしで理解に追い付けない。やはりダンジョンは危険な場所なのだとハジメは改めて思い知らされ、唾を飲んだ。

 

「店主さんは最強の【ファミリア】の眷族だって聞きました。店主さんはどのぐらいダンジョンの中を潜っていますか?」

 

「階層踏破で言えば、60階層以上は進んでいるぞ。ここ十数年前以降から誰も足を踏み入れていない深層の階層だ」

 

「60階層のモンスターって強いんですか?」

 

「俺からすれば弱いけど、数が厄介だなー。当然のように百匹も二百匹も一斉に襲い掛かってくるもんだから数の暴力に圧倒される。しかもペンギンだったり熊だったり鳥だったりするぞ」

 

「・・・・・神楽の飯にならないかなそいつら」

 

「ならないよ海童君。モンスターだもん」

 

―――そうだぞ。試しに調理しても食えなかった。鳥のモンスターでも不味すぎる。

 

―――食ったのか!?食ったのかよ!?

 

―――もう、店主の行動は非常識極まりないよ・・・・・・。

 

「「・・・・・」」

 

三人の話を纏めて香織とハジメは神に騙されたことだけは理解した。しかし、理解したところで現状が変わるわけではない。これから自分達はどう生きればいいのか乞うた。

 

「店主さん。僕達はこれからどう生きればいいんですか?倒すはずの魔王がいないんじゃ強くなる意味もないですし」

 

「強くなる意味がないなんて、ないぞお前」

 

「えっ?」

 

「敵はモンスターだけじゃない。他の【ファミリア】も敵だ。敵対する【ファミリア】の冒険者がもしも私利私欲的な理由で白崎を奪われたり、目の前で強姦凌辱をされたらお前はただ黙って見ているだけでいるつもりか?」

 

ジッと濡羽色と金色のオッドアイに見つめられ、ハジメは店主の纏う雰囲気に呑まれて言葉を発せない。

 

「自分の大切な人を守れる強さをあったら、敵を倒せるだけの強さがあったら、何て考えをした時点じゃもう遅すぎるぞ。この世界、ひいてこのオラリオは実力主義の格差が最も見受けられる。強くなりたいなら『技』と『駆け引き』を磨きあげ、ダンジョンで命を懸けた死闘を毎日繰り返せ。いいな」

 

「・・・・・」

 

返事をするどころか、顔を若干俯かせて目を泳がせ命がけの戦いに恐れ、それを毎日やれと言われて逡巡するハジメの態度に―――イラっと。

 

「返事はどうした!一生惨めで情けなく弱いままでいたいのか南雲ハジメッ!だったらその根性を俺が叩き直すぞっ!?」

 

「は、はいっ!頑張りますっ!」

 

店主に激を受け喝を貰って条件反射か立ち上がって直立不動となり、「違う、サーイエッサーだ!お前はそれしかいうことを許さないからな、いいな!」「サーイエッサー!」とおかしな展開になったところでお開きとなった。

 

「イッセー、急にどうしたの?いきなり怒鳴って」

 

「ふん、あいつの意気地のなさにイラついただけだ。下手でいれば全てが万事解決、全部平和に終わってくれるって感じだったからな。あーいう奴は見ていてムカつく。一度も抵抗をしたことがないんだろうな」

 

「そうなんだ・・・・・。もしかして昔の自分と・・・・・?」

 

そう聞かれると黙ってしまう店主を見て、是だと受け取った。店主の過去を知る一人として寄り添い自分より大きな男の手を掴んで握った。

 

「大丈夫だよきっと・・・・・。あの子も大切な子ができたらきっと、強くなろうって思うよ」

 

「だといいがな」

 

その一方、ハジメと香織は遅い帰還だったために周りから(ほぼ香織だけ)に心配されたが、臨時で働いて得た【ファミリア】の資金を皆に見せ主神に献上する直前に言った。

 

「神様、この世界に魔王がいるなんて嘘なんですね」

 

「香織?いきなりどうしたの?」

 

突然主神に対して問いただす友人に不思議で訊いた時、雫へ振り返って真っ直ぐ言い返した。

 

「南雲君と町を探索しながら訊いたんだよ。魔王っていますかって。そしたらオラリオで一番強い【ファミリア】の神様から魔王は存在しないって教えてもらったの。私達のレベルを上げるのだって五年も掛かることもあるんだって」

 

『なっ!?』

 

他の者達も知らない事実を知ったところで少年少女達は主神に殺到して問いただし始める。逃がさないよう、逃げれないように取り囲み誹謗中傷の嵐の中心に立たせた。それを見ている二人の下に天之河光輝達三人組が近づいてきた。

 

「香織、南雲君。さっきの話は本当なのか。魔王がいないことだ」

 

「うん、そうだよ。あの神様だけ知って他の神様が知らないなんておかしいでしょ?」

 

「信じられない。神様が嘘をつくなんて僕は信じられない」

 

「その情報源は別の神様だけなの?」

 

「違うよ。私達と同じこの世界で生きている異世界から来た人からも聞いたよ」

 

「は?俺達以外にも元の世界から来た人間がいるってのか?」

 

「えっと、話がややこしいけど。僕達が住んでいた世界とは全く異なる別の世界の、異世界から来た人達だったんだよ」

 

ハジメの補足の言葉に香織もうんうんと首を縦に振って肯定する姿に、龍太郎は理解に苦しむと眉根を寄せてハジメを胡乱気に見る。何を言ってるんだこいつは的な相手を呆れた目も込めて向けて。雫は龍太郎の心情を代弁するかのように話しかける。

 

「南雲君、その説明は今の私達にはちょっと難しいわ」

 

「え?ああ、そうだね。実際に会ったのは僕達だけだし、また明日になったら連れてくるべきかな」

 

「うん、そうしよう南雲君。私達よりこの世界で長く住んでいるから皆にも紹介して説明してもらいたいからね」

 

微笑む香織がそう言い、そうしてもらえば助かると雫が思ったところでふと、気付いた。

 

「二人とも何だか嬉しいことでもあったの?特に南雲君からは雰囲気が違うんだけれど」

 

「あ!そうだ、雫ちゃん。あの『異世界銭湯』を作った人と会ってきたんだよ!私達があった異世界の人って言うのはその人の事で、『異世界食堂』って私達の世界の料理を主に作ってるお店の店長さんのところで働いていたの。料理もすっごく美味しかった!」

 

「うん、魔王がいないならあの故郷の料理を食べるために頑張りたいなって僕も思ったんだ」

 

―――異世界の料理とな?

 

「・・・・・香織、南雲君。その店ってまだ開いているの?」

 

「もうお店閉じちゃったよ?開店時間は朝の9時だって。サンドウィッチも販売してたね南雲君」

 

「ハムカツサンドに卵サンド、カツサンドや焼きそばパンも他にも色々と売ってて大人気だったよ。お店の中だとそれ以上の豊富な料理があるんだ。僕が食べたハンバーグとか、白崎さんが食べたエビピラフとホットケーキとかね」

 

「マ、マジなのか南雲っ・・・・・!」

 

雫と龍太郎の様子がおかしい。どうしたんだろう?と二人して首をかしげていると、雫は香織の肩を、龍太郎はハジメの肩を掴んで顔をズイッと寄せた。

 

「香織、私もその店に連れて行ってくれない?」

 

「南雲、俺もその店に連れて行ってくれ」

 

この瞬間。もしもこの場に店主がいたら、ニヤリとほくそ笑みしてやったりと思っていただろう。乞われた二人は拒む理由はないと明日、『異世界食堂』に案内することにした。

 

「蕎麦・・・・・天ぷら・・・・・煮物・・・・・」

 

「肉・・・・・唐揚げ・・・・・ラーメン」

 

遠い目で天井を見上げ、ぶつぶつと呟く二人と神が自分達に嘘をついた事実に混乱して頭を抱えている天之河。神に詰め寄ってギャーギャーと騒ぐ少年少女達を必死に抑えようとする涙目の小さな少女。軽くカオス化していたが、ハジメと香織は明日を楽しみに寝る支度をしていたので気づかなかった。気づいてたとしても関わろうとはしなかった。

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