ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
店主の提示した2つの選択の1つを選んだハジメ達は、快楽主義者の主神と一年間過ごすことも継続する方針で臨んだ。
「店主さん!おはようございます」
「・・・・・おはよう。昨日の今日で今度はなんだそんな大勢で」
「食べに来ました!」
「なら客だな。いらっしゃいませ。自由に好きな席に着け。ただし他の客達に迷惑をかけるなよ」
9時から開店の『異世界食堂』で朝食を食べに来たハジメ達を迎えた店主達。期待で胸を膨らませて各々好きな席で座り、少年少女達は大辞典並みの厚さのメニューの本を開いて感動の声を湧かす、朝から雪崩れ込んできた二十数人分の料理を作らなけばいけなくなったシェフ達は、目まぐるしい忙しさに追われる朝を送ることになった。そんな中、また客が入ってきた。褐色肌のスキンヘッドの大男が。
「へぇ、また異邦人達が来たのか。しかも学生の集団とはな」
「しかも理由が魔王討伐のために勇者召喚されたらしい」
「魔王討伐っておいおい・・・・・いるわけね-よな?」
「いたらいたで、ファンタジーらしさが濃い世界になってて俺は楽しそうだと思うけどな」
その客、桐ケ谷和人の仲間の一人エギルと席に座ってハジメ達と出会った経緯を語りエギルは興味津々で耳を傾けた。その話が終わると店主は本題を追求する。
「今日はどうしたんだ?あの時自分の店を持つって話を聞いてから随分と日が経ったけど」
「ああ、その話をしに来たんだ。もう少しで店が完成しそうでな。完成したら最初の客としてキリト達の他にお前達も誘いたくてよ」
「俺達って、数人か?全員か?あれからこっちも同棲同居人がかなり増えたぞ?」
「そうなのか?うーん、じゃあお前とアスナ、アリサって子だけ来てくれねーか?」
「元々アスナも誘う気でいたんだろ?わかった。じゃあ俺も他の何人か声を掛けさせてもらうぞ」
誘いに乗った店主も誰かを誘う了承を得て朗らかに去るエギルを見送ってすぐにアスナから話しかけられる。
「エギルさんと何を話ししてたの?」
「自分だけの店を完成できたら来てくれって誘いだ。アスナも来てほしいってよ」
「そうなんだ。エギルさんはこの世界でもやっぱりお店を作ったんだね」
「やっぱり?元の世界にもあるって聞いたけど」
「エギルさんはゲームの世界にでもお店を作ってるんだよ。だからエギルさんらしいなぁーって」
自営業が好きらしい同じ境遇者を称賛するアスナだからこそわかるらしい。どんな店なのか店主もアスナも知らないので来訪する時間が楽しみで期待する。
「そういえばさ、あの子達って異邦人なんだよね?」
「それがどうした?」
「転生者じゃないから凄い能力を持っていないんだよねーって思ってさ」
「ああ、流石にそれは無い」
一度ほぼ全員を視る機会があったので忘れずに確認し、把握した店主の口から否定の言葉が出てきた。本人も口にした通り予想通りの答えに受け入れたところで耳にした。
「転生者じゃないから神の特典で得た最強の能力、チートはないが・・・・・全員、スキルはあった」
「え、全員にスキル?」
「ん、スキルの方がチート気味だ。連中は知ってるかどうかは知らんが、俺達や周りをどうこうするような悪意を持っていないし放置している」
危険はないと言いながらアスナにも向かって「アスナとキリト達と同じだな、異邦人なのに未知のスキルを持ってるところは」と同類扱いをする。
「久々に俺と勝負しようかアスナ」
「うーん、手加減してくれるならね?」
「善処する。アスナが俺を楽しませてくれるならな」
逆にそれはやる気を出すのではないかと不安を覚えるが、剣士としての性がアスナの気持ちを昂らせる。勝負だけでなく久々に冒険もしてみたいと思いを抱くと、それを店主が心を読んだようにダンジョンにも行こうと誘いアスナは首を振った。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
ハジメ達が代金を支払い満足感を超える幸福感が表情に浮かんで晴れやかな気分のまま店を後にしていく。作る側もそんな顔をしてくれるなら料理人冥利が尽きるの一言だ。雫からも一言ちょうだいする。
「また食べに来ても?」
「好きなだけ来い。金を払って食べるものはたとえ悪人でも食べさせるのがこの店の信条だ」
だが、店に迷惑をかけるなら話は別だと相手の良し悪し関係なく料理を提供する店主の考えを聞き、出る前に雫は質問を投げた。
「今使ってる武器だけど、これからもモンスターと戦うならギルドから支給された武器以外使いたいの。正直、貰った武器じゃ心持たないから」
「武器屋の場所を知りたいって?」
「ええ、教えてくれる?」
「教えるも何も、武器屋はこの冒険者通りを歩けば冒険者が必要な道具を売ってる店はあるし、バベルの塔の四階から七階にも武器屋はあるぞ。冒険者なら当然の常識だ」
情報収取を怠ったから知らないんだ。と呆れた目で見られて雫は思わず視線を逸らした。数日とはいえハジメに情報を集めさせてる間、自分達は魔王討伐を目標としてダンジョンの中で探索していた。どっちも大切な事だが常識なことを教える相手側からすれば呆れることだった。
「武器を主に生産しているのは【ヘファイストス・ファミリア】と【ゴブニュ・ファミリア】だ。他にも知りたいならギルドの受付嬢に教えてもらえ」
「ありがとう、わかったわ。それじゃ」
得た情報をもとに雫はきっと探索組の仲間と武器を買いに行くだろう。それ以上の事は放置する予定だった店主にアスナから一言。
「あの子、バベルの塔の中のエレベータの操作方法、知ってたっけ?」
「・・・・・アスナはどうやって知った?」
「近くの人に教えてもらったよ。店主、ちゃんと教えないとあの子達が困るよ?」
無責任、と言う言葉が店主の頭にのし掛かりある程度の助力をする言った手前、教えたからには最後まで責任を持たなければならない。結局は~~~。
「この台座の上に乗って操作すると上階に向かうんだ」
白亜の巨塔バベルの中。バベルの一階はいわば玄関みたいなもので、主要な公共施設は二階から。三階まで上ってギルドにもある換金所を壁際の一角に見つけつつ、店主に案内されてるハジメ達は広間の中心へと赴く。いくつも存在している円形の台座、その一つを指して説明するそれは、硝子とはまた違う透明な壁が取り付けられていて、まるでグラスみたいだと見たままの感想を抱く。備え付けの装置の操作を数人教えて何組かグループに分けて他の台座で移動する店主の指示に、必然か当然か、雫が女子と男子を分けて乗ることを催促した。その催促に誰も異を唱えず各グループそれぞれ昇降設備ことエレベータの台座に移動、教わった学生が操作するとどの台座も地面から離れて、浮游。他の台座で乗ってる彼等彼女等から驚きと感嘆の声が聞こえてきた。
「電気もないのにどうやって浮いているんだ?」
「分からないが、異世界の文明ってやつだろう」
それだけで何でもそうだろうと自己完結する学生達の考えに心の中で苦笑い。ほどなくして、ハジメの四階に到着する。少しして他の台座で乗っていた皆が集まる。
「お目当ての店はまだ上の階なんだが、せっかくだから冷やかしながら見てみよう。どんな武器や防具があるのか見てみたいだろ?各々自由に見てこい。他の人に迷惑をかけずにな」
自分のタイミングで戻ってこいとお達しが送られて学生達は自由に行動を開始する。
「香織、僕と・・・・・」
「南雲君、一緒に見て回ろっ」
「え、いや、僕は・・・・・」
「どんな武器と防具があるのか楽しみだねー」
天之河光輝の誘いが空ぶる。ハジメの手首を掴んで引っ張る香織に伸ばした手は虚しくも触れることはなく、停止したように動かなくなった。
「んー、もしかしてあいつに気があるのか?」
「香織は元の世界の学校の間じゃあアイドル的な存在だがらね。性格も人柄も容姿も良いから。対して光輝も成績優秀で顔もかなりイケメンでしょ?カリスマ性も高くあるから他の学校の女子からもモテモテよ」
「必然的な組み合わせゆえに回りは当然だと思われてるか。でも実際はそうじゃないと」
「南雲君の事が好きなのよ香織は」
うっすらとだが、そんな感じはしていた。雫から香織の片想いの相手を教えられて確信した。
「外見より内面的に好かれたか」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「男も女も外見の他にも好きになることがあるだろ。南雲は内面的な何か、俺達の知らないところで白崎しか知らないことをして積極的に接せられてる。そんなところだろ」
黒い瞳を店主の顔を覗きこむように見上げる。自分達と交流してまだ三日も経っていないのに南雲と白崎のことをよく知ってる風な感じで言う。不思議な人だとつい尋ねてしまった。
「相手の心を読む魔法でもかけたの?」
「できたら便利だな。そしたらからかって弄れる」
この人にそんな魔法がなくて安心した雫は、いつものメンバー(天之河光輝と坂上龍太郎)と武器や防具を見て回ろうと足を動かす。
ざっと見ただけでも武器・防具の店がそこかしこを埋め尽くしている。元の世界には存在しない店が売っている装備品を見て学生達は興奮しながら観ていく。
「あのー、ここのお店の名前って何ですか?何かの名前が看板に書いてあるんですけど読めなくて」
二人組の一人の女子から訊かれ、看板のロゴタイプの文字を翻訳して教えたついでに告げる。
「この四階から八階のテナントは全部【ヘファイストス・ファミリア】のものだから覚えておけよ」
「【ヘファイストス・ファミリア】が全部?というか、どんな派閥でしたっけ?」
「武器や防具を作る鍛冶を生業としてる【ファミリア】だ。【ヘファイストス・ファミリア】が作る装備品は一級品で値段は軽く一千万円も超える」
「た、高っ!?え、私達そんなにお金は無いですよ!?」
借金してでも買えってこと!?と緊張感を抱く女子。もう一人の女子も不安げにそうなのかと店主を見つめるので「アホか」と一蹴する。
「ちゃんと初心者用の武器や鎧を売っている場所はある。今は【ヘファイストス・ファミリア】が作ってる装備品はどういうものなのかをお前達の目で見て知ってほしいだけだ。今のお前らに一級品の装備何て宝の持ち腐れもいいところだ」
「き、厳しいですね。そりゃあ今の私達は弱いから事実なんですけど」
「お前らの為に言ってるんだ。辛辣な事を言おうが厳しいことを指摘しようが、平和ボケしている世界から来たお前達がいるこの世界は常に死と隣り合わせしているんだよ。ダンジョンの中だろうが地上だろうが常に心の中で周囲を警戒しろ。突然同じ冒険者に襲われても珍しくないんだからな」
店主からの言葉を彼女達だけじゃなく側にいた学生達も耳にして、元の世界と違ってもっとも色濃く危険な世界だと教えられた自分達は命懸けの日々を送ることを改めて突き付けられて、唾を飲み込む。
「さぁ、あともう少ししたら上の階に行くぞ。そしたら自分達に合う武器や鎧を買うように」
はーい、と返事をする学生達は観光気分であちこち動き回って店に入らず
「はい、到着」
制止した
「さっきの四階にもあった【ヘファイストス・ファミリア】みたいな高級ブランド、自分達には到底買えるとは思えなかっただろ?」
ハジメ達一同は素直に肯定する。
「実はそうでもないんだこれが。ま、百聞は一見に如かず!また自分達の目で見て確かめてこい。ここのフロアに構えてる店から武器や防具を自分で選んで買ってもいいからな」
今度は購入の許可を得てまた見て回りだす異邦人達。すると自分達でも買える値段で販売されていることを知り、冒険をする学生達は感嘆と驚嘆の息を吐き、念も抱いて剣や盾、鎧を手にして盛り上がる最中。質問を受けた。
「魔法の杖ってここにもあるんですか?」
「それは
「どうやって魔法は覚えれますかー?」
「そりゃあ運次第だな。それか一億円以上する魔法の本を買って習得する他ないからどっちみち、故意的で魔法を得るのは相当難しい」
―――まぁ、質問してきた学生に魔法はあるようだがな。
店主も足を運び何を買おうとしているのか見たり、自分に合う物を選定してほしいと頼まれたり、悩んでいる者に声を掛けたり、相談に乗ったりするなど時間をかけて、選ばせたことで自分だけの装備を異邦人達は手に入れた。
「よーし、全員でなくとも皆買ったな?装備が売ってる場所も把握したことで次行くぞ」
次とな?
「次ってどこですかー?」
「決まってるだろ?冒険者にとっておなじみの道具、
『おおおー!』
ゲームでもよく出てくる
「同時に病気や怪我など治療してくれる病院的な治療院にも案内する。場所が分かれば自分達だけでも行けるだろ。それじゃ、先にバベルの一階に戻ってるから皆も降りて来いよ」
足元に展開した魔方陣から発する光に包まれながら一瞬で消えた店主。それには驚くもハジメ達は言われた通りに
目的の場所、そこは【ファミリア】が経営している巨大な建物に辿り着いた。清潔な白一色の石材で作られた建物には、【ディアンケヒト・ファミリア】を表す光玉と薬草のエンブレムが飾られている。
「いらっしゃいませ」
「よっ」
ハジメ達を出迎えた少女に、店主が気さくに小さく手を上げる。ヒューマンである彼女の容姿は、精緻な人形、という言葉が真っ先に浮かぶ。まだ一五〇Cに満たない小柄な体がその印象に拍車をかけていた。下げられた頭からさらりと零れる細い長髪は白銀の色で、大き目な双眸には儚げな長い睫毛がかかっている。服装は白を基調とした、どこか治療師を思わせる【ファミリア】の制服で身に包むアミッド・テアサナーレ。
「ちっちゃっ」
「可愛いっ」
彼女を初めて見るハジメ達から黄色い声が沸き上がる。店主と一緒に来たという事は関係があるのだろうと近づいてきた彼に口を開いた。
「イッセー様、彼らは?」
「別の世界から勇者召喚で来てしまった異邦人達だ。今、色々と教えてるところだ」
「当【ファミリア】にお越しいただいたのはそういうことですか」
「そういうわけだが、買い物をしに来たのも事実だ。二十数本の
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
そう言ってアミッドは他の団員に注文の品を用意してもらい店主と売買のやり取りを交わす。
「一人一本エリクサーを取れ。一本単価は五十万円はくだらない
ひえっと短い悲鳴が聞こえたが一人一人
「次は道具屋だ」
目的の店は西のメインストリートを外れた少し深い路地裏にある。日当たりが悪く軽くじめじめした場所にぽつんと建つ一軒家には、五体満足の人の身体を模した【ファミリア】のエンブレムが、看板のように飾られていた。
「・・・・・アレ、もしかしなくても人体模型とか?」
「もしかしなくてもそれっぽいだろ?」
両開きの木扉を限界まで開けて入ると、先客の冒険者が男神と商品の売買をしていた。問題もなく商品を買った冒険者が店主達の横を通り過ぎ、入れ替わる感じでカウンターにいる男神へ話しかけた。
「おお、久しいなイッセー。それにその者達は?」
「異世界から来た新しい異邦人だ。ミアハのホームに案内をしに来たんだ」
「そうであったか。ならば是非とも我が【ファミリア】の商品を買っていってほしい」
「そうさせるつもりだ。デュアル・ポーションはあるか?」
「すまぬがもう在庫がなくなっている。新たに生産をしなければならぬのでな」
それは残念。と思いながらもハジメ達に
「うむ、新たな顧客が増えると思うと嬉しい限りであるな」
「頑張れよ。ところでナァーザは?」
「皆と一緒にダンジョンへ行っている。『ブルー・パピリオ』の翅を集めにな」
「残念。モフモフしたかったがまた今度だな」
「また待っておるぞ」
ミアハのホーム『青の薬舗』を後にしメインストリートへと戻る。
「一通り必要な買い物を揃えたところで一旦お前らのホームに戻ろうか。何時までも荷物を持って歩くのはしんどいだろ。ああ、買った武器は装備するように」
はーいと上がる声を聞き真っ直ぐ東へ足を運ぶ。それから荷物を置くと交易がある南へ向かい、そこでも買い物をさせて時間が許す限りオラリオの町を案内した。そんな時だった。
「なぁ、冒険者っていやぁ依頼を引き受けることもあるんだよな?」
「あるがどうした」
「必要な物は全部買ったんだから冒険者として何でもいいからクエストをしてみたいんだ。いいだろ?」
軽薄な笑みを浮かべて乞う男子学生に止める理由は無い。ただし店主からすればまだ大事なことを教えていない。人として大切で大事なこと、それは―――。
「やるのは自由だがよ。お前、この世界の文字の読み書き分かっている上で言っているんだろうな?」
ピタッとクエストをしたい男子以外の面々の足も止まって、不自然な空気が漂い始めた。その空気は店主も感じ取り半目で言い始める。
「お前らがまず一番しなくちゃならないのはこの世界の文字の読み書きの練習だとは思わないかね?読むことも書くこともできないなんて―――人として恥ずかしくないかね?」
あからさまに嘲笑う店主に何一つ言えないハジメ達は言われるままであった。故に何故異世界に来てまでしなくちゃならないのか、ということを強いられるのだった。
「ホームに戻ったら読み書きをマスターするための勉強会を始めるぞ。拒否権は絶対にないから覚悟しろよ」
えええー!と不満の声が上がった瞬間に店主の鋭い眼光の睨みで黙らされる。物凄い怖い目つきで。
「碌に英語もマスターできてないってのに、この世界で読み書きもせずに生きていけれると思ってんのか?恥ずかしい思いをするのは自分だってことをわからないみたいだなおい。何となくの軽い気持ちで生きるぐらいなら原始人からやり直せ。その方がお前らはお似合いだぞ」
辛辣な言葉を貰い、それでもぐうの音も出ない異邦人達一同。店主の言い分は尤もなのでハジメ達はホームに戻って勉強会を開くことになった。
「・・・・・あれ?僕達のホームじゃない?」
「俺のホームでする。必要な道具を揃える間に勉強が嫌で逃げ出しかねないからな」
東へ向かわず西と北西の間にある区画へ直行する店主に素朴な疑問を抱いた。店主のホーム。最強派閥にして最大派閥の【フレイヤ・ファミリア】のホーム。一体どんなホームなのか、好奇心と興味が芽生えてついていく。だが、店主のホームがある区画に足を踏みいるとそこに広がる光景は人気がない寂れた廃墟しかない。立派な建物らしき建造物は見当たらない。長い間、誰からも忘れ去られた静寂な雰囲気を感じて、ここが本当にホームがあるのかと怪訝する。
「兵藤さん、どこにホームがあるんですか?」
「もう目の前にあるぞ」
「目の前って・・・・・何も無いですよ」
人もいなければ活気な喧騒も聞こえない。廃墟以外何もないこの場所に店主のホームがあるという。他の学生達も訝し気な心情で佇む中、四人の嘲笑う声が聞こえてきた。
「おいおい、聞いたか?何にもないのに家が目の前にあるってよ」
「ヤベェ薬でキメてるんだろうぜ。おーコワ。異世界でもマ・ヤ・クがあるのかー」
「ぎゃははっ!そうじゃなきゃ見栄張っているだけだって。おーい、頼れるカッコイイお兄さんになりたいからって謙虚しなくていいですよー!」
「ダッセー!やべ、チョー笑える!」
ゲラゲラとあからさまに馬鹿にする発言をされてもどこ吹く風の如く、店主は虚空に向かって呪文を紡いだ後にそれは開いた。鈍重の音が空気を震わせ、廃墟の通りの空間がゆっくりと左右に両開き寂れた廃墟とは無縁の大森林を窺わせる。
「俺のホームはあの中にある」
いくぞ、と一言だけ告げて大森林へ足を運んでいく店主の背中に視線を送るハジメ達も数歩遅れて恐る恐ると追いかける。別世界みたいな空間の中に入ると、空気が美味しいと感じるほど澄んでいた。まるで自然の中にいるみたいだと思わせながら地面に根を生やしている木々の傍、地面の至る所、歩いていると白水晶と青水晶を見つけて、ハジメ達を感嘆の念を抱かせた。
「兵藤さん、あの水晶って綺麗ですね」
「白水晶と青水晶っていう名前の水晶だ。ダンジョンの18階層に生えていて、持ち帰ると換金もできる」
「水晶って売れるんですかっ?」
「ああ、それ以外にも壁を掘れば金属や鉱石が出てくるし、食用の果実があったり
まだ知らなかった知識がさらっと出てきて頭の中でメモする。冒険の先輩から色々と学ぶことが多いな、と感想を浮かべながらしばらく歩いていると、一〇〇Mはある広い湖に辿り着いた。さらに湖の奥には店主の庭園があって数体の
「金属の塊が動いている・・・・・モンスターですか?」
「違う。あれはゴーレムだ。俺が自立起動型用に魔法で動かしている」
「じゃあ、あの場所って何でしょうか?」
「俺の庭園だ。あそこに生えている木や草は皆ダンジョンから持ってきて人工的に育てているんだ。中には希少価値のある植物もあるから売買すれば高い値段で取引してくれる」
店主は一体のゴーレムに指示を出して宝石樹から宝石の実を採取してもらい、それをハジメ達に見せつける。
「奇麗・・・・・!」
「すげー、これってもしかしなくても宝なのか?」
「そうだな。冒険者からすれば宝に等しい。この実を見つけたら幸運ものだ。こういう金にもなりうる物が18階層以降から存在する。お前らがそこまで行けるぐらい成長したら、探してみるのも悪くないぞ」
再び歩みを始めて、湖の上に発光する道で進み、円形に光る場所で店主一人だけ佇む。湖の上に歩く異常な行為を見せつけられて、驚いた少年少女達は足を揃って止めていたので動かないでいたのだった。
「その光る道の上に歩けば落ちやしないよ」
思いっきり踏むと音が聞こえる。ちゃんとした足場があるとわかり認識したところで天之河光輝が先に光道へ足を踏み入り店主の下へ近寄った。
「大丈夫だ!俺でも歩くことができるから皆も安心してくれ!」
そういうことなら、と龍太郎と雫を始め、ハジメや香織も光道に歩き他の学生達も緊張の面持ちで続き、円形の光る足場に最後の一人まで集うと音もなく店主達が乗っている足場が降下する。どんどん降下してようやく止まったと思えば白亜の神殿が皆を出迎えた。その中には光り輝く『幽玄の白天城』に繋がる転移式魔方陣が起動している。
―――†―――†―――†―――
転移式魔方陣を介して、黄金の大鐘楼に出迎える形で聳え立つ崖の上に建っている城に転移した。
ハジメ達は初めてオラリオの全貌を見下ろすことができて驚嘆の域を漏らす。ダンジョンの穴を塞いでるバベルの塔がある中心に町が広がり都市を囲む円形の外壁。自分達がいる場所はバベルの塔の次に高いのだと知った時は店主に催促の言葉が聞こえてきた時だった。
店主が向かおうとしてる家は白亜の城だった。外国の宮殿や城に直接行ったことがないハジメ達からすれば、初めての経験で緊張気味に巨大な黄金の大鐘楼を見ながら横切る。
「ここが兵藤さんの家・・・・・」
「俺個人の家だ」
「【ファミリア】のホームじゃなくて?」
「そうだ。こっちの方が何かと都合がいいからな」
靴は脱げよ、と大きな扉を開けながら言って入る店主。半円形の玄関の前に靴を脱いですぐ横の壁際の靴箱に入れる店主を見習ってハジメ達もそうする。入りきれなかったら男子と女子の靴を別々に脱いでもらい上がってもらう。直ぐ眼前には玄関から奥の廊下にまで間隔的に間を空けて、地上から一〇〇Mの天井を支える様に立てられ並んでる白柱があった。床は大理石でひんやりと冷たい。新鮮味を感じながら周囲を見回しつつ先行く店主の後を追いかける。ふと、廊下の奥から一人の女性が歩いてきた。
「む、イッセー。お主、今日は当番ではなかったのか?その者達は?」
「オラリオに新しく来た異邦人だ。
今まで工房にいたのか、顔にうっすらと汗が浮かべ片手に武器を持っていて、左目に眼帯をつけた褐色肌の女性が豊満な胸をサラシで窮屈に巻いた出で立ちで店主こと一誠と会話を交わす。
「兵藤さん。その人は?」
「【ヘファイストス・ファミリア】の団長、椿・コルブランド。俺のホームに居候もとい同居している一人だ」
「あの凄い武器を作ってる人達の団長!?」
何のことだかわからない椿の目の前で驚く香織に理由を尋ねると「さっきバベルの塔の中に行ってた」と直ぐに納得する答えが返ってきた。
「手前からすればイッセーの方が手前より凄いのだがな」
「え、何でですか?」
「イッセーは手前ら
「元の世界にいる鍛冶を司る神からすればまだまだ半人前って言われるがな。あの神が一番厳しいんだよ」
じゃあな、とハジメ達を引き連れて歩き出して椿の横を通り過ぎるまでもなく、まだ使われていない広い空間の部屋へと入っていった。全員が中に入ると指を弾き、久々に見る学校の机と椅子が人数分も虚空から出てきた異邦人達を驚かせた。
「じゃあ座れ。読み書きの授業を始めるぞ」
いつの間にか数十冊のノートと大量の筆記用具を用意していた一誠は、前の列にそれらを置いて使う分だけを取って貰い後ろに配る指示をする。全員の手元に全てが揃うと勉強会が始まる。日本語と
「この世界の文字が翻訳されていてとても読み書きしやすいです」
「私語厳禁。これから一時間は黙って書いてもらうぞ。その後はテストだ。合格点は七十五点以上。それを下回った奴がいたら全員連帯責任としてダンジョンの探索を禁止、一週間は補習をしてもらう。当然勉強詰めだ」
げっ!?と嫌な反応を示す生徒達はプレッシャーを覚えてしまい、指定された点数より下回らないよう必死に声を出さず読み書きの練習をする意思を強く固めた。
「おいおいふざけんな!何で一週間も異世界に来てまで補習しなきゃならねぇんだよ!」
檜山という男子が立ち上がって異議を唱える。
「嫌か?」
「勉強なんてしなくても俺達は生きていけれるんだ。金ならダンジョンから稼げばいいし、食いもんだってその辺の店に行けば食える。何が悲しくて勉強しなくちゃならねぇんだって話だよ」
「他の異邦人も独学でこの世界の文字を読み書きして言語を身につけているのに?郷に入れば郷に従えという諺を知らないわけがないだろ。ここは平和ボケしているお前達の世界じゃない。必要な知識や常識を得ていない明日すら生きていけないお前達のために教えているんだ」
「はっ、もうてめぇから教わることなんて何一つないぜ。なぁ、お前らもそう思うだろ?」
他のクラスメートにも声を掛けて呼応を求めると数人が頷き、他は黙って何も言わない。一誠からも質問をする。
「自分独自の考えで、必要なことは全て教えてもらって手助けはいらない、自分達だけで生きていけれると思った奴は立ち上がってくれ」
朗らかに気さくさに言って促す一誠の言葉に、一拍遅れて席から立ち上がる檜山も含めて四人。
「四人だけか?・・・・・なら、机と椅子はいらないな」
プリントやノート、筆記用具だけ残して机と椅子のみが消失した。床に落ちるそれらを当人達と彼らの側にいた少年少女達は目を丸くする。
「それじゃ、授業開始」
『・・・・・え?』
至極不思議でたまらない彼等彼女等の疑問に一誠は応じた。
「その四人は床に這いつくばってでも勉強はしてもらう。してくれなくてもいいが、お前達のせいで一週間の補修は確実に他の連中がする羽目になる。俺は一度言ったことを妥協せずやり遂げる性質だから、お前達には読み書きは絶対にしてもらう。それだけだ」
「な、なんだよそれ。おい、椅子と机を出せよ!」
「まじめに勉強を取り組まない奴に不必要なものだろ?それに床に座っても勉強はできる。やることは変わらない」
「ふざけんじゃねぇよ!」
激昂して買ったばかりの剣を鞘から抜き放って構える。それだけで場は悲鳴に包まれ巻き込まれないよう立ち上がって壁際に避難する学生達の中で天之河光輝が叫ぶ。
「やめろ!彼は俺達の恩人達なんだぞ、恩を仇で返す真似は許さないぞ!」
「うるせぇ!俺はさっきから上から物を言うこいつには気に食わねぇんだよ!」
「で、その剣を構えてどうするきだ?」
態度や表情を一切変えないその余裕でいる一誠を癪に触ったのか怒気を孕んだ声音で仲間にも声を掛けた。
檜山等四人は剣や槍を構えて四方から攻め立てようと姿勢に入る。
「死にたくなかったら今の内だぜ。土下座をして散々偉ぶって悪かったって謝るならよぉ」
「小悪党的なセリフを吐くんだな。久々に見聞したよそういう連中を」
「誰が小悪党だ!おら、さっさと土下座をしろや!」
「武器を構えて攻撃してくるどころか、相手を謝らせるだけに使うとか・・・・・嘆かわしいなもう」
「ああ!?死にてぇのか!」
「逆に聞こうか。人を殺すことができるのか?」
「何言ってんだ?この世界は俺達がいた世界じゃないんだ。そんなことできるに決まって―――」
次の瞬間。四人に限らずハジメ達にも襲う重く冷たくて精神が圧し潰され心臓が握り潰される感覚。
恐怖が、死が、その発信源が一誠から放たれていて、今まで見たことがない冷ややかな目をしていた。
「・・・・・俺に構えてるその武器は俺を殺す意思があり、お前らはそうする気でいると受け取っていいんだな?」
「な、なんだよ・・・・・それが、何だってんだよ・・・・・っ」
「そうする相手とそうされる相手がそういう状況になったら、これから起こる事は何なのか、わからないなら『最期』に教えようか」
徐に突き付けてくる槍を掴み上げ、あっさりと奪って檜山の仲間の一人の脇腹を躊躇なく突き刺した。
「・・・・・え?」
直ぐに別の一人の太ももに突き刺した。三人目は肩を貫き最後に檜山には腹部を貫いた。その時間は刹那。体が穿たれたことに痛みが脳の神経に届くまで一拍遅れて一秒は掛かり、気付いた瞬間に四人は苦痛で顔を歪み激痛で涙を流した。
「ぎゃああああああああっ!?」
「い、いでぇっ!いでぇええええええ!」
「た、助けて、誰か助けてくれよぉっ!?」
「血、血が、血がぁあああああっ!」
床に転がり喚き散らしながら血を流す四人を、それを躊躇もなくした一誠に戦々恐々するハジメ達。途端に変わった修羅場の中でやはり一誠は涼しい顔で指示した。
「エリクサーで傷口に掛けろ。体に穴が開いた傷でも直ぐに治る」
数人がハッと我に返って慌てて取り出した
「お前らは運がいい。去年までこのオラリオは
「だからって、檜山達を傷つける意味はあるのかよ!?」
非難する目で叫ぶ龍太郎に淡々と語る。
「ある」
「なっ!?」
「こいつらは殺す意思があって武器を構えた。そういう状況は地上でもダンジョンでも冒険者同士がよくする。その状況になるのは【ファミリア】同士の抗争だったり個人的な私情で襲うことだったりする。こいつらの場合は後者の方だ。殺されようとする側は死にたくないから抵抗する。当然の行為だ」
それとも何か?と皆に質問する。
「お前らに殺意を抱いて殺そうとする輩が目の前にいても、お前らは無抵抗で無意味に殺されたいのか?」
『っ!?』
絶句する一同。肯定しまえば一誠がした行為も認めることとなり、自分達の考えが間違ってることになる。それを自覚した以降でも一誠が何をもって四人を攻撃したのかも語る言葉を聞き続ける。
「言っとくが、話し合いで解決なんてできないぞ。本気であろうがなかろうが、一度刃を交えれば決着がつくまで死闘は続く。死にたくなかったら抗え。死にたくなかったら強くなれ。それがこのオラリオで生き残り、生き抜くために必要な方法の一つだ。お前らの先輩の他の異邦人達もそうして生きている」
『・・・・・』
「甘い考えは捨てろ。この世界はお前達の世界より過酷だ。常に死と隣り合わせの中で生きなきゃならない故に強くなれ少年少女達」
パチンと指を弾いた一誠の目の前にハジメ達の姿が消え去った。荷物も勉強するはずだった読み書き用の道具も全て。
「お主も手厳しい言動をするなぁ」
椿が出入り口のところで不意に話しかけてきた。悲鳴を聞いて来たのだろうが彼女は特に焦った様子はなかった。相手が一誠ならば最悪な事態だけはしないだろうと信頼している故だ。椿に振り返り、肩をすくめる。
「あれぐらいが丁度いいだろ。この世界の事何にも知らない世間知らずの連中にはいい気付け薬にはなった筈だ」
「恐れるあまりに何もできなかったらどうする?」
「人間の成長は馬鹿にできないぞ椿」
「それはドラゴンになってからそう思っている一誠の考えか?」
「ああ、そうだ」
薄く笑って片付け始める。椿も暇故に手伝うと手を貸してもらって作業を進める一方、ハジメ達は自分達がいない間に改築・改装を施されていたホームの中でその日は静かに過ごした。