ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚32

東西南北に列車を設置してロイマンと様々な規則を試行錯誤しながら決めていき、【ヘルメス・ファミリア】にも協力を要請して、列車が走る空から道標(ルート)や地図を作ってもらうこと一ヵ月が過ぎた。オラリオを中心に真新しい地図化(マッピング)が出来上がり、列車は作成した地図をもとに快走することができるようになった。他の地域も時間をかけて地図化(マッピング)を作成する予定だそうだがそこまでやる気なく、ロイマンから報酬金を受け取って『幽玄の白天城』に保管する。詰み終えた黄金色に輝くヴァリス通貨の山を少しばかり感傷深く見惚れた視線と意識を逸らして部屋に戻ろうと踵を返した瞬間。視界に真っ白な空間の光景が飛び込んできた。

 

「・・・・・?」

 

なんだ、ここは?刹那に変わった光景を不思議そうに見回す一誠の目の前に一人の女性の声が聞こえた。

 

『お久しぶりですね兵藤一誠』

 

「転生の神ミカル?」

 

己を異世界に招いた元凶の異界の女神が登場した。前回自殺しようとした時に突然現れ、供え物をするようになってから一度も姿も声も見聞しなかった相手が今度は何の用だと怪訝する。

 

「供え物は欠かさずしてるが口に合わなかったか?」

 

『寧ろ次の食事は何なのか楽しむ日課になっていますよ。食欲がなくとも味覚を楽しめますから』

 

「じゃあ、どうして俺の前に現れた?とても重要な要件を報せに来た感じじゃないし、元の世界に戻すつもりもないんだろ」

 

『どちらもそうですね。あなたと転生者たちの衝突は興味深く楽しませてもらっています。これからも期待しておりますよ?』

 

傍迷惑なことだ、と心情を顔に出して顰める一誠に気にせず本題とばかりミカルは話し始めた。

 

『今年の冬に一時ですがあなたの世界から家族と招いて差し上げましょうと思っています』

 

「一時だけかよ。でもま、直接会わせてくれるなら感謝するけど、誰なのかは教えてくれるのか」

 

『それはまだ内緒ですよ。私からのささやかなプレゼントです』

 

サンタ気取りか。

 

『そしてもう一つ。貴方に挑戦していただきたいことがございます』

 

「挑戦?大抵のことなら多分クリアしそうなんだけど」

 

『ええ、そちらの「世界」ではそうでしょう』

 

嫌な単語が聞こえ、これから言い出すだろうミカルの言葉に警戒心を否が応でも覚えてしまった。まさか、まさかなぁ?と耳を傾けた時だった。

 

『―――え?な、なんで貴方がここにっ?あ、ちょっ!?』

 

「・・・・・?」

 

誰かが割り込んできた声を漏らすミカルに小首をかしげるとすぐに声が聞こえた。

 

『おー、別の異世界の俺か。初めまして、それとも久しぶりか?俺は―――兵藤一誠だ』

 

「・・・・・はっ?」

 

男の声・・・・・兵藤一誠と名乗った者が一誠を放心させかけた。

 

『お前も異世界にトばされた憐れな奴だな。ま、俺もまたそうだったけどなぁー。はっはっは!』

 

「・・・・・別の俺、兵藤一誠?」

 

『おう。見た目はは三十過ぎたイケイケのワイルドな中年男だぜ。あ、実年齢は聞かないでくれよ?』

 

自分で何を言ってるんだと思うが、兵藤一誠の言葉や口調はどこか父親みたいな感じがする。

 

『いま転生の女神ミカルの領域に久々に来てみたんだが、なーんか結界やら罠やら妨害が張り巡らされてたけど、和樹達と協力し限界突破してみたぜイエーイ!おい、和樹も話してみろ。パワレルワールドの俺だぜ?』

 

『わかったわかった。やぁ、こんにちは。僕は式森和樹だ。君の世界の式森和樹と同じ魔法使いだよ』

 

「は、初めまして・・・・・転生の女神は?」

 

『ちょっとばかし大人しくさせてるよ。中々面白い事になってたから邪魔はされたくないからな。てなわけで、そっちに行ってみるか?』

 

・・・・・行ってみる?ミカルの焦りの悲鳴が聞こえるが止まる気配を感じないようだ。だって、目の前で空間が渦巻きながら歪み、開いた穴から四人の男女が出てきた。一人は真紅の長髪に金色の双眸で聞いた通り中年の男性。もう一人は和樹を成長させたような中年の男性。さらに二人の女性はというと―――。

 

「グレートレッドにオーフィス・・・・・」

 

兵藤一誠と同じ髪の色と瞳を持つ紅のドレスで身に包む女性に、一誠が知っているオーフィスと変わりない姿をしている幼女だった。一誠は目を張って驚いた。

 

「どうやら元気そうであるな。初めて会った頃よりは大分いい顔つきだ」

 

「・・・・・俺、会ったことがあったっけ?」

 

「憶えていなかったか。それも無理もないか?リーラが死んで大暴れしていた時にお前を止めた張本人達なんだがな」

 

随分と昔のことと、嫌なことを思い出させてくれる。が、一誠はその時の記憶は全然なく、気付いた時には曹操達と一緒にいた頃だった。

 

「んまぁ、過去のことはこの際置いといて。こうしてまたお前と出会えたことは嬉しく思うぜ」

 

「俺も・・・・・別の世界のもう一人の俺と出会えて驚嘆の念を覚えてる」

 

「んでもって、現在異世界でスローライフ中ってところか?どんな世界なんだ?」

 

「世界で唯一ダンジョンがある世界だ。神々の眷族になって冒険者としてダンジョンを探索する」

 

「冒険者!ははっ、懐かしい響きだなぁー。昔を思い出すよ。ガイアに魔獣の森に放り込まれたころとかさ」

 

「壮絶な修行をしてたんだ。俺は世界中旅して神々や伝説の存在に師として仰ぎ、修業してきたんだけど」

 

「何だよそれ!?滅茶苦茶楽しそうじゃんか!」

 

互いにどんな修行をしてどんな人と巡り合ったのか昔話の会話の花を咲かせる。別世界の和樹達も時折会話に交ざって質問したり問われたり、相槌を打って白い空間の中で時間を過ごす。

 

「はー、聞いてる限りじゃ本当に同じ『兵藤一誠』でも人生は違ってるな。この分じゃ、他のパワレルワールドの『兵藤一誠』は俺達よりも過酷な人生を過ごしてるな」

 

「だと思うけど、なんで転生の女神に会おうと思ったんだ?」

 

「ただの気まぐれだ。久しぶりに会いたくなってな。それだけだ」

 

そんな目の前の兵藤一誠を警戒していた転生の女神は、鎖に縛られていて寝転がっている。

 

「それがお前と再会することになるなんて夢にも思わなかった。この出会いは偶然であり必然だろうな。で、今ならお前を元の世界に連れて帰すことはできるけどどうする?」

 

「・・・・・」

 

突然そう言われて答えに悩む。確かに彼ならば可能だろう。ただし自分だけならだ。他の世界から来たアスナ達の世界に送り返すことは難しいかもしれない。だから自分だけ元の世界に帰るなんて・・・・・。

 

「いや、いい」

 

「いいのか?元の世界に帰る方法があるのか?」

 

「一応、色んな世界に繋げる魔法を得てる。一度だけ異世界からもう一人の『兵藤一誠』と接触できたから」

 

「ほぉー?そいつは興味深い魔法だな。でもそうか。お前がそう言うなら頑張ってもらおうか」

 

朗らかに笑う兵藤一誠だったが、両の拳が気と魔力を帯びはじめた。それを気づかない筈がない一誠は目を瞬きする。

 

「なら、次元と時空を超えて相対した俺達兵藤一誠同士を記念していっちょ勝負しようぜ」

 

「・・・・・」

 

拳を握って構える一誠の姿勢は兵藤一誠と戦う意思を示す。一誠も興味以前に一度勝負してみたかった気持ちが現実となり、己より成長した自分と戦いもし勝てたならば【ランクアップ】は間違いなしだろうと―――次の絶望が垣間見えても二の次だと瞳孔を鋭くさせ戦意をたぎらせる。

 

「―――最初から全力で行くぜ!」

 

嬉々としてそう宣言した兵藤一誠は身体から迸る魔力を奔流と化すると、オーフィスとグレートレッドも濡羽色と真紅の魔力を体から迸らせた。

 

 

「我、夢幻と龍神の子の者なり」

 

「我、夢幻を司る真龍『真なる赤龍神帝アポカリュプス・ドラゴン』グレートレッド」

 

「我、無限を司る龍神『無限の龍神ウロボロス・ドラゴン』オーフィス」

 

「我は無限を認め、夢幻の力で我は汝を誘い」

 

「我は夢幻を認め、無限の力で我は汝を葬り」

 

「我らは認めし者と共に生く―――」

 

「我らは認めし者と共に歩む―――」

 

2人の呪文のような言葉の後にもう一人も呪文を唱えた。

 

「我は夢幻を司る真龍と無限を司る龍神に認められし者。

我は愛すべき真龍と龍神と共に我等は真なる神の龍と成り―――」

 

「「「我等の力で全ての敵を倒そう。そして我等の力で汝等を救済しよう―――」」」

 

 

「「「D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)!!!」」」

 

 

眩い閃光が三人から弾け、一誠の視界を真っ白に塗られる。視界が回復した頃に目をゆっくりと開くと―――。立派な角が生えた頭部、胸に龍の顔と思われるものが有り、特に胸の龍の顔は意思を持っているかのように金と黒の瞳を輝かせる。瞳は、垂直のスリット状に黒と金のオッドアイになっていて、腰にまで伸びた真紅が黒色と入り乱れた髪になっていた。

 

「どうだ、これが俺達の力の結晶だ。今度はお前の全力を見せてくれよ」

 

兵藤一誠からの挑発のような言葉を受けそれに応じて、濡羽色と金色のオッドアイに眼光を鋭く放って玲瓏に謳った。

 

「―――我は無限と夢幻の神の龍也」

 

『『『―――我が宿りし覇と王道をも降す唯一無二の龍よ、汝じが赴くままに至れ』』』

 

紡ぎ出す謳。一誠の玲瓏に紡ぐ謳を兵藤一誠と式森和樹は耳にする。

 

「―――濡羽色の無限の神よ」

 

全身から奔流と化して迸る真紅色の極大オーラが、一誠の全身を包み込んでいく。

 

『『『―――赫赫たる夢幻の神よ』』』

 

身体に宿るドラゴン達も詠唱を唱え、真紅のオーラに入り乱れながら迸る無限を体現する黒きオーラが、さらに一誠を覆っていく・・・・・。

 

「『―――際涯を超越する無垢な無限の希望と純粋な不滅の夢を抱く全ての運命(さだめ)を降す我らが真の禁を見届けよ』」

 

そして身体から迸る真紅と漆黒の濃厚なオーラが身体に纏わりつき、入れ墨が肌に浮かび上がっていく。背中に十二枚の真紅と漆黒の色が入り交じった翼と臀部辺りに同じ色の尾が生えていく。

 

そして一誠達は、最後の一節を謳った―――。

 

「『―――原始の理で以って我らが無夢を解き放たん』」

 

呪文を謳い終わった時、真紅と濡羽色の龍を象った入れ墨が全身に浮かんでいた。真紅の髪も濡羽色と交ざっていながら入り乱れている。

 

「それが、お前の全力か。でも鎧を纏わないのはなんでだ?」

 

「あんたを参考にしたんだ」

 

きょとんとした顔で「俺を?」と小首をかしげた兵藤一誠。

 

「パワレルワールドの兵藤一誠達もきっとドラゴンの力を鎧にして具現化している。なら、それに倣う道理もなくオーフィスの力を鎧にせず俺自身の身体に無限の力を解放することにした」

 

その結果―――。

 

「この状態なら他の神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)の能力を振るえ且つ無限にまで力を昇華させることができる」

 

鎧に具現化しても確かな強さを得られるだろう。だが、その身に宿す豊富な能力が振るえないのであれば意味がない。一誠はそこを重視して他の能力も扱える方法をオーフィスと共に試行錯誤して編み出したのであった。その考えをしてこなかった兵藤一誠は珍獣を見る目つきで感嘆と驚嘆の入り混じった息と共に言葉を口にした。

 

「・・・・・なーるほど、一度でも考えたことがなかったな。流石パワレルワールドだ。だとすればお前のようなパワレルワールドの兵藤一誠もきっといるはずだろう。こりゃあ俺もうかうかしてられないな」

 

「ははっ、ライバルが自分自身にまで増えちゃったね一誠」

 

面白そうに朗らかに式森和樹が微笑んで口を開いた。「そういうお前もパワレルワールドのお前自身に超えられてるかもしれないぞ」と兵藤一誠は言い返した。

 

「ま、俺の想像を超えたことをしてくれたからには期待せずともいい勝負ができそうだ。―――さ、やるぜ?」

 

「ん、やろう」

 

そう言う二人は動揺せず観戦の姿勢で保つ和樹の視界から消失した。寧ろ、二人の姿を探そうとする気がないのだ。迅過ぎて探しようがないぐらいに。

 

「女神様、貴女から見て二人を見つけれますか」

 

「・・・・・それよりもこの鎖を解いてくださらないのですか」

 

「ははは、それは無理ですね。僕が解こうにも魔力を持つ者が触れた途端、連鎖的に触れた対象にも束縛するんですから」

 

魔力や魔法の武器にすら反応しますよ?と加えられて解放はできないと突き付けられた事実に諦め、虚空を見つめるミカル。

 

「見えませんね」

 

「そうでしょうね。爆音や空間が歪みだしているところしか目や耳に入らないですし一誠を相手にできてるあの子も中々成長しているんですね。いやー、凄い凄い。戦闘が好きなヴァーリ達がこの場にいたら居ても立ってもいられないはずだ」

 

「この空間はあの方の世界と私達の領域の境目に作った特別な空間ですから冷や冷やしますけれど?」

 

「そうなんですか。因みに、この空間の強度と言えば?」

 

え?と呟いた女神の耳に嫌な音が聞こえるようになった。まるで氷の大地に罅が入った鈍くそれでいて乾いた音が。

 

「忘れたんですか?彼らは世界で最強のドラゴンの力の塊ですよ?そんな力が激しく衝突したらこの空間だって影響が生じないなんておかしい話ですよ」

 

「―――――」

 

「どれだけ神の力でも作った領域なんて崩す。身をもって経験したはずですがね?ああ、止めてくれと言われてもできませんから。戦闘音で周囲からの音は掻き消されるので」

 

打ち上げられて咲いた花火の爆音を間近で聞いたような音が今もなおも空間中に響いて、防音の結界を張っているからこそ会話が成り立っている。そして白い空間に罅だけじゃなく裂け目までもが目に見えて増えてゆき、激しい揺れまでもが発生した。事の重大をようやく察し蒼白の顔でミカルは叫びながら乞うた。

 

「な、何とか止める方法はないんですか!?このままでは世界にまで影響が出ます!」

 

「うーん、あの二人を異世界にこの空間から追い出すのと、一誠とあの子の世界にいる女性を連れてきて止めてもらうの、あなたからしてどっちが好ましいですか?時間的に」

 

「兵藤一誠がいる異世界に追い出しましょう」

 

間も無く決めては白い空間に歪んでる部分へ穿ってほしいと頼まれた和樹は魔力の砲撃でそうする。ぽっかり空いた空間の向こうには見慣れない景色が見えた。

 

 

―――†―――†―――†―――

 

 

オラリオ中に轟く爆音を聞こえたとき、誰もが身体を跳ね上がらせ周囲や空を見回した。どよめきやざわめきが一般市民や冒険者達の間で生じて、近辺に異常がないと判断したら首を傾げながら動き出し始める。

 

「―――和樹の奴、一体何の真似だよ」

 

「―――オラリオに戻された?」

 

ただし、一部を除いて。中央広場(セントラルパーク)に異空間から追い出された二人は勝負する雰囲気ではなくなって―――はなかった。

 

「ま、いいや。続きをしようぜ」

 

「はっ?」

 

兵藤一誠の戦意は消えてなかった。周りの人間や建物に迷惑を掛けない程度で勝負をする臨みな彼に信じられないと唖然しながらも応戦して激しい衝突の音を轟かせた。

 

 

「まだ聞こえてくるね」

 

「一体何が起きとる?モンスターが地上に現れておらんし、真昼間から花火を上げとるわけでもない」

 

【ロキ・ファミリア】の『黄昏の館』からフィン達が出てきて原因不明の轟く音の調査を調べようと出たが、挙がってくる報告はやはり原因はわからないの一つの共通だった。地上には一切の影響は及んでいないが空から絶えなく轟音が聞こえてくるのであれば、何かしらの原因があると親指に目を落として予想する。

 

「親指が震えていない」

 

「となると・・・・・もしかするとじゃな」

 

「ああ、イッセーが関わってる可能性があるね」

 

 

バベルの最上階でも謎の音を耳にしている美の女神が壁張りのガラスから外の様子を見ていた。一瞬だけ真紅の髪を持つ子供が二人もいて見えた。それぞれの魂は本物で一つの魂は自分を魅了してやまないものだったが、もう一つの魂は真紅と黒に銀色が混ざった見たことのない魂だった。

 

「・・・・・なにかしらね」

 

直ぐに姿が消えてから耳の鼓膜を破らんとする轟音が聞こえてくるようになって、音の原因は彼ら二人にあると知ってる銀髪の女神はオラリオを眺める。

 

 

音の原因を探ろうと建物の上に立って探る【アストレア・ファミリア】。見えない何かを探してもどうしようもないが、現在進行形で鳴り止まない爆音に対して怪訝になっていた。

 

「アリーゼ、そちらで何かわかりましたか?」

 

「わからないわ。【ガネーシャ・ファミリア】も動き出しているけれど、私達と同じみたいで判明できてない」

 

大通りで武器を所持して調査活動をしている最大派閥の団員達の姿を見受けているアリーゼ。言葉の通り辺りを見回して拡散していきながら何かを探し回っているようだが、リュー達と同じで難航しているようだった。結局何もわからず聞いているしかできないのかと苦い思いをした次の瞬間。空が紅色に染まった。弾かれるように空を見上げると、真紅の極太の光が遥か上空でぶつかりあって鍔迫り合いのように押し合っていたのだった。しかも広域の空間で歪が生じていて、その影響か地上に揺れが起きている。何だあれは!?と目を大きく見開いて丸くしては驚愕する。何時までもぶつかり合う光はやがてもう一方の光を膨れながら押し返しながら飲み込んで貫いた。何かが終わったと思った矢先に真紅の軌跡が凄まじい速度で真っ直ぐオラリオの中心に落ちた。

 

「リュー!」

 

「ええ、行きましょう」

 

その場所は何人たりとも侵入を許せない状態になっていた。近づけば戦闘による緊張感に耐え切れず意識を失って気絶する者が続出して、それを避けるために遠ざかれば円を描くように直径十Mから見守るしかできないでいた。その直径十Mの中心は子供のように殴り合いをしているが、その密度は濃く、そして過激な勝負を繰り広げていた。数多の冒険者が、数多くの【ファミリア】が、神々がそんな戦いを見ていた。遅れてやってきたアイズ達もまたその光景を視界に入れた。

 

「イッセーが二人・・・・・?」

 

「でも、姿が違う」

 

どういうことなのだと理解できず何時でも乱入ができる姿勢で身構える。あり得ないが、もしもという可能性がある。

 

「さっすがに強いなお前!魔法合戦は俺が勝ったがな!」

 

「そっちはグレートレッドとオーフィスが直接協力してるんだから当然だろ!」

 

「はっはっはっ!お前に力を貸す二人がいないからって寂しがるなって!」

 

「うるせぇおっさん!」

 

「まだおっさんじゃないわぁああああっ!」

 

殴り殴られる激しい乱打戦(ブルファイト)がさらに過激さを増す。もはや冒険者の戦いの常識の域を超え逸脱したものだったことを観戦者達は頭の隅で何となく感じたときに、体に突き刺す筈だった拳から不意に鳴る音が不意に止まった。その理由は兵藤一誠が深い笑みを浮かべ、一誠の拳を受け流した片方の手ともう片方の手の中には龍殺しの剣を握っていた。「次は剣術勝負としよう」と言うかのように戦い方を変え、上段から降られる剣に亜空間から取り出した同じ大剣で受け止めて、弾き返して後退する。そして、二人が虚空に消えた代わりに甲高い音が鳴り響く。第一級冒険者ですら視界に入らない超スピードの剣戟。それに伴い二人の血と思われる赤い液体と斬撃が広場に刻まれていき冒険者達の中から短い悲鳴が聞こえた。

 

「「―――――」」

 

刹那。何時までも続き終わりは何時なのか定かでなかった二人が姿を見せた時は、互いに背を向け合って大剣を持ったまま時間が停止したように固まっていた。

とうとう決着がついたのかと息を呑み緊張して、二人を見守る冒険者や住民達は次の動作を待った。そして少しして、龍殺しの大剣に斬られた傷が体に刻まれ迸る大量の血を流した敗者が、一誠が大剣を杖代わりにして跪いた。

 

「「「「「・・・・・っ」」」」」

 

一誠を知るフィン達にとって一誠が敗れる光景を見ることになった結果に驚きを隠せなかった。誰に対しても負けることはないだろうと思っていた想いの気持ちに反して凄まじいショックを覚えた。だが、勝負はこれで終わりではなかった。兵藤一誠が音もなく一誠の背後に立って大剣を構えた。まだ戦いを止めないのか!?と絶句する周囲の気持ちなぞ露知らずな彼の者は容赦なく振るった瞬間。影から一人の少女が飛び出してきた。

 

「おっと、誰だ?」

 

黒い軌跡が走る直前、少女を蹴り飛ばさんとする左足を薙ぎ払った。当然ながらその蹴りを防ぐことも避けることもできない少女は、致命傷を負った一誠に抱き寄せられ片腕で受け止めて守られた。少女を守った青年に心の中で称賛しながら続きをしようとした矢先に二人の少女にまたしても遮られた。

 

「させない!」

 

「やらせない!」

 

「うん、邪魔だ」

 

闘気で金髪と銀髪の二人の少女を弾くと藍色の髪の麗人が、赤髪のヒューマンとエルフの少女が懐に飛び込んでくるも一撃で薙ぎ払い圧倒する。その動作で風圧も発生して周囲に佇んでいた野次馬にも吹き飛ばす影響を及ばせた。

 

「この場にいる全員が束で襲っても俺には勝てんよ。邪魔しないでくれ」

 

「もう勝敗が決しているというのにかい」

 

「どこの誰だか知らないが、こいつの底力をお前らの天秤で決めつけるなよ?まだ決着がついていないし、こいつの目はまだ死んじゃいないからな」

 

第一級冒険者の登場に対してもマイペースな対応をする兵藤一誠は、解除したことでグレートレッドとオーフィスが現世に姿を現した。遅れて和樹も空から降りて立ち並ぶ。

 

「邪魔するなら。容赦しないぞって言いたいところだがそろそろ元の世界に帰らせてもらうわ。こんな状況じゃ戦いを楽しむにも楽しめないし」

 

「君は別の世界から来た者なのかい」

 

「その通りだ。んじゃ、この続きはお前が元の世界に帰ったらしようぜ兵藤一誠」

 

別れの言葉を告げる兵藤一誠。虚空から出現した金色の錫杖を手にして聞き覚えのない呪文を呟き始め、虚空に向かって突き出した次の瞬間だった。四人の眼前の空間一面に光が発現して、広がる光の向こうを覗けばどこかの部屋の中の光景が見えてそこに向かっていく兵藤一誠達。

 

「次はお前がグレートレッドとオーフィスの力を得た状態でやりたいもんだよ」

 

「・・・・・次は負けない。絶対、絶対にだ」

 

「おう、それでこそ俺だぜ。じゃあな、また会おう兵藤一誠!」

 

手を挙げてヒラヒラと動かしながら言葉を交わす兵藤一誠は、光の穴の向こうに入ると緩やかに閉じていく空間の中でこの場からいなくなった。残された一誠達は幻でも見ていたかのような気分になるが、現実であると受け止めて血を流し過ぎて気を失いかけた男に意識を集中する。

 

 

兵藤一誠が元の世界に帰って小一時間経過しても、受けた傷は中々塞がらず新薬を投与したが龍殺しの武器の威力は想像を絶するほど高かく、一誠の身体に深い傷跡を残すことでようやく完治した。それは万能薬(エリクサー)でも傷を塞げず、一誠が開発した新薬でようやく治ったほど、あの龍殺しの大剣の効果は凄まじい物だったと物語らせるに十分過ぎた。『幽玄の白天城』に戻ってもらったアミッドの出張治療により横たわる一誠は包帯で巻かれた体に手を置いて溜息を吐いた。

 

「彼は別の世界から君なんだね?」

 

「ああ、そうだ。今回ばかりは俺の完敗だ。ありゃチートだろ。最強のドラゴンの力を具現化した鎧を纏われちゃ攻撃が通じねぇもんよ。幸い俺も最強のドラゴンの力を解放できる術があったから通用できたけど、なかったら絶対に勝てなかったわ」

 

本人がそう認めるのだから敗北したのだと見舞いに来たフィン達は静かに受け入れた。そして同じ兵藤一誠同士の戦いを見て、自分達はまだまだ一誠の足元にも見えていない位置にいるのだと改めて認識させられた。

 

「これからも無敗だと思っていた君が目の前で負けちゃう姿を見ることになるなんてね」

 

「ははは、俺自身も新鮮だよ。久々に敗北を味わったんだからな。だからこそまだまだ俺は強くなれると、強くなることを頑張れるんだよな」

 

心配そうに見つめるアイズとアリサに目を向け、手を伸ばすと二人も手を動かして繋いだ。一誠の手から感じる力はとても薄く、今にでも握っていなければ落ちてしまいそうなほど弱弱しかった。アイズとアリサは大切そうに一誠の手を包み込むように握る。

 

「お前らも頑張って強くなれよ。そしたら俺も負けていられず強くなっていられるからな」

 

「強くなったら、褒めてくれる?」

 

「おー、これでもかってぐらい褒めてやるよ」

 

「ん、わかった。頑張るっ」

 

一誠に褒めてもらいたく強くなる原動力は愛故にだろうと何人かがそう思っていた。そう思った一人のアスナが尋ねた。

 

「イッセー、大丈夫?何か作ろっか?」

 

「頼む。十人前以上作ってくれるとありがたい」

 

「わかった。たくさん作ってくるね」

 

部屋を後にするアスナ一人だけでは作る量は大変だろうと手伝いに買って出て何人も後を追う。まだ残っている面々から労いの言葉や力になれなかったことに対する謝罪の言葉を送って会話を交わした。ふと一誠は「あ、アミッド。『ステータスプレート』を取ってくれないか?」と言い出す。アミッドは快く従って一誠の服からプレートを取り出そうとする。

 

「【ステイタス】の確認か?」

 

「あれだけ全力で戦ったからには伸びてるだろうなって」

 

「してなかったし、増えていてもたったの1だったら悲しいわね?」

 

「仮にそうだったら俺はロキと自棄酒してやる!」

 

「イッセー、お酒飲めないんじゃなかったの?」

 

「梅酒ぐらいなら大丈夫だ」と口に出さずアミッドから『ステータスプレート』を受け取って確認すると・・・・・「あっ」と零した。

 

「【ランクアップ】してた」

 

「あら、そうだったの?他に何か発現した?」

 

「・・・・・んと、あー、また希少なもんが発現したぞ。スキルに龍殺龍者(ドラゴン・スレイヤー)と発展アビリティに『絆』と『狩人』に『魅了』だ」

 

まーたギルドでもすら登録されていない能力を発現させたよこいつ的な視線を無意識に向けてしまうフィン達に、一誠は気づいていなかった。

 

「『絆』と『魅了』についてどう予測できる?」

 

「何とも言えないわね。絆は文字通り相手と絆を深めることで成り立つでしょうし、魅了も同じでしょうね。ただ、それを選んで貴方に得するとは思えないわ」

 

「そもそもどっちも既にイッセーと私達の間で深い絆で結ばれてるし魅了されてるわ」

 

「『狩人』は一度倒したモンスターに対して効力が発揮するものだ」

 

発現した発展アビリティを選ばないにしてもさほど問題はないと頂戴して、選ばないのもありなのかと考える一誠はプレートを見つめ・・・・・意を決して操作する。

 

「発現したからには何かの縁だろう。『絆』に選ぶ」

 

「『魅了』じゃないのね?」

 

「既に魅了されてるんだろ?だから絆にする。ただ、本当にこれを選んでどうなるかわからないけどな」

 

「きっと他者との絆を深めやすくするためかもしれないよ?魅了も相手を魅了しやすくするためだと思うしね。これまで君の言動を鑑みるに考慮すればさ」

 

うーん、否定できない。魅了に関しては『魅了成就』のスキルがあるからそれにブーストが掛かるだろうと思った。だがしかし、この時一誠は『絆』の真価を気づかなかった。ただ相手と絆を深める程度だろうと考えていたが、実際は他にもあったのだ。

 

『絆』の効果は―――絆の丈と数の分、共闘して絆を結んだ相手の経験値(エクセリア)やアビリティを飛躍的に成長を促す。そして副次効果として絆を結んでいない者からの魔法や能力及び魅了(チャーム)の類は利かないという神々すら把握できなかった効果だったのだ。

 

 

イッセー

 

Lv.3

 

力:I0

 

耐久:I0

 

器用:I0

 

敏捷:I0

 

魔力:I0

 

幸運:I

 

 絆:I

 

 

《魔法》

 

 

真・異世界扉(ネオ・ワールド・ドア)

 

 

・移動系魔法。

 

・継続時間と大きさは魔力数値に依存、憧憬によって過去・現在・未来や異なる世界へ行き来できる。

 

・強い憧憬である程、成功率上昇。

 

 

(特典)『鑑定』

 

・ありとあらゆるもの価値を見定める。

 

 

《スキル》

 

 

異常不明(イレギュラー・アンノウン)』 

 

・戦闘時のみ発動。階位(レベル)、『基本能力(アビリティ)』が反映・真価を発揮し、全能力の超高補正する。

 

 

『恋愛一途』

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果維持。

 

・懸想の丈と異性との相思相愛の情を続けることで効果向上。

 

 

『魅了成就』

 

・魅了する。

 

・異性と同性、特定の者と交流し続ける限り効果維持。

 

・神・老若男女、人種問わず関係が良好、異性と触れ合い魅了し続けることで効果上昇。

 

 

『三技一体』

 

以下の三つのスキルが一つとしてそれぞれの発動条件が満たされると一時発現する。

 

 

料理想達人(クッキング・マスター・シェフ)

 

・調理道具の装備時、発展アビリティ『料理』の一時発現。

 

・補正効果は『器用』と『敏捷』のアビリティ数値に依存する。

 

 

『神伝鍛冶』

 

・鍛冶道具の装備時、発展アビリティ『鍛冶』の一時発現。

 

・作製した武具の品質の向上は『器用』アビリティ値に依存する。

 

 

神秘希少(ウルトラ・レア)

 

道具(アイテム)の作製時、発展アビリティ『神秘』が一時発現する。

 

・一定以上の道具(アイテム)の製作時、スキル『幻想』が発現する。

 

 

『幻想』

 

道具(アイテム)の作製時、発展アビリティ『幻想』が一時発現する。

 

・発展アビリティ『幻想』の発現時、道具(アイテム)に関わる全てのアビリティ・スキルが発現・併合する。

 

 

『運命協同体』

 

・同恩恵を持つ者のみ効果を発揮。

 

・懸想の丈の度合いによって【経験値(エクセリア)】の分配が変動する。

 

・『運命協同体』の副次効果―――懸想の丈の度合いによって良好の同恩恵を持つ以外の者も共同することで【経験値(エクセリア)】の分配が変動する。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

龍殺龍者(ドラゴン・スレイヤー)

 

・竜種に対する攻撃力の超域強化。

 

・戦闘の意欲の丈によって効果が向上。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

(特典)『異世界買物覧(ネットスーパー)

 

・ヴァリスを払うことで異世界の物資を購入可能

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

(特典)『ステイタステイカー』

 

・対象の【ステイタス】を奪う。

 

・奪った【ステイタス】の全てを上書き・蓄積し糧となる。

 

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

「・・・・・あ、ああああああああああっ!?魔力値が0に戻っちゃ駄目じゃないか!」

 

「あっ、そう言えば貴方の魔法・・・・・魔力値が依存するものだったわね。ということは・・・・・」

 

「また振出しに戻ったわけね?」

 

「いや、まだ終わらん!あいつからまた【ステイタス】をコピーすれば元通りになる!」

 

「何度も簡単にコピーできるものなのですか?」

 

「同じ物はコピーできないが初期化(リセット)されたからにはできるぞ」

 

「ンー、【ステイタス】をコピーできるその能力がロキ達に言わせればチートってことなんだろうね」

 

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