ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚33

オラリオは異様な活気を醸し出していた。大通りで出店や露店を構える商人達が軒並みに並び目の前で素通りする住民や冒険者、神々に声を掛け商売繁盛を臨む。変わらず冒険をしにダンジョンへ、白塔(バベル)に向かう冒険者やこれから仕事だと労働者が仕事場に赴いたりしている者がいれば、逆に今年から初めて行われるある祭りを楽しもうとするオラリオの住民達が各メインストリートに溢れ雑踏する。その影響でどの店も大忙しだ。『異世界食堂』も例外ではなく、朝から押し寄せてくる客達に天手古舞で料理を作ったり運んだりして目が回りそうなほど多忙を極めている。

 

怪物祭(モンスターフィリア)

 

【ガネーシャ・ファミリア】主催のモンスターを観衆の目の前で戦い捕獲、モンスター同士の対戦を見させるサーカスのようなものが始まろうとしていた。

 

『さぁ、いよいよ初めて行われる「怪物祭(モンスターフィリア)」!観衆の皆様に我々冒険者がどのようにモンスターと戦いを繰り広げているのかどうか自分の目で見てご覧下さいませ!』

 

ガネーシャの団員が魔石拡声器で進行役を務め、その隣に不思議な姿勢(ポーズ)を繰り返す象神が『俺がガネーシャだ!』とそれだけしか言わないので半ば放っておく形で進行していく団員A(イブリ)。まず最初に始まったのはモンスターの捕獲だった。コロシアムの地面から檻の中に閉じ込められているニードルラビットが出てくると調教師(テイマー)も現れ対峙する。役者が揃うと檻の扉が解放され、敵を殺さんとニードルラビットが冒険者の調教師(テイマー)に襲い掛かった。角で突き刺そうとする外見は可愛らしいモンスターの突撃を軽やかな動きで避け体力を削るために素手喧嘩(ステゴロ)で攻撃する。

 

「はっ!」

 

ドカッ!

 

『キュ、キュー・・・・・』

 

何度か攻撃を繰り返し動きが鈍くなった様子を見計らい、調教師(テイマー)は腰のベルトにくっつけていた小さな赤白のボールを手に取り、ボタンを押して大きさを手の平サイズにする。それを真っ直ぐニードルラビットに目掛けて当てるとボールが開いて、迸る赤い閃光に包まれたニードルラビットがボールの中に光となって消えて行ったのだった。モンスターがいなくなり残されたボールが一人勝手にゆらゆらと動く様子を一同見守る。そして動きが止まり微動だにしなくなったら調教師(テイマー)の手の中に収まりモンスターを捕まえた証として観衆に掲げた。

 

『お見事!無事モンスターを捕獲することに成功しました!』

 

おおー!と拍手喝采と歓声が沸き上がった。モンスターを捕まえる不思議なボールを使って調教するのだろうと認識をした観衆達のために次のモンスターを用意した。再び檻と共に現れたのは大型のモンスターの『インファント・ドラゴン』。檻から解放された竜種のモンスターは冒険者に襲い掛かった。これには勝てないと脱兎のごとく退場した調教師(テイマー)と入れ替わるように現れた藍色の髪の麗人がドラゴンと対峙する。

 

『続いては我らが【ガネーシャ・ファミリア】の団長がお見せになられます!では、始めてください!』

 

「・・・・・」

 

彼女もまた腰のベルトにくっつけてる一つのボールを手に取り、手の平サイズにまで大きくすると予め捕獲していたモンスターを出した。ボールから放出する赤い光と共に現れたモンスターは『中層』域で出現するモンスター『グリフォン』だった。馬具の手綱や鐙が装着した姿でインファント・ドラゴンを威嚇し臨戦態勢の構えをした。藍色の髪の麗人はグリフォンの背にまたがり、手綱を手に取ってモンスターと一緒にインファント・ドラゴンに戦いを挑んだ。

 

『クアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

冒険者と怪物(モンスター)が共闘して怪物(モンスター)と戦う。そんな前代未聞の展開を目の前で繰り広げられて観衆達から湧き上がる歓声が沈黙した。静かに見守られる中でインファント・ドラゴンの背中から鋭い前脚の爪で裂き攻撃をする。空からの攻撃に成す術もなくインファント・ドラゴンはあっという間に瀕死の状態となって倒れ伏した。まだ虫の息のモンスターに対し、調教師(テイマー)がニードルラビットを捕獲したようにボールを投げて当てては放つ赤い光でボールの中に捕えた。地上に降り立ち、よくやったとグリフォンを撫でながら『異世界食堂』印のモンスター用の餌を与えて労う。そんな彼女達の前に挑戦者が現れた。

 

「やい、そこの女!俺とモンスターバトルをしてもらおうじゃないか!」

 

「・・・・・何者だ?」

 

「俺は通りすがりのしがない調教師(テイマー)!立派なグリフォンを捕まえてるようだが俺のモンスターの方が強いことをここで証明してやるぜ!」

 

赤白の帽子をかぶり、戦闘衣(バトル・クロス)で身に包む謎の冒険者が現れた。試合の形式は三対三の勝負。シンプルな勝負に藍色の髪の麗人の冒険者は了承して尋常に勝負をした。

 

「いけ、ブラック!」

 

挑戦者が選んだモンスターはヘルハウンド。遠吠えをして戦意を窺わせる相手に対して藍色の髪の麗人が選んだモンスターはミノタウロス。勝負の開始の合図はない状態で試合が始まった。力と防御が特化したミノタウロスに対して俊敏が強みのヘルハウンド。調教師(テイマー)同士がモンスターを駆使して戦う様は観衆達に異様な興奮を覚えさせた。

 

「突進だ!」

 

「焼き尽くせブラック、火炎攻撃!」

 

『ガルルァアアアアアア!』

 

『ブモオオオオオオオッ!』

 

角を突き出す低い姿勢で怒涛の勢いで迫るミノタウロスと冒険者達の防具を熔かす火炎を吐くヘルハウンド。挑戦者の視界は真っ赤な景色で塗り潰されミノタウロスの姿が隠れた。黒焦げになっているだろうと勝利を確信した束の間、炎から二本の角が飛び出し瞋恚に燃える鋭い眼光を放つ怪物(モンスター)がヘルハウンドを捉えた。あの炎の中でまだ生きていたことに酷く瞠目して焦燥に駆られて口を開いた。

 

「ッ!ブラ―――!」

 

次の行動の指示を発しようとした挑戦者より、ミノタウロスの拳がヘルハウンドの横っ腹に突き刺さって殴り飛ばされた方が早かった。

 

『ガ、ガウ・・・・・』

 

「ブ、ブラックゥゥゥッ!!!」

 

『ブオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

戦闘不能に陥り倒れた敵に勝利の雄たけびを上げるミノタウロス。それに呼応して観衆も歓声に沸く中でモンスター達をボールの中に戻す二人は次なるモンスターを選んだ。藍色の髪の麗人がリザードマン、挑戦者はバトルボア。

 

「いけ、攻撃だ!」

 

「防いで勢いを殺せ!」

 

盾を構えるリザードマンは防御の姿勢で迎え撃とうとする。土煙を置き去りにしながら駆けるバトルボアは、リザードマンに突進攻撃を仕掛けると思ったら横に素通りした。待ち構えていたモンスターは不思議そうに眼を瞬きして走り続ける猪の化け物を目で追う。

 

「何の真似だ?」

 

「最大の攻撃力を発揮するためだ!ボア君、ミドルキック!」

 

バトルボアは最大速力を維持して今度こそリザードマンに突進攻撃を仕掛けた。・・・・・ニドルキック?猪のようなモンスターが何を仕出かすかわからないが、盾で防ぎ勢いを殺いだら剣技で倒そうと考えていた藍色の髪の麗人の思考は、途中で跳躍したバトルボアが後ろ脚で盾ごとリザードマンを蹴りつけ吹っ飛ばしたことで停止した。

 

『ガ、ガ・・・・・』

 

闘技場の壁にまで吹っ飛ぶ蹴りの威力は思いの他高かった。震える身体を持ち直そうとする相手に猛追をかけたバトルボアの猪突猛進が炸裂した。リザードマンは地にひれ伏して戦闘不能。挑戦者は初めての一勝を得て喜び、パートナーのモンスターと喜び合う。次はいよいよ最後の勝負。

 

「こいつで勝利を得る」

 

藍色の髪の麗人が繰り出したモンスターはグリフォン。対して挑戦者は。

 

「こいつが俺の最後でとっておきのモンスターだ。いけ、ヴィーリ!」

 

人型の上半身と蛇に酷似した下半身を持つ、女体竜尾のモンスターを繰り出した。

 

「『中層』の希少種(レアモンスター)を出してくるとは。ただ者ではないな」

 

「へっ、一流の調教師(テイマー)になるためにはこのぐらいは当然だぜ!」

 

この勝負で勝敗は決する。一瞬の油断もできず負けられない戦いを二人の調教師(テイマー)は睨み合いながら勝利の為に自分のモンスターに命じた。

 

「空に舞い上がれ!」

 

「前脚の爪に気をつけろ!グリフォンを引きずりおろせ!」

 

『クアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

『アアアアアアアアアアアアアッ!』

 

最後の勝負に熱狂的な活気がヒートアップして、盛り上がる観衆の歓声に包まれながら戦う二人の調教師(テイマー)とモンスター達。その日の勝敗はどうなったかは観衆達の間で渡り草となって伝わっていく。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

「て、まぁこんな感じで盛り上げたよ。住民や冒険者達の受けは上々だったと思う」

 

「モンスターを使役して戦わせるところは調教師(テイマー)とは変わりないが、まさかグリフォンの背に乗って戦わせるとは驚かされたよ」

 

「だろう?力で従わせるよりも結ばれてる絆があるところを見せたかった。ま、そんなの観衆達が気付かないだろうけどな。でもさ、人を乗せる事ができる有翼のモンスターに乗ってオラリオ外に飛んで行けるようになったら話題絶賛間違いなしだとは思わないか?」

 

「確かに・・・・・そうやって繰り返せばモンスターと人類が共に共存できる可能性があるという事が知れられていくわけだな」

 

ギルドの地下神殿こと『祈祷の間』で黒衣で身に包むフェルズと一誠が石造りの神座に腰を落としてるギルドの真の王の老神に聞こえる声量で言葉を交わし合う。一誠の常識と考えは異常であり覆す故、下界の常識と真逆な非日常的な神意を定めてるウラノスからすれば貴重な会話が蒼い瞳が見下ろす先で繰り広げている。

 

「今は【ガネーシャ・ファミリア】の眷族でしかできない行為だが、モンスターをパートナーとして飼育できる環境にまで発展させたいな。それに伴い色々と問題が起こるだろうがな」

 

「事は簡単ではないからね。神ガネーシャや彼の神の団員達には頑張ってもらう他ない」

 

「さっきの話だけど、オラリオ外に向けてグリフォンを飛ばせないか?もしくはグリフォンの背中に乗ってオラリオ内で起きた問題を解決していくことも。俺の世界じゃとある国でグリフォン隊って部隊が存在して、国内や国外の事件解決に活動していたんだよ」

 

「それはギルドが厳重に検証しなくてはならないだろう。他に何かないかい?」

 

「モンスターの飼育に関する試験に合格したらギルドや【ガネーシャ・ファミリア】から飼育の許可書みたいなのを発行してもらえば、住民達でもモンスターを飼うことができる」

 

「大型モンスターでもか?」

 

「それは流石に中堅以上の【ファミリア】じゃないと駄目でしょ。それ以前にそんなモンスターを飼うつもりはないだろうし。だからもしも、住民達でも小さなモンスターを飼ってみたい声があったらギルドと共同で試んで欲しい。すでにその話はガネーシャに言ってそれとなく町中に羊皮紙(ポスター)を張ってもらっている。【ガネーシャ・ファミリア】に入って一緒に怪物(モンスター)のことを知っていかないかってさ」

 

あくまでそれは【ガネーシャ・ファミリア】の入団希望にも認識されるようなことであるが、神の真意に気付く者はいないだろう。モンスターと融和の道を歩もう!等と。

 

話すべきことは全て話し終えたので『祈祷の間』を後にする人物を見送る二人。

 

「彼の行動力には圧巻される。もしかすると千年先まで待たずとも近年の内に貴方の神意が現実になるのではないか?」

 

「イッセーがこの世界に留まっていられる限りの話だ。私の眷族と同様、いつの間にか元の世界に戻ってしまうかもしれない」

 

フードの奥に隠れてる頭蓋骨を神座にいる老神へ見上げながら自分の気持ちを吐露する。

 

「それは彼の望みだろうが、私はそれが残念に思えてならないよ。彼のような存在はこの先もう現れないだろうからね」

 

「ああ、その通りだ」

 

故に惜しいと考えるウラノスは否定しない。だからまだこの世界にいる限り、できないこと以外なら全面的に協力を惜しまない。元の世界にいる眷族の子供であるからだけでなく、己に協力してくれる貴重な存在としてでもだ。

 

―――†―――†―――†―――

 

 

ギルドを後にしてヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)の冒険者達が良く足を運ぶ冒険者通りに闊歩する一人となった。一度そこのメインストリートに歩けば特徴的な真紅の長髪を目にした面々が朗らかに「おー、店主」「こんにちは店主」「店主、また食べに行きますのでよろしくね」と話しかけられる人気ぶりが発生する。冒険者としての知名度よりも料理人としての知名度の方が圧倒的に高いことはどうなんだろうか、と複雑な思いを心中で苦笑いしながら返事をしたり相槌を打ったりするのだった。現在進行形、営業している自分の店を前に素通りして新作でも作ろうかと北西と西に挟まれた区画に戻ろうと意識が覆された。

 

「イッセー」

 

「その声はアスフィか」

 

耳にかけてる銀の(フレーム)の眼鏡が特徴の理知に富んだ碧眼と一房だけ白く染まっている水色(アクアブルー)の髪の彼女、【ヘルメス・ファミリア】団長アスフィ・アル・アンドロメダが白いマントを羽織った姿で一誠を話しかけた。

 

「今日はヘルメスはいないんだな」

 

「付き添いは別の者に任せておりますからね。今日は偶然あなたをお見掛けしたのですが、近々話したいことがございましたから丁度良かったです」

 

「頼みごとか?」

 

「はいその通りなのですが、ここで話をするよりもどこかのお店でもいいでしょうか?」

 

いいぞ、と了承する一誠を案内するアスフィは脳内で過る店を思い出しながら足を進める。

 

 

「遺跡探索の協力?」

 

プライベート用に楽しめるために設けられた高級料理店の個室。軽食な料理を注文したところで、アスフィから聞かされた内容をオウム返しで復唱した。

 

「オラリオ外のか?」

 

「はい。それも果てしなく遠い場所にあります」

 

「それ、どうやって知ったんだ?」

 

「情報通な商人に頼んで集めてもらってます。貴方がよく知る三大商人の一人に」

 

「俺を介して知り合ったっけな」

 

「ええ、依頼料は高かったですが信用に値できる仕事をします。イッセー、砂しかない世界をご存じですか?」

 

「砂漠のことか?」と答えると小さく頷くアスフィは、異様に疲れた顔を途端に浮かべて話を切り出した。

 

「その砂しかない世界に作ったのかわからない建造物があるとどこで聞いたのかわからない、デマやガセではないかという噂話を耳にしたヘルメス様が貴方の協力を求めていらして・・・・・」

 

「あー、わかった。アスフィ、お前が一番苦労されたことだけは同情できないがその気持ちを和らげたいと思ってるぞ」

 

「・・・・・ありがとうございます」

 

あまりにも不憫な彼女、ヘルメスを協力することを暗に告げたことでアスフィは申し訳なさそうに頭を垂らした。

 

「砂漠の建造物ねぇ・・・・・俺の想像通りだとすれば、あれなんだよな」

 

「わかるのですか?」

 

「あくまで想像だ。俺の世界にも砂漠の世界に太古の時代で造られた建造物があるんだ。もしもそれだったら、まず入り口を見つけるのが大変なんだ。で、そこに行くのにアスフィ達は何人行く気でいるんだ?」

 

「私とヘルメス様、そして犬人族(シアンスロープ)のルルネです」

 

獣人という単語に目を輝かせる。『幽玄の白天城』にはいない種族のモフモフが堪能できるという想いでやる気が漲ってきた一誠の中で報酬は決まった。

 

「準備ができ次第、お互い連絡しよう」

 

「はい、よろしくお願いします。報酬は何が良いでしょうか?」

 

「ヘルメスの気が済んだ時に報酬をもらうとするよ。楽しみだなー、この世界の砂漠を行くのは初めてだから」

 

まだ見たことも行ったことがない未知の場所に高揚感を抱いて、運ばれてくる料理を前にしてもこの世界の砂漠地帯はどんな風なのか想像していた。

 

 

そして出発日当日。オラリオから空飛ぶ巨体な船に乗船している冒険者と神々も長い空の旅に参加。

 

 

燦燦と照らす太陽光の熱が地上を焼き尽くさんばかりに高い気温を発生させていた。呼吸するも暑苦しく、肌の水分が無くなり荒れるほど乾きかねないぐらい熱くなって、ジリジリと焦がす太陽の光と伴う熱で人間の体力を奪う砂漠地帯。大自然とは真逆と言ってもいいほど草木何一つない砂だらけの世界には、砂漠に適した動物やモンスター、太古から住んでいる先住民だけ存在している。一誠やアスナ、転生者が知る砂漠とは朝から夕方までは灼熱の太陽と気温で、夜以降は寒い気温に変わる気候の特有があるのだが・・・・・。

 

「この世界でも変わらないんだなー。ただ・・・・・気温50度って、夜になるとマイナス0度以上って何だよ」

 

甲板の操舵を握る一誠の視界内に神々の姿はなく、冒険者達も目的地に着いた途端に船内へ避難するほど殆どいない。初めての砂漠の厳しさを体験して、体感したことがない暑さに参ってしまったのだ。

 

「暑くないのですか・・・・・?」

 

「小さい頃、砂漠のど真ん中に一年間だけ過ごしたことがあってな。こんな暑さは久しぶりだけどまだ大丈夫みたいだ」

 

汗一つ浮かべていない男に対して額に汗で水色(アクアブルー)の前髪を張り付けている少女。この対極的な違いの差は暑さに慣れてるかそうでないかの決定的な違いで、彼女の精神が削がれているのをこの熱中にあてられた苦しげな表情を見れば一目瞭然であった。

 

「中に入ってればいいのに」

 

「いえ・・・・・こちらからお願いしてこの暑さの中で運んでくれているというのに、あなた一人だけ残すなんて・・・・・」

 

「律義すぎるんじゃないか。何時か過労か心労で倒れるぞ」

 

そんな彼女、アスフィの頭上に防熱の結界と冷風を送る魔方陣を張ってやった一誠の気づかいに目を丸くする。無詠唱どころか魔方陣を展開したそぶりを一瞬たりとも見えなかった、見せなかった事に対して異世界の魔法を驚いた。

 

「この魔法は、いつの間に・・・・・」

 

「倒られたら困るからな」

 

「・・・・・ありがとうございます。しかし、あなたも自分にもしないんですか?」

 

「しない」

 

操縦している最中でも風が吹いてくる。ただし、熱が孕んだ熱風だ。真正面から受けても熱を感じなくなったアスフィと違って、真紅の長髪が風にさらわれてなびかせる一誠は防熱対策をしてないので直接受けてるのだ。心配するな、気にするなと風体で操縦する立ち姿は頼もしく見えるが、時と場所によってそうじゃなくなる時がある。今がまさにそれだ。アスフィは本当に大丈夫なのかと腕を伸ばして、触れた途端。人の体温とは思えないほど熱が宿っていたことを指先で感じた。

 

「ほ、本当に大丈夫なのですか!?体が物凄く熱いですよ!」

 

「耐熱のフライパンが直接火に当てたら火傷するぐらい熱くなるだろ」

 

「あなたの身体は鉄ですかッ!馬鹿なのですかッ!」

 

馬鹿ってひでぇー、とこぼす男の背中に寄り添ってせめて冷風だけでも感じさせたいアスフィの行動は一誠を不思議がらせる。

 

「何してんだ?」

 

「私に施してくれた魔法をあなたにも感じさせるためにしています」

 

「一人分しか効果がないのに背中にいられても涼しくもなんともないぞ。―――せめて真正面から抱きしめてくれないと効果もないし」

 

くすぐられた悪戯心が、アスフィが後ろにいて顔を窺えれないことをいいことに邪な笑みを浮かべる一誠は、そう言った。本当にするのかどうか試す言葉を送って反応を窺う楽しみさを浸っていようとしたら、無言で舵輪に伸ばしている両腕の間に入り込んで一誠の視界は水色(アクアブルー)でいっぱいになった。

 

「これで、いいでしょうか」

 

「ん、さっきよりは気持ちよくなってきた」

 

さり気なく冷風を発生する魔方陣を大きくして涼む。その間、目的地にたどり着くまでアスフィは一瞬たりとも一誠を見上げなかった。

 

 

「―――?―――!」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・?」

 

「―――――」

 

「――――!」

 

 

数匹の生物の背にまたがる人影が騎空挺を目撃していた。その後すぐに踵を返えして去った。自分達の崇める『神』の下へ戻るために。

 

 

砂漠のど真ん中に高さ百五十Mの四角錐状の巨石が築き上げられていた。そしてそれを中心にして円形に幅広くある石造りの建物も『天然の巨大な岩の地盤』の上に設けられて一つの国として成り立たせていた。

 

「空飛ぶ奇怪な物を見たと?」

 

「はっ、とても信じられない光景でした。最初は蜃気楼に見せられた夢幻かと目を疑いましたがあれはまさしく本当に空を飛んでいたのです」

 

間隔等に天井を支える石柱がある謁見の間石造りの神座で腕を組み訝しむ。褐色の肌で隼の顔の仮面を被った男神は、眷族の虚言のような言葉は嘘ではないために頭を悩ませる。何故そんなものがこの砂漠の領域しいては己の領地に現れたのだと、問題を抱えている時に招かざる客の対応をしなくてはならないのである。

 

「その奇怪な物は今どこに向かっている」

 

「方向を変えてなければ、古代遺跡に進んでいるかと」

 

「・・・・・あそこか。だとすれば他の神連中も奇怪な物を見つけている頃だろうな」

 

ならばこれからどうするべきか模索する男神は結論に至ると立ち上がる。

 

「目的は不明だが、遺跡に向かっているというなら我らも動くぞ。奇怪な物が無人で動いているはずがない。誰かがいるならば調べる必要がある」

 

 

 

 

「お―――運がいいな。あれかな?」

 

暑くて強い日差しを受け続け二時間が過ぎた頃にそれを見つけた。ヘルメスでもどこにあるのかわからないという曖昧な場所に、金字塔の建造物が肉眼で捉える距離まで近づくと船内にいる全員に向けて「目的の建造物を見つけたぞ。もう少しで着くから準備を整えておけよ」と拡声器で告げる。十数分後、百五十Mも高さがある三角形で石造りの金字塔、ピラミッドの脇に着陸して渡橋を甲板から降ろす。何時でも降りれる準備が整ったがまだ誰も甲板に現れず、少し待っていると火精霊の護符(サラマンダー・ウール)で頭まで身に包む神々と眷族達が漸く現れた。

 

「うへぇ・・・・・めっちゃくちゃ暑苦しいぃ~」

 

火精霊の護符(サラマンダー・ウール)を着ていても息をするたびに体の中が熱くなるよ・・・・・イッセー君。船の中にいてもいいかい?」

 

「どこにいても一緒だぞ。騎空挺を停止させるから中まで伝わってこの暑さは伝わってくるぞ。あの金字塔の中に入れば外にいるよりは大分マシになる」

 

「・・・・・この世界にも存在するんだね。ピラミッド」

 

フード付きの外套を身に包んでる女性が感慨深げに石造りの建造物を見上げる。初めて実物を間近で見ることになった彼女の感想の言葉に釣られて他二人の男性達も似た心境を抱いてピラミッドを見つめる。

 

「元の世界だったら、ここはエジプトだよな」

 

「ピラミッドがあるのにスフィンクスの石像がないな。あったらちょっと観光気分になれたんだが」

 

続々と甲板から降りてピラミッドの石の階段に足を踏み入る。

 

「さて、不十分な情報でここまで来たけどさ。入口を見つけないことには探索出来ないよなぁ」

 

「そこはイッセー君の魔法の力でお願いするよ」

 

「・・・・・報酬は高くつくからな?」

 

分裂する一誠達が散らばって上から下まで入口を忍者のごとく移動して探り出す。その間、魔方陣を展開してピラミッドの立体図を浮かべ待つこと数十秒。一誠の耳元に展開した小型の魔方陣から入口の発見の報告を受け、立体図にその場所の座標を特定すれば移動を開始する。

 

「この中って何があるのか判る?」

 

「俺の知る限りじゃあ太古の王族の墓とか王の間みたいなのしかないぞ。宝なんて無いし、逆にこのピラミッドはこの砂漠の地に住む人間達にとっては神聖なものでもある」

 

「それって、無断で近付いたらダメだし入ってもダメってことだよね・・・・・?」

 

「ここを管理している人がいたらの話だ」

 

ピラミッドの裏側に回り、入口の所に待機していた分身体の一誠がいる方へ赴き、洞穴のような入口を視認するとヘルメス達を先頭にして探索を開始する前に。

 

「あ、そうだ」

 

「どうしたんだい?」

 

「もしかすると罠があると思うから下手に壁に触れたりしない方がいいぞ。それと足元にも注意してくれ」

 

よくある冒険アドベンチャーのお馴染みな設定のひとつを挙げた。冒険者達は当然とばかり静かに気を引き締めた。

 

「あーそう言うのも気を付けなきゃならないのか」

 

「そうだな。でも、俺達はただの人間じゃないから気を付けてれば大丈夫だろ」

 

転生者二人組が朗らかにそう言った。絶対に罠があるとは限らないので、一誠も警戒しながら中に入ることを催促した。入り口から入ると直ぐ階段があり上る。先頭はアスフィとルルネ。中間は一誠とアスナにアイズとアリサとラトラ、後方は海童剛と大和大輔、ヘルメスとロキの他アマゾネス六人。間隔を開けて上る階段の横幅は大人五人が横に並べて歩けれる広さで、天井は石造りの天壁で塞がっている。

 

「ルルネ、地図化(マッピング)を忘れずに」

 

「はいよー」

 

腰の小鞄(ポーチ)から羊皮紙と筆を取りでして上に進む階段の構図を書き記していく。

 

「へぇー、そう言う技術があるのか便利だな」

 

「ええ、ダンジョンでは必要のないものですがね」

 

「いやいや、『上層』『中層』だったらそうだけど、『深層』域はギルドが保有してる『深層』の地図は完成されてないから、ルルネのような地図化(マッピング)ができる冒険者は需要が高いだろ?彼女を『深層』に連れて地図化(マッピング)を完成させたら儲かると思うけどな」

 

何かめっちゃくちゃ高い評価をされちゃってるー!?とルルネの心は動揺しっぱなしだった。

 

「それだけでルルネを高く評価するのは何故ですか?」

 

「何故って普通に役立つ技術(スキル)を得ているからだけど?」

 

それ以外何があるんだと、言い返されると少し困り顔を浮かべるアスフィは答え辛そうに「そうですか」と相槌を打った。二人の話にアスナも質問した。

 

「イッセーって女の人を褒める時って能力がある人だけ?」

 

「純粋に思ったことを言ってるだけだ。例えばアスナを褒めるところを挙げれば三十分は軽いぞ?言ってあげようか」

 

「い、いいよ言わなくてっ」

 

「そうか。逆に俺だったら―――アイズ、アリサ、ラトラ。俺の凄いところは?」

 

小さい三人の女の子達に話しかけたら直ぐに返ってきた言葉が予想通りだった。

 

「強い」

 

「料理上手」

 

「格好いいです」

 

「って、これだけで済む」

 

苦笑いするしかできないアスナ。本人は不満ではなさそうだが、十秒も満たずな三人から聞いた褒め方にそれだけで終わらすのは少し寂しいじゃないかなって労いの言葉をかけようとした時、アスフィ達の足が止まった。

 

「・・・・・行き止まりです」

 

「なぬ?」

 

「本当だよ。この先は天井に塞がってて進めないよ」

 

アスフィとルルネが頭上の天井を触れてもびくりともせず、行き止まりであることを示す。前の壁面ではなく真上の天壁にこれ以上の移動が阻んでいることを。ならこの道はフェイント、無駄に作られたものか何か仕掛けがあるのかと勘繰る。

 

「他に入り口は無かった。だとすれば隠された入り口でもあるのか?」

 

後ろから追従してくるロキ達も足止めをすることになり、一度外に出てみないかと意見が挙がる。確かにここにいても仕方がないと降りるよう促しの言葉を発しようと口を開きかけた矢先・・・・・ロキが壁に凭れるためにすぐ横の壁の一部に触れ、腕が沈んだ。その瞬間を、瞳を凍結させたアスナがしっかりと見ていた。刹那。天井や床、壁が激しく揺らぎ始め、塞いでいた天井が開き階段の段差が板のように滑りやすく斜めになった。そして、後ろから持ち上げるように角度が変わる階段に姿勢を崩されるだけでなく流れ出てくる膨大な水が流れ込んできた。

 

「う、嘘だろぉっ!?」

 

「どわぁっ!」

 

後方にいた大和大輔達が最初に飲み込まれ、続いて一誠達も巻き込まれる形で濁流と化した水と一緒にどこかへと流れ出た先は奈落の底を彷彿させる程の真っ暗な闇であるが、闇の中に紛れてる夥しい石槍の群集がズラリと生えていた。太古の時代にこのピラミッドに侵入し、罠を作動してしまったと思しき人骨が大量にあった。落ちる最中、落とし穴全体に魔方陣が浮かび上がった。程なくして全ての水が流れ落ちると魔方陣の上にずぶ濡れ状態の一同がいた。

 

「し、死ぬかと思った・・・・・!」

 

「罠を作動しないと進めないってなんて鬼畜な!」

 

悲鳴が聞こえたり文句が聞こえたりするが、全員己が無事でいることだけが何よりも実感して安堵している。

 

「ヘルメス、これからどうする」

 

「うーん、一度キミの船に戻って着替えてまた挑戦したらさっきのように罠を作動しないとダメなら、このまま進んだほうがいいかなって思うけど?」

 

「なら、服を乾かすか」

 

足場となってる魔方陣が光り輝き、一同の服から水蒸気となってあっという間に水気が無くなって乾いた。靴と靴下まで乾いたから大輔と剛の転生者から呆れが籠った一言を送られた。

 

「「お前、転生者でもないのに本当チート過ぎる」」

 

「魔法・魔術に関して俺より凄い人なんて元の世界に帰ればいくらでもいるぞ」

 

「そうなのですか。それは凄いとしか言えませんが、先に進める入り口を探しませんか?」

 

アスフィの指摘に改めて行動を開始するまでもなく直ぐ入り口は見つけた。あの大量の水がどこに排水されたのか気になって下に降りてみると人が通れそうな入り口の空間を発見できたからだ。念のために上の方も調べてみたら何もない上に、水と一緒に放り込まれた外に繋がっていた通路は閉じられていた。

 

「こりゃ、下の方に行かないと進めれないか」

 

「そうみたいだね。行ってみよ?」

 

というわけで、下の通路へと進んでみる一行はその後数々の罠に陥るのであった。

 

 

―――スカラベの大群。

 

ヘルメスが罠のスイッチを押し、通路の奥から黒光りする昆虫の大群を呼び寄せた。

 

「ガチで人食い虫の罠に引っ掛かるかよ!?店主、炎の魔法で焼き払え!」

 

「こんな狭い通路で炎を使ったら酸素がなくなるだろ!てか、俺が知ってるスカラベってフンコロガシという和名が充てられて紹介された虫だったんだが?」

 

「フンコロガシィ!?現在進行形襲い掛かってくるあの虫はどうみても人間に危害を加える気満々だぞ!?」

 

 

―――落とし穴。

 

大和大輔が急に姿を消したのを同じ後方にいたヘルメス達が直ぐ一誠達に声を掛けた。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

「ヘ、ヘルプミー!」

 

 

―――大岩。

 

螺旋を描く通路を歩いていた時に突如空間いっぱいに転がってくる大岩と衝突するも、一誠や大和の手を出さずともアルガナ、バーチェ、ベルナスやエルネアが買って出た。

 

「並の人間だったら圧し潰されて死ぬオチだけど」

 

「アルガナ達が殴ったり蹴ったりしてくれてるからそんなオチのフラグの旗はこっちから折ってる」

 

「お姉さま達凄い!」

 

「ガンバレー!」

 

 

―――圧縮。

 

何の変哲もない何かの通過点の部屋に入ると出入り口が閉じて、振動と共に迫る天井と壁。

 

「天井と壁が迫ってくる!?」

 

「ん、粉砕」

 

「上は店主で横はおっかないアマゾネス達。何だろうこの安心感は・・・・・」

 

 

―――宝物。

 

地下に進む一行が石造りの隙間から差し込む太陽の光に当てられて照らされる見たことがない五Mもあるダイヤモンドを発見した。

 

 

「アスフィ、あそこに宝があるよ!しかも巨大なダイヤモンド!」

 

「あれはあからさまな罠が仕掛けられてるだろうから触れたら負けだ。ほら行くぞ」

 

「「うんうん、持ったらピラミッドが崩壊というベタな仕掛けだろうしな」」

 

「そ、そんな~(ドナドナ)」

 

 

―――弓矢。

 

壁の穴から飛び出す無慈悲な矢を掻い潜らなければいけない場のはずが、氷の世界と化した。

 

「まぁ、これは壁に氷を張ってれば問題なく進めれる寸法よ」

 

「罠としての意味を無くすお前って奴は・・・・・」

 

 

―――火責め。

 

床中から燃え盛る火を見て、空腹もしてきたことだからと周りの皆を圧倒させる食事の支度をし始め出す一誠だった。使う意外の火を魔方陣で防ぎ、石の土台に金網を乗せては肉と野菜を置いて焼き上げるその姿に突っ込みを入れる大輔。

 

「うぉい、こんなところで焼き肉パーティしてていいのかよ!」

 

「腹減ったんだからしょうがないだろ?いらないなら食わなくていいぞ。特上カルビなのに残念だ」

 

「いただくよ!」

 

 

―――木乃伊。

 

かなりの年月を経てボロボロな棺桶が軒並みに保管されている場に足を踏み入れてしまった者達に、棺桶から現れる包帯だらけの木乃伊が襲い掛かった。

 

『『『アアアアアア・・・・・・ッ』』』

 

「モンスター?それとも本物か?」

 

「どっちでもいいから早く倒そうよ!」

 

 

―――巨大振り子のナイフ。

 

風を切る音共に止まらない巨大なナイフの振り子を前にしても、問題ないとばかり掠りもせずに前へ進む幼い子供達。

 

「アイズちゃんとアリサちゃんにラトラちゃん。余裕で刃物の潜ってるけど冷や冷やするよ・・・・・」

 

「ラトラの尻尾が切断されるようなことが起きたら俺ァこのピラミッドを粉砕してやるぞ(真顔)」

 

 

―――再びスカラベの大群。

 

「「またでたぁー!?」」

 

「さっきと違って物量が桁違いだ。そろそろゴールが近いか?」

 

炎嵐を巻き起こして一瞬にしてスカラベを焼失させる。

 

 

―――???

 

 

石造りで敷き詰められていると思われたピラミッドの中、東京ドームの一個分の広さの中心部に宮殿が鎮座していた。何でこんなところに宮殿が?と思うも調べてみないことにはわからないという雰囲気で一本道に進み侵入する。

 

「当り前だけど、人が住んでいる気配はないな」

 

「この大きな宮殿だけしかないってこと?」

 

肯定と頷く一誠。

 

「ピラミッドに入ってからモンスターらしきモンスターと遭遇していないし、砂漠に住んでいた人間達が完成させてからどうしていたのかはわからないけど、少なくとも日用生活に使われていた道具が無かったら一度もこの宮殿に住んでいないことが明らかになる。ま、とりあえず調べてみよう。それが終わればヘルメスからの依頼は達成だ」

 

手分けして見て回ることにした一行は、何かを見つけたら直ぐに連絡し合うことにして散らばる。無人の石造りの宮殿の隅から隅まで歩き回り、気になるものがないか調べていくと一つだけあった。高さ二M、幅一Mほどの板状の石が八枚。円を描くように配置されていた。場所は小高い階段の上に石造りの椅子がある空間の中心。

 

「これって、ストーンサークル?」

 

「それしか見えないが、何でまたこんなところに?」

 

「何かの意味があるんじゃないか?」

 

「その意味ってなんだよ?」

 

うーん、と異邦人と転生者組が揃って首を傾げ悩む。

 

「あのでっかいダイヤと関係あったりしないか?ゲーム的だと必要な道具を揃えないとシナリオが進まないことってよくあるんだけど」

 

「仮にそうだとして、このストーンサークルとどういう関連性がある?」

 

「謎だなぁ」

 

「うーん・・・・・」

 

悩む彼等彼女等が分からないのであればヘルメス達も解らないので、他にも何かないか調べることにしていた中。ラトラが興味本位でストーンサークルの石板の一つを触れてみた。すると板が沈んだ。罠かとばっと飛び上がって一誠にしがみついてもうんともすんともしない。

 

「ラトラ、今押したのか?」

 

「は、はい。罠かと思いましたけど何も起きませんでした」

 

彼女の言葉を基に改めて一誠も踏んでみると、一つだけでは何も起きず今度は両足で踏んでみても結果は変わらなかった。ラトラを抱えながら「ふむ」と思案顔で予測する。

 

「一つ二つだけじゃ作動しないなら、八枚全部踏まないとダメってことか?」

 

「「罠だろ」」

 

「でも、やってみる価値はあると思うよ?もしも宮殿かピラミッドが崩壊する罠だったらここからイッセーの魔法で脱出すればいいし」

 

警戒する大輔と剛に「それもそうか」と結論付けさせて、一誠は皆を呼ぶ。全員が戻ってきたところで一誠達は両足をストーンサークルに乗せてタイミングを合わせて踏んで押した瞬間。石座があるところが重音を鳴らしながら沈んでいく。

 

「まだ続きがあるって事か」

 

石座の方へ向かおうとストーンサークルから足をどけた矢先、石座がまた重音を鳴らしながら元の高さに戻っていく光景に、「踏み続けないと作動しない系かよ!」と剛の突っ込みの言葉が口から飛び出た。

 

「あのダイヤってこのための物だったりするのか・・・・・?」

 

まぁ、必要はないけどな。四体分の分身体を作って自分達の代わりに踏み続けてもらって、石座のところへ向かい見つけた地下に続く隠し階段を伝って降りていく。のだが、直ぐに石造りの扉と相対して押し開くと―――。

 

黄金の山が皆を出迎えるような展開は無かった。真っ暗な空間に魔法で灯りを確保して見渡す。

 

「何もない?いや、何か刻まれてるな」

 

隠し部屋の中心部に近づき、皆で見下ろすと床に刻まれているそれは魔方陣のようなものであると認識する。

 

「魔方陣?ストーンサークルといいなんでこんなものが・・・・・」

 

そう言いながら触れた途端。一誠の手に反応しだした刻まれた魔方陣が光を放ち、光の中から人影が二つ浮かび上がった。一人は十代後半の黒髪に黒めの若い男ともう一人は同年代と思しき亜麻色の髪の女。その二人がしてやったりとした悪戯っ子の笑みを浮かべ口を開いた。

 

『おめでとう!数々の罠を突破した冒険者達よ!褒美に金銀財宝ざっくざくな黄金の山をプレゼント―――としたいところだがそんなものはこの中にはない。ハイ残念でしたー!』

 

『でも私達が全力で遊び気分で創った二つ目のダンジョンを攻略した貴方達は凄いと思ってるわ。もし途中で見かけたダイヤモンドを手にしたらピラミッドを中心に直径五十Kの大爆発が起きてたからねー』

 

ゾッと顔を蒼ざめる一同は、本当にあのダイヤを手に入れなくてよかったと心底安堵で胸を撫で下ろした。

 

『このピラミッドを攻略した皆さんにあのダイヤをお譲りするのがせめての報酬よ。この魔方陣に触れた魔力の持ち主が大爆発を起こすための罠を解除したから安心して持ち帰っても大丈夫よ』

 

『因みに何でこんなピラミッドのダンジョンを作ったのか理由は秘密だぜ。教えたらつまらないもんな』

 

別に興味ないことだがダイヤの件に関してはそれならば貰い受けようと思う。

 

『さて、長々と語るのは好きじゃないから色々と教えておいてやるぜ。信じるかどうかはお前達次第だ。まずは一つ、この世界にはもう一つの世界がある。その世界は「空」にある』

 

「は?」

 

『もしも空の世界に行けれたらダイヤを割って私達が集めた「空図」というものを頼りに空の果てに進んでみるといいわ。とっても楽しい冒険になるから』

 

『二つ目は世界で唯一と思われたダンジョンが―――実はもう一つ存在していたことだ』

 

「「は?」」

 

『その二つ目の、というよりもダンジョンの「深奥層」の先、100層目のところに下へ続く階段を見つけてね?彼と挑戦して全階層を踏破したら別の場所に出られたのよ。多分地球の裏側じゃないかしら。流石の神々も地球の裏側まで見てないと思うしモンスターがどこから出てきたのかもわかっていないと思うわ』

 

『でも安心してくれ。彼女の魔法で二つ目のダンジョンの入り口は永久的に封印されてるからモンスターの地上への進出は食い止められてる』

 

ヘルメスとロキへ一斉に視線が向けられその視線を一身に浴びることになった二柱の神は「そんな事実は知らない」と激しく首を横に振った。

 

『しっかし100層目から下は本当に地獄だったぜ。打撃が効かないモンスターがいれば魔法も効かないモンスターもいたし、なによりダンジョンを生み出した―――あいつも手強かったし』

 

『流石に倒しきれず逃げられちゃったしね。今となってはいい思い出ね』

 

またヘルメスとロキに視線が向けられ認知を否定するそぶりを見せる。

 

『さて最後の三つ目は―――彼女が編み出した魔法、異世界へ繋げる次元と時空の魔法だ。それを君らにも伝授しよう。ただし、その異世界は俺達が生まれ育った世界だから侵略仕様ならば撃退するつもりだから覚悟しろよ?』

 

『この魔法はかなり膨大な魔力が必要として安易に扱ってはいけない危険な物よ。それでも欲するならば手を伸ばしてちょうだい』

 

魔方陣の中にいる少女が手を伸ばしてくる。一人を除いて皆が一人の男に視線を送ると、彼女の手を一誠は握ったらバチッ!と音が鳴り、本人しか分からない感覚が伝わった。

 

『受け取ってくれたかしら?何分この状態で魔法を伝授する方法を実現させるのに苦労したから、問題なく与えられていてくれたら安心するわ』

 

『俺達がそっちの世界から去って何千何万年も経ってるか分からないが、ずっと待っているぜ』

 

『ああ、それとこれは個人的なお願いだけど聞いてくれるかしら?もしもオラリオに行くなら私達の主神ウラノスに「座りっぱなしは身体によくないからたまには動かないとだめよ」って伝えてね』

 

『『それじゃ、異世界でまた会おう!さらばっ!』』

 

役目を果たした二人は消失する魔方陣の輝きと共に消え去った。

 

「ウラノスの子供ってことは千年も前にいた眷族ってことになるんやけど。どないしてこんな地の果てにいたんやろうか?」

 

「さぁーね。でも、あの神の眷族と対面することになるなんて驚き半面不思議な気持ちになったよ」

 

「・・・・・イッセー」

 

ロキとヘルメスの会話を脇にアスフィの目は己の手を見つめる一誠へ見つめる。一誠はそうして口元を薄く緩めて微笑んでいるように見えるので彼女も不思議に感じた。

 

「どうしたのですか?」

 

「俺もあの二人の姿を見れて嬉しいと思っただけだよ。おまけに制限付きの魔法じゃなくて無制限の魔法を受け取れたから来てよかった」

 

真上にかざした一誠の手に巨大なダイヤモンドが虚空からパッと出てきて手中に収めた。

 

「さて、ヘルメス。今回の探検はこれで終わりか?」

 

「ああ、付き合ってくれてありがとうね。それと報酬の件なんだがその宝石を君に譲るってことでいいかな?」

 

「ん、そうしてくれるとありがたい。この中身は騎空挺がないとダメだからな。それじゃ、地上に戻ろう」

 

と、そう言った一誠の目の前に床の魔方陣が再び輝き出して一人の少女の姿だけが浮かび上がった。

 

『言い忘れてた!最後にこの映像が消えたら地下の水脈が飛び出してくる仕掛けをしてるから三分以内に脱出してね!地上に戻るための転移魔方陣を用意するから!逃げ遅れることになったらピラミッドごと空に吹っ飛ばされて粉々になるから気を付けて!』

 

・・・・・・はっ?

 

彼女が呆ける一行を目の前に姿を消した途端。宣言通りピラミッド全体が激しく揺れ出し始めたので度肝を抜かされる。

 

 

 

 

同時刻。ピラミッドの外では四方から砂漠に永住する神々の眷族達が集っていた。定着している奇怪な乗り物を調べたいが光る膜に阻まれて侵入はできず、ピラミッドの中に入ろうにも過去の経験上で眷族を無駄死にさせるわけにもいかず手をこまねいていた。そうして立ち往生してしばらく流れる時に身を任せているしかできなかった時に地震が発生して砂漠が揺れる。

 

「何だ、この揺れは・・・・・!」

 

「神よ、この場から離れた方がよろしいかと!」

 

「そうしよう。全軍、急ぎ反転して撤退だ!」

 

震度が少ない場所へ全速力で駆ける一柱に呼応して他の神々も全力でピラミッドから後退する最中。船がゆっくりと浮上し始めて空へと逃げるように地上から遠ざかる光景は唖然ものだったが、それ以上のことが起こった。さらに激しく揺れ出すピラミッドが最高潮に達した地鳴りの後、逆流する水の柱の大瀑布によって空へと打ち上げられた。全員大きく目を張って明後日の方へ真っ逆さまに落ちる巨大な石造りの建造物の光景を見ながら、顔や体を濡らす液体は水であることを認識する余裕もなく何時までも呆然と立ち尽くした。

 

―――数年後。ピラミッドがあった場所は他のオアシスよりも見たことがないほど広大な湖の塊として出来上がっていて、海まで続く川となりその湖の周辺を囲むように立ち並ぶ家々に住む人達の間で、湖を生み出した空飛ぶ船のことを『水神の船』と呼び湖は『水神湖』と名付けたことを一誠達は再び訪れるまで知る由もなかった。

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