ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
四人は婚儀が終わるや否や光と化して一誠達の目の前で消え、元の世界に送還された。―――しかし、得るものはあった。転生神でも抗えない∞の魔力で安易に異世界へゲートを繋げれるようになった。無論、元の世界でも。その事実を目の当たりにした一誠達この世界に来てしまった異邦人は喜ぶ間も無く素朴な疑問をぶつけられた。
「帰っちゃうの?」
アイズの一言により一斉に一誠へ視線が集まりだす。誰よりも元の世界に帰ることを望んでいた男はとうとうその手段を確定したのだ。いつ帰っても問題はないが、残された者達は不安と寂しさ、悲しみを抱いて生きていかなければならない。
「まだ帰らないよ。アイズ、それにアリサを鍛えなくてもいいぐらい強くしない限りはな。そういう約束だったろ?」
「・・・・・うん」
「だから約束をほっぽって、他の異邦人達を差し置いて先に帰るつもりはない。異世界に繋げる魔法を得た俺の役目や義務みたいなもんだからな。まだまだこの世界にいる。安心してくれ」
金髪の頭に手を置いて撫でる一誠に抱き着いて小さく頷く。絶対に帰ってほしくないと意思表示をする少女を慈愛を込めて微笑んでから表情を変える。
「さて、明日は調べなきゃならんな。フレイヤ、ちょっと協力してくれるか?」
「何をするつもりなのかしら?」
「アイズ達が不可抗力で
「私を緩衝材にしたいのね。高くつくわよ?」
「可愛いまだ眷族の願いを叶えるのも主神の務めだろ?」
「可愛い、ね・・・・・じゃあ私の望みを叶えれるなら手伝ってあげるわよ」
近づいてソプラの声を殺し一誠の耳元で何かを囁く。―――露骨に一誠が顔を顰めた。
「それ、なのか・・・・・?」
「一度してほしかったから丁度いい機会よ。簡単でしょ?」
「・・・・・男としての尊厳が危ぶまれるなぁ」
しかし、穏便に事を済ませるには神の存在が必要だ。フレイヤの要求を呑み翌日【ディアンケヒト・ファミリア】へアミッドと一緒に訪れ、要件を言う。
「なんだ、儂に何か用か。フレイヤがここに来るとは・・・・・まさか、儂のアミッドを!?」
「ある意味当たっているわディアンケヒト。だけど、ちょっと特殊な事情があるの。話を聞いてくれないかしら」
「特殊な事情だと?」
実は―――と背中に刻まれた
「・・・・・ア、アミッドよ。お前、【フレイヤ・ファミリア】に
「それを確かめたいからここに来たのよ。もしもそうじゃなかったら御の字でしょ?」
フレイヤの一言でアミッドを連れてどこかへと行ってしまったディアンケヒトを待つこと数分後。絶望と怒気を孕んで男神が戻ってきた。
「どうだったかしら?」
「・・・・・儂の眷族ではなくなっておった。
「そう、じゃあ一年後まで待たなきゃならないわね?それと、この子を責めないであげてちょうだい。希少スキルの効果でそうなってしまったのだからお互い不可抗力でしょ?それに貴方と私も直接
ぐぬぬぬぬっ・・・・・!と歯を噛みしめんばかり納得はできないと一誠へ睨みつける。
「小僧、儂に黙って隠れてアミッドと関係を結んでいたとはどういう了見だ。貴様を信用してこそアミッドを預けたというのに!」
「一緒に住んでいると自然とそうなってしまうんだ。というか、俺の背中に刻まれた【ステイタス】もそれに関するスキルを見ただろ?恋愛ぐらいは許してくれると助かる」
「ならーんっ!儂からアミッドを奪い、膨大な利益をかすめ取られては我が【ファミリア】の損失は計り知れんのだぞ!?貴様、その膨大な損失を支払うことができるのか!?」
不可抗力とは言えども大事な眷族を一人引き抜かれたようなものだ。【ファミリア】の主神として憤慨するほど許すまじき!と損害賠償請求を訴えるディアンケヒトに一誠は訊いた。
「膨大な損失ってどのぐらいなんだ?」
「は?」
「アミッドを失うことで毎年【ファミリア】の利益の損失はどれぐらいなのかと質問しているんだけど。教えてくれるなら今回の件、慰謝料として払うよ」
「・・・・・」
一瞬何を言っているのだこの者はと思ったが、もう一度確認するように訊き返されて呆けるも自分の中でアミッドを失う利益はいかほどかと思考の海に飛び込んだ。
「・・・・・億はくだらん」
「億?本当にこの【ファミリア】は毎年億以上の利益を得ているのか?
「儂を信用できないのか!」
「言葉だけじゃ神でも信用できない。結果を見せてくれないと。というわけで帳簿を見せてくれない?」
朗らかに手を差し伸べて提示を求める一誠に誰が帳簿を見せるものか!と一蹴しかけたディアンケヒトの後ろから応じたのが―――紙の束を持ってきたアミッドだった。
「どうぞ、ご確認を」
「アミッドォッ!?」
勝手に帳簿を渡す白銀のヒューマンの少女に信じられないものを見る目が酷く見開いていた。フレイヤと一緒に帳簿に記されている毎年の利益の額を確認する男の顔は怪訝になった。
「数千万の利益は得ているみたいだけど、毎年一億以上ではないんだな。ぼったくろうとしたのか」
「ディアンケヒト?嘘ついたのね?」
「ディアンケヒト様・・・・・」
一誠に嘘を吐き、騙そうとした。ジロリと睥睨する男と冷たい微笑を浮かべる銀髪の女神、虚言を述べた主神に二人へ申し訳ございませんと頭を垂らす
「ぐっ、わ、儂の中ではアミッドの価値は一〇〇〇〇〇〇〇〇ヴァリス以上なのだっ!ぼったくりではない正規の価値だ!」
「ふーん、そう・・・・・人を値段で価値を神が決めつけるんだ」
冷たい眼差しでディアンケヒトを道端の石ころを見る目で視線を送る。
「そんな神と付き合う義理はないかもな。今日を以って契約を破棄させてもらうよ」
「なっ、破棄だとぉっ!?今月の
「勿論納品はする。破棄するのはその後だ。―――迷惑料の一〇〇〇〇〇〇〇〇ヴァリスも一緒に最後の納品にするがな」
踵を返して言う一誠。フレイヤもこの場を後にしようと遅れず付いて行く。後ろでディアンケヒトの声が聞こえるが無視して次の場所へ足を運ぶ。西のメインストリートを外れた少し深い裏路地に本拠地を構えてる【ミアハ・ファミリア】にも訪れた。日当たりが悪く軽くじめじめした場所にポツンよ建つ一軒家には、五体満足の人の体を模した【ファミリア】のエンブレムが、看板のように飾られているその場所に数人の冒険者達が列を作っていた。彼等は皆、画期的な体力と魔力を同時に回復できる
「イッセー、それにフレイヤ?二人揃って我が【ファミリア】に何か?」
「んと、実は・・・・・」
ディアンケヒトと同じ説明をして確かめてもらう。最初は怪訝な気持ちで奥の部屋へナァーザを連れて行って数分後、ミアハが当惑した色を顔に浮かべて戻ってきた。
「ナァーザが私の眷族ではなくなっていた。一体どういうことなのだ?」
「やっぱりそうなってたか。それは俺のスキルのせいなんだ」
「スキル?」
ミアハに【ステイタス】を確認してもらったところ、酷く驚かれた。
「これは・・・・・こんなスキルが存在するというのか?これも下界の可能性というのか」
「今回については不可抗力でも申し訳なく思ってる。一年後
「構わないがひとつ訊いてもよいか。ナァーザは一体誰の眷族になっておるのだ?」
「多分、十中八九俺の眷族になってると思う。主神が存在しない【ファミリア】を結成したから」
「主神が存在しない【ファミリア】?神の存在は冒険者の子供達にとって必要不可欠な存在であるはずだが」
その疑問を自作した『ステータスプレート』を見せて説明する。そのプレートにはミアハも興味津々であり驚くべきものであった。
「イッセー、神の存在意義を揺るがすものを作ってしまったのだな」
「そう思うよなやっぱり。まぁ、これがあるからこそ主神がいなくても【ファミリア】を結成できるわけで、ナァーザは俺のスキルによって自動で勝手に
「謝る必要はない。寧ろ教えてくれてよかった。そなたに非がないこともわかったし責めるつもりもない」
謝意を受け止めるミアハに感謝の言葉を述べ、要件は終えたと『青の薬舗』を後にする一誠とフレイヤ。二人を見送るまでずっと黙っていたナァーザが口を開いた。
「ミアハ様、私はあの人の眷族になっているのですか?」
「うむ、そのようだ。我々の恩恵があそこまで発揮するとは驚く半面、そなたとイッセーが相思相愛であったとは意外であった」
「・・・・・っ」
顔が果実のように赤くなったのを知覚して俯く己の眷族の頭に優しく手を置いた。そして優しい笑みを浮かべるミアハはこう言葉をかけた。
「私はそなたとイッセーをずっと見守るつもりだ。今ならば隠していた自分の想いを打ち明けてもよいだろう。今のそなたは私の眷族ではなくなってしまっているが、イッセーに憧憬を抱いているのであれば応援するぞナァーザよ」
主神公認の恋愛の了承を得てしまった。後日、ディアンケヒトに一〇〇〇〇〇〇〇〇億ヴァリスではなく三〇〇〇〇〇〇〇〇億ヴァリスも慰謝料として用意し、最後の納品も送り正式にアミッドを眷族として迎え入れた。さらに『幽玄の白天城』に一人の獣人が加わった。
「・・・・・なんでお前がここにいる」
「私は契約でイッセー様に
「っ!?」
「ですが、今の私はイッセー様の眷族です。『同期』の一人としてよろしくお願いしますナァーザ様」
「・・・・・お前には絶対負けない」
「ええ、こちらも負けるつもりは毛頭もございません」
バチバチと見えない雷が二人の眼から迸り火花を散らす
「イッセー、昨日のラキア王国の神アレス達の処遇はどうしたのだ」
「ああ、二度とオラリオに喧嘩を吹っ掛けないように半ば強引に同盟を結ばせた。その際、ラキア王国に所属しているクロッゾっていう貴族と王族の一人を人質としてオラリオに住まわせている」
「ギルドはそれを認めているのか?」
「そのギルドの公認であり黙認されているんだよ俺の言動は。ギルドの真の王の認可も得ているから認めてもらわなくても構わない」
何とも横暴なと思うもこれからも何度も飽きずに進行してくるならば、どのみち終止符を打つにはいつかどうにかしなければならない。結果的にそれは遅かれ早かれなのでオラリオはある意味ラキアに迷惑を被ることはなくなっただろう。リヴェリアはそう思慮しながら話に出てきた貴族のことを口にする。
「クロッゾとはあの魔剣鍛冶師の一族であったな」
「そ、全員ヘファイストスの眷族にしてもらった。で、王族の一人は何故か冒険者になることが念願だったようで俺を介してガネーシャんとこに入団してもらった」
「その王族の者は変わっているな。冒険者になりたがっていたとは」
「なんか、苦労人ぽかったんだよ。自由気ままに生きて冒険をする冒険者達が羨ましかったみたいでさ。オラリオに連行する俺に何度も感謝の言葉を言ってこられたときは戸惑ったよ」
喜ばれることは何一つしていないはずが、捕虜の一人は逆に諸手を上げて大喜びする。そんな光景を脳裏に再生して浮かべる一誠は息を吐く。
「んじゃ、俺はギルドに行ってくる」
「例の件でか」
「ん、人数も十分すぎるほど集まったしロイマンも納得してくれるだろう」
改めて再度、今度こそはロイマンに主神なき無所属の【ファミリア】結成の認可を貰った。団員の名前の項目を見て頭を抱えられたが印を押してもらい晴れて一誠は自分だけの【ファミリア】を得たのだった。その事実はギルド内に直ぐ伝わり職員達は心底から不思議がった。
「神様無しでどうやって【ファミリア】を作れる?」
の疑問が一致する。ローズもそんな疑問を抱く一人であり何時ものように茶菓子を持参、相談という名目でやってきた一誠に問い質した。
「ねぇ、どういうことなの。主神がいない【ファミリア】って。いないんじゃ
「教えてもいいけど、誰にも言わないと誓えるか。ロイマンには口止めされてるから」
「・・・・・ヤバいわけ?」
「ヤバくはない。単にあまり広められたくないだけだ。オラリオに情報が漏洩したら面倒だからさ」
危険ではないなら、大丈夫だろう。もしもの時はまたこの男に・・・・・という気持ちを胸の内に隠しながら首を縦に振って肯定するローズの前に一枚のプレートを置かれた。何これと怪訝な目つきで確認した次の瞬間。プレートに記されてる【ステイタス】の意味を悟り大きく目を見開いた。
「ちょ、これどういうことなのよっ!?」
「見ての通りそのままだ。そういうのを製作しているんだよ。だから神がいなくても【ファミリア】は成り立つ」
「そ、それも含めてこのでたらめな
「いや、お前・・・・・自分でもおっかないものをそのまま打ち明かすことできるか?」
―――できるわけがない。何も考えずそんなことは明かすなんて躊躇もする。神妙な顔で淡々と固まるローズに指を立てながら話しかけ続ける。
「ギルドにはこんな異常な塊をおいそれと教えるなんてできない。俺が転生者なんて勘違いされるかもしれないし、何より神々と冒険者達が色々な意味で騒ぎ出すに決まっている」
肯定する他ない。余計な騒ぎを起こしても意味がないし面倒事などしたくもない。ならばどうするべきなのかはローズも思いついてしまう。敢えて偽装工作をする他ないと。
「・・・・・そうね。判断は間違ってないと思うわ」
「そうだと思いたいのが心情だ」
プレートをと元に戻し仕舞いながら吐露すると、「そうだ」と思い出しように口を開き出した。
「実践するのはまだ先だけど『異世界食堂』で新しいことをする予定だ。ローズも利用してくれると嬉しいな」
「なに?店で作った料理を持ってきてくれたりするわけ?」
「んー、仮にそうだと言ったら?」
「無理でしょそんなの、と言いたいところなのだけれどあなたの奇抜な考えはいつも成功しているからできるのでしょうね」
そんな物言いに苦笑いする一誠はローズの尻尾をモフると手の甲をつねられた。
「変態」
「モフモフできるなら変態呼ばわりされても構わないな」
「どうせ他の獣人の女の尻尾も触れてるんでしょ」
「老若男女問わずだが?尻尾や耳が触れられるなら誰だって触るぞ。ギルドの職員でもな」
「―――
半分本気で半分冗談で言うローズにまた苦笑する一誠はごそりとポケットに手を突っ込んだ。
「それは困るな。しょうがない、なら―――心残りがないように俺は変態の極致を至るしかないじゃないか」
ジャキンッ!と指の間に挟む毛並みを整えるための小道具を見せつけられ、顔を強張らせるローズは数十分後―――同じ女性職員達から羨望の声をかけられるほど綺麗で艶やかな髪と尻尾を手入れされてしまった。当の本人は顔を真っ赤にしてとても気恥ずかしがっていたが。
「ローズ、またあの異世界の冒険者に可愛がられたのですね」
「か、かわっ!?ち、違うわよ!」
薄い紫の長髪のエルフの女性職員からの指摘を受け食って掛かるが周囲の女性職員達から黄色い声が上がる。
「ローズローズ、私にもあの人を紹介してよ。今のあなたの髪と尻尾、同じ獣人としてとっても綺麗で羨ましいわ」
「それにいつもいつも甘い匂いをするけど、デザートをご馳走されてるんでしょ?ずるいわっ」
「くっ、何故あの時の私は断ってしまった・・・・・!」
今や上級冒険者の仲間入りの期待の星、異世界から来た異邦人でもあり『異世界食堂』と異世界の料理を振舞う店主。そしてオラリオに多大な貢献をしている人物としてもギルドでも彼の者の話は絶えない。付き合いたい、恋人にしたいランキングで不動のトップを誇ってるフィンに匹敵する人気ぶりであることをフィンを始め一誠も知る由ないでいるが。
「お前たち、何を騒いでいる。仕事中だぞ!」
騒ぎを聞きつけやってきた
「班長、聞いていいですか」
「なんだ」
「妙に髪と尻尾が手入れされているんですね。彼女ができたんですか」
獣人は己の体の一部でもある尻尾の手入れを欠かさない。手入れをしない獣人もいるがローズの上司にあたる
「仕事に関係のないことだ。持ち場に戻れ」
「・・・・・」
話を半ば強引に切り上げ、ローズに尻尾を見せながら持ち場に戻る上司を「まさか・・・・・ね」と脳裏に真紅の髪の男が一瞬過ったが、そんなことはないだろうと否定して仕事に戻った。
ギルドから帰り道の途中、白昼堂々と血走った目で大通りに歩いていた一誠に赤髪のアマゾネスが襲いかかろうとしていようとは露知らずに。
―――†―――†―――†―――
爽やかな朝を迎えた【ガネーシャ・ファミリア】は最近うきうきと入団したばかりの団員の紹介を経てまだ日が浅い時、爆弾の導火線に火がつけられた。朝早くからガネーシャの暑苦しい声を聞いて今日も変わらない一日を過ごすつもりでいた団員達は耳にした。
「ガネーシャの超・有能な子供達よ!俺から報告があるゾウ!」
どうせ突拍子のないことを言うかしようとする報告なのだろうと思いつつも主神からの神言に耳を傾けた。
「我らの団長、シャクティと妹のアーディは
・・・・・・。・・・・・。・・・・・。―――――朝から何を言い出すんだこの
『・・・・・』
団員達一同は無言でガネーシャを取り囲み、揃って笑みを浮かべる。ただし、怒りのマークを付けながらだった。
『朝から冗談なことを言わないでください!』
「いや、本当だ」
当の本人が肯定の発言を投下したことで導火線についていた火が爆弾に着火。
「私たちはイッセーと結婚をする事に決めている。彼が命を代償に妹を蘇らせてくれた恩を報いるために」
「派閥同士の問題も起きない。今の彼はどこにも派閥に入っていない状態だから結婚をしても諍いは起きないし、生まれる子供は我々の【ファミリア】の人間となる」
「ガネーシャも私の心意を許してくれている。お前たちは反対するかもしれないが私の意志は変わらないことを知ってほしい」
着火した爆弾は何ものにも爆発を止めることができない。驚愕と悲鳴が混じった絶叫が【ガネーシャ・ファミリア】のホームから木霊がするほど発せられた。どこぞの馬の骨―――ではないが自分達の知らぬ間に団長が恋愛をしていたという認識が芽生えたところで問い詰めるのは必然的だった。
「団長、あの男と付き合っていたというのですか!?」
「いや、一度たりとも合瀬などしていない」
「ならなんで結婚をすることになったんですか!」
「私がしたいからだ」
「そんな理由で!?もっと相手のことを知るために恋愛もしないでいきなり結婚だなんて!」
「結婚した後でも知ることはできる」
ダメだこの人、相手のことが心底から惚れてるんじゃなくて、極端すぎる!相手とこうすればいいという考えでしか頭にないんだ!
「団長、相手は団長と結婚をする気でいるんですか」
「ああ、ご両親から許可を貰っている」
そこに新郎の意志が組まれていなかったことに何人気付いただろうか。質問をした女性団員は気づいた一人として頭を抱えだす。
「教えてください、あの男のどこが好きになったんですか」
「好き・・・・・か。特にないな」
「なっ・・・・・」
唖然するしかない。好きでもないならなんでそこまで結婚をする気でいるのか。婚期を逃したくないから?それとも弱味でも握られてる?信じられないものを見る目でいるとシャクティが淡々と述べた。
「正直、私自身は恋愛に疎いと知覚している。だが、側にいたい。何故か知らないがあの男を目にするといつも視線が追いかけてしまう。それが興味深々だからか好意だかはわからないが、気になる男だという点は間違いない。そしてイッセーは女性を不幸にしない。私はそこを信頼して結婚をする事に決めたのだ」
皆に断言する姿勢と言葉は真っ直ぐで団員達は言葉を喉の奥に仕舞い口を閉ざした。真っ直ぐな瞳で見られて真摯に言われてしまえば反対の意を述べるのもし辛くなる。
「彼を信用している私にお前達は信用できないならば、私はそこまで信用に足りない者だと仕方がないがな」
その一言で殆どの団員が何も言えなくなり、シャクティに説き伏せられてしまった。
―――が、シャクティを心底から尊敬している一部の団員が剣呑な雰囲気で彼女の話の途中からいなくなっていたことに誰も気付かなかった。その結果・・・・・。
ギルドを後にして
背後から斬りかかってきた相手に対して素の手刀で防ぐ。耐久のアビリティの数値∞は人体にここまで影響を及ぼすのかと内心呆れを通り越し感嘆する。振り返りざまにもう片方の手で相手の手首を掴み引き寄せ、得物を防いだ手で首を鷲掴みにして石畳の地面に叩きつける。その直後に得物を振るう冒険者達の一撃を体で受け止めながら言う。
「そんなに殺気立って攻撃してくるなら・・・・・返り討ちに遭い殺されても仕方がないな?」
ローズと同じ赤い髪に日焼けしたような褐色の肌を晒す戦闘民族=
「異世界人、姉者から手を引け!」
「姉者?」
「シャクティ団長のことだ」と教えられると理解して・・・・・アマゾネスを解放するや否や疲れ切った顔をして肩を落とす。
「お前らは知らないだろうがなぁ・・・・・俺だってシャクティと結婚なんてする気もなければしたくもなかったんだよ」
「だったら!」
「口で言って止まる主神か?」
「「「・・・・・」」」
何かを言おうとする彼女に言葉を遮るとぐうの音も出さなくなった。あの男神は神格者であるが、暑苦しく騒がしく突拍子もなく何かを仕出かす。そして眷族を振り回し面倒事も起こす面倒臭い神でもあることを一誠よりよく知っているので言い返せれない。
「凄く強い決意で結婚を臨むシャクティをお前らは口で止められたか?いや、ここにいるってことは直接俺を説得するつもりでいたんだろうが、俺はお前らと同じ否定してた側だったんだぞ」
「「「「・・・・・」」」」
「シャクティは妹を蘇らせた代償に削った命の分を償いの意味を兼ねて結婚をしようとしている。俺はそれはしなくていいと、そんな償いの為に結婚はしたくないとはっきり拒絶した。―――だというのに強い決意と意思を抱いている女を蔑ろにするのかなんて言われたら、お前らできると言えるのか?」
・・・・・とうとう彼等は意気消沈してしまう。
「言っておくけどあいつのことは嫌いじゃないからな。問題なのはあいつの気持ちだ。結婚する理由が償いなんて他の連中だったらどうするのかわからないけど、俺はそういうのは嫌なんだからな」
「もっと強く否定すれば・・・・・」
「そうなると実力行使になるぞ。それはお前らが許される行為なのかよ?」
「ぐ・・・・・」
「分り切った勝負をして結婚を白紙にしようなんて平等じゃないし、シャクティを強姦してもして恨まれる真似もしたくもない。だとしたら話し合いで決め合うしかないはずなのにこっちが説き伏せられてしまう。・・・・・俺に拒否権なんてなかったかもしれなかったんだよ」
深い溜息を吐いて踵を返す。
「もうこうなった以上はどうしようもない。シャクティを全力で愛して幸せにするしかないんだからな」
「そんなこと、お前にできるのか・・・・・」
「できるできないの問題じゃない。しなくちゃならないんだ絶対に。それが結婚する人たちの思い合いだろうが」
そう言い残して去ろうとする一誠の足を停めさせる制止の声。何だと思いながら振り返ると、彼女はいつの間にかお互いの鼻先がぶつかりそうなぐらい距離を詰めて睨みつけてきた。
「私はお前の事を知らない。お前が本当に姉者を不幸にせず幸せにできるのか確かめない限り信用もしない、認めもしないぞ」
「認めないならお前があの二人を説得して結婚を白紙にしてくれるのか?」
「それができたらこんなこと言わない!・・・・・お前、姉者と暮らすつもりなのか」
「俺はこの世界で誰かと結婚なんてしたことがないから結婚生活はわからない。【ファミリア】の団員と
逆に訊き返されてアマゾネスは口を一文字にし、他の団員達も口を閉ざす仕草に首を傾げた。
「知らないのか揃いも揃って?最大派閥なのに誰一人結婚してる団員はいないのか?」
沈黙は是なり。黙り込む彼らに呆れ混じりの息を吐く。
「・・・・・冒険者って生涯独身を貫く方が珍しくないのか?」
「そんなこと私が知るか!」
「んじゃあ聞くなよ。俺も知らないんだから。ていうか、仮にシャクティが俺のホームに住み着くことになったらなんだってんだ?」
「言っただろ。確かめない限り信用できないってよ。お前が姉者を幸せにできるかどうか調べてやる」
怪訝に「どうやってだ」と問うと彼女は胸を張って当然のように言った。
「お前のホームにしばらく居座らせてもらう。拒否権はないからな」
「―――いや、拒否させてもらうから。正義の味方の派閥がそんな傍若無人みたいなこと許されると思ってるわけ?」
「だったらお前が【ガネーシャ・ファミリア】のホームに―――」
「お前、ガネーシャの暴走を更に拍車かけたいのか」
「ガネーシャが何だって?」
噂をしてれば何とやら、一誠の真後ろから象頭の仮面をつけた浅黒い肌に引き締まり鍛えられた長身の体、黒い髪の男神。そして藍色の髪の麗人のヒューマンを引き連れて一誠達の珍しい組み合わせに不思議そうな目で認知してた。
「イルタ、どうしてここいる?」
「あ、姉者・・・・・」
「それにどうして武器を手にしている」
イルタと呼ばれた赤髪の女戦士はその指摘に思わず背中に隠してしまい、その怪しい仕草でシャクティに疑惑を抱かせてしまった。彼女の瞳は一誠の上衣が刃物で切られたような裂け目を捉え厳しく目を細めた。
「イッセーに攻撃したのか」
「そ、それは・・・・・っ」
シャクティの問い詰める眼差しと口調。見られては不味い場面のところに居合わせてしまい心底居心地が悪そうにイルタは顔色を悪くさせる。
「まさかだとは思うが、私とイッセーの婚儀を反対するためにイッセーに襲い掛かったのではあるまいな」
「・・・・・」
「―――イルタ」
事態の追求しかかるシャクティはイルタに迫る。もしも己の言葉が正しかったらイルタの行いは逆恨み、副団長でありながら理性を抑えれず暴走したならば厳しい罰を与えなければならない。
「ん」
一誠の前に出たところで片を叩かれる。振り返り一誠を見ると、大通りの脇へガネーシャ諸共連れられるとかくかくしかじかと説明を聞かされた。曰く、話しかけられシャクティとの結婚について話し合ってると一誠の思い付きで∞の耐久を確かめさせてもらったとのこと。服の傷はその試しでできたことだから悪意や怒りによる攻撃の意でできたものではないとも。だが、納得するシャクティではなかった。ガネーシャは腕を組んで黙って二人の会話のやり取りを見守ってる。
「庇っているのか」
「いや、庇う必要あるか?仮にあいつが怒って攻撃されても見ての通り、傷一つもつけられないから問題ないし」
「そういう問題ではない。私の仲間がお前に攻撃したこと自体大きな過ちを犯したのだぞ」
「そこはお互いの気持ちの問題だ。お前が大きな過ちだろうと俺にとっては些細な問題だ。少しも気にしていない」
だが、と言う彼女の口を人差し指で触れて優しく抑える。これ以上の話の平行線は無意味だと察し諭す風に言葉を紡ぐ。
「全員が全員、お前の為に思って結婚を賛成するはずがない。心底から尊敬しているお前の為にどこぞの馬の骨ともわからない相手に話しかけて知らなくちゃ納得もできないだろ?あいつらはまさにそれの類だ。ガネーシャの眷族に悪意を持つ奴はいると思ってるのかお前は?」
「・・・・・それは」
「ないなら信用して黙認してくれ。あまり大事に発展するようならこっちから遠慮なく言わせてもらう。ガネーシャ、それでいいな」
「うむ、イッセーがそう言うならば俺もそうしよう。だが、本当にいいのか。イルタを許して」
「個人的な逆恨みだったら軽くお仕置きをするつもりだったがな。訳を聞いて許す許さない以前に俺は気にしないでいるつもりだ。それでも納得できないならシャクティに貸しひとつだ。借りを返してもらうぞ?」
シャクティはそれでひとまずだが貸しを作ることで納得してもらい、イルタ達に対する咎めもない方向で問題は収拾した。三人は立ち留まってるイルタ達の下へ戻る。
「イルタ、ホームに戻れ」
「姉者・・・・・処罰は」
「・・・・・お前たちに対する咎めはない。何より私はお前がイッセーに襲ったところを見ていない。ならば当事者の元【ガネーシャ・ファミリア】の団員だった者の話を信用して、お前達も信用することにした。それが団長の務めでもある」
絶句するしかない。攻撃したのは事実なのにシャクティは言い包められたのではないかと疑ってしまう程だ。自分達を贔屓している?それともイッセーが説得した?どうして自分なんかのために?分からず苦悩するイルタは呼ばれた。次の瞬間、ゴンッ!と拳骨を貰った。
「~~~~~っ!?」
「だが、どんな事情でも私の家族の恩人に攻撃の意を示しただけでも赦されない行いだ。これはその些細な体罰だ。しっかりその痛みを感じて自室で自粛しろ」
「あ、姉者・・・・・っ」
「まったく世話が焼けるのはガネーシャだけで十分すぎるというのに、義妹まで世話を焼かされるとは」
尻目に涙を溜めるイルタにこの場を去る催促をし、自分は一誠に振り返って彼の手を握り絞める。
「では行こうか」
「は?どこに?」
「適当に色んな場所を歩こう。神の言葉で言うデートをしよう。何せ私は恋愛には疎いから夫婦らしいことすらわからない。お前に手取り足取り教えてもらわねばな。ああ、結婚後はどこに住まうか話し合うのもいいだろうな」
「頑張れシャクティ!そのままイッセーのハートをゲットしてこい!」
「ふざけたこと言うなっ!後でその仮面を割に行くからな!」
親指を立ててサムズアップ、煌めく白い歯を笑みで覗かせるガネーシャにそう言いながらシャクティとどこかへ歩いて行っていく一誠。
朱色に空が染まる時間帯でホームに戻ってきたシャクティの顔は仄かだが終始微笑みを浮かべ、妹のアーディに今日のデートの報告を兼ねてアドバイス、妹にも一誠とデートをさせる腹で語った。
―――†―――†―――†―――
妙な疲労感を知覚しながら見えざるホームに戻った。女性でありながらも色恋沙汰が無縁だった麗人とのデートはエスコートをすることになり、お互い見知った大通りや店に通い買い物もした。その際、元の世界にいる家族達ともデートしたことがなかったなと思い返してしまった。今回の件をリヴェリア達に知らされたらきっと―――と白亜の城の重厚感がある扉を開けて中に入り、靴を脱いで自室へ一直線に進む。部屋に入るとテレビアニメ(童話・昔話・お釈迦の類)に夢中なヒューマンや獣人の少女たちがいた。最近入団したばかりのアミッドとナァーザも一緒に見ていたので微笑ましかった。
再生されてる映像が終わるまで一緒に見ようとベットに腰を下ろすと、
「・・・・・(ナデナデ)」
「・・・・・♪」
優しく頭を撫でられ、感じる手の温もりだけでは満足せず一誠の胸に顔を押し付けてグリグリと擦り付けつつ埋める。甘えてくる子犬と彷彿され手を動かしナァーザの背中に沿って川の流れの如く付け根から尻尾を触れると、少女の体がピクッと震えた。まだ幼い少女に早すぎる快楽が脊髄に走り、包み込むように両手で触れられると一誠の服を握り絞めしがみつく姿勢で快感の甘美な刺激を知覚しながら感じ取る。その刺激を絶え間なく感じさせられれば瞳が濡れ顔が紅潮して色欲に染められた蕩けている女の貌となり、身体が異様に火照って下腹部が熱で疼く。
一誠の愛情が籠められた愛撫にナァーザはもう心も体も魅了、虜になっていた。心酔とまではなっていないが主神や仲間の次に大切な存在として少女の心の中に居座っている。埋めていた顔を胸から離して一誠の顔を見上げようとしたら左右の視界の端に金と銀の綺麗な髪が映り込む。そして背後からもナァーザの肩が捕まれ、一誠から遠ざけられると別の銀髪が自分の特等席(?)を奪い苦笑しながら三人の頭を撫でる一誠の構図に、尻尾を逆立ててナァーザの負けん気が発動した。
「―――ところでアミッド、聞きたいことがあるんだが」
「はい何でしょうか?」
一誠の争奪戦が勃発から少しして金色の羽毛の絨毯の上で穏やかな寝顔を窺わせるアイズ達。逞しい腕や膝を枕代わりにして寝るテレビを見ていた春姫達。寝転がる一誠からの質問に相槌を打つアミッドは男の腹の上に覆い被さるように横たわってる。
「製薬以外何もすることがなくなったから、他に何かしたいことはないか?」
「そうですね・・・・・特に現状は不満などありませんが。他に何かしたいことと問われると・・・・・【ディアンケヒト・ファミリア】にいた頃と同じ環境で働いてみたいです」
「そういうことだったらあの男神に話をつけてやろうか?多分、以前のように治療院に働かせてくれると思うぞ」
と言ってみる一誠の提案に神妙な顔で思考の海に飛び込むアミッド。同じ環境の中で働きたいならそうする方が一番いいだろう。しかし、完全に一誠の派閥の団員となっている意識をすると、その一番が本当にいいのかと思い改めてしまった。考えが決まったら顔を上げて一誠の顔まで近寄るとつぶらな瞳を覗かせる。
「・・・・・イッセー様。私たち
「活動内容か。んー、商業兼冒険者か?他の派閥と代わり映えのないことしてるつもりだが」
「代わり映えのないことしつつ他の【ファミリア】とは逸脱したことをなさっていることをお気づきで?」
まさかのツッコミに苦笑する。
「まぁ、そういうことしてる。もしくはする。それか個々で自由度が高い活動をする内容かな。それで、決まったか?」
「個々の自由・・・・・では、私が独自の治療院を持とうとするのも自由でしょうか?」
「ああ、自由だ。俺のように自己責任でならな。何事もやるなら責任を持たなきゃいけないし持つ必要もあるぞ?」
承知の上ですと返してアミッドの中であることをしようと方針を定めた。定めたからには、やるからにはどうしても必要なことができてしまう。その為には・・・・・。
「イッセー様、私に力をお貸してくれませんか」
「決まったんだな?」
「はい。私も
そう言うアミッドの額と額を合わせると、一誠は破顔一笑し釣られてアミッドも笑った。そうしてすぐ一誠は訊いた。「人員は?」と。一人で何かするつもりはないだろうと思慮しての質問にアミッドはこう答えた。
「既に決めております。カサンドラ様とナァーザ様です」
「カサンドラはともかくナァーザか。ナァーザが一方的にお前の事よく思っていない節があるが」
「問題ございません。ライバルなだけですから」
何のライバルかは敢えて聞かない。一誠は既に悟っているからだった。アメジストの円らな瞳が距離を縮めた。
「今ここで、イッセー様と一つになってるところをお見せしたらきっとナァーザ様は悔しがるでしょうか?」
「聞かなくても絶対に負けん気を起こすって」
「そうなればまたイッセー様を慕う女性が増えますね」
「幸せ過ぎて皆を愛する加減ができなくなるな」
「私がそれを臨んでいると仰ったら?」
「うーん、昼夜問わず場所も問わず皆を襲いそうで自分が怖い」
「大丈夫です。―――私はいつでもどこでも歓迎いたします。あ、お仕事中や人前はお恥ずかしいので・・・・・」
可愛らしく朱を差して蚊が鳴いたように小さく吐露する少女を意味深な笑みを浮かべて、耳元で囁いた。
「アミッド、知らないだろう?愛し合う人は相手が仕事中だろうと人前だろうと、悪戯目的であったり背徳感を感じたりするために物陰で愛し合うこともするんだぜ?」
「―――――っ」
「そうしてまたいつもと違う快楽や快感を人は得るんだよアミッド。」
果実のように紅潮して壊れたオルゴールのように「あうあうあう・・・・・」と動揺や照れが入り混じった声を漏らした少女は、実際にそんなことされる想像をして体を火照らせてしまった。
夕食後。一誠のもとに訪れたアミッドは
「自分の店は持たないのか?」
「出来れば望ましいのですが、現時点で場所を確保できるのはかなり難しいと思います」
「あー、そうだよな。俺なんて探す暇もなく手に入っちゃったから、その大変さはまだわからないな。仮にどこが一番好ましいか?」
「・・・・・そうですね」
顎に手をやって活動するために一番好ましい場所を選定するアミッドは考え込んだ。重軽傷の患者がすぐに駆けつけ診られる場所はどこなのかを。少しして決まった結論が口にされた。
「バベルの中でしょうか」
「
「ですが、あの場所にはギルドと契約しているバベルの
「ん?そんなのいたんだ?」
知らなかった事実にアミッドから意外そうな目で見られた。
「はい、他派閥の
「となると、アミッドが活動するべきってダンジョンの中になるか?」
「かもしれませんが、私の手の届く範囲でしか患者を治せないことに歯がゆい思いをします」
「ダンジョンの中は広すぎるから探しようもないしな。うーん、ダンジョンの1階、階段の直ぐ側だったらどうだ?あそこなら冒険者達が必ず足を運んでくるから直ぐに診られると思うぞ」
天啓を得たように納得した風に首肯した。しかし、提案した当人は少し思うところがあったようで悩んでる顔で声を投げた。
「だけど、明るくない場所だ。治療するために場所を問わないのは当然だが、アミッドには明るい場所でいてほしいもんだがな」
「お気遣いありがとうございますイッセー様。しかし、私は
「ん、そうか。アミッドが構わないなら何も言わんよ。もしも冒険者通りで治療院を構えるなら、ミアハとディアンケトと商売敵になりそうだったが」
「ディアンケト様がご迷惑をおかけに来そうですので西区の方は断念していました」
確かに元眷族に要求してきそうだよなぁ・・・・・と感慨深く思慮する。となれば一誠はあることを提案する。
「アミッド、ダンジョンの1階層もそうだが、18階層にも店を建ててやろうか?」
「いいんですか?」
「ああ、特に18階層には俺もあることをしたくてな。丁度いいかなと思ってる」
どんなことをしようとしてるのかまだ教えてもらえないが、きっと自分の想像を超えるようなことを当たり前のようにする気なのだろう。そんな予感がするアミッドはお願いしますと首肯した。
―――†―――†―――†―――
その日の冒険活動は休み、店も非番の日が重なった穏やかな気候の日。ダンジョンへ早速下見に行こうとメインストリートに足を運んだ。
「おっ、店主。今日は非番なのか?」
「こんにちは、店主。また食べに行きますよ」
声を掛けてくるヒューマンや
「やぁイッセー」
店主ではなく名指しで呼ぶ者は誰かと振り返ったら、異国の王子と思わせる服装を身に包む金髪の男神デュオニュソスと護衛の団員が視界に入る。
「ディオニュソスか。久しぶり」
「久しぶりだね。今日は一人なのかい?」
「ちょっとダンジョンの下見にな。まぁ、直ぐに終わることだけど」
「つまり、それほど急ぎではないということだね。では、ここで会ったのも何かの縁だ。私のホームに来ないかな?」
他派閥の団員を誘う他派閥の主神の神威に首をかしげる。
「行ってもいいのか?」
「構わないさ。君には感謝しきれない恩があるからね。それにゆっくり話もしたかったのも事実だ。君の為に料理を振舞うよ。『異世界食堂』の料理には劣るがね」
「おー、そう言う意味ではディオニュソスが初めてだ。あ、盛大にしなくていいからな。そっちの【ファミリア】で食べてるような食事でいいぞ。あと、ワインは飲めない。俺、飲み過ぎると記憶が飛ぶほど大惨事を起こすみたいだから」
「前者は解った。後者は一体何をしでかすのか気になるところだが、そう言うなら【ファミリア】のために提供を控えさせてもらおう。少し残念であるが」
甘いマスクで微笑むディオニュソスはイッセーを連れ南東へ足を運び足す。護衛の団員には一足早く戻って貰い準備をしてくれている間に会話の花を咲かせる。辿り着くと立派な館がイッセーの視界に入り込む。男神に誘われる形で中に入り、見つけた団員に椅子とテーブルを外へ設ける指示を出す。時間もかからず館の敷地内の庭に円卓とそれを囲む二つの椅子が用意されて座る二人。
「こうして直接二人で話すのは二度目か。あの27階層の、フィルヴィス達を救ってくれたことは本当に感謝している」
「あの時は本当に偶然だった。フィルヴィスは運が良かったまでさ」
「蘇らせた私の子供達の恩もある。何かお礼をさせてくれないか?」
「そっちのできることでいいさ。秘蔵のワインをくれるなら美味いビーフシチューを作れるし」
大切な団員達の命と比べるまでもないと快く了承した男神。目の前の子供は欲深く自身の【ファミリア】や団員にまで要求してこないのは、己なりにイッセーという人格を把握している。
「私の一番のお気に入りのワインを用意しよう。昔、ロキが飲んだという千年もののワイン程でもないかもしれないがね」
「豊穣とブドウ酒、酩酊の神であるディオニュソスのお気に入りのワインの方がいいと思うけどな」
口にしたイッセーの単語に不思議そうな目で向けるようになった。
「それは君の世界にいる私と同名の神のことかな?」
「ん、そうだ」
「なるほど。では、こうして話し合う機会を無駄にしないため君の世界の私のことを詳しく教えてくれまいか?異世界の神々のことは私も知りたかったところだ」
「別にいいけど、色々と衝撃的な内容も含まれてるから凹まないでくれるなよ」
語ることは吝かではない。寧ろ嬉々とディオニュソスの反応を見ながら口を開いたのだった。語る最中。運ばれる料理を食べながら、長々と教えられた。ディオニュソスはもう一柱の自分を知って、自分のことのように受け入れニヒルに笑った。
「異世界のディオニュソスも私と同じなところがあるか。新鮮さや親近感を覚えるな」
「誰かを殺させたところもか?」
「ふっ、子供達の前でその答えは控えさせてもらう」
「じゃ、オリュンポスの座を譲ってくれたヘスティアには?」
「尊い存在として感謝しきれない」
「ぶっちゃけ。この世界のヘスティアってどういう女神?」
「神々からはロリ神、ロリ巨乳、グータラ駄女神と言われて・・・・・イッセー、君の方が物凄くショックを受けているようだが大丈夫かい。絶望を目の当たりにした顔になっているぞ」
それはこの世界のヘスティアに絶望した瞬間だったからだ。
「・・・・・俺の知っているヘスティア姉さんが、ロリ巨乳の神、グータラ駄女神・・・・・。ふ、ふふふ・・・・・ふふふっ」
「えと・・・・・あの、ディオニュソス様」
「今のイッセーに話しかけない方がいいかもしれない。少し声をかけないでいよう」
何が可笑しいのか不気味に笑い出すイッセーに声を掛けようとした料理を運んできてくれた女性団員達やフィルヴィスを宥めるディオニュソス。しばらくして気を取り戻したイッセーは溜め息を吐いた。
「・・・・・色々と知りたくない事実だけど、オリュンポスの一柱の座を譲り渡した事に関してはディオニュソスと同じ尊い行いだと思っている」
「ああ、彼女は素晴らしい神だよ。それをわかってくれている君に心から嬉しく思っている」
「俺の世界にいるヘスティアのお姉さんに聞いたからなー。大切な席を譲ってよかったの?って。そしたら『私なんかより彼の方が立派だから』って教えてくれたんだ。彼女の言葉通り、ディオニュソスは立派な神だからヘスティアのお姉さんの言葉は正しかった」
この世界のヘスティアとディオニュソスのことは気になってもいた。と口にし、それがわかった一誠は口元を緩めた。
「この世界の神は神として見受けれないけれど、行動次第で神々は尊い存在だと認識している」
「それは、どうしてですか?」
「娯楽の為に天界から降臨してきた理由だからだ」
フィルヴィスの問いに真顔で断言した。何と言えばいいのか神妙な面持ちになった彼女の主神は「そちらの神々は下界に降りないのか」と尋ねた。
「降りてくるぞ。だから神話があって人類から畏敬と畏怖、敬意を受け崇められているんだ。だからディオニュソス達しか知らない神々の名前と関係性、その昔起こした事も知っているんだよ俺は」
「とても不思議だ。出会ってもいないのに、神々が仕出かしたことを直接目の当たりも聞いてもいないのに一体どうやって?」
「語り継げているからさ。歴史や口伝に書物なので人の目や耳に知らせられていく。それが何千何万何億年も後世にも伝えられてな」
「・・・・・語り継がれる」
ディオニュソスは晴天を仰ぐ。悠久の時を経ても語り、語られる人の想いは受け継がれることは並大抵のことではない。決して忘れてはならない、絶やしてはならないことをどんな方法でも後世に遺そうとする人の意志を男神は強く尊く思えた。
「私達神々と君の世界の神々の違いが、分かった気がするよ。我々は人類に崇められる位置にいるべき存在だともね」
「今更だろ。崇められてなければフィルヴィス達から尊敬されてないし」
「それは、誇ってもよいことなのかな?」
「お互い愛し愛される神と団員、それでじゅーぶん、答えになってるよ」
不敵に笑う一誠の答えに傍らにいる己の団員達へ目を向け、ディオニュソスも微笑んだ。
「―――これからも私の為に力を貸してくれ。愛しい眷族よ」
「「「はい、ディオニュソス様」」」」
フィルヴィス達が真っ直ぐな声で返事した。ほんと、愛されているなーと感想を思いながら最後の一口も食べきったのだった。
「本当に秘蔵のワインでよいのかい?君がした偉業はワインだけで済まされることではないのだが」
「じゃあ、仮に人一人分を甦らすのに百年分の命を代償に甦らしたんだ。復活した【ディオニュソス・ファミリア】の団員達の命の分に見合うお礼をしろーって言ったら、ディオニュソスはどうやってお礼をするんだ?」
「子供の復活に百年分の命・・・・・?イッセー、その話が本当だとすると君の寿命はとっくに無くなっているのではないのか?」
「俺、半永久的な不老長寿だから千年や一万年分の命ぐらい削っても全然平気なわけ」
あっけらかんと述べられてディオニュソス達は唖然の面持ちで言葉を失った。とても嘘を言っているような感じがしない。何よりフィルヴィスの目の前で死者を蘇らせ、ディオニュソスも死者を仮に甦らすことができるならば代償なしでできるものではないと思っている。
「不老長寿、エルフみたいな種族だと?」
「純粋な人間だよ。ただ、不老長寿なのは極一部の一族の人間だけだから一族全体ではないんだよこれが」
「異世界特有の未知、か・・・・・本当に我々の常識を上回ることが多く存在しているのだな」
驚嘆の念を言葉にして漏らし、保留にしていたお礼は数百年以上の命の対価に見合うものではないといけなくなった。それこそ、【アストレア・ファミリア】やシャクティと妹のアーディ等が一生を捧げるつもりでなければならないほどだ。ディオニュソスはどうしたものかと悩み問うた。
「イッセーの削った命に見合うものとは参考に聞かせてもらえないかな」
「俺に一生を捧げ奉仕する、か?俺もよくわからないどころか、そんなことしなくてもいいって言っているのにあいつらは・・・・・」
苦い顔をし出して憂う一誠の反応にもしやと察した。自分達と同じ境遇になった者がいるのだろうかと口を開いた。
「・・・・・他の子供達にも命を削って蘇らせたのか?」
「ああ、アストレアとガネーシャの団員達をな。理由の詳細は省かせてもらうけどアストレアの方は俺に一生や全てを捧げる姿勢でいて、【ガネーシャ・ファミリア】の団長は妹を甦らしたら削った命の対価として俺と結婚をするつもりでいる。実質押し掛け女房だぞ」
「・・・・・私達の知らないところでそんなことが。よほど君に感謝をしていると見受けれる。ガネーシャの子供に至っては責任感が強い故にそうするつもりでいるのだろう」
と、率直に思ったことを口にするディオニュソスに微妙な顔で言い返した。
「感謝のお礼に恋愛や交際に好意を高々と飛び越えていきなり結婚しようと言われたんだぞ?それは嫌だと言ったら、女の覚悟をないがしろにする最低の男に成り下がるのか?って釘も刺されて反論も異論もできなくさせられて・・・・・はぁ」
「まぁ、今は
「できるけどよ、やっぱりなぁ・・・・・」
頭を抱え先を憂う一誠を、こればかりはディオニュソス達は同情を禁じ得ない。
「元の世界にいる結婚した彼女に申し訳がないのか?」
「もう終わったことだけど、一度元の世界に戻って他の家族達と結婚をしたかったのが本音だ」
「ふむ、いわゆるハーレムか。複数の花々を囲い愛でるのは悪いことではないよイッセー」
甘い微笑でそう言った瞬間にディオニュソスを見る目が厳しくなった眷族達。それを目の前で見てしまって言わぬが吉と判断して見て見ぬ振りをするのだった。
「しかし、君の命の対価に対して・・・・・私の子供達の一生を捧げることで成立するというわけか」
「だからそれが嫌で秘蔵のワインで良いって言っているんだ。フィルヴィス、仮にお前が死んで蘇ったとしたら。俺に感謝こそすれど一生や全てを捧げたくないだろ?」
「それは・・・・・」
「俺はそうしてもらうつもりで命を削ってまで甦らそうとしているんじゃないんだ。勝手にそうしたいからそうしたいだけだ。感謝の言葉だけで充分なのさ俺は」
「だが、膨大な金でも命を買うことができないようにワインで数百年分の命を賄うことなどできるはずがないも道理だ。勝手にしたからと言ってもそれではあまりにもお粗末すぎる。自分の命を軽んじているつもりかい?」
「命に軽重何て考える必要あるのか?いつか死ぬ
諭すディオニュソスに真正面から言い切る一誠。
「俺はフィルヴィスに必死で乞われたからお前の団員を甦らせただけだ。そうしたからお前達は満場一致で大喜びをした。そして俺に感謝をした。今更ながら命の事で云々語ってもしょうがないだろう?お前らはただ、今を生きることだけ考えて死ぬまで未来を突き進めばいいだけだ」
「ああ、でも。またお前らの誰かが死んだらもう復活はしないからな。そこまで俺はお人好しじゃないんで自力で生にしがみつき抗えよ」と付け加える一誠の言葉を受け止めて男神は頷く。
「わかった。だが、これからも良き関係を築いてくれるかな」
「勿論。こちらからもお願いする。まだまだ色々と聞かせてもらうよディオニュソス」
そう言葉を残して音もなく一誠は―――フィルヴィス等に邪眼の能力を発動して停止した。それを見たディオニュソスは目を張った。
「イッセー・・・・・?」
「言っただろ?まだまだ色々と聞かせてもらうって。こっからがフィルヴィス達には聞かせれない話題になるからな」
全てを見透かすような眼差しを哀愁の色も滲ませてディオニュソスにこう言った。
「ディオニュソス。―――この世界で狂乱の宴、オルギアをしようとしないでくれよ」
「っ!?」
「お前の眷族は、フィルヴィス達はお前にとって
淡々と述べる一誠に対してディオニュソスは沈黙した。いつもの貴公子然とした表情が消え失せ、顔を俯かせるその仕草は一誠に寂しがらせた。
「
「・・・・・不安要素だなんて心外だイッセー。私は自分で言ってなんだが善き神格者で通っているのだが?」
俯いた顔を上げて苦笑するような乾いた笑い声を漏らす男神に、首を横に振って一誠にとって決定的な言葉を口にする。
「そいつは無理があるよ。だってディオニュソスの魂は、醜悪な程に真っ黒な色をしているんだから」
「・・・・・っ?」
次に意識が戻ると妙な違和感を覚えたフィルヴィス。一瞬、一誠の眼が妖しく輝いたと思えばその先の記憶が全くない。既に一誠もいないし空席を前に座ってる主神が、虚空を見つめてる。
「ディオニュソス様、彼は・・・・・」
「帰ったよ。君達が気付かないほど空気のように消えて」
「・・・・・ディオニュソス様。彼に対する恩返しは・・・・・」
「己の全てと一生を捧げたいと思うならば、私は止めはしない。イッセーのホームには他派閥の主神や団員達が住んでいるのだから我々でも許されるはずだ。だからお前達の好きにするがいい。お前達の行動が彼に対する恩返しに繋がるなら私は全力で応援するつもりだからね」
「大丈夫なのでしょうか?他派閥同士に問題が起きないとは限らないかと」
「ならば、お試し期間としてイッセーのホームに泊まってみるといい。そうだな・・・・・フィルヴィス。お前が問題ないか確かめてくるんだ」
赤緋の瞳が瞠目した。なぜ自分が?と疑問がありありと顔に浮かびディオニュソスに少女の心情を読み取られた上でこう言われた。
「私達の中で彼と接しているのは私の他にお前だけなのだフィルヴィス。イッセーに警戒されずしばらく共にいられる適格者はお前しかいない」
「しかし、私一人では・・・・・」
「ふむ、心細いか。ではアウラも同伴させよう。それで彼の下でしばらく暮らしてみるがいい」
まさかの【ファミリア】から離れてあのホームに移住せよと命じられるとは思いもせず、半ば【ファミリア】脱退扱いを受けたフィルヴィスの声音は低かった。
「・・・・・私の一生を、この身の全てを彼に捧げろとおっしゃるのですか」
「それは彼が一番望んでいないことを今日知ったばかりだろうフィルヴィス?しかし、彼に深い恩を感じているならば行動で返すべきだ。無論、我々も微力ながら恩を返すつもりでいく」
真摯な面持ちでフィルヴィスから一瞥した視線は周囲の団員達にも見回しつつ言葉を発する。
「彼から受けた命の恩は決して私達は無駄にしてはならない。彼はお前達の命の恩人だ。故に我々は彼に対する恩を行動で返さなければ、胸を張って明日を生きずにいる誇りのない下賎な輩に成り下がるのだ。お前達はそれでよいのか」
主神の言葉を受け団員達の顔が凛々しく真剣な表情を浮かべた。フィルヴィスも27階層で一誠が起こした奇跡を忘れてはエルフの矜持に関わると気持ちを入れ替えた。忘れたら最後、自分は誇り高きエルフではなくなる。そして彼に顔を向けることができない穢れた心の持ち主となる。
「(あの姿を・・・・・決して忘れてはならない)」
―――後日。
「この度、私達もこのホームに住まわせていただきたく参りましたフィルヴィス・シャリアです。不束者ですがどうかよろしくお願いします」
「アウラ・モーリエルです。フィルヴィス共々よろしくお願いいたします」
『幽玄の白天城』に新たな居候が増えたのであった。家主曰く・・・・・どうしてこうなったっと頭を抱えるのだがそれは別の話。
―――†―――†―――†―――
その日の深夜・・・・・誰一人いないキッチンにガラッと開けた戸棚の奥へ手を中に突っ込んだ影がいた。戸棚から取り出した大きな容器を見てほくそ笑む影は、それをコップや空の食器も一緒に持ってキッチンを後にする。
「おや、イッセー様」
出て直ぐに、深夜だというのに城の中を歩いている極東の寝間着、白装束で身に包んでいる輝夜が目を細めてにっこりと薄く笑った。
「こんな夜更けに何をしておられているのですか?」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
「ふふふっ、今宵もまた殿方の肌の温もりをと思いまして」
妖しく淫靡な雰囲気を纏いし少女の黒い双眸は男の手の中にあるものを見て興味を持った。
「それは一体なんでしょうか?何かを浸しているように見受けれます」
「梅を漬けた酒だ」
「梅の、お酒・・・・・?梅をそんな風に漬けてお酒を作るのでしょうか?」
「知らないのか?」
意外だなと思いながら「飲んでみるか?」と一誠の誘いを受ける輝夜は首を縦に振った。
「【
「掛けたらこの酒が飲み干されてしまうから誘わねぇ。これは俺の秘蔵の酒みたいなもんだからな。本来は一人でのんびりと飲むつもりでいたんだがな」
「それ以前に、イッセー様はお酒は飲めれないのだとお聞きしておりますが?」
「絶対ってわけじゃない。泥酔するほど飲まなきゃ大丈夫なんだ。ま、それも気を付けながらだけどな」
自室の部屋に戻らず玄関の方へと赴く。辿り着けば扉を開けてそのまま裸足で外へ出ると、蒼夜に浮かぶ満月が放つ月光が黄金の大鐘楼を照らしていて、二人は近くの芝生の上で肩を並べて腰を落とした。
「んー、月見酒をするに丁度いい」
空の食器の上にネットスーパーで購入したおつまみを広げて用意していく。見たことのない食べ物に興味津々な輝夜は、一つ摘まんで食べるとカリコリと乾いた音と知らない味に目を丸くする。
「とても、不思議な味・・・・・美味しい」
「肴のつまみに欠かせないぐらい、元の世界じゃあ評判の一品だ」
梅の酒、梅酒を漬けてる容器の蓋を外して、数個の梅と酒をコップに移し替えて輝夜に手渡す。
「・・・・・(コクコク)」
コップの縁に口唇をつけてゆっくりと味わうように飲んでいく彼女は、途中で息をぷはっと漏らす。
「甘い・・・・・これがお酒とは思えないほど甘いです」
「氷を作る際に砂糖も混ぜて凍らせた氷砂糖が甘く感じさせているんだ。これが美味しくなるまでは三ヵ月も漬けなきゃならん」
「途方もないほど時間は掛かりますのね。この梅はどうするのです?」
「食べるんだ。甘くておいしいぞ」
コップから取り出した梅をひょいっと口の中に放り込み、噛み砕いて食べる一誠の表情はとても美味しそうだった。輝夜も見習う風に漬けた梅を口の中に入れ食べてみる。噛むごとにアルコールのくらくらするような風味と氷砂糖の甘くて優しい味が一緒になってこれだけでも梅酒を食べている気分に浸らせる。
「美味しい、甘いっ。オラリオでこんな甘いお酒を飲めるなんて想像もしませんでした」
「さらにお湯もいれると体が温かくなる」
空気中の水分を集めて魔力で温めたそれをコップの中に入れてから改めて飲むと、二人の口から熱い吐息が零れた。
「はぁ~・・・・・満月を見ながら美味い酒を飲み美味いつまみを食べる。中々どうして風習があるなぁ」
「そうですなぁ・・・・・」
神楽が正座していた足を崩して胡坐を掻いた。ちょっぴり酒で赤くなった顔のまま一誠にしな垂れる姿勢で飲食を続けた。
「殿方とこうして肩を並べて酒を飲む日が来ようとは夢にも思わなんだ。あの訳の分からないモンスターに殺されて私の人生はもうお終いだと思っていたからなぁ~・・・・・」
口調がガラリと変わり今までの淑女、『大和撫子』のような言動から一変した。それでも一誠は何も変わらずに接する。
「はは、でも、今は生きてるから終わりじゃないぜ?」
「くふふ、私の命は貴方様の命で蘇った・・・・・つまりこの命は貴方様の物と道理であるな」
「どういう通理なのかわからないが、輝夜は輝夜だよ。あの夜空に輝く満月のように奇麗な少女は俺の隣にいる」
ほんのりと一誠も顔を赤らめていた。酔っているからなのか、キザなセリフを言って照れたからなのかわからないが、その言葉で輝夜の心は甘く震え一瞬押し黙った。
「その睦言ような口説きは他の女性にも言っているのであろう?女神様すら虜にしあれだけ多くの女性を交えているのだから」
「俺は普段女に対して滅多に言わないぞ。輝夜に対して言ったのは、その滅多に言わない睦言だ」
また押し黙る。誤魔化すように梅酒を飲み、身体が火照ると白装束を半ばだけ解いて外で下着姿になる。この場にリューやアリシアがいたら卒倒していただろう。が、生憎ほろ酔いな一誠しかいないので窘める者はいない。
「外で下着姿になったら風邪ひくぞー」
「だったら、貴方の温もりで私の身体を温めてくれればいい」
満月の下で一誠の足の間に割り込み露出した体を押し付ける輝夜は、そっと包み込むように抱きしめられた。己を触れてくるその手にゾクッと体が震え、両腕と両足を品なく男の身体に強く抱きしめ、距離が縮まった顔はどちらからでもなく唇を重ね快楽を貪るそれ以降、一つに重なった影は中々離れず外で夜を過ごした。