ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

97 / 129
冒険譚37

ディオニュソスの懇意でエルフの少女達と同居をすることになった。皆はいつものことだろうと軽く歓迎してたが、一誠の心中は懸念を抱いてた。何せ貴公子然とした男神と話をした昨日の今日のことだ。何のつもりで、どんな思いで二人を寄こしたかはわからないが一誠も軽く受け入れてしばらく過ごした頃。一誠は黙々とある作業に没頭をしていた。鼻歌をしながら楽し気に手を動かし組み立てていくその光景は見慣れているが、今度は何を作り出そうとしているのか興味津々なリヴェリア達であった。唯一、それがなんなのか察するアスナは感嘆の息を漏らし静かに傍観してたら声をかけられた。

 

「ヘルメスを呼んでくれないか」

 

 

 

 

「来たよイッセーくん!オレに何か頼み事があるのかな?」

 

飄々とした言動をする橙黄色の髪から羽付きの唾広帽子を外し喜色に満ちた瞳で、己を呼び出した一誠に訊くと肯定と頷かれた。傍には何やら敷物で何かを隠すようにかぶせていた。それも二つだ。

 

「一番初めに体験してもらいたいことがあってな。今年の運動会で競うための物をさ」

 

「ほうほう体験をねぇ~。それは一体どういうものなんだい?」

 

「これだ」

 

ヘルメスの促しで一誠は敷物を手に取って取り払った。かぶされていたのは光沢を発する黒い車輪が二輪と四輪がある乗り物だった。一目でそれは乗り物であることを察したヘルメスでも深く理解はできないでいた。車輪があるなら馬車や荷車なのだが、これは物を運ぶための物ではなく人が乗るためにあるためのものだ。見たことのない形の乗り物に好奇な視線で調べながら訊く男神。

 

「これは、乗り物かな?」

 

「そう。これを神であるヘルメスに試しで乗って貰って感想を教えてほしいんだ」

 

「俺を介して他の神々にも受けがいいか調べたいのかイッセーくん。でもどこで走らせるんだい?」

 

「専用の空間を用意してある。そこからでな」

 

一誠とヘルメスがいる空間に出入り口の他に出入り口があり乗り物を置いて二人は向かう。潜ると景色が一変した。キラキラと輝く星屑の空間の中に巨大で長大なコースに一誠が作り出した乗り物が数多に用意されている。その傍には二人を待っていたかのように上級冒険者達が佇んでいて、姿を見せたら乗り物に跨り乗り始めた。

 

「ここが走る場かい?あの乗り物といいまた何とも凄いものを作ったんだね・・・・・」

 

「中々だろう?」

 

ヘルメスは二輪、一誠は四輪の乗り物に乗ってスタンバイすると眼前に立体的な映像が大きく浮かび上がり皆に運転の仕方を教え始めた。他にコースにはスピードアップやアイテムの類もあることが補足説明され、全員が理解するまで三度も同じ説明が繰り返されたところでいよいよスタート開始のカウントダウンの秒読みが始まり、数字が0になると全員が一斉にスタートダッシュを始めた。風圧による抵抗感は一切感じないレース。絶対に放せないハンドルを握り一緒に走る競争者とコースを進みあっという間に、コース上に浮かんでいる虹色で疑問符がある箱を見つけた。それに触れた者や触れられなかった者の違いは、設定されたアイテムの使用ができるかできないかである。ヘルメスはアイテムを得れたので走行の邪魔にならない程度の大きさの立体的な映像に浮かぶ、ランダムで決まったアイテムを右のハンドルにある赤いボタンを押す。

 

するとバイクを取り囲むように具現化した亀の甲羅―――ではなく100cほどの一角兎(ニードルラビット)。攻撃アイテムを展開して直ぐに目の前に走る男神に向けて発射。滑り出すように駆け、鋭い角で後ろから突き刺して男神を真上に吹っ飛ばしたその隙に上位に食い込み先へ進むのだった。中盤になるとコースは何度もリングを描いてあんな場所を走れるのか、途中で落ちないのかと不安を抱いた皆を他所に一誠が誰よりも一番前に出ては率先してリングのコースを走り切って見せたので他の者達も続いて走り抜く途中、一番後ろから巨大な黒い物体がライバル達を吹っ飛ばしながら突き進んできた。

 

一番前にまで躍り出て上位に食い込んで見せたのは大笑のロキだった。上位争いが予想したが不意に一誠が速度を落として順位を譲る行為に出た。何でだ?と思った矢先にロキや他上位六人の頭上から光の柱が落ちて数秒間走行不能に陥った。五位以下の者達は入れ替わるように前に出て終盤に入った。そこは星降る危険地帯であった。幻想的な☆がコースに落ちて小規模の爆発を生じ周囲を巻き込む。落ちてくる際に影が生まれるので、その影のところに走らなければ当たらないことを知るがそれは二週目以降の時に気付く。初見の皆はそれに気付かず何度も星とぶつかって順位の入れ替わりが凄まじく激しかった。そしてようやく最初のスタート地点に戻ったところで二週目に突入するのだった。その後も多種多彩なアイテムを駆使してレースを競い皆、激しく勝ちに行きながらも楽しんだ。

 

「勝ちました!(1位ラトラ)」

 

「はっはっは!いやー楽しいねこれは!(2位ヘルメス)」

 

「うん、中々熱い戦いであったよ(3位フィン)」

 

以上の三人がトップとなりレースは終わった。他は悔しがったり残念がったりしながらも今回の体験には大いに楽しめた様子だった。ヘルメスに近づき感想を求める一誠。

 

「どうだったヘルメス。他の神々にも受けは好さそうか?」

 

「好さそうも何も、娯楽に飢えてる神々からすれば金を払ってでもやりたいレースだったよ!君の世界にはこういう勝負もあるんだね!ところであの乗り物は何て名前だい?」

 

「レーシングカートと言う。俺の世界じゃあレースにアイテムは使わない。けどここは異世界だ。異世界風にアレンジしたり俺なりのオリジナルにしてみた」

 

「そうかい。いやーそれにしても本当に楽しかった。いっそオラリオの名物にしてみないかい?きっと大儲けができるぜ?」

 

「ガネーシャも賛成だ!異世界の遊びは子供達を笑顔にしてくれること間違いなし!」

 

そうするための設備と場所が限られるので一誠は笑顔でこう言い出した。

 

「そこまで本気にしてほしいなら、『異世界食堂』を閉店しなくちゃならないけど。ああ、そうなったら愛用してくれる神々や冒険者達が二人に憎悪するだろう。自分達の楽しみを潰してくれやがって!ってな。特にロキとフレイヤ辺りが筆頭に【ファミリア】を潰すかもな。それでもいいならしてやるよ?」

 

「「ごめんなさい、今の話は聞かなかったことにしてください」」

 

揃って綺麗に頭を下げだすヘルメスとガネーシャ。

 

「あーでも、レーシングカートだっけ。外に走らせることってできないのかな?運動会にこれを取り込むならできるじゃないのかい」

 

「できなくはないけど、あまりお勧めはできないかな。これとは別の乗り物だったら行けない場所以外だったらどこでも走ることはできるが」

 

「それがあるなら、それをオレに売ってくれないかな!」

 

「うーん、まぁ、自分用だったら構わないけど。異世界の乗り物と俺が作るの、どっちがいい?」

 

「勿論、イッセー君のお手製が良いね」

 

「ガネーシャも欲しいゾウ!」

 

さり気なくガネーシャも便乗して二人とも大型の乗り物を欲したので数日後に叶えたのだが、ガネーシャはオラリオ内で動かすことは難しいので殆ど【ファミリア】内で異世界の乗り物として飾るが関の山だった。ヘルメスは頻繁にオラリオ外へ出ることはないので【ファミリア】内の置物に。

 

 

 

そうなることをまだ知らない一誠達はもう一度コースを走る事にして大いにレースを楽しんだその日の夜。一日の疲労感を全て蕩けさせる一糸まとわぬ姿で湯に浸かるフィルヴィスとアウラ。『幽玄の白天城』に住み着いて驚いた一つの浴場の中で「ふう」と一息零して湯の温かさを全身で感じる。

 

「今日も何もできませんでしたね」

 

「ああ、というか。私たちが何する事など一つもなかった。ここ一週間の彼の行動を観察して分かったことは」

 

ひとつ、休み以外のほとんどは『異世界食堂』に働いている。

 

ふたつ、休みはアイズ達の特訓の付き合いかダンジョンの探索。それ以外は何かの製作の作業を没頭する。

 

「これだけだな」

 

「『異世界食堂』は働けないですし、特訓については完全に私たちが弱く指導される側です。・・・・・彼女達は良くもあの地獄のような容赦のない指導を屈しませんね」

 

湯の中にいるというのにアウラの顔は少々顔色が悪かった。個人の自由の意思を尊重に一誠が休みの日であれば模擬戦や特訓を乞うことができるので、強くありたいアイズ達は一誠に鍛えてもらい実力を高めていく。が、その模擬戦や特訓は予想以上にシビアで、参加したフィルヴィス達はあっさりと疲労困憊になった自分達を、死体に鞭を打つ一誠に畏怖の念を抱いたのであった。

 

「ダンジョン以外で、死ぬかと思いました・・・・・」

 

「・・・・・そうだな。手加減を一切されずの一撃は死ぬな」

 

そしていったい何度も吐いたか分からない等と遠い目をして、これからも何度もこの城にいる限りそうなるだろうなと諦め混じりの吐息をする。ディオニュソスの神命も後押しして恩返しを果たしたいが、中々その機会が訪れずただ時が過ぎていくだけだった。しかも消費した命の分まで恩を返すとは何をすれば、どれだけすればいいのか後々になって二人に苦悩させることになった。一誠が命の危険に晒された時?否、その機会は殆どない。二人は知らないが第一級冒険者くらいの相手ではないと文字通り瞬殺されて歯牙にもかけれない強さを有している。

 

ならばどうする?のぼせそうになりながら思慮していて気付かなかった。ここ女性専用の大浴場に他の女性達も入ってきたことを。苦悩の面持ちでいるエルフの少女達を見かねて同種族の女性が声をかけた。

 

「どうしましたか」

 

金髪に空色(アクアブルー)の瞳、尖った耳に華奢な裸体をバスタオルで隠して尋ねたのは【アストレア・ファミリア】の眷族、【疾風】リュー・リオン。

 

「【アストレア・ファミリア】・・・・・」

 

「何か悩み事なら聞きましょう」

 

同じエルフとして悩みを聞きできうるなら何かに苛まれている者から解放してあげたい気持ちで同じ湯船に足を入れて体を沈める。フィルヴィスとアウラはそんな彼女が、他派閥がどうしてここにいるのか脳裏で一誠が言っていたことを思いだし、遠慮気味で問うた。

 

「あの、どうして他派閥のあなた方がこの城に住んでいるのですか?無所属派閥(フリー・ファミリア)になる前はイッセーは各【ファミリア】を転々と変えてはその眷族になっていて、派閥同士の接触は基本的に不干渉の筈でした」

 

「それは・・・・・」

 

答え辛そうに視線を水面打つ湯に落とし、水鏡で映る自身の顔を見ながら事情を説明した。

 

「私たち【アストレア・ファミリア】は彼に多大な恩を抱いています。それも二度も」

 

「二度?」

 

「この世界には転生者と言う異世界から来た者達がいるそうなのです。知っていましたか?」

 

「話だけは、彼も転生者だと?」

 

「違います。イッセーは生きたまま異世界に来てしまった者、異邦人という類の存在です。転生者は元の世界で一度死に、その世界や異世界の神に再び甦らせてもらいこの世界の【神の恩恵(ファルナ)】を、第一級冒険者をも越える超越の能力を得て異世界に転生する。それが転生者です」

 

第一級冒険者を越える能力を得る、それが転生者だということを改めて認識と知覚したところで転生者と彼女達とどういう関係が?抱く疑問の二人にリューは語った。

 

「【アストレア・ファミリア】はたった三人の転生者によって敗北し、この身を慰み者として穢されかけました」

 

「「っ!?」」

 

「私たちだけではない。無関係の者達にまで拉致して己の欲望の捌け口として私たちの尊厳や誇り、人権を踏み躙り犯そうとした。あの王族(ハイエルフ)や最大派閥の美の女神もそうされかけた」

 

王族(ハイエルフ)まで!?と驚きを隠せなかった二人は目を皿のように見開き呆然と口を開いたまま固まった。そんな話は一度だって風の噂ですら聞き及んでいなかった者としては寝に耳に水な話だ。驚くなと言う方が無理があるだろう。リューはその時のことを思い出しながら視線を上に目を細める。

 

「だが、全てを理不尽に奪われる直前に彼がやってきてくれた」

 

「イッセーさん、ですね」

 

「ええ、そして私達が手も足も出せなかった三人を相手に異邦人としての力を解放して全てを凌駕して打破したのです。私達のために怒り、転生者に激怒したあの時の彼は―――世界で一番、神よりも強かったかもしれない」

 

「「・・・・・」」

 

「助け出された私達は、彼に感謝をし恩義の為に懇意の関係を築きました。・・・・・殆ど異世界の料理をたかる形で」

 

ああ、何となくわかる。自分達の主神も一時期、異世界の料理をたかりに来たことがあるのだから。他人事ではないと無言で貫かれ気まずい雰囲気が三人の間で漂うもわざとらしくコホンと咳をするリューが話を続けた。

 

「二度目は私達と敵対していた最後の闇派閥(イルヴィス)の砦であった【ルドラ・ファミリア】との交戦でした。ダンジョンの中で追い詰め、あと一歩のところで私だけ残して全滅と言う異常事態(イレギュラー)が起きました」

 

「それは、怪物の祭り(モンスター・パーティ)?」

 

リューはその答えを否と言えなかった。実際アレはそんな生易しいものではない。全てを蹂躙する冷酷無比の破壊者(ジャガーノート)は並みの冒険者では無条理に命を狩られるだけ。肯定も否定もしない、沈黙を貫く彼女に二人は追及しなかった。辛かった過去をほじくり返す真似はエルフが抱く矜持に反する故に。

 

「その時も彼がやってきてくれたのですか?」

 

「・・・・・ええ、そうです。申した通り私以外の者達は死に、仲間を失って怒りと悲しみに暮れさせる暇も与えず言ってくれました」

 

『まだ絶望するな、リュー』

 

『まだ悲観に打ち震えるな。まだこの惨劇に嘆くな』

  

『まだ希望は残っている。お前の仲間を甦らせることができるんだからな』

 

『だから少しだけ待っていろ。―――直ぐに終わらせる』

 

と、自分に語り掛けてくれた励ましは本当に現実となりその日から【アストレア・ファミリア】は変わったのだとリューは言った。

 

「これが二度目の救われた話です。後に彼が己の命を代償に仲間たちを蘇らせたことを知り、恩返しをしたい私達に女神イザナギ様が助言をアストレア様に告げたようです」

 

「それは一体・・・・・どんな方法なのですか」

 

「・・・・・そ、それはっ」

 

一番知りたかった情報が、自分達と同じ恩返しを思っていた者からの話に真摯な眼差しを向ける。

―――しかし、何故かリューの顔が耳まで真っ赤に染めて物凄く恥じらってはとても言えないと顔を俯く。どうしたのだろうと見てたら後ろから影が現れた。

 

「私達の身体をイッセーに差し出すのが唯一出来る最上の謝礼だと、仰ったそうです」

 

「「っ!」」

 

突然聞こえてくる声。振り返れば目を細めて二人を見下ろすタオルを片手に輝夜が佇んでいた。

 

「私達の魂はあの方の魂を得て甦ったもの。ならば、女が命の次に大切な貞操、処女―――この身体で捧げるのが当然ではなくて?」

 

「輝夜・・・・・余計なことをこの二人に言うな」

 

「余計なこととは心外です。このお二人が何の目的であの方の傍に在ろうとしているのか知ろうと来てみれば、潔癖症のポンコツエルフが教えないから代わりに教えたまで」

 

アウラの隣に足を入れて湯船に浸かる輝夜の口はさらに開き続ける。

 

「失った寿命は戻らない。死期を早めた結果にしてしまった彼に私たちがしてあげられることは限られております。恋慕の云々はともかく、命がけで救ってくれたイッセーに恩以上のことをして返すのが道理ではないですか?」

 

掛けられた指摘の言葉にリューは口を閉ざし押し黙る。さらに輝夜は畳みかけるように言い出す。

 

「命を懸けた恩返しは想像以上に難しい。私たちも彼に命を懸けて恩返しをしようにもイッセーは私たちの力など不必要なまでに強すぎる。共に冒険をしようにも彼はたった一人であっさりとモンスターを一蹴し階層を踏破してしまう。『異世界食堂』で働くことも吝かではございませんが、それはそれで恩返しになるのかわからない」

 

輝夜は湯の中で下腹部に手を触れる。

 

「ですからイッセーが喜ぶ恩返しをする他ございません。イザナミ様が言う恩返しを」

 

「じ、自分の体を差し出す・・・・・っ」

 

顔を赤くして輝夜が言った恩返しを復唱する。フィルヴィスの呟きの言葉を耳にしてより一層に顔を赤くするリューは体を縮こませる。初めて身体を預け肌を重ねた夜を鮮明に思い出しながら。

 

「あ、あの方もそれを望んでいたのですか・・・・・」

 

「いいえ、『勝手にしたことだから気にするな』と言われました。お二人にもそう言われたかお聞きしているかどうかわかりませんが、イッセーは恩着せがましい方ではございませんし、私たちを一人の女として尊重してくださいますから・・・・・イッセーを慕う方々と共ぼ―――協力し合ってその気にさせて昂らせ、気持ちよくなってもらいました」

 

いま、共謀って言うおうとしなかったかこのヒューマンは。

 

「その気にさせたって、望んでもないのにどうやって・・・・・」

 

「媚薬と精力剤で」

 

「「び、びっ・・・・・せ、せいっ・・・・・!」」

 

湯が沸騰したように一気に顔を紅潮したフィルヴィスとアウラ。うら若き少女達には強い刺激的な言葉で思考が停止し掛けた。

 

「ふふふっ、本当にあの時のイッセーは凄かったです。何十回も身体を重ねても体力も精も衰え知らずで私たちが性欲の虜になるのは時間もかかりませんでした。そこにいるエルフだって彼に求められたら普段は絶対に出さない喘ぎ声を―――」

 

「―――――!!!」

 

もう聞くに堪えないと湯船から出ようと立ち上がって飛び出そうとしたが途中、何もないところで転んだ醜態を見せたリューに輝夜は心底呆れ、フィルヴィスとアウラは呆然として視界に入れていた。

 

「まったく、この程度で動揺して・・・・・だからお前はポンコツエルフと言われるのだ」

 

「ポ、ポンコツではありませんっ・・・・・!」

 

「ポンコツであろう。媚薬と精力剤の効き目が絶大で欲望と性欲に忠実になってもおかしくないあの方は鋼の理性で以って紳士的に求めたというのに、お前はたったの一度の交わりで誰よりも早く気を失ったではないか」

 

「そ、それは・・・・・!」

 

「気を失ったお前をイッセーは気を遣ってそれ以降は求めなかった。それなのに情けないと思わないのか」

 

口調が変わった輝夜の言い分にぐうの音も出ないのは自覚しているからこそであって、当人も気にしていたようであった。輝夜は言葉を続けた。

 

「それっきりお前とアリーゼや他の者達もイッセーの尊重に甘えて身体を交えようとしない。―――たかが処女を捧げた一回きりで彼が私達のために削った命の代償を、恩を返したと思っているのか?相手が良い思いをさせてやればそれで十分と?」

 

鋭い眼付きで、冷然とした口調で。

 

「―――ぶぁ~~か~~めぇ~~~。私独自の考えだがそんなので足りる筈もなかろう。アストレア様は今でもイッセーに対する深い感謝と私達の為に毎夜身体を重ねているのだ。私もそうだ。本来死んでいるはずだったこの命を甦らせてくれたあの方には深い感謝と共に憧憬を抱いている。だから惜しまず嬉々としてこの身を捧げておるのだ」

 

その口調のままフィルヴィスとアウラへ向けられた。

 

「どんな目的でイッセーに近づいたのかわからないが、生半可な気持ちで恩返しするなら自分の【ファミリア】に戻ることを薦める。命懸けの恩返しはそんな軽薄に返せれないのだからな」

 

「「・・・・・っ」」

 

「この城にいる殆どの女性や女神はイッセーを慕い身体を重ねている。そうでもなく恩を返したいがどうやって返そうか苦悩し、己の命の次に大切なものですら捧げれないポンコツ精神では恩返しなど到底無理な話だ」

 

お前達もポンコツエルフと同じだとフィルヴィスとアウラは自分たちにも指摘された気がして微妙な面持ちとなった。最後に言い残しながら輝夜は湯船から立ち上がり見下ろしながら告げた。

 

「―――もしも捧げる覚悟ができたならば、ご協力は惜しみません。あのお方に救われた者同士ですから」

 

 

 

一方、同時刻。【アルテミス・ファミリア】ではリビングキッチンにヒーロー組の異邦人達が集っていた。若干空気が緊張で張り詰めていて皆の顔は焦燥の色が滲み浮かんでいる。異世界に来て今年で三年目。元の世界では自分達は今頃高校三年生と進級しているはずの次期であって、このまま来年も過ごすことになれば己の夢も叶えなくなる。異世界に戻れる術はある。が―――三〇〇〇万ヴァリスと四十人の団員の確保の条件を異世界を行き来できるすべを有している一誠から突き付けられている。ヴァリスの方は問題なく貯蓄できている。問題は団員の方だ。冒険者、ひいては【ファミリア】に入ってくれる無所属(フリー)の一般市民の勧誘は至難の業なのだ。今日まで集まったのはまだ十人も満たない。

 

「・・・・・どうしよう」

 

「どうするも何も、俺達の代わりとなる人を集めなきゃあいつは絶対に帰してくれないだろ」

 

「でもよ、ここまで人を集めるのが難しいなんて・・・・・」

 

「冒険者は命と隣り合わせの職業なのです。誰もが死にたくないことをしたがらないのも無理はありませんわ」

 

「不人気ではないんだろうけど、もっと簡単に集まるものかと思ってたぜ」

 

「うーん・・・・・何がダメで足りんのかなぁ・・・・・」

 

自分達に何か足りないものでもあるのか。それが何かわからない面々は苦悩、唸り声を漏らし勧誘の成功を必死に考えるが頭の中から妙案は出てこない。

 

「―――あー!あの野郎、オイラ達の気持ちを知っているはずなのに悪魔のような意地悪をしやがって!」

 

「意地悪って、そんなことないと思うよ峰田君。元の世界にいる兵藤君だって帰りたがっているのは僕達も知っているでしょ?」

 

「うむ、今の俺達は兵藤君と同じ状況だ。この世界にいる彼だってそうだろうし責めてはダメだ峰田君」

 

「だったら元の世界に帰れる魔法を手に入れたら帰らないはずがねぇよ!オイラ達の事なんて二の次で自分だけ先に元の世界に帰ってたかもしれねぇよ絶対にさ!」

 

「それは否定できないけどよ、あいつまだこの世界にいるんだぜ?きっと俺達が人を集めるまで待っていてくれてると思うぜ」

 

「そうだな。俺たちを元の世界に帰す約束をしている以上はこの世界に留まるつもりでいると思う」

 

「一緒にしたら怒られるけど、約束は絶対に守るところはやっぱり一誠さんと同じだよね」

 

拳藤の一言にほぼ全員が肯定や首肯する。一誠の事で怒り・文句・疑心などが浮上するも何だかんだで元の世界にいる同一人物と考慮して落ち着く生徒達を見守る大人達は静かに語っていた。

 

「・・・・・一度、話をしてみるか」

 

「玉砕される前提で頼むのかイレイザー」

 

「このまま合理的ではないだけだ。こいつらの可能性を潰したくもないからな」

 

「では私も行こう!」

 

「オールマイトは来ないでください。ややこしくなりますから」

 

一蹴されて落ち込むオールマイトの姿を見ずやや気落ちしている生徒達の姿を見つめる相澤。

 

「キリトにも手伝ってもらうか」

 

 

―――†―――†―――†―――

 

 

「ダメだ」

 

一蹴された。翌朝城に赴いて出会い頭ではないもの、煮えたぎる巨釜の中にある液体をミスリル製の道具で掻き混ぜている様子を見ながら要件を言おうと口を開きかけた瞬間、一誠が有無も言わせず遮って拒絶をした。

 

「・・・・・何も言っていないが」

 

「大方言いそうなことはわかってる。元の世界に帰らしてくれ、だろ」

 

相澤を見据えながらの指摘に本人は口を閉ざし見つめ返す他できなかった。

 

「指定した団員の数はまだまだ届いていない。四十人以上という人数が一気に減れば【アルテミス・ファミリア】の戦力は激減するのは火を見るより明らかだろ。しかも異世界独自の異能を持っているから実力は個々によって第二級冒険者ぐらいかそれ以下。そんなお前らがいなくなれば【ファミリア】の立場と地位に落ち目になるのはわかり切っている。せめてお前らの代わりとなる人数ぐらいは集めないと少なからずアルテミスは大変だ」

 

「理屈も道理もお前の言う通りだ。しかし、あいつらはまだ子供で生徒だ」

 

「俺も元はそうだったが?キリトもそうだった。―――だからなんだ」

 

と呆れ混じりの吐息をする一誠は淡々と述べる。

 

「俺だって夢を抱いていた。キリトもその筈だ。だけど俺達は元の世界に戻る術はまだなかった。今は昔と違って別の世界に繋げることができるようになったが、俺はお前らよりも先にキリト達を元の世界戻すことを決めている。そのつもりだったけど・・・・・」

 

また溜息を吐いて相澤から視線を切り上げて、キリトに視線を向けた。

 

「三人も孕ますなんて想定外な事をされたから困ったもんだよ浮気男」

 

「・・・・・」

 

気まずそうに眼を泳がせる黒髪黒目の黒の剣士。

 

「キリト、お前達は元の世界に帰るつもりか?これだけは教えてくれ。元の世界に行くなら二度とこの世界に戻れないんだからよ」

 

「・・・・・俺だけは決められない。一度皆と相談しないとわからないんだ」

 

「元の世界に帰れるのに相談しなくちゃならないのか?ま、エギルはこの世界で店を構えるようだからすぐに手放せないか」

 

「・・・・・すまない」

 

「本当だよ。俺も早く元の世界に帰りたいんだからな」

 

「帰っていないのか?」

 

「お前らの誰かに文句を言われそうだから帰ってねぇよ」

 

神妙な顔で一誠を見つめる相澤。実際一人の生徒、峰田がそう文句を言っていたので自分が肯定すれば心底呆れるか辟易されていたかもしれなかった。

 

「律義なんだなお前は」

 

「そんな性分だよ。もっと冷たくて薄情な性格だったらお前らの事情何て知らないって切り捨てて先に帰っていたのに。それができないからこうしてこの世界に居続けているんだからな。俺も甘ちゃんだってことだろうな」

 

そのおかげで自分達はこうしていられているので感謝の念を抱いている。

 

「本当にダメなのか?あいつらも必死に生きて頑張っているんだが」

 

「その程度、どこの世界の人間や動物に異種族だって同じだ。それともあいつらが特別なのか?神よりも?」

 

「・・・・・そういうわけじゃ」

 

「そうじゃないなら贔屓するな。他に元の世界に帰りたい連中はいくらでもいるんだからな」

 

床に置いてある調合用の素材等を魔法で宙に浮かせ、巨釜の中へ投入しさらに掻き混ぜていくと液体が黄金色の輝きを発するようになり、それが完成としてなのか高級そうな空き瓶の中へ次々と注入していく。相澤はそれが気になり訊ねた。

 

「・・・・・さっきから何を作っているんだ?」

 

回復薬(ポーション)。うちのフリーの治療師(ヒーラー)に渡す商品だ」

 

「そんなこともできるのか」

 

「やり方がわかればできる。問題は完成した作り手の物の品質が問われるけどな」

 

そう言うだけで自分から何も言おうとしない一誠。キリトは困り顔に、相澤は黙り込み本当にどうすれば話を通してくれるのか苦悩していると、全ての瓶に蓋をして箱に入れ終えてバックパックに詰め込んだところで三人がいる部屋に「一誠」と顔を出した―――アスナ。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

相手の顔を見合わせる形となったアスナとキリト。久しぶりの再会した瞬間に微妙な空気が漂い始め、口を閉ざしているアスナへ「どうした」と一誠が声を投げた。

 

「あ、うん。一佳ちゃんがキミに話がしたいって」

 

「愛の告白だったら断るって言っておいてくれ」

 

「あ、あははは・・・・・それ以外だったらいいんだね?」

 

「・・・・・まぁ、なんとなーくだが、要件はこいつらと同じだろうな。一応目的を聞いてくれるか」

 

え?と相澤とキリトに視線を送るアスナ。何の話をしていたのかアスナは知る由もないので、二人を丁寧に帰ってもらった後は入れ替わるように一佳がやってきて。

 

「・・・・・」

 

恐縮そうに身体を委縮して言い辛そうな彼女の顔をリビングキッチンに招き入れたアスナと一誠。今の彼女がいつ言い出すのかわからず、事前に訊いてもらったアスナから聞くことになった。

 

「今年で高校三年生になってしまった一佳ちゃん達は異世界に戻って学校生活に戻りたいんだって」

 

「ふーん、ま、そんなことだろうと思ったがな。―――ダメだ」

 

「・・・・・っ」

 

拒否されて肩を震わせる一佳。

 

「アルテミスに対する恩を返すまでは何年かかろうと帰さないと前、言ったよな。ヒーローになる奴が恩返しもせずにさっさと自分の世界に帰るのか?はっ、そんなんで本当に心からヒーローになれて、胸張って顔を上げられるのかよ?」

 

「・・・・・そ、れは」

 

「俺が一方的に恩返しをしろと言ってもアルテミスは感謝の言葉だけで済ませて恩返しはしなくていいというかもしれないがな、最低限の礼儀をするのは当然じゃないのか?キリト達に拾ってもらい屋根ある下で衣食住ができるようになったのは【アルテミス・ファミリア】が在ったからこそだ。お前たちがこの世界に来てしまってその翌日。無知のまま街中を彷徨っていたら冒険者に襲わられ、神々から悪戯に娯楽的な意味で見世物に晒され、ギルドからは各【ファミリア】に討伐か捕縛の命令をされていただろう」

 

オッドアイの奥に宿る絶対零度の冷たさから滲み出ている眼差しが一佳を見据え、冷淡的に発する言葉を口にするために一誠は口を開いた。

 

「お前らの感謝は言葉だけで済ませるほど軽薄なのか?だったら俺はヒーローになってもお前らがヒーローであることを心底から認めれない、受け入れないな。俺個人の気持ちだがな」

 

「―――――」

 

「それでもいいなら帰してやってもいい。ただし条件付きだ。たかが一人の感想程度でお前らが恩知らずでいられる厚顔無恥を称賛してな」

 

辛辣な言葉に条件付きが課せられた。話を黙って聞いていたアスナは素朴な疑問として訊ねた。

 

「条件って・・・・・?一佳ちゃん達ができること?」

 

「いや、できないな。俺しかできないことだ。―――こいつらの世界にいるもう一人の俺を元の世界に帰す」

 

「えっ・・・・・!?」

 

「何を驚いてる?異世界に行き来できる術を得ている俺は異世界にいる俺とも会うんだ。元の世界にいる家族と会いたいのも知っているはずだ。だから俺自身の手で送り返す。この機を逃せばもう一人の俺はもう元の世界に帰れないかもしれないんだ」

 

心底から不思議そうに首を傾げられた。一佳は初めて狼狽した。もう一人の一誠を元に帰すのが条件。ヒーロー組はもう一人の一誠が異世界から来たという事実は周知である。それが叶うならば応援するとも決めている。だが、己の心がそれを・・・・・。

 

「(一誠さんが、元の世界に帰って二度と会えない・・・・・)」

 

「数十年から百年しか生きられない人間の寿命は気が付けばあっという間だ。人間を止めない限りもう一人の俺はいつか必ず孤独感を襲われ苛まれる。それは俺もそうだ」

 

「・・・・・」

 

「これは他人事じゃないから言っているんだ。あいつの幸せを思っているんなら、お前は二つの選択を突き付けられる。―――永遠の別れをして夢を叶えるか、夢を捨て一緒にもう一人の俺と元の世界に行くかだ。できれば俺は後者を選んでほしいもんだがな」

 

「悩む時間は与える。その時間はお前らが決めろ」と一佳に言葉を投げて転移式魔方陣でホームへ転送した一誠は、広いリビングキッチンにアスナとだけになった状況で問うた。

 

「アスナ、今の会話を聞いてどう思った」

 

「・・・・・かなり厳しいことを言うなって。あの子達の気持ちを知っているから余計にそう感じたよ」

 

「それが正論かどうかは決め兼ねてるが、俺は言った言葉を訂正もしないし後悔もしない。ではないとこっちまで躊躇して悩み、確固たる判断ができないし前にも進めない。元の世界で何度も教わって体験も経験もしたから」

 

 

 

 

【ファミリア】のホームに戻された一佳は皆に今までの話を伝え、どうするか顔を暗くしたり曇らして苦悩してしまう。

 

「兵藤を元の世界に帰すのは反対じゃない。あいつは帰ることを望んでいるのは俺たちも知っている」

 

「それができるのはこの世界にいる兵藤だけだから、二度とないチャンスだって意味でもあるよな」

 

「オイラたちを元の世界に帰すのがそれぐらいなら、賛成だぜ!」

 

「ただ―――厚顔無恥で恩知らずなヒーローだと言われっぱなしなのはな・・・・・」

 

「確かにな。しかも同じ顔の兵藤を見てるとあいつじゃないのに、顔を会わせると未だ言われて、思われている気がしてな」

 

帰りたいが好き勝手に言われたままなのは癪だ、と難しい顔をする面々を他所に五人の少女たちは複雑極まりない心境だった。夢を取るか愛を取るか。突き付けられた究極の選択に元の世界に帰るよりも難しく考え込んでいる彼女等を同じ世界の仲間たちは気づくことはなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。