ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚39

嵐が過ぎ去るのを二日間も待ったことで皆が待望していた巨大な虹が空に現れてしばし一同はその美しさに目を奪われた。虹の出現からしばらくしてどこからともなく、モンスターの鳴き声が聞こえてきた。

 

「情報通りモンスターも来たな。よし、俺達も行くぞ。空を飛べるアイズ達は船から降りてモンスターを追いながら先導してくれ」

 

すぐさま騎空艇を稼働させて空からモンスターの行く先を追いかける。森林の上から見え隠れするモンスターの走行に目を配らせるアイズ達は先頭に位置して一誠達を先導する。何かを目指して駆ける怪物達に便乗して飛び続けると有翼のモンスターまで明後日の方角から飛んできて、さらに地上のモンスターと同じ方角へ向かっていくのを視認する。

 

「ふ、船が浮かんで、飛んで・・・・・っ!?」

 

傭兵達が可哀想なほど自分の中の常識に逸脱した現実に、甲板から近づかず、震えて緊張と恐怖に半ば混乱しかかって仲間同士と身体を寄せ合い座り込んだり、柱にしがみついたりして気持ちを落ち着かせようとしてた。

 

「えっと、中に入りますか?」

 

「け、結構だ。わ、私は大丈夫だ気にするなっ」

 

どう見ても大丈夫そうに見えないなー。一誠の横に陣取って座り込むエレオノーラも仲間と同じな彼女の言動に思わずにはいられずアスナは、傍に立って話をして恐怖を紛らわせようとするのだった。

 

空に黒く細長いのが蠢きながらどこかへ飛んで行く様の正体、有翼のモンスターを追いかけること数十分。朝日に照らされて出来ている虹の先まで辿り着いた。

 

「イッセー、大きな虹色の実があった!」

 

大きな?戻ってきたアイズの言葉に首をかしげ、甲板から下へ覗き込むアスナ達もその目で確かめ認知した。

 

 

地上から数Mの樹木にヤシのようにいくつも虹色の実が生えていた。場所は緑が一切ない荒れた地。その木に群がるモンスターの数はダンジョンではお目にかかれない膨大さで、既にいくつか地上に落とされていてモンスターに虹色の実を食べられていたが、他の同胞や同族同士による争いが地上を埋め尽くす中でどこもかしこも見受けた。まだ落とされていない実にも有翼のモンスターに張り付かれ、食べられているも地上と同じくモンスター同士の虹の実の争奪戦をしていたのだった。中には竜種もいる。

 

「あれが虹色の実・・・・・ここまでくればさすがに香りが凄いな」

 

「いや、感心してる場合じゃないって!もうお目当ての果実が食べられてるじゃん、イッセー!」

 

オラリオから再び騎空艇に戻ってきたルノアの焦りの叫びが操舵のところにいる一誠の耳に届く。

 

「わかってる。ここまで来たからには絶対に捕獲する。実に群がるモンスターをどかして騎空艇に運んだら直ぐに離れるぞ」

 

「全部採るの?」

 

「全部だ、といいたいところだけど三個だけ残しておこう。もしかしたら実の中にあるかもしれない種がまたここで芽吹いて虹色の実を実ってくれるかもしれない」

 

それに一個や二個で満足できるか、と言いたげな一誠が騎空艇の高度を下げてから地上へ飛び下り、すべてを切り刻む嵐を召喚して虹色の実を群がるモンスターを蹂躙し始めた。傍目から見ても凄い勢いで嵐に巻き込まれて舞い上がり、数を減らしていく様子を見ながらリヴェリアは指示を出した。

 

「私達は虹色の実に取り付いてるモンスターの駆除だ。これ以上食わせてはならない。空を飛べる者、魔法や長距離の攻撃ができる者は騎空艇に近づくモンスターを迎撃をするのだ」

 

二手に分かれて得物を片手に騎空艇から飛び下りて実に張り付いてるモンスターを一掃し始める。片や魔法の詠唱を始め、唯一対物ライフルで射撃するシノンは大型のモンスターを撃ち貫く。地面に着弾すると魔法が発動してさらに周囲のモンスターも小規模に巻き込む実弾は特注品の魔法の弾。今回が初めて使用する対物ライフルの使い心地に満足しているようで口元を緩めている。

 

「いいわねこれ」

 

「す、凄いです。弓、ではないですよね?」

 

「ええ、そうよ。銃っていう名前の武器で弓矢より速く、もっと遠くに攻撃が当たるの」

 

「イッセー様がお創りになられた物なのですか?」

 

「違うわ。でも・・・・・案外あいつなら作れそうな気もしないわね」

 

「はい、イッセー様は凄いですから」

 

非戦闘員の春姫を始め、魔法による砲撃型の魔導士も騎空艇に待機し且つ周囲の状況を把握して異常を発見次第報告を任されてる。他、有翼のモンスターの接近を警戒、迎撃してもらうためでもあるが彼女より適した存在がいた。風と炎を纏い、得物にも迸る二人の少女が黒い影の中に突っ込み引き裂くようにして飛び回り、確実に数を減らしていた。

 

「アイズ、あれをやろ!」

 

「ん、わかった」

 

肩を並べて虹色の実へ向かう有翼モンスターへ属性付加の剣に魔力を込めて振り下ろす。

 

「凄まじいな。二人の実力とイッセーの武器の能力がそうさせるか」

 

空に横向きで発生する嵐に炎が付与すれば業火の嵐と化して大半の有翼のモンスターを呑み込み一瞬で灰化にしてみせた二人の戦果に、リヴェリアは称賛の念を抱いた。

 

「そうですね。でも、地上の方がよっぽどおっかないですけど」

 

魔法の矢を番い地上へ放って一気に数匹を屠るアリシアは、暴れまわる様に荒れ狂いながら動きモンスターを蹂躙している一誠の魔法に畏怖の念を覚えてた。今ではもう虹色の実に張り付いているモンスターはおらず、一種の防衛線を敷いている一誠達が最後の一匹まで狩り尽くす勢いで攻め込んでいた。その間、エレオノーラ達『銀色の獅子』団や『異世界食堂』の皆が巨大な虹色の実を捕獲して騎空艇の甲板へ持ち運ぶ。

 

「ルォオオオオオッ!」

 

そこへ運よく猛攻から免れ、目当てのエレオノーラ達が樹木から採ろうとしている果実へ狙う有翼のモンスターが突っ込んできた。当然彼女達も気付き、迎撃態勢に構えた。が、狙いは虹色の実であって邪魔する彼女達を諸共巻き込んで樹木の大きな葉から突き飛ばした。すぐさまアリシアが樹木にまで傷つけない普通の矢で有翼のモンスターの頭を貫いたが、地面に落ちようとしている彼女等を助けるまではどうすることもできない。頭から落ちていくエレオノーラを誰も間に合わず、見張った目で潰れる瞬間をスローモーションで見るしか敵わずにいたところ。

 

金色の翼が彼女達を全員受け止めて死から救って見せた。

 

「これは・・・・・?」

 

柔らかい何かを認知して己を受け止めた物を確かめながら目を動かすと、一誠の背中から伸びていることが分かった。あの男はヒューマンではなかったのか?という疑問が湧くが、助けられた事実と今は考える時ではないことを思慮して仲間たちと共に虹色の実の捕獲に臨んだ。

 

 

指定した数を残し他全てが載せられたことを確認したリヴェリアは、腕輪で地上にいる一誠達に告げさせ引き下がらせる。虹色の樹を伝って騎空艇へ戻る一誠達。直ぐにこの場から離れようとすると、未だ森の奥から後続として現れたモンスターの群れが残された虹色の実がある樹に群がった。

 

「どれだけモンスターを夢中にさせるのですかこの実は」

 

離れて行きながら遠巻きで彼の様子を見ていたアスフィが唖然としつつ騎空艇の甲板にあるオパールのように七色に輝いている、あちこち食べられた虹の実を見て唖然とする。その実から芳醇な甘い香りが発生して唾を飲む何人かがジッと凝視していた。

 

「アスフィ、この実を何かしらのアイテムに作れるんじゃないか?」

 

「モンスターを誘引させるものならば可能でしょうね。既存している肉罠(トラップ)より効果がありますし」

 

「だよな。それに・・・・・ミア、これの果実酒作ったら儲かるんじゃね?」

 

「そういうんだったらこっちに寄こしな。あたしがとびっきり美味い酒に作ってやるよ」

 

「俺も作ってみたいから勿論だ。それにある神にも頼んでみようかな」

 

一体誰?という視線を皆が送るも、言った本人は答えずエレオノーラに声をかけた。

 

「見ての通りかなり状態が悪いけど大丈夫なのか?」

 

「捕獲すら極めて難しかった虹色の実を初めて手に入れたのだ。状態の良し悪しを王族や商人が言うなら分けてもらうつもりの全てをお前達に譲る」

 

「いいのか?」

 

「いいんだ。お前達のおかげで手に入ったようなものだし、私達は殆ど何もしていないからな」

 

エレオノーラの気持ちを汲んで頷き、魔法のカードで虹色の実を収納する。そしてヴァベルーに近づく。

 

「ヴァベルー、実はどのぐらい欲しい?」

 

「一つだけで十分ですよ。何せ大きくて私達共では何個も捌けそうにございませんから。それに幻の虹色の実の用途をこれからイッセー殿に試してもらいます」

 

「ヴァベルーのお目にかかるとすれば酒しか思いつかないんだがな」

 

「果実ですからデザートや飲み物にもなるかと。楽しみにしておりますイッセー殿」

 

苦笑いする他ない一誠自身もそれらを試行錯誤して試さなければならない。失敗を繰り返して初めて成功例が挙がるのだから無駄にしないよう注意せねばいけなくなるわけで、ヴァベルーに期待されていることからそれに応じようと臨む一誠はアスタール国へ騎空艇を進めるのであった。

 

 

アスタール国。オラリオから遥か彼方の北方にある古代から神時代―――現代まで栄えている国。神時代に時代が変化しても国は変わらず今日まで不動を貫き存在し続けたが、アスタール国を知っているのは彼の国の周辺の町村か数日もかかる遠いいくつかの小国や大国のみ。それ以外となると完全に関知されておらず、存在すら知られていないある意味では人跡未踏で前人未到の国だった。

 

「―――面を上げ」

 

『銀色の獅子』団達がアスタール国の傭兵として虹色の実の発見から今日まで誰もなし得なかった虹色の実の捕獲を、その実ごと荷台に乗せ城下町中で見せびらかしながら訪れた。誰も見たこともなく嗅いだことがない甘い匂いを発するその実を本物として受け入れ彼女達を讃える現国王。

 

国へ戻った彼女達を見送った一行は不可視の魔法の結界を張って、国から離れた草原のところで停泊させていた騎空艇の甲板で用意した椅子に座ってテーブルを挟んで待っていた。

 

「お待たせ、完成したぞー!」

 

快晴な言葉と共に一誠が艇の中から台車を押しながら魔法で宙に浮かせたクロシュで被せた皿を運んできた。一同は待ってましたと意識を向け、自分の目の前に置かれた皿やスプーンを視界に入れた。

 

「初めて見た食材だからゼリーにしてみた。見てびっくりするぞ開けてみてくれ」

 

一斉に手を動かしクロシュから皿をどかし―――目を皿のように見開いた。白い皿の上にプリンのような形をした七色のゼリーは果肉から加工されたためか、果汁が蒸発して小さな虹ができていた。

 

「な、何これ・・・・・ゼリーに虹が目の前でできてるんだけど、魔法でしているの?」

 

「魔法の演出だと思われるのはしょうがないけど、正真正銘その虹色の実のゼリーから出ているんだ。作った俺でも驚いたぐらいだぞ」

 

「凄いです・・・・・虹を見ながら食べるなんて初めての経験です」

 

「実の温度は5℃に保っている。時間が経つつれに温度が上がり味も変化すると思うぞ」

 

「冷たくないの?」

 

「一年中太陽の光を浴びた地面だから植物も温かったのは認知しただろ?まぁ、憶測を説明するより早く食べよう。皆の頑張りでようやく手に入れたんだからな。―――いただきます」

 

『いただきます』とそれが食べる合図であったかのように、皆はスプーンを取り出しゼリーを掬い取る際にプリンのように柔らかく金のような重さを感じ取った。そしてゼリーを食べた瞬間。全員の口の中で―――七回も七つの味が変わるという体験したことがない味わい方をしたのだった。

 

「は、はっはっは・・・ははははは!何だこれ、超面白れぇー!」

 

「っ――――!!!お、美味しい!」

 

「しかも何かの味かはわからないけれど、全部甘くてまるで味のデパートねっ」

 

「数種類の味を楽しめる料理は元の世界にもあるのだけれどこれは・・・・・」

 

「比じゃないってことは確かだ。初めてだぞこんなデザートは」

 

異邦人と転生者が味わったことがないデザートに驚きを隠せなかった。リヴェリア達も言葉を失う程の美味であることを窺わせ、一誠はヴァベルーに絶賛した。

 

「ヴァベルーありがとうな!【ヴァベルー・ファミリア】の情報のおかげでこんなデザートを作ってしまったよ!」

 

「いえいえ、こちらこそ貴重な体験をさせてもらって感謝したいぐらいですよイッセー殿。あなた様のおかげで私達は更に幅広く情報を得られたのですからね。そして虹色の実の加工にはかなり期待を持てることを確信しました。果実酒もきっと私の想像を越える一品となるに違いない!」

 

「だ、そうだミア。オラリオに戻ったら早速酒作だ!」

 

「あいよ。こんな前代未聞なデザートを食べたからには挑戦しないわけがないよ」

 

「人工的に栽培できる挑戦もしなくちゃな。これは試す価値があり過ぎる」

 

「できるのか?種があったのか?」

 

「あったよ。だからこそ挑戦してみたいんだ。庭園とダンジョンの中でどう育ちが違ってくるのか試したくなる」

 

嬉々としてそう語る一誠に誰一人否定しなかった。逆に手伝おうという気も湧いて共に栽培して成功を果たしたくなったのだ。こんな、太陽のように笑う男と一緒に喜ぶために・・・・・。

 

それからしばらくして、『銀色の獅子』団が騎空艇がある平原にやってきた。甲板からその姿を確認して不可視の結界を解き、上がってもらうとエレオノーラは一誠に頭を下げた。

 

「あなた達の協力のおかげで王に虹色の実を届けることができた。深く感謝申し上げる」

 

「それはお互いさまだ。俺達も虹色の実を加工して食べたら面白い体験ができた」

 

「食べたのですか?味は、どうでしたか?」

 

「口で語るより直接食べたほうがわかる。皆の分も作って用意しておいたから食べてくれよ」

 

人数分のゼリーを用意して待っていた一誠の催促に恐縮しながら果汁で虹が浮かぶゼリーの前に座り、エレオノーラ達も実食した。次の瞬間、身体を震わせる。

 

「こ・・・・・これが虹色の実の味っ」

 

「あの実をそのまま食べたほうが良いかなって思ってデザートにしてみたんだ。それが成功して皆も美味しく食べてくれた。フルーツの王様の称号に相応しいと思わないか?」

 

「思わない方がおかしい。この実を捕獲するためにどれだけの苦労をしてどれだけの被害が遭ったか。ああ、納得のいく味だ・・・・・」

 

七度も変わる七つの甘い味に感動して尻目に涙を浮かべた。他の傭兵達も今日までの苦労が報われたようでゆっくりと噛みしめ完食を果たした。

 

「結果はどうだった?」

 

「献上できた。お前達をさすらいの旅団に協力してもらった後に去って行ってしまったと報告をした」

 

「律義だな。事実とは言え、自分達の手柄にしないのか」

 

「虚偽を言うつもりはない。私達はお前達と出会えたことが運が良かったのだ。来年からは我々だけでも対処ができるようにしてみせる」

 

できるのか?と訊くとエレオノーラが一誠に苦笑する。

 

「無理だろうな。あの数のモンスターを既存している私達傭兵だけでは到底どうすることもできない」

 

「・・・・・お前達はこれからどうする?褒賞は貰ったんだろ」

 

「一生、とまではいかないがしばらくは遊んで暮らせれる大金は貰った」

 

すると、エレオノーラ達が立ち上がって腰に下げていたその褒賞金を差し出すように突き出した。

 

「我々からのお礼として受け取ってはくれないか?」

 

「いや、何言っているんだよ。それはお前達の物だ。あの実を手に入れただけでこっちは儲けたもんだからその褒賞金は受け取れないって。それにアスタール国とオラリオの通貨が違うから使えないぞ」

 

やんわりと拒否されてしまい困惑の表情を浮かべるエレオノーラ。であるが、一誠も困ったように息を吐いた。

 

「律義な奴からの恩返しとか感謝とかこっちは腹いっぱいで破裂しそうだよ」

 

「そうなのか・・・・・?」

 

「ああ、そうだよ。だけど、そうだな・・・・・くれるなら貰う。いいか?」

 

「あ、ああ勿論んだ」

 

急に手のひらを返したように感謝の印を受け取りだす一誠。全員から貰うと―――今度はエレオノーラ達に全部手渡した。どういうことだ、と怪訝な顔つきで一誠を見ると不敵な笑みを浮かべていたのだった。

 

「お前らは傭兵だよな?」

 

「は?そうだがそれがなんだ?」

 

「なら、金を払ったらしばらくは雇い主の傍にいてくれるんだよな?」

 

まさか、と一誠の発言にエレオノーラは言葉の深意を察し、信じられないものを見る目で瞠目した。彼女の反応に気付いたかとほくそ笑む一誠は口を開いた。

 

「今手渡したのは、俺がお前達を雇いたいから払った金だ。全員、俺の元で働いてもらうぞ?」

 

「私達を雇うなんて・・・・・何を考えているんだ」

 

「不満か?雇う理由なんて大したことじゃない。―――人材確保と護衛に虹色の実の栽培の手伝いをしてもらうためだ。俺の【無所属派閥(フリー・ファミリア)】の傘下としてな」

 

 

 

「イッセー、すっごく顔を輝かせてる」

 

「傭兵と言えど地上のモンスターと戦える実力があるからな。そこに目を付けたのだろう」

 

「あざといなおい。『異世界食堂』の従業員をあんな方法で増やすなんて」

 

「イッセーさんの人を集める方法って普通だと感じるのに、断られたことってないですよね?」

 

「私達が見ている前でじゃあそうだね。まぁ、断られたことはあるでしょうけど」

 

「仲間が増えたって事で認識するべきですね」

 

と、身内からそんな話声が聞こえたかどうかはわからない一誠は決定事項だとばかり騎空艇を稼働させ、一気に転移魔法でオラリオに戻ったのだった。

 

―――†―――†―――†―――

 

その日、アスタール国から戻った【無所属派閥(フリー・ファミリア)】は各々と城の中へ戻り、エレオノーラ達を案内したり【ヘルメス・ファミリア】と【ヴァベルー・ファミリア】と別れたりして一区切りついた。早速とばかり虹色の実の種を庭園に植え、ダンジョンの18階層にも植え終えると虹色の実を収納したカードを持ってある場所へ向かった。

 

「こんにちはー!」

 

来訪の声を上げて存在を示す一誠が立っている場所はとある【ファミリア】のホームの前。ここに求めてる主神がいるはずだが、誰一人として扉を開けて出迎えてくれる気配もなければ、中には冒険者の気配も感じない。もぬけの殻なのかと思ってしまう。留守かと思い出直そうとした一誠の横から朗らかに声を掛けてきた。

 

「お、イッセーやん。奇遇やな」

 

「ロキ?どうしてここに?」

 

【ロキ・ファミリア】の主神にして女神の彼女が手を挙げて近寄ってきた。一誠の問いにロキは当然のように言い切った。

 

「そら自分、ソーマに用があるんや。酒を貰いに来たんやで。イッセーは?」

 

「俺もその男神に依頼をしに来たんだ。にしても意外、ロキはソーマと面識があったんだな。まぁ、納得できるけど」

 

「いや、ないで?」

 

「ない?」

 

おかしな話だときょとんとロキを見つめる。酒を貰いに来たんやと言うのだから、酒狂いなロキが顔を会わせるのは初めてだという。それなのに酒を求めに来た?と。

 

「ソーマァ!うちや、結婚してくれー!」

 

「アホか!?」

 

と、目の前で突然叫び出す女神にツッコミを入れる一誠だった。次の瞬間、どうして大通りで漫才をしなくちゃならないんだと苦悩している一誠を他所に、無人のホームにシカトされたからか、腹立ってる様子で同等と不法侵入をしてみせるロキに頭を抱えて、元主神が問題を起こさないよう見張る必要があると自己完結、ロキの後を追うのだった。

 

「ロキ、無粋な家捜しは止めろよな。フィン達に言いつけるからな」

 

「分かっとるって。にしても子供のひとっこ一人もおらんやん、ここの【ファミリア】は」

 

「総出でダンジョンに行くほどの事が起きてるんじゃないか」

 

部屋という部屋をしらみ潰しに探していくロキについていく。このホームに目的の神物がいないならば出直すしかなく、結局ホーム中を探し回って見つからず最後に庭園があるか、そこにいなければ改めて訪問をすることになり外へ出て庭園を探すと、在った。

 

庭園と畑を耕している神物が。二人はその男神に近付く。

 

「よぉ」

 

「こんにちは」

 

「・・・・・いらっしゃい」

 

挨拶は交わした。一誠は目的の神に依頼を乞うた。

 

「神ソーマ。ある果実を使った酒を作って欲しいんだけど」

 

「・・・・・」

 

耕している手が止まり二人の方へ振り返ったソーマ。体格は中背。青年の神だ。体の線は細くどこか繊細そうな印象が見受けられる。ゆったりとしたローブに似た服は、袖や裾の辺りが土色に薄汚れていた。全くまとめられていないぼさぼさの髪と長い前髪でソーマの目が目視出来ないが、明らかに畑に向けていた意識をこちらに向けたのは確かだった。

 

「どんな果実なのか見せてほしい」

 

「んと、これだ」

 

一枚のカードを取り出し、召喚する。モンスターに齧られた生々しい跡が全体にある粗悪品と見られて仕方がない虹色の実を。状態が悪くても果実から香る甘い匂いは健在でロキとソーマの鼻にも嗅ぐわせる。

 

「これなんや?大きくて好い匂いするんやな」

 

「遥か北方に野生している虹色の実だ。大量のモンスターを誘引させるほどの香りを放つこの実を酒に造ってほしい」

 

「ちょ、まてぃ!それってここオラリオにもモンスターが押し寄せてくるんちゃうんか!?」

 

「その時はその時で責任を以って駆逐するつもりだ。で、神ソーマ。依頼引き受けてくれるか?」

 

再度問うその言葉にソーマは「わかった」と軽く了承した。

 

「ああ、あとこの蜂蜜も酒に造ってほしい。全部出来上がったら『異世界食堂』に来てくれるか?」

 

「『異世界食堂』・・・・・お前は異邦人の者か。ならば異世界の酒はあるか」

 

「異世界の神ソーマの酒もあるよ」

 

どんな反応を示すか見たくて言うと距離を縮めてきたソーマが「飲ませてくれるか」と頼み込んできた。

 

「依頼を完遂した後ならいいよ」

 

「わかった。費用はどれぐらい出せる」

 

「一億で充分だろ?」

 

あっけらかんに述べるので「ぶッ!?!?」と吹くロキ。用意周到に莫大な金銭を軽く現物としてカードから召喚しソーマに亜麻袋の中身を見せつけた。

 

「任せたよ。満足のいく酒ができるのを待ってる」

 

「期待は裏切らない。直ぐに始めよう」

 

収納できるカードの詳細を説明して虹色の実と蜂蜜、一億ヴァリスを収納してから手渡しついでとばかりにロキの話しを聞いてもらえないかと言う。

 

「用件は?」

 

「ずばり、本物の(ソーマ)を恵んでほしいんや、この通り!」

 

あのロキが誠心誠意を込めて腰を折ってお願いしだした。物珍しい光景を一瞥してソーマの答えはどうなのかと見やれば。真摯な眼差しで言った。「だが断る」と。その際、強い意志を見せ一誠に不思議さを感じさせた。ロキから憤怒の気配を醸し出していたが宥めてやってから紆余曲折あって【ファミリア】のことについて訊き出すことができた。そして一誠は一言言う。

 

「神ソーマ。ずさんな【ファミリア】の管理をこれからもしていると、そのうち必ずギルドから運営自粛とか罰則(ペナルティ)を受けるぞ。思うがままに酒が作れなくなるのは確実だ」

 

「・・・・・ならどうすればいい」

 

そんな未来、事態が現実になることが嫌なのか打開策を求めたソーマ。

 

「団員達と酒を作る日々を送ればいいんじゃないか?探索系じゃなく生産系【ファミリア】として」

 

「それは無理だ。子供達に稼いでもらわないと作れなくなる。酒造は金が掛かる」

 

それは承知の上だ、と一誠も言い返して提案を挙げた。

 

「今まで作ってきた酒を商人相手に売ればいいんじゃないか?異世界の商売のやり方をやらせてくれば、神ソーマの酒が有名になれば商人達から依頼の発注をしてくるようになるかもしれないし」

 

「・・・・・異世界のやり方で私の酒が本当に今より売られるようになるのか」

 

疑心暗鬼は払拭できずとも興味はあるようで、問うソーマに首肯する。

 

「今すぐじゃないが、全の力を駆使すれば必ず売れるようになる。そうなったら一番大変なのは酒を作る神ソーマ達だ。返答は酒を完成してからでいいよ。この提案は強制じゃないし純粋に【ソーマ・ファミリア】にはこれからも酒造を依頼したい思いで言っている。個人的には今のずさんな【ファミリア】の管理でギルドから罰則(ペナルティ)を受けてほしくない。だから―――主神のあんたに【ファミリア】と団員達の管理の改善してほしいと願っている」

 

それだけ言い残してロキをこの場に残して去ろうとするとロキも追従するように、一誠の背中に続く。中庭に残されたソーマは何を考えているのか神のロキでも分からないことで、今後【ソーマ・ファミリア】が改善するかは主神次第であった。

 

「イッセー、何でソーマにお節介したん?」

 

「そういう風に聞こえたんなら間違いでもないけれど、純粋にこれからも依頼をしたいのに運営を自粛されたら依頼するこっちが困るからだよ。店の為にあの男神に今の状態の【ファミリア】を危ぶませる匂いを嗅がせた」

 

帰り道、素朴な疑問をぶつけるロキに素直な気持ちを言葉にして言った一誠に、朱色の髪を首と一緒に横に傾けた。自分が知るこの男の本心はまだ何かを隠しているんじゃないのかと、再度訊ねた。

 

「そんだけか?」

 

「ん?他に何があるんだ?兎も角、あの虹色の実の酒を試飲してもらうからな。ちゃんとした感想を言ってくれよ。店に出すんだから」

 

「うはっ、それは楽しみや!てか、自分が飲まんかいな」

 

「神の舌を信用することにした」

 

何だか初めて頼られた気がして、新鮮な気分で嬉しくてたまらず一誠の背中に飛び乗ってはそのまま大通りを歩きまわせたのであった。

 

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