一般市民から見たボーダーの景色。   作:あなからー

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 もしかしたらこんな感じかもしれん、という妄想から生まれました。案外ボーダーの外では普通に学生してそうだよね、みたいな。


21歳組①

 ここは三門市。四年ほど前にあの化け物が来て、ボーダーなんて組織が出来て色々と変わってしまった街。

 

 ……とは言ってもここの大半の人間はこれから先も普通に生活を送るだけだ。変わったといえば、学生の就職率くらいだろうか。というのも、なんでもボーダー隊員は若い子ばかりだという。ちょうど俺のような大学生くらいの歳でも、もう隊員の中では年長だという話も聞いたことがある。アイドルみたいな話だな。大人になったら卒業でもするのだろうか。その時は結婚発表はしない方向でお願いしたい。あれのせいで最近弟の機嫌が悪いんだ。ただでさえ面倒な性格が更に面倒になってしまう。

 

 

 

 そういえば、あいつらに見せる課題をとっとと終わらせないとな。曲がりなりにも折角守ってもらってんだから、これくらいはしてやらなければ。まあ、もしあいつらが隊員じゃなくても、きっと俺は友人としてあいつらに課題を見せるために迅速にこれを終わらせるんだろうが。

 

 早朝の図書館で暫く課題と格闘し、それを終わらせた後に教室に向かっていると、後ろから声がした。

 

「見守、おはよう」

 

「ん? ……ああ、お前か蒼也」

 

 声の主は蒼也だった。こりゃ丁度いい、今のうちに課題を渡しておくか。

 

「おはよ……あ、これ課題ね」

 

「助かった。何時も済まないな、見守」

 

「いいってこった、メシ奢ってくれりゃ充分だ」

 

「善処しよう」

 

「いや、確実に実行しような?」

 

「冗談だ」

 

 ぐぬぬ、このイケメンが。何を言っても結構画になるのが腹立つ。

 

 

 

 

 

 ああ、そうそう。

 

 俺、上月見守(かみつきみもり)は一般人だ。それも気まぐれで一応受けてみたボーダー試験に当たり前のように落ちた、正真正銘のノーマルピーポー。

 

 まあ敢えて他より優れている所を上げるとすれば勉強が得意って所と足には自信があるって所。あとこれは優れているとかそういうことじゃないけれど……。

 

「お前は確か、今日は3コマだったな」

 

「そうだな。1,3,4限。蒼也は5限までだっけ? 大変だねぇ、休み明けだってのに」

 

「学生の仕事は学業だからな。それに知識はあって困らない」

 

「そりゃ間違いない」

 

 頭脳明晰、運動バッチリな小型万能人間、風間蒼也の親友なんてポジションにいつの間にか居座っていたことだろうか。理屈っぽい所とストイック過ぎる所が玉に瑕だけど、顔も素行もいいので女の子からの人気は高い。だけど蒼也は全く気づいていない。なんでや。

 

 あと頭脳明晰の意味を間違えて捉えないで欲しい。蒼也は確かに賢いが、だからと言って成績が特別いいわけじゃないからな。寧ろそれについては俺のほうが上だ。えっへん。いや、蒼也より評定のAの数が多いってだけなんだけどね。寧ろ色々と忙しい(らしい)のにそこそこ高い評定を残す蒼也がおかしいんだよなぁ……。あれ、自分で勝ち誇ってて虚しくなってきた。慣れない事はするもんじゃないな、うん。

 

「うっす、上月」

 

 心の中で落ち込みながら話を続けていると、またも俺を呼ぶ声。この声はあいつだ。

 

「ようコータロー、朝から1本吸ってきたな? 大学では禁煙だぞ」

 

「分かってるよ、しつけぇな」

 

 

 

 あと、俺は二つ目の声の主である諏訪 洸太郎の友達もやらせてもらっている。見た目は完全にチャラ男というか、まあ悪く言えばウェイ系なんだがその実性格は気さくで面倒見の良い奴だ。だから見た目を気にしない奴らからの人気は高いし、その明るさも相まって(勿論蒼也よりも数は少ないものの)一部の女子からはスゲー人気を博している。まあ、コイツも気づいてないけど。ボーダーには恋愛に鈍感であること、みたいな決まりでもあるのかね。普段からモテねーって愚痴られてる身にもなって欲しいもんだ。

 

 

 さて、この二人はボーダー隊員だ。しかも、蒼也はなんでもA級3位? らしい? まあ俺はホームページなんて見ないから分からないのだが、どうやら妹によると彼は凄く強いようだ。

 そしてもう一人、木崎レイジという筋肉モリモリマッチョマンのやべー奴もボーダー最強の部隊にいるとかなんとか。

 

 更にこの三人、なんと部隊長をやっているのだとか。そんな奴らとダチの関係になっている俺。

 

 いやあ、これは人気者だ。俺もさぞモテるに違いない……なんてね。

 

 俺は別に蒼也みたいに特別モテる訳でもないし、コータローみたいに人望があるわけでもない。勿論、今日は来ていないレイジのような万能人間でもない。

 どうしてそんな俺がこいつらとこうしていられるのかが謎ではあるのだが、まあこれも一つの縁なのだと今では思っている。蒼也に関しては中学の頃から仲良かったってのもあるけどな。

 

 ま、兎に角だ。今やるべきことは一つ。

 

 

 

 

 

「あと2分で授業始まるぞ」

 

 そう言って教室へ激走することだ。授業前に世間話なんかするもんじゃないな。

 

「ちっ、そういう事は早く言え! 諏訪、走るぞ!」

 

「ああっ、上月の野郎もう走ってやがる! おい待てゴラァ!」

 

「ふはははは! さらばだ二人とも!」

 

 これでも身体能力には自信があるんだ、ちっさいのと煙草すってる野郎にはそう簡単には負けんぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追い抜かれた。蒼也に。追いつかれたんじゃなくて追い抜かれた。いつも思うんだがあいつなんてスピードしてんだ、バケモンか?

 え、コータローはって? あいつは……良い奴だったよ……。アイツは煙草を止めないからな……。

 

「おい、勝手に殺すんじゃねえ」

 

 気づいたら後ろの席にコータローが座っていた、息を切らせている事から、大分真剣に走ったことが分かる。

 

「間に合ったのか、意外だな」

 

「おい風間ァ、何が言いたい?」

 

「いや? それより講義が始まる。静かにしろ」

 

「このチビ……!」

 

 

 

 隣で醜い争いをしているが良い子な俺は関わらない。蒼也クンそんな嫌味なキャラだっけ? という突っ込みもしない。慣れてるからな。

 こんな風によく言い争いをしている二人だけど、別に仲が悪いわけじゃない。ストイックな蒼也とユルいコータローでは価値観が色々と違うだけだ。二人はソレを理解した上で友人付き合いをしているから、俺はこの二人の仲を心配したことはない。

 

 だけどそろそろ止めないといけないな……なんて事を思いながらふと別の席を見ると俺たちを見てヒソヒソを話をしている女の子たちがいた。どうせこれだから男子は、みたいな話だろう。煩くてすまんなと思いながらその陰口に耳をそばだてた。

 

「やっぱり時代はかざす……」

 

「いや、……みすわかもしれない……」

 

「案外……みきざとか……」

 

 ……いやホント、聞いた俺が悪かった。そうか、君たちは三次元でもイケるクチなのか。そういう一貫性、俺は嫌いじゃない。だけど俺を巻き込まないでくれ、頼むから。これ以上は俺の精神にも関わるので聞き耳を止める。授業授業!

 

 

 

 

 

 ……へー、諏訪は受けタイプなのか。

 

 

 

      *

 

 

 

 さて、三門市において、ボーダー隊員の扱いには幾つか種類がある。

 

 例を挙げると、まず憧れを持ちスターのような扱いをする奴。これは俺の見る限り、小学生や中学生が多い。

 次に、腫れ物扱いをして遠ざけようとする奴。これはどの年齢層にも一定数存在する。まあ、全員に好かれる組織なんて存在しないだろうからいて当然でもあるな。

 他にはツテを利用してサインをねだる奴、アイドルのような扱いをして、当然のように作られているファンクラブに入る奴、女の子の部隊服をエロい目で見る奴……等々。勿論隊員だからと言って扱いを変えない奴もいる。俺はこの部類に入っている……筈だ。

 ボーダー隊員だから、と特別扱いされるのは性に合わない……とはコータローの弁だ。他にもそういう考えを持つ子は多いらしい。三人で飲んでいた時にその話を聞いて大変だなあと溢した事は記憶に新しい。ついでに酔った蒼也に「そうだ! 分かるだろう!?」とダル絡みされた事も記憶に新しい。俺のお気に入りのシャツ汚したことは今でもちょっと恨んでるぞ。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで1限が終わった。次は空きコマなので三人で食堂へ。そこで駄弁っている内に、ふと気になることがあった。

 

「そういえば蒼也、暫く来てなかったけど単位は大丈夫か?」

 

「公欠の申請はしているから出席点のある授業は問題ない。……だが、試験となるとかなり不味いな」

 

「ふ~ん……」

 

 そっか、と返して少し考える。

 

 まあこいつの事だから単位を落とすことはまずないだろう。だけど、最後に少し不安が現れたのを俺は見逃さなかった。

 

 ……。

 

「なあ、蒼也」

 

「昼飯一週間分」

 

 いいね、話が早い。

 

「いいだろう。契約成立だ」

 

「ああ」

 

 蒼也と手を握った。

 

「というわけで、はいこれ」

 

 鞄から蒼也の取った講義にこっそり入って要点を記したノートを取り出して渡した。

 

「いつもすまないな」

 

「俺からすれば”まいどあり”だよ」

 

 友人ならば見返りは欲さないべきだ、という人がいる。そしてそれは正しいと俺も思う。だが、これはビジネスなんだ。

 講義内容の一言一言を聞き逃さずノートに記す仕事があり、それには給料が発生する。だから俺が蒼也に向けて、俺のノートとは別々に作った、講義の要点を記したノートにもまた給料が発生すべきなのだ。

 

 

 

 ――というのは嘘で、ただ蒼也が借りを作るのを嫌うから結果として昼飯の奢りに繋がっているだけだったりする。

 

 こんな感じで、この程度の会話であれば単語やニュアンスで内容が通じる俺たちだが、どうやら分からなかった奴がいるらしい。

 

「お前らはテレパシーでも使ってんのか? 圧縮言語が多すぎだろ……ったく、おい上月」

 

「ん? ほらよ」

 

「おう、サンキューな」

 

 ガムを欲しがっていたので渡した。大学内は禁煙だから、口が寂しくなってきたらしい。煙草止めたらいいのに……とは言わない。

 

「お前も圧縮言語を使っているだろうが」

 

「るっせ。俺は良いんだよ」

 

「お前が良くて俺が駄目な理由を教えろ。今すぐにだ」

 

「たく、面倒くせえな! 第一――」

 

 そしてこんなふとした事から口論が始まるのもこの二人の常である。そしてこの二人を宥めるのが、俺やレイジの常だ。

 

「あーもう、ホント君ら仲いいね。でもここ公共の場。オーケー? 取り敢えずステイステイ」

 

「……すまない」

 

「俺らはペットか!」

 

 そう突っ込んで唸るコータローを見て、思わず「そうだな」と口に出しそうになった。ここで肯定をすると余計怒られるのだ。見守知ってるよ、ここで「蒼也は小型犬とかか?」などと口を滑らせると酷い目に合うんだよ。だから言わない。沈黙は金、これ大事。

 

 それより、この話題に決着をつけないとまた言い合いになりそうで面倒だ。終わらせておくか。

 

「はい、この話は俺が理解出来てるからいいって事で終わり! さ、今のうちに飯買いに行くぞ。早くしないと混み始めるぜ」

 

「ちょ、おい!」

 

 半ば無理やり手を引っ張って注文カウンターへ足を進める事で口論を終了させた。結構強引だけど、まぁこんなもんだろ。話の受け手がいいと言っているのだから話し手二人は大人しく納得するしかない。

 

 

 

 ま、そんなこんなで三門市は今日も平和だ。明日もいい日になりますように。




 かざすわ派です(迫真)
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