堕天使転生   作:火影みみみ

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「あらら、死んじゃうみたいっすねぇ……」

 

 どこにでもあるような小さな公園、その上空にうちは浮いている。

 眼下に広がるありふれた風景の中に一つだけおかしなものがある。

 

 死体だ。

 いや、正しくは死にかけている少年と言ったほうがいい。

 まあ、腹に風穴開いてるからその内すぐに死体になるのは確実だけど。

 

「このまま死んじゃうのはもったいないっすけど、神器がある以上いつかはこうなる運命なんすよねぇ」

 

 神器を宿したものの運命はここ200年で何十人も見てきたが、どれもこれもろくな運命をたどった人間しかいなかった。

 たとえ目覚めたとしても神器を扱え切れずに死ぬか、自身を殺す輩と戦い続ける一生を送るか、どちらにしろ普通の人間としては過ごせなくなることは自明の理。

 それならば今のうちにさっさと神器を抜いて、そのあとに生き返らせた(・・・・・・)方がいい。

 神器がなければただの少年、ついでに記憶も消しておけば堕天使もただの一般人と好き好んでかかわっていくほど暇ではないはずだ。

 

「そういえば、あの少年の神器って結局なんだったっすかね?」

 

 気になり公園へ降りて、少年に近づ――きかけて止める。

 

「おっと、このタイミングで召喚っすか?」

 

 少年が持ってたチラシが淡く光りだし、召喚用の魔法陣が広がる。

 うちはその様子を両手を口に当てて静かに見守る。

 

「あなたね、私を呼んだのは」

 

 魔法陣から現れたのは赤い髪の女子高校、いや、悪魔だ。

 

「どうせ死ぬなら、その命私が拾ってあげる」

 

 そう言って彼女が取り出したのはチェスの駒。

 あれは確か……、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)と呼ばれる物。

 悪魔の駒、それはチェスの駒を模した道具で人間や妖怪でも悪魔として転生させることができる力があったはず。

 そのポーンのようなものを一つ置き、首をかしげる。

 そして追加のポーンを足していき、八つになったところでようやく赤く光る。

 

「まさかポーンを八つも使うことになるなんて」

 

 そういう彼女の顔はどこかうれしそうだ。

 悪魔の駒の転生条件にマスターの力が大きく関わってると聞いたことがあるので、八つでやっと転生できるくらい少年には才能があったということになる。

 上層部が危険とみなしただけのことはあるってことっすね。

 

 そしてそのまま赤髪の悪魔は少年を連れ去りどこかへ去ってしまう。

 ずっとそばにいた(・・・・・・・・)うちに気が付かないまま。

 

「あらら、これは面白いことになりそうっすねぇ」

 

 あの少年は本来殺さなければいけないが、悪魔の傘下に入ったことからうかつに手をだすわけにはいかなくなった。

 まあそれは重要なことじゃない。

 問題は彼が生き延びたということ。

 うちの経験上、こういう場面で生き残るような奴はたいがい殺そうとしても死なないような奴が多い。

 そして、そのどれもが見ていて面白い(・・・)

 

「うん、手を出しちゃお」

 

 そう決めるとうちは翼を羽ばたかせてその場を去る。

 早く帰らないとレイナーレに何を言われるかわかったもんじゃないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はわぁ~~」

 

 廃れた教会の裏の森。

 その木の枝にもたれかかり、長い欠伸をもらす。

 

 結論から言えば、あの少年のことは一応スルーするという方針になった。あっちから襲ってきたり一人でのこのこといたりしたら狩っていいらしいが。

 翌日あたりにドーナシークが狩りかけたらしいがあの赤髪が邪魔したらしい。

 残念そうなレイナーレだったが、それもすぐに切り替えて次の計画に取り掛かることになった。

 もうすぐここにやってくる追放された聖女、アーシア・アルジェントの神器を抜き取りレイナーレの物とする計画。

 神器を抜かれた相手は死ぬため、もちろんこのことはアーシアには伝えていない。

 

「……正直、潮時っすかね」

 

 ここも中々堕天使っぽくてよかったけれど、さすがにこれは目に余る。

 上からの命令ならともかく、私利私欲で殺人を犯すのはさすがにアウト。

 レイナーレのところに身を寄せてもう一年近くなると思うけど、できればもう少し隠れ蓑にしていたかったと思う。

 変に有名な組織にいるとアザゼルとかコカビエルとかやってきて面倒だから、こういう末端の組織の方が案外盲点になって助かっていたのに。

 

「となると新しい住居も必要っすよね、……なら適当なところにマンションでも借りたほうがよさそうっす」

 

 あの少年を監視する以上ある程度近い方が望ましい。

 そう思うと木から飛び降り、教会へ歩き出す。

 

「あー、いや、ちょいまち」

 

 そういえばあの少年、重度のおっぱい好きだったような。

 確かアーシアって子は胸はそこまで大きくないけど、彼ならたぶんストライクゾーンには入ってるくらいには美少女だったはず。

 回復系の神器は珍しいから悪魔なら自分の眷属にしたがるに違いない。

 しかし彼女は近いうちに殺される。

 なら、それを彼が助けたらどうなる?

 古くから続く典型的なボーイミーツガール、彼女の命の危機に颯爽と現れ助け出す。

 そしてその神器の珍しさと助けられた恩から彼女が悪魔に転生すれば?

 

「ふ、ふふふ、いいっすねいいっすねぇ、すっごく楽しめそうっす」

 

 いくつか問題はあるけどそのつど修正していけばいい。

 堕天使のもとに身を寄せる少女だ、きっと悪魔でもやっていけるはず。

 ここ一帯を支配してる悪魔はあまちゃんって噂だし、きっと大丈夫。

 善は急げ、その諺に習うようにうちはすぐさまきびすを返し、空へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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