息抜きなんで続きは期待しないでください。
――――第三次聖杯戦争。
西暦193×年に冬木の町で行われた魔術師達の願いを掛けた戦争。
始まりの御三家だけでなくナチスやユグドミレニア、果てには日本陸軍までもが介入したこの争いに僕達は勝利した。
結果論ではあるものの聖杯を手にした僕と14歳ぐらいの少女、魔術師の英霊たるサーヴァント、キャスターは(真名をメディアという)手に入れた黄金の杯を前に息を呑む。
何という魔力の塊、小聖杯だというのに凄まじい。これなら願いが叶ってもおかしくは無いだろう。
「おめでとうございます、マスター。この聖杯戦争は貴方の勝利です」
笑みを浮かべたキャスターの言葉に、此方も笑みを返す。
きっと僕一人では勝ち抜けなかっただろうし、彼女でなければ優勝も出来ずに敗北していたことだろう。
本当に僕は運に恵まれてる。
しかし、どうしたことか。
どんな願いも叶えられるという願望器、それを前にして僕は迷いを隠せずに居る。
本来の正しい使い方をするのならば、僕は残ったサーヴァントに令呪を使い、キャスターを自害させなくてはならない。
そうしなくてはこの聖杯は本来の機能を発揮しない。
そもそもこの聖杯戦争は第三魔法を再現する、もしくは7つの英霊の魂を杯に焚べることによって世界に穴を開け、根源の渦に至ることが正しい使用方法だ。
魔術使いとはいえ元は魔術師の血統だ。
根源の渦に興味が無いというわけではない。
だがキャスターを犠牲にしてまで欲しいかと言われたら嫌だと言える。
「マスター。私のことはお気になさらないでください。私に願いはありません」
キャスターはいつも通り、野に咲く花のように可憐な笑みを浮かべている。
しかし、その手は僅かに震えていた。
僕は知っている。彼女が痩せ我慢していることを。
そもそも彼女の伝説は悲劇と不幸に満ちた物だった。
幸せに満ちた人生が英雄イアソンとの出会いで一転し、不幸のどん底に落ちてしまった。
弟を殺し、子を殺し、挙句の果てには夫の筈のイアソンからも捨てられる。
同情するなんていうのは言葉にすれば簡単だし、それが彼女を侮辱することにもなるというのは分かっていた。
だが悲しいとしか思えなかった。
「…………そう、か。分かったよ、キャスター」
手中に収まる、実体の無い黄金の杯は奇跡を起こす。
六体もの英霊をくべた杯ならば、それこそ並大抵の奇跡だって起こせそうだ。
だがこの杯を前にして、僕はどんな願いを言えば良いのだろうか。
この先、間違いなく戦争は激化するだろう。
大日本帝国は間違いなく敗北し、国民は困窮することになる。
その前に若者が死んでいくのが先か。
どちらにせよ、俗物のように大金を求めてもそれはあっと言う間に消費する資源にしかならないわけだ。
ならば、僕が求める願いは――――、
「ならキャスター、令呪を持って告げる」
最後に残された令呪に魔力を込めて起動させる。
「これから僕が言うことを、素直な気持ちで語って貰いたい」
「……………えっ?」
自害せよ、そう告げると思っていたのかキャスターは驚きを隠せない様子でいた。
令呪はサーヴァントに対する抑止力でもある。その最後の一つをこんな事に使うとは思っていなかったのだろう。
でも、僕はこうしたかった。今までずっと一緒に戦ってくれた彼女に答えてほしかったのだ。
「キャスター…………いいや、メディア。僕は君の事が好きだ」
僕の発言にキャスター、メディアは身体の動きを止める。
「あまり、こういうのは得意じゃないし…………むしろ苦手だから、素直に伝えるよ。メディア、僕と一緒に居てほしい。これから先の未来をきみと一緒に過ごしたい」
これが僕の素直な言葉だった。
人が人を好きになるのに理由なんかいらない。それが例え大昔の外国の御姫様であったとしても、後に魔女と呼ばれ恐れられることになる相手だったとしても、僕はメディアのことが好きになっていた。
例え断られたとしても悔いはない。死ぬほど後悔するかもしれないけれど、それでもやらないよりはマシだった。
「だからメディア。僕はきみの返答を聞きたい」
令呪によってメディアは今、嘘偽りの無い言葉しか言えない。
本当に卑怯な男だと思う。でも、こうでもしないと彼女は消え去ってしまいそうだったから。
英霊はあくまでこの世界の影法師、本来ならば現世に居てはならない存在だ。
だけど、聖杯ならばその不条理を壊すことが出来る。奇跡を起こす杯なのだからこれぐらい出来て当然だ。
だがそれにはメディアの意思が必要だ。無理矢理一緒に居るのは、彼女にとって辛いだけなのだから。
「私は―――――」
メディアは口を開き、僕の問いに答えた。
+++
大日本帝国の領土であるかつて蝦夷と呼ばれた大地。
ここは本土にある冬木の町と違い北国である為か、比較的気温が低かった。
息を吐けば白い煙となって口から出て行く。
「―――――――寒い」
半纏を羽織りながら火鉢を温める。
まさかここまで寒いとは思っていなかった。
流石は北国と言うところだろうか
「本当に、寒い」
第三次聖杯戦争が終了を告げてから、一月が経過していた。
完成した聖杯を持ち逃げしたとして僕は陸軍に命を狙われることになった。
それも当然の話と言えば当然の話である。僕の所属は一応は陸軍だった。
とは言え、僕はあくまで同盟のつもりだったしその前提で契約を結んでいた。しかし向こうとしては僕はあっちの連中の勢力の仲間だったらしい。
陸軍は聖杯を欲していた。しかし完成した聖杯は僕が持ち逃げした。結果、命を狙われることになった。
因果な話、本当に嫌な話である。
故に僕は聖杯に一つの願いを託した。
その願いは僕、そして僕の一族がこれから先、人並みの平穏を送れるようにしてほしい、と。
具体的じゃない願いだったがメディアの魔術の腕もあって、僕は身分を偽造し、産まれを捏造し、こうして山奥でひっそりと隠居することになった。
幸いなことにお金や貯蓄もたくさんある為、問題にはならないだろう。
「寒いなら、一緒に温まりましょう」
火鉢に手を翳していた僕の隣に、一人の少女が座る。
薄い水色の髪を棚引かせ、日本人とは思えない容姿をした美少女だ。
その左手の薬指には指輪を付けており、人懐っこい笑みを浮かべて僕の傍に寄る。
「それが一番良いですよ。マスター」
「そうだね。メディア」
あの後、メディアは僕の問いかけに涙を流しながら頷いてくれた。
彼女の方も僕と一緒に生きたいと、言ってくれたのだ。
だから僕は聖杯に彼女を受肉させてほしいと望んだ。結果、彼女は生きた一人の存在として再び地上を歩むことになったのだ。
とはいえ、今の時代、メディアの容姿ではかなり目立ってしまう。
外国と戦争をしている今の日本で、彼女のことを敵視する者だっているだろう。
英霊である以上、そこらの魔術師にだって負けないとは分かっているがそれでも僕は彼女の傷つく姿が見たくなかった。
だから、僕はメディアと一緒に山で暮らすことを選んだのだ。
「ねぇ、メディア…………」
「何ですか? 」
「きみは今、幸せかい?」
僕の問いにメディアは誰もが見惚れるであろう可憐な笑みを浮かべた。
「はい! 私は幸せです!」