アイちゃんってなんでこんなに可愛いんだろう 作:ppが足りない
爆死してしまいやる気が起こらなかったのが原因にしたいです。
石返せ。
「んー…」
「…どうかしたんですか?」
「へぇっ!?や、な、なんでもないなよ?」
「そうですか」
「(…ど、どうしよう…)」
太陽の光も届かない洞窟内、なのにここは不自然なほどに明るく照らされていた。
硬い岩で出来ているのか床を踏みしめる度に鈍く高い音を鳴らしながら二人の人間がこの洞窟内を歩いている。
一人は白く短い髪をした少年。
手入れなどしてないのか髪はボサボサで目は赤く、その幼い顔立ちを鑑みれば子供の様に見えなくもない。
丈夫そうな服を着込み、露出を避けるように手袋を嵌めている。
控えめに付けられた白い胸当ては心臓を護るためだろうか、その腰に差している短剣から彼がダンジョンに潜っていく冒険者である事が分かる。
そしてもう一人、こちらは外見からは身長が低いという事しか判断できなかった。
少年よりも頭一つ分以上低い身長は130㎝程だろうか?
全身を薄汚れた茶色のコートで包み、裾がギリギリ地面に付かないほどに大きい。
フードを深く被っているせいで覗き込まなければ顔立ちを窺うことすら出来ない。
冒険者としては何とも歪というか相応しくないというか、そんな二人は微妙な空気の中宛もなく放浪していた。
「…?……ベルさん、止まってください」
「?うん」
高く澄んだ声がコートを羽織った人物から発せられ、ベルと呼ばれた少年が立ち止まる。
声質から少女と思われる人物が腕でベルを制しながら曲がり角から少し顔を覗かせる。
そこには緑色の体表をした小柄で痩せ細った身体のモンスターがいた。
「…ゴブリン?」
ギルドの受付であるエイナとのやり取りが少女の記憶の引き出しから引き出される。
ギルド奥の個室でのダンジョンに関する知識の教鞭、その中でダンジョン最弱のモンスターであるゴブリンについてエイナは語っていた。
痩せ細った身体の緑色の皮膚をした小柄なモンスター、一階層から出てくるモンスターで階層が深くなるにつれて集団で行動するようになると。
思えば一階層でベルが倒したモンスターも目の前の奴と酷似していた、ならばこの先にいる三体のモンスターもゴブリンに違いないと少女の中での定義付けが完了する。
「ベルさん、あれを見て下さい」
「?あれは…ゴブリン!」
「やっぱりですか」
瞬間ベルに緊張が走り顔が強張る。
何度相手してもモンスターと戦う時は緊張するし相手が集団なら尚更、けれど自身と同じく向こうを覗き込む少女の姿を視界に納めると一つ息を吸い決意に満ちた表情をした。
「アイちゃん、ここはボクが行く。危ないから隠れてて」
「っ!…私も…行けます。ほら、この通り武器も持ってます」
少女はコートの中から短剣を取り出す。
白い手袋に包まれたその手にはシンプルな両刃の短剣が収まっていた。
大人なら小柄な得物でも更に小柄な少女からすれば小さな剣ほどはある。
しかしそれを見たベルは余計に少女-アイ-をモンスターに近寄らせる訳にはいかなくなった。
「大丈夫、三体ならボク一人で倒せるから心配しないで」
「で、でもっ」
「…そんな姿見たら戦わせる訳にはいかないよ」
ベルは安心させるように自身よりも幼いアイに向けて笑いかける。
それを見てアイは今の自分がどうなってるかを知った。
コート越しに見ても脚はがくがくと震え手に持った短剣はカタカタと震えている。
そればかりか動揺が声の震えとして聞いただけでも分かるくらい表れていた。
「っ…うぅっ…」
アイは…彼は分かっていなかった。
ダンジョンの中では常に命の危険が付きまとって来るという事を。
日本にいた時は危険を侵さずとも生きていられた。
勿論事故や病気等で命の危険に晒される事はあっても、故意的でない限りそこに明確な意志は存在せず、死が向こうから寄ってくる事は平和な日本では有り得なかった。
しかし気付いた、気付いてしまった。
今すぐ目の前に明確な殺意を持ってダンジョンを闊歩するモンスターという存在に。
こちらの存在に気付いた瞬間、殺しにかかってくる敵の存在。
殺らなければ殺られる世界を生きる経験値は圧倒的に不足していた。
元の世界では少し怪我をすれば病院に行った。
火傷、捻挫、切り傷に打撲。
彼の心には些細な怪我で病院に行っていた過去の自分がどれ程弱く、平和な世界に生きていたか思い知らされた。
あの手に持つ得物で身体を切り裂かれたらそれこそ10針程度で済む怪我じゃなくなる。
皮膚がない様に裂かれ肉が断ち切られ骨が断たれる。
それで乗り切ったとしてもまたゴブリンに会えばどうなるか?
身体中を切り裂かれた痛みに耐えながらダンジョンを抜けれるか?その前に死ぬ未来しか見えない。
それどころか、今、目の前のアイツに…
「うっ…おえぇっ!」
「っ!アイちゃん!?」
吐き出す物のない物を吐き出す。
それはそうだ、自分は人ではないのだから。
人としての仕草は人のみが許される所業、作られた身体である己がそれをする権利などない。
追い詰められた彼は次第にこう考えるようになった。
人でない俺に人の権利である恐怖を抱く権限はあるのだろうかと。
それと同時にこうも考えた、ベルは何て強いのかと、死ぬかもしれない恐怖なんてない様に敵に立ち向かっていくのかと。
「アイちゃん、聞いてくれる?」
「……ベル…さん」
「ボクね、ダンジョンでアイちゃんに会うまで、アイちゃんの事怖かったんだ」
「…へ?」
ベルの口から出た言葉に彼は驚きを隠せなかった。
ベルが己について何か思ってるのは分かっていたけど、それは不気味な自分に対する猜疑心からだろうと思っていた。
それが正か恐怖からだとは微塵も思っていなかった、怖がらせる様な事はしたつもりがなかったから。
「アイちゃんの口数が少ないところとか、雰囲気とか。何を考えてるか分からなくて怖かったんだ」
「…知らなかったです。そんなに怖がらせていたなんて」
「ははは…でもね、凄く短い時間だけど一緒に過ごしてて、もしかしてそんな怖い子じゃないのかもしれないって思ってきたんだ。そう、確信を持って思ったのはダンジョンで会った時だった」
「…私何かしましたか?」
「あの時アイちゃんは危ないからって止めてくれたでしょ。それに自分も着いていくって。その時分かったんだ、アイちゃんは凄く優しい子なんだって」
「………それだけで?」
「うん、それだけ」
何て人だろう、警戒心が無さすぎる。
彼の心でベルに対する印象がガラリと変わっていく。
いつ損をしてもおかしくないその性格は、こんな世界では不利にしか働かない事は容易に分かる。
だけど、そう…だけど、もしかしたらこんな世界だからこそ、人を信じて簡単に動ける彼の様な人に、人は引かれるのかもしれない。
「…あの、怖くないんですか?」
「ん、何がかな?」
「…モンスターです。あのゴブリン、殺されるかもとか考えないんですか?」
「あぁ、うん。それはもう死ぬほど怖いし逃げたくなるよ」
「…え、だったらなんで」
「ボクが逃げたらアイちゃんが危ない目にあうし、それに…ボクは英雄になるって決めたから」
「……」
「それじゃ、行くね」
ベルは駆け出していく、その手に持つ短剣を構えながら。
ゴブリン達はそれに気付いて次々とベルに襲い掛かっていく。
武器を持つ一体のゴブリンはそれを振りかぶって、残りの素手の二体はその鋭い爪で。
しかしベルはそれを素早く避けながら浅くとも一撃一撃入れていく、隙を見て強力な攻撃を加えながら一体、また一体と倒れて残るは武器を持ったゴブリンのみ。
「…凄い」
知らなかった、あんなにモンスターを見据えていたベルが実は逃げたくなる程に怖かった事も。
ゴブリン三体を相手にして、残り一体まで追い詰める強さも。
強くなりたい、彼の様に例え怖くても守りたい人の為に、信念の為に戦う事が出来る様な人に。
「…あ」
ベルが最後の一体を倒す。
その時、ベルの後ろにある通路から出てくる影。
彼は………アイは、人としての恐怖を忘れてただ護りたいが人の為に走った。
「…え?」
すぐ後ろから聞こえる金属音。
まるで金属の塊で同じ金属を斬りつけた時になる様な音。
振り向いた瞬間にもう一度聞こえたのはゴブリンの叫び声と、剥がれたフードから見える白銀色の綺麗な髪。
ゴブリンの叫び声だけが響く静寂の世界で、やがてその声も止み、崩れ落ちたゴブリンの胸には見覚えのある短剣が刺さっていた。
そして同時に気付く、そのフード付きのコートに見覚えがある事を。
これは…アイのコート。
「アイちゃん!?」
目の前の後ろ姿に声をかける。
鳴った金属音の事も忘れて、怪我がないか確かめる為に。
慌てていたから、その時のベルは気付かなかった、コートが重力に引かれたようにその布を揺らしていた事に。
「焦りすぎですよ、ベルさん」
「だ、だって!アイちゃんに怪我…が…」
「……この通り、私は無事です」
その姿に、声を出す事も出来なかった。
振り向いたアイのコートは前側が切り裂かれて、止めていたボタンが取れてしまったのかコートの中をさらけ出している。
そこに見えたのは、胸元が大きく切り裂かれた白いワンピースと一切の傷がない、金属質の身体だった。
「驚きましたか?実はまだヘスティア様にしか見せたことはなかったんです。ご覧の通り、私は人間ではありません。私は…」
「魂のない人に造られた存在なんです」
最新話書いたから…限定でるのんな?