オーバーロード~巨人鍛冶屋ゴー~   作:焼酎ご飯

1 / 4
「糞団子」
瑞々しい排泄物。大便
敵に投げつけ、猛毒が蓄積していくが
自分にも猛毒が蓄積していく

臭いも強く、あまり持ち歩きたくない類だが
敵を猛毒状態にすることができれば
しばらく大ダメージを与え続けることができる



第一話

寂れた石造りの塔の上。

 

 壁面はところどころが欠けており、頂上は天蓋ごと崩壊しているような荒廃具合だが、風化の現象ではなくデザインとして形作られている。

 

 雑多に置かれた鍛冶道具とそこで鍛えられた散乱する武具の中で、金床に巨大な手に握られた木槌が振り下ろされる。

 そして何の差異もない単調な金属音が、塔の周りに広がる暗い森にこだまする。

 

 

 

「ーーー」

 

 

 

 現実であれば差異がないなどありえないのだが、ここはユグドラシルというゲームの中。

 VRMMOという現実のような体感型ゲームであっても、現実で感じる違和感はそこにはない。

 工夫を凝らして木槌を振り下ろそうとも、そこに違いは生まれない。

 

 だが趣というものは大事であり、長年プレイしてきたものは誰しもこだわりのようなものを持っているものだ。

 それにこういった工夫というものは、古くからゲームに存在するジンクスのようなものであり、こうすることで武器に良い効果が付く気がするのだ。

 これも昔から存在するゲームの伝統というものだ。

 

 

 

「ーーーフゥーム、中々良いな…」

 

 

 

 くすんだ銀の白鉄と古竜骨でできた粗野な鎧に身を包んだ彼は木槌をそっと床に置く。

 粗野な鎧に似合わない立派な兜をかぶっているが、その覗き穴は蝋によって潰されている。

 

 彼の名はゴー

 巨人と言う文字通り巨大な人のような種族であり、ロールプレイでダークソウルというゲームに登場する鷹の目のゴーという巨人の名前を名乗っている。

 実際のゴーとは異なり、蝋で視界を埋められた兜であってもゲーム故に視野は確保されており、兜をそのままに打ち終えた剣を指先でつまんで空にかざす。

 

 武骨なグレートソードが月光に照らされ鈍い光を放つ。

 巨人という種族の巨体からすれば小さい剣だが、それは平均的な刃渡りの大剣だ。

 ひとしきりグレートソードを眺め終えると金床にそっと置き、空中に現れたコンソールを操作していくつかのデータクリスタルを手元に出す。

 

 

 

「デフォルトの雷属性を考えると…スタミナ消費低下、スタミナ回復に~…更に属性強化でいいか?」

 

 

 

 そうつぶやくと、データクリスタルは青い光を放って砕け散る。

 朧げな光がその場に残り、木槌で剣を軽く叩くと、光は剣の中へと吸い込まれていく。

 

 

 

「魔化も成功。今日が最後でなければ中々の出来と喜べるんだがなぁ」

 

 

 

 魔法を付与することで、グレートソードが反射する光に妖しさが混じる。

 

 レアリティにして上級

 だが性能は尖った部分だけを見れば伝説級にも届くだろうという代物だ。

 

 完成した剣をそのままに、ゴーはのそりと立ち上がると、塔の周りを囲む暗い森へと目を向ける。

 街からは随分と遠い辺境の森であり、転移魔法がなければプレイヤーがいるコミュニティまで少し時間がかかる場所だ。

 かなりの値が張ったが、ロールプレイにはぴったりの場所だと言うことでなかなか気に入っている。

 

 

 

「最終日だからログインしたのに、普段通り鍛冶に熱中してしまったな。いかんなぁ…今更街にいっても遅いだろうな」

 

 

 

 普段であれば、気分転換に素材購入や武器販売をしに街まで出向いたかもしれないが、今日はユグドラシルのサービス最終日。

 今更出向いたところで、という考えに至ってしまう。

 刻限になれば全てはただのデータとして消去されてしまうのだ。

 それならば今まさにやっていた鍛冶も無意味なのだが、染みついたルーチンというのは中々拭えないものだ。

 物を作るという行為は格別にという訳ではないが楽しく、ユグドラシルをここまで続けてこられたのもそれが故である。

 その証拠に拠点であるこの寂れた塔には無造作にいくつもの武器や防具が立てかけられている。

 整理整頓はまるで行き届いていないが、見る者が見ればレベル100プレイヤーが使用しても遜色がない聖遺物級程度に強力な武具が散見している。

 本当に大事なものは"特別な保管庫"にしまってある為、散らかっているように見えて言わば飾りつけのようなものだ。

 

 

 

「武器なんて売りに行っても、今日じゃワールドアイテムだって大安売りしてそうだな…常連さんも今日はログインしてないみたいだし、どうしたもんかなぁ」

 

 

 

 ギルドにこそ所属していなかったものの、生産職を修めているということもあり、親しくしている客や友人は数人ほどいた。

 加えて使用している"巨人鍛冶の木槌"というアイテムは、とあるDLCで追加された魔化せずとも雷属性が付与されるという貴重な神器級アイテムであり、それによって作られる武器も又流通量が少なく希少価値があった。

 その為数少ない流通元であるゴーとつながりを持とうとするプレイヤーはいることにはいたのだ。

 だがコンソールを見ても、その友人は揃ってログインしていない。

 数年前ならともかく、ここ一年は一月に一回ログインしていればいい方だった。

 ゴー自身、偶然今日時間が出来た故にログインしたに過ぎないのだ。

 うんうんと唸りながらこの後を考えていると、懐かしいものが目に入る。

 

 

 

「おっ、ーーーーー随分使ってなかったけど、ほんとに最後だしぶちかましてみるか」

 

 

 

 雑多な武具に埋もれるように置かれていたソレを持ち上げる。

 

 歪な竜骨と荒縄によって作られた一見粗末な"弓"。

 だが巨人の巨体に合わせて作られたそれは、巨人特有のその巨体であっても身の丈に迫るほどの迫力がある大弓だ。

 無論これもゴーが作ったものであり、モデルとなった弓の名前を付けたいところだったが、あえて竜狩りの大弓と名付けている。

 

 懐かしむように撫でると、微かに埃が落ちる。

 随分拘った外装データなのだが、終ぞ他者に理解を得ることはなかった。

 

 

 

「えーっと、大弓用の大矢は~っと…ーーーーー無いな」

 

 

 

 すでに大弓を夜空に向けて構えていたのだが、コンソールを横目で見てみると、矢のストックが全くなかった。

 一年以上装備売買でやりくりしており、まともな狩りなどしてこなかったとはいえ、唯一まともに火力が出せる武器の管理もできていないというのは随分とずさんなものだ。

 生産職である彼の戦闘能力はパラメータだけで見れば下の上といったところだ。

 しかし、巨人という種族によって使用可能となる特大弓と、遠視スキルによって超射程狙撃によるアドバンテージによって一方的な狩りであればある程度はこなすことが出来ていた。

 だが大矢は非常に高コストであり、最低ランクのものでも製作には素材と時間がかかり、購入であれば狩りの利益は殆ど出ないほどに燃費が悪い代物だった。

 

 

 

「石の鏃と頑丈な木材で…製作時間5分!?なっが!ギリギリ間に合うか?」

 

 

 

 ろくに管理をしていなかったことがたたり、製作時間も把握できておらず焦って制作に取り掛かる。

 製作に取り掛かってから"転移アイテムを探した方がよかったか、エリアポータルにまで向かった方が良かったか"という考えがよぎるが、どれも五十歩百歩である。

 それにせっかく製作スキルを持っているのだ。自分が作った矢で締めたいというものだ。

 

 ようやく矢が形になり始めた辺りで、ふと落ち着きを取り戻し始める。

 

 

 

「…これほどやり込んだゲームもなかなかなかったなぁ…惰性で続けていたとはいえ、急にさみしくなってきたな。次から何のゲームをしたもんか」

 

 

 

 まるで死を前にした走馬灯のように思い出がよぎる。

 得難い友と呼べるプレイヤーはいなかった。

 だがその時々の出会いや出来事はやはり思い出として印象深い。

 どれも忘れがたく苦楽共にあった。

 これほど楽しめたゲームは今後現れないのだろうという感傷の情がわいてくる。

 

 

 

「さて、ようやく完成か」

 

 

 

 感傷もそこそこに、ようやく矢が完成する。

 粗末で一見槍のようにも見える巨大な矢。

 さすがに二本目を作る気力も時間も無く、的はどうしたもんかと立ち上がり、遠視のスキルを使用する。

 すると彼方にそびえる雪山、そのちょうどその山頂を竜と思える小さな影が旋回するように飛んでいる。

 

 

 

「…あんな山あったか?しかし最後に竜狩りに挑めるとは中々…」

 

 

 

 息を吐き大弓に矢をつがえる。

 ゆったりとした風が吹き、ひと呼吸の後に弓を引き絞る。

 

 

 

「むううううううんっ…」

 

 

 

 ギチギチと今にも弓が壊れそうなほど弦が鳴るが、引き終えたところで嘘のように音が消える。

 

 精度向上や威力上昇のスキルを発動していく最中、どういうわけか今までにないほど感覚が研ぎ澄まされていく。

 起伏のある白い山肌や、旋回する竜の鱗の一枚一枚が鮮明に目に映り、どのタイミングで放てば標的に交差するか、どこに放てば標的の急所に当たるか、それが手に取るようにわかる。

 

 

 

(所詮はゲーム、そんな気がするだけか…現実で弓なんて触ったことないし、久しぶりの戦闘だからか?それともこの一矢が最後になるからか?)

 

 

 

 決して悪い気分ではない。

 むしろ最後を飾るには最高の気分だ。

 スキルをすべて発動し終えると、動きを…呼吸さえも完全に止め、目標に全神経を集中させる。

 

 

 

「ーーーーーーっぉああっ!!!」

 

 

 

 咆哮と共に弦を離す。

 乾いた轟音は辺りの武器を揺らし、矢は流星のごとき速度で目標へと飛ぶ。

 

 一拍の後、山頂を舞う小さな影は弾き飛ばされるようにして地に落ちる。

 

 

 

「はっは、見事命中だ!!」

 

 

 

 ゴーは弓を持った左手を突き上げ小躍りする。

 これほどまでに距離の開いた狙撃は中々成功するものではなく、年甲斐に無くはしゃいでしまうが、今更ながらギャラリーでもいればとひとりごちる。

 

 これほどまでの充実した快感が今まであっただろうか?

 やはり最後というエッセンスがあってこそのものなのだろう。

 

 

 

「はっはっは、…おっとそうだ、ssでも撮っておこうか!狙撃の瞬間は無理だがポーズだけでも…ーーーーーーーーーーむん?」

 

 

 

 記念を残しておこうとssを操作しようとしたところで、ふと異変に気づく。

 

 

 

 

 

 

 

「コンソールが開かん…もしかして終了時間が過ぎてしまったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 なれた手つきで空間を操作するように手を動かすが、投影ディスプレイが何故か表示されない。

 仮に終了の刻限であるならば、コンソールが開かないことはおろか、自分がゲームをプレイできていること自体おかしいというものだ。

 そして異変はそれだけにとどまらなかった。

 

 

「…何か香ばしい…臭い?」

 

 

 とてつもなく食欲をあおる、香ばしい何かをあぶる香りが、ふわりと風に乗って漂ってきており、何の気なしに周囲を見渡す。

 

 

 

 

 ーーー何故匂いを感じることが出来るのか、全身に感じる緩やかな風、微細の埃を踏みしめる感覚、己の体ではありえないほど大きな四肢の感覚

 

 

 

 

 その全てにおかしいと気づいても良かったのだが、その思考を奪うように、彼の眼前にはありえないものが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「-----城?」

 

 

 

 

 

 

 

 暗がりと満天の星空にそびえる巨大な城がそこにはあった。

 

 

 

「それに、なんて星空だ…」

 

 

 

 その城を飲み込まんばかりに広がる星空は、コレまで見た何物よりも美しかった。

 

 息を漏らし、その美しさに見ほれる。

 

 そして理解する。

 

 これはゲームなどではない。

 

 体が感じる全ての感覚が現実そのものであると伝えている。

 

 それどころか、自分が過してきた現実すらも霞んでしまいそうなほどの自然の現実味が眼前には広がっていた。

 

 

 

 

 どれだけの間見ほれていただろうか、遠視のスキルの効果時間が切れたところでようやく我に返る。

 

 そうしてようやく周囲の状況を確認し始めると、大きな城の周りには大小さまざまな建物がひしめき合っており、人の営みの明かりが無数に見て取れた。

 そしておそらく匂いの元であろう市場も賑わっており、商業に活発な都市であるようだ。

 それらを束ねるように、建物郡の中央には荘厳な城があり、言わば城下街を形成しているようだ。

 

 城の天辺はこちらの塔を見下ろす程に高く、目を凝らすと"何故か"細かい部分まで観察でき、ゲームとは異なる細かい部分に見られる風化による威厳のようなものを感じる。

 縦の高さは塔より高い程度で高いには高いのだが、横の敷地が非常に大きく、倉庫のような建物や、訓練施設?のようなものが多数見受けられる。

 

 

 

「人の街か?何でまた城下なんかに…何がどうなって…それにこの感覚…嗅覚とか細かい触覚の再現は禁止されてるし、そんなレベルの話じゃないな…」

 

 

 

 何故か突然人が住む城下町に拠点ごと飛ばされてしまったと言うことを理解し、そして自分が巨人という種族になってしまったということに驚く。

 だが何故だろうか、驚いていることには驚いているのだが、何故か焦りが沸いてこない。

 さりとて冷静でいるわけでもなく、どうしたものかと途方にくれながら胡坐をかく。

 

 

 

「思えば弓を引いてるときからおかしかったな。弓を引くのに力込めてたし、風が吹いている感覚もあった…スキルのウィンドウも表示されなかった…ゲームの時には違和感無かったが目線が高いし、全身の筋肉の動きが把握できる…うぅ~む」

 

 

 

 ゲームの中に入ってしまった?

 ゲームが現実になってしまった?

 

 何が起きているのかわからない。

 とても恐ろしいことが起きているのかもしれないが、その恐怖も心を支配するほどのものではない。

 

 何にせよ、今まで自分が生きていた世界ではないということは、なぜか感じ取ることができていた。

 それもそうだろう、自分の体はもはや人ではなく、生きている巨人の肉体なのだ。

なんとなく尻をぼりぼりと掻いていたが、そこから伝わる感覚だけでここがゲームの中ではないということを理解してしまう。

 

 

 

「巨人になってしまったのか…妙に肝が据わっているのはこの体のせいか?」

 

 

 

 巨人となってしまった体を見ながら思う。

 先ほどから妙に感情の起伏が緩やかだ。

 老成した精神とはこういうものなのだろうか?

 本来なら慌てふためいて発狂してもおかしくないのかもしれないが、中途半端に焦ってしまい何をすればいいのか全くわからない。

 

 塔の下を覗き込むと、どうやら住宅街のど真ん中にこの塔は建っているようだ。

 

 この塔は昔からこの世界にあったものと認識されているのだろうか?

 そもそもこの世界は異世界なのだろうか?

 地球の歴史上にあるどこかの時代にタイムスリップしてしまったのではないだろうか?

 そもそも巨人などという種族はこの世界に存在しているのだろうか?

 人間という種族とはどのような関係なのだろうか?

 

 見下ろしながら様々な疑問が生まれるが、どれもすぐさま確認できるようなことではなかった。

 ではすぐに確認できることはなんだろうかと考え込む。

 

 

 

「うぅ~む…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな思考の海と言うには浅すぎる考えに耽っていると、突然鎧の竜骨部分にコンコンとノックのような衝撃が走る。

 

 

 

「どうぉあっ!…うん?」

 

 

 

 肝が据わっているとはいえ、突然のことに心臓が飛び出そうになる。

 

 ここにはゴー以外には存在しないはずだ。

 

 人間体であれば死んでいたんじゃないだろうかというほど驚きながらも、その正体を目にするべく振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「----------う゛お゛あ゛あ゛あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャガチャと武器や防具を蹴散らしながら、その巨体のままに壁まで転がりながら後ずさる。

 

 あまりにおぞましい姿に反射的に飛びのいてしまい、辺りには武具がガシャガシャと散乱する。

 

 

 

 刹那の出来事に頭が真っ白になるが、すぐさまその正体に思い至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァ、ァ、ヵヵヵヵヵ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁ…そりゃお前もいるわな…ゴメンゴメン」

 

 

 

 そこには壁の隅で震えるゴーを心配する?かのように首?をかしげながら見上げる何かがいた。

 

 

 手足が長く、下から見上げるにはパッチ座りのようになってしまっているその何か。

 すらりと伸びた足、頭部と思しき部分は木製の宝箱を模しており、箱の淵に沿うように細く鋭利な牙が無数に並び、牙の先端は赤黒く血に染まっている。

 太く長い舌が開いた口からだらりと垂れ下がっており、舌の根元辺りからは左右に分かれるように足同様にすらりと伸びた腕がついている。

 

 

 

 

 

 

 

 貪欲者と呼ばれる初見殺しの代表格モンスター、ミミック。

 

 ゴーの拠点で"特別な保管庫"の役割を務める、唯一のNPCだ。

 





以前まで前書きになにを書いていたのか忘れてしまいました。
ですのでダークソウルアイテムのテキストを書いていこうと思います。


よろしければ感想をお願い致します。
とても喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。