オーバーロード~巨人鍛冶屋ゴー~   作:焼酎ご飯

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「糞団子」(ダクソ3)
乾いた排泄物。大便。
その割れた内は瑞々しい。

敵に投げつけ、猛毒を蓄積させるが自分に猛毒が蓄積していく。

臭いも強く、あまり持ち歩きたくない類だが不死人は排泄物に懐古を感じるものだろうか。
いや殆どは、そんなことはないだろう。



第二話

 

 バハルス帝国の首都アーウィンタール

 

 二百年程の歴史を持つ国であり、周辺国を比較してもこの首都は目覚ましい発展とそれにともなう活力に満ち溢れている。

 夜の帳が下りた今でも、人の営みは決してやまない。

 近年はそれが顕著であり、王国との戦争と、その勝利が着実に近づきつつあるが故である。

 

 そのような野心と希望に満ちた国を統治する皇帝がジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである。

 大部分の貴族の爵位剥奪と粛清による大改革によって、鮮血帝などというおどろおどろしい字名が定着しているが、臣民からの支持は厚く、歴代最高の皇帝と評価されている。

 そういった帝国の過渡期、新たな政策の考案や、国力拡大の研究など、日々激務を背負う皇帝ジルクニフはつかの間の睡眠をとっていた。

 

 しかしそれは帝国中に響き渡った乾いた轟音によって妨げられた。

 

 

 

「陛下!」

 

 

 

 バタバタと皇帝の私室前にもかかわらず騒がしい足音の後、臣下の一人が慌てて扉を開く。

 ジルクニフを補佐するに足る能力を持った、信頼ある臣下の一人である彼の慌てようはただ事ではなかった。

 

 

 

「皇帝の私室だぞ?もう少し余裕を持ったらどうだ?」

「し、しかしーーーパラダイン様も!」

 

「では伝えましたぞ」

「あぁじい、念のため皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)を数名つけろ。すぐに出れるのが数人いたはずだ」

「わかりました。これが深淵に近づく一歩であればよいのですが」

 

 

 

 扉が開かれた先には、皇帝ジルクニフに加え、宮廷魔法使い、帝国魔法省最高責任者であるフールーダ・パラダインの姿があった。

 しかしジルクニフと二、三言葉を交わしたのちに、転移の魔法によってその姿をかき消す。

 

 

 

「ふぅ、じいにも困ったものだ」

「…へ、陛下!異常事態でございーーーーー

「よい、大体の状況はじいから聞き及んでいる」

 

 

 

 すでに公務ようの服装に着替えていたジルクニフは、自室の窓へと歩みより、見慣れた帝都を望み、それに入り込む異物へと目を向ける。

 

 つい先ほど、城の窓を響かせる轟音が響き渡りジルクニフは目を覚ました。

 その数分後、フールーダが音もなく転移魔法によって現れ、若干興奮気味に現状を報告した。

 正体不明の石造りの塔が現れた。

 初めからそこにあったかのようにしてたたずんでいるそれは、一日そこらで作り上げられるようなものではなく、相当古い時代に作られたもののようだ。

 それがどうして今まで目に触れなかったのか。

 隠匿魔法によるものなのだろうか?

 地面から生えてきたのだろうか?

 それとも転移してきたのだろうか?

 攻撃か事故、第三者の思惑が介在しているかどうかも不明だが、魔法的手段が用いられているはずだとフールーダは早口に熱弁し、偵察部隊の編制を申し出、出撃に至る次第だ。

 

 

 

「あの辺りは…旧貴族の区画か」

「はい。お聞き及びかもしれませんが改めて現状を報告させていただきます。高級住宅区画にて突如音もなく石造りの建造物が出現。家屋三軒と舗装路数メートルを巻き込み、まるで初めからそこにあったかのようにたたずんでいるとのことです」

「じいの話では出現理由は不明らしいな。先行偵察を<飛行>を使える魔術師部隊ですると目の色を変えていたからには、魔法が絡んでいることは間違いないだろうな。王国からの攻撃…なはずはないか…封鎖や情報規制は始めているのか?」

「目下進行中です。出現時に発生したと思われます轟音は都市全域に届いていますが、音の反響などにより細かい位置は割れていないものと思われます。かなりの大きさの塔ですが、旧貴族区画の中でもかなり一層人気のない区画ということもありまして、明かりや人の行き来は少なく、ナザミ様を加えた第一軍による一帯の封鎖は順調に進みつつあります。住民の一時的退去は完了しており、数名の貴族…失礼、元貴族の抗議がありましたが、公務執行妨害で一時的に拘束しております。一部<永続光>の街灯も消灯を実施しておりますので、市民への露見も広がらない程度に抑えられるかと」

 

 

 

 ジルクニフの冷静な対応に臣下の男もはっとしたように平静を取り戻し詳細を伝える。

このような現実味のない事態が起こって三十分と経過していないこの現状で、ここまでの展開を行える辺り、帝国という国の組織力がうかがえる。

 そして謎の建築物が出現した区画は、粛清によって多くの空き家がある高級邸宅街。

権力誇示の為に住み続けている一部貴族を除いて、その多くが空き家の区画である。

 富裕層の居住区であったこともあり治安はよく、空き家に関しても質がかなり高いものとなっている。

 しかし人が寄り付かないということもあり、それら家々は大きさと質からは考えられない程安値で売り出されているものの、購入者はほとんどいないのが現状である。

 だが今回はそれが良い方向へと転び、大規模な軍の展開も市民に悟られることなく実行に移すことができていた。

 

 

 

「だがそれも日が昇るまでの話だろう。魔法省の力ではあのサイズのものを隠匿することは難しいらしい。会議を開け。じいは高弟に話を通してあるとのことだ、〈伝言(メッセージ)〉を使用した実況による対処を行うぞ」

「了解致しました。主要参加者に加え、遺跡調査や歴史などの有識者を加えた人員を執務室へと招集しております」

「さて、余計な仕事を増やしてくれたんだ…古代遺跡のようなものなら伝説のマジックアイテムでも出てくれねば、俺の機嫌は悪いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

 

 

 旧貴族街上空

 王直属の皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)が操るヒポグリフ二頭と、宮廷魔術師フールーダ・パラダインを中心とした<飛行(フライ)>を使える魔術師部隊が、石の塔から一定の距離を置いた場所で滞空している。

 そしてフールーダとその高弟の一人が単眼鏡を使って塔を観察している。

 

 

 

「外壁部の特徴は風化のせいもあるかもしれませんが、記録にある建築様式とは合致しません。それよりも…」

「うむ、塔の頂上にいるあやつだな」

 

 

 

 二人を除いた偵察隊は裸眼で確認するしかなかったが、暗がりの遠目からでもそこに何かが蠢いていることはわかっていた。

 そこには一体の巨人がおり、両手を使って此方に手を振っている。

 単眼鏡で仔細に観察してみると、巨人は凝った意匠の金属と粗削りの骨でできた混合鎧を身に着けており、兜によって表情はうかがい知れないが、友好的な雰囲気を感じさせる。

 

 

 

「害意は感じられませんが…この暗がりでこちらを見通せる視力は驚嘆ですね。奴がこの塔の主でしょうか?」

「見通しの良い頂上にいるのだ、衛兵ということも考えられよう。しかし、巨人にしては随分文明的に見える。対話が可能かもしれんな」

「そうですね。それで…師よ、貴方の”目”にはどう映っていますか?」

「ふぅむ…どうにもあの塔には何らかの防壁が張られているようだ。魔力量は全く見えぬ。興味深い…会議に〈伝言(メッセージ)〉は繋がったままか?」

「はい。つつがなく…どうやら第一軍三千人集結が完了したようです。後詰のバジウッド様を含めた部隊二千人もほぼ集結が完了したとのことです」

「承知した。しかしどうしたものか…塔の下からの侵入経路はハシゴ一本、塔そのものには防壁が施されているうえ、塔の高さからして破壊すれば周囲に被害も出る…武力行使に出るには意外と攻めにくい構造をしている。私としては是非とも直接交流を試みてみたいところだが」

 

 

 

 フールーダは髭を撫でながら未知との存在との邂逅に思いを馳せる。

 少なくとも魔法的手段を講じることができる存在であり、この塔の出現は間違いなく魔法によるものと推察できたが故である。

 ジルクニフであれば愚かな手段には出ないと予想しているが、仮に排除ということになったとしても、内部の物品調査ができる為に不満はない。

 

 そうしていると間もなく、待機している包囲軍からの<永続光(コンティニュアル・ライト)>による信号が発され、皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)の一人が地上へと降下していく。

そして高弟の一人が<伝言>に応答する。

 

 

 

「方針が決定いたしました」

「うむ。偵察部隊よ、集合してくれ」

「では、武力行使を最終手段と考え、皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)一名と魔術師一名によるコンタクトを行うこととなります」

「では私がーーーーー

「残念ですが師よ、陛下より師は除外して選抜せよとのことです」

「ジルめ…だが仕方あるまい」

「その二名によるコンタクトを現状同様にメッセージをつないだ状態で行い、意思疎通が可能であれば相手がどういった意図をもって現状を引き起こしたかを会議を通して確認を行います。地上部隊は表面上武装解除を行いますが、裏では念の為攻城兵器の用意なども進めているとのことです」

「陛下にしては慎重さに欠いている気もするが、刻限は日の出…急ぎ作業に取り掛かるぞ」

 

 

 

 このような大規模作戦が展開しているとは思えないほどに、日常的な光が街には見える。

 秘密裏に行われた封鎖も問題なく機能しているようで、騒ぎが発生している様子は全くない。

 しかしこれも日が昇ればすべてが露見する内容であり、急ぎ対応しなくてはならない。

 だがことを急きすぎ、何か失敗があれば戦闘が発生する可能性も十分にあり得る。

 相手は巨人というミスリル級であればさして苦労することないモンスターである。

 だが精工に作られた鎧を身に纏った巨人に、魔法の痕跡が散見するこの塔を見れば、巨人自身、もしくはこの塔の主は市街に被害が出るほどの危険性をはらんでいることは明らかである。

 これから行われる邂逅に誰もが緊張しながら、各々準備を進めていく。

 

 

 

「ではコンタクトを開始します」

「相手は人ではない。言葉が通じない場合も考えられるが、敬意を忘れるな。高位の魔法を使用するものは高慢な者も多いからな」

「師を見ていればそうは思えませんが、了解致しました」

 

 

 

 ヒポグリフに跨る皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)は、その後ろに高弟を乗せ塔へと飛ぶ。

 行く先である塔の上では、こちらの作戦会議に飽きてしまったのか、鎧を纏った巨人は胡坐をかいて足元にある木の板をいじくりまわしている。

 すでに塔へと向かいつつあるヒポグリフの背を見送ったが、本当にあの巨人に対話できるほどの知性があるのかどうか、フールーダは不安を感じざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

「すごい数に包囲されてしまった…」

 

 

 

 ミミックに驚いて絶叫したせいだろうか

 塔の下にはたくさんの軍隊が集まってきていた。

 これほどの人数に包囲されるということは、この塔は昔からここに存在していたものという扱いではないのだろう。

 そして集まってきた軍隊は見事に人間しかおらず、ゴーを滅ぼす為にやってきたのではないだろうかという不安が募る。

 

 原因かもしれないミミックは、「擬態したままじっとしてて」とお願いしてみると、どうやら言葉は通じるようで、元の場所に戻り、手足を収納して完全に宝箱に擬態している。

 擬態状態に戻る様は中々に見ごたえがあるものだった。

 

 

 

「じっとしててくれよ?」

「ギィー」

「にしても…集まってきた軍隊の人、皆すごいガタイだ…防具は特別な金属が使われてる様子はなさそうだが…フゥ~ム」

 

 

 

 スキルのおかげで塔の下にいる軍隊も仔細に観察することが出来た。

 現実ではめったに見かけないほど屈強な男たちが金属鎧をまとい、隊列を組みこの塔を包囲している。

 指揮官と思しき一人だけ装備が違う男は、タワーシールドのような大盾を二つ持った中々ロマン溢れる装備をしており、彼に限っては装備にアダマンタイトやミスリルのような金属の特徴が見て取れた。

 だがユグドラシルで見かけるようなより硬度の高い金属は見受けられない。

 

 

 

「でもまぁゲームのときの情報なんてあてにならないよなぁ。あの盾や鎧も思ってる金属より硬いかもしれないし、その逆かもしれない…俺より強いかもしれないな。攻撃してくるなら降伏したほうがいいのかもなぁ…許してくれるのかなぁ…はぁ…」

 

 

 

 現実という陰鬱とした生き抜くには過酷な世界から、活力に満ち何もかもが美しい世界に突然飛ばされ、本来ならば感激していてもおかしくないのだが、はた迷惑な場所に転移させられてしまい怪獣扱いである。ここにきて精神はうれしくない方向に高ぶっている。

 退治されても文句は言えないのだが、やはり死にたくはない。

 

 降伏するか逃げ出すか、戦いは避けたい…などと今後の対応を考えていると、そこそこ離れた中空に、ヒポグリフに跨った兵士と魔術師のようなローブを纏った男が数名現れる。

どうやら偵察部隊のようで、こちらを望遠鏡で観察し、〈伝言(メッセージ)〉を使っているのか、こめかみに片手を触れて何かを話している。

 

 

 

「偵察か。こっちに敵意がないことを伝えなきゃいけないな」

 

 

 

 弓をインベントリに収納し、丸腰であることをアピールするために、推定偵察部隊に両手を振る。

 

 そうしてそのまま十分ほど経っただろうか

 偵察部隊も地上部隊も別段動きがない為、とりあえず手を振るのはやめて、こちらからのアプローチを考えてみる。

 相手に届くように大声で話しかけてもいいのだが、今はどう見ても夜。

 そしてここは住宅街であり、近隣住民へのかなりの迷惑が予想できる。

 

 しかしこれほどの軍隊が出動している以上、住民の避難は完了しているのかもしれないが、逆にこれほど軍を動かす事態なのだ。変に混乱を招くようなアプローチは避けたいところだ。

 

 

 

「そういえば、言葉って通じるのだろうか?」

 

 

 

 何かしらのアプローチをする以前に、言葉が伝わらなければどうしようもない。

 意味の分からない言葉を発すれば、それだけで恐怖を植え付けてしまうかもしれない。

 

 ではできるだけ威圧せずにそれを確かめるにはどうすれば?そう考えていると筆談という手段に思い至る。

 インテリアとして武器の台に使っていた木の板を適当に用意し、インベントリよりアイテムの木炭を取り出して、日本語と英語で簡単に自分が敵ではないということを書き始める。

 

 

 

 そして書き終える直前、バサバサと風を切る音が聞こえ塔の外へと視線を向けると、塔から2~3メートルほどのところに、先ほど偵察部隊にいたであろうヒポグリフに跨る騎兵がいた。

 後ろには先ほどの魔術師のような恰好をした男も乗っているのだが、騎兵と比べてその表情には怯えが見える。

 

 

 

「わ、我々はバハルス帝国軍に所属する皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)と魔法省の人間だ。貴殿がこの塔の主だろうか?」

「あ、え、----その通りだ」

「!」

 

 

 

 意を決して話し始めた魔術師のようないでたちの男の言葉は、驚くほどすんなりと理解することができ、むしろ少し驚いてしまう。

 そして相手も同様に驚いたらしく、少し面食らった後すぐにこめかみを押さえて誰かと会話し始める。対話できたことに驚いたのなら、もしかすると巨人はあまり頭が良い種族ではないのかもしれない。

 

 随分形式ばった問いかけに思わず口調を変えてしまう。

 少し緊張するが、一方ですぐさま攻撃を仕掛けてくるような集団でないことに安堵する。

 

 

「(かしこまりました)貴殿は帝国領土内に侵入している。もしも目的があれば教えてもらえるだろうか?」

「ふぅーむ、目的というかなんというか…実はここに来てしまったのは理由はよくわかっていないんだ。塔ごとここに現れてしまったせいで君たちには凄く迷惑をかけているということは承知している。賠償や修繕ならできる限り応じようと思うのだが…私を攻撃しないでもらえないだろうか?」

「…少しだけ待っていてもらえるだろうか」

 

 

 

 先ほど同様、〈伝言(メッセージ)〉を使ったやりとりを行っている。

 どうにも相手も混乱しているようで、先のやりとりよりも随分と長く時間がかかっていた。

 あの〈伝言〉の先はこの城の王様だったりするのだろうか。

 相手が良い人であることを祈りながらケツを掻いていると、ようやく魔術師の男が顔を上げる。

 

 

 

「一時的に貴殿の身柄を拘束したい。加えてこの塔の調査を行わせてもらえるのであれば、貴殿が犯した不法入国や領土侵犯などの罪には問わないと陛下がお約束してくださった」

「あ、あぁ…命が助かるのならもちろん構わないとも」

 

 

 

 数十分後、ゴーは塔の外壁を伝いながら、初めてこの世界の地上に降り立った。

 だが感慨にふけることもできず、周囲には何千という軍隊がおり、全員武器を下ろしてはいるものの、警戒した瞳がこちらを見つめており、なんとも居心地が悪い。

 

 そうして急ごしらえで作ったであろう鎖の拘束具が用意され、数百人単位の軍隊に囲まれながらゴーは城の方へと向かうのだった。

 

 

(すぐちぎれそうな鎖だな…持ち物の持ち出しはダメって言われたからミミックを連れてこれなかったが…大丈夫だろうか?)

 

 

 先の二人に宝箱がモンスターであるということを伝えてから塔を降りたが…

 罠的役割を担っているレベル100NPCだけに、ゴーの中にまた別の不安が募る。

 








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