ペロロンチーノさんだし仕方ない。
第九階層リビングルームにて。
黄金に光り輝く鎧を身にまとったバードマンは、自身が発するキラキラエフェクトとは大凡真逆の暗く澱んだ息を吐き出した。
「はあ……」
「? どうしましたペロロンチーノさん。浮かない顔して」
「……分かりますかヘロヘロさん……」
「ええ、まあぶっちゃけ表情はよく分からないですけど、そんな全身から悩んでいますオーラ出されたら分かりますよ。さっきからため息ばんばんついてるし」
そんな彼に迂闊にも声をかけたのは、暗い闇色に淀む
「そりゃまあ、いきなり色々あって混乱するのもわかりますけど…それでも、ぶくぶく茶釜さんがエロゲに出演しない世界ですよ?もう殆ど浮世の悩みから解放されているじゃないですか」
「ちょっと俺の浮世の悩みなんだと思ってるのヘロヘロさん。俺の人生で姉ちゃんがどんだけ重みになってんの?まあ確かに実の姉がマジモンの肉棒になったって事実を突きつけられた時は「世界征服っていいよね」ってモモンガさんと一緒にお空に現実逃避したけど」
「あれ現実逃避だったんですか……? デミウルゴスが本気にしちゃって今モモンガさん達ひーひー言ってんのに。支配者ロールで死にそうなモモンガさんが「ペロロンチーノさんも乗り気だった」って精神的支えにしてるのに。それ絶対モモンガさんに言っちゃダメですよ」
「あるんですよそんなことよりもっと重要な悩み。俺の存在の根底に関わる悩みが」
「おい聞いてんのか鳥人間」
ヘロヘロは、気付くべきだった。
ペロロンチーノがため息ついてゲンドウポーズ決めた辺りで、その場にいたギルメン達がさりげなく席を外したことに、彼は気付くべきだった。
広いリビングルームに居るのはペロロンチーノとヘロヘロ(プラス一般メイド達)。
彼は嫌という程知っているはずだった。
「はあ……それで、何なんです? その悩みって」
仕事終わり、悩みを聞いて欲しいアピールをする同僚に迂闊に声をかければどうなるかなど。
「
「そうですかじゃあ僕は用事があるのでこれで」
「ちょ!! 待ってよヘロヘロさん何その冷たい感じ!!!」
「あーはいはいシャルティアホント可愛いですよね。わざわざ改めて教えていただかなくとも1日10回は聞いているんで大丈夫ですありがとうございます。たっちさんに相談したらいいんじゃないですかね、そういう類の方と少なからず関わったことがあるでしょうし、僕よりは適切なアドヴァイスできるんじゃ無いですかね。未遂なら何年で出てこられるとか。ああいっそニューロニストに手術してもらうのもいいかもしれませんね」
「やだ冷たいヤダー!! ユグドラシル時代はそんな人じゃなかったじゃないあなた!! 心までスライムになったって言うのは本当だったのね! 触れると痛いくらい熱いくせに!!」
「ちょ! 抱きつかないでくださいブスブス言ってんじゃないですか! ていうかペロロンチーノさんこそユグドラシル時代はもうちょーっとだけ自重してましたよ!? 鳥人間になったせいなのか運営の目が無くなったせいなのか知りませんけど!」
羽毛が焦げるのにも構わず纏わり付いてくるバードマンに、
主人の困り果てた様子に駆け寄ろうとしたそのうちの一人に、ヘロヘロはビシっと右手(?)で止めるジェスチャーをし、ゆっくりと首(?)を横に振る。
(ーーダメだ。うちの可愛い子達にこんなしょーもない事で手を煩わせたくない! だが……どうする……この場をただ逃げるのは容易い……けどこのまま微妙に焦げたペロロンチーノさん放ったらかして万が一、それこそシャルティアの目にでも入ったらどんな騒ぎになるか分からない……っ)
ヘロヘロが焦りながら思考を巡らせる間も、強酸でのダメージを全く意に介さずペロロンチーノは自分の心の内をありのままに吐露していく。
「まあそりゃ最初はね? 自分の黒歴史がみんなの前で喋って動いている地獄に直面した時は宝物庫の霊廟に納まって永遠の眠りにつこうかなーって思いましたよ?でもね、それでもやっぱダメっすよ。自分に嘘はつけない。黒かろうがなんだろうが産み出したものは須く可愛いんですよ、冗談じゃなくゲロ可愛いんですよ俺のムスメ。モモンガさんやユリの前で欲望全開モロ出しな時も可愛いし微かにあったNTR属性もろくすぐってくるし、アウラと喧嘩してる時はぷにぷにふくふくしててお姉さん風ふかしてるのクソカワだしでもでもでもなんて言ったってっ!!! 俺の! 前では! 超っ!! 純情少女の顔になるんですよ!!!?? なんなの!? ちょっと羽が指に触れた時にバッと胸の前に手を引っ込めて顔真っ赤にして唇ぷるぷる震わせるの本当何なの!!? 「ペロロンチーノさまぁ…」って!!! おっきな瞳うるうるさせて!!!! 「さまぁ…」って…っ!!!!!! 余韻!!! あの余韻何!!!??? 誘ってるよね俺のこと!!!??? あんな変態設定つけたのに俺の前では「今日両親ウチにいないんだけど…」って恥ずかしげに告げてくるラブコメ漫画のヒロインのような処女力爆発させてくるんですけどおおおお!! 怖い!! シャルティアの可能性無限大すぎて怖い!!!!」
「とりあえず頭抱えて地べたでゴロゴロするのやめましょうか。ねえ本当にやめて、メイドたちに余計な心労かけさせないで」
「もうね、この際ヘロヘロさんには見栄や外聞は捨てて言いますよ。ほんとどうしたらいいんですかね。俺のムスコがムスメ相手に大暴発しそう。俺のゲイ・ボウがうっかりシャルティア貫いちゃうのも時間の問題。なんでみんな我慢できるの? 弐式炎雷さんとかどうしてナーベラルのことエロい目で見ずにいられるの? ていうか俺ってこんな下半身一強だったっけ……? ちょっと前までちゃんと頭と仲良くやってたはずなのに、これがバードマンの呪い? 近親相姦系エロゲの主人公っていつもこんな苦悩抱えてるの? こんな気持ち抱えてることも知らないで俺は一刻も早く実用性あるシーンに突入するために選択肢ぽちぽち選んでたの?? ごめん近親相姦系エロゲ主人公たち……エロゲーイズマイライフの風上にも置けないわ……ちゃんと苦悩と葛藤を欲望が上回るその瞬間を自分に反映させて数日間その苦悩を堪能してから美味しくいただくべきだった……いやでもゲス主人公の場合はいいか欲望のまま共にエロシーンまで全力疾走した俺をむしろ褒めてくれるはずだよあいつなら」
「マジでさっきから何聞かされてるんですかね僕。あと「ヘロヘロさんには」って言いましたけどペロロンチーノさん見栄と外聞だいぶ前から捨てていらっしゃいますよね。モモンガさんの前でも殆ど恥部晒してる勢いですよね? むしろ見栄と外聞纏ったあなたを見てみたいなって僕的には思ってるんですけどね?」
ゲポンっとマグマの泡が弾けるような音が響く。
それが、ヘロヘロが咳払いをした音だと気付いたものが居たかは分からない。
「いやまあ……少しは気持ち、分かりますけど……誰だって自分の作ったNPCには大なり小なり欲望を詰め込んでいますし、特に女の子だったらそりゃ、たまらないですよね」
止まらない鳥人間をなんとか止めるべく、ヘロヘロはこの議題の出口を必死に探した。墳墓よりもねじくれ無数のデストラップが張り巡らされたこの迷路の出口を。
「まあ、僕だって初めてメイドたちが喋って動いている所見たときは、感激のあまり自分が溶け出してることに気づかなくてうっかり隣にいたぶくぶく茶釜さんと合体しかけたし」
そして、話題の転換を狙ったその言葉は、ペロロンチーノに対して十分すぎる威力を放ったようであった。
「え?な、ちょ…はっ!!? 何それ知らなかったんだけどッ!!?」
「いや、未遂ですよ? でもなんかちょっと触れただけで物凄い勢いで何かが吸われていったような気がして、代わりにピンク色の情念が滝のように流れ込んできたんで光の速さで部屋の隅に張り付きましたけど。この世界でのスライムって同種同士の接触があるとあんな感じになるんですかね…? 実験してみたい気もするけど、一旦混ざり合ったら元に戻れるかわからないし。とりあえずモモンガさんに相談してみようかなと思ってたんですけど……なんて伝えたらいいか分からなくて……」
「やめてええええええ!!!!!! 勘弁してヘロヘロさああああん!!!!! ギルメンと姉ちゃんが合体とか地獄の沙汰もいいとこだよ! グロいよ!!! 絵面も字面も何もかも!!! 何色になるの!? 黒とピンクで何色になるの!? 教えてやまいこさーん!! いややっぱり教えてくれなくていいです助けてーっ!!!!!」
「人聞き悪いこと言わないでください! いや異形聞き…? 結構マジで焦ったんですから僕! ぶくぶく茶釜さんに吸収されてたら自我保てる自信微塵もないんですから!!」
「もうやめて! 巨大化してちょっと黒ずんだ姉ちゃん想像させないで! エロゲで見た! エロゲで見たよそういうの何度も!!」
「勝手に暴走してるのはペロロンチーノさんでしょうが! もうヤダ! 助けてぶくぶく茶釜さん! この弟をいつもの感じで一喝してやって!!」
「ヘロヘロお前ぇっ!! 俺の前で姉ちゃんと合体する気か!!? そういうのが好きか!!?? そういう趣好かこの野郎とうとう本性を現しやがったなこのロールキャベツ粘体!!!!!」
「いやああああああっ!!! たっちさーーーーーーん!!! 困った
この時、リビングルームの入り口でUターンしたブルー・プラネットと死獣天朱雀を責められる人物は、多分誰一人としていないだろう。
合体してブラックプリン(うっすらピンク)と化したヘロぶくさんちょっと見てみたいですね。
ていうかこんな大騒ぎしたら結局ナザリック大変なことになりそうですね。
とりあえずストック二話分終了。
次回はちゃんとNPC出したい。