「ほら見てモモンガさん!結構上手に作れてるでしょ!」
「初めてで緊張しちゃったけど、いやー、やっぱ習うより慣れろだね!」
キャピキャピとはしゃぐ女性ギルメン、餡ころもっちもちとぶくぶく茶釜に挟まれたモモンガは、とある困難にぶつかっていた。
字面だけであれば、まさにリア充そのもの。
「二人の女子に挟まれて困っている」なんて一度は言ってみたい台詞ではあったが、実際挟まれているのはピンク色のぷるぷるしたアレな造形の粘体と、一ヶ月無人島生活させて野生感増し増しにした感あるアヌビスという、絵面的に上級者向けにもほどがある状況である。
ーーだが、それはまだいい。
良くないが取り敢えずは良い。
今彼が抱える最大の問題は、彼女達が其々持ったバスケットに入った、在る「物体」である。
「たまたま
「ねー! すごいんだよモモさん。かぜっち、シュークリームのシュー生地まで作っちゃったんだよ! さすがの女子力!」
「やだもー! あんちゃんだってむずかしいって言われてたマカロン作り、完璧じゃん! いつの間に料理のスキル取ってたの?」
「あははは……」
相変わらず楽しそうにキャピキャピ話す二人の間で乾いた笑い声を上げながら、モモンガは二人の持つソレを見つめる。
(シュー、クリーム……? マカロン?)
実は先程から精神沈静化が定期的に働いてはいるのだが、強制的に冷静になった頭で考えてもそう言った名称の物体が思い浮かばない。
助けを求めるように視線を送った先には、兜の下から恐怖に引きつった顔をのぞかせる、
__________
つい先刻、ふと、モモンガはリビングルームにて、独り言のようにある疑問を口にした。
「そういえば、スキルを持っていない事って、やろうとしたらどうなるんでしょう? 例えば、料理とか」
以前会議で話題にあげ損ねてしまった疑問であったが、それに食いついたのはーー正確には、後半の言葉に反応したのは、女性ギルドメンバーの一人、餡ころもっちもちであった。
「料理……やっぱスキル無いとダメかな?」
「やっぱり、餡ころもっちもちさんも気になりますか? ちょっと後で試してみようかなと思いまして……」
「モモッさーーん!! そういうことならあたし達に任せておくれ!!」
「え?」
「いやー実はちょうどこの間の女子会で、料理作ってみたいねって話をしてたんだよ! 良い機会だし、やまちゃんとかぜっち誘って実験してくる!!」
そう言って、意気揚々と彼女は姿を消した。
実験という名目ではあるが、実際の食材を使って料理が出来るという事実に、餡ころもっちもちは見るからにテンションを上げていた。
やっぱり女の子なんだなあ……と、そんな姿を微笑ましく見送ったモモンガに、声をかけたのは入れ替わりでリビングルームを訪れた白銀の騎士。
「どうしましたモモンガさん。やけに嬉しそうですね」
「あ、たっちさん! いや、嬉しいというか、なんか良いなあと思って……」
「? 何がですか?」
モモンガは先刻のやりとりをたっち・みーに説明する。
「成る程……スキルの事、失念していました。それで餡ころもっちもちさんは料理を作りに厨房へ?」
「はい、やまいこさんとぶくぶく茶釜さんを誘うと言っていました。とても楽しそうで……スキルの確認というより、単純に料理がしてみたかったんでしょうね」
「やっぱり女性は、料理を食べる事より、作る事の方が興味があるんでしょうか」
「ああ、でもそんな楽しみにしていたなら……失敗したら、ショック受けちゃうかもしれませんね……」
「はは、モモンガさんは優しいなあ。大丈夫ですよ。あの三人がちょっとやそっとの事で落ち込むとは思えませんし」
そんな会話に華を咲かせているところで、新たにキラキラと輝くエフェクトを纏った
「あれーモモンガさんにたっちさん。どうしたんですか二人で」
「いや実はかくかくしかじか……」
大きな翼を畳んで椅子に腰掛けるのにやや四苦八苦しながらも、彼はモモンガの話にへえ、と相槌を打つ。
「姉ちゃんが料理ねえ。俺あの人の食ってるところしか見た事ないんだけど」
「料理云々というより、友達と女の子らしい事をするのが楽しいのかもしれませんね」
「まあリアルで友達と料理作りなんて、なかなかできる事じゃありませんでしたからね」
かつてのように、とりとめのない話で華を咲かせるリビングルーム。
モモンガは幾度沈静化されても湧き上がってくる喜びを気取られぬよう声を抑えた。彼の頬に皮と肉が付いていたならば、その表情は緩みきっていただろう。
数刻後、彼女達が禍々しい件の物体を抱えてくるまでは。
『……モモンガさん、なにこれ。
『えっと……シュークリームとか言ってましたっけ……?
『たっちさん。富裕層なんだしこういう菓子日常的に食べてたでしょ? 何か知らない?』
『日常的に
『ていうかスキルがないからって生み出せる代物なのこれ? 声優っていう生命創造系職業が為せる技なの?』
『それじゃ餡ころもっちもちさんのコレの説明がつかないでしょう。キッチンってうっかり悪魔召喚してしまう危険な領域でしたっけ。誰か守護者に配置した方がいいんじゃないですか?』
三人の間を高速で飛び交う
ぶくぶく茶釜作。
ギャギャギャギャと声を上げ、苦しげに乗せられた皿の上で身をよじらせる
餡ころもっちもち作。
細かい繊毛状の何かがびっしりと生え、鼓動のようなリズムで紫と緑に色を変えつづける《
ーータブラ・スマラグディナに錬金失敗して出来たと言われた方がまだ納得のできる代物である。
とりあえず何か言わなくては、とモモンガは恐る恐るはしゃぐ二人に声をかける。
「えーっと……あ、そういえば……やまいこさんは……? 三人で作りに行ったと思っていましたが……」
「あー、やまちゃんはね、途中シュー生地の爆発に巻き込まれた副料理長をペストーニャに診せてくるって言って行っちゃった」
「何故かぼーっとしちゃって全然上手く作れなかったって言ってたね」
「人に食べさせられるものじゃないから、って言って捨てちゃってたよね。もったいないなー!そんなことなかったのに」
やまちゃんは恥ずかしがり屋だなーと少し残念そうに、ぶくぶく茶釜は頭部にあたる部分を左右に振る。その横でモモンガ達は即座に、比較的常識人枠である
『……つまり、スキルの無い事は成功しないって事で良いんですよね?』
『失敗したという自覚は個人によるという事か……恐ろしい……』
『ねえ待って、シュー生地の爆発に巻き込まれたって何? 初めて聞いたんだけどその熟語』
『あ、聞き間違いかと思ってスルーしてたんですけどやっぱりそう言ってたんですね。何でしょうね。至急全員に今後「シュー生地」に触るべからずって《
「ねえ! どう思う? 結構よくできたと思わない?」
スキル検証という現実逃避をしてなかなか感想を言わない三人にしびれを切らしたのか、餡ころもっちもちがわくわくした表情を浮かべて反応を伺ってくる。
「あ……そ、そうです……ね……よく、出来ていると、思います」
モモンガは眼窩の奥の光を泳がせながら、絞り出すような声でそう言うのが精一杯だった。
気が小さいと言われようと、こんなキラキラした目を浮かべて手作りの何かを見せてくる女性に対して、とてもじゃないが「新種のモンスター発見おめでとうございます」などと言える度胸はモモンガに無い。
ペロロンチーノとたっち・みーも同じ気持ちだったのだろう。当たり障りのないことしか言えないモモンガを責めることなく、むしろ同情の篭った目で見つめている。
しかし女子二人はその言葉に大変満足したようで、嬉しそうに笑いあっている。
「でしょー?モモンガさんが飲食可能だったら一番に食べさせてあげたかったけど……」
「あはは……ざんねんです……」
しかしそれもつかの間ーー。
「そんでかぜっちとね、誰に最初に試食してもらおうかって話してたんだー!」
「どうせならちゃんとした感想くれそうな人がいいよね。デミウルゴスとか…」
「「「それはダメだ!!」」」
ぶくぶく茶釜の言葉に、思わずワールドチャンピオンと
ーーデミウルゴスにこんなもの食べさせたと彼の創造主に知られたら、まず間違いなく《
デミウルゴスに限った話ではない。NPC達は全員、至高の存在の与えた品ならどんなものでも歓喜の涙を流しながら迷わず食してしまうだろう。そして、今やギルメン達の半数以上がモンペ拗らせ気味のうちの子可愛い病患者。被害にあったNPCの創造主がどんな行動に出るか……特に転移して以来シャルティア・イズ・マイライフになりかかっているペロロンチーノにとって想像に難くない。
一瞬、しんと静まり返ったリビングに、覚悟を決めた一人の男のため息が響き渡った。
「宜しければ……その菓子……この、たっち・みーが食しても、構わないでしょうか?」
「「たっちさんっっっっっ!!!!?????」」
強い覚悟を滲ませた白銀の騎士の言葉に、モモンガとペロロンチーノはほぼ悲鳴と言っても差し支えない声を上げる。
「え! たっちさん食べてくれるの!? うれしー! リアルで肥えた舌の感想、是非聞きたい!!」
「ちょっと緊張するけど嬉しいね! 是非食べて食べて!! ……って、モモさんとペロくんどうしたの?」
「いえ……二人とも、羨ましがっているみたいで。ははは……」
がっちりと、縋るように白銀の鎧をつかむ二人を訝しげに見つめるアヌビスに、たっちは努めて明るい声でごまかす。
『何を言っているんですかたっちさん!!?? いくらあなたでもこれらを完食してタダで済むとは……!!』
『やめてくれたっちさん!! 姉ちゃんにあんたを殺させないでくれ……!!』
即座にたっちの頭に響く悲痛な《
彼はふっと笑顔を浮かべて返事をする。
『私がこれを食べてどうなるか目の当たりにする事で、この存在がいかに危険なものであるかという事を、彼女達もきっと分かってくれるだろう……これは、必要な事だ』
『だからって……っ!! だからってどうしてあなたが犠牲にならないといけないんですか……!! 俺、まだあなたとこの世界でやりたい事が山ほどあるんですよ……!!??』
『たっちさんあんた……まさか俺が試食役にさせられるのを防ぐために、そんなことを……っ!!』
『モモンガさん泣かないでください。それに、考えすぎですよペロロンチーノさん。ただ私は、彼女達を無闇に言葉で傷つけたくないし、誰も犠牲になってほしくない……その我儘を、ただ叶えようとしているだけです』
「うおっ! どしたのたっちさん、いきなり正義降臨のエフェクト出して」
「ていうか何泣いてんのペロくん、そんなにかぜっちの作ったお菓子食べたいの?」
「あははははははは、では頂きます」
ペロロンチーノに矛先が向けられそうになった瞬間、たっち・みーはテーブルに置かれた二つの物体を白銀の手甲に覆われた両手で掴み取る。触れた瞬間、右手のものは叫びうねりうぞうぞと指に絡みつき、左手のものは手甲をぞわぞわと緑と紫のマーブル模様に変えつつあったが、ワールドチャンピオンは折れそうになる心に叱咤しそれらを口元へ持っていく。
しかし一瞬の隙を狙い、モモンガが目にも留まらぬ速さで骸骨の手でたっちの口を塞ぎ、ペロロンチーノが決死のタックルをして三人もろとも床に倒れこむ。
「ダメだああああああああっっっっ!!!!! たっちさん!!!! かっこつけるなよおおおおっ!!! 誰かの犠牲の上になりたつ正義なんて、俺は認めないっ!!!!」
「そうですよ!!!! ここは!! ギルド長である俺が責任を持って対処しますから……っ!! だから考え直してください!!」
「離してください二人とも……っ!! 第一モモンガさんは飲食できないでしょう……っ!!? 大人しく見守っていてください……っ!!」
「そんなのたっちさんを見捨てる理由になんかなりません……!! アインズ・ウール・ゴウンの名に賭けて、俺はこの手を離さない……っ!!」
床に倒れこみ、たっちが手に持ったソレを必死で奪おうとする骸骨と鳥人間を眺めながら、餡ころもっちもちは感激したように瞳を潤ませる。
「取り合いするほど食べたがってくれるなんて……っ!! やっぱり作ってよかったねかぜっち!!」
「まさか弟までもこんなに食いついてくるとは……ふっ……可愛いところあるじゃない。しょうがないあんちゃん。他に作ったやつも持ってこようか」
「そうだね!! これよりちょぉーーーーっとだけ失敗しちゃった奴だから持ってくるの抵抗あったけど、こんなに喜んでくれるならみんなに食べさせてあげよ!! 《
アヌビスと粘体の発した邪気無き無差別死刑宣告は、決死の覚悟を胸にうごうごと蠢く物体を握りしめた白銀の騎士と、彼を羽交い締めにしながらおいおい泣く
ーー後の世で。
その後の出来事は、『慟哭の晩餐』と名付けられた、世にも悍ましい戯曲で語り継がれる事になったとか。
死の支配者って打とうとして市の支配者に誤字変換。
モモンガさんをより身近な存在に感じることが出来ました。
女性三人の内一人くらい料理スキル持ってても可愛いですよね。
当シリーズの三人は誰も持ってません。
あとアニメでウルベルトさん喋ってましたね。たっちさんと喧嘩してましたね。ぶくペロ姉弟並んでましたね。非常に感激。
ぶくぶく茶釜さんの口めっちゃ可愛かった。アヒル口だった。流石の女子力。