ソードアート・オンライン~エグゼイド・クロニクル~ 作:マイン
…でもあの人の死生観じゃ多分初っ端で死ぬかもねぇ…。プーみたく振り切ってる訳でもないからオレンジにはなれてもレッドにはなれそうにないし、序盤は良くてもやり過ぎてラフコフに狙われて死にそう。
ではどうぞ
ガキィン!
「…ちっ、役立たずの雑魚共が。まあいい…一旦ここは引かせてもらいましょう。ですが、あなた方の顔は憶えましたよ。次に会うときこそ確実に殺して差し上げます…精々鼠らしく怯えて穴蔵にでも隠れていることですね!」
ババサァッ…!
『ガッシューン…!タイムアウト』
「…俺の方も時間切れか。アイツ行っちまうけど…追いかけるか?」
「そう…したいけど、御免…今は、無理…!」
「ハッ…!ハァ…」
「ウォゥ…」
「口惜しいが…今は見送るしか無い。ここで深追いすれば、奴らの思う壺だろうしな…」
「だな…」
部下と左腕を失いながらも不適な捨て台詞を残して相棒に捕まり飛び去っていく鷹使いを、満身創痍のキリトたちは悔しげに睨みながらも動くことが出来なかった。
…乱戦の末、結果から言えば鷹使いを仕留めることは出来なかった。戦いそのものは、キリトたちが優位であった。マイティアクションXのガシャットでパワーアップしたキリトは縦横無尽に密林を駆け巡ってエルフ達を翻弄し、モブ兵士達を足止めしている間にアスナと二人のダークエルフが鷹使いを果敢に攻め立てた。とはいえ鷹使いも相当な剣の腕を持っており、しかも戦闘経験の浅いアスナを徹底的に狙うという悪辣なやり口で苦しめたが、時折水を差すように飛んでくる短剣や小石…キリトの投剣スキルによるものであるが、それにより隙を見せたところを狼使いの操る狼が左肩に食らいつき、そのまま腕を食いちぎったことで均衡が破れることになる。
片腕を失ったことで激昂していた思考が冷えたのか、距離をとった鷹使いは部下がキリトによって全滅されたことを知ると、先ほどの捨て台詞を吐いて逃げていったのである。こうして、時間にして1分にも満たない…しかし余りにも熾烈な乱戦が終わったのである。…本来どちらかが死ぬはずであったダークエルフを、『2人とも生き残らせる』というβの時にはあり得なかった状況を作り出して。
「秘鍵を取り返せたのは、そなた達のおかげだ。里の一族を代表して礼を言わせてくれ。今回のことで指令からも褒章が出るだろう。野営地まで同行願えないだろうか?」
息が整ったところで女ダークエルフ…『キズメル』からクエスト進行のアイコンと共にそう問われ、顔を見合わせ示しあった後にキリトとアスナはそれを了承し、狼使い…『アッシュ』と共にダークエルフの野営地へと赴くこととなった。
「…ちょっと、そろそろいいでしょう?いい加減教えなさいよ」
その道中、キズメルとアッシュから少し離れて歩いていたアスナがキリトに詰め寄る。
「お、教えろって…何を?」
「惚けないでよ…!さっき、貴方が使ったあの変なアイテムのことよ。鎧みたいなのをつけた途端急に動きが速くなったりして…どう見たっておかしいでしょ…!さあ、キリキリ吐きなさい。それもβテスターしか知らないものなのかしら?」
「ちょ、待て…落ち着いて!…正直言って、俺だってβの時にこんなものを見たことは無い。多分こいつも製品版になって追加された新要素なんだろうな」
キリトは先ほど使ったガシャットを手にそう話す。
「ふうん…それにしても、いつこんなの手に入れたのよ?」
「第一層のボス戦の時さ。LAボーナスと一緒に手に入ったんだ。入手条件は…正直分からない。ただ、アイテムの説明を見る限り多分同じものはもう手に入らない…オンリーワンのアイテムなのかもしれないな」
「ふ~ん…で、それはどんな効果があるのよ?さっきの戦闘を見る限りだとスピードがかなり上がってたけど」
「ああ…こいつの名称は『マイティアクションXガシャット』。SAOの設定にある『秘鍵』とやらの一つらしい。こいつをプレイヤーの身体のどこかにセットすると、プレイヤーの敏捷性や瞬発力…要するに基本ステータスが底上げされるんだ。文字通り、瞬間的な『レベルアップ』って奴さ」
「成る程ね…ていうか、秘鍵って確かあの人たちも…」
「ああ、俺も思っていた。…多分だけど、キズメルたちが守っているアレもガシャットだと思う。つまりこのクエストのクリア報酬はあのガシャットである可能性が高い。予想外の流れになったけど、どうやら俺達は『当たり』のルートを選んだみたいだぜ」
「そう…まあ、報酬がなんだろうと私はあの人達の味方をするけど。…あ、でもそのガシャット…だっけ?それが報酬だったら私のだからね!キリト君はもう持ってるんだからいいでしょ?」
「それは約束できないなぁ…?こういうのは早いもの勝ちってな」
「ちょ…何よそれ!?」
「…何をしている?置いていくぞ」
「あ…ご、ごめんなさい!」
「…つがい同士で仲が良いのは結構だが、森の中では注意を怠るなよ」
「だからつがいじゃありませんッ!」
「ワゥ」
口喧嘩をキズメル達にからかわれながら、アスナとキリトは野営地へと向かっていった。
ダークエルフの野営地へとやってきたキリトたちは、クエスト進行のために彼らの騎士団…『エンジュ騎士団』の見習い騎士として行動を共にすることとなった。第三層のフロアボスは未だ見つかって居ないため、キリトたちは召集がかかるまでダークエルフ達の元でクエストをこなしたり武器の改修をしながら日々を過ごしていた。
そして数日が経った頃、ボス攻略に向けた緊急会議という連絡を受けたキリトとアスナは一旦野営地を後にし、攻略組プレイヤー達の拠点である主街地へと向かっていた。
「…そういえば今更だけど、キズメルたちキリト君のガシャットのこと何も聞かなかったね?自分たちの秘鍵と同じものなのに」
「ああ、俺も気になってそれとなく探ってみたんだけど、どうやらダークエルフの連中はあの秘鍵がどういうものかを知らないらしい」
「え?どうして?」
「なんでも、秘鍵は昔からあの包みに入った状態のまま受け継がれてきたんだと。今までも中身を見ようとした奴はいたけど、誰一人として開けることができた奴はいないそうだ。…多分だけど、アレを開けれるのはクエストを攻略したプレイヤーだけで、NPCには開けられないんじゃ無いか?」
「…そう。中身も分からないものを守ったり奪い合ったりするなんて、ちょっと…変な話よね」
「NPCにそんなことは関係ないんだろ。彼らにとって、例え中身がガシャットだろうと石ころだろうと…それが『秘鍵』と言うものである限りあのアイテムは特別なんだ。それがゲームキャラの宿命って奴だよ」
「…そういうものかしら」
「…アイツらにも、バグスターみたいな『意思』があるのなら違うかも知れないけどな」
「何か言った?」
「いや…別に」
そんな話をしながら森を抜け、キリトとアスナは3本の巨木をくり抜いて作られた三層主街地…『ズムフト』へと辿り着いた。
「うわぁ~…!大っきな木…これ図鑑で見たバオバブって種類の木かな?」
「いや…似てるかも知れないけどリアルでこんなデカいのは無いだろ。ゲームだからこその代物だ。こういうのもいいだろ?」
現実ではあり得ない巨木に顔を輝かせるアスナと共に会議が行われる広場へと向かっていると…
「…やっと来たわね!今までどこで油売ってたのよキリト!?」
「「!?」」
広場の入り口で仁王立ちしていたプレイヤーらしき少女がキリトたちを見るなり大声で話しかけてくる。ぎょっとした二人であったが、キリトはその少女の顔に見覚えがあった。
「お、お前…『ニコ』か!?」
そこに居たのは、かつて自分にライバル心を燃やして突っかかってきた挙句大我の元に転がり込み、最後にはキリトたちと共にゲムデウスと戦った少女…西馬ニコであった。
「そうよ!…ていうか、リアルの名前で呼ぶな!アタシは『N』よ、憶えときなさい!」
「あ、ああ悪い…ていうか、お前までこっちに居るのかよ!?お前確かβには選ばれなかったって言ってたじゃないか!」
「ハン!確かにβテストの抽選には落ちたけど、やらないなんて誰も言ってないでしょ?幻夢コーポレーションの筆頭株主の権限でSAOのソフトは確保しておいたのよ!…そしたら、こんなことになって…レベルと装備整えてる間にアンタが第一層のボス倒しちゃったから、急いで追いついてきたのに…どこに行ってたのよ!?」
「わ、悪い…って、それは謝ることじゃねえだろ!こっちだって色々やることが…」
「ちょっと…ねえ、キリト君!?」
「え…あ、アスナ…」
Nと口論をしていると、置いてけぼりになり不機嫌な顔になったアスナが声をかけてくる。
「そっちの人…誰?知り合いみたいだけど」
「…キリト、この可愛い子誰?まさか彼女?」
「違うッ!…ちょっとあって今パーティを組んでるんだよ。…アスナ、一応紹介するよ。こいつは…」
「いい、自己紹介ぐらい自分でする。…初めまして、私はN。世間じゃ『天才ゲーマーN』なんて呼ばれてるわ。こいつとは…ちょっと色々あって、一応友達って感じかな?」
「は、はぁ…どうも、アスナです。初めましてNさん…」
「Nでいいよ。年近いっぽいし…で、詳しいことは後で聞くけどここに来たって事はボス攻略に参加するんでしょ?」
「まあな…やらないわけにはいかないだろ?こんなゲーム、一刻も早く終わらせないと…!」
「…それは同感。早いとこ起きないとアタシが居ない間に大我が過労死しちゃうかもだし。黎斗みたいに」
「そこまで流行ってないだろあの診療所…」
「…随分仲が良いみたいね。ホントに友達?」
「あ、当たり前だろ!誰が好き好んでこんなのと…」
「こんなのって何よ!?…あ、こいつのことはなんとも思ってないから狙うんだったら好きにすればいいよ?」
「結・構・です!」
Nを交えて話しながら、3人は間もなく行われようとする会議へと合流しようとする。
「…あ、ごめんアスナ…先行っててくれる?キリト…ちょっといい?」
「え…う、うん」
「…どうした?」
その直前、アスナを先に行かせるとNはキリトを呼び寄せる。
「後でなんだけど、ちょっと話があるの。…『これ』について」
そう言いながらNが懐から取り出したものに、キリトは目を見開く。
「それ…『お前も』なのか!?」
「お前も…って、キリトも?」
「ああ…ほら」
「…どうなってんの?なんでこれがSAOに…」
「…まあ、話は後にしよう。今は攻略会議に集中だ」
「うん、そうだね…」
…その後、ボス攻略会議が始まりキバオウとリンドがそれぞれのギルド…『アインクラッド解放隊(ALS)』と『ドラゴンナイツ・ブリケード(DKB)』の発足を発表したり、キリトとアスナのパーティ解散を申し出られ突っぱねられたりしたものの会議は恙なく難航し、結局現在両ギルドが進行している『秘鍵クエスト』が一段落してから…ということだけ決まって会議は終わった。(ちなみにALSはダークエルフ、DKBはフォレストエルフ側についたらしい)
会議の後、身も心もすっかりダークエルフに染まってしまったアスナ…キズメルから聞いた話では、あの鷹使いに殺されたというアッシュの婚約者(ちなみにキズメルの妹でもあるという)がアスナによく似ていたらしく、そのせいか異常なほどにすんなり彼らに馴染んでしまった…を先に森へと帰し、キリトはNとそれぞれが持つものに関して話し合った。
キリトが秘鍵クエストに関して得た情報により方針が決まり、キリトとアスナは今まで通りダークエルフのクエスト進行を、Nは数だけは多いアインクラッド解放隊に潜り込んでキリトたちとは『ルートの異なる』ダークエルフ側のクエスト進行を進めることになった。フォレストエルフ側の情報はアルゴとNの知り合いの『
そうして数日が過ぎた頃…事態は動き始める。
「ちょりーっす!お待たせしたっすキリトさん!」
「あ、ああ…ご苦労様JK」
ダークエルフ野営地から少し離れた森の中で、キリトは目の前の人物…情報屋『JK』の定期報告を受けていた。
見たまんま『チャラい』という言葉がぴったりな外見で、軽薄な言葉遣いとアルゴ以上に戦闘向きでは無い装備ではあるが、これでも攻略組でも通用するほどの身体能力とアルゴ並みの神出鬼没性を兼ね備えているというプレイヤーで、キバオウとリンドの対立するギルド間をのらりくらりと行き来して反感を買うこと無く蝙蝠を演じているのである。…ちなみに見た目から明らかに年下であるキリトに『さん付け』しているのは、『どことなく尊敬する友人に似ているから』…らしい。
「それで、JK…向こうの様子はどうなんだ?」
「ういっす!…フォレストエルフ側のクエストは順調に進んでて、そろそろこの階層のクライマックスのシナリオに差し掛かるみたいっすよ。キバオウさんの方のダークエルフ側のクエストも同じぐらいだってNさんが言ってたっす。多分、両陣営とも今夜当たりにクエスト進行するんじゃないんすかね?」
「そうか、もうそこまで進んでいるのか…で、ギルド間の仲は良好か?」
「ん~それなんすけど…どうにもきな臭いんすよね」
「きな臭い?」
その言葉と共にJKの表情が変わる。普段どっちつかずな態度ではあるが、プレイヤー間での雰囲気の変化には異常に敏感で、それがよからぬ方向に行きそうになったときには躊躇いなく上位プレイヤー達に仲裁を求め、抗争の火種を消して回る。それがJKがプレイヤー達の間で信用されている理由であった。
「ああ…。キバオウさんとリンドさんの対立はいつものことなんすけど…最近はそのイザコザに『指向性』っつうか、『誰か』に誘導されているような気がするんすよね」
「誘導…何のために?」
「そこまでは分からないっす。…けど、アンタならなんとなく分かるんじゃ無いんすか?キリトさん、『この先の展開』を知ってるんでしょ?」
「…つまり、あの二人を扇動しているのは俺と同じ『βテスター』ってことか?」
「可能性としては、まあ。アルゴさんやNさんも同じ意見だったっすよ」
「向こうの陣営で、それらしき動きをしている奴はいるか?」
「…第三層からリンドさんにくっついて回っている奴に、『モルテ』って奴がいるんすけど、どうにもこいつ攻略にやる気がないっつーか…他の連中と違うものを見てるような気がするんすよね。そのくせ腕だけはそれなりなんで置いてけぼりにはならないんすけど、これもなんつーか…『手を抜いている』ような気がするんす」
「モルテ…ね」
「あ、あとこれは偶然かもしれないんすけど…俺が気になってこいつを尾行しているときに、数日おきに『同じ格好のプレイヤー』とすれ違っていたんすよね。全身黒ポンチョで顔を隠している奴なんすけど、もしかしたら…」
「『グル』の可能性がある…か。どのみち、そのモルテって奴がクロかシロかをハッキリしないと分からないな。…クエストの実行は今夜だったな。なら、ちょっと考えがある。悪いけど、Nに伝えて欲しいんだ」
「お安いご用っすけど、何をっすか?」
「それは…」
その夜…
「…キリトの言うとおり、見張りは居ないようだな」
「正直不安だったが…やはりやるときはやる男だったか。流石は我が友だ」
「……」
「アーちゃん、不満そうだネ。作戦教えられなかったのがショックかイ?」
「そんなんじゃない…!」
アスナ、キズメル、アッシュとその相棒…そして何故かアルゴの四人は闇夜に紛れフォレストエルフの野営地の近くへと忍び寄っていた。
本来のダークエルフ側のシナリオでは、今夜フォレストエルフ側の野営地に奇襲をかけ、彼らの持つ『指令書』を奪いとることになっている。フォレストエルフ側のシナリオはその逆で、迫り来るダークエルフの先兵から指令書を守り抜くのがクエストになっている。
しかし、通常とは異なる条件を満たしてしまったアスナたちは若干異なり、本隊とは別に野営地に侵入し、いち早く指令書を奪還…その過程で鷹使いを撃破する、という内容になっていた。それを聞いたキリトはキズメルたちに『野営地の外にいる見張りは自分がなんとかする』…と言って一旦パーティから離脱。代わりの人員としてアルゴを紹介してどこかへ行ってしまった。…コンビなのにのけ者にされたアスナが不機嫌になったのは言うまでも無い。
「…ま、いいんですけどね~。仕事さえきちんとしてくれれば、『私たち』としては文句は無いんですけどね~」
「アーちゃんアーちゃん、また心がダークエルフ化してるっテ」
「無駄口はそこまでだ。…そろそろ行くぞ」
「騒ぎになる前に指令書を…いや、それは最悪本隊に任せればいい。我らはとにかく、あの鷹使いを仕留めるのだ…!」
「…あの、キズメル…アッシュ。さっきも言ったけど、今回の作戦に混ざっている人族の戦士は…」
「分かっている。極力殺すな…だろう?」
「手加減には自信が無いが…お前の頼みとあらば、仕方あるまい」
「ワンッ!」
「…ありがとう、キズメル、アッシュ。…ようし、じゃあ張り切って行こうか!」
「ああ、奴らの陣営に…『吶喊』だ!」
「いや、潜入ですヨ!?」
「気にするな人族の斥候。…義姉上は高揚するといつもこうなのだ」
「…苦労してんだナ、アッシュさン」
「クゥン…」
アスナ達が野営地への潜入を始めた頃…そこから少し離れた場所では、もう一つの戦いが始まろうとしていた。
「…こんなところまで連れてきて、どういうつもりなんですかキリトさん?」
「すぐに分かるさ…モルテさんよ」
野営地から1㎞ほど離れた川辺にて、キリトはフォレストエルフ陣営の見張りをしていた件のプレイヤー…モルテを呼び出していた。フードを被って顔を隠し、キリトと同じ剣を佩いた彼は陽気な口調でキリトに絡むが、キリトは一向に相手にしない。そこに
ガサッ…
「…お待たせ、キリト」
「待ってたぜ、N」
「Nさん…?Nさんまでこんなところにどうしたんですか?ていうか、キリトさんとNさんって知り合いなんですかぁ?」
木陰から姿を現したNは、馴れ馴れしく話しかけてくるモルテに冷めた目を向けながら言い放つ。
「…随分うまいことやってくれたわね。私としたことが迂闊だったわよ、キリトから聞くまで気づかなかったわ…ねぇ、『ドラゴンナイツ・ブリケードのモルテさん』?」
「え…?な、何言ってるんですかぁ?俺はアインクラッド解放隊のメンバーですよ?現にずっと今まで一緒にクエストを…」
「ああ、そうだな。…『両ギルドが共同で行うクエスト以外』はな」
「…ッ!」
キリトの指摘に、フードの奥でモルテが舌打ちをする。
「おかしいよなぁ?ALSの中でもかなりの実力のアンタが、犬猿の仲の両ギルドがそろい踏みしなきゃどうにもならないフィールドボスのような強敵のクエストに限って参加しない…いくらキバオウがDKBへの隠し球にしているからって、命が掛かった戦いでそんな言い分を大事にするほどアイツも馬鹿じゃない。なら何故か…それはお前自身が参加を拒んだからだ。当然だよな…もしのこのこ出て行っちまったら、アンタが『DKBのメンバーである』ことがバレちまうもんな」
「両方のギルドでリーダーに近いポジションに就いてクエストの進行具合を調整し、同時に双方のクエストの進行具合を馬鹿二人に耳打ちして対抗心を煽る。そして今夜…両陣営が衝突するこのタイミングを狙ってギルド間で『抗争』を起こさせる。要するに…アンタは『フォレストエルフとダークエルフの戦い』を『人間同士の殺しあい』にすり替えたってワケよ!」
「βテスターとしてのクエストシナリオに関する知識、他人に取り入る口の巧さ、そしてそれを押し通すだけの実力…全部揃ってなきゃここまでスムーズに事は進まねえ。正直大したもんだよ、できれば『まとも』な出会い方をしたかったけど…お前、ちょっとやり過ぎだぜ…!」
「……くっ、くっくっく…アハハハハハ!流石はリアルでも天才ゲーマーなお二人だ、俺の考えなんかお見通しだったってことですか。けど…気づくのがちょっと遅かったみたいですね」
ワァァァァァァ…!
モルテの言葉に応えるように、フォレストエルフの野営地から叫び声が響き渡る。
「あれは…!?」
「始まった…!」
「…始まっちまったみてーだナ」
フォレストエルフの陣幕の一つに潜り込んだアルゴとアスナの眼前で、ダークエルフの部隊に混ざって襲撃してきたALSとDKBの小競り合いが始まっていた。
「邪魔すんなやおどれら!どっかすっこんどらんかいッ!」
「それはこちらの台詞だ!我々のクエストの邪魔をするな!」
口角唾を飛ばして罵り合うキバオウとリンドに呆れながらアスナの方を向くアルゴ…であったが。
「あーあ…どうするアーちゃん?アイツらほっといたらマジで…アーちゃん?」
「……」
アスナは鋭い眼光で周囲を見渡しながら、まるで何かを『待っている』ように剣を握ってじっとしている。
「…アーちゃ…」
…ズシャッ!
突如、天幕を突き破って外から『剣』がアスナめがけて突き込まれる。
「ッ!?アーちゃん!」
自慢の索敵スキルでも気づけなかった奇襲にアルゴはアスナの名を叫ぶしかできなかった。…しかし
ガキィンッ…!
アスナはそれが分かっていたかのように突き出された剣を自身のレイピアで防いでいた。
「やっぱりね…そう来るとは思っていたわよ、陰険エルフ!」
ズバァッ!
怒りのままレイピアを振り抜いたアスナが天幕を切り裂くと、そこにはあの鷹使いが飄々とした態度で待ち構えていた。
「おやおや…まさか読まれていたとは。私の腕も鈍りましたかねぇ…?」
「オレっちの索敵に引っかからねえとは…成る程、こいつが例の上位NPCのエルフってワケかイ」
「困りましたねえ…どうにも貴女があの一団の中心人物のようでしたので、貴女を殺せば他の連中も頭に血が上ってやりやすくなると思ったのですが…全く、どうして素直に死んでくれないんですかねぇ?」
「ご丁寧にどうも!…アンタの都合なんか知ったことじゃないわ!アンタは、ここで倒す!!」
「…アスナ!」
気配を嗅ぎつけたアッシュの狼に先導され、別の陣幕に潜んでいたキズメルとアッシュがやってくる。
「無事か、アスナ!?」
「うん、なんとか…!」
「そうか…なら、やるぞ!」
「了解ッ!…アルゴさんは指令書をお願い。ここは私たちが!」
「…ああもう、分かりましたよお姫サマ!その代わり、死ぬんじゃないゾ!」
アルゴに指令書の奪還を任せ、アスナ達3人は再び鷹使いとの戦いに挑むのであった。
「ほらほら~、もう始まっちゃいましたよ?キリトさんたちも早く行かないと大変なことになるかもしれないですよ~?」
野営地での騒ぎにキリトとNを煽るモルテであったが、二人は特に焦った様子も無くモルテを見据える。
「…モルテさんよ、余り俺達を見くびるなよ。うちのお姫様達は、人の思い通りに動くほど可愛いもんじゃないぜ」
「リンドやキバオウだってそうよ。あの二人は確かに頭に来るぐらいの馬鹿だけど、それでも…アンタなんかよりは何百倍もマシな奴よ。…それに、こんなことしでかしたアンタを放っておくとでも思ったの?言われなくとも行くわよ…アンタを牢獄エリアにぶち込んでからね!」
「……」
「…くっくっく、だから言ったじゃねえか。そいつはそんなもんでビビるタマじゃねえってよ」
「「!?」」
モルテの背後から聞こえてきた声に身構えると、森の奥から『黒いポンチョ』に身を包んだプレイヤーが現れる。声からして、どうやら男のようだ。
「あらら…来てたんですか、『リーダー』」
「その呼び名は止めろ。…オレはお前と仲良しごっこするつもりはないんだぜ」
「お前は…!」
「久しぶりだなぁ…ビーターさんよ」
「…キリト、知り合い?」
「知り合い…ってもんじゃないさ。敢えて言うなら…オレにビーターを名乗らせた『名付け親』みてーなもんだ」
キリトは憶えていた。第一層のボス戦でプレイヤー達の不和を煽って、自分への不信感を募らせたのはこの男だと。そして同時に確信した、こいつがJKの言っていたプレイヤーであり、モルテとグルになってこの騒ぎを引き起こした犯人だと。
「なんだ、憶えてくれてたのかい。なら話は早ぇ…ちょうど『2対2』だ。やろうじゃねえか、『デュエル』って奴をよ…!」
「何だと?」
「デュエルって…確か、プレイヤー同士の『決闘』だよね?」
「お、お?やる気じゃないっすかリーダー!急にどんな心境の変化っすか?」
「うるせぇ!テメエには関係ねえだろ…」
「…オレからも聞いておきたいな。なんで俺達とお前らがデュエルをしなきゃならない?」
「あん?…決まってるだろ。お前らはあの野営地に合流したい、けど俺らはそうはさせない。うだうだやって時間を浪費するぐらいなら、デュエルで白黒つけたほうがお前らの都合は…」
「そんなことじゃない。そいつがデュエルを挑むってんならその理屈で通る…けど、アンタは違うだろ。アンタはこのクエストに関わっていない。まして両方のギルドの関係者でも無い。そんなアンタが、なんでこんな真似をするのかって聞いてるんだよ」
「……ヒハハッ!なんだそんなことか…そんなの、決まってるじゃねえか」
「…テメエが気に入らねえからだよ、ビーターッ!!」
言うや否や大型の鉈のような武器を振り上げ襲いかかる黒ポンチョの攻撃をキリトは剣で受け止める。
「チッ…!」
「キリト!」
隣にいたNはすぐさま得物の大ぶりなダガーを抜き、黒ポンチョの側面から攻撃を仕掛ける。
「シィッ!」
「きゃッ!?」
それに対し黒ポンチョはキリトの剣を支えに跳び上がり、蹴りでNを牽制しつつその勢いでキリトから飛び離れる。
「N、大丈夫か?」
「こ、これくらい…なんともないって!」
「ヒヒヒヒ…さあ、やろうじゃねえかビーター!It’s show time!」
「逃げ道は…無いですよぉ~?」
いつの間にか背後に回り込んでいたモルテと共に、キリトとNにデュエルの申請が送られる。ルールは『半減決着モード』、背後をとられた以上逃げ道は無い。
「…どうすんのキリト?」
「どうするもなにも…やるしかないだろ!」
「だよね!」
キリトとNが同時に受諾すると同時に、デュエルの開始の秒読みが始まる。
「…始める前に聞いておきたい。今の動き…アンタ、素人じゃないな?ゲームじゃなく、『現実』の方で…」
「さあ…どうだか。知りたきゃオレに勝てばいいんじゃねえのか?」
「…それもそうだな。じゃあ、『手早く』終わらせるとしようじゃないか…N」
「…オッケー。やるよキリト…!」
カウントが10を切った時、キリトとNは同時にポケットから『ガシャット』を取り出す。
「…ん?それは…」
『マイティアクションX!』
『バンバンシューティング!』
「大変身!」
「変身!」
かけ声と共にキリトはガシャットを腰に、Nは手のひらに突き立てる。
『ガッチャーン!レベルアーップ!マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!』
『ガッチャーン!レベルアーップ!ババンバン!バンババン!バンバンシューティング!』
軽快な音声と共にキリトはエグゼイドを模した装甲を、Nはスナイプを模したヘルメットとマントを纏う。そしてNの手のひらに突き立てたガシャットは変形し、『ガシャコンマグナム』…SAOにおいて異物である筈の『銃』となりその手に握られる。
「…!?なんだそりゃ…?」
「俺達の切り札だよ。悪いが時間が無い、手っ取り早く…」
「超協力プレイで、クリアしてやるわ!」
「あ、オレの台詞…」
ピーッ!
変身すると同時にカウントが終わり、キリトとN、黒ポンチョとモルテの変則デュエルが始まった。
「…成る程、これは予定外。けれど同時にラッキー…見せてもらいましょうか、そのガシャットが我々の『商品』になり得るかをね」
ぼそりと呟かれたモルテの言葉に、誰も気づかぬまま。
新たなガシャット、バンバンシューティング登場でした。
正直これを出すとSAOの世界観が崩れそうなので迷ったのですが、やっぱりメインライダーのガシャットは揃わないと締まらないので色々と制約をつけて出しました。使用者はニコ以外考えられなかったので、ステージでもスナイプに変身してたしね
独自ルートで生存させた狼使いの名前は今作のオリジナルです。ぶっちゃけそんな重要キャラでもないので適当ですけど…
SAO内でのガシャットのルールに関しては次回まとめて説明します。…どうしてかって?それは…ふふふ