ソードアート・オンライン~エグゼイド・クロニクル~   作:マイン

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今回はこの作品でやりたかったことその1を実行します。大体の予想はつくでしょうけど頭空っぽにして読んで下されば…

ではどうぞ


月夜の下で

ガキィン!

 

「今だテツオ、ダッカー!」

「す、スイッチ!」

「任せろ、どりゃあ!」

「き、キリト!」

「落ち着けサチ!確実に盾で防いでからケイタにスイッチだ!」

「う、うん!」

 

 キリトが月夜の黒猫団に加入してから二週間。最初は余所余所しかったキリトだったが、フィールドでモンスターと戦うときは遠慮なしで指導していたお陰か、そう時間のかからないうちにギルドに馴染みつつあった。

 黒猫団の面々はリーダーのケイタに前衛でメイス使いの『テツオ』、槍使いの『ササマル』、切り込み隊長の『ダッカー』、そして紅一点のサチで構成されている。実力はともかく向上心は十分にあったため、キリトはまず『敵を倒す』ことではなく『隣の人間を守る』ことから教えていった。自分を守ることは当然だが、敵を倒すことにばかり気が入っていると周りを見る目が疎かになってしまうため、強くなることよりも生き延びることに意識を向けさせたのだ。その甲斐あってか、この二週間で彼らのレベル上げの階層は10層付近から既に前回死にかけた15層にまで上がってきていた。そしてたった今…彼らはあの時やられかけたモンスターに止めを刺したのだった。

 

パキィィン…!

「…ぃよっしゃあー!リベンジ達成!」

「凄いよ!俺達本当に強いんじゃないかな?」

「こらこら、調子に乗るなよ!キリトが後ろで指示してくれたお陰だろう」

「うん。ありがとう、キリト」

「実行したのは皆だ。俺が指示するのは最初だけ、次からはギリギリまでアドバイスしないぞ?」

「ええ~…り、了解~」

 

 キリトは結局、自分がプレイヤー達からビーター呼ばわりされていることは話していなかった。今でこそアルゴやエギル達により第1層の誤解は解けつつあったが、一度根付いてしまった印象は拭いきれず、末端から末端へと尾ひれがつく形でビーターの悪名だけが一人歩きしている状況になってしまっている。ようやく馴染めてきた時に自分がビーターだと打ち明けてしまえば、攻略組を尊敬している彼らがどんな目を向けてくるか…正直怖かったのだ。

 

(こんなことなら、最初に言っておけば良かったかな…。俺、いつの間にこんな優柔不断になったんだろ。…飛彩さんが知ったら『その性根、俺が断ち切ってやる!』…とか言われそう)

 

「…よし、今日はこのぐらいにしよう。少し休憩してから街に戻ろう!」

「ラジャー!」

 そんなことを思い悩んでいる間に訓練を終えた黒猫団は、待ちの外れにある景色の良い丘の上で一休みすることにした。

 

「ふう…そういえば、出発前に情報屋の新しい新聞が出来てたから持ってきたぜ」

「あ、『風都新聞』だろ?俺にも見せてくれよ!」

 ササマルが取り出した新聞…最近再会したリアルで知り合いの情報屋達と共に『情報屋ギルド』を立ち上げたアルゴが発刊している風都新聞には、攻略組の近況だけでなく下層のプレイヤー達からの小さな依頼や注目のプレイヤー特集などが掲載されている。

 

「何々…おお、攻略組がついに28層をクリアしたってよ!流石だよなー…」

「一番活躍したのは血盟騎士団のアスナだって!男顔負けの獅子奮迅の活躍、かぁ…サチも負けてられないよな!」

「わ、私は…あんまり…」

 新聞の内容に一喜一憂する皆を遠巻きに見ていたキリトに、ケイタが声をかけてくる。

 

「キリト、ちょっといいかな?」

「ん…なんだ?」

「キリトは攻略組に居たんだよな?そのキリトから見て…どうだ?俺達、攻略組でもやっていけそうかな?」

「それは…正直、今のままだとちょっと厳しいかな。まだレベルも攻略組の平均とダブルスコア開いてるし…」

「…そっか。やっぱりそうだよなー…」

「……攻略組に入りたいのか?」

「まあな。今はこうしてキリトにおんぶに抱っこだけど、いつかはキリトと肩を並べて最前線で戦えたらな…って、思ってるんだ」

「そうか…」

 空を見上げ、遙か上層で戦っている攻略組の背を追いかけるようなケイタの目に、キリトは今の自分が情けなく感じて思わずトーンが下がってしまう。

 

「…俺さ、攻略組の人たちって強いだけじゃないんだと思うんだ」

「え?」

「そりゃあ、効率よくレベル上げたり強い武器を手に入れたりするのも大事さ。…でも、彼らが攻略組たり得るのは、『期待を背負う覚悟』があるからだと思うんだ。ここよりずっと下の階層で、SAOがクリアされるのを待っている人たちの為に戦う…そんな気持ちがあるから、彼らは最前線でも戦うことができるんだと思うんだ」

「期待を背負う…覚悟」

「キリト、君だってそうじゃないのか?君に何があったのかは知らないけど、君もたくさんの人たちの為に戦おうとしたから、最前線で戦い続けられたんじゃ無いかな?」

「…俺は」

 キリトは考える。あの日…初めてエグゼイドに変身したあの時から、キリトは戦い続けてきた。ゲーム病に苦しむ患者のため、原病患者である自分自身のケジメのため。そして、自身にとって2度目となるデスゲームを一刻も早く終わらせるため。その想いがあったからこそキリトは命をかけて戦うことが出来た。…ならば何故、今自分はこうして足を止めてしまっているのだろうか。

 

「…っと、なんか偉そうなこと言ってゴメンな。うちの高校、ちょっと前までスクールカーストっていうか…差別意識みたいなのがあって、俺達みたいなのはこれぐらい言わないと取り合ってくれなかったりするんだよ。俺らが入学する前に卒業した…なんとかダー部?の先輩たちのおかげでだいぶマシになったらしいけど、まだ頭の固いのが残ってるんだよなー」

「そ、そうなのか…」

「…おーいリーダー、キリト!そろそろ行こうぜー!」

「おーう!…じゃ、行こうぜキリト」

「ああ…」

 

 

 

 

 

 

 その日の夜…

 

「…ハッ!」

 

ザシュ!

パキィィン…!

「ふう…これでレベルアップか。素材の方は…明日には揃いそうだな」

 ギルドの仲間が寝静まった後、キリトは一人最前線に近いフロアまで赴きモンスターと戦っていた。黒猫団に合わせた階層で得られる経験値ではキリトには物足りないため、いつ攻略に戻ってもいいよう、こうして夜な夜な特訓を重ねているのである。

 

「さて、そろそろ…」

「…お!キリト、キリトじゃねえか!」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこには風林火山の仲間を引き連れたクラインがこっちに手を振りながらやって来ていた。

 

「クライン…!どうしたんだよ、こんな時間にこんなところで?」

「バッキャロー、それはこっちの台詞だぜ。…ちょいと装備を作るのに必要な素材があったんだが、なかなかドロップしないもんだから熱中してる間にこんな時間になっちまってな。お前こそなんで…」

 と、そこでクラインはキリトの名前の横に所属ギルドのマークがあることに気がついた。

 

「キリト!お前、ギルドに入ったのかよ!?」

「…まあな。と言っても、攻略に復帰するまでの間レベル上げを手伝ってるだけなんだけどな」

「そうなのか。…いやしかし安心したぜ。お前のことだからこのままずっとぼ…ソロ貫くんじゃねえかと心配してたんだぜ」

「…おい、今お前『ぼっち』って言おうとしてたろ?」

「いやいやいやいや!気のせいだって!」

「本当かよ…?」

『ハハハハハ!』

 ぽろっと本音をこぼしかけ慌てふためくクラインに風林火山の仲間達が大笑いする。彼らはクラインが初日に探そうとしていたゲーム仲間であり、そんな彼らの雰囲気にキリトは黒猫団の皆を重ね、思わず微笑む。

 

「…そうだ。キリト、お前聞いたか?キバオウとディアベルのこと…」

「何かあったのか?」

「いやそれがよ…」

 

 クラインの話によれば、始まりの街に戻ったキバオウはギルド名を『アインクラッド解放軍』へと改名し、より強固なギルド再編の為にプレイヤー達に有志を募っていた。そんな中でキバオウはディアベルにも勧誘を試み、以前の失態を帳消しにする代わりに解放軍の副リーダーになるよう言って来た。しかし、ディアベルはキバオウの様子が以前と違っていることに感づき、レベル差を理由にその申し出を断ろうとした。…その直後、キバオウはディアベルに詰め寄り脅しをかけてきたというのだ。

 

『堪忍してなディアベルはん…。ワイは、もう怖いねん。あんな化け物共をあと70体以上倒さなあかんなんて、ワイには無理や。けど、ギルドを潰すわけにはいかん。だから…アンタに代わりに出張って貰わなあかんねん!あのギルドは本来、アンタのギルドやったんやから!』

 そう言いながら剣を手に襲いかかってきたキバオウであったが、ディアベルも自主的なレベルアップでそれなりに強かったことに加え、帰りが遅いのが気になって迎えに来たオーナリーが加勢したことであえなく返り討ちにあった。

 

『無理矢理に恩を着せディアベル殿を恐喝するとは言語道断!ディアベル殿、こやつを即刻牢獄送りにしましょうぞ!』

『…オーナリーさん。それはできない』

『な、何故…!?』

『今彼を牢獄送りにすれば、解放軍は今度こそ分解する。そうなれば、拠り所を失ったプレイヤー達が何をしでかすか分からない。彼らが皆キリト君のようにソロで活動出来るわけでは無い。下手をすれば、この始まりの街で無法を働く者が出てくる恐れもある。…それを防ぐためにも、顔役であるキバオウ君を失うわけにはいかない』

『むむむ…』

『それに…彼の気持ちは、分からないでも無い。最前線で何があったのかは分からないが、ここに来たときのギルドの有様から恐ろしい目に遭ったのは事実だろう。彼はそれに恐怖しながらも、それでもギルドの体裁を保つために僕を利用しようとした。勿論許すことはできないが、だからといってキバオウ君の心境そのものを否定することは出来ない。彼には庇って貰った恩があるしね。…だが、もし今後このような強引な手段を解放軍や君がしようものなら、その時は今回のことを大々的に公表し、しかるべき罰を受けてもらう。覚悟しておいてくれ』

『…畜生』

 ディアベルの意向を受け、今回の件は当事者のディアベルとオーナリー、そして『何故か』始まりの街に居たアルゴだけが知ることとなり、約束が破られれば即アルゴによってアインクラッド中に知らされることになっている。クラインはオーナリーと連絡を取った際にこのことを知らされたのだという。

 

「…そんなことがあったのか。キバオウの奴、かなり追い詰められてるみたいだな」

「まあ、あのクォーターボス戦の被害を考えりゃ自棄を起こしたっておかしくはねーんだろうがな…っと、しゃべり過ぎちまったな。そろそろ…ふわぁ~、眠ぃや…。そろそろ街に戻ろうぜ」

「ああ。じゃ、またな」

「おう。…早いとこ戻って来いよ!お前がいないと張り合いがねえからよ」

「…ああ」

 お互いの健闘を願い、キリトとクライン達はそれぞれの拠点へと戻っていった。

 

 

「…遅くなっちまったな。早く寝ないと明日に響くや」

 11層の主街地を走るキリト。拠点である宿屋の前の通りにまで帰ってきた時…

 

「…ん?」

 宿屋の扉が開き、中からローブを纏ったプレイヤーらしき人物が出てくる。ローブの端から除く黒髪にキリトは眉を顰め、その人物の名を呟く。

 

「…サチ?」

「ッ!?」

 キリトの存在に気づいたサチは目を見開いて驚き、弾かれるように反対方向へと走って逃げ出した。

 

「お、おい!待てよサチ!」

 慌てて後を追うキリトであったが、この街の間取りに関してはサチの方が詳しいらしくやがて見失ってしまった。

 

「くっ、見失ったか。…けど、俺を舐めるなよサチ…!」

 そう言いながら、キリトはウィンドウを開きあるスキルを発動させた。

 

 

 

 

 

「……」

 

「…こんなところに居たのか、探したぞ」

「ッ!…キリト」

 街の外れにある橋の欄干の下で一人縮こまるサチを、キリトの索敵スキルが捕捉し、こうして追いついた。

 

「もう見つかっちゃったんだ…。やっぱり、攻略組って凄いね…」

「こんなの、俺じゃ無くても出来る。必要が無いから上げてないだけで、スキルさえ上げればサチにだってできるさ」

「そうなんだ…」

 力なく笑うサチに対し、キリトはやや距離を取った場所に座りこむ。

 

「……」

「……」

 しばしの間、二人は何も喋らない。やがて先に口を開いたのは、サチの方だった。

 

「…どうして黙ってるの?わざわざ追いかけてきたのに…」

「追いかけてきたのは君が心配だからだ。こうして無事なら、俺にそれ以上の目的は無いよ。…俺にはむしろ、君の方が何か言いたいことがあるように見えるが?」

「………キリト、どうして貴方はそんなに強いの?」

「…それはレベルのこと、じゃないよな。前にも似たような質問をされたけど、俺はただ強くあれるようにしているだけさ。俺のやりたいことを貫くために強い自分で居ようとしているだけ…虚勢張ってるようなもんだよ」

「ううん。キリトは強いよ…じゃなきゃ、こんな世界で戦おうなんて思えない。こんな…ゲーム中で死んだら本当に死ぬなんて冗談みたいな世界で、自分から戦おうとするなんて…私にはできないよ」

「……」

「キリト…。私の兄さんね…『ゲーム病』で死んだの。2年ぐらい前に…」

「ッ!」

 サチの告白にキリトは目を剥く。2年前といえば、キリトがCRに入るより前のことで、その当時は飛彩も海外の病院で働いておりまともなドクターが殆どいない状況だったと聞いている。その時の治療といえば灰馬による投薬処置や明日那のメンタルケアなどが主である程度は防げたものの、それでも何人かの患者は消滅してしまったという。

 

「そう、だったのか…」

「お医者様を恨んでるわけじゃ無いの。精一杯手を尽くしてくれたのは分かってる…でも、それでも理不尽だって思ったの。ゲームで治せるような病気で、どうして兄さんが死ななきゃならないの…って。この世界に来るのだって、本当は怖かった。皆に誘われてSAOを買ったけど、もしこの世界でも危険なことが起きたらどうしようって…そしたら、いきなりデスゲームになったなんて言われて…どうしてゲームなんかで、人の命が奪われなくちゃならないの…!?」

「……」

 沈黙するキリトに、サチは立ち上がって言う。

 

「ねえ、キリト…二人で逃げよう?」

「逃げるって…何からだ?ケイタ達か?モンスターか?それとも…この世界からか?」

「全部…!もう嫌なの…私なんかじゃ、この世界で生き残れない…。こんな世界で、無意味に死ぬのは嫌なの!…キリト、貴方が居てくれるなら私は…」

「悪いがサチ…それは、それだけはできない」

「!?」

 ハッキリとしたキリトの答えにサチは顔を歪める。

 

「どうして…?私なんかじゃ駄目なの?それとも…キリトも、この世界が楽しいと思ってるの?」

「そのどちらでもないよ。…サチ、さっきサチが言ったことを俺は『1年前』からずっと考え続けてきた。どうしてゲームで人が死ななきゃならない…皆に希望を与える筈のゲームが、何故悲しみを生む道具になっているのかって、ずっと思い続けてきた」

「キリト…?」

 いつもと違う様子のキリトに困惑するサチに、キリトは向き直って告げる。

 

「でも、違ったんだ。ゲームが希望にも絶望にもなるのは、全てそれをする人間次第なんだ。ゲームは所詮、人間が創る物。それがどんなものになるのかは人間が決めることだ。茅場晶彦はこの世界を自分が支配する箱庭として生み出した。けど、だからといってその世界で生きている俺達が奴の思惑に乗せられてやる必要は無い。サチがこの世界に絶望しているのなら、俺が希望になってやる。例え何年、何十年かかっても必ずこの世界をクリアして茅場晶彦に一泡吹かせてみせる!天才ゲーマーキリトとして、ゲームを愛する人間として、ゲームが誰かを悲しませるようなことを俺は絶対に許したくないんだ…ッ!」

「…それがキリトの戦う理由なの?」

「ああ。人から見れば偽善だとか英雄気取りなんて思われるだろうけど、俺には関係ない。……ああ、そうだ。俺はゲームが生きる希望になるってことを証明したいんだ。そのために、俺はずっと…ずっと、戦い続けてきたんだな」

 アスナとコンビを組んで以来、キリトはアスナを守ることを戦う理由としてきた。危ういところを助けた縁もあるが、なによりゲーム初心者ながらも天才的なセンスで急成長していくアスナに、キリトは一種の憧れと彼女がどこまで強くなれるのかを見ていたいという想いに駆られたのだ。そのアスナが離れたことで、キリトは『自分が最初に抱いた戦う理由』を見失いかけていたのだ。

 幼い頃両親を事故で失い、自身も死の瀬戸際にあったところを日向審議官に救われ、桐ヶ谷家に引き取られてからは孤独を紛らわすようにゲームに没頭したキリト。パラドが分離したことで一時的に異常なゲーム熱は冷めたものの、しがらみのないゲームの世界はキリトにとってある種の救いだった。

 しかし、仮面ライダーとなったことで自分が愛するゲームが人々を脅かしていることを知ったキリトは、我が身の危険も顧みずに戦うことを選んだ。拙い正義感もあったが、自分の心の拠り所でもあるゲームが悪用されていることがキリトには許せなかったのだ。自分を孤独から救ってくれたように、ゲームには人の生きる活力になる可能性がある。それを信じているからこそキリトは医者になる勉強の傍らでゲームを真剣に遊び、自分がその証明になろうとしている。己が見失っていた始まりのきっかけを、キリトはサチとの会話の中で思い出したのである。

 

「キリト、貴方は一体……ううん、多分聞いちゃいけないことなんだよね。キリトが言わないって事は、そういうことなんでしょ?」

「…悪い、熱くなっといて勝手だけどな。だけど、これだけは信じてくれ。俺が月夜の黒猫団でいる限り、君は俺が守る。だからサチも、この世界で生きることを…戦うことを諦めないでくれ。現実に戻れたとき、今の自分を後悔しない為にも」

 キリトの懇願にサチはしばし俯き…やがて顔を上げて頷く。

 

「…うん、分かったよ。戦うことは怖いけど…それでも、頑張ってみる。月夜の黒猫団の皆と、キリトと一緒に現実に帰るために…!」

「ああ!…それと、お兄さんのことだけど、まだ望みはあるはずだぜ」

「え?」

「前に衛生省の会見で言ってたろ?ゲーム病で消滅した人は死んだわけじゃ無い、そう見える症状になっているだけだって。…今医療の現場では消滅した人たちを元に戻すための研究が進んでいる。SAOの影響で少し遅れるかもしれないけど、将来必ず患者の人たちを復活させてみせる。サチのお兄さんも、いつかは元の戻れるはずだ。だからお兄さんに会うためにも、必ず生き残ろう」

「…本当に?本当にまた兄さんに会えるの?」

「会える!必ず…会わせてみせる!だから、信じてくれサチ。未来を…!」

「…キリト、ありがとう…」

 いつかの再会を信じて涙ぐむサチと共に、キリトは宿へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 それから数日後、朝食を終えたメンバーにケイタが声をかけた。

 

「え?今日は休み?」

「ああ。ちょっと個人的な用事があるんだ。今日中には戻ってくるから、今日はレベル上げは休みにしようと思う。…それに、たまには休みの日があってもいいだろ?だから今日一日は全員自由行動だ。羽目を外さない程度に楽しんでてくれ」

「よっしゃあ!流石、部長は話が分かるぜ!」

「からかうなよ…じゃあキリト、俺がいない間皆を頼む」

「ああ、任せてくれ」

 キリトに臨時でリーダーを任せ、ケイタは一人どこかへと転移していった。

 

「よーし休みだぜ!何して遊ぼうかな~?」

「うふふ…キリトはどうするの?」

「俺か…。特に思いつかないしな、始まりの街にいる知り合いにでも会いに行こうかな」

「…じゃあ、私も一緒に…」

「…なあ、皆ちょっといいか?」

 降って湧いた休みに思い思いに予定を考えていると、ダッカーが声を上げる。

 

「ん、どうしたんだ?」

「提案なんだけど、これから皆でいつもより上のダンジョンに行ってみないか?」

「え…ケイタ抜きでか?なんで?」

「皆も知ってるだろ?ケイタが攻略組に入りたがってること。…でも、多分あいつ俺達に気を遣って言い出せないでいると思うんだよ。だからさ、俺達だけでもやれるってところを見せてやればケイタも踏ん切りがつくかもしれないだろ?リアルの時からケイタには世話になってるんだし、たまには俺達がアイツの背中を押してやってもいいんじゃねえかな?」

「成る程…確かにな!前までの俺達なら厳しいけど、今の俺達はキリト先生のおかげで20層ぐらいのモンスターとなら戦えるようになったしな。なんとかなるかも…」

「ああ、イケるかもな。サチもそう思うだろ?」

「ええ…!?で、でも…やっぱり危険じゃないかな?それに、勝手にダンジョンに行ったらケイタにも怒られるよ。…ね、キリト?」

「う~ん…、俺もあまり賛成はできないかな。下層と違って、20層以上のダンジョンはまだ未踏破のエリアも多い。モンスターはなんとかなるとしても、下手に罠に掛かれば危険に陥るかもしれないしな」

「え~ノリ悪いなぁ。未踏破だからこそ良いんだろ?攻略組の連中が見落としてるお宝なんかを見つければ、月夜の黒猫団のパワーアップにもなるんだしよ!もし強力な武器が見つかったら、キリトが攻略組に戻った時にだって役に立つかもしれないだろ?」

「それは…ん~~~…」

 ダッカー達に言い寄られながら唸るキリトは、サチの心配そうな視線を受ける中…やがて、ため息を吐いて頷く。

 

「…分かった、付き合うよ。ただし、危険だと思ったらすぐに撤退するからな。俺もお金出すから、脱出用の『転移結晶』と回復アイテムはありったけ買い込んでおくぞ。それと、今は俺が臨時リーダーだから俺の指示には従って貰うぞ」

「よっしゃあ!オッケーオッケー、任せとけってキリト!じゃあ、俺達は買い出ししてくるからちょっと待っててくれ。いくぞテツオ、ササマル!」

「「了解!」」

「あ…ちょっと、皆!」

 サチの制止も聞かず、3人はキリトからお金を貰うと店へと向かって行ってしまった。

 

「…ねえキリト、本当に大丈夫なの?私たちだけでダンジョンなんて無謀じゃないの?」

「落ち着けよサチ。…確かに、少し無謀ではあるかもな。だからこれは月夜の黒猫団にとっての『転機』になると思う。もし俺達だけでもある程度戦えるのなら、いきなりは無理でも知り合いを通して少しずつ攻略に参加していくのもアリだ。万が一危険な目に遭っても、転移結晶があればすぐに街に戻れる。そうなったらきっぱりと攻略を諦めて少しずつ強くなることに集中すればいいさ」

「大丈夫なのかな…?」

「…まあ、少なくともどっちに転んだとしてもケイタのカミナリは覚悟しないとな。精々怒られる覚悟はしておこうぜ。…大丈夫だよ。何があっても、俺が皆を守る。絶対にな」

「…うん」

 

 この時のキリトは、答えを見いだした安心感と久しぶりの上層ダンジョンに挑む高揚感で少なからず浮かれていた。実際キリトのレベルは攻略組と比べても遜色なく、強さだけならプレイヤーの中でもトップクラスなのは間違いない。それ故に、何かあっても最悪力尽くで対処できると思い込んでいた。

 

 …故に、忘れていた。檀黎斗や茅場晶彦のような人種が、そういうプレイヤーに対して何らかの『罠』を仕掛けていてもおかしくないということを。

 

 

 

 

 

 

 

 アインクラッド27層、迷宮区…

 

「でやぁ!」

 

ザシュ!

パキィィン…!

 キリトが試金石として選んだのは27層の迷宮区であった。最前線にもほど近いここは、めぼしいアイテムこそ少ないものの、通路が狭いためかモンスターとのエンカウント率がさほど高くなく、またその強さもこの階層としては平均的だ。それ故に攻略組のトッププレイヤー達にも攻略を早々に見限られ、今では下から上がってきたプレイヤーが慣れるための訓練所として使われるほどのダンジョンでしか無かった。

 

「へへ…思ったより楽勝じゃん。これなら俺達も攻略組になれるんじゃね?」

「ああ、敵がそこそこ強いからレベルもガンガン上がるしな」

「…油断するなよ。俺もここの迷宮区には1回しか潜ったこと無いから、大まかなマップしか持ってないんだ。何が起こるか分からないぞ」

「分かってるって、心配しすぎだぜキリト」

「……」

 連携を駆使することで次々とモンスターを倒していったことで次第に余裕ができつつあるササマル達をキリトが窘めながら、皆はダンジョンの奥へと向かっていった。

 

「…この辺りはまだマッピングがされてない。もし何かあるとしたらここぐらいなんだけど…」

「つっても壁ばっかじゃ…お、あの壁なんか変じゃね?」

 ササマルが指さした先の壁は、確かに他の壁と比べて少し目立つ装飾がされていた。

 

「どれどれ、何があるかなっと…」

 テツオが徐にその壁に触れると…

 

ゴゴゴゴゴゴ…!

 重々しい音と共に壁が動き、その奥から扉が現れて独りでに開いた。そうして開かれた扉の奥にある小部屋には、開けてくれと言わんばかりに中央に鎮座された『宝箱』があった。

 

「やったぜ!お宝発見だ。空いてないって事は、俺達が始めて見つけたってことだぜ!」

「やっぱり皆見落としてたんだよ。早く開けようぜ!」

 わかりやすいぐらいの宝箱に男子3人はテンションを上げて駆け寄るが、キリトのゲームセンスがここに来て警鐘を鳴らしていた。

 

(…変だ。いくら外れダンジョンでも、アイテムを探して隅々までマッピングしている奴はいるはずだ。そんな奴が、なんでこんなあからさまな仕掛けに気づかない?単なる見落としか…それとも、『気づいたからこそ』誰も…)

「…ッ!!しまった、それは罠だ!皆、それを開けるなぁッ!!」

「キリト!?」

「え?」

 自分の迂闊に気づいたキリトが部屋に飛び込みながら警告するが、遅かった。

 

 

パカ…

 

 

ビーッ!!ビーッ!!

 宝箱を開けた瞬間、けたたましいアラート音と共に小部屋が紅く光り出す。

 

「な、なんだよコレ!?」

「ブービートラップだ!宝箱を開けた瞬間に発動する罠…皆、すぐに脱出を…!?」

 すぐさま引き返そうとしたキリトであったが、振り返った先にあるはずの出口が無くなっていた。

 

「出口が…そんな!」

「くそっ、だったら…転移、タフト!」

 ダッカーが転移結晶を手に自分たちのホームのある階層を叫ぶ…が、クリスタルは一向に反応しない。

 

「クリスタルが…使えない!?」

「『クリスタル無効化エリア』か…クォーターボス以外でこんな所にあるだなんて…!」

 以前にも手を焼かされたシステムにキリトが歯がみしていると、『それ』は始まった。

 

ブォンブォンブォン…!

「ッ!?も、モンスターが…こんなにいっぱい!?」

 突如として出現した小部屋を埋め尽くす数のモンスターの軍勢に、ダッカー達は怯えつつも武器を構える。

 

「おまけにモンスターハウスか…!クソッ、皆固まれ!散り散りになるな、俺がモンスターを減らす!」

「固まれったって…うわあッ!」

「こんなの…身動きがとれないよぉ!」

 キリトが指示を飛ばすが、モンスターの数が多すぎるために皆思ったように動けず、目の前の敵を相手するのが精一杯であった。

 

「糞ッ…大変身!」

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!』

 キリトもガシャットを使いパワーアップして応戦するが、障害物も無く四方を敵に囲まれたこの状況ではマイティアクションXの機動性も生かせなかった。

 

「どわああッ!?」

「た…助けてぇ!」

「い、嫌…キリト、キリトぉ!」

 悲鳴をあげる仲間達に、キリトは必死に敵を倒しながら助けに行こうとする。

 

(糞ッ!このままじゃ、皆殺される…!俺がもっと早く罠に気づいていれば…いや、そんなことは今はいい!早く助けに行かないと…何か、何か無いのか…!?)

 キリトが頭の中で方法を考えていると…ふと、目の前にいきなりメッセージウィンドウが現れる。

 

「なんだ…?」

 訝しげにそれを見ると、そこにはこう書かれていた。

 

『プレイヤーのレベルが一定値に達しました。条件クリアにより『マイティブラザーズXXガシャット』の使用が解禁されます』

「マイティブラザーズのガシャット…!?どうして、しかも条件って…」

 

 

『…あー、やっと繋がったぜ。生きてるか、和人?』

「ッ!?」 

 突然頭の中に聞こえてきた『声』に、キリトは状況も忘れて目を見開く。

 

「お、お前…その声は、まさか…!?」

『ごちゃごちゃ悩んでる場合じゃないだろ?…アイツら、助けたいんじゃ無いのか?』

「…キリト!」

「ッ!」

 サチの声に顔を上げれば、へたり込んだサチめがけてモンスターが刃を振り下ろそうとしていた。

 

「…ああ、迷ってる暇なんか無いッ!頼む、力を貸してくれ…ガシャット、レベルアップ!」

 キリトの声と共にマイティアクションXのガシャットが外れ、キリトの手の中で変化し『マイティブラザーズXX』ガシャットへと変わる。

 

「だ~い…変身ッ!!」

 そしてかけ声と共に、キリトは再びガシャットを自身に突き立てた。

 

 

『ダブルアップ!』

 瞬間、ガシャット…いや、キリトの身体からポリゴンのようなものが溢れだしサチの方向へと飛んでいく。

 

『俺がお前で!』

 ポリゴンはモンスター達の頭上を飛び越えながら、やがて人のような形を成していく。

 

『お前が俺で!We’re!』

「…ハァッ!」

 そして気合いと共にサチへと凶刃を振り下ろそうとしていたモンスターを一刀両断にする。

 

 

「…大丈夫か?」

「は…はい、大丈夫……ッ!?」

 窮地を救った恩人にサチは怯えながらも応え…その『顔』を見て愕然とする。

 

「あ、貴方は…一体…!?」

「悪いが、話は後だ。お前らに死なれると『和人』が悲しむからな、俺が守ってやるよ」

「和…人?」

 呆然とするサチに背を向け、モンスター達と対峙する男。その顔は…眼鏡こそかけているが、『キリトと瓜二つ』であった。

 

 その男は、人間では無い。かつて寂しさからゲームに逃避していたキリトの、『一緒にゲームをする『家族』が欲しい』という願いから生み出された最初の『バグスター』。そして、キリトの『天才ゲーマーキリト』としての側面とも言える桐ヶ谷和人にとって分身とも言える存在。

 

 

「待ちくたびれたぜ…『パラド!』」

「お待たせ。さあ…俺の心を滾らせてくれよ!」

 キリトの声に応えながら、パラドは不適な笑みを浮かべて手にした剣の切っ先をモンスターへと向けるのだった。

 

『マイティマイティブラザーズ!Hey、XX!!』

 




今回は今作でのパラドの扱いについて

原作でのパラドは永夢の「一緒にゲームをする友達が欲しい」という願いによって生まれたものでしたが、主人公をキリトにするにあたり同じ願いである必要はなくね?…と思いまして、肉親を失ったキリトの境遇から「一緒にゲームをする家族が欲しい」という願いが今作のパラドの根幹になっています。パラドはその願いを「家族=兄弟」として認識したためまるで双子のような見た目のバグスターとして生まれました。それ故にパラドが登場した時には原作以上にキリトとパラドの関係性が疑われましたが、その辺は割愛で。

今回はここまで。同時更新の黄金の言霊もよろしく
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