ソードアート・オンライン~エグゼイド・クロニクル~   作:マイン

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風都探偵のコミックスを買おうか迷っている。ライスピとクウガは呼んでるけどアマゾンズとはまだ読んでないんだよな~、面白いって噂だけどどうしようか?

今回で月夜の黒猫団編は終わりです。ではどうぞ


黒猫の夜明け

 突然戦場に現れたキリトそっくりの少年に、黒猫団の皆も状況を忘れて唖然とする。

 

「え…ええええええッ!!?」

「キリトが…二人ッ!?」

「ど、どうなってるの…?」

「まあまあ、話は後って事で。…で、和人!どうするんだ?」

「ハァッ!…ッ、パラド!お前は皆を一カ所に集めてくれ!俺はここでサチを守る!」

「オーライ…んじゃ、ササッと行くぜ!」

 モンスターを掻き分けてサチの元に辿り着いたキリトの指示を受け、パラドは剣を手に走り出しまずは近くで壁を背にモンスターに集られていたテツオの元へと向かう。

 

「そらッ!」

 

ザザザシュゥッ!

 パラドは踊るような剣捌きでモンスター達を背後から切り刻み、テツオを包囲から解放する。

 

「よっ」

「あ…ありがとう…」

「…おっと、これ借りるぜ!」

「え…あッ!?」

 訳も分からぬままお礼を言おうとするテツオからメイスを掠め取ると、パラドはそれを後ろに投げる。

 

ガツンッ!

『ギャオッ…!?』

「へ…?」

 投げたメイスはタッカーの背後を襲おうとしたモンスターの後頭部に命中し、モンスターの悲鳴を聞いたタッカーは自分が狙われていたことに気がついた。

 

「悪り、しばらくこれ使ってくれ。そんで急いであのお嬢さんのところに向かってくれ…駆け足!」

「あ…ああ、分かった!」

 自分の剣をテツオに渡してサチの元へと走らせ、パラドは無手のまま今度はタッカーの方へと走り出す。

 

『ギガーッ!』

 武器を持っていないパラドにモンスター達はお返しとばかりに襲いかかる…が

 

「よっ!ほっ!はっ!」

 

ドゴォ!ドゴォ!バキィッ!

パラドの拳が光を放ち、放たれた体術スキルの連打を受けたモンスター達は次々と道を開けていく。

 

「よっと…そら、どいたどいたぁ!」

 ついでとばかりにさっき投げたメイスを蹴り上げて拾うと、初めて使うとは思えないほど器用にメイスを振り回してタッカーの周囲のモンスターを駆逐する。

 

「た、助かった…けど、お前一体…?」

「そういうのは後でな!アンタもほら、そっちに行った行った!」

「お…おう!」

「うわあああッ!?」

「この声は…ササマル!?」

 悲鳴を聞いて振り向くと、ササマルが四方をモンスターに囲まれ今にも押し潰されそうになっていた。

 

「あ~…アレは不味いな。走って行ったら間に合わないか」

「ササマルッ!…待ってろ、今助けに…」

「お前はいーって!俺に任せときな…ほっ!」

 助けに行こうとしたタッカーを手で制すると、パラドは身体をポリゴン状に変えて再び飛び上がった。

 

「なッ!?」

 いきなりのことに驚愕するタッカーを余所に、パラドはササマルとモンスターの間に割り込むと今度はササマルの持っていた槍をひったくる。

 

「え!?あ、ちょ!」

「ちょっと借りるだけだって!…行くぜオラオラァ!」

 パラドはササマルを中心に回りながら槍を振り回し、モンスターの壁を無理矢理こじ開ける。

「そら行くぞ!」

「は、はいッ!」

 ササマルの手を引いて囲みを抜け、パラドはようやく月夜の黒猫団を一カ所に集めきったのだった。

 

「皆…良かった!」

「お、俺達…生きてる、生きてるよな!?」

「ハァ~…マジで死ぬかと思った…」

「…安心するのはまだ早いぜ」

「そういうこと…だな」

 全員集まって一息吐いたのも束の間、モンスター達はこれ幸いにと一塊になったキリトたちにジリジリと詰め寄り始める。

 

「ゲゲッ!?ま、また囲まれてる…もう駄目だ、こんなの助かりっこないよ…!」

「…そうでもないぜ。よく見てみろよ、モンスター…さっきより減ってるだろ?」

「え…あ、本当だ」

 キリトの言ったとおり、部屋を埋め尽くすモンスターはキリト達が地道に倒したことで罠の発動直後よりは確実にその数を減らしていた。

 

「いくら茅場晶彦がデスゲームを仕掛けたからと言って、仮にもゲームの制作者が『攻略できない罠』を作るはずが無い。つまり、ここのモンスターのポップにも限界がある。そして数が減りだしたってことは、もうこれ以上モンスターが湧くことは無いってことだ」

「要するに、こいつらを全滅させれば晴れて俺達は全員生還できるって訳だ。…どうだ、ちょっとはやる気出たかよ?」

「お、おお!それならイケる…か?」

「…皆、頑張ろう!戦って…絶対皆で生き残ろう!私は、もう諦めない…こんなところで、死んでたまるかッ!」

「サチ…よっしゃあ!やってやるぜ!」

「よし…いくぞ皆!超キョウリョクプレイで…」

「クリアしてやるぜ!」

 

『オオオオオオッ!!』

 雄叫びを上げて、皆はモンスターの群れへと突撃していった。そして…

 

 

 

 

 

「…それで、命からがらここまで戻って来れたってことか?」

「は、はい…」

「その…ごめんなさいケイタ。私たちが勝手にこんなことをして心配かけて…本当にごめんなさい」

 11層タフトにある月夜の黒猫団の拠点にて、先に戻ってきたものの帰りの遅い仲間達を心配していたケイタに、あのダンジョンから『全員』で晴れて生還したタッカー達は迷宮区で起きた事を包み隠さず話していた。自然と正座して白状するキリトたちの後ろで、パラドは壁に寄りかかりながら事の成り行きを見守っている。

 

「…ケイタ、27層行きを決めたのは俺だ。もう少し下の迷宮区を選んでおけばこんなことにはならなかったはずだ。今回のことは、見立てを俺の責任だ」

「キリトは悪くないよ!あんなの、誰も予測できるもんか。それに、そもそも言い出しっぺは俺なんだから、悪いのは俺だよ!」

「…止めろ皆。誰が悪いとか、そんなことはどうでもいい。皆が納得して決めたのなら、誰が言い出しっぺだろうとそれは全員の責任だ。…その上で、ギルドのリーダーとして言わせて貰う」

「……」

 

「…皆の大馬鹿野郎ッ!!」

 ケイタの怒号に、覚悟していたとはいえタッカー達は竦み上がる。

 

「皆が俺のためにダンジョンに挑んでくれたのは嬉しい。…けど、それで全滅したら本末転倒だろう!?この世界で死んだら、現実でも本当に死ぬんだぞ!それが分かっているのなら、ここまで無茶なことをする必要はないじゃないか!」

「……」

「キリト!君も君だ、俺は君を信用してリーダーを任せたのに、その君が判断を誤ってどうするんだ!」

「…本当に済まない」

「ケイタ…!キリトを責めないで、キリトは私たちを守ってくれたんだよ!」

「分かってる!そんなことは分かってるんだよサチ、だから…だからこそ、俺は何より『俺自身』が許せないんだ…ッ!」

「え…?」

 言葉の意図を理解できないサチたちに、ケイタは絞り出すように続ける。

 

「今回の原因は、そもそもは俺が攻略組を目指そうとしたのが原因だ。…でも、結局俺は皆にそれを言い出せなかった。最前線で戦いたいのは本当だけど…それ以上に、そこでもし皆の誰かが犠牲になってしまうことになれば…そう思うと、怖くて言い出せなかった…。皆はそんな俺を察して、俺を後押しするためにこんな無茶をしたんだろう?なら、皆を危険な目に遭わせたのは元を辿れば俺の優柔不断が原因だ…」

「そ…そんなことないよ!ケイタは何も悪くない、そんなのがあってたまるかよ!」

「男なら誰だってヒーローに憧れるさ!…そして、まっとうな奴なら誰だって死ぬのが怖くて当たり前だ!ケイタの気持ちはおかしくない、当たり前のことだよ!」

「皆…」

「…ケイタ、自分を責めないでくれよ。じゃないと、俺達はもうお前の友達でいられなくなっちまう…!」

「もう一度、やり直そう?今度こそ皆で、ちゃんと話し合って…ね?」

「……ああ、そうだな。月夜の黒猫団は、1からやり直しだ!」

『おお!!』

 ギルド全員で言葉を交わし、再出発の誓いを立てた後…ケイタ達の視線は、キリトとパラドへと移る。

 

「…さて、キリト。皆を助けてくれたことには感謝してる…でも、その前にそろそろ教えてくれてもいいだろ?君と、そこにいる君のそっくりさんのことについてね」

「…だとよ、和人どうする?」

「……ああ、分かってる。でも、その前に一つ言っておかなくちゃならないことがある。…実は、俺は皆に隠していたことがあるんだ」

「隠していたこと?」

「それは…」

 

「…それは、君が『ビーター』だってことかい?」

「ッ!?」

 キリトの言葉を先取りしたケイタに、キリトは思わず息を呑む。

 

「ビーターって…噂のチートプレイヤーのことだろ!?キリトが、そのビーター…?」

「もしかして、ケイタの用事って…」

「…うん。実は、最初から気にはなっていたんだ。攻略組でもトッププレイヤー並のキリトが、どうしてどこのギルドにも所属していないのかって。その時に思い出したんだ、第1層で情報を隠し持ってLAボーナスを横取りしたっていうソロプレイヤー…ビーターって呼ばれてるプレイヤーのことを。…でも、ビーターがどんな姿をしているのかは分からないし、巷の情報も良い噂もあれば悪い噂もあってハッキリとは分からなかったんだ。だから、思い切ってビーターのことを一番よく知っているっていう情報屋に話を聞きに行ってきたんだ」

「…アルゴか」

「ああ。アルゴさんはキリトがビーターだっていうことを認めた。…そして、こうも言っていたよ」

 

『オレっちは別にキー坊がビーターだってことを隠してる訳じゃないゼ。キー坊にも隠さなくてもいいって言われてるしナ。…キー坊は、アレで意外と不器用な奴なんだヨ。この世界では現実以上に情報格差が物を言う、βテスターを始めとしたトッププレイヤーは他のプレイヤーにとって憧れであると同時に嫉妬の対象にもなル。もし攻略組と下層プレイヤーの間に確執が生まれちまえば、攻略どころじゃなくなっちまウ。だからキー坊は、半ばでっち上げで付けられた不名誉な渾名をそのままにしてるのサ。SAOプレイヤーにとって、ビーターってのは共通の厄介者だからナ。何かあったらビーターのせいにしときゃ、もし最前線で攻略が遅れても下層プレイヤーからの突き上げも抑えられるだろうからって…ホント、馬鹿な奴だヨ…』

 

「…キリトがビーターを名乗っているのは、いざというときに批判の避雷針になるためなんだろう?最前線のプレイヤー達が攻略に集中できるように…そんなことをしている君を、根も葉もない噂だけで悪く思うなんてできないよ」

「キリト…お前、そこまで考えてたのかよ…!」

「…やっぱり、キリトは優しいんだね」

「アルゴの奴…隠さなくてもいいとは言ったけど、そこまで教えてもいいとは言ってないぞ」

「フフフ…和人らしいな。そういう不器用な所、僕は嫌いじゃないぜ?」

「そりゃそうだろ、お前だって俺なんだから」

「お前も…俺?どういうことだ?」

「なあキリト、いい加減教えてくれよ!そのキリトそっくりの奴についてよ!」

「そうだよ!というか…君どうやってあそこに来たんだい?あの部屋はトラップのせいで出入りなんかできなかった筈なのに…」

「…和人」

「ああ、話すさ。そういう訳にもいかないからな…」

 

 

 キリトはサチ達に、パラドが自分に感染している『バグスターウイルス』であることを明かし、意思疎通の結果和解して共存状態にあることを説明した。その中でパラドは、自分が今までキリトのアバターの構成データの一部として潜伏していたが、キリトの『マイティブラザーズXX』の能力である『一定時間一緒に戦ってくれるNPCを召喚する』機能を利用してNPCとしてSAOに介入したことを明かした。…流石に自分たちが仮面ライダーであることは黙っていたが。

 

「パラドが、バグスターウイルスだって…!?」

「そ!僕は和人の願いから生まれたバグスター…ついでに言えば、和人の天才ゲーマーとしての側面でもあるってワケ」

「バグスターって…ゲーム病の原因のアレだろ?じゃあ、キリトは…その、ゲーム病患者って奴なのか?」

「まあ、広義的にはな。けど、パラドとは色々あって発病しない代わりに俺の身体で共存することになってるんだ。だから心配しなくても俺は大丈夫だし、勿論皆に感染することもないよ」

「そ、そうなんだ…?」

「……」

「サチ、どうし……あっ、そうか…サチのお兄さんは…」

「…サチ。聞いてくれ、パラドは…」

「待てよ和人。…僕が話す」

 弁明をしようとしたキリトを遮り、パラドがサチと向かい合う。

 

「…サチ、で良かったよな。アンタのお兄さんのことは和人の中で聞いてたよ。だから、アンタがバグスターに対してどんな風に思ってるのかは…大体分かってる。俺は人間じゃないけど、和人から色々と人間の心のことは学んだからな」

「……」

「だから…なんだ、もしアンタが俺のことを危険だって思うんなら、俺は金輪際アンタ達に関わらないと約束する。俺が死ぬと和人が困ることになるから、それぐらいしかできないんだけど…」

「…そんなこと、しなくてもいいよ」

「え?」

「分かってるよ。私の兄さんに感染したバグスターとパラドは関係ないんでしょ?だったら、パラドは何も悪くないよ。だから、貴方がそんなことをしなくても私は大丈夫」

「いやでも、俺がバグスターなのは…」

「大丈夫だよ。だってパラドは、私たちを助けてくれたから。だから私は、パラドを信じるよ。パラドがいい人…じゃなくて、いいバグスターなんだって」

「…そっか。ありがとうな」

「うん」

「良かったな、パラド」

「…和人、人間ってやっぱり心が躍るな」

「ああ…ていうか、いつまでも本名で呼ぶなよ!この世界じゃ俺はキリトなんだからさ」

「あー…悪い悪い」

「へえ、キリトってリアルの名前和人って言うんだ」

「…まあな。頼むから内緒にしてくれよ?特にアルゴにはな、高値で売られちゃたまらないからな」

「勿論、任せとけって和人…じゃなかった、キリト!」

「お、お前らな…」

「ハハ…さあ、湿っぽいのはこの辺にしよう!今日はギルドの無事を祝って、派手にやろう!」

『おー!』

 素性を人柄が明かされたことで黒猫団の皆に受け入れられたパラドを加え、月夜の黒猫団は全員の無事を祝う宴を開き、遅くまで喜び合ったのだった。

 

 

 

 

 そして翌日、11層の転移門の前にキリト、そしてパラドと月夜の黒猫団の皆が揃っていた。転移門の前に立つキリトのカーソル…そこに、月夜の黒猫団のイニシャルはもう存在しなかった。

 

「…じゃあ、行くな。色々と世話になったな」

「よしてくれキリト、世話になったのはこっちの方だ。僕らの方こそ感謝している」

「なあ、キリト…本当に行っちまうのかよ?もう少しいいじゃんか?」

「悪いな…でも、決めてたんだ。そろそろ攻略に戻らないとってな」

 

 宴の中で、キリトは月夜の黒猫団を脱退し再びソロプレイヤーとして最前線に復帰することを発表した。ギルドの仲間は驚きながらも薄々感づいていたようで、皆快くキリトを送り出してくれた。それに併せて、ケイタは月夜の黒猫団の今後の方針について切り出した。 

ケイタは今回の件を受け、黒猫団の攻略組への合流を諦めることを決めた。レベル差や技量もあったが、サチが戦いを好まないことやキリトとの話の中でケイタ自身も薄々見切りをつけていたことが理由だった。しかし、だからといって攻略されるのを黙って待っているのも癪だというメンバーの声に、ケイタはにやりと笑ってこう言った。

 

『確かに、俺達に攻略は無理だ。…でも、俺達はそれが出来る奴を知っている。キリト…これから俺達月夜の黒猫団は、君を全面的にサポートするギルドになるよ!』

 

 SAOには、攻略組が攻略を優先した結果クリアされていないダンジョンやクエストが多数残っており、攻略が進むにつれ今後それは数を増していくだろう。黒猫団はそれに目を付け、攻略組の後を追う形でそういったクエストをクリアし、その中で攻略に役立ちそうなアイテムや武器をキリトを通じて最前線に送ることを目的とすることになったのだ。本来なら最前線までアイテムを運ぶのもキリトがわざわざ受け取りに行くのも一苦労であるが、その面倒を解消したのがパラドの存在であった。

 

『キリトが抜けるんなら、僕がキリトの代わりにギルドに残ってやるよ。まだこのゲームに慣れときたいし、皆がキリトをサポートするのなら僕が残った方が都合がいいしな』

 

 ケイタの提案は皆に好意的に受け止められたが、キリトが抜けることによる戦力の低下が不安要素となっていた。そこでキリトとパラドの提案により、キリトに代わってパラドが月夜の黒猫団に加入することになった。そのパラドのアカウントがキリトと『共用』になっていることが分かったのだ。

パラド曰く、本来なら『同じステータスのNPCを生み出し一緒に戦う』というマイティブラザーズXXの機能をクラッキングしてSAOに参加した結果、パラドとキリトは2人で1つのアカウントを共有することになったらしい。なのでキリトが持つ武器や防具、習得したスキルの全てをパラドは使用することが出来た。更にアイテムストレージも共有状態になっているようで、どちらかが取得したアイテムをもう片方がストレージから取り出すといったことも可能であった。これを利用し黒猫団が手に入れたアイテムをパラドが持つことでキリトに直接送ることが可能になったのだ。

 

…尤も、パラドの黒猫団加入には『別の理由』もあるのだが、それを知るのはキリトとパラドのみである。

 

 

「ササマル、その辺にしておけよ。お前だってキリトが抜けるのは納得したんだろ?」

「そりゃそうだけど…サチ、お前もいいのかよ?お前キリトのこと…」

「…うん、いいの。キリトが決めたのなら、私はそれを応援するって決めたから。だから…私はもういいの」

「…まあ、お前がそう言うのならしょうがないか」

 サチの言葉に、粘っていたササマルもおとなしく引き下がった。…サチがキリトに対して抱く気持ちには皆気づいていたが、当の本人がそう言っている以上、これ以上口を挟むのは憚られた。

 

「じゃあ、皆…俺行くな」

「ああ、最前線でも頑張ってくれよ!」

「陰ながら応援してるぜ!」

「俺達もサポート頑張るからな。期待してくれよ!」

「疲れたらいつでも戻ってきて良いからな。ギルドを抜けても、キリトは俺達の大切な友達だ!」

 ケイタ達が口々に声をかける中、サチは一歩退いた所からその様子を眺め、そして決心する。

 

(…そう。キリトは皆の希望になれる人。キリトならきっと、このデスゲームを終わらせてくれる。…でも、その隣にいるのはきっと私じゃない。その人はきっと、キリトの隣でキリトを守れる人だから。キリトのために、この世界で生きようとしている人たちのためにも、私がキリトの重荷になっちゃいけない。だから…その時が来るまで、この想いは私の胸の中だけに…)

「…キリト。負けないで、絶対…絶対生きて、現実でまた会おう!私、信じてるから…!」

「サチ…ああ、任せとけ!」

「うん!」

「…パラド、ギルドの皆は任せたぞ」

「ああ、任せとけって。キリトこそ油断するなよ、僕の出番が来る前に死んだりしたら許さないぞ」

「そう簡単に死ぬかよ。…じゃあ、行ってくる!」

 

 そして、月夜の黒猫団が見送る中でキリトは最前線の階層へと転移していったのだった。

 

 

「…行っちゃったな」

「ああ。…でも、キリトならきっと大丈夫だよ」

「案外次の風都新聞でキリトの名前を見るかもな」

「ハハハ…そうだな。さあ、俺達も行くぞ!まずはこの階層のクエストを全制覇だ!」

「やりこみって奴?いいね…心が躍る!」

「…またね、キリト。私の一番好きな人…」

 

 運命を乗り越えた黒猫たちは、新たなスタートへと向け踏み出していく。彼らの行動が後に実を結ぶことになるのは…まだ先のことである。

 

 

 

 

 

(さて…和人の予想が当たっているのなら、僕もこいつを早く使いこなしておかなくちゃな。まあ、『元々僕のもの』だしなんとかなるだろう)

 あのモンスターハウスを切り抜けた後、罠だと思っていた宝箱の底で見つけた『それ』を手にパラドは、昨日キリトに言われたことを思い出す。

 

 

 

 

『茅場晶彦は、このゲームの中にいる。俺達と同じプレイヤーとしてこの世界に来ているはずだ。俺達なら分かるはずだ、黎斗も檀正宗もそうだったように…!もしその時が来れば、茅場にとって想定外の存在であるお前は切り札になる。…茅場の正体は俺が突き止める。だからその時まで、お前はキリトとして振る舞ってくれ。頼むぜ、相棒…!』

「…任せとけって、相棒。ゲームマスターを嵌めるとか、心が滾る…!」

 本来存在しない筈の『意思を持ったNPC』としてこの世界に現れたパラド。彼がその名の通り茅場晶彦のシナリオにおけるパラドックスとなるのか、それが分かるのはそう遠くないことである。

 




今回はマイティブラザーズの解説を

・マイティブラザーズXX(キリト)
・使用時間 1分
・効果 一定時間レベルが20アップ。更に、その時点でのステータスや装備をコピーしたNPCが出現し、時間まで自動で戦ってくれる。ただしNPCには制約があり、モンスターだけしか攻撃しないためデュエルなどの対人戦では余り意味が無い。

 …というのが本来の仕様。キリトの場合はガシャットの効果で生み出されたNPCにパラドがハッキングをかけ、そのデータを乗っ取って自分のアバターにしてしまった。その際、アバターの基本情報にキリトのアカウントを使用したためキリトとパラドはSAOにおいて同じ「キリト」として扱われる。ゲーム内での扱いとしては「結婚」している状態に近い。この結果マイティブラザーズを常時使用している状態になったため、ガシャットとしてのマイティブラザーズは使用不能となった。


今作のパラドは基本的には一人称が「僕」で、興奮すると「俺」になります。言ってしまえば原作の二人とあべこべになった感じです。
黒猫団は今後は物語の裏でひっそりと活躍していくことになりました。とはいえフェードアウトしたわけではなく、彼らには今後重要な役割があるのですが…それが分かるのはだいぶ先になります。

ではまた次回
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