ソードアート・オンライン~エグゼイド・クロニクル~   作:マイン

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石塚運昇さんが亡くなったと聞きました…。ご高齢なのは分かっていましたが、まさか70前で亡くなるとは…もうオーキド博士やトリューニヒトやジョセフの声が聴けないとなると悲しすぎる…

アニメファンとして、声優の皆さんの心身の健康を心から願いたいですね。

前置きが湿っぽくてスミマセン。今回は現実サイドの話です、ではどうぞ



一方その頃現実では…②

 ソードアート・オンラインの公式サービス開始から半年が過ぎた。仮想空間に囚われたプレイヤーの死者はついに2000人を超え、遺族や被害者の家族達は未だ進展の無い政府の対応に日夜非難の声を上げていた。

 

 …しかし、そんな騒動も既に日常と化しつつある。世界初のVRMMORPGゲームによる事件とあって当初は世界中が注目していたSAOも、調査に殆ど進展が無く、当のSAOもソフトは政府と警察により回収され参加することもできないとあって世間の熱もだんだんと冷め、人によっては『ああ、そういえばまだ解決してなかったんだっけ』…とまで言われるほどに興味が失われつつあった。

 

 

 しかし、そんな中でもプレイヤー達の解放を諦めていない者たちは存在している。それは政府の対策チームのみならず、一般の人々の中にも居た。彼らはSAO被害者の多くが搬送されている聖都大学付属病院の募集している『非公式対策チーム』として特別にCRに入り、檀黎斗の元で日夜解決策の模索に明け暮れていた。

 

 ある者は囚われた友人を助けるため。

 ある者は愛する者を取り戻すため。

 そしてまたある者は純粋に囚われた彼らの平穏を取り戻すために。

 

 そんな彼らの努力が今…実を結ぼうとしていた。

 

 

 

「…ふは、ふははははは…!ヘハハハ、ウェハハハハハハハッ!!ついに、ついに…完成したぞぉーッ!!」

 三日間の貫徹という追い込みの末に完成したそれを手に、黎斗は狂ったように笑い出す。…そんな黎斗の周囲には、連日黎斗に振り回されながらも開発に貢献した技術者達が倒れ込んでいた。

 

「…うるっさいわね…!こっちはアンタと違って生身の人間なんだから少しは労りなさいよ…!」

 馬鹿笑いする黎斗に毒づいているのは『月村アカリ』。柳坂理科大学にて物理学を専攻している学生で、かつては仮面ライダーゴーストと共に眼魔たちと戦った勇敢な少女である。SAOに囚われた友人の御成を救うべくこのチームに入り、人間界と眼魔界にて培った技術や考え方により女性の身でありながらも黎斗に引けを取らぬ活躍を披露している。

 

「流石はバグスター、と言うべきか。休み休みだった俺達と違って、彼は三日間ぶっ通して開発を続けていたからな。…とはいえ、一人でここまで盛り上がっていると俺達の苦労を忘れられているみたいで癪ではあるな」

 アカリに同調しつつ黎斗に白い目を向けているのは『歌星賢吾』。宇宙京都大学にて宇宙学を学ぶ学生だが、同じ仮面ライダー部だったJKがSAOに囚われたことを知り、留年覚悟で大学を休んでチームへと参加した。チーム最年少ではあるが、仮面ライダー部のブレーンとしてアストロスイッチの開発、調整を一手に担っていたその腕は確かなものである。

 

「まあ無事に完成したのは何よりだ。今は素直に喜ぶとしよう、…私としてもこんな形で幻夢コーポレーションと共同開発をすることになるとは思わなかったがな」

 そんな二人を宥めるのは『呉島貴虎』。沢芽市に拠点を置くユグドラシル・コーポレーションの代表であり、この非公式対策チームの最大の支援者でもある人物だ。元々かつての『プロジェクト・アーク』により失墜したユグドラシルの新たな事業としてVRゲーム市場を開拓しようとし、その一環として忙しい自分に代わって城乃内にバイトとしてSAOのプレイを依頼していたのだ。…しかし、その城乃内がSAOに囚われてしまったことで責任を感じ、対策チームに金銭的、技術的な支援をすることで一刻も早い解決に手を貸そうとしているのである。

 

「開発着手から半年…とうとう茅場晶彦のナーヴギアを超えるものを創り出したぞ!やはり、私こそが神だァーッ!!ヘハハハハハハハ!!!」

 そんな3人に構うこと無く自画自賛する黎斗……が、突如

 

プツッ…

「うッ!?」

 呻き声を上げた黎斗は、立ったままピクリとも動かなくなってしまう。

 

「…あれ、どうしたの?」

「檀さん、どうし…」

「…歌星、どうした?」

 黎斗に近づいた賢吾が動きを止めたことに怪訝そうにしていると、愕然とした表情を浮かべた賢吾が振り返りながら告げる。

 

 

 

 

「…こいつ、死んでいる…」

「「え?」」

 

チーン…

 檀黎斗(31)、死亡。死因は過労による脳卒中だった…。

 

 

 

 

 

 

ティウンティゥン…トゥワッ!

 

 

 

 

「まあ、生きてるんだけどな。残りライフ1だけど」

「当然だ。私は神…不滅なのだからな」

「訳が分からない…」

 その後、大急ぎでCRの面々を呼びに行った賢吾たちが戻ってきたところで、土管から華麗に復活した黎斗に初見の人たちは驚愕し、CRの皆はいつものことかと脱力するのだった。

 

「で、完成したのがこれか」

「そうだ!私が生み出した新型VRマシン…『幻夢VR』だ!」

 飛彩はヘッドギア型のナーヴギアとは異なる一昔前のゴーグル型をした幻夢VRをしげしげと眺める。…そして目の部分に描かれたゲンムの目玉に露骨に顔を顰めた。

 

「…デザインはともかく、この短い期間でよく完成させてくれた。月村君と歌星君、それに呉島さんは本当によくやってくれました」

「いえ…私たちはそんな。…不本意ですけど、これの基幹部分は全部檀さんが手がけたものですし」

「お役に立てたのなら幸いです。…生憎、一番乗りとは行きませんでしたが」

 そう言う賢吾の手には、数日前に『レクト』という会社から発売された新型VRマシン『アミュスフィア』が握られている。

 

「まさか一般企業が俺達よりも先に新型VRマシンを完成させるとはな。これなら別に待ってても同じ事だったかもな」

「…ふん。そんな模造品と私の幻夢VRを同列に見ないもらおうか!」

 皮肉めいたぼやきを漏らす大我に、黎斗は尊大な態度でそう言う。

 

「模造品?アミュスフィアが?」

「そうだ。そのアミュスフィアとやらを調べさせて貰ったが…なんのことはない、殆どの機能がナーヴギアと全く同じものを流用している。むしろ電磁パルスの出力を低下させた分映像クオリティも下がった駄作でしかないわッ!」

「安全と引き換えにゲーム機としての質が下がっただけで、ナーヴギアと殆ど同じということか。…そこまでして遊びたい物なのあろうか、VRMMOとやらは…?」

「さあなあ…ただ、俺には今の世の中が喉元を過ぎた熱さを忘れているだけのようにしか思えんよ。SAOと同じ事がもう起きないという保証などどこにもないのにな」

 ゲームに疎い飛彩は灰馬からすれば、何故そこまでしてゲームにのめり込もうとする人々の気持ちは理解できないものであった。

 

「ま、それは置いといてだ。おい神、そこまで言うからにはお前の作ったマシンは有能なんだろうな?」

「当然だ…!この幻夢VRはナーヴギアと同等、或いはそれ以上の性能を持ちながら更に…フルダイブ中であっても現実側とのコンタクトが可能な機能を備えているのだよ!」

「テレビやパソコンと幻夢VRをリンクさせることで、プレイヤーの視界情報を画面に反映させることが出来る。それに、フルダイブ中であっても現実側の状況を確認することも出来る。少なくとも、フルダイブ中に無防備になってしまうという点に関してはナーヴギアやアミュスフィアより優れていると言えるだろう」

「ただ…SAOにログインする以上システムの影響は受けてしまうので、任意でのログアウトが出来ないのは同じですけどね。ログアウトするためには一度ゲームオーバーになるしかない…勿論電磁パルスによる影響はありませんけどね」

「コストの関係上量産は出来ない代物だが、今回限りと考えれば最良の筐体と言えるだろう」

 開発に携わった黎斗、賢吾、アカリ、貴虎が幻夢VRの機能を説明し、命の危険が無いことと外部との通信が可能な点などを伝える。

 

「成る程…しかし、ログアウトできないとなると少し問題だな。いくら囚われた患者の皆を助けるためとはいえ、フルダイブ中は業務ができないからな」

「他の患者さんたちをほっとくわけにはいかないからね。となると、私たちの中でログイン出来るのは…」

「ふっ…無論、この私だ!」

 そう言って黎斗は自信満々に幻夢VRを頭に装着する。

 

「さあ、この神の才能をSAOに知らしめるときが来た!待っていろ茅場晶彦め、今その鼻っ柱をへし折りに行ってやろう!!」

「あ、おい待て神!まだ中継機器がセットされてねえ…」

「リンク、スタートォォォウッ!!」

 貴利矢の制止も聞かず、黎斗は幻夢VRを起動させてしまった。

 

 

キィィィン…!

 

 

 

 

 

 

 

『…む、どうやらログインには成功したようだな』

 疾走感にも似たフルダイブ特有の感覚の後、目を開けた先に広がる街並みに黎斗は無事SAOにログイン出来たことを確信する。

 

『ふ…流石、私だ!ざまあみろ茅場晶彦め、貴様の才能なぞこの神にとっては簡単に到達できるレベルでしかなかったということだ!さて…』

 天を見上げて茅場晶彦に皮肉を飛ばした後、再び正面を向いた黎斗の視界には…何故かこちらを見て唖然とした表情を浮かべるプレイヤー達の姿がある。

 

『む…なんだこいつらは?何故一様にこんな間抜け顔を…ああ、まさか今になってログインしてくる奴がいるなど思っても居なかったと言うことか。ふっ、凡人の頭脳では私のような存在など想像もできていなかったか』

 勝手に納得した黎斗は両手を広げて仰々しいまでに胸を張る。

 

『フハハハハハ!憐れなプレイヤー達よ、喜ぶが良い!この神が、檀黎斗神が降臨してやったぞ!この神が来たからには、茅場晶彦など恐るるに足らん!貴様らはそれに感謝し、この神の才能を持つ私を称えるが良い!ハハハハハハ!!』

「……」

『…おい、いつまで間抜け面を晒している?私の言葉が理解できないのか?』

 と、折角の名乗りをスルーされた黎斗が怪訝そうにプレイヤーの一人に近づこうとすると…

 

 

「も…」

『も?』』

 

 

 

 

 

「も…『モンスター』だぁッ!!?街の中に、モンスターがぁッ!!」

「きゃあああッ!」

「逃げろーッ!!」

 プレイヤーの一人がそう叫ぶと共に、周囲のプレイヤー達は悲鳴をあげながら蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていく。

 

『何、モンスターだと?一体何処に…』

 黎斗はキョロキョロと当たりを見渡すが、周囲にモンスターらしきものは存在しない。

 

『どこにもいないではないか。何をそんなに……いや待て、まさか…!?』

 ふとある仮説に思い至った黎斗が自分の手に視線を落とすと…

 

 

 

 そこにあったのは人間の手ではなく、毛に覆われ鋭く尖った爪を持つ異形の手が存在していた。

 

『ば、馬鹿な!私のアバターが…モンスターになっているだとぉッ!?』

 そう、今の黎斗は現実と同じ容姿でも、そもそも人間のアバターですらないモンスターの姿をしていたのだ。先ほどから黎斗が喋っていたことも、黎斗には日本語に聞こえていても他のプレイヤーからすればモンスターが唸り、吠えているようにしか聞こえていなかったのである。

 

『どういうことだ!?何故私だけがモンスターに…まさか、奴がアバターの生成システムに細工を…!』

「こ、こっちです!早く!」

「道を開けてくれ!モンスターは何処だ!?」

 そうこうしている間に、逃げたプレイヤー達がディアベルを引き連れて戻ってきた。

 

「ッ!居た…まさか、本当に街中にモンスターが出現するなんて…!」

「ディアベルさん早く!アイツが暴れ出したら俺達…」

「で、でも街の中じゃHPは減らないんじゃ…」

「そんなこと分からないじゃないの!現にこうやって出るはずのないモンスターが出てるのよ!街の中が安全だなんて保証はないわ!」

「お、落ち着いてくれ!…ともかく、あのモンスターは俺がなんとかする!」

 動揺するプレイヤー達を抑えながら、ディアベルはモンスター…黎斗の前へと立つ。

 

『ま…待て貴様!私はお前達を助けてやるために来てやったんだぞ!』

 流石にこの姿で抵抗することは不味いと理解している黎斗は必死に弁明しようするが…

 

『ガウッ!ガオオオゥッ!ウルァァァァ!!』

 肝心のディアベルにはこう聞こえてしかいなかった。

 

「モンスターめ、街の人々には手は出させんッ!覚悟!」

 ディアベルは目の前で吠え猛るモンスターに剣を振り上げた。

 

 

『お…おのれぇぇぇぇぇッ!!!』

 

ザシュッ!!

パキィィィン…!

 

 

 

 

 

 

 

「ブワァァァァァァァァゥッ!!!」

「どおおわッ!?」

 強制ログアウトされるや否や、黎斗は奇声を上げて幻夢VRを放り投げた。

 

「あ、危ねッ…!おい神、いきなり何すんだよ!?」

「そうよ!折角作ったのに壊れたらどうすんのよ!?」

「黙れぇッ!!茅場晶彦めぇ~…とことんまでこの私を愚弄してくれるぅッ…!」

「…何があった?まさかSAOにログイン出来なかったのか?」

「いや…ログイン自体には成功した。…だが、ログインした先で私はモンスターにさせられたのだよ」

「…何言ってんだ?」

「正確には、私のSAOでのアバターがモンスターのそれになっていたのだよ。…このゲームの設定上、プレイヤーは全て人間のアバターになるというのにだ!」

「なんでそんなことに…?」

「…おそらくだが、茅場晶彦は我々の対策を見越していたのだろう。その上で、SAOのシステムにナーヴギア以外のマシンによるログインがあった場合、不正ログインとしてアバターが自動的にモンスターになるように設定していた…違うか、檀黎斗?」

「ふん…忌々しいがその通りだろう。そのせいで街の中に居たプレイヤー共に速攻でゲームオーバーにさせられた!私が誠心誠意事情を話そうとしてやったのに、恩知らずな連中だッ!」

 貴虎の推測を黎斗が肯定し、苛立たしげに地団駄を踏む。

 

「うむ…しかし、彼らを責めるわけにはいかんだろう。彼らにとってモンスターはもうただの敵ではない、本当に自分の命を脅かす存在だ。そんなものがいきなり現れたとなれば、問答無用で倒そうとしてもおかしくはない」

「とはいえ、これでまた手詰まりになってしまいましたね。ログイン自体には成功できても、ゲーム内でプレイヤーが敵に回ってしまうというのは…何が起きるか分からない以上、下手に反撃するわけにもいきませんからね」

「…だが、諦めるわけにはいかない。ようやくSAOに手が届いたのだ、こんなことで手を拱いている暇はない。こうしている間にも、あの世界で誰かが死んでいるかも知れないのだから」

「…ふん!ならばその幻夢VRはお前達の好きにしろ。私は二度と使わんぞ、私は私のやり方で茅場晶彦を屈服させてやる!私の才能に、不可能などないぃッ!!」

「あ、黎斗!?」

 黎斗はそう言って幻夢VRを残し、ドレミファビートの筐体の中へと戻って行ってしまった。

 

「…ったく、しょうがねえなあの神は。まあいいや…それより、これからどうするよ?」

「どうするもこうするも、他に手がねえ以上コイツを使うしかねえだろ?」

「ああ。例えモンスターになってしまうとしても、行動まで制約されるわけではない。諦めずにログインし続ければ、いつか患者にも理解してくれる人が出てくるかもしれない。後は俺達でやるぞ」

「…そうだな。なら、仕事の合間に交代でログインしていこうぜ。ログインした先で得た情報を集めて共有すれば、何か分かるかもしれねえしな」

「だったら、ログイン中のモニターは私に任せて!情報を統合して、SAOの状況をまとめてみるわ」

「よし、それで行こう!」

「なら私たちも…」

「いや、月村さんたちは一度戻られた方が良い。衛生省の認可があるとはいえ、これ以上の休学は君たちの将来に関わる。あとは私たちに任せてくれ」

「そんな…!?」

「…鏡先生の言うとおりにした方が良い。君たちの友人が帰ってきたときに、自分たちのせいで君らの学業が疎かになったと知ればきっと気に病むだろう。彼らのことを思うなら、しばらくは自分たちのことに専念すべきだ」

「…分かりました。後のことはお願いします」

「御協力、ありがとうございました…!」

 

 

 

 こうしてアカリ、賢吾、貴虎はそれぞれの居場所へと一旦戻ることとなった。残されたCRの面々は毎日の業務の傍らで何度もSAOにログインを繰り返し、ゲーム解放の手がかりを掴もうとした。

 

 …だが、肝心のプレイヤー達にその意図はなかなか伝わらずに居た。と言うのも、最初にディアベルが黎斗を倒した際、その時に得られた経験値や金、アイテムが始まりの街周辺で得られるものにしては破格のものであった為、それを知ったギルド再編中の『アインクラッド解放軍』が街中にモンスターが出現するのを待ち構えているようになったのだ。そのためログインするたびに意思疎通をする間もなく倒され、調査は難航を極めることとなる。

 しかし、それでも尚飛彩達は諦めず何度も何度もSAOに挑み続けた。理不尽に襲われることになっても、決して諦めることなく。

 

 

 そんな彼らの努力が報われるときが来るのは…それから『約1年後』のことであった。

 




今作での幻夢VRはフルダイブに対応するためちょっとだけオリジナルのものとは設定が異なっています。また、現状唯一茅場の技術の恩恵を受けていないマシンなので今後も色々と出番があるかもです

現実サイドは一旦ここで終了です。次に登場するのは…はてさて何時でしょうか?ではまた次回で

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