ソードアート・オンライン~エグゼイド・クロニクル~ 作:マイン
ではどうぞ
「全くもう!ロザリアさんってばあんな言い方しなくっても…そう思わないピナ?」
『ピィ!』
アインクラッド35層にある迷宮区『迷いの森』にて少女…『シリカ』は傍らに飛んでいる自分のテイムモンスターであるフェアリーリドラの『ピナ』に愚痴を漏らしながら一人で歩いていた。
彼女はつい先ほどまでパーティを組んでいたのだが、仲間の一人である『ロザリア』という女性プレイヤーに嫌みを言われ、売り言葉を買った形でパーティを離脱し一人と一匹で迷宮区を踏破しようとしていた。
「いいもん!こうなったら私一人でレアアイテムでも見つけて、ぎゃふんと言わせてやるんだから!頑張ろうね、ピナ!」
『ギャウ!』
小さな肩を怒らせてピナと共に森の奥へと向かっていくシリカ。…その先で、自身の短慮の代償を支払うことになるとは知らず。
「はッ、ハァ…こ、来ないでよぉッ!!」
『グルルルル…』
森へと入ってから数十分後、シリカは森の奥にて豚と人間を掛け合わせたような獣人型モンスター…俗に言う『オーク』の群れに追い詰められていた。レベル上げの為に単独行動をしているモンスターを狙っていたシリカであったが、たまたま攻撃したオークが近くに居た群れの偵察係だったらしく、仲間を呼ばれてしまいあっという間に追い詰められてしまったのだ。
『ウオオオオオオッ!』
「きゃああッ!?」
オークの一体が振り上げた棍棒がシリカめがけて振り下ろされる…その時。
『キュウウッ!!』
ボギッ…!
『コガッ…!?』
「…え?ぴ…ピナァァァァァッ!!?」
上空から割って入ったピナがシリカに代わってその一撃の餌食となり、鈍い音を立てて吹っ飛ばされた。その光景を目の当たりにしてしまったシリカは悲鳴をあげ、思わずオークに背を向けてピナへと駆け寄る。
「ピナ!ピナァッ!!嫌、駄目ッ!死んじゃ嫌だ…私を一人にしないでよぉッ!!」
『…クァ、ァ…!』
「…ッ!ピ…」
パキィィンッ…!
「あ…」
シリカの必死の願いも虚しく、ピナは主人に笑みを浮かべた直後に砕け散った。呆然とするシリカの手の中には、ピナの『羽』が一枚だけ形見のように残されていた。
「ぴ…な…」
『ウルルルルル…』
「ひ…!?」
愛竜を失ったシリカに、オークの群れは無情にも近づいてくる。もはや為す術も無いシリカは、残されたピナの羽を抱きしめ呟く。
「…助けて、誰か…助けて…!」
「ライダァァァ…キックッ!!」
ドドゴォッ!!
突如オークの群れの後方からかっ飛んできた何かが群れへと突っ込み、オークを吹き飛ばしながらシリカの前へとやってくる。
ザザシュゥ!
「せりゃあッ!!」
シュバババババッ!!
シリカの手前で着地すると、それは手にした剣を縦横無尽に振るい瞬く間にオークの群れを全滅させてしまった。
「…え?」
「大丈夫か、君?立てるかい?」
「え…あ、はい…」
いきなり現れ、モンスターを全滅させた彼…キリトが差し出した手を、シリカはまだ事情が飲み込めないまま恐る恐る取って立ち上がる。
「え、えっと…助けてくれてありがとうございます!でも、どうしてこんな所に…?」
「ちょっと素材集めでな。君の声が聞こえたから急いで来たんだけど…どうやら、間に合ったとは言えそうに無いな」
「あ…」
シリカが大事そうに抱えている羽を見たキリトは、助けられなかった者が居たことを察する。
「ピナ…ピナが、ピナがぁ…!」
「…君は、ビーストテイマーなのか?その羽は君の…」
「はい…。ピナは、私の…大事な、友達で…!」
「…済まない。俺がもう少し早く気づいていれば…」
「いいんです…貴方は悪くありませんから…。ありがとう、ございます…」
「……そうだ!その羽、何かアイテム名とか無いか?」
「ふぇ…?」
キリトに促され、シリカが羽をアイテムウィンドウに表示すると、そこには『ピナの心』という名前が記されていた。
「ピナの…心?」
「よし…!心アイテムが残っているなら…まだ『蘇生』できるかもしれない」
「ッ!本当ですか…!?」
「ああ。…けど、かなり危険かも知れない。その覚悟があるのなら、一緒に来てくれ。その情報にアテがあるんだ」
「…はい!」
目の前の男を警戒することも忘れ、シリカは藁にも縋る思いでキリトの問いに頷いた。
シリカを連れたキリトは迷いの森を脱出し、そのまま41層にある森へとやって来ていた。
「…あの、キリト…さん?何処に向かってるんですか?主街地から結構離れていますけど…」
「あー…うん。前に聞いた限りじゃこの辺りの筈なんだが…」
時間が経ったことで冷静になり、いつの間にか人気の無い所に連れてこられたシリカは不安そうにキリトの後を追いかける。すると
「…お!あったあった、あそこだ!」
「あそこって…え?」
キリトが指さした先には、森の中で一際大きな木の根元にぽっかりと空いた洞が存在していた。
「キ…キリトさん?本当にあんな所に情報があるんですか?」
「まあ見てなよ。…邪魔するぜー」
猜疑の眼差しを向けるシリカを尻目に、キリトはなんの躊躇も無くその洞の中へと入っていった。
「あッ!待ってくださいよキリト…」
慌てて後を追いかけたシリカも洞の中へと恐る恐る入り…
「…さ、ん!?」
その中を見て、驚愕した。
洞の中は思っていた以上に広く、そこにはいくつかのデスクやタイプライターのようなアイテムが置かれており、ちょっとした基地のような設備が整っていた。
「お、よく来たなキー坊!連絡聞いて待ってたゾ」
「悪いなアルゴ、わざわざ押しかけちまって」
そして入り口でキリトたちを出迎えたのは、アルゴと数人のプレイヤー達であった。
「あ…あの、キリトさん。ここは一体…?」
「お?なんだキー坊、また女の子引っかけて来たのカ?しかもこんな小さな子を…アーちゃんが聞いたらどんな顔するかナ?」
「断じて違うッ!!ていうかメッセージで伝えただろ!この子が今回の『依頼者』だよ!」
「分かってるっテ、ジョークだよジョーク。…さテ、初めましてお嬢さン。そしてようこそ、オレっち達のギルド『鳴海探偵事務所 アインクラッド支部』の41層基地ヘ!」
『いらっしゃ~い!』
アルゴに続いて、後ろに居たプレイヤー達もシリカに挨拶をする。
「は、初めまして!…って、ここ探偵事務所なんですか!?」
「まあ探偵って言うか情報屋がメインの何でも屋って感じだナ。まあオレっちとしては?そっちがメインでも良かったり?将来的に…てか、リアル的に?」
「…どうでも良いけど、『鳴海』って人の名前だろ?こっちで出していいのかよ?」
「ああ、それは大丈夫ダ。ちゃんと許可はとってあル。…おっと、自己紹介がまだだったナ。オレっちはアルゴ、このギルドの副リーダーダ。そんでこっちが…」
「どうも~『ウォッチャマン』で~す!」
「『サンタちゃん』でーす!」
もじゃもじゃ頭に無精髭を生やした『ウォッチャマン』とサンタのような衣装にサングラスをかけた『サンタちゃん』が肩を組んで名乗る。
「ど、どうも…」
「こいつらはオレっちとリアルで知り合いでナ、若い子にモテたくてこの世界に来たんだが、ログアウトできなくなってこそこそしてるところをオレっちが見つけて拾ったんダ」
「ちょっとちょっとアルゴちゃ~ん!そう言うこと言っちゃダメよ~ダメダメ~!」
「やかまし、黙ってロ。…んで、こっちに居るのが…」
「…どうも、『マスト閣下』です。ビーストテイマーのシリカさん、ですよね。レアモンスターのフェアリーリドラをテイムしていることから『竜使い』と呼ばれ、その可憐な容姿も相まってプレイヤー達の間ではアイドル的な扱いをされている…噂には聞いていましたが、実際に会ってみるとよく分かりますね。なんて可愛らしいお嬢さんだ…!」
「は、はぁ…ありがとうござい…ます?」
黒縁眼鏡をかけた見るからにオタクな『マスト閣下』にデレデレされながら自分のことを説明され、シリカは若干引き気味でそう返す。
「おいオタク、そろそろキモいからその辺にしとケ。…悪いなシリカちゃん、こいつ情報屋としてはピカイチなんだガ、オタク気質が強すぎて偶に暴走すんだヨ。…とまあ、今居るメンバーはこんだけダ。あと二人、JKっていう奴とギルドのリーダー…『所長さん』が居るんだけど、ちょっと用事で居ないから気にしないでくレ」
「は、はい…」
「さて…んじゃ、本題に入ろっカ。死んだテイムモンスターを蘇生させる方法、だったカナ?」
「はっ、はいッ!何か知っていることがあったら教えてください!ピナが生き返るのなら、私なんだってやります!」
「おいおい、落ち着けよシリカちゃん。女の子がそんな簡単に『なんでもやる』とか言うもんじゃないゼ。…安心しナ、その情報に関してはとっくに調べがついているヨ」
「本当ですか!?」
「勿論さぁ~!僕らが調べたところによると、47層の南に『思い出の丘』っていうダンジョンがあって、そこのてっぺんに咲く花が使い魔を蘇生できるアイテムみたいなんだよね」
「よ、47層ですか…!?」
「う~ん、そうなんだよね。しかも面倒なことに、その花をゲットするためには『テイマー自身』がそこに行かないと入手できないらしい。だから他の人に頼んで…っていうのも無理なんだよね」
蘇生アイテムの情報に顔を輝かせたシリカであったが、ウォッチャマンとサンタちゃんがら告げられた詳細に瞬く間に表情が暗くなる。
「…情報だけでもありがたいです!今は無理でも、なんとかレベルを上げていつかは…」
「残念だけど…使い魔を蘇生できるのは、死んでから『3日以内』なんだ。今のシリカちゃんのレベルだと、47層の安全マージンに到達するまでどんなに頑張っても『2ヶ月』はかかるよ。それじゃ意味ない、だろう?」
「ッ!そんな…」
マスト閣下が告げた現実に、シリカはピナの心を抱いて絶望に打ちひしがれる。
「…大丈夫だ、シリカ。俺が手を貸すよ」
「…え?」
その様子を見かねたキリトが出した助け船に、シリカは泣き腫らしたまま思わず顔を上げる。
「アルゴ、そのダンジョンはテイマー以外のプレイヤーがいても花は入手できるんだろ?」
「ああ、それは問題なイ。…というか、キー坊ついて行くって言ってなかったのカ?こっちはそのつもりで情報教えてたんだゾ」
「いや、なんというか…タイミングが無くてな…」
「…キリトさん、一緒に来てくれるんですか?」
「ん?ああ、勿論だ。乗りかかった船だしな、君の友達が生き返るまで手伝わせて貰うよ」
「…どうしてですか?見ず知らずの私に、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「どうして…か。そうだな、強いて言うなら…そこに『助けられる命』があるからかな。例えゲームの中だけの命だとしても、俺の手が届く範囲の命だけは絶対に助ける。それが、俺が『俺』であり続ける為に貫かなきゃならない信念だから」
「キリトさん…!」
「ひゅ~!キリト君カッコイー!」
「…へぇ~、随分立派なことだナ。オレっちはてっきりカワイイ女の子なら誰でも助けるからかと思ってたゼ」
「そ、そんなこと!…あるわけ、ないだろ?」
「…オイ、なんで今詰まったんダ?なんか疚しいことでもあんのカ?」
微妙に答えに迷ったキリトをアルゴが問い詰めると、キリトは顔を逸らしながら渋々答える。
「…笑わないでくれよ?その…あのな、…似てたんだよ。泣いてた君の顔が、妹が愚図ってたときと…それを思い出したら、なんか…放っておけなくて、な?」
「…ぷ、あはははははは!!な、なんですかそれ…?今言ったことと全然関係ないじゃ無いですか…!」
「おやおや、噂の『黒の剣士』さんがロリコンに加えてシスコンとは…アルゴさん、この情報いくらになりますかね?」
「そうだなぁ~、控えめに見積もっても10万コルは固い…」
「や、やめろーッ!!誤解だ誤解―ッ!!」
アルゴ達にからかわれ慌てふためくキリトに、シリカは溜め込んでいた物を吐き出すように大笑いしていたのだった。
その後、アルゴたちと別れたキリトとシリカは翌日のダンジョン攻略に備え、シリカが常宿にしている宿屋に泊まることにした。
「ごめんなさいキリトさん、私に付き合って…キリトさんはもっと良いところに泊まってるんですよね?」
「いや、そんなことないさ。オレはソロだから殆ど根無し草みたいなもんでね、宿に泊まる時もあればその辺で野宿して済ますことも結構あるから気にしないでくれ」
「…キリトさん、綺麗な顔してますけど結構ものぐさですよね」
「ぐっ…言わないでくれ、耳にタコができるぐらい言われてるんだそれ…」
「うふふふ…!」
先のこともあってすっかり打ち解けた二人が宿と向かっていると
「…あ~ら奇遇ね!まさか『また』アンタの顔を見ることになるなんて…良かったわねえ、シリカ?」
「ッ!ロザリア…さん…!」
ちょうど反対方向からやって来たシリカの『元仲間』の面々と鉢合わせし、その一人であるシリカを追い出した張本人のロザリアが嫌みったらしく声をかけてきた。
「…知り合いか?」
「いえ…別に、大丈夫です…」
明らかに顔色が変わったシリカに、キリトが庇うように前に出ようとすると、ロザリアがふと気づいたように言う。
「…あら、あのトカゲどうしたの?もしかして…」
「…ピナは、死にました。でも、絶対に生き返らせて見せます!」
「へぇ…じゃあ、思い出の丘に行くつもりなんだ。けどアンタのレベルじゃちょっと無理なんじゃないの?」
「それは…」
「…口を挟むようで悪いが、その心配は要らないさ。そう難しいクエストでもないからな」
「…へぇ。アンタもその子にたらし込まれたクチかい?」
「さあな…ただ、人の揚げ足ばかり取るような女よりはシリカみたいに一生懸命な子の方が応援したくなるのは当たり前じゃないか?」
「…テメエ」
明らかにロザリアを皮肉ったキリトに、ロザリアの目つきが鋭く変わる。
「ろ、ロザリアさん…!抑えてくださいよ、ここでやるのはヤバいですって…!」
「ふん…そうまで言うからには、お兄さんは大層自信があるんだろうね?見たところそんなに強そうには見えないけど…」
「まあな。自分で言うのはなんだけど、結構名の知れたプレイヤーなもんでね」
「ふ~ん…で、何処のどなた様かしら?」
「『天才ゲーマーキリト』…いや、『ビーター』の方がアンタらにはわかりやすいかもな?」
「えッ…!?」
「ビーター…!?しかも、天才ゲーマーキリトだって…?」
キリトが名乗った自分の『通り名』と『悪名』に、ロザリアたちだけでなくシリカも驚きを隠せない。
「…俺に関しては納得してくれたかな?少なくとも、アンタらよりは強いってことは分かっただろ。じゃ、そういうわけで…行こう、シリカ」
「あ…は、はい!」
愕然とするロザリア達を余所に、キリトはシリカと共に宿の中へと入っていった。
「…ビーター、アイツがビーター…天才ゲーマーですって?なんでそんな奴があんなガキと…!」
「…悪かったな、シリカ。挑発するような真似しちまって…余計に拗らせてしまったかもしれない」
「い、いえ…大丈夫ですよ!私も…あのままだったら、何を言っていたか分かりませんでしたから」
宿にある食堂にて、キリトは先ほどの自分の発言をシリカに謝っていた。決して良くない関係であることは明白だが、現状赤の他人である自分が不用意に煽るようなことを言ってしまったのは迂闊だったと思ったからだ。
シリカはそんなキリトを宥めつつ、気になっていたことを質問する。
「それより…キリトさん。その、本当なんですか?キリトさんが、ビーターだっていうのは…」
「…その言い方だと、俺の噂はあんまり良いものじゃないみたいだな」
「あ…い、いえ!そんなこと…」
「誤魔化さなくてもいいさ。正直、それは狙ってやってるようなもんだしな。…黙っていて済まない。俺がビーターだと知らない方が、緊張させずに済むと思ってな…」
「キリトさん…」
「正直、信用して貰えるとは思ってないよ。けど、これだけは信じて欲しい。君を助けたいと思った俺の気持ち、それだけは絶対に嘘じゃないってことを」
「…そんなことないですッ!!」
「うおッ!?」
机を勢いよく叩いて身を乗り出したシリカに、キリトは思わずのけ反って驚く。
「私、信じてますから!キリトさんがいい人だって、キリトさんが他の人になんて思われていても、私はキリトさんのこと信じてますから!」
「…あ、ありがとう。でもシリカ、そんな大声出すと周りに…」
『……』
「……あ。…す、済みません!お騒がせしましたぁッ!」
「…ハハ」
「むぅぅぅ…!キリトさんのバカ!」
キリトの指摘を受けて食堂中の視線が自分に集まっていることに気づいたシリカが真っ赤になって平謝りする様に、キリトは思わず苦笑し、それを見たシリカは頬を膨らませて拗ねたようにそっぽを向いてしまうのだった。
キリトがテイムモンスターの蘇生法を知っていた経緯として、今回アルゴとそのギルドの面々のご登場して貰いました
風都の情報屋コンビは名前そのままですが、マスト閣下のリアルはドライブに出てきた彼です。察しの良い方ならすぐに分かったでしょうか?
ちなみにギルドのリーダーは皆さんの想像通りの人です。登場するのはもう少し後になります
ではまた次回