ソードアート・オンライン~エグゼイド・クロニクル~   作:マイン

23 / 23
明けましておめでとうございます…約一年ぶりになる更新、大変お待たせしました

そして重ねて申し訳ないのですが、来月から新天地へ異動になったので周辺状況が落ち着くまで全作品の更新がまた遅くなるかもです。本当に申し訳ない…

この作品だけで無く、僕の他の作品も見てくれている皆さんにはまたお待たせすることになるかもですが、ちまちまと続きを書いてはいるので気長にお待ち下さい

ではどうぞ


小悪党の末路と新しい旅立ち

 見慣れぬ姿へと変身したパラドに、『巨人の腕』のメンバーは元よりシリカも驚愕を露わにする。

 

「な、なんだアイツ!装備がいきなり変わりやがった!?」

「え、ええええッ!?な…なんなんですかキリトさんアレ!?」

「アレがパラドの切り札、SAOトップクラスのレアアイテム『ガシャット』だ。一定時間の間、自分の装備やレベルが強化されて、ソードスキルとは違う特殊な能力を使うこともできる。どういう能力かは…まあ、見ていれば分かるさ」

 唖然とするシリカにそう告げたキリトの言葉を耳ざとくロザリアが聞きつける。

 

「…へぇ、良いこと聞いたよ。SAOトップクラスのレアアイテムだって?そりゃあ高く売れそう…いや、そいつを使えばもっと大物を狙えそうじゃないか!絶対に頂くよ!」

「へいッ!」

「ふ~ん…まだ勝てる気でいるんだ。なら、さっさと来なよ。こっちは時間が惜しいんだからさ」

「…テメエ、舐めてんじゃねーぞッ!!」

 挑発するパラドに青筋を立てながら、ロザリアの指示を受けた部下達が一斉に斬りかかる。

 

「ふふん…!あらよっ!」

「どわっ!?」

「ほいっ」

「ぐえっ!」

 それに対してパラドは余裕の態度で剣を躱しながら手刀や裏拳、蹴りなどで男達をあしらい、腰の剣を抜くそぶりすら見せない。

 

「こ、コイツ…強いぞ!」

「人殺しギルドだって言うからちょっと楽しみにしてたけど…思ったより大したことないな、これじゃ俺の心は滾らないぜ?」

「チ

「チッ…!なにやってんだい、全員で囲みな!一斉に攻撃すればいくらコイツでも対処しきれ無い筈だよ!」

「り、了解!」

 ロザリアの叱咤を受け、部下達はパラドを取り囲み剣を突きつける。

 

「おーおー、そうこなくっちゃね。さて…試してみるか」

 パラドは不適な笑みを浮かべながら腕に装着されたギアデュアルの画面に手を当て、指で操作し始める。

 

「な、何やってるんだコイツ?」

「よく分からねえが隙だらけだぜ!死ね糞ガキ!」

 自分たちを無視して何かをやっているパラドに、コケにされた怒りをぶつけるように男達が斬りかかった。

 

「ぱ、パラドさんッ!」

「……」

「ハッ、これでお仕舞い…」

 

 

『STAGE CLEAR! New Weapon GET!』

 

パパパァンッ!!

 

「…ッ!?な…」

 電子音声が聞こえたかと思った直後にいきなり纏めて弾き飛ばされた部下たちにロザリアが目を剥く。その視線の先では…

 

「ふぅ~、ギリギリセーフ…!」

 台詞とは裏腹に欠片も焦った様子のないパラドが、いつの間に手にしたのであろう『鞭』を小器用に振り回していた。

 

「こ、コイツ…いつの間に武器を…!?ストレージから武器は出してない筈だ!それに…なんで『剣を持ったまま』他の武器が使えるんだよ!?」

 男の一人が言うとおり、パラドは腰に剣を佩いたまま鞭を武器として使用した。SAOに置いて、ある『例外』を除いて武器を2つ持つことは出来ないはずなのにである。

 

「…へぇ、それがそのギアデュアルの『能力』か」

「ああ。この『パーフェクトパズル』は発動中にこの画面に出てくるパズルを解くことで、使用者の『アイテムリストに載っているアイテムや武器』をランダムにゲット出来るのさ。…まあクエストアイテムみたいな貴重品は無理だけどな」

「す、凄い…!そんなアイテムがあるだなんて!」

 アイテムリストに載っている以上一度は手にしたアイテムしか手に入らないが、場合によってはドロップアイテムや貴重な回復アイテムを手に入れられる『パーフェクトパズル』の性能にキリトは感嘆し、シリカは素直な驚きを見せる。

 

「…フン!不意打ちが決まったくらいでいい気になってるんじゃあないよ!アンタ達、何寝てるんだい!鞭は確かに射程は広いけど、ダメージ自体は大したもんじゃない。無理矢理押し切っちまいな!」

「は、はいッ!」

「…いいぜ、早く来いよ。時間が惜しいんだからさ」

「て、テメエッ…ふざけんなぁーッ!」

 余裕綽々のパラドに再び挑みかかる部下を尻目に、ロザリアはキリトとシリカの方へと向き直る。

 

「…さ~て、あのガキはアイツらに任せるとして。待たせたねシリカ、そろそろそのお宝を頂くよ…!」

「ッ!…わ、渡しませんッ!!」

「ああ、そうだ。お前なんかにコイツは勿体ない。…こういうモノは、『救われるべき人』の手にあって然るべきだ。誰かを救える力を、金のためにしか使えないアンタが持つべきじゃない」

 花を抱えるシリカに槍の切っ先を突きつけるロザリア。その間に割って入ったキリトが背中の剣を抜く。

 

「へぇ…アタシとやろうってのかい?お優しいこったねえ…天下のビーター、アタシなんぞよりよっぽど悪名高いアンタが、なんだってそんなガキに肩入れすんのさ?そいつを助けてなんかアンタに得があるっていうのかい?」

「…いいや。正直言ってこのクエストは俺にとってはただの寄り道だ。俺の目的はSAOを一日でも早くクリアすること、その目的にとってはシリカを助けることに大きな意味は無い」

「……」

「じゃあなんでさ?…まさか、アンタマジでそんなガキに惚れちゃったとか?だとしたら…正直ドン引きだわ」

「な、ななッ…!?ろ、ロザリアさん何を言って…」

「…そうじゃあない。俺がシリカを助ける理由は2つ、俺自身がシリカを助けたかったから。そして…シリカみたいなのを食い物にする、あんたらみたいなのが大っ嫌いだからだよッ!!」

 剣の切っ先を突きつけ、キリトはロザリアに敵意を向ける。弱者を利用するような人間をキリトはゲーマーとして、そしてなにより医者を志す者として許せなかった。

 

「キリトさん…!」

「チッ…!面倒だね、こっちはこういうの好きじゃないんだけどね…」

「知るか、喧嘩売ってきたのはそっちだろう。時間をかける気はない、一気に終わらせてやる!」

 吐き捨てるようにそう言って、キリトは己のガシャットに指をかける。

 

「変身!」

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!』

「はわッ!?き、キリトさんまで…」

「へぇ…そいつがアンタのお宝かい?…けどねぇッ!」

 変身を終えたキリトに、ロザリアは凶悪な笑みを浮かべて突きを放ち、キリトは剣でそれを受け止める。

 

「…ッ!」

「キリトさんッ!」

「お兄さんに釣られて調子に乗ったみたいだねぇ!アイツら相手ならともかく、アンタじゃあどうあっても『アタシは倒せない』のが分からないのかい!?」

「そ、そんなこと…!」

「ハッ、もう忘れたのかいシリカ?アタシの『プレイヤーアイコンの色』をさぁ!」

「色…ああッ!?」

「そうさ!アタシは『グリーン』…実情はともかく対外的には『健常なプレイヤー』なのさ!そんなアタシを攻撃しちまったら…アンタが『オレンジプレイヤー』になっちまうからねぇ!攻略組のアンタにとっては、そいつは御免被りたいことなんじゃないのかい!?」

「……」

 自分の立場を盾に一方的に攻撃し続けるロザリアの槍を、キリトは無言で捌きながら徐々に後退する。

 

「き、キリトさん…!」

「アンタはそこでジッとしてなシリカ!逃げたところで、地獄の果てまで追いかけてケジメつけさせてやるからね!」

「うっ…」

「ほらほら、どうしたんだいビーターさん?守ってばっかじゃその大層な鎧が泣くよ!一気に終わらせるんじゃあなかったのかい!?」

「……」

「チッ…そのすまし面が気にくわないよッ!」

 打ち合いながら後退していった2人は、やがて一本道の手前にある『川に掛かった橋』へと差し掛かった。

 

「…そろそろか」

「あん?何言って…」

「悪いな、一気に終わらせるって言ったけど…ありゃ嘘だった」

「は?」

「ここで…チェックメイトだ」

 

 

「…ほいッ!」

 

カツーンッ…!

 2人が橋の『中央』に立った瞬間、どこからか飛んできた『ナイフ』が橋に突き刺さった…直後。

 

…ビシッ!

ガラガラガラッ!

 突然橋の欄干に罅が入り、それを始まりとして橋が真ん中から崩れ落ち始めた。

 

「なッ…!?」

「そんじゃ、バイバーイ」

「あッ!?ま、待ちなッ…」

 予想外のことに愕然とするロザリアを余所に、キリトはガシャットによって強化された跳躍力で橋から跳び離れる。気づいたロザリアが追いすがろうとするが、時既に遅し。

 

バッシャーンッ!

「げほッ!?…て、てめ…ビーターァァァァァァッ…!!」

 橋から真下の川へと落下したロザリアは装備品の重さもあってロクに動けないまま、憎悪の叫びを上げながら流されていった。

 

 

 

「…よっと」

『ガシューン…タイムアウト』

「キリトさんッ!」

「ようシリカ。…心配かけたみたいで悪かったな」

「い、いえ…それより、一体何が起きたんですか?」

「ああ…何、ちょっとした『悪戯』を仕掛けておいただけさ」

「悪戯?」

「ロザリアの言ったとおり、グリーンのアイツを叩きのめして牢獄に送るのは簡単だ。けど、そうすると俺がオレンジプレイヤーになっちまう。一応『カルマ回復クエスト』はあるけど、それに時間をかけている暇はない。…でも、俺が直接手を下しさえしなければ問題は無い。だからあらかじめ準備をしといたのさ。アイツに協力して貰ってな」

「アイツ…?」

 首を傾げるシリカにキリトが橋の向こう側を指さすと…

 

…ガサガサッ

「…チョリーッス、キリトさん!作戦成功っすよー!」

 近くの茂みから『JK』が手を振りながら飛び出してきた。

 

「ああ!今回はサンキュー、謝礼の情報はいつもの場所でなー!」

「あ、あの人は…」

「この間アルゴのギルドに行ったときに居なかったJKって奴さ。アイツに頼んで、あの橋の『耐久度』を限界ギリギリまで減らしておいて貰ったんだよ。幸い俺達以外にこのクエストをやる奴はいなかったから、この辺りを通る奴もいない。ロザリアたちが逃げ道の無いこの通りで待ち伏せするのは予測できたから、あとは奴を挑発して橋の上にまで誘導して、真上に差し掛かったところでJKの一押しで橋を完全に破壊すれば…ああなるって訳だ」

「で、でも…あのままロザリアさんを放っておいたら逃げられるんじゃ…」

「その辺に抜かりは無いさ。既に下流の方にアルゴ達が張ってるから、陸に上がると同時に奴は牢獄送りになるさ」

「…全部、計算ずくだったんですね。ロザリアさんたちが襲ってくることまで…」

「ま、このエリアの橋が『破壊可能オブジェクト』だったからこその作戦なんだけどな。…まあ、もしそうじゃなかったらレベル差でごり押しするだけだったんだけどな。さて…そろそろ向こうも…」

 

『キメワザ!パーフェクトクリティカルコンボ!』

「はぁぁぁ…ハッ!」

 ガシャットギアデュアルを操作し、パラドは手にした鞭を振るって敵プレイヤーたちを宙に跳ね上げる。

 

「ぐあッ!?」

「これで…フィニッシュ!」

 パラドは鞭を捨ててジャンプすると、プレイヤー達を足場に次々と飛び移りながら下に蹴り落としていった。

 

ドササササッ!!

「ぐええ…」

「いっちょあ~がり!」

 

『ガシューン…タイムアウト』

「…ようキリト、こっちは終わったよ!」

「お疲れパラド。…全員生きてるよな?」

「当たり前だって。死なない程度に手加減しといたよ、僕もオレンジになって皆に迷惑かけるのは嫌だからね」

「あ、あの…パラドさん!ありがとうございますッ!わざわざここまで来て戦って貰って…」

「ん…ああ、気にしなくて良いよ。俺もこういう連中はムカつくし…それに、別に君のためってだけじゃなくてこのガシャットの試運転をしたかったからだしね。お礼ならキリトに言いなよ」

「は、はぁ…」

「そんじゃ、僕はこいつら連れて行くからあとはごゆっくり、キリト」

「ああ、サンキューなパラド。また何かあったらよろしく」

「ん。…次は僕が滾るような奴を頼むぜ?」

 パラドはそう言って、ダウンした『巨人の手』の残党を引き摺りながら去って行った。

 

「…あの、良いんでしょうか?パラドさんに任せてしまって…」

「構わないさ。オレンジプレイヤーを牢獄送りにすれば、少しだけどボーナスも貰えるからパラドに利が無い訳じゃないしな。…それより、早く街に戻ろう。ピナが待ってるぞ」

「あ…は、はいッ!」

 

 

 

 

 

 

 …そして、翌日。

 

 

「…じゃあ、もうここまででいいよ。見送りサンキューな」

「キリトさん…本当に、ありがとうございました!!」

『キュィィッ!』

 再び最前線へと赴くキリトを転移門まで見送りに来たシリカ。その肩には、無事にプネウマの花によって復活したピナの元気が姿がある。ピナは一鳴きするとシリカの肩から飛び上がり、キリトの首に身体を巻き付け名残惜しそうに顔を擦り寄る。

 

『ピィ!キュゥゥン…!』

「ハハ…もういいってピナ。あんまり俺にばっかり構ってると、ご主人様がヤキモチ焼くぞ?」

「そんなことしませんよぉ!…でも、不思議ですね。テイマーじゃないプレイヤーにこんなに懐いたりするなんて…ティムモンスターにも、心とかあるのかな?」

「心…か」

「…なんて、そんなことないですよね。ピナはあくまでモンスターで、プログラムなんですから…」

「…そんなことはないさ」

 ピナの頭を優しく撫でながら、キリトは優しくシリカにそう言う。

 

「今の俺達だって、こうして現実さながらにこの世界で生きているけど、実際はナーヴギアを通して俺達の思考をデータとして反映させているに過ぎない存在だ。現実の命と繋がっているとはいえ、俺達自体はプログラムみたいなものに過ぎない。…でも、君はこうして友達と再会できたことを喜んで、俺はそれをよかったと思っている。この気持ちだけは、決して作り物なんかじゃない。だったら、ピナにだって同じ気持ちがあったっておかしくなんかないさ。ピナも、俺達と同じ世界を生きているんだから」

「キリトさん…はい!私も、そう思いますッ!!」

『キュイッ!』

 肯定するように元気に鳴いて、ピナは再びシリカの元へと戻った。

 

「…じゃあ、もう行くな。次にいつ会えるかは分からないけど、お互い頑張ろうな」

「はい!私も、いつかキリトさんの役に立てるように頑張ります!」

「ああ、期待してるよ。それじゃあ…!」

 そうしてキリトはシリカに別れを告げ、再び最前線へと向かっていったのだった。

 

「…さあピナ!私たちも行くよ!まずは次の階層目指してレベルアップだよ!絶対に生き残って…いつかあなたにも、『ピナ』に会わせてあげるからね」

『キュイ?』

「…アハハ、分かんないよね!まあいいか、それじゃあしゅっぱーつ!」

『キュイー!』

 蘇った『ピナ』…現実世界にいる家族の猫と同じ名をつけたこの世界での相棒と共に、シリカは再び歩み始める。この世界で唯一の家族を救ってくれた、憧れのあの剣士に少しでも近づくために。

 

 

 後日、アインクラッド中に悪名高いオレンジギルド『巨人の腕』の主要メンバー全員が捕縛されたというニュースが飛び交った。確保したのは情報屋アルゴを抱えるギルド『鳴海探偵事務所』と、中層付近であらゆるクエストを攻略しているギルド『月夜の黒猫団』の合同作戦によるものと発表され、それは下層プレイヤーや非戦闘プレイヤーたちに安堵と歓喜をもたらしたのであった。

 

 その歓喜の裏に、全ての命を救うべく孤独な戦いを続ける少年と、大切な家族を救うべく奮起した少女の活躍があったことを、事件に関わった面々以外は誰も知ることは無かった。

 




パラドが使用したガシャットギアデュアルの説明です

・ガシャットギアデュアル(パラド≓キリト…使っているのはパラドだが、アカウント上はキリトとの共用なので所持しているのはキリトになっている)
・使用制限時間…1分
・効果 一定時間レベル25アップ。また、ステータス向上に加え専用装備である『パズルパッド』が装着される。パズルパッドに表示される様々なミニゲームをクリアすることで、消耗品やワンオフ装備以外のアイテムをランダムに入手できる。装備品を手に入れた場合、現在装備枠とは別に装備できるので、武器ならば擬似的な『二刀流』になれる。但し、ゲット出来るのは一度でも手に入れたことがあるものに限られ、ガシャットの制限時間になると消失してしまう。
・キメワザ パーフェクトクリティカルコンボ(パラドのその場の思いつきで放つ攻撃)

もう片方の性能に関してはまた別のお話で。
尚、橋のオブジェクト設定やオレンジプレイヤー捕縛によるボーナスなどはほぼ独自設定ですのであしからず

ではまた次回

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。