なのはが魔導師となってから数日後、祐一はいつもの早朝のトレーニングをした後、本を読みながら、これからのことを考えていた。
(魔導師としての力を手に入れたなのはは、これからどうするのだろうな……)
祐一はこれに関してはなのはの意思を尊重するつもりである。だが、祐一の気持ちとしては魔法に関わっては欲しくなかったというのが本音でもある。
(魔導師は戦うことを強制される。本当ならば、なのはには"こちら側"には来てほしくはないのだがな……)
そう考え祐一はふぅ、と息を吐く。
(だが、なのははまだ巻き込まれただけだ。気持ちの整理も付いていないだろう。――ならば、確認しなければなるまい。――自分の意思というものを――)
祐一はそう自身の気持ちを確認すると、本を閉じた。
そして、しばらくすると、ユーノからの念話が聞こえてきた。
『祐一さん、なのは、聞こえてますか?』
『うん。聞こえてるよ。祐一お兄さんも聞こえてる?』
『ああ。聞こえている』
ユーノは二人に念話が聞こえているのを確認すると、話を始めた。
『――じゃあ、まずはジュエル・シードについて説明するね』
《ジュエル・シード》――ユーノが自身の世界――つまり、魔法世界で見つけた魔法の石である。
それは本来、手にした者の願いを叶える魔法の石であるのだが、力の発現が不安定であり、それによって、祐一達が昨晩交戦したような魔物を生み出すこともある。
また、たまたまジュエル・シードを見つけた人間や動物が誤って使用してしまい、それを取り込み暴走するケースもある。
説明を終えたユーノが一息付くと、なのはが疑問を持ったのか、質問してくる。
『そんな危ない物が、何で家のご近所にあるの?』
『ふむ。確かにそうだな……』
祐一も気になっていたのか、なのはに賛同するように声を上げる。
『……僕のせいなんだ』
そんな二人の言葉にユーノが沈んだ声で話す。
ユーノは故郷で遺跡発掘の仕事をしていた。そんなある日、古い遺跡の中でジュエル・シードを発見したのだ。
そして、それを運んでいた時空間船が事故か、"何らかの人為的災害"に合い、全部で二一個あるジュエル・シードがこの地球に散らばってしまったのだ。
『――今までに見つかったのは、たった二つ』
『あと一九個かぁ~』
なのはは、「まだ、結構な数があるなぁ~」と、楽観的な言葉を返す。
そんななのはに僅かに苦笑しながら、祐一は声を上げる。
『とりあえず、ジュエル・シードがどんな経緯で地球に散らばったのかは理解した』
『はい。本当に、僕のせいで二人にはご迷惑を……』
祐一の言葉にユーノは自身の不甲斐なさを滲ませ、言葉を返す。
だが祐一は、いや、と否定の声を上げる。
『これはお前だけの責任ではない。確かに責任の一端はあるのかもしれないが、他に発掘をしていた人もいただろうし、不慮の事故は運が悪かったと言うしかないだろう』
『そうかもしれません。……ですけど、あれを見つけてしまったのは僕だから。全部見つけて、あるべき場所に返さないと駄目なんです』
『責任感が強いのは美点ではあるがな。だが、どうしても一人の力では限界もあるだろう』
祐一の言葉にユーノは、そうですね、と言葉を返す。
『……なのはも祐一さんも巻き込んじゃって、本当に申し訳ないと思ってる。だから、一週間、いや、五日もあれば僕の魔力も戻るから、その間だけ休ませて欲しいんだ』
そう話すユーノに、言葉を返そうと祐一が口を開こうとすると、
『魔力が戻ったら、どうするの?』
なのはが静かな、それでいてよく通る声で言葉を紡ぐ。
なのはの言葉に祐一は開こうとしていた口を一旦閉じ、ユーノはなのはへと言葉を返す。
『……また一人でジュエル・シードを探しに出るよ』
ユーノが僅かに決意を含む声を上げる。だが――
『それは駄目』
『だ、駄目って……』
ユーノの言葉を、なのはが一言で切って捨てる。ユーノの声には僅かに動揺が感じられた。
『わたし、学校や塾の時間以外なら手伝えるから』
『――だけど、昨日みたいに危ないことだってあるんだよ?』
ユーノが心配そうに話をするが、なのはは笑みを浮かべながら声を上げる。
『ふふ。だって、もうわたしはユーノくんと知り合っちゃったし、話も聞いちゃったし、ほっとけないよ』
『なのは……』
『それに、ユーノくん一人ぼっちで頑張ってたんでしょ? 一人ぼっちが辛いのはよく分かるから。……それは悲しいことだよ』
ユーノは黙って、なのはの言葉に耳を傾ける。
『困っている人がいて、その人を助ける力が自分にあるなら、迷わずにその力を使えって――これ、家のお父さんの教えなんだ』
また少しだけ笑みを浮かべ、なのはは話を続ける。
『ユーノくんが困ってて、わたしはユーノくんの力になってあげられる魔法の力があるんだよね?』
『……うん』
『わたし、ちゃんと魔法使いになれるかあんまり自信ないんだけど』
『いや、なのははもう魔法使いだし、僕なんかよりもとても素晴らしい才能を秘めているよ』
『え、そうなの? 自分ではあんまりわかんないけど……祐一お兄さんもそう思ってるの?』
『ああ。俺もそう感じている』
祐一の言葉に照れたのか、なのはは「にゃはは」と恥ずかしげに声を上げる。
『とにかくっ! ユーノくんと祐一お兄さん。わたしに魔法のこととかいろいろ教えてくれるかな? わたし、ユーノくんのお手伝い頑張るからっ!』
『――うん。ありがとう』
『ああ。俺も出来る限りサポートするよ』
ユーノは心から嬉しそうに、祐一はいつも通り淡々と、なのはに言葉を返す。
そして、話もほとんど終わった頃、なのはが「あっ!」と声を上げた。
『どうしたの、なのは?』
『いや、なんだか急すぎて忘れてたんだけど、祐一お兄さんも魔導師、なんだよね……?』
なのはは聞いてもいいのかなという感じで、祐一に質問する。
『ああ。そうだ。こちらでは隠していたんだが、俺もなのはやユーノと同じく魔導師だ』
祐一の言葉に、「全然知らなかった……」と、なのはが少しショックを受けていた。
『祐一さんは、この地球出身なんですか?』
『――いや、俺の出身はここではないよ』
『えっ!? そ、そうなのっ!?』
『ああ。俺が産まれたのは、ユーノと同じく魔法世界だ』
なのはとユーノは祐一の言葉に驚愕する。
『じゃあ、もしかして祐一さんは――』
『まて。――どうやら、話をしている場合ではなくなったようだ』
ユーノの言葉を遮り、祐一が声を上げる。
祐一の言葉を聞き、ユーノもハッと体を起こし、なのはも気付き声を上げる。
『っ!? ユーノくん。この感覚――』
『うん。間違いない。ジュエル・シードの反応だ』
『幸い反応は近いが、どうする?』
祐一の問い掛けにユーノはしっかりと答える。
『向かいましょう! 二人とも手伝って!』
『うんっ! わかった!』
『了解した』
ユーノの言葉になのはは元気に返事し、祐一は簡潔に答える。
そして、三人はジュエル・シードが発動した場所へと移動を開始した。
目的の場所は小さな神社で、見渡すと、祐一より先に到着していたなのはとユーノの姿があった。
(あれが、今回のジュエル・シードというわけか)
祐一の視線の先、なのはとユーノが対峙しているのは、全長三mはあろうかという、巨大な犬(ここから魔犬と呼ぶ)であった。おそらく何かの拍子にジュエル・シードを取り込んでしまい、このような姿になってしまったんだろうと、祐一は推測する。
そして、なのは達と魔犬の間には、その犬の飼い主だと思われる女性が倒れていた。
祐一は状況を把握すると、即座に行動に移した。
「バリアジャケット――展開――」
その言葉と同時に、祐一のバリアジャケットが展開される。
「ソニックムーブ」
その場から消えるように祐一は気絶している女性の元へ移動する。
「っ!? ゆ、祐一お兄さん!?」
「祐一さん!?」
急に現れた祐一に二人は驚きの声を上げる。
二人の声を聞きながら祐一は気絶している女性を抱え上げる。
「――なのは」
「は、はいっ!?」
思わずといった感じでなのはが返事をする。
「――こいつは任せる」
「えっ……?」
困惑するなのはを放置し、祐一はその場から瞬時に離れる。
気絶している女性を寝かせ、祐一は少し離れたからなのは達を見る。なのはは覚悟を決めたのか、ユーノと話し合っていた。魔犬はそんな二人を獲物と認識したのか、唸り声を上げる。
「お前の力を見定めさせてもらうぞ。なのは」
祐一がそう呟くとほぼ同時、なのはが持つデバイスであるレイジングハート輝き始めた。それとともに溢れる膨大な魔力に、祐一は驚きの表情を浮かべる。
「これほどとは、な。……フェイトと互角かそれ以上といったところか」
祐一の視線の先、光に動揺したのか、魔犬がなのはへと突っ込んでいくが、なのはは魔犬と接触する前にバリアジャケットと纏っており、全くのノーダメージであった。
「パスワードもなしにデバイスを起動したか。相性も良いようだな」
すると、魔犬は再度なのはへと突進していく。
だが、バリアジャケットを展開し、防御力が上がってしまったなのはにはその攻撃は無意味であった。
『Protection』
なのはがレイジングハートを魔犬の方へと突き出すと、レイジングハートの声と同時に障壁を張り、軽々と魔犬を吹き飛ばす。
その光景に祐一が驚いていると、この戦いが終わりを迎えようとしていた。
『Stand by ready』
「リリカルマジカル、ジュエル・シードシリアルⅩⅤⅠ――封印!」
『Sealing』
ジュエル・シードの封印が完了した。
「終わったか……」
祐一はそう呟くと、なのは達がいる方へと歩みを進め始めた。
「ふぅ~。これでいいのかな?」
「うん。これ以上ないくらいに」
少し緊張していたなのはユーノに声を掛けると、ユーノが嬉しそうに返事をする。その言葉が嬉しかったのか、なのはは微笑みを浮かべる。
「――なかなかやるじゃないか。なのは」
祐一がそう言いながら、なのは達の所へとやってきた。
「あ、祐一お兄さん! わたし、ちゃんとジュエル・シードの封印出来たよっ!」
「ああ。離れたところから見ていた。ちゃんと封印出来てよかったよ」
祐一は笑みを浮かべ、なのはの頭を撫でる。
なのはも褒められたことが嬉しいのか、僅かに頬を染めながらも嬉しそうに微笑んでいた。
「ユーノもご苦労だったな」
「いえ、僕は何もしていませんから」
祐一の労いの言葉に、ユーノもなのはの活躍が嬉しかったのか、笑顔で言葉を返した。
無事、ジュエル・シードを捕獲することに成功し、祐一達は帰路に着いた。
祐一はなのは達を家まで送り届け、今は自宅へと歩みを進めている。
(無事、ジュエル・シードを捕獲出来たな。次からもこれぐらい簡単に捕獲出来ればいいのだがな……)
祐一はそう考えながら歩みを進める。
今日のジュエル・シードは力をフルに発揮してはいなかった、と祐一は感じていた。だからこそ、なのはの力だけで解決させようとしたのだ。
もちろん、危なくなったら祐一も助けるつもりではいた。
(もし、ジュエル・シードがフルの力を発揮するとなると、かなり膨大なものとなるだろう。ましてや"暴走"などした日には、この海鳴――いや、下手をすれば地球がなくなる、か……?)
ユーノの話と祐一がジュエル・シードの特性から推察するに、それぐらいの力を秘めているだろうと、祐一は考える。
そう考えたところで、祐一は首を振る。
(――いや、そのようなことは余程のことがない限りは大丈夫だろう。そうさせないために、俺がいるのだから)
思考しているうちに、自宅へと着く。
「ん? 手紙が入っているな。誰からだ?」
ポストを確認すると、一通の手紙が入っていた。
そして、祐一は差出人を確認する。
「――まさか、このタイミングでやってくるとはな」
そこにはこう書かれてあった――差出人《プレシア・テスタロッサ》と。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
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