魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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投稿します。
楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。


海鳴温泉にて(前編)

 なのはからの連絡があってから数日――祐一は現在、高町家と月村家ご一行と共に、海鳴温泉へと車で向かっている最中であった。

 祐一は右側の後部座席に座っており、その隣には、今回の旅行に祐一を誘った張本人である――高町なのはが座っていた。にこにこと笑みを浮かべながら、祐一へと話し掛けているその姿は、とても嬉しそうであった。

 そんななのはの話を聞きながら、祐一は先日のことを考えていた。

 

 なのはから旅行に誘われたとき、祐一は当初、その誘いを断ろうとしていた。

 だが、祐一が断ろうとすると、電話越しに、

 

「祐一お兄さん、いっしょに、来てくれないの……?」

 

 そうなのはが悲しそうな声で言ってきたのだ。

 基本的に、自分にも他人にも厳しい祐一ではあるのだが、"以前"からこのような頼まれ方をすると、断るに断れないのが祐一でもあった。

 そして、結果として、祐一は今回の旅行に参加することと相成ったわけである。

 

「――って、祐一お兄さん、ちゃんと話聞いてるっ?」

 

 祐一はその声に意識を戻した。

 祐一が真剣に聞いていなかったのが分かったのか、なのはが僅かに頬を膨らませながら祐一を見つめていた。

 

「っと、すまない。少し考え事をしていた」

 

「もうっ! ちゃんと聞いててよねっ!」

 

 頬を膨らませ、怒ったように言うなのはに謝罪しながら、祐一はなのはの頭をぽんぽんと軽く叩く。

 なのはは、しょうがないなぁと同じように笑みを浮かべた。その表情から、本当に怒っていたわけではなかったようだ。

 そんななのはを見つめながら、祐一は声を掛ける。

 

「――温泉楽しみだな、なのは」

 

「うんっ! すっごく楽しみっ!」

 

 満面の笑みを浮かべるなのはを見て、祐一も僅かに笑みを浮かべる。

 

(まぁ、なのはの息抜きにもなるだろうし、なにより――)

 

 また、話を始めたなのはを見つめ、

 

(――こういうのも悪くない)

 

 そう思い、祐一はさらに笑みを深めた。

 

 

 

 目的地である海鳴温泉に到着し、部屋へと荷物を置きに行った後、早速、皆で温泉へと向かった。

 そこで、僅かばかり問題が発生した。

 

「――なのは、ユーノは女湯に連れて行くのか?」

 

「? そうだけど、何か問題あるの?」

 

 何を言ってるのだろうという感じで、なのはが首を傾げる。その隣にいる友人のアリサとすずかも同じように首を傾げていた。

 

「いや――」

 

 ないがと、祐一は言葉を続けようとしたが、視界の端でユーノが助けを求めるような表情で祐一を見ていた。

 祐一は僅かに思考すると、ユーノへと声を掛けた。

 

「ユーノ、俺といっしょに入るか?」

 

 すると、ユーノは助かったと言わんばかりに、なのはの腕の中から飛び出し、祐一が差し出した腕へと上った。

 

「あ、ユーノくん」

 

「と、いうわけだ。ユーノは俺に任せておけ」

 

「む~~」

 

 なのはは少し不服そうに頬を膨らましていたが、しばらくすると、「仕方ないなぁ~」と言い、

 

「じゃあ、今回はユーノくんをお願いね」

 

「ああ、わかった。なのはもアリサ達とゆっくりしてくるといい」

 

 祐一がそう言うと、なのはは「うんっ!」と返事をし、笑顔で女湯へと向かっていった。そちらの方から、アリサ達がユーノがいないのを残念がる声も聞こえてきた。

 

『ありがとうございます、祐一さん。一時はどうなることかと思いましたよ』

 

『気にするな』

 

 ユーノが念話でお礼を言ってきたので、祐一はそれに返事をしつつ男湯の方に入っていった。

 

 

 

 ユーノは温泉が初体験だったようで、上せてしまう前に出て行った。祐一はユーノが出て行った後も久しぶりの温泉で疲れを癒していた。

 それからしばらく、祐一は温泉を満喫してから上がり、旅館に置いてあった浴衣に着替え、火照った体で廊下を歩いていた。

 祐一がこの後何をしようかと考えながら歩いていると、見知った姿を"四人"見掛けた。

 祐一は"四人"の姿を見掛けると、僅かに眉を動かした後、溜め息を吐いた。

 

(――何で、"あいつ"がここにいるんだ?)

 

 その四人というのは、一人はこの旅行に祐一を誘った張本人であるなのはだ。その肩には、合流したのかユーノが乗っている。

 そしてなのはの隣にいる二人は、なのはの親友であるアリサとすずかである。

 ここまでは、いっしょに来たメンバーであるため、大しておかしくはない。

 

 ――残りの"一人"が問題であった。

 

 "問題の人物"は、なのは達よりも長身の大人の女性であった。

 旅館に置いてあった浴衣を着崩し、胸元を大きく開け、豊満な胸を強調するかのようになっている。

 ここまで聞いたら、男性ならば僅かでも喜びそうであったが、生憎と祐一はそのような気分にはなれなかった。

 

(――アルフが来ているということは、フェイトも来ているのか?)

 

 なぜなら、その"もう一人"というのが、何を隠そうフェイトの使い魔である、アルフだったのだ。見ていると、どうやらアルフがなのはとユーノに絡んでいるように見えた。

 祐一は、もう一度深い溜め息を吐きながら、なのは達の方へと近づいていく。

 

「どうしたんだ、なのは?」

 

「あ、祐一お兄さんっ!」

 

 そう祐一が声を掛けると、なのは達はホッとしたように肩の力を抜いた。アルフは祐一の姿を見つけると、驚いた表情をした後、バツが悪そうな表情へと変わっていった。

 

「この女の人が、なのはに絡んできたんです! なのははこの人のことを知らないって言ってるのにっ!」

 

 誰よりも早く、アリサが祐一へとそう説明する。

 祐一はアリサの説明を聞くと、鋭い視線をアルフの方へと向ける。

 

「ほう、そうなのか?」

 

「…………」

 

 そんな祐一の表情にアルフは冷や汗を浮かべ、何も言い返せないのか黙っていた。

 そして、急に何かを思い出したように口を開いた。

 

「あ、あはは。ご、ごめんごめん、人違いだったかなぁ~? 知ってる人によく似てたからさぁ~」

 

「そうだったんですか……?」

 

 アルフは頭を掻きながら、なのはへと謝罪し、なのは達とすれ違おうとする。

 

『今のところは挨拶だけね。忠告しとくよ? 子供は良い子にして、お家で遊んでなさいね? おいたが過ぎるとがぶっといくよ?』

 

『『ッ!?』』

 

 そう念話でアルフが呟くと、なのはとユーノは驚愕の表情を浮かべ、アルフの方をもう一度見る。

 

「さ、さぁって、もうひとっ風呂行ってこよ~」

 

 祐一の睨みが効いたのか、アルフはもうなのは達の方を振り向こうとせず、浴場へと歩いていった。

 

(全く、威嚇してどうするんだ)

 

 祐一がアルフの行動に溜め息を吐いてると、アリサが声を上げる。

 

「なによ、あれっ! 昼間っから酔っ払ってるんじゃないのっ!」

 

 アリサが憤りを隠せない様子で怒りの表情を浮かべていた。

 そんなアリサをなのはとすずかが宥めているのを横目で見つつ、祐一はこの後の展開に頭を悩ませていた。

 

 

 

 夜になり、祐一はなのはの父親である――高町士郎や兄である恭也と話をして盛り上がった後、一人で借りた部屋で休んでいた。

 一人で部屋を借りると言ったとき、何やら非難めいた視線をなのはの母親である――高町桃子から受けたが、祐一は華麗にスルーし、無事に一人で休むスペースを確保したのだ。

 

『祐一お兄さん、ユーノくん、起きてる?』

 

『ああ。起きている』

 

『うん。僕も』

 

 なのはからの念話に祐一は慌てることなく返事をする。

 祐一は、おそらくなのは達が夜の間に話を聞いてくるだろうと、予想していたのだ。

 

『話なんだけど、昼間の女の人はやっぱりこの間の子の関係者かな?』

 

『うん。たぶんね。祐一さんはどう思います?』

 

『――言動から察するに、ほぼ間違いなく関係者だろうな』

 

 祐一は、アルフのことを全く知らないように言葉を返す。

 祐一とて、嘘を付く事は躊躇われるが、これは仕方ないことだと割り切っていた。

 そんな風に考えていると、なのはが僅かに沈んだ声で二人に話掛ける。

 

『また、この間みたいなことになっちゃうのかな……?』

 

『……たぶん』

 

 なのはは一度、フェイトと戦闘しており、その戦いを思い出していた。出来ることなら戦いたくはない、となのはは感じていた。

 そんななのはの心情を知ってか知らずか、祐一が声を上げる。

 

『それで、どうする? この間みたいなことになるのはほぼ間違いない。……やはり、止めるか?』

 

『……ううん。止めないよ』

 

 祐一の言葉になのはが静かに返す。

 

『ジュエル・シード集め、最初はユーノくんのお手伝いだったけど、今はもう違う。……わたしが自分でやりたいと思ってやってることだから』

 

 なのはは一度大きく深呼吸すると、さらに話を続ける。

 

『祐一お兄さんもユーノくんも、止めろなんて言わないで。……じゃないと、今度は怒るよ?』

 

 祐一はなのはの言葉を聞くと、人知れず笑みを浮かべた。

 

『どうやら意思は固いようだな。それなら俺はもう何も言わん。自分が思う通りにやってみろ。ユーノもそれでいいな?』

 

『はい、大丈夫です、祐一さん!』

 

『ありがとう、祐一お兄さん!』

 

 祐一の言葉に二人が元気良く返事をする。

 

『おそらく事が起こるとすれば夜中だろう。二人共出来るだけ寝て、体力を温存しておけ』

 

『『はいっ!』』

 

 二人の返事を聞き、念話を終えると、祐一は誰にも悟られることなく、静かに部屋を出て行った。

 

 

 

side フェイト・テスタロッサ

 

 わたしは今、暗い森の中の木の上でジュエル・シードを探している。

 この周辺のどこかにあるのは間違いないと思うけど、反応が小さすぎて見つけることが出来ずにいた。

 しばらく探していたけど、結局、見つけることが出来ず、少しでもジュエル・シードの反応があるまで待つことにした。

 今、わたしは休憩もかねて木の上からジュエル・シードの反応があるのを待っている。

 

(歯痒いな……)

 

 ほんとはもっと早くジュエル・シードを見つけて、母さんのところに持って帰りたいけどそうもいかない状況となっている。

 

(――祐一ならもっと上手く見つけられるのかな?)

 

 わたしは祐一のことを考える。

 祐一はすごく強い魔導師で、わたしよりも魔力量が少ないのに一度も祐一に勝つことが出来なかった。

 祐一から師事されるようになってからずっと、祐一はわたしの目標だ。わたしも祐一のような一流の魔導師になりたいと願っていた。

 

 ――わたしは祐一の背中ばかり見ていた。

 

 だから、リニスがいなくなり、そして祐一がわたしの教育を終えていなくなってからの一年間はとても寂しくて、心にぽっかりと穴が空いたようだった。

 それから、母さんの役に立つためにわたしは母さんから頼まれたことを淡々とこなしていった。母さんからの頼みごとだったということもあったけど、それを行っている間はいろんなことを考えなくて済んだ。

 そして、ジュエル・シードを集めるためにこの地球に来て――祐一と再会した。

 

 始めはいろんな感情が込み上げてきて、何にも考えられなかったけど、祐一の声が聞こえたら――とても、嬉しかった。

 そう思ったら、祐一がいなくなってからの一年間、泣くのはずっと我慢してきたはずなのに、わたしは祐一の胸に飛び込んで久しぶりに泣いた。

 

(あ、あれって、わたし、とても恥ずかしいことしてたよね……)

 

 祐一の胸で泣いたときのことを思い出し、わたしは体温が上がっていくのを感じた。

 

 ――わたしがあのときのことを思い出し、恥ずかしがっていると、

 

「こんな所にいたのか、フェイト?」

 

「ひゃい!?」

 

 わたしがびっくりして声がした方向を見ると、件の人物である祐一が立っていた。その手には、手提げ袋を持っていた。

 

「ゆ、祐一!? 何でここにいるの……?」

 

「あたしもいま~す……」

 

 わたしが疑問を口にすると、祐一の後ろからアルフが疲れた表情でやってきた。

 

「ど、どうしたの、アルフ? なんだか疲れてるみたいだけど……?」

 

「い、いやぁ~それがね……?」

 

「アルフがふざけたことをやっていたから、俺が説教をしておいたんだ」

 

「? そうなの? なんで?」

 

 わたしが首を傾げながら聞くと、

 

「アルフが相手の魔導師に喧嘩を吹っかけてな。全く、俺の知り合いだと言っただろう」

 

「だ、だから謝ったじゃないか……」

 

 どうやらアルフが喧嘩を吹っかけたようだ。祐一が知り合いだと言ってるってことは、あの白い服を着た、魔導師の女の子なんだろう。どうやら、その女の子もここに来ているようだ。

 

「それで、なんで祐一はここにいるの?」

 

「それは正直、たまたまなんだが。知り合いに温泉に行かないかと誘われてな」

 

 祐一が少し困ったように笑みを浮かべながら話してくれた。

 そして、その手に持っていた袋をおもむろにわたしに差し出した。

 

「? これ、なに?」

 

 わたしは祐一から袋を受け取りながら質問する。

 

「フェイトが何も食べていないだろうと思ってな。……まぁ晩御飯の残り物だが、食べるといい」

 

「うわぁ~! ありがとう、祐一!」

 

 わたしがお礼を言うと、「気にするな」と祐一はいつものように答えた。

 小さなことだけど、そんな祐一の厚意が嬉しくてわたしは胸が熱くなるのを感じた。

 

(祐一は優しいな。たまに怒ることもあるけど、それには必ず理由があって、結果としてわたし達を助けてくれる)

 

 わたしは祐一が持ってきてくれた晩御飯を食べながら、心の中でもう一度祐一にお礼を言った。

 

(いつもお世話になってばかりだから、いつか、祐一の手助けが出来るようになりたいな……)

 

 隣でアルフと喋っている祐一を見ながら、わたしはそんなことを考えていた。

 

side out

 

 




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