魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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信じるということ

 ジュエル・シードの暴走を抑え、なのは達と離別する形となった祐一は、そのままフェイト達のマンションへと来ていた。

 流石の祐一も、ジュエル・シードの暴走を抑え込んだ影響で、両腕に多大なダメージを負っており、自分では治療出来ないため、一時、フェイト達のマンションへとやってくる形となった。また、魔力もほぼ使い切っており、なんとか歩くことが出来るぐらいの状態だったこともあった。

 一番の怪我人は祐一であるが、フェイトのデバイスであり、相棒でもあるバルディッシュも破損が酷かったが、バルディッシュが高性能なこともあり、意外と早くに直る目処が立っていた。

 そして今、祐一はフェイトに両腕を治療してもらっているところであった。

 

「祐一、じっとしててね? ちょっとしみるかもしれないけど」

 

「ああ、すまないな」

 

「うわぁ~イタそ~」

 

 祐一の両腕は傷が無いところがないぐらいに、裂傷や皮膚が焼け爛れていた。

 そんな祐一の両腕をフェイトは出来る限り、祐一の負担にならないよう優しく治療していく。対して、アルフは祐一の怪我を見て、その傷の酷さに顔を歪めていた。

 

「終わったよ、祐一」

 

 そしてしばらくして、フェイトは祐一の腕に包帯を巻き終えた。

 

「すまないな」

 

「ううん。これくらいなんともないよ」

 

 祐一の言葉にフェイトは苦笑を返す。

 

「むしろ、ごめんね。わたしが上手くジュエル・シードを封印出来なくて、暴走までさせちゃって……祐一にも、こんな怪我させちゃって」

 

「フェイト……」

 

 話している内に、フェイトが自身の不甲斐なさと祐一に怪我をさせてしまったことから、悲しそうな表情で俯いていた。

 祐一はそんなフェイトに苦笑する。

 

「だから、気にするなと言っているだろ? 今回の件は手を貸すのが遅れた俺にも責任はある。お前が気に病む必要はない」

 

「……でも……」

 

「今回のことは不可抗力だ。フェイトとなのはの力の大きさが、たまたま今回は悪い方へと転がったにすぎん」

 

 祐一の言葉を聞いても、フェイトの表情はなかなか晴れない。

 これもフェイトの性格なのだろうな、と祐一は心の中で思いながら、フェイトの頭へと手を伸ばし、

 

「んっ……」

 

 ぐしゃぐしゃと少し強めに撫で回した。

 そんな祐一の行動に、思わずフェイトは俯いていた視線を上げる。そこで目にしたのは、変わらず自身に微笑み掛けてくれている祐一の顔であった。

 意外に近い距離に、フェイトは僅かに頬を染めてしまう。そんなフェイトの表情に気付いているのかいないのか、祐一はさらに口を開く。

 

「失敗したことをいつまでも悔いていても状況は変わらん。フェイトがもし、今回の件で俺に対して申し訳ないと思うのなら――次はこのようなことにならないように、さらに研鑽を積み、努力すればいい」

 

 そう重く語った祐一の言葉に、フェイトは納得したように頷きを返す。

 フェイトが頷いたのを確認し、よし、と祐一は呟きフェイトの頭から手を放した。

 

「あっ……」

 

「ん? どうした、フェイト?」

 

 祐一の大きな手が頭から離れた瞬間、思わずといったようにフェイトが残念そうな声を上げる。祐一はそんなフェイトの声に気付き、首を傾げる。

 そんな自分の失態に気付き、フェイトはあたふたしながら頬を真っ赤に染め上げる。

 

「あ、えと、べ、別に何も……」

 

「ふふふ。フェイトは祐一に頭を撫でてもらうのが好きだからねっ! それで思わず声が出たんだよ」

 

「ちょっ……!? アルフ!?」

 

 アルフの言葉に驚愕の表情を浮かべ、フェイトの頬は真っ赤なりんごのような状態となっていた。

 アルフはそんなフェイトを見ながらも、からかうのを止めない。そんな二人のやり取りを祐一は苦笑しながら見つめていた。

 アルフがフェイトをからかい、フェイトは恥ずかしそうに、だが表情は笑顔でとても幸せそうであった。

 祐一はこんな時間が、なんでもないこんな日常が続けばいいと、思わずにはいられなかった。

 

 

 

 それからしばらくして、祐一はフェイトの家を後にした。

 暗い街を歩きながら、祐一は思考を巡らせていた。

 

(俺がフェイトの知り合いだと知って、なのははこれからどうするのだろうな……)

 

 考えるのは、悲しい表情をしていたもう一人の魔法少女――なのはのことである。

 今回の一件で、祐一はなのはを裏切るような形となってしまった。祐一のことを慕ってくれているなのはを騙していたようなものであり、その気持ちを踏みにじったようなものであった。

 例え、祐一に裏切ったという気持ちがなかったとしても、結果的にそのようなことになってしまったことには変わりは無い。ゆえに、祐一はなのはに恨まれても仕方ないと考えていた。

 

(もう、後戻りすることは出来ない。例え、なのはに恨まれることになっても……)

 

 そう思う祐一の表情には、僅かな寂しさが垣間見えていた。感情の起伏があまりない祐一ではあるが、やはり、自身を慕ってくれているなのはを裏切るようなことはしたくはなかった。

 しかし、祐一はそのような甘い感情を心の隅へと追いやった。

 

(――俺の目的は"プレシアさんの願い"の成就。ただ、それだけだ)

 

 そう、自らの意思を心に刻んだ。

 

(ここからが"正念場"だな)

 

 おそらく、今回のジュエル・シードの暴走の魔力を探知し、"管理局"が動き出すだろうと、祐一は踏んでいた。

 

(ここからはほぼ出たとこ勝負、か。マシな人間が来てくれると助かるのだがな。相変わらず、分の悪い賭けだ)

 

 祐一は心の中でそう願いながら、思わず苦笑する。昔から、祐一は分の悪い賭けばかりしている。

 

("あいつ"がいた頃も、無茶なことをたくさんやってのけていたな)

 

 僅かに表情を曇らせ、祐一は想いを馳せる。

 だが、すぐに首を横に振り、今はそのようなことを考えている暇はないと、気を引き締めた。

 

(俺は、もうやると決めた。"お前達"が、今後、どのような選択をするのか、見極めさせてもらおう)

 

 今はいない少女たちのことを思いながら、祐一は明かりが消えた街を歩いていった。

 

 

 

side 高町なのは

 

 ジュエル・シード暴走の一件の後、わたしとユーノくんはそのまま帰宅した。

 今はジュエル・シード暴走の影響を受け、傷付いてしまったレイジングハートをユーノくんといっしょに見つめていた。

 

「ユーノくん、レイジングハートは大丈夫……?」

 

「うん。かなり破損は大きいけど、きっと大丈夫。今、自動修復機能をフル稼働させてるから、明日には回復すると思うよ」

 

「うん……」

 

 元気のないわたしを、ユーノくんは励ますようにたいしたことはないと答えてくれた。そんなユーノくんの気遣いが嬉しい反面、自分の不甲斐なさが悔しかった。

 

「なのはは大丈夫……?」

 

「うん。レイジングハートが守ってくれたから。……ごめんね、レイジングハート……ユーノくんも心配してくれてありがとう」

 

 心配してくれるユーノくんに、わたしは力ない笑みを向ける。

 レイジングハートがいなければ、わたしは無事ではすまなかったと思う。わたしがたいした怪我がないのは、レイジングハートが優秀だったから。こんな不甲斐ないマスターを助けるために、レイジングハートは傷付いてしまった。

 今回の一件で、分かってはいたけど、自分の力不足を痛感して、それがとても悔しかった。

 そして、もう一つわたしが気になって仕方ないことがある。どちらかというと、そちらの方がわたしの気持ちを揺さぶっていた。

 

「心配するのは当然だよ。それに、なのはの怪我も心配だったけど――今は、なのはの気持ちが心配だよ」

 

「…………」

 

 ユーノくんの言葉に、わたしは思わず黙ってしまう。そんなわたしの気持ちに気付いているのか、ユーノくんも何も言わなかった。

 しばらくの間、わたしとユーノくんは無言となっていたけど、それを打ち破るようにわたしは言葉を紡いだ。

 

「……祐一お兄さん、フェイトちゃんたちと知り合いだったんだね」

 

「……うん。そうみたいだね」

 

 祐一お兄さんこと、黒沢祐一。わたしの憧れの人であり、わたしが危険なときは必ず助けてくれる騎士(ナイト)のような男性だ。

 その祐一お兄さんが、今はフェイトちゃんといっしょにいる。一体、どんな理由があって、フェイトちゃんといっしょにいるのか、現状、わたしにはわからないことだらけだった。

 

「――もしかしたら、祐一さんは僕たちを騙そうとしていたのかもしれない」

 

「え……?」

 

 祐一お兄さんのことを考えていたわたしの耳に、ユーノくんの言葉が聞こえてきた。その内容に、思わずわたしは聞き返してしまった。

 

「あのフェイトって子が現れ始めてから、祐一さんの行動には不審な点が多かった。なのはが初めてフェイトと遭遇したときがあったでしょ? そのとき、祐一さんはジュエル・シードが取られるまで姿を見せなかった。……おそらく、気付いていて手を出さなかったんだ」

 

 困惑するわたしを他所に、ユーノくんはさらに自分の考えを話し続ける。

 

「そして、みんなで温泉に行ったときだ。このときも僕たちが交戦していたのに、祐一さんは手を出さず、見ているだけだった。ジュエル・シードが取られたにも関わらず、ね」

 

 ユーノくんの言葉を聞きながら、わたしは困惑する頭で考える。

 確かに、最近の祐一お兄さんの行動はおかしな点がいくつかあった気がする。だけど、それがわたしたちを裏切るようなことだとは、わたしには思えなかった。

 

「そして最後に今回の件。……だから、祐一さんは最終的には僕たちのことを……」

 

「そんなことないっ!」

 

 わたしは思わず、大きな声でユーノくんの言葉を止めてしまった。

 涙が出そうになるのを堪えながら、わたしはぽかんとしているユーノくんへと声を掛ける。

 

「確かに、祐一お兄さんの行動には怪しかった点が多かったかもしれない。だけど、祐一お兄さんは、いつもわたしたちのことを考えてくれてたんだよ」

 

 わたしが魔導師として、ユーノくんの手伝いをしたいと言ったときも、祐一お兄さんはわたしの気持ちを汲んで、サポートに回ってくれた。フェイトちゃんとの戦いを邪魔しないのは、全部、わたしの気持ちを汲んでくれたから。

 

「――それに、わたし達を騙そうとするような人なら、フェイトちゃんが危ないことしようとしてても止めに入ってなかったと思うんだ。その方がわたし達を騙しやすいだろうし……でも、祐一お兄さんは助けに入った。……自分の体を犠牲にしてまで……そんな人が、わたし達を騙そうとしているなんて……わたしは信じない」

 

 少し息を吸い込み、目に溜まっていた涙を拭い、話を続ける。

 

「わたしは祐一お兄さんを信じてるから。……きっと、何か理由があるんだよ。それにフェイトちゃんだって、ジュエル・シードを集める理由があるはずなんだ」

 

 わたしは最後まで自分の率直な気持ちをユーノくんへと話した。なんだか、とっても楽になった気がする。

 

 ――自分の素直な気持ちを相手にぶつけてみろ。

 

 この言葉も祐一お兄さんがわたしに教えてくれたものだった。

 わたしが塞ぎこんでいた時期に、祐一お兄さんがわたしに言ってくれた言葉で、この言葉が今のわたしの心の在り方になっているといっても過言ではなかった。

 しばらく黙っていたユーノくんが、わたしの言葉を聞いて、何か思うところがあったのか、謝罪の言葉を述べてきた。

 

「ごめんね、なのは。少し考えすぎてたみたいだ。……駄目だな、僕は……」

 

「ううん、いいんだよ。わたしはあんまりそういうこと考えないから、ユーノくんが考えてくれないと困っちゃうしね」

 

「ありがとう、なのは」

 

 わたしの言葉にユーノくんはお礼を言いながら笑みを浮かべた。そんなユーノくんを見て、わたしも笑みを浮かべた。

 

「困ったときはお互い様だし。祐一お兄さんには今度会ったときに気持ちを聞こう」

 

「うん、そうだね」

 

 ユーノくんの返事を聞き、わたしは笑顔で頷いた。

 

 

 祐一お兄さんが何を考えているのかはわからないけど、わたしは自分のしたいことをする。

 

 だって、わたしは、祐一お兄さんを信じているから。

 

side out

 

 




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