魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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管理局介入

 時空管理局執務官である、クロノ・ハラオウンは自身よりも年下であろう二人の少女の戦闘を止めるため、間に割って入った。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ! 詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

 

 クロノは鋭い目付きで、フェイトとなのはを交互に見つめる。なのはは現状についてこれていないのか、呆然としているが、フェイトは僅かに焦った表情をしていた。

 そんな二人を交互に見つめ、警戒しつつ、クロノは口を開く。

 

「まず、二人とも武器を引くんだ。このまま戦闘行為を続けるなら……っ!?」

 

 と、そこまで言うと同時に、クロノ目掛けて魔力弾が放たれた。クロノは驚きつつも、瞬時に障壁を発生させ、それを防ぐ。

 

「フェイト! 撤退するよ、離れてっ!」

 

 アルフが叫ぶ。先ほど、魔力弾を放ったのはアルフであり、クロノの注意を引き、フェイトを助けるために放った攻撃であった。そして、それは功を奏し、フェイトの速度であれば余裕を持って、逃げられる隙を作った。――だが――、

 

「っ!」

 

「フェイトッ!?」

 

 フェイトは撤退するどころか、未だ誰の手にも渡っていなかったジュエル・シードへと向かっていった。

 ジュエル・シード探しが上手くいっていないと感じていたフェイトは焦っていた。プレシアが欲しているジュエル・シードを、早く届けたいという気持ちで頭の中が一杯になっていた。だからこそ、通常時では考えられない行動をフェイトは起したのだ。

 

(残念だが、少しの怪我は覚悟してもらおう)

 

 当然、クロノがそんなことをさせるはずもなく、自身のストレージデバイスである《S2U》に魔力を込め、フェイトへと狙いを定める。

 

(すまないな)

 

 クロノは心の中で謝りつつ、フェイトへと魔力弾を放った。クロノが放った魔力弾は、一直線にフェイトへと向かっていく。

 

「……っ!?」

 

 フェイトもそれに気付いたが、もはや時すでに遅く、障壁を張る暇もない。アルフもフェイトの元へ急ぐが、距離が離れているため間に合わない。なのはもクロノの攻撃を驚愕の表情で見つめていた。

 誰もがクロノの攻撃がフェイトへと当たると、そう思っていた。

 

 ――だが、フェイトへと当たる寸前に、クロノが放った魔力弾が掻き消え、それと同時に、フェイトを守るように漆黒のロングコートを羽織った青年が現れた。

 

(っ!? 何者だ、この男……)

 

 クロノが見つめる視線の先、黒衣の青年――黒沢祐一が佇んでいた。右手には、一本の長剣が握られており、色は紫を基調としたデザインで"騎士"が持っていそうな剣だと、クロノは思った。身長はクロノよりも、頭二つ分は高く、痩躯というわけではなく、その一挙手一投足からかなり鍛え上げられていると、クロノは感じた。

 そして、なによりクロノが感じたのが、黒衣の青年の圧力であった。

 

(――この男、"只者"じゃない)

 

 執務官となって、数多の魔導師と戦闘を行ってきたクロノは、目の前にいる黒衣の青年が只者でないことを、肌で感じ取っていた。

 相手の表情は黒いサングラスにより窺い知ることは出来ないが、クロノは祐一のプレッシャーから動くことが出来なかった。

 祐一はそんなクロノの心情を知ってか知らずか、フェイトへと声を掛けた。

 

「この状況でジュエル・シードを取りに行こうとするのは、愚策だぞ、フェイト」

 

「でも、あの、祐一……」

 

「言い訳は後だ。今回はもう撤退する。このまま管理局に包囲されては、脱出が困難になるからな」

 

「……うん。わかったよ」

 

 フェイトは祐一の言葉を聞き、僅かに悔しそうにしながらも頷き、アルフと撤退を始めようとする。

 

「待てっ! 逃げるようなら、相応の対応をさせてもらうぞ! 黙ってこちらの指示に従うんだ!」

 

 フェイトたちをここで逃がすわけにはいかないと、クロノはそう叫びながらデバイスを構え魔力を溜めていく。

 しかし、フェイトたちはクロノの言葉を無視し、撤退しようとする。そんなフェイトたちを見て、クロノは心の中で舌打ちし、相手の足を止めるために、魔力弾を放とうとする。……だが、

 

「っ!? 貴様っ!?」

 

 祐一が瞬時にクロノの目の前まで移動し、攻撃を仕掛けてきた。何とかぎりぎりのところでその攻撃をデバイスで受け止め、クロノは攻撃をしてきた相手へと叫ぶ。

 上段からの一撃をクロノはデバイスで受け止め、何とか止めてはいるものの、その重い一撃に驚きを隠せなかった。

 その隙に、祐一はフェイトへと叫ぶ。

 

「フェイト、行けっ!」

 

「ありがと、祐一! 先に戻ってるからっ! 待ってるからねっ! いこう、アルフ」

 

「あいよ!」

 

「ま、待て……っ!」

 

 クロノは祐一の背後にいるフェイトたちへと叫ぶが、叫び空しく、フェイトとアルフは転移魔法で消えてしまった。残っているのは、祐一、なのは、ユーノ、クロノの四人だけとなった。

 みすみす二人を逃がしてしまったクロノは悔しさを滲ませるが、今は目の前にいるこの黒衣の男をなんとかしなければならないと、意識を集中させる。

 

「くっ!? お前たちの目的はなんだっ!」

 

 祐一の攻撃を押し返しながら、クロノは叫ぶ。対して、祐一は特に顔色を変えることなく、淡々と言葉を口にした。

 

「――話すわけがないだろう? 管理局の執務官殿」

 

 祐一は騎士剣に力を込め、クロノを弾き飛ばす。

 弾き飛ばされたクロノは何とか体勢を整える。対する祐一は、少し離れたところで悠然と立ち、紫色の騎士剣を右手に持ち、特に構える風もなくクロノを見ていた。

 クロノはそんな祐一にデバイスを構えなおし、睨みつける。

 そんな二人の間に割ってはいるように、なのはが声を上げた。

 

「祐一お兄さんっ!」

 

「…………」

 

 なのはの声に、祐一は視線だけを動かす。そんな祐一に構わず、なのはは祐一へと話し掛ける。

 

「祐一お兄さん……どうして……」

 

 胸に手を当て、なのはが話す。祐一はサングラスを掛けているため、その表情は読めないが、何か考えているような感じでもあった。

 僅かに時間を置き、祐一は淡々と言葉を返す。

 

「――見てのとおりだ。俺はフェイトの味方をしている。……とある人物の願いでな」

 

「ある人の願い……?」

 

「ああ。今、俺から言えるのはそれくらいだ。……なのは、お前はこれからどうする?」

 

 祐一の言葉に、なのはが僅かに視線を伏せる。だが、すぐに顔を上げ、祐一へと言葉を返す。その瞳には、決意の炎が宿っているように見えた。

 

「――正直、まだ全然頭の中がぐちゃぐちゃで、考えがまとまってないんだ。……だけど、わたしは祐一お兄さんを信じてる。それに、フェイトちゃんとも、きっと分かり合えると思ってるから」

 

 そう笑顔で話すなのはに対し、祐一はしばらく黙っていたが、僅かに唇の端を持ち上げ、笑みを浮かべた。

 

「……そうか。その気持ち、大事にしろ」

 

 そう祐一が締めくくると、なのはに会話に割り込まれて呆けていたクロノが口を挟む。

 

「何か重要な話をしているところ悪いが……貴様、一体何者だ?」

 

「……どうせなのはに聞くだろうからな。俺の名前は黒沢祐一だ」

 

「クロサワ、ユウイチ? 先ほどとある人物の願いと言っていたが、どういうことだ?」

 

「言葉通りの意味だよ、執務官殿。目的はいろいろあるが、今はジュエル・シードを集めている」

 

「ジュエル・シードはロストロギアであり、管理局が管理するものだ。よって、それを無断で集めることも認められない。……こちらに協力してくれるか、大人しく投降してくれると助かるのだが……?」

 

「愚問だな。残念だが、そちらに協力する気もなければ、投降する気もない」

 

 祐一がそう言うと、クロノの視線がさらに鋭さを増し、二人の間に緊張感が走る。

 しばらくの間、二人は無言で睨み合っていたが、クロノが先に口を開いた。

 

「――なら、力ずくで拘束させてもらう! スティンガーレイ!」

 

 クロノは魔力弾を祐一目掛けて放つ。魔力を生成するスピードも早く、その錬度はフェイト以上であった。

 だが、祐一はクロノの攻撃を、即座に空中へと飛び上がることによって回避する。クロノも避けられると分かっていたのだろう。さらに生成した魔力弾を祐一へと目掛けて放ち続ける。

 そのような攻防がしばらく続いたが、クロノは僅かに焦りを覚えていた。

 

(当たらない……最小限の動きで、僕の攻撃を回避している)

 

 立て続けに祐一へと攻撃を仕掛けているものの、クロノの攻撃を祐一は最小限の動作でもって回避していき、自身に当たりそうになる魔力弾だけを、騎士剣で掻き消しているのだ。

 焦るクロノを他所に、祐一は回避を続けながら静かに呟いた。

 

「あまり時間を掛けているとフェイトが心配するのでな。そろそろ撤退させてもらう」

 

「っ!? なんだとっ!」

 

 祐一の言葉にクロノが激昂した瞬間、祐一の周りに魔力弾が展開される。クロノの攻撃を回避しながら、攻撃に転じるための魔力弾を準備していたのだ。その数、十。

 

「フレイムシューター」

 

「くっ!?」

 

 祐一の魔力弾がクロノへと迫る。数は十とそこまでの数ではないものの、上手く制御されており、クロノの逃げ場がなくなるように放たれていた。

 また、僅かに祐一の挑発に乗ってしまったことも、クロノの対処が遅れた原因となっており、全てを回避することは出来ないと、瞬時にクロノは悟った。

 

「ちぃっ!」

 

 しかし、クロノも管理局執務官。瞬時に魔力弾を生成し、ばらまき魔力弾を相殺する。だが、いくつかは相殺できず、クロノへと迫ってくる。こちらの攻撃に対して、クロノは障壁を張って防いだ。――だが――、

 

「――今の攻撃を防ぐとは、流石は執務官と言ったところか」

 

 その声はクロノの背後から聞こえてきた。

 まずい、と心の中で思い、クロノは振り返りながら障壁を展開する。

 

「業炎――」

 

 振り返るクロノの視線の先、黒衣の青年がそう呟きながら、上段に騎士剣を構えていた。その刀身には紅蓮の炎を纏っている。

 

「一閃っ!」

 

 クロノは自身のデバイスでその攻撃を受け止めるが、

 

(くっ、駄目だっ! 押し切られるっ!?)

 

 祐一の攻撃を押し留めることができず、クロノはその衝撃で吹き飛ばされた。

 

(く、そ……)

 

 吹き飛ばされながらも、クロノは黒衣の青年から目を逸らさなかった。

 

(次は、絶対、負けない……)

 

 そう心に決め、クロノは吹き飛ばされた勢いそのままに、その体を海中へと叩きつけられた。

 

 

 

 巡行艦《アースラ》の艦長である、リンディ・ハラオウンは、息子であるクロノの戦闘をモニター越しにじっと見つめていた。

 

(――まさか、クロノが相手を取り逃がしてしまうなんてね)

 

 リンディはふっと息を吐き、椅子に深く腰を掛ける。息子のクロノが心配で、身を乗り出していたようだ。視線の先には、海中に吹き飛ばされたクロノと持っていた騎士剣を仕舞い、撤退していく黒衣の青年の姿が映し出されていた。

 他の局員たちも、そのモニターを呆然と見つめていた。

 

(執務官であるクロノが負けるなんて、誰も想像していなかったのでしょうね。……かくいう、私もその一人なのだけど)

 

 執務官であり、優秀な魔導師である息子が負けるなど、リンディは思っていなかったし、そのことはショックであるが、それを表情に出すわけにはいかないと、気を引き締め直す。

 

「――戦闘行為は停止。捜索者の一人である少女と、その使い魔は逃走。……クロノ・ハラオウン執務官と交戦した《黒衣の青年》も、逃走しました」

 

「それらの追跡は?」

 

「どちらも多重転移で逃走しています。……追いきれません」

 

「そう。……まぁ、戦闘行動は停止、ロストロギアの確保も終了したのだから、今回はよしとしましょう」

 

 リンディが笑みを浮かべると、緊張していた場の空気が軽くなった。

 モニターを見ると、海中に吹き飛ばされていたクロノが上がってきているのが目に入り、リンディは人知れず、ほっと息を吐いた。

 リンディは視線を移し、同じようにモニターを見ていた、クロノとは幼馴染で時空管理局通信主任兼執務官補佐の《エイミィ・リミエッター》も同じように、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 

「皆、とりあえずお疲れ様。おそらく何もないでしょうけど、このまま周囲の警戒をお願いね」

 

「了解しました」

 

 リンディは局員へと頷きを返すと、すぐに通信をクロノへと繋いだ。

 

「クロノ、お疲れ様」

 

『……すみません艦長……逃がしてしまいました』

 

 クロノが悔しそうに歯噛みする。そんなクロノにリンディは笑顔で安心させるように、言葉を返した。

 

「大丈夫よ。とりあえず話を聞きたいから、そっちの子たちをアースラまで案内してあげてくれるかしら?」

 

『了解です。すぐに戻ります』

 

 クロノがそう言うと、通信は終了し画面が消えた。

 そんなクロノの態度に笑みを浮かべながら、リンディは先ほどの戦闘のことを思い出していた。

 

(クロノを退けられるほどの魔導師、か。……厄介な相手ね)

 

 紫色の長大な騎士剣を持った黒衣の青年。サングラスで表情を隠していたため、顔はわからなかったが、リンディは僅かに頭に引っかかるものを感じていた。

 

(あの青年、確か黒沢祐一と名乗っていたわね。……どこかで聞いたことがあるような気がするのだけど……)

 

 う~ん、と顎に手を当て考えるが、すぐに思い出せなかった。

 

(まぁ、そのうち思い出せるでしょう)

 

 ひとまず思考を停止し、リンディはクロノがつれてくるであろう子たちに会って事情を聞くために席を立つ。

 

「じゃあ、とりあえず後は任せるわね。私はクロノが連れてくる子達に事情を聞きに行くから」

 

「はい、了解です」

 

「お願いね~」

 

 代表して返事をしたエイミィに、笑顔で手を振りながらリンディはブリッジを出て行く。

 そして、扉を出て一人になったところで呟く。

 

「さて、あの子達はどういう理由でロストロギアを集めているのかしらね。それに、もう一人の子の目的とかも聞けたら嬉しいのだけど」

 

 全ては話を聞いてからね、とリンディは呟き、クロノが待つ部屋へと歩みを進めた。

 

 




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