お待たせしてしまったのに、短いです。
次元航行艦船《アースラ》内部を二人の少年、少女と一匹の動物が歩いていた。
先頭を歩くのは、時空管理局執務官を務めるクロノ・ハラオウン。その後ろを歩いているのが、白いバリアジャケットを身に纏った少女――高町なのはである。隣には、彼女の友人でもあり、魔法の師でもあるユーノ・スクライアがいた。
なのはは艦内が珍しいのか、辺りをキョロキョロと見回している。
『ユーノくん、ここがその管理局の人たちの……?』
『うん。時空管理局の次元航行艦船の中だね』
念話で話すなのはの質問にユーノが答え、なのははへぇ~と頷きを返した。
「ああ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう? バリアジャケットとデバイスは解除して平気だよ」
「あ、そっか。それじゃあ……」
思い出したように話すクロノへと答えながら、なのははバリアジャケットを解除する。すると、クロノはユーノにも声を掛ける。
「君も元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」
「あ、そういえばそうですね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」
「うん……?」
クロノとユーノが言っていることがわからず、なのはは一人首を傾げていると、なのはの目の前で驚くべき光景が広がった。
いつものフェレット姿のユーノの体が光り輝いたと思ったら、なのはの目の前には"知らない少年"が現れたのだ。
なのはが驚いて声を出せないでいると、その少年はそんななのはには気付かず、普通に声を掛ける。
「なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな……?」
「……え? ……ふぇぇぇぇ!?」
少年の声といつものフェレットの姿がなくなったことから、その少年がユーノ・スクライアだということに気付いたなのはは、思わず変な声を上げてしまった。そんななのはを見て、ユーノは首を傾げていた。
「ゆゆ、ユーノくんって、男の子だったのっ!?」
「……あ、あれ? なのはに初めて会ったときって、この姿じゃなかったっけ?」
「ちち、違う違う! 最初からフェレットだったよ~!」
「……ああっ!? そうだった!」
「だよね! だよね!」
なのはの言葉に、ユーノは思い出すようにしばらく考えていたが、合点が言ったのか、慌てながらなのはの言葉に同意を示した。
二人が思わぬ形で盛り上がっていると、クロノが割ってはいる形で声を上げる。
「あ~その、ちょっといいか? 君たちの事情はよく知らないが、艦長を待たせているので、出来れば早めに話を聞きたいんだが?」
「あ、は、はい」
「す、すみません」
なのはとユーノは、ハッとした後、申し訳なさそうに頭を下げた。なのはは取り乱した姿を見られたことが恥ずかしかったのか、僅かに頬を赤く染めていた。
「では、こちらへ」
先陣を切る形でクロノが歩き出し、今度はなのはとユーノは黙って着いて行った。
「――艦長、来てもらいました」
クロノは目的の部屋へと着くと、一言声を掛け、扉を開いた。そこには、優しそうに笑みを浮かべた一人の女性が座っていた。年齢は判断がつかないが、自身の母親である高町桃子と同い年ぐらいかな? と、なのはは思った。
「お疲れ様。まぁお二人とも、どうぞどうぞ。楽にして」
予想していたよりも友好的な対応であったため、なのははホッと胸を撫で下ろし、進められた場所へ座った。
「どうぞ」
「あ、は、はい……」
そこへ、クロノが手馴れた手付きで羊羹とお茶を出してきた。手馴れた手付きでそれを行っているクロノに、なのはは僅かに苦笑する。
そして、僅かに緊張から開放されたなのはは、あまり気にしていなかった部屋を見渡した。
(……なんで、こんなに和風なんだろ……?)
なのはが見渡した部屋の造りが、日本のものと酷似していたことから、なのははそう思いながら僅かに首を傾げた。
そんななのはの思いを知ってか、知らずか、対面に座っているリンディはにこにこと笑みを浮かべていた。
「まずは自己紹介ね。私がこのアースラの艦長のリンディ・ハラオウンです。そこのクロノの母親になるわね」
「えっと、高町なのはって言います」
「ユーノ・スクライアです」
「高町なのはさんとユーノ・スクライアくんね」
自己紹介から始まり、なのはとユーノはこれまでの経緯をリンディとクロノへと話し始めた。
そして、二人からの経緯を聞いたリンディは少し息を吐いた。
「そうですか。……あのロストロギア、《ジュエル・シード》を発掘したのはあなただったんですね」
「……はい。それで、僕が回収しようと……」
リンディの言葉にユーノが申し訳なさそうに顔を伏せる。
「その考えは立派だわ」
「だけど、同時に無謀でもある」
リンディは変わらない笑顔でユーノを賞賛する。だが、クロノは真剣な表情で腕を組み、厳しい口調でそう言い放った。
そんなクロノの言葉を聞き、ユーノは僅かに悔しさを滲ませる。
そんなユーノを横目で見つつ、なのはは話題を変えるために、リンディへと話し掛けた。
「あの、ロストロギアって、何なんですか?」
「遺失世界の遺産。……って言ってもわからないわね」
なのはの質問にリンディは丁寧に答えていく。
説明によると、ロストロギアとは過去に何らかの要因で消失した世界。もしくは滅んだ古代文明で造られた遺産の総称である、ということを、なのはは完璧でないまでも理解した。
なのはが考えていると、クロノが口を開く。
「使用法は不明だが、使いようによっては世界どころか、次元空間さえ滅ぼすほどの力を持つことになる危険な技術……」
「然るべき手続きを持って、然るべき場所に保管されていないといけない代物。……あなたたちが探しているロストロギア、ジュエル・シードは次元干渉型のエネルギー結晶体。いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合、次元断層さえ巻き起こす危険物……」
「君とあの黒衣の魔導師――金髪の少女がぶつかったときに起こった振動と爆発。あれが次元震だよ」
その言葉を聞き、なのはは背筋が凍えたように感じた。
確かに、あのときの衝撃はすさまじいものであったが、なのははそこまでのものとは思ってもいなかった。
なのはは自身の浅はかな考えに悔しさを滲ませ、それと同時に、フェイトと祐一はなぜジュエル・シードを狙っているのかが気に掛かった。
思い出すのは、悲しい瞳をした金髪の少女とそれを守るかのように立ち塞がった黒衣の青年の姿だった。
なのはが思考に没頭していると、リンディが話を締めくくる。
「――そんなことが起こらないために、私たち管理局がいるのよ。過ちは繰り返してはいけないの」
リンディはそう言うと、少しお茶を飲み、なのはとユーノへと静かに告げる。
「これよりロストロギア、ジュエル・シードの回収については、時空管理局全権を持ちます」
「「え……?」」
リンディの言葉になのはとユーノの二人は唖然となる。
そこに畳み掛けるように、クロノが静かに話す。
「君たちは今回のことは忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」
「でも、そんな……」
「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」
そう冷たく言い放つクロノではあるが、その言葉も一理ある。なのははあくまで一般人であり、今まで魔法など知りもしなかった。そのため、その道のプロフェッショナルである管理局に任せた方がいいのかもしれないと、なのははそう感じてもいた。
だが、客観的にそれがいいと思われても、なのはは納得できなかった。
「まぁ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて二人で話し合って、それからゆっくり話をしましょう?」
なのはの心情を察したのか、リンディが手を合わせながら言う。
「送っていこう。元の場所でいいね?」
「……はい……」
なのははそう頷くのが精一杯で、クロノに言われるがまま、気持ちの整理がつかないまま、海鳴へと戻っていった。
なのは達が帰った後、クロノと一人の少女がアースラのブリッジで戦闘記録の調査を行っていた。
「すごいや。どっちもAAAクラスの魔導師だよ」
「ああ」
「こっちの白い服の子は、クロノくんの好みっぽい可愛い子だし」
「え、エイミィ、そんなことはどうでもいいんだよ」
エイミィとクロノに呼ばれた少女は、いたずらが成功したのが嬉しかったのか、面白そうに笑っていた。
この少女の名は、エイミィ・リミエッタと言い、時空管理局通信主任兼執務官補佐という役職に付いている。クロノとは学生時代からの友人であり、公私に渡って彼をサポートする良きパートナーである。
「この二人は、魔力だけならクロノくんを上回っちゃってるねぇ~」
そうニヤニヤしながら話すエイミィに、僅かにむっとした表情でクロノが抗議する。
「魔法は魔力値の大きさだけじゃない。状況に合わせた応用力と的確に使用できる判断力だろ。……だから、悔しいが僕はあの男を取り逃がしてしまったんだ……」
「……クロノくん」
クロノは悔しそうに表情を歪めた。エイミィはそんなクロノを心配そうに見つめる。
そんな少し空気が重たくなったとき、アースラの艦長であるリンディ・ハラオウンが扉を開けてブリッジへと入ってきた。その格好はすでに制服ではなく、業務時間外のためか私服であった。
「あ、艦長……」
それに気付いたクロノがリンディの方を向くと、リンディも笑顔で答え、そのままクロノの横で同じようにモニターを見つめる。
「ああ、三人のデータね?」
「はい」
リンディの問いかけにクロノが答えると、リンディは厳しい表情でモニターを見つめながら、静かに呟く。
「確かに、凄い子たちね」
「これだけの魔力がロストロギアに注ぎ込まれたら、次元震が起きるのも頷ける」
「あの子たち、なのはさんとユーノくんがジュエル・シードを集めている理由はわかったけど……こっちの黒い服の子は何でなのかしらね? それに……」
リンディが言った黒い子――フェイトから映像が切り変わり、全身を黒衣のバリアジャケットに身を包んだ長身の青年がフェイトを守るように仁王立ちした姿が映し出された。
「この《黒衣の青年》――黒沢祐一だったかしら? この青年の目的もわからないわね。黒い服の子の味方ではあるようだけれど」
リンディはそう言いながら、顎に手を当てる。映像が変わり、クロノとの戦闘記録が映し出された。
「名前は黒沢祐一で年齢は一八才。最近、なのはちゃんが住んでいる海鳴に来たみたいですが、詳しい詳細は不明です」
少し息を吐き、エイミィは話を続ける。
「デバイスは長剣型の珍しいものを使用しています。また、魔力変換資質《炎熱》を有しており、魔力値はAランク相当と推定されています。……ですが、先の戦闘ではクロノくんを圧倒する力量を持っていることから、かなりの要注意人物だと思われます」
映像がさらに進み、祐一が剣に炎を纏わせてクロノに切りつけ吹き飛ばしたシーンが映し出される。それを見ながら、悔しそうにクロノは映像をじっと見つめていた。
そして、そのクロノの横でリンディは少し眉間に皺を寄せ呟いた。
「……この黒沢祐一という青年、どこかで聞いた名前な気がするんだけど……」
「そうなんですか? じゃあ、ちょっといろいろと調べてみましょうか?」
「……そうね。お願いね」
「了解で~す!」
元気良く返事をするエイミィにリンディは笑顔を見せる。
「どりあえず、まだわからないことだらけだけど、あちらもジュエル・シードを探している以上、必ず私たちとぶつかるでしょう。それに向けて私たちも最善を尽くしましょう」
リンディの言葉にエイミィとクロノは静かに頷いた。
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