魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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投降します。
遅くなって申し訳ありません。

では、どうぞ。


海上決戦(後編)

 祐一、フェイト、アルフの三人はジュエル・シードの封印に手間取っていた。その最大の理由はジュエル・シードの位置を特定するために、フェイトの魔力を大量に消費してしまったためであった。それと、ジュエル・シードの数が六個とかなり多いことも理由の一つであった。

 

(――このままじゃあ、いつまで経ってもジュエル・シードの封印ができない)

 

 フェイトはジュエル・シードの攻撃を回避しながら、焦りを募らせる。

 

(祐一がいてくれるおかげで危ないことはあまりないけど、それでも――)

 

 フェイトが見つめる視線の先には、紫色の長剣を振るいジュエル・シードの攻撃をいなしている祐一の姿があった。その表情には焦りの色など全くなく、落ち着いたいつもの表情である。

 そんな祐一を頼もしく思う一方、

 

(わたしを守りながら戦ってくれている祐一に、これ以上負担は掛けられない)

 

 これ以上、祐一に負担を掛けることをフェイトはよしとしなかった。

 だが、自身の魔力も底を尽きそうな状態で現状を打開する策など、すぐに思いつくはずもなく、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 ――そんなときだった。

 

(この魔力反応は――)

 

 空から膨大な魔力を感じ取り、フェイトは戦闘中であることも忘れ空を見上げた。その視線の先、遥か上空から白いバリアジャケットを纏った一人の少女――高町なのはが舞い降りた。

 空を覆っていた雲の間から太陽の光が降り注ぐその光景は、なのはの来訪を祝福しているかのようであった。

 フェイトはそんななのはの姿をじっと見つめていた。

 

(また、あの子だ。あの子が来たということは、すぐに管理局もやってくる。その前になんとかしないと……)

 

 そうフェイトが考えていると、その考えが伝播したのか、突如、アルフがなのはの方へと突進していった。

 

「フェイトの邪魔をするなーー!」

 

 アルフの突撃になのはは僅かに驚いた表情となるが、その間に割って入った少年の姿があった。

 

「違う! 僕たちは君たちと戦いにきたんじゃないっ!」

 

 少年――ユーノ・スクライアがアルフの攻撃を防御しながら叫ぶ。

 

「まずはジュエル・シードを停止させないと不味いことになる! だから今は封印のサポートを!」

 

 ユーノは襲い掛かってきたアルフを無視し、魔法陣を展開すると、ジュエル・シードをバインドによって抑え始める。

 その姿を見たアルフは呆然としていた。

 

(どういうこと……?)

 

 アルフと同じようにフェイトも困惑の表情を浮かべていた。そんなフェイトになのはが近づいてくる。

 

「フェイトちゃん、手伝って! ジュエル・シードを止めよう!」

 

 なのははフェイトにそう話すと、レイジングハートをフェイトの方へと向ける。すると、レイジングハートから桃色の光が飛び出し、フェイトの身体を包んでいく。

 

「……どうして……?」

 

 フェイトは驚いた表情でなのはを見つめる。

 それもそのはず、先ほどの桃色の光はなのはの魔力であり、なのははそれをフェイトへと分け与えたのだ。今、フェイトの魔力は約半分くらいは回復していた。

 

 ――その相手の行動がフェイトには信じられなかった。

 

 フェイトが驚きの余り動けないでいると、近くからなのはとは違う人物の声が聞こえてきた。

 

「――実に、なのはらしいな」

 

「……祐一?」

 

 フェイトが声のした方へ視線を向けると、そこには漆黒衣装に身を包んだ青年――黒沢祐一が僅かに笑みを浮かべた表情でそこにいた。

 

「祐一お兄さんっ!」

 

「ああ」

 

 祐一の姿を見つけると、なのははぱっと花が咲いたような笑顔を見せる。祐一も言葉少なではあるものの、なのはへと言葉を返す。それだけの応対であるはずなのに、なのははまるで全部分かっているかのように、静かに頷きを返した。

 フェイトはそんな二人のやり取りを見て、僅かに心がもやっとしたものを感じた。

 だが、そんなフェイトの気持ちには気付かず、なのはは続けて祐一へと話し掛ける。

 

「祐一お兄さんも、手伝ってくれる?」

 

「さて、な。フェイト次第というところだが……管理局の方はいいのか?」

 

「うん。後でちゃんと怒られてくるから」

 

「そうか。……なら、俺からは何も言うことはない」

 

 なのはの言葉に祐一は静かに頷き、フェイトへと視線を向ける。フェイトも同じように祐一へと視線を向けたが、言葉は何も返ってはこなかった。

 

「二人できっちり半分こ――」

 

 フェイトははっとなり、視線をなのはへと戻す。そこには優しく微笑むなのはの姿があった。

 

(……なんで、そんな表情ができるんだろう。それに、ジュエル・シードを半分ずつ分けるなんて……"なんで"……?)

 

 なのはの言葉にフェイトは困惑する一方であった。

 しかし、なのははそれに構わず話を続ける。

 

「今、ユーノくんとアルフさんが止めてくれてる。だから、今のうちにっ!」

 

 フェイトがその言葉に視線を巡らせると、そこにはユーノと同じようにバインドでジュエル・シードの動きを止めようとしているアルフの姿があった。

 

(アルフは、この子たちといっしょにやるって決めたんだ……きっと、それがわたしのためになるからって……)

 

 アルフの優しさにフェイトは心が温かくなるのを感じる。だが、それでも、なのはたちと協力するべきか、フェイトは未だに悩んでいた。

 

「二人でせ~ので、一気に封印!」

 

 なのははフェイトが悩んでいることも気にせず、そう言い放つと飛翔し、レイジングハートをシューティングモードへと移行しながらジュエル・シードの攻撃を回避しつつ砲撃が可能なポイントへと移動していく。

 フェイトはそんななのはの姿を黙って見つめていた。

 

「フェイト」

 

 そんなフェイトに声を掛ける人物がいた。

 

「……祐一」

 

 声を掛けてきた祐一をフェイトは困惑した瞳で見つめる。

 そして、フェイトはしばらく逡巡すると、祐一へと声を掛ける。

 

「……わたし、どうすればいいのかな……?」

 

 そう問い掛けるフェイトの視線には、なのはに対する困惑ととまどいが感じられた。

 そんなフェイトを祐一は表情を変えることなく見つめる。

 

「それは俺が決めることではない。――お前はどうしたいんだ、フェイト」

 

「わたしは……」

 

 祐一はそうフェイトの質問を一蹴し、逆にフェイトへと問い掛ける。

 祐一が何か言ってくれると思っていたフェイトは、その返答に顔を俯かせてしまう。

 ――そう、フェイトが悩んでいるときだった。

 

『Sealing form set up』

 

「バルディッシュ……?」

 

 声を上げたのは、フェイトのデバイスであり、相棒でもあるバルディッシュであった。まるで、悩んでいるフェイトの背中を押すかのように、シーリングフォームへと形を変化させる。

 そんなバルディッシュをフェイトは驚いた表情で見つめていた。

 

(……そうだ、悩む必要なんてない。わたしのやるべきことは、たった一つだ)

 

 そう決意を固めたフェイトは、巨大な魔法陣を展開し、ジュエル・シードを封印する体勢に入る。

 同じように、フェイトから離れていたなのはも封印の体勢に入った。

 

「……そうだ。それでいい。――その気持ちを、忘れるな」

 

「……?」

 

 祐一が呟いた言葉は虚空へと消え、フェイトへは届かなかった。フェイトは小首を傾げ、祐一を見つめるが、すぐにそんなことを考えている場合ではないと思い、ジュエル・シードの封印へと集中する。

 

(あの白い魔導師の女の子が分けてくれた魔力。――無駄にはしない!)

 

 フェイトはバルディッシュを上空へと掲げ、なのはから分け与えられた魔力を込めていく。

 同じようになのはもレイジングハートに魔力を込め、砲撃の姿勢を取る。

 

 ――そして、二人の準備が整った。

 

「せぇ~のっ!」

 

 なのはがレイジングハートを持つ手に力を込めながら叫ぶ。

 

「サンダー……」

 

 フェイトの静かだが力強い声が聞こえると、バルディッシュがバチバチと電気を帯び始め、

 

「ディバイィィン……」

 

 なのはもレイジングハートの先端に膨大な魔力を集め、

 

「レイジーーーー!!」

 

「バスターーーー!!」

 

 二人の叫びにも似た声が重なり、互いにジュエル・シード目掛けて、攻撃魔法を放った。それは、六個もあったジュエル・シードを簡単に封印できるほどの威力であった。

 

 ――ジュエル・シードの封印は無事完了した。

 

(――これがフェイトとなのはの力、か。――末恐ろしいな)

 

 祐一は二人から少し離れた位置でそんなことを考えていた。祐一が思っていることはもっともで、小学三年生がここまでの力を振るっていることが異常なのだ。

 

(そんなこと今はどうでもいいか。何はともあれ、これでジュエル・シードの封印も完了した。あとは……)

 

 祐一が向けた視線の先では、フェイトとなのはが何か話をしていた。なのはは真剣な表情で、フェイトはまだ僅かに困惑しているようであった。

 

「――わたしは、フェイトちゃんといろんなことを話し合って、分かり合いたい」

 

 聞こえてきたのはなのはの声。優しく包み込んでくれるような、そんな声であった。

 そして、なのはは一旦話を止め、一度大きく息を吸い込み続きを話す。

 

「――フェイトちゃんと、友達になりたいんだ」

 

 そんななのはの言葉に、フェイトは驚いたように目を見開いていた。まさか、今まで戦っていた相手にそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。

 なのははただ、フェイトと友達になりたいだけなのだ。確かに、ジュエル・シードのことやフェイトの事情もあるが、なのはは自分自身の意思でフェイトの友達になりたいと願ったのだ。

 その一本気な想いこそ、高町なのはという少女の力の源であった。

 

(――実になのはらしいな)

 

 祐一の顔には自然と笑みが浮かぶ。

 しかし、すぐ祐一は表情を引き締め、"次の作戦"へと思考を切り替える。

 

(――さて、ここからが本番だ。上手くやらねばな)

 

 祐一はそう思考すると、次なる作戦のために行動を開始した。

 

 

 

 ――フェイトとなのはがジュエル・シードの封印に成功し、話をしているとき、アースラでは警報が鳴り響いていた。

 

「次元干渉!? 別次元から本艦および戦闘区域に向けて、魔力攻撃きますっ! ……あ、あと六秒!!」

 

「な……っ!?」

 

 いち早く状況を把握したエイミィが叫び、その言葉にクロノが驚愕すると同時に、アースラは何者かの魔力攻撃によって、激しく振動した。

 一般局員が慌てふためいている中、クロノはすぐに体勢を整え転送ポートへと走る。

 

「くっ……なのはたちの方も心配だ。僕もあちらに向かいます!」

 

「わかったわ。こちらは任せてっ!」

 

「了解!」

 

 リンディの言葉に言葉を返すと同時に、クロノはなのはたちの下へと転移した。

 

 

 

 ――そして、同じようにフェイトたちの方にも次元干渉の魔力攻撃が迫っていた。

 空には曇天の雲が見えており、紫色の雷が鳴り響いている。

 

「か、母さん……」

 

 その攻撃を見て、フェイトは空を見上げ呆然と呟く。その表情には、驚きと怯えが浮かんでいた。

 ――そして、次元干渉の魔力攻撃がフェイトを襲った。

 

「う、うぁぁぁぁ!?」

 

 紫の魔力が雷のように、フェイトもろとも周囲へと降り注いだ。

 

「フェイトちゃんっ!?」

 

 なのはも名前を叫びながら、フェイトの下へと向かおうとするが、魔力攻撃の余波で上手く接近できないでいた。

 

「っ!」

 

 すると、アルフがこの混乱している中、ジュエル・シードの奪取に向かう。フェイトを心配する気持ちもあったが、このままでは今回の全てが無駄になってしまうと感じたのだ。

 

(もう少し……っ!?)

 

 アルフの手があと僅かでジュエル・シードへと届きそうだったそのとき、アースラから転移してきたクロノにあと一歩のところで阻まれた。

 アルフはジュエル・シードの捕獲を邪魔をするクロノを憎しみが篭った瞳で見つめる。

 

「邪魔、すんなぁーー!」

 

「くっ!?」

 

 アルフはクロノのデバイスを掴み、力任せにクロノごと海へと投げる。フェイトを想う気持ちが、アルフに力を与えているようであった。

 アルフはクロノが飛んでいった方向を少し見た後、ジュエル・シードへと視線を向ける。

 

「三個しかないっ!?」

 

 ハッとしたアルフは、先ほど投げ飛ばしたクロノへと再度視線を向ける。そこには、海へと投げ飛ばされた影響で濡れてはいたものの、体勢を立て直したクロノがいた。

 そして、その手には残り三個のジュエル・シードが握られていた。

 

「――下手を打ったな、アルフ」

 

「祐一!?」

 

 アルフが声のした方へと視線を向けると、そこには気絶したフェイトを抱きかかえた祐一の姿があった。

 フェイトは気絶はしているものの、魔力攻撃による外傷はほとんどなく、本当に気絶しているだけのようであり、アルフはホッと一息ついた。

 

「今回は仕方ない。撤退するぞ、アルフ」

 

「っ!? ……わかったよ」

 

 祐一の言葉に、アルフは悔しそうに言葉を返す。

 そして、祐一たちが撤退しようとしたとき、

 

「逃がすと思うかっ!」

 

 それに感づいたクロノが魔力弾を放とうとデバイスを構える。――だが、

 

「フレイムランサー」

 

 それより早く、祐一は魔力を生成し、魔力弾を海へと打ち込む。すると、海水が大きく跳ね上がり、祐一たちの姿をクロノ視界から消した。

 

「くっ!?」

 

 クロノは慌てて魔力弾を放つ。だが、視界を塞がれた状態では当たる筈もなく、跳ね上がった海水がなくなったとき、そこには祐一たちの姿はなかった。

 辺りを見回してみても祐一たちの姿がなかったため、クロノは悔しげに表情を歪める。

 

「フェイトちゃん……祐一お兄さん……」

 

 なのはは祐一たちがいた場所を見つめながら、そう静かに呟いた。

 

 ――その表情は悲しみに歪んでいた。

 

 




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