魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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思い違い

side 高町なのは

 

 祐一お兄さんとフェイトちゃんたちがいなくなって、わたしとユーノくんはアースラへと戻った。今はリンディさんからブリーフィングルームに来るように言われたので、そこへ向かっている最中である。

 

(……フェイトちゃん……大丈夫かな……?)

 

 わたしはアースラに戻ってからも、フェイトちゃんのことばかり考えていた。

 あの時、魔力攻撃を受け、フェイトちゃんは海へと落ちていった。だけど、海に落ちる前に祐一お兄さんがフェイトちゃんを助けていたのが見えたから、おそらく大丈夫だろうと想っている。

 

(誰が、何のためにあの攻撃を行ったんだろう)

 

 わたしはそのことをずっと考えていたけど、結局答えはでなかった。

 

(祐一お兄さんは、きっと全部知ってるんだろうな……)

 

 頭の中に思い浮かべるのは、漆黒のロングコートを身に纏った祐一お兄さんの姿。

 

(次に会ったら、祐一お兄さんに全て話してもらおう)

 

 わたしはそう結論付け、思考を止め、早足でブリーフィングルームへと向かった。

 

 

「――指示や命令を守るのは、個人のみならず、集団を守るためのルールです。勝手な判断や行動があなたたちだけでなく、周囲の人たちを危険に巻き込んだかもしれないということ、それはわかりますね?」

 

「「……はい……」」

 

 リンディさんの言葉に、わたしとユーノくんは頭を垂れる。

 今、わたしとユーノくんは命令違反をしたことに対して、リンディさんからお叱りを受けている。

 いつものニコニコと笑みを浮かべているリンディさんの姿はなく、厳しい表情でわたしとユーノくんに話をするリンディさんは、やっぱり提督なんだなと思わせる。

 わたしがそんなことを考えていると、リンディさんがふぅと息を吐いた。

 

「本来なら厳罰に処すところですが、結果として得るところがいくつかありました。……よって、今回のことについては不問とします」

 

 リンディさんの言葉にわたしは顔を上げ、隣にいるユーノくんの方を見る。ユーノくんは今回の件が不問になることが意外だったのか、少しだけ驚いた表情をしていた。

 わたしも今回の件が不問になったことは意外だったので、ユーノくんと同じく驚いていた。

 そんなわたしたちの反応に気付いたのか、リンディさんが釘を指してきた。

 

「――ただし、二度目はありませんよ? いいですね?」

 

「はい……」

 

「すみませんでした……」

 

 わたしとユーノくんは謝りながら、揃って頭を下げる。

 リンディさんもわたしとユーノくんが反省していることがわかったのか、厳しかった表情を緩めた。

 

「さて、問題はこれからね。――クロノ、事件の大元について何か心当たりは?」

 

「はい。エイミィ、モニターに」

 

『はいはぁ~い』

 

 これまで黙って壁に背を預けた姿勢で傍観していたクロノくんが、リンディさんの言葉に答え、ブリッジからモニター越しにこちらを見ていたエイミィさんへと声を掛ける。それにエイミィさんはいつものように、軽く返事をする。

 しばらくすると、エイミィさんがこちらが見えるようにモニターを展開した。

 

「あら……?」

 

「そう。僕らと同じ、ミッドチルダ出身の魔導師――《プレシア・テスタロッサ》――」

 

 モニターに映し出された人を見ながら、クロノくんが話を始めた。

 

(プレシア・テスタロッサ。……この人が、今回の事件の首謀者……)

 

 わたしはプレシア・テスタロッサと呼ばれた女性をじっと見つめていると、自然と握った手に力が入る。

 

「偉大な魔導師でしたが、違法な研究と実験で放逐された人物です。登録データから先ほどの魔力波導と一致しています」

 

 一旦言葉を切り、クロノくんがこちらを気にするようにちらっと視線を向けてくる。

 そんなクロノくんの行動を察したわたしは、静かに頷きを返した。

 そして、少し言い辛そうにしながらクロノくんが話を進め始める。

 

「……あの少女――フェイト・テスタロッサはおそらく――」

 

「――フェイトちゃんも、あのとき母さんって言ってました」

 

「親子、ね」

 

 クロノくんとわたしの言葉を聞き、リンディさんは悲しい表情で呟いた。

 

「エイミィ、プレシア女史について、もう少し詳しいデータを出せる?」

 

『はいはい。すぐに探します』

 

 エイミィさんはいつものように返事をした後、モニターの画面が消えた。プレシアさんに関するデータを探し始めたようだ。

 その間、わたしはこのプレシアさんとフェイトちゃんのことを考えていた。

 

(このプレシアさんが、フェイトちゃんのお母さん。……じゃあ、なんであのとき、フェイトちゃんはあんな悲しい表情でお母さんって言ってたんだろう……? それに、なんでフェイトちゃんに魔力攻撃を……)

 

 そう考えるが、やっぱりわからないことだらけだった。

 しばらく思考に没頭していると、資料を集め終えたエイミィさんがブリーフィングルームへとやってきた。

 

「ではエイミィ、説明をお願いできるかしら?」

 

「はいはい」

 

 リンディさんの言葉に返事をすると、エイミィさんは表情を引き締め話を始めた。

 

「プレシア・テスタロッサ――ミッドの歴史で二六年前は中央技術開発局の第三局長でしたが、当時、彼女が担当していた実験が失敗。結果的に中規模次元震を引き起こす結果となったため、中央を追われ地方へと左遷されました」

 

 エイミィさんはそこで少し息を吐き、話を続ける。

 

「それからも結構揉めたみたいですけど、結局その後、プレシア・テスタロッサは行方を暗ましています」

 

「行方不明になるまでの行動はわからないの?」

 

「その辺のデータは綺麗さっぱり抹消されちゃってます。今、本局に問い合わせて調べてもらってますので」

 

「時間はどれくらい?」

 

「一両日中には……」

 

 リンディさんは少し考える仕草をすると、考えがまとまったのか話を始めた。

 

「プレシア女史もフェイトちゃんも、あれほどの魔力を放出した後ではしばらく動けないでしょう。……問題はもう一人の人物ね」

 

「――黒衣の男――黒沢祐一ですか」

 

 リンディさんの言葉にクロノくんが小さく、それでいてはっきりと聞き取れる声で呟いた。リンディさんはクロノくんの言葉に静かに頷いた。

 

「そうね。現状から考えるに、一番の強敵なのは間違いないわね。……それで、エイミィ。少しは彼の情報は集まったかしら?」

 

「少しだけですけど、なんとか。……話してもいいですか?」

 

「ええ、お願い」

 

 わたしは居住まいを正し、エイミィさんの言葉に集中する。

 

「名前は黒沢祐一。年齢は一八才。現在は一人暮らしで、便利屋稼業を営んでいるようです。この海鳴には、約三年ほど前から住んでいるようです」

 

「あ、そうですね。わたしが祐一お兄さんと初めて会ったのも、確か三年前くらいだったと思います。そのときに祐一お兄さんはここには引っ越してきたばかりって言ってた気がします」

 

 わたしの話を聞き、みんなが静かに頷いていた。

 そして、エイミィさんにみんなの視線が集まるが、エイミィさんは言い辛そうに頬を掻いていた。

 

「――ただですね、不思議なことにここから前の記録が――全く見当たらないんですよ」

 

「……なんですって?」

 

 エイミィさんの言葉に、リンディさんの表情が驚愕に染まる。クロノくん、ユーノくんも同じように驚いていた。

 そして、わたしもその内の一人だった。

 

「じ、じゃあ、祐一お兄さんは、昔、どこにいたんですか?」

 

「それは、まだわからないの」

 

 わたしの質問にエイミィさんは申し訳なさそうに答えてくれた。

 すると、クロノくんが話を始めた。

 

「エイミィ、調べたのはこの地球でのデータだけか?」

 

「うん。なのはちゃんの知り合いだって言うから、とりあえずは……って、もしかして」

 

「ああ。三年前以前の記録がこの"地球"で見つからないのなら、奴はそれより以前は"別の世界"にいたということになる」

 

「そっかぁ! 確かに、それはあるかも知れないね」

 

 クロノくんの言葉に、エイミィさんが笑顔で答える。

 

「そうですね。ではエイミィ、その線でもう少し調べてもらえるかしら。この黒沢祐一の人物像と三年前という言葉がキーワードです」

 

「わかりました。調査してみます」

 

 リンディさんの言葉にエイミィさんはブリーフィングルームを出て行った。

 そして、リンディさんがそれを見届けた後、声を上げる。

 

「では、今日はもう解散としましょうか。なのはさん、ユーノくん、お疲れ様」

 

「お疲れ様でした」

 

「あ、お疲れ様です」

 

 リンディさんの言葉にユーノくんとわたしは返事をした後、ブリーフィングルームを後にした。

 

(……祐一お兄さん、あなたは――何者なの――)

 

 わたしは、祐一お兄さんの姿を思い浮かべながら、そう考えていた。

 

side out

 

 

 海上決戦から数日。祐一、フェイト、アルフの三人はプレシアに呼び出され時の庭園へとやって来ていた。

 

(――もう、限界だ――)

 

 そう怒りの形相で歩いている人物――フェイトの使い魔であるアルフは怒っていた。

 それはプレシアに対する怒り。今回の戦闘で、フェイトに対して行った攻撃に対して怒りが爆発寸前であった。

 

(あいつは、フェイトの想いを踏みにじったんだ)

 

 ここに戻ってきてからもフェイトはプレシアにいろいろ言われていた。アルフはその光景を見れなかったが、戻ってきたフェイトの姿を見れば何があったのかは容易に想像がついた。

 今、フェイトは度重なる戦闘の疲れからか部屋で休んでいた。

 アルフはフェイトが休むのを見届けてから、部屋を出てきたのだ。

 

(わたしの主人に酷いことをするやつは、誰であろうと許さないっ!)

 

 アルフは握った拳に力を入れる。

 そして、プレシアがいる部屋に着くと問答無用に扉に拳を叩きつける。

 

「っ!!」

 

 ドゴンッ!! という音とともに扉が吹き飛ぶ。

 それに構わずアルフは部屋の中へと歩みを進める。

 

「…………」

 

 アルフが歩みを進めると、そこにはプレシアが手に入れた九つのジュエル・シードをジッと眺めている姿があった。

 プレシアはアルフの姿を一瞥すると、すぐに興味を失ったようにすぐに視線をアルフからはずし、ジュエル・シードへと戻した。

 

「……フェイトの使い魔が何をしに来たのかしら? 邪魔よ、すぐに出て行きなさい」

 

「いいや、今回は引けないね。……あんたに話があって来たんだ」

 

「私は何も話すことはないわ」

 

 アルフの方を見ようともせず、プレシアは冷たく言い放つ。

 そんなプレシアの態度を気にせず、アルフは話を続ける。

 

「――何で、あんたはフェイトにあんな態度を取るんだよ……?」

 

「…………」

 

 アルフの言葉に、一瞬だけプレシアの眉が動く。

 だが、アルフはそれに気付かずさらに話を続ける。

 

「――フェイトに冷たい態度を取るだけならよかった。……でも、今回は見過ごせないっ! 今までは黙って見てたけど、流石に今回は我慢できないっ! ……何でフェイトにあんなことをしたんだっ! ……答えろ! プレシア・テスタロッサ……!」

 

「…………」

 

 プレシアは黙したまま何も語らない。アルフの叫びもプレシアの心までは届かなかった。

 そんなプレシアの変わらぬ態度に業を煮やしたアルフは、プレシアに近づき胸倉を掴み自分に引き寄せる。

 

「あんたは、あの娘の母親で、あんたの娘だろっ!! あんなに頑張ってる娘に、何であんたはあんなに酷いことが出来るんだよっ!」

 

「……ッ……」

 

「――よく頑張ったねって、一言でも言ってあげてもいいじゃないかっ!」

 

 アルフの叫びに、僅かにプレシアの瞳が動いた。

 だが、すぐにいつもの無表情に戻ってしまう。

 

「――あなたには関係のないことよ。あれは私の娘なのだから、私がどういう態度を取ろうと勝手でしょう?」

 

「ッ! この――」

 

 プレシアの言葉を聞き、アルフの怒りは限界を越えた。

 そして右拳を握りこみ、それを振り上げ、

 

「分からずやがーー!!」

 

 アルフの右のストレートが唸りを上げ、プレシアへと吸い込まれていく。

 プレシアに怪我を負わせたら、フェイトが悲しむだろうということも分かっていたが、アルフはそれでも自身の主に冷たい態度を取るプレシアが許せなかった。

 

(フェイトには怒られるだろうし、この後どうなるかもわかんないけど、それでも――あたしはこいつを一発殴らないといけないっ!)

 

 そして、アルフの拳がプレシアへと直撃する。

 

 ――そのはずだった。

 

「かはっ……っ!?」

 

 アルフは自身の腹部に激しい痛みを感じたと同時に、急な浮遊感に襲われたかと思うと同時に、背中から壁に激突した。

 

「ぐっ……がはっ……」

 

 苦しそうにアルフは息を吐き出す。肺を傷つけたのか息をするのも苦しく、口からは血が流れてきていた。

 

「なんで――」

 

 アルフは苦しそうな表情をしつつ、自分に攻撃を加えた人物を睨むように見つめる。

 

 ――そこには、紫色の長剣を持った黒衣の青年――黒沢祐一が悠然と佇んでいた。

 

「…………」

 

 サングラスを掛けた表情からは何の感情も浮かんでいない、ように見えた。

 そんな祐一に向かって、アルフは体の痛みを堪えながら叫ぶ。

 

「なんで邪魔するんだよ、祐一!」

 

「依頼主が攻撃されそうだったから守った。それだけだ」

 

「そいつは、フェイトのことをなんとも思っちゃいないっ! それに、フェイトのことを攻撃したんだ。なんでそんなやつの味方をするんだよっ!」

 

 アルフの慟哭を祐一は黙って聞くが、返ってきたのは冷たい言葉だった。

 

「言っただろう。俺の依頼主はプレシア・テスタロッサだ。……フェイトではない」

 

「っ!? 祐一!」

 

 祐一の言葉に、アルフは驚愕の表情を浮かべた。祐一の言っていることが信じられないことと、あのフェイトに対する優しさが嘘であったのかと、いろいろな感情がない交ぜになっていた。

 そんなアルフを一瞥すると、祐一はゆっくりと騎士剣を構える。それと同時に、真紅の魔法陣が祐一の足下へと展開される。

 

「フェイトの母親に手を挙げようとした、その罪は重い。そして、そのような危険な使い魔をここに置いておくことなどできん」

 

 アルフは祐一の言葉を聞きながら、痛む体をなんとか動かそうとする。

 だが、さしものアルフも祐一の一撃を受け、すぐに動くのは無理であった。座り込まないだけ、アルフの打たれ強さが窺える。

 

「お前はここで"退場"だ、アルフ」

 

「……祐一」

 

 悲痛の面持ちでアルフは祐一を見つめる。

 ――だが、祐一は淡々と口を開く。

 

「――またな、アルフ。……フレイムバスター」

 

 祐一が静かに呟き、長剣を振るうのと同時に真紅の砲撃魔法が放たれた。

 

(……ごめん、フェイト)

 

 心の中で自身の主に謝りながら、アルフの体は砲撃魔法に飲み込まれた。

 

 

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