楽しんで頂ければ幸いです。
では、どうぞ。
――祐一はアルフを吹き飛ばしたときに空けた穴を静かに見つめていた。
そこで祐一は、昔、"彼女"によく言われていたことを思い出していた。
『祐一はいろいろと考えすぎなんだよ』
そう笑顔で話しをする彼女の顔を、祐一は今でも鮮明に覚えている。
その度に祐一は決まって、
『お前が考えなさ過ぎるんだ』
と、返していた。そんなときは大抵、彼女は頬を膨らませて言い返してきていた。だが、最後には花が咲くような笑顔を祐一に向けてくれていた。
そんなことを思い出し、祐一は僅かに頬を緩める。
(――あいつは、今の俺を見たらなんと言うだろうな)
祐一はそんなことを考えながら大きく息を吐く。
(こんなことを考えても意味はない、か)
そう考え直し、祐一は首を横に振った。
だが、祐一はそれでも考えてしまう。今、祐一が置かれている状況なら彼女はどうするのか。自分では考え付かなかったことをやってしまうのではないか。
「――俺は、どうしたらいいのだろうな。――"雪"――」
穴を見つめながら、祐一は静かに呟いた。
フェイトは部屋で休んでいたが、大きな音がしたため、何事かと思い、今は部屋を出て、そちらの方へと歩みを進めていた。
「何か、あったのかな……」
フェイトはそう呟きながら音のした方へと急いだ。
そして、フェイトがしばらく廊下を進むと目的の場所へと到着した。
――そこには、大きな穴が空いていた。
「……何が、あったの……?」
フェイトは呆然とその大きな穴を見つめる。その穴は直径五メートルはあろうかという大きな穴であった。
この時の庭園で、このようなことがあること事態が異常だ。こんなものがあるということは、誰かがこの穴を空けたということ。
そして円形であるこの穴は砲撃魔法で誰かが空けたのだと、フェイトは理解した。
「でも、一体だれが……?」
フェイトが穴を見ながら首を傾げていると、
「――起してしまったか」
フェイトの背後から声が掛けられた。
フェイトが振り向くと、そこには長身の青年――黒沢祐一が立っていた。
「何があったの、祐一……?」
「…………」
フェイトはそう質問するが、祐一から答えは返ってこなかった。
そんな祐一を見つめながら、フェイトは首を傾げた。
(こんな祐一、珍しいな……)
フェイトはそう心の中で思った。祐一はあまり喋る男ではないが、質問に対しては間髪入れず答えるような男であった。
そんな祐一が何かを言いよどむような反応を見せていることが、フェイトにとっては驚きであった。
フェイトがそんな祐一に驚いていると、祐一が声を掛けてくる。
「――フェイト、よく聞け。実はな――アルフがいなくなった」
「……え、なに、言ってるの……?」
フェイトは思わずといった感じで祐一へと質問を返してしまう。その表情は不安に彩られていた。
そんなフェイトをじっと見つめながら、祐一はアルフがいなくなってしまった経緯をフェイトへと説明を始めた。
「――そ、そんなっ……アルフが……」
「悲しいが事実だ。その結果が、"これ"なのだから」
祐一はその大穴を指差しながら話をする。
フェイトはまだ信じられないのか、呆然とした表情をしている。
「じゃ、じゃあ、アルフは……?」
「俺にはわからない。アルフが無事かどうかは、お前が一番分かるはずだ」
祐一にそう言われ、フェイトははっとなった。
アルフはフェイトの使い魔であるため、フェイトはアルフとの魔力パスが繋がっている。もし、アルフに何かあれば、フェイトが一番に分かるはずである。
「……パスは繋がったままだから、アルフは無事みたいだ」
だけど、とフェイトは続ける。
「念話にも反応しないし――どこにいるかもわからない」
「……そうか」
フェイトの言葉にも、祐一は眉一つ動かすことなく頷いた。
フェイトはそんな反応を返す祐一に、思わず声を荒げてしまう。
「っ! 祐一が……祐一がこんなことをしなければっ!」
「……では、プレシアさんがアルフに殴られ、怪我をしてもよかったというのか、お前は」
祐一にそう返され、フェイトは表情を歪める。その表情は、悲しみと何も出来なかった自分自身への不甲斐なさがない交ぜになっているようであった。
「……そ、そんなことない、けど……ここまでする必要、あったのかな……?」
「以前から、アルフはプレシアさんに反感を抱いていた。一度こんなことがあったなら、また同じことが起こるかもしれん。ならば、危険は早めに取り除いておくべきだろう」
「……本当に、祐一は、そんなこと思ってるの?」
フェイトは不安そうな眼差しで祐一を見つめながら、そう問い掛ける。祐一がそんなことを思っているなんて、聞きたくなかったのだ。少しでも、アルフのことを気に掛けてくれるような言葉をフェイトは祐一の口から聞きたかった。
だが、祐一は淡々と言葉を返す。
「ああ。そう思っている。俺の依頼主はプレシアさんであり、その依頼主に危険が及ばないようにするのは当然だろ」
祐一の言葉に、フェイトは愕然となる。
祐一がこんなに冷たい人だったのかと、なぜアルフにそんな酷いことをしたのかと。フェイトの頭の中をそんな考えが過ぎった。
だが、祐一がプレシアを守ってくれたことは事実であり、アルフがこんなことをした原因は自身にあると、フェイトは感じていた。
(……そう、全部、わたしのせいなんだ)
フェイトは自身の不甲斐なさ、アルフへの申し訳なさを痛烈に感じていた。
――そんなフェイトの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
「あ、あれ……? な、なんで……」
自身で感情を制御しているつもりなのに、それを無視するかのように涙は一滴一滴と確実に落ちていく。
そんなフェイトを見つめ、祐一は僅かに表情を歪めた。その表情には、僅かな悲しみが浮かんで見えた。
「俺を恨むか、フェイト?」
そう話す祐一に、フェイトは涙を流しながらも首を横に振った。
「……何故だ? アルフに酷いことをしたんだぞ?」
さらに祐一は言うが、フェイトはそれでも首を横に振る。
そして、フェイトは涙を拭き祐一へと言葉を返す。
「祐一は母さんを守ってくれたから、そんな祐一を怒ることはできないし、恨むこともできないよ」
「……そうか。なら、これからどうする?」
「わたしのやることは変わらないよ。……ジュエル・シードを集める。ただ、それだけだよ」
涙を拭き、顔を上げたフェイトの表情は目が赤くなっているということ以外、いつものフェイトだった。
だからこそ、祐一はフェイトが無理をしているということが手に取るようにわかった。
(――だが、それがわかったとしても、俺がフェイトにしてやれることなどあるはずもない)
祐一は僅かに首を振り、フェイトの頭を優しく撫でる。
「今日はもう休め。まだ魔力も戻ってないだろうし、体力も回復してないだろうからな」
「うん。ありがとう、祐一」
祐一の言葉に、フェイトは久しぶりに笑顔を見せた。
「じゃあ、部屋に戻って休むね」
「ああ。おやすみ、フェイト」
「おやすみ、祐一」
そうお互い挨拶を交わし、フェイトは部屋へと戻って行った。
フェイトの姿を見送ると、祐一は僅かに息を吐く。
(ジュエル・シード集めは継続。ジュエル・シードを集めるためには、管理局と戦わないといけない。……そして、なのはたちとも……)
直接、祐一がなのはと戦うことはないだろうが、フェイトがなのはと戦うことはまず間違いないと祐一は思っていた。
(俺の相手は、執務官のクロノ・ハラオウンでほぼ間違いないだろうな)
魔導師ランクAAA+という実力の持ち主であり、リンディ・ハラオウン提督の一人息子。だが、決して親の七光りというわけではなく、その実力は本物であり、間違いなく相手の中で一番の実力を持っていると祐一は確信していた。
「まったく、厳しい話だな」
祐一が一人で呟いていると、背後から声が掛かった。
「――予定は順調かしら?」
「順調ですよ。――概ね計画通りです」
祐一はそう言いながら背後へと振り返る。
そこには、祐一の依頼主であるプレシアが立っていた。
祐一の言葉に静かに頷きを返すと、今度は僅かに言い澱みながら質問する。
「……フェイトの様子は、どうかしら……?」
「元気はありませんよ。アルフもいなくなったこともあって、相当ショックを受けています」
祐一の言葉にプレシアは表情を歪める。
「……フェイトには辛い思いばかりさせているわね。……本当に駄目な母親ね」
そう自嘲気味な笑みをプレシアは浮かべる。
そんなプレシアに祐一は言葉を掛けようとするが、プレシアは手を上げそれを制した。
「大丈夫よ。私はもう覚悟を決めているのだから……」
「……そうですか。なら、俺はもう何も言わないですよ」
そう話す祐一に、プレシアは少しだけ表情を緩めた。
「ほんとうにありがとう、祐一くん」
「俺が決めたことです。気にしないでください」
「ふふ、そうね」
祐一のいつもどおりの言葉に、プレシアは久しぶりに僅かに笑みを浮かべ、祐一もつられるように口角を上げた。
――そんな温かな空気となっていたときだった。
「っ!? ごほっ、ごほっ……っ」
プレシアが口を押さえ、急に咳き込み始めた。その手の隙間からは、赤いモノが流れ落ちてきていた。
そして、そのまま膝から崩れ落ちていった。
「プレシアさんっ! 大丈夫ですか……?」
そう叫びながら、祐一は倒れそうになったプレシアへと瞬時に駆け寄りその体を支える。
支えたプレシアの体は祐一が思っていたよりも――軽かった。
「ごほっ……ごめんなさい。駄目ね、次元干渉の魔力攻撃は体が持たないわね。……ふぅ、もう大丈夫よ」
プレシアはそう言いながら祐一から体を離す。
大丈夫と言ってはいるが、その表情からはとても大丈夫とは祐一には思えなかった。
「俺が肩を貸しますから、部屋に戻りましょう。……無茶しないでください」
祐一珍しく、半ば強引にプレシアへと肩を貸し、そのままの状態で部屋へと向かう。
ゆっくり歩きながら、祐一はプレシアへと語りかける。
「まったく、そんなところはフェイトにそっくりですよ」
「ふふ、そうね。あの娘も無茶ばかりしているようね」
プレシアは祐一の言葉に嬉しそうにしながら答える。顔色は決して良くはないが、その表情はとても嬉しそうであった。
そんなプレシアに呆れ半分と嬉しさ半分と微妙な気持ちとなりながら、祐一は苦笑を返す。
しばらく歩くと、すぐにプレシアの部屋へと到着した。
祐一はプレシアをベッドに連れて行った。
「では、プレシアさんも休んでください」
「ええ、ありがとう、祐一くん」
「じゃあ、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
そう言葉を交わし、祐一がプレシアの部屋を出て行こうとする。
そんな祐一の背中へとプレシアは声を掛けてきた。
「――フェイトを頼むわね、祐一くん」
プレシアの言葉に、祐一は振り返らずに答える。
「ええ。わかりました」
祐一はそう答えると、プレシアの部屋を後にした。
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