遅くなりました。
楽しんでいただければ幸いです。
では、どうぞ。
――祐一の過去の断片を聞いてから数日。
なのはは一時的に高町家へ帰り、普通の小学生と同じく学校へと登校していた。
なのはは親友である、月村すずかとアリサ・バニングスとの久しぶりの学校に笑顔を見せていた。同じようにすずかとアリサも、なのはが学校に来たことをとても喜んでいた。
そして、なのはは二人にこれからのことを魔法関係を除いたことについて話しをした。なのはの話を二人は親身になって聞いてくれて、なのはは全てを伝えられないもどかしさと、二人の優しさがとても嬉しかった。
「あ、そういえばね。昨夜、怪我をしている犬を拾ったの」
「犬……?」
なのはが話を終えると、アリサが場を盛り上げるように話を始めた。
アリサの言葉に、すずかは首を傾げている。それを見て、なのはもつられて首を傾げていた。
「うん。すごい大型で、毛並みがオレンジ色で、おでこに赤い宝石がついてるの……」
アリサの言葉に、なのはは思わず、あっと短く声を上げる。頭の中でフェイトの使い魔の姿が思い浮かんだ。
(もしかして、アルフさん……? でも、どうして……)
なのははそう疑問に思いながらも、アリサとすずかとの話しに集中した。
――そして、学校が終わると三人はアリサの家にやってきた。
そこで、なのはが目にした人物は、
『――やっぱり、アルフさん……』
『……あんたか……』
そこにはなのはが予想していたとおり、フェイトの使い魔であるアルフの姿があった。
ほぼ全身に包帯を巻かれた姿は痛々しく、ひと目見てかなりの怪我を負っていることがわかった。
また、いつもの傲岸不遜な態度はなりを潜め、覇気も感じられないアルフの姿になのはは疑問を感じずにはいられなかった。
『その怪我、どうしたんですか? それに、フェイトちゃんは……?』
『…………』
なのはが念話でそう問い掛けると、アルフは何も言わずに背を向けて座り込んでしまった。
(なにかあったんだ。それも、なにかよくないことが……)
アルフの態度からそうなのはは感じ取った。
「あらら。元気なくなっちゃった。どうしたの? 大丈夫?」
「傷が痛むのかも。そっとしておいてあげよう?」
そんなアルフを見て、アリサとすずかが心配するように話す。
なのはとしては、なぜアルフが今ここに居るのか理由を問いたかったが、アルフがこのような状態では埒が明かないと、なのはが考えていると、すずかの腕に抱かれていたユーノが腕から飛び降り、アルフの近くに歩みを進めた。
『なのは。彼女からは僕が話を聞いておくから、なのははアリサちゃんたちと行って』
『うん。お願い、ユーノくん』
なのははユーノにそう言葉を返すと、アリサとすずかとともに家へと入っていった。
ユーノはなのはたちが家へと入っていったのを確認すると、アルフへと話し掛ける。
「いったいどうしたの? 君たちの間で、いったい何が……?」
「……あんたがここにいるってことは、管理局の連中も見てるんだろうね」
「うん」
ユーノが頷くと、別の人物の声が割り込んでくる。
『時空管理局――クロノ・ハラオウンだ。どうも事情が深そうだ。正直に話したら悪いようにはしない。君のことも、君の主――フェイト・テスタロッサのことも……』
そう真剣に話すクロノの言葉を聞き、アルフはしばらく無言であったが、しばらくすると観念するように口を開いた。
「……話すよ、全部。だけど約束して、フェイトを助けるって。……あの子は何も悪くないんだよ」
『――約束する』
アルフの悲痛な言葉に、クロノは真剣な表情で頷いた。
そして、アルフはゆっくりと今回の事件の顛末を話し始めた。
――プレシア・テスタロッサがジュエル・シードを探していること。
――フェイトは母親の命令で、その手伝いをしていること。
――黒沢祐一がプレシアに協力していること。
「――あたしは我慢できなくなって、プレシアを一発ぶん殴ってやろうと思った。だけど、祐一に邪魔されてこのザマさ……」
アルフは自分が知っていることを全て話し終えると、深く息を吐いた。心なしか、表情も柔らかくなってた。
「でも、なんで祐一さんはプレシア・テスタロッサに協力しているんだろう……?」
アルフの言葉を聞いたユーノが思わずといった感じに呟いた。
「……祐一はあくまで依頼だって言ってたけど、ほんとのところはあたしも知らないよ」
アルフは頭の中で黒衣の青年の姿を思い浮かべながら話す。
――厳しくも優しかった祐一。
――フェイトに笑顔を増やしてくれた祐一。
そんな祐一がアルフは好きだったし、なによりフェイトを笑顔にしてくれた人物がただ依頼というだけで、このようなことをするとはアルフは思っていなかった。
『……とりあえず、プレシア・テスタロッサの目的はわかっただけでもよしとしよう』
考え込むアルフとユーノに、そうクロノが告げた。
「うん、そうだね。――なのは、聞いてた?」
『うん。聞いてたよ……』
念話越しに、元気の無いなのはの声が皆に聞こえてくる。
『なのは、君の証言とアルフの証言から、彼女の言葉に嘘偽りはないと判断する』
『うん。……これからどうなるのかな?』
クロノの言葉に、なのはが質問を返した。
僅かに悲しみを帯びたなのはの声であったが、クロノは冷静に答える。
『プレシア・テスタロッサ及び、黒沢祐一を捕縛する』
『っ!? でも、祐一お兄さんは依頼でフェイトちゃんのお母さんを手伝っているだけで――』
『だとしても、フェイト・テスタロッサとは状況が違う。黒沢祐一は自らプレシア・テスタロッサの手伝いをしている。……残念だが見過ごすことは出来ない』
祐一を捕まえると聞いたなのはが僅かに反論するが、クロノは正論で返した。
『だから、僕たちは艦長の命令があり次第、今回の任務をプレシア・テスタロッサと黒沢祐一の捕縛に変更する。――君はどうする、高町なのは?』
クロノがそう話すと、なのははしばらく黙っていたが、決意の篭った声で話し始める。
『……わたしはフェイトちゃんを助けたい! 祐一お兄さんも説得したいけど……。アルフさんの想いと、それからわたしの意思。フェイトちゃんの悲しい顔は、何だかわたしも悲しいから。だから、その悲しい思いから救いたい。……それに、友達になりたいって返事もまだ聞いてないし』
『――わかった。こちらとしても、君の魔力を使わせてもらえるのはありがたい。……正直な話、今の僕たちだけではフェイト・テスタロッサと黒沢祐一の相手をするのは厳しいからね。だから、フェイト・テスタロッサについてはなのはに任せる。アルフ、それでいいか?』
「ああ。……なのは、だったね。頼めた義理じゃないけど……だけど、お願い。……フェイトを助けて」
『うん。大丈夫、任せて!』
なのはの元気な声を聞き、皆は自然と笑顔を浮かべた。
一方、フェイトはアルフがいなくなったものの、目に見えて悲しみに暮れることはなくなっていた。ただ、それは見て確認できる範囲であるため、内心でどう思っているかは知ることもできない。
アルフの安否はすでに確認済みであった。祐一が行方を調査し、フェイトへと教えたのだ。流石にアリサの下にいるとは思わず、祐一も驚いていた。
そのようなことがあったが、今、祐一はプレシアから借りている部屋で休んでいた。
ジュエル・シードは管理局側とプレシア側で全て回収済みであるため、祐一から動く必要がなかったからだ。
それに、
(おそらく、明日が管理局との決戦になるだろう。そして……今回の戦いも……)
祐一がそこまで考えたところで、ドアが控えめにノックされたため、思考を中断した。
祐一が扉を開けると、そこには――、
「こんな時間にどうしたんだ、フェイト?」
祐一の元教え子であり、綺麗な金髪が特徴的な儚げな少女――フェイト・テスタロッサが立っていた。
フェイトは祐一の顔色を窺いながら、口を開く。
「あの、あのね、祐一と少し話がしたくて……駄目、かな……?」
「なんだ、そんなことか。別に構わん。部屋に入るといい」
祐一の言葉を聞き、フェイトは頬を僅かに染めながら嬉しそうに微笑んだ。
フェイトを部屋へと招き入れ、お互いベッドに腰掛けると、祐一が口を開く。
「それで、話とはなんだ?」
「……うん……」
フェイトはそう静かに呟いた。膝の上で握った両手には、僅かに力が入っていた。
祐一はそんなフェイトを黙って見つめる。ここで自分が話しても、フェイトがさらに話しにくくなるだろうという祐一なりの配慮であった。
そして、しばらく沈黙が続いたが、フェイトが静かに話を始めた。
「――祐一は何で母さんの手伝いを引き受けたの?」
フェイトは真剣な表情で祐一へと質問する。
祐一は僅かに驚いた表情となったが、すぐにいつもの表情に戻ると、少し考えたあと口を開いた。
「知らない仲ではなかったから、というのが理由の一つではある。だが、俺がプレシアさんに協力するのは――"自分がそうしたかったから"だ」
「自分がそうしたかった……?」
「そうだ。プレシアさんが望んでいることを叶えてあげたい。そう思ったから、俺は今こうしているんだ」
祐一の言葉を聞き、フェイトは詰め寄るようにさらに質問を返す。
「でも、母さんの――わたしたちがやっていることはいけないことかもしれないんだよ?」
「そうかもしれん。だが、それでもプレシアさんはやろうとしている。誰にも認められず、世間からは悪だと罵られてもだ。……それなら、俺ぐらいはプレシアさんの味方であろうと、そう思ったんだ。――お前は違うのか、フェイト」
「わたしは……」
フェイトはそこで言葉を止める。
その表情は何かに迷っているような表情であったが、静かに口を開いた。
「……わたしも祐一と同じ。母さんを助けてあげたい。例え管理局と戦うことになっても――あの白い服の女の子と戦うことになっても」
そう言葉を紡いでいくフェイトの表情は、徐々に決意を固めていっているように見えた。だが、心の奥底では迷いがあるのだろうと、祐一は感じていた。
そして、フェイトは一度深呼吸すると、決意の言葉を口にする。
「わたしの願いは、"母さんの願いを叶えること"。……今のわたしにはそれだけだから」
フェイトはそう話すと、小さく笑みを浮かべた。
そんなフェイトを見て、祐一は僅かに表情を歪める。
(母親の願いを叶える、か。違うだろう……お前の本当の願いは――)
そこまで考えるが、祐一は首を横に振りそれを消した。
そして、小さく笑みを浮かべていたフェイトの頭に優しく手を乗せた。
「……祐一?」
「……いや、何でもない。さて、今日はもう遅いから寝るといい」
フェイトが首を傾げながら聞いてくると、祐一は誤魔化すようにフェイトの頭を少しだけ乱暴に撫で回した。フェイトは「わわ、やめてよぉ」と頬を膨らませているものの、微笑みを浮かべていた。
そして、フェイトは少しだけ考えると、僅かに頬を染めながら口を開いた。
「あの、今日は、祐一と一緒に寝てもいい、かな?」
上目遣いでこちらを見つめながら、恥ずかしそうに話すフェイトに祐一は苦笑を浮かべる。
「仕方ない。今日だけだぞ?」
そう話すと、ぱっと花が咲いたような笑みを浮かべたフェイトを見て、祐一は無意識のうちに笑みを浮かべていた。
「えっと、よろしくお願いします」
フェイトは一度部屋へと戻り、寝間着に着替え、自身の枕を抱え戻ってきた。
少し恥ずかしそうに、フェイトは祐一のベッドへと潜り込む。それを確認したあと、祐一もベッドへと入った。
最初は恥ずかしそうにしていたフェイトであったが、しばらくすると慣れてきていた。
「祐一と一緒に寝るのって久しぶりだね」
「そうだな。俺がフェイトの教育係りを引き受けたときのちょうど一年前ぐらいに、こうやっていっしょに寝たか」
「もう、そんなに経つんだね」
フェイトが感慨深げに呟くのを聞き、祐一は誰ともなく静かに呟いた。
「――おそらく、明日が最後の戦いになるだろう」
祐一の言葉にフェイトは静かに頷く。
「厳しい戦いになるだろう。――だがなフェイト――」
祐一は少しだけ間を置いたあと、口を開いた。
「負けるな。どんなことがあっても、心を強く持ち、自分を信じて前へと進め。――諦めなければ、きっと道は開けるのだから」
「……うん。……わかった」
祐一の言葉に静かにフェイトは頷く。
祐一はそれを確認すると、フェイトの頭を優しく撫でやった。
――最後の戦いは、すぐそこまで迫っていた。
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