楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。
side 高町なのは
今、わたしは崩壊してしまった《時の庭園》から《アースラ》へと戻り、治療を受けている。
わたしはユーノくんに包帯を巻いてもらっており、向かいにはクロノくんがエイミィさんに手当てされていた。
そんなクロノくんへわたしは話し掛ける。
「フェイトちゃんは……?」
「フェイトはアルフと一緒に護送室にいるよ。彼女はこの事件の重要参考人だからね。申し訳ないが、しばらくの間は隔離させてもらうよ」
「そ、そんなっ!? いたた……っ!」
「ほら、なのは、じっとしてて」
クロノくんの言葉にわたしは立ち上がろうとしたけど、体が痛くて悲鳴を上げてしまい、それをユーノくんが苦笑しながら諌めてくる。
わたしがユーノくんにごめんね、と謝っていると、クロノくんが話を続ける。
「……今回の事件は、一歩間違えれば次元断層を引き起こしかねなかった重大な事件だ。時空管理局としては、関係者の処遇に関しては慎重にならざるを得ない。それは分かるね?」
「……うん」
クロノくんの言葉に、わたしは少しだけ俯いてしまう。
「――まぁ、フェイトは事件に関わっていたとは言え、母親からの命令で仕方なく事件に関与していたから、情状酌量の余地はあるだろう」
そんなわたしを見たからか、クロノくんはバツが悪そうな顔をしながらそう告げた。
不器用ながらも、わたしを慰めてくれるクロノくんの優しさにわたしは思わず笑みを浮かべると、クロノくんが僅かに頬を赤く染める。
「うん。ありがとう、クロノくん」
「ふ、ふんっ。お礼を言われるようなことはしてないよ」
「全く、素直じゃないんだから」
「そこがクロノくんらしいけどねぇ~」
そっぽを向きながら話すクロノくんに、ユーノくんとエイミィさんが笑いながらクロノくんをからかっていた。
そんなみんなを見ていたら、わたしは自然と笑みを浮かべていた。
しばらくの間、みんなと話をしていると、クロノくんが真剣な表情となり、静かに口を開いた。
「フェイトとアルフの処遇については問題は無い、と言えば嘘になるが、"もう一人"の人物よりはまだマシだろう」
そう話すクロノくんの表情は硬く、エイミィさんとユーノくんの表情も少しだけ強張っていた。
「――祐一お兄さんのことだよね?」
「ああ」
そう話しながら、わたしは祐一お兄さんのことを考えた。
祐一お兄さんは、今回の事件の首謀者であったフェイトちゃんの母親であるプレシア・テスタロッサに雇われ、その願いを叶えるために力を貸していた。
そのプレシアさんの願いの一つは、ジュエル・シードの力で、今では失われた都《アルハザード》へと行くこと。
そしてもう一つは、フェイトちゃんが一人でも大丈夫なようにすること。寿命が残り少なかったプレシアさんは、フェイトちゃんと一緒に生きていくことができないことを悟り、そんなことを考えたそうだ。
自分がいなくなったとき、フェイトちゃんが悲しみに沈んでしまわないようにするための苦肉の策であり、それがプレシアさんの優しさでもあった。
(――だから、祐一お兄さんはプレシアさんに協力することにしたんだ)
祐一お兄さんは基本的にドライな性格ではあるけど、親しくなった人には優しさを見せる人物である。だから、プレシアさんに協力したんだとわたしは思っている。
祐一お兄さんとプレシアさんのしていたことは危険なことだったのかもしれない。確かに、僅かではあるものの次元震は起きたのは事実としてあるけど、結果としては周りにはそれほど危険なことはなかった。
きっと、祐一お兄さんとプレシアさんはそれを計算に入れた上で今回の事件を起こしたのかもしれない。――そうわたしは思っていた。
「祐一お兄さんのやったことは、やっぱりいけないことだったのかな……?」
「……結果的にはそれほど大事には至らなかったけど、もし、次元断層を本気で起こしていたら被害はこんなものではなかっただろう。それに、黒沢祐一はフェイトと違って、自分の意思でこの事件に絡んでいる。無罪放免というわけにはいかないだろう」
「そう、なんだ……」
クロノくんの言葉に、わたしは少しだけ俯いた。
(祐一お兄さんは悪いことなんてしていない。……そう思うのは、わたしがまだ子供だからなのかな……)
そう考えながら、わたしは《時の庭園》が崩壊したときのことを思い出した。
side out
――プレシアとアリシアが虚数空間へと落ちていくのを、フェイトたちは呆然と見つめていた。
だが、そんなに呆然としている暇はない。《時の庭園》の崩壊は始まっており、もはやゆっくりしている暇などなく、このままでは皆、虚数空間へと飲み込まれてしまう。
そんな中、フェイトは未だにプレシアとアリシアが落ちていった方へと手を伸ばし、呆然とそちらを見つめていた。
(――母さんは、わたしを愛してくれていた。……だけど、もう母さんと会うことはできないんだ)
もうプレシアには会えないという事実から、フェイトの瞳からは自然と涙が零れた。
そんなフェイトを悲痛な表情で見つめながらも、アルフはフェイトへと声を掛ける。
「フェイト、早くここを離れないとっ!」
アルフの言葉はもっともで、《時の庭園》の崩壊は止まらず、その揺れも激しさを増してきていた。
だが、フェイトはその声を聞いてもその場から動こうとしなかった。
「……ッ!? フェイト……ッ!?」
アルフが先ほどよりも焦った声を上げていることに気付いたフェイトは、俯いていた視線を上げた。
「……っ!?」
《時の庭園》が崩壊している影響から、壁が崩落してきており、フェイトの上から巨大な岩が落ちてきたのだ。
「フェイト……ッ!?」
アルフが心配から声を上げた。
フェイトはぎりぎりのところで岩の軌道がそれ無事であったが、その岩はフェイトが立っていた場所を粉砕してしまい、フェイトはなんとか残った地面にしがみついていた。
下は虚数空間であり、落ちたら戻ってくることはできない。
(――でも、ここから落ちれば母さんたちに会えるかもしれない)
フェイトの頭をそんな考えが過ぎる。
だが、フェイトは最後にプレシアが自分に託した言葉を思い出す。
――強く生きなさい。あなたはこの大魔導師、プレシア・テスタロッサの娘なのだから。
プレシアの言葉を思い出し、フェイトの瞳には再び力が戻ってきた。
(そうだ。母さんとの約束のためにも、わたしはこんなとこで終わっちゃいけない……っ!)
フェイトは腕に力を込め、しがみついていた地面へと這い上がる。
「フェイトちゃん……!」
それとほぼ同時に、砲撃魔法で壁を破壊してやってきた白いバリアジャケットを纏ったなのはが飛び込んできた。
なのはは少し周囲を見渡した後、フェイトの姿を見つけ、飛行魔法で近くへと飛んできて叫ぶ。
「飛んでっ! こっちに……っ!」
なのはは天井から落ちてくる瓦礫を避けながら、フェイトへと精一杯手を伸ばした。
そんななのはの姿を見た後、フェイトは僅かに逡巡すると、覚悟を決めたような表情となり、最後にプレシアとアリシアが落ちていった方へと視線を向ける。
(ありがとう、母さん。わたしも母さんのこと――大好きだよ)
そして、フェイトはこちらへと手を伸ばしているなのはへと手を伸ばしながら地面を蹴った。
「っっ!」
「フェイトちゃんっ!」
なのはがフェイトの手を取り満面の笑みを浮かべ、そんななのはの表情を見て、フェイトの表情も綻んだ。
だが、それが二人の油断となってしまった。
「――っ!? 危ないっ!」
「っ!?」
ユーノの叫びに二人ははっとなり、上を見上げる。するとそこには、今までで一番大きい瓦礫が迫ってきていた。
さしもの二人も流石に回避することが間に合わず、二人はお互いの手を強く握り締め、きたるべき衝撃に思わず目を瞑ってしまう。
だが――その衝撃が訪れることはなかった。
「――ソニックムーブ――」
力強い声が聞こえると同時、二人は誰かに抱えられ、僅かな浮遊感を感じた。
そして、二人が目を開けると、そこには予想通りの人物の顔があった。
「――全く、お前たちは最後の最後に詰めが甘い」
二人が尊敬してやまない人物――黒沢祐一が苦笑していた。
「祐一……!」
「祐一お兄さん……!」
二人は先ほどまで危険だったことも忘れ、笑顔で祐一の名を呼ぶ。
そんな二人に祐一は苦笑を浮かべた。
「ここはもう危ない。さっさと撤退するぞ」
「あ、うん。……祐一、助けてくれてありがとう」
「祐一お兄さん、ありがとう」
フェイトとなのはのお礼に祐一は頷きを返すと、その場から移動を開始した。――二人を腕に抱えたまま――、
「ゆ、祐一、わたしはもう平気だから……」
「う、うん、そうだよ。わたしも大丈夫だし……」
「先ほどのようなことがあってはたまらんからな。二人共じっとしていろ」
祐一は二人の言うことを切り捨て、そのまま移動していく。
フェイトとなのはは流石に祐一に抱えられ恥ずかしいのか、頬を赤く染めていたが、お互いの顔を見合わせると、思わず笑いあった。
そして、しばらく移動していると、前方に人影が見えてきた。
「黒沢祐一……っ!」
そう叫んだ人物――管理局執務官のクロノ・ハラオウンが立っていた。その横にはフェイトの使い魔アルフとなのはの魔法の師匠であるユーノもいた。
祐一は三人の近くまで来ると、フェイトとなのはを地面へと下ろすと、その場で両手を挙げた。
「もう抵抗はしない。俺も同行させてもらえるか?」
「……《時の庭園》が崩壊するまで時間も残り少ない。妙な動きをすれば、容赦しないからな」
「ああ」
そうして祐一たちは《時の庭園》を去り、その後、《時の庭園》は崩壊した。
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