遅くなってしまいましたが、楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。
祐一が護送室に入れられてから、何日かが経ち、次元震の余波も収まってきていた。そんなとき、祐一がいる護送室に一人の人物が訪れた。
「もうしばらくしたら次元震の余波も収まると思うから、明日には地球に戻れると思うわ」
「そうですか」
祐一は自身の下を訪れてきた人物――リンディ・ハラオウンの言葉に頷きを返した。そう静かに頷く祐一をリンディはいつものように笑みを浮かべて見ていた。
(相変わらず、やりにくい人だな)
そう祐一は嘆息する。
リンディは、祐一が護送室に入ってからも頻繁にここを訪れていた。今回も、リンディがわざわざもう少しで地球に着くということを教えに来てくれたのだ。
「怪我の方はもう大丈夫?」
「ええ、ほぼ完治しました。少々、完治に時間が掛かりましたがね。流石は、管理局執務官の攻撃力といったところですか」
「あらあら、祐一くんにそこまで言わせるなんて、流石は自慢の息子ね」
さらに笑みを深くするリンディに祐一は苦笑を浮かべた。
「――それで、これからどうなるんですか?」
祐一の質問に、リンディは居住まいを正しながら答える。
「なのはさんは次元震の余波が収まり次第、地球に戻ってもらおうと思ってます。ユーノくんもなのはさんの厚意で、このアースラが完全に移動できるようになるまでの間は、なのはさんの家に厄介になるようね」
「なるほど。……それで、フェイトとアルフは?」
「二人はこのままアースラに留まってもらって、それから本局に移動した後、事情聴取をして裁判になるでしょうね。まぁ、ほぼ確実にフェイトさんは無罪になるでしょうけどね」
「そうですか……」
祐一はここに来てから、リンディ・ハラオウンという人物を見極めていた。いくらプレシアがほぼ全ての罪を被ったとはいえ、管理局の人間が信用出来ないのでは、フェイトに危険が及んでしまう。そのため、祐一はフェイトたちを任せることになるリンディ・ハラオウンという人物を見てきた。
短い時間ではあるものの、このリンディ・ハラオウンという人物を祐一は認めていた。
――この人にならば、フェイトを任せても大丈夫だと、そう思っていた。
(聞いていた通りの人だ。この人になら、フェイトを任せても大丈夫だろう)
祐一がそう思考しながらリンディを少し見つめていると、リンディが小首を傾げる。
「……? 何かしら、祐一くん」
「いえ、リンディさんが俺の聞いていた通りの人だったので安心しました。あなたになら、フェイトを任せても大丈夫そうだ」
「ふふ、そう言ってもらえると、私も嬉しいわ。……でも、いいの? 私が言うのもなんだけど、祐一くんがフェイトさんと一緒にいてあげた方がいいんじゃないかしら?」
笑顔だったリンディが、真剣な表情となり祐一に質問してきた。
祐一は少し姿勢を整え、リンディの質問に静かに答えていく。
「確かに単純に守ってやるだけなら、俺が側にいるだけで大丈夫でしょう。ですが、それでは何かと不自由させてしまうでしょう。リンディさんたちと共に行き、裁判で無罪を勝ち取り自由になる。そこからフェイトの人生は始まるのだと、俺はそう思っています」
「祐一くん……」
「それに、俺はまだまだ若輩です。いろんなしがらみからフェイトを守ってあげるのなら、リンディさんの方が適しているでしょう」
そう語る祐一をリンディは真剣な眼差しで見つめる。
しばらく沈黙が続いた後、リンディは観念したように溜め息を吐き、少し困ったような、それでいて優しい表情となる。
「わかったわ。フェイトさんのことは任せてちょうだい。――安心して、というのも変だけれど、私たちが責任を持ってフェイトさんを自由の身にしてみせるわ」
「ええ、よろしくお願いします」
そう心強く話すリンディに、祐一は静かに頭を下げた。
――リンディが護送室を訪れてから、さらに数日が経過し、祐一の下にクロノが訪れてきた。
「――黒沢祐一、次元震の余波も収まったから釈放だ」
「ああ、すまないな」
祐一はこっちだというように何も言わず先導するクロノの後へと続き、護送室を後にした。
そして、しばらく二人が無言で歩いていると、祐一の前を歩いていたクロノが歩みを止めた。
「……? どうしたんだ?」
立ち止まったクロノを不思議に思った祐一は、眉を顰めながら質問したのだが、クロノは黙ったまま前を向いていた。
祐一がどうしたものかと頭を掻いていると、クロノが祐一へと視線を向けた。
「――艦長は今回の件について、おまえについて特に何をするでもなく釈放することを良しとしたけど、僕はそれが正しいことなのか――まだ答えを得ていない」
「…………」
クロノの言葉に、祐一は黙ったまま耳を傾けていた。
「事件の元凶であるプレシア・テスタロッサは虚数空間へと消えた。だけど、その人物の片棒を担いでいたお前はまだここにいて、しかも釈放されようとしている。確かにお前は、プレシア・テスタロッサの願いを叶えるためだけに協力して、大事を起こすよつもりはなかった。……だけど……」
クロノはそこで一度大きく息を吸い込み、さらに話を続ける。
「プレシア・テスタロッサは、それまでに違法行為を犯していた犯罪者で、そのような人物の手助けを行っていた貴様も同罪だ」
「…………」
「だけど、艦長は貴様の罪を認めた上で釈放した。……もう僕には、何が正しいことなのかがわからない」
そうクロノは悲痛な表情で言葉を紡いでいく。
今、クロノは自分が思っている"正義"という意味に自信が持てなくなってきていた。以前のクロノならば、管理局は絶対の"正義"として疑わなかったが、今回の一件でクロノの気持ちは僅かに揺らいでいた。
クロノは悔しげに拳を握りこみ、祐一へと口を開く。
「……教えてください"祐一さん"。いったい今回の事件では誰が悪で、誰が善なのですか? 何が正しいことだったんですか……?」
それが今、クロノが抱えている悩みであった。
正しいことは何だったのか? 今回の"悪"は、誰だったのか?
クロノはその答えが見出せず、苦悩していた。
そんなクロノの質問に、祐一はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「……それは、俺にもわからん。……だがな、正しい答えなど、人によって違うものだ。大多数の人間がそれを正しいと言ったとしても、自分がその考えに賛同できないというのならば、それは自分にとって正しい答えではないのだろう。プレシアさんが"悪"だという人物がいれば、その逆がいるようにな」
祐一はそこで一度息を吸い込み、さらに話を続けた。
「ならば、納得のいくまで自分が正しいと思う答えを探し続けることだ。考えの違う人間と意見を交換し、考えを吟味し、その上で自分が正しいと思える答えに向かっていけばいいと、俺は思う」
クロノは祐一の言葉を黙って聞いていた。
「今回はリンディさんのおかげで、俺は釈放される。だが、もしこの結果に納得がいかないのであれば、俺はいつでも相手になろう」
そうクロノを真剣な表情で見つめながら、祐一は静かに告げた。
そんな祐一を同じように、クロノは真剣に見つめていたが、心の中では笑みを浮かべていた。
(――この人は、昔から変わっていないんだな)
クロノがそう心の中で思っていると、祐一が声をかけてきた。
「さて、俺からはこれぐらいしか言うことはないが……?」
話を終えた祐一が、どうすると言わんばかりに腕を組み、クロノへと問い掛ける。
クロノは僅かに笑みを浮かべながら言葉を返す。
「……あなたを捕まえるのは、また今度にしておこう。艦長の命令でもあるし、今回だけは見逃すよ」
「ほう……?」
「だが、今回だけだ。次に何かあったその時は――僕が全力であなたを捕らえます」
不敵に笑うクロノに祐一も笑みを浮かべる。
「ふ、そうか。心に留めておこう」
「ああ。……さて、長話をしてしまったな。早く転送ポートに向かおう」
「ああ」
祐一は頷き、クロノは祐一へと背を向けた。そのとき、
「――ありがとうございます、祐一さん」
そうクロノが小さく呟いたのを聞き、祐一はまた笑みを浮かべた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をよろしくお願いします。