楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。
――海鳴公園――
ここ、海鳴公園は読んで字の如く、海に面している公園であるが、すぐ側には木々が青々と生い茂っている場所もあったりと、ランニングをするなどにも適した場所である。
そんな木々が生い茂った場所、まだ早朝と言ってもいい時間に三人――いや、二人と一匹の姿があった。
一人は長身の青年。長身だが痩せているわけではなく、一目で鍛えられていることがわかるほどに引き締まった体型をしている。トレーニング中であるのか、上下共に黒のジャージを着ていた。
二人目は、黒いリボンで結んだ髪をツインテールにした小学生くらいの女の子である。青年との身長差は歴然で、その身長は青年の胸まであるかないかといったところであった。
そして、その二人の近くにはフェレットが一匹座っていた。
傍から見ればなんとも奇妙な組み合わせではあるが、女の子は青年と楽しそうに話をしており、第三者が口を挟む余地などないように見えた。
女の子の話を聞いていた長身の青年――黒沢祐一が口を開く。
「さて、今日はここまでにするか」
「はぁ~い、お疲れ様でした!」
「ああ、お疲れ様。ユーノもな」
「いえ、僕が教えていたのは少しだけですから」
女の子――高町なのはが元気よく返事をし、フェレットに変身している少年――ユーノ・スクライアが祐一へと首を振った。
そんな二人の反応に祐一は苦笑を返した。
「謙遜するな。ユーノは魔法の技術力に関しては、俺が知る中ではかなりのモノだと思っている。教え方も要点がまとめられていてわかりやすい。なのはが上達するのが早いのも、ユーノが上手く教えているということもあるのだろう」
「あ、ありがとうございます」
祐一の賛辞に、フェレット姿のユーノは照れたように前足で頭を掻いた。
「祐一お兄さん。じゃあ、わたしは上達していってるってことなのかな?」
「ああ。なのはの才能に関しては、正直、俺も驚かされている。この前まで魔法を全く知らなかったとは、到底思えないぐらいだ」
「にゃはは、祐一お兄さんにそう言ってもらえると嬉しいな。なんだか、照れくさいけど」
なのはは頬を赤く染め、恥ずかしそうにしていたが、その表情は笑顔で満ちていた。
そんななのはを祐一は笑顔を浮かべていた。
フェイトたちと別れを告げてから、一週間が経った。
祐一は便利屋の仕事を再開し、なのはは休んでいた小学校への通学を再開し、二人ともいつもの生活に戻っていった。
だがある日、なのはが祐一の家を訪れ、こう頼んできたのである。
『祐一お兄さん、わたしに魔法のことをもっと教えて欲しいの……』
その一言から、祐一は自身がいつも行っている朝のトレーニングと平行して、少しだけなのはを鍛えることにしたのだ。
それからというもの、なのはは毎朝祐一の下へとやってきて教えを受けるようになったのである。
(まだ、小学三年生だというのに末恐ろしいことだな……)
祐一は苦笑し、なのはの頭をポンポンと優しく叩く。
「……?」
そんな祐一の態度になのはは小首を傾げる。
祐一はさらに苦笑を深くすると、
「さて、帰るとするか。なのは、送っていこう」
「うん。ありがとう、祐一お兄さん」
そう告げると、祐一は高町家へと歩みを進め、その後をユーノを肩に乗せたなのはが小走りで追いかけた。
なのはの家である高町家に着くと、
「お帰り、なのは。祐一、いつもすまないな」
こちらも早朝の鍛錬をしていたのか、Tシャツにジャージ姿のなのはの兄――高町恭也がそう言いながら近づいてきた。
「なのは、お帰り。祐一さんもお疲れ様です。ユーノもお帰り~」
そう言いながら近づいてきたのは、長髪を三つ編みにした少し幼さの残る女性、なのはの姉で恭也の妹――高町美由希だ。
そして、最後に近づいてきたのが、
「祐一くん、いつもなのはの面倒を見てもらってすまないね」
なのは、恭也、美由希の父――高町士郎が少し申し訳なさそうな表情で近づいてきた。
祐一は士郎の言葉に、
「いえ、面倒を見ているわけではないですがね。よくできた娘さんですよ」
「そうかい? そう言ってくれると嬉しいなぁ」
祐一の言葉に士郎は表情を変え笑顔で言葉を返した。
「まぁ、なのはも祐一さんと二人きりでトレーニングできて嬉しいんだよね~」
「にゃ!? な、なに言ってるの、お姉ちゃんっ!?」
なのはの肩に乗っていたユーノを抱きかかえながら美由希が告げると、その言葉に頬を赤く染めたなのはが叫んだ。
「わ、わたしは、祐一お兄さんのトレーニングに付き合ってるだけだもん……っ! べ、別に祐一お兄さんと二人きりになりたいわけじゃ……」
「そんなこと言って~普通、こんな朝早くからトレーニングになんて、付き合わないわよ」
「……っ!? ……っ!?」
美由希はにこにこ笑いながら話し、なのはは顔を真っ赤にしながら反論するが、流石に美由希の方が一枚上手であるので、いいように言いくるめられていた。
そんな二人に士郎は苦笑しながら、
「ほら、二人とも、じゃれてないで家に入りなさい」
そう言葉を掛けてくる士郎に美由希は笑顔で返事をし、なのはは頬を赤く染めたまま、静かに頷いていた。
「じゃあ、俺はここで……」
なのはを送り届けることが目的だった祐一は、玄関先でそう告げ、皆に背を向けようとする。
そう言い帰ろうとする祐一に、士郎が声を掛ける。
「ああ、祐一くんも朝食を食べていくといい」
「いえ、そんな、悪いですよ」
「若いものが気にするな。それに、桃子さんも喜ぶしな」
士郎は朗らかに笑いながら、そう祐一に言葉を掛けるが、祐一は少し困ったような表情となる。
そんな祐一を見たなのはが、祐一の側へと寄っていき、
「そうだよ、祐一お兄さん。お母さんもきっと喜ぶし、それに、皆でご飯を食べたほうがおいしいし……ね?」
祐一の服の裾を引きながら、笑顔で話してくるなのはに根負けしたのか、一つ息を吐くと、
「――じゃあ、ご一緒させていただきます」
頭を下げてくる祐一に、士郎は満面の笑みで答える。
「ああ、遠慮せずに入ってきてくれ!」
「さ、祐一お兄さん、入って! 入って!」
士郎の言葉を聞いていた恭也と美由希も笑顔で祐一を出迎えてくれた。
笑顔で自身の手を引くなのはに、祐一も笑みを浮かべながら高町家の門をくぐった。
その後、祐一を交えての朝食となった。
なのはの母である――高町桃子も祐一の姿を見ると、笑顔で出迎えてくれた。最初から用意していた朝食の数が一つ多かったあたり、高町家が結託して祐一を朝食へと誘うのは決定していたのだろう。
祐一は高町家の優しさに心が温かくなるのを感じ、心の中で感謝した。
そして、朝食を食べ終わった祐一は長居しても悪いと思い、すぐに帰ろうかと思ったのだが、
『あ、祐一くん。なのはもすぐに学校に行くから、ついでに途中まで一緒に行ったらいいんじゃないかしら?』
そう桃子に告げられ、逃げ道を失った祐一は頷くしかなかった。
そして、祐一となのはは高町家を出て、なのはと話をしながら一緒に歩いている。傍から見れば、ジャージ姿の長身の青年と制服を着た小学生が一緒に歩いている光景は異質ではあったが、地元の人たちはほとんどが知っているため、誰も疑問には思っていなかった。それどころか普通に挨拶してくる人の方が多いくらいであった。
良くも悪くもこの二人は目を引く。祐一は端整な顔立ちとその長身も相まって、女性たちはちらちら祐一の方を見ていたりする。なのはと話している途中で、たまに浮かべる笑顔に、祐一を見ていた女性たちは概ね頬を少し赤く染めていたりした。
そして、祐一の隣を歩いているなのはもまだ小学生ではあるが、将来は綺麗な女性となるだろうと思われるほどの美少女である。
そんな二人が並んで歩いているのだから、人の目を引くのは当然であると言えた。
しばらくなのはと話をしながら歩いていると、目的のバス停に着き、丁度バスがやってくるところであった。
「じゃあ行ってくるね、祐一お兄さん」
「ああ、行ってこい」
「うん。またね、祐一お兄さんっ」
手を振りながらバスに乗っていくなのはに、祐一は少し手を挙げそれに答えた。バスの一番後部座席からなのはがこちらに手を振ってくるので、祐一も先ほどと同じように手を少し挙げそれに答える。
またなのはの両隣には、なのはと同じ小学校の制服を着ている少女が二人いた。
紫の長髪と大人しそうな表情が特徴的な少女――月村すずかと、美しい金色の髪を長く伸ばし、少し気の強そうなのが特徴的な少女――アリサ・バニングスの二人であった。
二人も祐一に気付くと、なのはと同じように手を振ってくるのを見て、祐一は苦笑を浮かべた。
そして、バスが離れて見えなくなったのを確認し、祐一はふっと息を吐き、自宅へと歩みを進めた。
祐一は服を着替えた後、しばらくしてから再び家を出た。その手には本が数冊抱えられていた。
目的地を目指し、しばらく祐一が黙々と歩いていると、目の前に見えてきたのは、市立図書館であった。
「さて、今日もやっていくか……」
そう呟くと、祐一は市立図書館へと入っていく。
そして、慣れた感じで図書館内を歩いて行き席に着くと、持っていた本を広げる。広げられた本は教科書と参考書であった。
祐一は高校に行っていないため通信教育などで勉強しているのである。
昔、なのはの母である桃子に、
『祐一くんは高校には通わないの?』
と聞かれ、祐一が頷くと、
『でも、勉強はしっかりとしないと駄目よ!』
と言われ、強制的に通信教育を受けさせられているのであった。
ただ、祐一も流石に勉強をしないというのはまずいと思い、真面目に勉強に励んでいた。
もともと頭が悪いわけではないので、この程度で祐一にとっては十分であった。
しばらく集中して勉強していた祐一は、一度休憩を入れようと思いペンを置き、固まった体を伸ばした後、飲み物でも飲んでこようと思い席を立った。
だが、自動販売機へと向かおうとして祐一の視界の端に、ふと気になる光景を目にしたため足を止めた。
足を止めた祐一の視線の先には――車椅子に乗った少女が必死に手を伸ばし、高い位置にある本を取ろうとしている光景があった。
(あれでは取れないだろう。それに危険だ)
祐一はそう考えると、その少女の方へと歩いていくと、車椅子の少女が取ろうとしていた本を手に取った。
「あ……」
「この本でいいのか?」
祐一は手に取った本を車椅子の少女へと手渡した。
少女は本を手に取りながら、
「あ、それですっ! ありがとうございますっ!」
何度も頷きながら、大きな声でお礼を述べた。
「静かに、ここは図書館だからな。それと礼には及ばない」
「あ、あぅ……す、すいません」
祐一の言葉に少女は頬を赤く染めた。
そんな少女の表情を見ながら、祐一は苦笑を浮かべる。
(見たところなのはたちと歳はそんなに変わらないようだが……)
そう考えるが、すぐに考えるのを止める。
(いや、人の事情に首を突っ込むのはよくないだろう)
祐一はそう思いながら、少女へと声を掛ける。
「他にも取ってほしい本などあるか?」
「い、いえ、そんな、悪いです」
「遠慮するな。困ったときはお互い様だ」
「うっ……そ、それじゃあ……」
少女が遠慮がちに必要な本を言ってき、祐一は言われた通りに本を取っていく。
「ありがとうございます。これで大丈夫です」
「そうか。では俺はこれで……」
少女の言葉を聞き、祐一はその場から立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと、待ってくださいっ!」
「? まだ何かあるのか……?」
「いえ、その……そうやっ! 名前、名前を教えてくださいっ!」
「別に構わないが……」
「なら、お願いします! 今度、お礼もしたいですからっ!」
少女の言葉に祐一は少しだけ苦笑し、
「別にそこまでのことはしてないんだがな。俺の名前は黒沢祐一だ」
自身の名前を名乗る。
すると、少女は満面の笑みを浮かべ、
「わたしは、はやて――八神はやてです」
そう、名前を告げた。
これが《黒衣の騎士》と、後に《最後の夜天の主》と呼ばれることになる少女との、初めての出会いであった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をお願いします。
遂に無印編終了です。
次から少し間を挟んで、A's編に入っていきたいと思います。
これからも頑張って更新していきます。