魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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投稿します。
遅くなって申し訳ありません。
楽しんでもらえたら幸いです。
では、どうぞ。


一時の別れ

 守護騎士たちとの邂逅から三ヶ月――あれから特に何事も無く祐一は過ごしていた。

 祐一が思っていたとおり、はやては《闇の書》のページの蒐集を行うことはなかった。はやてならば、当然、そんなことを望むはずがないという、祐一の予想が当たった形となった。

 

 蒐集を行い《闇の書》のページが埋まっていくほど、その主は絶大な力を手に入れることができると、守護騎士たちは語った。そして、今は不自由なはやての足も動くようになるという、はやてにとっては魅力的な話だった。

 だからこそ、シグナムはなぜ、《闇の書》の蒐集を行わないのかと疑問に思っていたため、はやてにそのことについて聞いてみた。

 すると、はやてはシグナムにこう言ったのだ。

 

『《闇の書》のページを集めるには、人様に迷惑を掛けるっちゅうことやろ? そんなんはあかんよ。わたしはそないなことしてまで、この足を治そうとは思わへんよ』

 

 それが、シグナムに対するはやての解答であり、その解答を聞いたシグナムはこれが現在の自分たちの主なのかと、驚きと喜びを感じていた。

 そしてその言葉どおり、はやては《闇の書》の蒐集は行わず、守護騎士たちと普段どおりの生活を送り続けていた。

 何の変哲もない、いつもどおりの生活――これこそがはやての望みであり、はやての幸せであった。

 そんなはやてに守護騎士たちは胸を打たれ、さらにはやてに忠誠を誓うようになっていった。

 

 

 出会って間もない頃は祐一も守護騎士たちもお互いに警戒していたが、それもすぐに緩和されることとなった。

 祐一も守護騎士たちも結局のところ、同じ想いが原因でお互いを警戒していたのだから当然である。

 

 ――八神はやてを守ること。

 

 祐一も守護騎士たちも結局はこのことでお互いを警戒していただけであり、わだかまりが解けた後、皆でおかしそうに笑みを浮かべていたのは、良い思い出の一つであった。

 初めに祐一と打ち解けたのはシグナムであった。

 何かお互いに通ずるものがあったのか、シグナムと祐一は比較的初めから仲が良かった。――と言っても、二人とも普段は寡黙な性格であるためあまり話をすることはなかった。同じような雰囲気が二人にはあると、はやては言っていた。

 次に打ち解けたのはシャマル。彼女の場合、性格が他の守護騎士たちよりも温厚なこともあったことと、はやてが祐一を信頼している姿を見ている内に、同じように心を許すようになっていた。

 また、ザフィーラもシャマルと同じぐらいに祐一と打ち解けていた。数少ない同性という境遇もあり、実は祐一とよく話をするのがザフィーラであった。

 そして、一番最後に祐一と打ち解けたのは、ヴィータであった。

 最初の頃の敵対するほどの意思は無くなってはいたものの、ずっと祐一を警戒していたため、なかなか打ち解けることができなかった。

 だが、祐一とヴィータが打ち解ける切っ掛けとなることがあった。それは、祐一がたまにはやてたちのために持ってきていた翠屋の"お菓子"であった。

 最初は警戒していたため、手を出していなかったが、はやてが主になり、はやての料理を食べ始めた頃から、この世界の食べ物はおいしいという考えに至ったようで、祐一が持ってきたお菓子を食べたのだ。

 翠屋のお菓子は海鳴で暮らしている人間にも人気であるため、お菓子などほとんど食べたことのなかったヴィータにとって、その味は感動の一言であったようだ。

 現金な話ではあるが、それを機にヴィータの祐一への警戒心も薄くなっていき、今では祐一のことを認めていた。

 

 

 ――そして、現在へと移る。

 

「はぁっ!」

「ふっ!」

 

 裂帛の声とともに、ばきっ! という鈍い音が辺りに響き渡った。

 

「っ!? やはり、私の勘は正しかったようだな……っ!」

「――だから、それは買い被りすぎだ」

「私の剣を受け止めておいてよく言う」

「魔力なしの模擬戦だからな。それならば、俺の方に分があるというものだ」

 

 お互いに木刀を持ち、鍔迫り合いをしている二人の人物――祐一とシグナムが笑みを浮かべながら言葉を交わす。

 しばらくの間、鍔迫り合いが続いたが、急にシグナムが押していた腕の力を抜いた。その咄嗟の行動に、祐一は腕の力を抜ききれず僅かに体勢を崩した。

 

「ちっ!」

「もらった!」

 

 祐一が体勢を崩すと、シグナムが叫び声とともに上段からの一撃を祐一へと放った。 その剣速は鋭く速い。少し離れたところから見ていたはやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラには、この一撃で勝負が着いたと思っていた。

 だが、そんな皆の考えを祐一は裏切った。

 崩れそうになっていた体勢を無理やり立て直し、祐一はシグナムの一撃を手に持つ木刀で受け止めた。

 自身の一撃を受け止めた祐一を、シグナムは僅かに目を見開きながら声を上げた。

 

「っ!? やるなっ!」

「ギリギリだがな……っ!」

 

 そう言うと、祐一はシグナムの上段からの一撃を木刀を逸らすことで受け流した。

 

「っ!?」

 

 今度は逆に、シグナムが前方へと体勢を崩す。

 そこへ、祐一は横薙ぎの一撃をシグナムへと放った。

 

「ぐっ!?」

 

 体勢を崩しながらも、シグナムは木刀で祐一の一撃を受け止めることに成功した。だが、シグナムの力では祐一の一撃を完全に殺すことはできず、地面から足が離れ、そのまま数メートル吹き飛ばされた。

 

「ふぅ」

 

 祐一は息を吐きながら相手を見ると、そこには吹き飛ばされはしたものの、特にダメージを受けた様子のないシグナムが立っていた。

 そんなシグナムを見つめながら、祐一は口を開いた。

 

「流石だな。単純な剣の勝負では勝てる気がしない。さっきの攻撃は完全に決まったと思ったのだが……」

「正直、先ほどの一撃は危なかった。それに黒沢の一撃がこれほどとは思っていなかたぞ」

 

 シグナムは祐一へと言葉を返しつつ、自分の両手を見つめた。その両手は小刻みに震えており、祐一の一撃がどれほど強烈であったかを物語っていた。

 

(これほどとはな。……正直、予想以上だ)

 

 シグナムは心の中で祐一の実力を一段階上げた。

 確かに魔力を一切使用していないため、単純な力勝負ならば祐一に分がある。だがシグナムとて、伊達に《剣の騎士》を名乗ってはいない。剣技でなら圧倒できると、そう思っていた。

 

(だが実際は"ほぼ互角"だった。しかも黒沢の木刀の使い方を見るに、ほとんどが我流。……にも関わらず、これだけの実力とは。……負けるとは思っていないが、これで"魔力"ありの状態ならば、どれほどの実力なのだろうな)

 

 これほどの実力者と出会えたことにシグナムは、我知らず笑みを浮かべた。

 

「す、すごいなぁ~二人とも。っていうか、あないなこと続けてたら二人とも危ないやんっ!」

「すげぇな、祐一のやつ。いくら魔力なしの状態とはいえ、シグナムとほとんど互角かよ」

「そうねぇ。初めて見たときも只者ではないと思っていたけれど……」

「祐一がこれほどの実力者だったとはな」

 

 そんな二人の戦いを黙って見ていたはやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人はそれぞれに感想を述べる。

 はやては二人の戦いをはらはらしながら見つめ、どちらかに攻撃が当たりそうになると、「危ないっ!」と声を上げ、気が気ではない状態であった。

 ヴィータは単純にシグナムとここまで戦える祐一に賛辞を贈り、シャマルも頬に手を当てながら驚いており、ザフィーラも祐一の実力に声を上げていた。

 

「まぁ、流石に魔法ありならシグナムの方に分があんだろ」

「う~ん、そうかしら? なんだかまだ実力を隠してるような感じがするんだけれど……」

 

 ヴィータの言葉にシャマルが少し首を傾げる。

 

「少なくとも祐一が、魔力なし状態のシグナムに比肩しうる実力を持っているということには変わりないだろう」

「祐一さんってこんなに強かったんやなぁ~」

 

 ザフィーラがそう締めくくり、はやては祐一を尊敬と羨望の眼差しで見つめていた。

 

 

 それからしばらくの間、祐一とシグナムの模擬戦は続いたが、タイミングを見計らってはやてが声を掛ける。

 

「祐一さん、シグナム、そろそろ終わりにせぇへんか? おやつでも食べよ~」

「ああ、わかった。今日はこのぐらいにするか、シグナム」

「そうだな。すまんな、黒沢。付き合ってもらって」

「いや、古代ベルカの騎士との模擬戦なんてめったにできるものではないからな」

「そういってもらえるなら、私としても嬉しいな」

 

 そうシグナムと話しながら祐一は部屋の中へと戻った。

 

 

 それからはやてが作ってくれたお菓子に皆で舌鼓を打ち、話をしたりしながら数時間が経過したとき、祐一が思い出したように口を開いた。

 

「――明日から俺は仕事で遠出してくる」

「そうなん? えらい急な話やけど、いつぐらいに戻ってくるん?」

「今回は少々長期でな。二ヶ月ぐらいで戻ってくる予定だ」

「二ヶ月かぁ~。結構長いな」

 

 祐一の言葉にはやては残念そうに声を上げた。

 はやての反応に祐一は少々バツが悪そうに頭を掻いた。

 

「急に決まった話なんだ。すまないが、しばらくは勉強を見てやることができない」

「お仕事やったら仕方ないと思うし、勉強の方は自分でも出来るから大丈夫やけど……」

 

 はやては少しだけ寂しそうな表情を見せた。祐一と出会ってからというもの、ほとんど毎日顔を合わせていたため、しばらく祐一と会えないという状態に寂しさを感じていた。

 そんなはやての頭を祐一はぽんぽんと叩く。

 

「たかが二ヶ月だ。それに、今はシグナムたちもいるから寂しくはないだろ?」

「そうですよ、はやてちゃん。それとも、わたしたちだけでは不服ですか……?」

「わたしたちが付いてます」

「そうだぞ、はやて。祐一なんかいなくても、わたしたちがいるから大丈夫だぞ」

 

 祐一の言葉にシャマル、シグナム、ヴィータがそれぞれはやてに声を掛けた。

 シャマルは少し苦笑しながら、シグナムは真剣に、ヴィータは元気よく、それぞれにはやてを元気付けようとしていた。

 そんな三人の言葉に、はやては笑みを浮かべる。

 

「――せやね。あんまりわたしがわがまま言っても仕方ないし、それにみんなもいるから全然大丈夫やね」

 

 はやての言葉に三人も笑みを返した。

 

「ほな、祐一さん気をつけてお仕事頑張ってきてな。……せやけど、もし早く戻って来られるんなら、早く帰ってきてな」

「ああ、早く片付けば帰ってくる」

「ほんまやな? 約束やで、祐一さん」

 

 そう言いながらはやては自分の右手の小指を祐一の方へと差し出してきた。祐一はすぐにはやてが何がしたいかを察知し苦笑を浮かべ、

 

「ああ、約束だ」

 

 自身の小指を絡ませた。

 

 

 はやてたちと別れ、祐一は高町家にも訪れていた。

 

「えっ!? 祐一お兄さん、今回はそんなに長いの……?」

「ああ。先日、仕事の依頼が入ってな。今回は少々長期になる」

「そうなんだ……」

 

 今、祐一はなのはとソファーに座り話をしていた。

 祐一がここに来たのは、はやてに伝えたようになのはにも自身がしばらくの間いなくなることを伝えるためであった。

 その内容をなのはに伝えると、はやてと同じように驚いた表情をした後、少し寂しそうな表情となった。

 そんななのはを見て、祐一ははやてにしたときと同じようになのはの頭をぽんぽんと優しく叩いた。

 

「そんな顔をするな。できる限り早く終わらせて戻ってくる」

「……ほんとに……?」

「ああ。本当だ」

 

 なのはの見上げてくるような視線に祐一は笑顔となり、いつもより少し強めに頭を撫でてやった。

 なのはは「あうあう」と言いながら祐一に撫でられ、寂しそうにしていた表情から次第に笑顔となっていった。

 

「うん、わかった。寂しいけど、お仕事だから仕方ないよね」

「そうか。すまないな」

「ううん、いいよ。祐一お兄さん、お仕事頑張ってね」

「ああ。ありがとう、なのは」

 

 そう笑顔を向けてきたなのはに、祐一も笑顔を返した。

 

 

 そして数日が経ち、祐一は荷物などの最終チェックを行っていた。

 

「さて、準備はこんなものか? ――そろそろ迎えが来る頃だと思うが」

 

 祐一がそう考えていると、インターホンが鳴り響いてきた。

 やっときたかと祐一は呟きながら、荷物を持ち玄関へと向かった。

 

「いやぁ~旦那、遅くなってすまねぇ」

「構わん。というか旦那は止めろ。俺はまだ十九だ。そもそも、歳はそんなに変わらんだろうが」

「おっと、つい癖で……迎えに来たぜ、黒沢の旦那」

「……ったく……ああ、久しぶりだな、"ヘイズ"」

 

 祐一は僅かに笑みを浮かべながら挨拶を交わした。

 祐一が言葉を交わしていたのは、ほとんど祐一と同じぐらいの背丈の細身の青年だった。祐一と根本的に違ったのはその見た目。髪は燃えるような赤、羽織っているジャケットも赤と黒を基調とした格好が基本である祐一とは、まるで真逆であった。

 全身真紅の青年――本名は《ヴァーミリオン・CD・ヘイズ》と言い、祐一とは昔からの知り合いであり、現在は《運び屋》として働いている青年であった。

 

「んじゃあ、もう行きますか? 旦那のことだから準備は万端なんでしょ?」

「ああ。しばらくの間、よろしく頼むぞ」

「あいあいさー」

 

 ヘイズは敬礼のポーズを取りながら答え、そんな軽薄な言葉で答えるヘイズに祐一は相変わらずだなと、苦笑を浮かべた。

 

「じゃあ、行きますか」

「そうだな。行き先は教えていたか?」

「聞いてるっすよ」

「そうか、では行くか――《ミッドチルダ》へ――」

 

 そうして、祐一はミッドチルダへと向かっていった。

 

 ――次に自身が地球へと戻ってきたとき、驚くべき事態となっていることを祐一はまだ何も知らなかった。

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をよろしくお願いします。
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